Coolier - 新生・東方創想話

それは名も無き弾幕の物語

2005/05/04 10:41:51
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 その紅い屋敷の門の前には、いつも彼女が居た
 雨の日も、風の日も、いつもそこに居た


 何故なら彼女は門番だから
 

 彼女には沢山の部下が居た
 いつも彼女に付き従い、勇敢に戦っていた


 何故なら彼女達は仲間だったから
 


 ――――――――これはそんな彼女達の作り上げた、ありふれた名も無い弾幕の物語










「トドメだっ、恋符『マスタースパーク』っっ!」
「うぐわっ」


 自分の眼前で起こった爆発、閃光。
 その威力は美鈴の体を地面に叩きつけるのに十分だった。
 

「痛ぁ……」


 焼け焦げた体を起こし、閃光でやられた目をこする。
 視界が戻ると目の前にはニヤリと笑う黒い少女の姿が。

「悪いな。今日も中に入らせてもらうよ」
「……」

 美鈴を地面に叩きつけた本人……黒い魔法使い、霧雨魔理沙は律儀にもすぐ前まで降りてきてそう言った。
 懐から本を取りだし、美鈴に見せる。

「これの貸しだし期限が今日だったからな、急がないと図書館が閉まっちまうぜ」

 そもそもあの図書館に貸しだし期限などないだろう、と美鈴は思う。
 しかし今の彼女に出来るのはただ魔理沙を睨みつけるだけ。

「ま、そんな怖い目で見ないでくれよ。すぐ出てくるからさ」
「……」
「しかしなあ、何でいっつもいっつもお前一人だけだけ突っかかって来るんだ?」
「……」
「咲夜やパチュリーは違うのに」
「……」
「ま、良いけど」


 そう言ってひゅんっという音と共に彼女は風になり、門を潜って行った。
 美鈴が守る。いや、守る筈だった紅魔館の門を。


「……くっそ」


 美鈴は起こしていた体を再び地面に横たえた。
 目に映るのは青い空だけ。
  

「……また、負けた……」


 そう、紅魔館門番長、紅美鈴は魔理沙との25回目の弾幕戦に敗れたのだった。
 風が流れ、倒れた彼女の体を撫でていく。

「あー、ちくしょう……」

 美鈴は暫しの間、倒れたままでいた。
 体が痛むのもあるがそれより、今は動きたくなかった。

「くっそー……何でこうもあっさりやられるかな……私はー」

 情けない、本当に情けない。
 そんな感情が、美鈴を倒れたままにさせていた。
 と、その時。


 ざばあっ


 美鈴の頭から思いっきりバケツの水が被せられる。
 
「って、何でっっっ!?」

 慌てて飛び起きた彼女に次々に声が浴びせられた。


「み、美鈴隊長、大丈夫ですかっ?」
「意識はありますかっ!?」


 起きた美鈴の周りを取り囲むメイド服の一団。美鈴直属の門番隊の面々だ。
 どうやら全く起きあがってこなかった事が、彼女達に余計な心配をさせたようだった。

(あっちゃー、またみっともない所見せちゃったわね……いかんいかん)

「あー、大丈夫だから、心配しないで」
「で、でも暫く起きあがってこなかったしっ」
「ひょ、ひょっとしたら何かヤバイトコ打ちつけたのかなーとか思ってっ」
「いや、ホントに大丈夫よ」

 密かに自慢な彼女の紅い髪から流れ落ちる冷たい水滴が、そして何より門番メイドたちの心遣いが美鈴の心を引き締める。
 
「私より……みんなは無事なのね?」
「え? ええ、全員かすり傷程度です」

 ぐるっと見まわしてみても確かに重傷のものは居ない。
 どうやら自分と魔理沙の戦いの余波を食らった者は居ないようだ。


(良かった。『あの時』みたいな事は今日も避けられたみたい……ね)


