常春の中の紅魔館。
今日も温か良い天気と、うたた寝から目を覚ますと、美鈴は自分の体が手の平サイズの一匹のイモリに変わっているのに気がついた。
のたのた、もそもそと、昨日降った雨が作った水溜りに近づき水面を覗き込む。
そこに映っているのは、それはそれは立派な紅いイモリの姿だった。
ぽかぽかと太陽に照らされて、なんだか頭がクラクラする。彼女はひとまず水溜りの中に身を沈め、自分に何が起きたのか考えてみる事にした。
昨晩は、確か雨が降っているのでお嬢様のお出かけは中止になったから、ご機嫌を直していただく為に館中のメイド総出で隠し芸を披露したんだっけ。
咲夜さんのシャンデリア廻しは凄かったなあ。
お嬢様にはあまり受けなかったけど。
じゃなくて、その後は確か、片付けをして、交代時間になったから門の守衛に戻って引継ぎをして、それからえーと。
と、思考中の美鈴の上に影ができる。
「なにこれー、へんなのがいるー」
「あたしは知ってるよ。カエルの親戚のイモリって奴だ。ぷっ、それにしても間抜けな顔してるよなー」
美鈴が見上げると、そこにはルーミア、チルノのお子様妖怪コンビが立っていた。
「へー、そーなのかー。ねえ、これっておいしいの」
「黒焼きにして食べると、滋養強壮に良いとかって聞いたな」
彼女達の違う意味で熱い視線を浴び、美鈴はジリジリと後退する。
だめよあんた達、まだ滋養強壮がなんたらとか言うような年齢じゃないでしょ。それに私はイモリじゃなくて、紅魔館の門番の紅美鈴よ。中国じゃなくて紅美鈴なんだからねっ。って、おーい聞こえてますか。
彼女の必死の説得も、二人の耳には届かない。
「それじゃあ、さっそく」
自分を捕まえようとする二人から必死で逃げようと短い手足をバタバタ動かすが、しょせんイモリ。尻尾を捉まれルーミアにぶら下げられる。
「そういえば、まだイモリの解凍実験した事が無かったな」
チルノが怖ろしい事をさらりとつぶやいた。
「しっぱいしたら、かきごおりにしようね」
イヤ、きっと不味いから止めとけって、いろんな意味で。
でも彼女の言葉は届かない。
チルノが気合をいれて詠唱する。
「久しぶりのパーフェクト・フリー・・・」
美鈴がもう駄目だと思ったその時、幸運にも救いの手が差し伸べられた。
「あんた達、うちの門番に何やってんの」
紅魔館の鬼のメイド長、完全にして瀟洒な十六夜咲夜が現れた。
「あ、咲夜だ」
「これ、ちゅーごくなのかー」
おい、ちゅーごく言うな。美鈴はジト目でルーミアを睨む。
メイド長はルーミアの手からイモリを取り上げ、哀れな両生類に話かけた。
「あなた、昨晩の隠し芸でパチュリー様から変化の術かけられたの忘れたの。あの方、途中で貧血起こして倒れたから、てっきり失敗したのかと思ったけれど。門番隊長がいないって、あなたの部下達が心配しているわ」
はあ、そういえば、そんな事もあった様な無い様な。
目の前にぶら下げられて恐縮する美鈴。
でも、咲夜さんはなんで一目で分かったんだろう。私の心の声が聞こえたのかな。
胸をキュンとさせている彼女を尻目に、咲夜は子供二人に言い聞かせる。
「こんなにでっかく背中に漢字で、中国って書いてあったら誰でも・・・。あんた達、読めなかったのね」
「かんじってなあに?」
「変な模様だなあって思った」
がっくりとうなだれる美鈴。
そーなのかー、シクシク。
「さてと、さっさとパチュリー様に元に戻してもらいましょうか。美鈴」
はい、そうしてください。お願いします。
と美鈴が思った時、一陣の春風が彼女の体を咲夜の手から吹き飛ばす。
スポンという音と共に、なんだか暗くて温かくて、ふにふにと柔らかい場所に飛び込んだ。