 一瞬だけ脳裏をかすめた記憶……それを振り払って美鈴は言う。


「じゃあ、私はあいつを追撃するわ。皆はそのまま外で待機して」

 門は破られてしまったが、やるべきことはしなくてはならない。
 美鈴は痛む体を無理やり起こして門の中に入ろうした。

「ちょ、ちょっと隊長、無理ですよ今動くのはっ!」
「そうですよ、追撃は私達がやりますから、美鈴隊長は医務室で休んで……」
「良いのよっ!」

 激しい美鈴の口調に黙ってしまう門番隊の面々。
 言ってしまってから彼女は一瞬沈黙して……次は押さえた口調でこう言った。

「あいつは、私しか相手しちゃ駄目だから……皆は外は守ってね」
「わ、判りました……でも無茶しないでくださいね」
「ええ」

 チリンッ

 鈴の鳴り声一つ残して美鈴は門を潜っていった。
 門番メイド達はその後姿を見つめていた。
 
「美鈴隊長、大丈夫かなあ……」
「そうね、心配ね。相手はあいつだし……」

 と、その時若い一人のメイドが口を開いた。まだ紅魔館に来てから間も無い娘だ。


「あの……こんな事聞いて良いのか判らないんですけど……何で美鈴隊長は、勝ち目が無いのにあの黒い魔法使いに立ち向かっていくんでしょうか……」


 彼女の問いに、同じように紅魔館に来てから日の浅いメイド達がそうよ、そうねと言い始めた。
 確かに美鈴は今まで魔理沙に一度としてスペルカード+弾幕戦で勝った事は無い。
 それしか見た事の無い彼女達にとって、この疑問は当然だったかもしれない。
 しかし、彼女達の疑問を聞いた古参の門番メイド達は一様に顔を暗くした。  


「あ、や、やっぱり聞いちゃいけない事だったんですね……すいません」
「いえ……良いのよ、この事は貴方達、新人の娘も知っておいた方が良いから……」


 一番古参の門番メイドは語り出した。  


「美鈴隊長には苦い記憶があるのよ……貴方達が来る前にとても苦い記憶が、ね」



                ---------------



 霧雨魔理沙がここ、紅魔館にやって来たのは先日の『紅魔館霧の事件』(命名:博麗霊夢)だった。
 美鈴率いる門番隊はその時、魔理沙に完璧なる敗北を喫したのである。

 しかしそれだけなら美鈴にとって苦い記憶とはならない。
 何故なら彼女や門番隊だけでなく、メイド長である十六夜咲夜率いる本館部隊、果てには主人であるレミリア・スカーレットすら弾幕戦で魔理沙に敗北しているのだから。


 美鈴の苦い記憶、それは――――――初めての魔理沙と彼女のスペルカード戦の時の事である。






「ふっ、甘いぜ普通の人っ!」
「う、嘘っ、『彩虹の風鈴』まで避けられるなんてっ!」

 見る者全てを魅了するほどの美鈴の鮮やかな弾幕、しかしそれは、黒い魔法使いにあっさりと避けられてしまった。
 この虹符『彩虹の風鈴』は美鈴にとって切り札ではないにしても大技である。
 撃ち終わった彼女は完全に体制を崩していて、僅かに牽制程度の気弾が放てる程度だった。
 その大きな隙を見逃す魔理沙ではない。

「一気に決めるぜっ」
「……くっ」 

 今度は自分の番だとばかり、接近して大技を放とうとする魔理沙。
 美鈴は直後に起こるであろう大ダメージを覚悟して目を閉じた。
 
「……?」

 が、それは起こらなかった。
 目を開けて魔理沙を見るが特に変わった所はない。
 それもその筈、変化は――――――――彼女の後ろで起こっていたのだから。


「「「「「「美鈴隊長っっっ!!」」」」」」


 美鈴の後ろにずらりと並んだメイドが6人。
 美鈴が追撃を受けなかったのは、彼女達が魔理沙を攻撃したからであった。

「な、あ、あなた達はっ!?」
「わ、私達も美鈴隊長と一緒に戦いますっ」

 皆、美鈴が直に教育した門番隊の精鋭中の精鋭の部下達だった。
 否、美鈴にとっては部下以上、今まで苦楽を共にした仲間ともいうべきものが彼女達である。

「無茶よっ。下がって!」

 美鈴は慌ててそう叫ぶ。
 そもそもスペルカード戦と言うのは実力が著しく高い者達同士の『一対一』の戦いである。
 もしここに他の者が入ってきたら……絶対に無事では済まない。