ここはどこと、モゾモゾ動くと至近距離から咲夜の悲鳴が聞こえてきた。
「ちょっと、馬鹿どこに入ってんの。きゃっ、くすぐったい。お願いだから動かないでっ。あははははは」
美鈴は悟った。
私は、咲夜さんの、
服の中にいる。
非常にまずい状況に美鈴は脱出しようと混乱気味に動き回り、そのたびに咲夜の嬌声が上がる。
「動くなって言って、きゃっ、いやっ、そんなトコ触らないで、あっ、ああぁん。今日の下着はお気に入りの・・はあっ、あん」
そしてイモリと化した門番は、咲夜の体中をヌルヌル、ペトペトとはいずり回り、なんとかその足元に無事着地した。
ああ良かった。あとは元の姿に戻るだけだ。
しかし。
「何が好かったのかしらねぇ」
地獄の底から聞こえてくるような声を耳にして、美鈴は振り返る。そして見てしまった。
そこには、人の形をした「鬼」が立っていた。
「覚悟、完了したか、おい」
鬼がつぶやいた。
あのー、そのー、咲夜さん。これは不可抗力というものでって、聞こえてたりしますか、ねぇ。
「聞く耳持んわぁ、滅殺!!」
「阿嫌ー!!!」
紅美鈴の魂の叫びが、幻想郷にちょっぴり響いた。
今日も紅魔館は平和だった。たぶん。
「完」
今日も温か良い天気と、うたた寝から目を覚ますと、美鈴は自分の体が手の平サイズの一匹のイモリに変わっているのに気がついた。
のたのた、もそもそと、昨日降った雨が作った水溜りに近づき水面を覗き込む。
そこに映っているのは、それはそれは立派な紅いイモリの姿だった。
ぽかぽかと太陽に照らされて、なんだか頭がクラクラする。彼女はひとまず水溜りの中に身を沈め、自分に何が起きたのか考えてみる事にした。
昨晩は、確か雨が降っているのでお嬢様のお出かけは中止になったから、ご機嫌を直していただく為に館中のメイド総出で隠し芸を披露したんだっけ。
咲夜さんのシャンデリア廻しは凄かったなあ。
お嬢様にはあまり受けなかったけど。
じゃなくて、その後は確か、片付けをして、交代時間になったから門の守衛に戻って引継ぎをして、それからえーと。
と、思考中の美鈴の上に影ができる。
「なにこれー、へんなのがいるー」
「あたしは知ってるよ。カエルの親戚のイモリって奴だ。ぷっ、それにしても間抜けな顔してるよなー」
美鈴が見上げると、そこにはルーミア、チルノのお子様妖怪コンビが立っていた。
「へー、そーなのかー。ねえ、これっておいしいの」
「黒焼きにして食べると、滋養強壮に良いとかって聞いたな」
彼女達の違う意味で熱い視線を浴び、美鈴はジリジリと後退する。
だめよあんた達、まだ滋養強壮がなんたらとか言うような年齢じゃないでしょ。それに私はイモリじゃなくて、紅魔館の門番の紅美鈴よ。中国じゃなくて紅美鈴なんだからねっ。って、おーい聞こえてますか。
彼女の必死の説得も、二人の耳には届かない。
「それじゃあ、さっそく」
自分を捕まえようとする二人から必死で逃げようと短い手足をバタバタ動かすが、しょせんイモリ。尻尾を捉まれルーミアにぶら下げられる。
「そういえば、まだイモリの解凍実験した事が無かったな」
チルノが怖ろしい事をさらりとつぶやいた。
「しっぱいしたら、かきごおりにしようね」
イヤ、きっと不味いから止めとけって、いろんな意味で。
でも彼女の言葉は届かない。
チルノが気合をいれて詠唱する。
「久しぶりのパーフェクト・フリー・・・」
美鈴がもう駄目だと思ったその時、幸運にも救いの手が差し伸べられた。
「あんた達、うちの門番に何やってんの」
紅魔館の鬼のメイド長、完全にして瀟洒な十六夜咲夜が現れた。
「あ、咲夜だ」
「これ、ちゅーごくなのかー」
おい、ちゅーごく言うな。美鈴はジト目でルーミアを睨む。
メイド長はルーミアの手からイモリを取り上げ、哀れな両生類に話かけた。
「あなた、昨晩の隠し芸でパチュリー様から変化の術かけられたの忘れたの。あの方、途中で貧血起こして倒れたから、てっきり失敗したのかと思ったけれど。門番隊長がいないって、あなたの部下達が心配しているわ」
はあ、そういえば、そんな事もあった様な無い様な。
目の前にぶら下げられて恐縮する美鈴。
でも、咲夜さんはなんで一目で分かったんだろう。私の心の声が聞こえたのかな。
胸をキュンとさせている彼女を尻目に、咲夜は子供二人に言い聞かせる。
「こんなにでっかく背中に漢字で、中国って書いてあったら誰でも・・・。あんた達、読めなかったのね」
「かんじってなあに?」
「変な模様だなあって思った」
がっくりとうなだれる美鈴。
そーなのかー、シクシク。
「さてと、さっさとパチュリー様に元に戻してもらいましょうか。美鈴」
はい、そうしてください。お願いします。
と美鈴が思った時、一陣の春風が彼女の体を咲夜の手から吹き飛ばす。
スポンという音と共に、なんだか暗くて温かくて、ふにふにと柔らかい場所に飛び込んだ。
ここはどこと、モゾモゾ動くと至近距離から咲夜の悲鳴が聞こえてきた。
「ちょっと、馬鹿どこに入ってんの。きゃっ、くすぐったい。お願いだから動かないでっ。あははははは」
美鈴は悟った。
私は、咲夜さんの、
服の中にいる。
非常にまずい状況に美鈴は脱出しようと混乱気味に動き回り、そのたびに咲夜の嬌声が上がる。
「動くなって言って、きゃっ、いやっ、そんなトコ触らないで、あっ、ああぁん。今日の下着はお気に入りの・・はあっ、あん」
そしてイモリと化した門番は、咲夜の体中をヌルヌル、ペトペトとはいずり回り、なんとかその足元に無事着地した。
ああ良かった。あとは元の姿に戻るだけだ。
しかし。
「何が好かったのかしらねぇ」
地獄の底から聞こえてくるような声を耳にして、美鈴は振り返る。そして見てしまった。
そこには、人の形をした「鬼」が立っていた。
「覚悟、完了したか、おい」
鬼がつぶやいた。
あのー、そのー、咲夜さん。これは不可抗力というものでって、聞こえてたりしますか、ねぇ。
「聞く耳持んわぁ、滅殺!!」
「阿嫌ー!!!」
紅美鈴の魂の叫びが、幻想郷にちょっぴり響いた。
今日も紅魔館は平和だった。たぶん。
「完」
そして咲夜さんもいい厄回りをしておられる。
短くとも、幻想郷に残るか残らぬか、その小さな悲名をこのような形で思い出すのも悪くない。
とりあえず、今回の美鈴は実に羨ましい役回りでして(男から見たらの話)
ヌルヌルベトベトと這いずり回って……惜しい、もうちょっと。
ご感想ありがとうございます。かなり勢いにまかせて(メガテンのボス戦を聞きながら)作ってしまったので、正直どーしよーかなー状態だったのですがお褒めいただき、光栄です。どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。
>香港イモリの美鈴……(;´ー`)
えーと、今日の美鈴は水槽の壁に張り付いて、じーっとこっちを睨んでいました。昨日、餌をやり忘れていたのを恨んでいるのでしょう。たぶん。
例大祭Verに書き足しをしたので、えろす度が上がってしまいました。当日、お買い上げいただきました、『born to be free』も構成を変えて、投稿しようと考えています。でわ、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。TUKI様の新作、楽しみにしていまよ。でわでわ。