 つまり、彼女達がいくら門番隊の精鋭とは言え、ここでの乱入は無茶過ぎだった。
 しかし―――――彼女達は引かなかった。

「嫌ですっ、わ、私達も……隊長と戦いますっ」
「み、みんな、そんな傷で……」

 道中で魔理沙にやられた者ばかりなのだろう、6人ともズタボロな状態だった。
 それでも彼女達は懸命にクナイ弾を魔理沙に投げつけ、美鈴を援護する。

「ちっ、意外に手強い」

 魔理沙は再び距離を取り、通常の弾幕で対抗する。
 彼女達の気迫は流石の魔理沙をも怯ませたのだった。



 ――――――――――だが、それは長くは続かない。



 相手は幻想郷随一の高密度の弾幕を誇る霧雨魔理沙。
 いかな6人掛りといえども、遠く及ばなかった。


「あ、当たらない……きゃあっ」
「た、隊長……あとは、お願いしま……くっ」


 また一人、また一人と魔理沙の弾幕に沈んでいくメイド達。

「……っ」

 満足な弾幕も張れず、美鈴はそれをただ見つめるしかできなかった。
 やがて、美鈴の背後からの弾幕は…………途切れた。



              -------------



「あの事件以来よ、美鈴隊長が真っ先に敵に向かっていくようになったのは」
「あ、あの……ひょっとして美鈴隊長はその6人の先輩達の敵討ちの為に戦ってるんですか?」
「まあ、それも少しはあるとは思うけどね……あの人の場合、違うと思うわ」


 一番年かさの門番メイドは閉じた門を見つめて小さく呟いた。


「美鈴隊長は、誰よりも優しすぎたのよ……」



              -------------



 美鈴の背後から飛来するクナイ弾は途切れた。同時に彼女の中で『気』が安定する。

(これでようやく次のスペルカードが撃てる……けど)

 自分の後ろで倒れた筈のメイド達はどうなってるのだろうか。
 振り返ろうとした美鈴に声がかけられた。

「ふう……ちょっと吃驚したぜ、まさかここで乱入とはね」
「……」
「これでまた一対一の勝負だな」
「……」

 魔理沙が再び美鈴に近づいてきたのだ。
 振りかえるのを止め、向き直る美鈴。
 
 暫しの間、睨み合う2人。
 先に口を開いたのは魔理沙だった。

「なかなか上手い時間稼ぎだったな……してやられたよ」
「じ、時間稼ぎって……」

 しかしその言葉は美鈴を驚かせる物だった。

「そうじゃないのか?」
「違うわよっ」

 魔理沙の言葉を否定する美鈴。
 しかし、彼女の脳裏の一部は冷静にこう思ってもいた。


(……時間稼ぎか……そうかもしれないわね)


 自分がスペルカード戦で完全に押しこまれた時に、部下に乱入させた。
 その気は無くても、他人の目から見たそれ以外の何者にも見えないかもしれない。
 気付いた美鈴は顔を俯かせた。

「ま、どうでも良いさ。とにかく、仕切り直しだな」
「そうね」

 美鈴は俯いたまま、ゆっくりと構えを取る。
 彼女の頭の中には次のスペルカードの事……は無かった。
 あるのはただ、門番隊の仲間達との思い出だけ。



『や、やりましたよ美鈴隊長っ』
『強かったですねえ……こいつ』
『隊長のスペルカード、流石でしたねっ』
『ふふっ、ありがと』

 強力な魔物を皆で協力して倒したこと。
 

『あ、あの……こう言う場合って隊長が責任とって怒られるのが正しい姿かと……』
『そうですよねえ……』
『何言ってるのよっ! 満場一致で湖に涼みに行こうって決めたでしょっ!』
『……貴方達、私の前でも無駄話をする気かしら?』
『『『『す、すいませんっっっ』』』』

 ヘマをしてメイド長に全員で正座させられたこと。


『チルノっ! アンタいい加減館の壁に落書きするの止めなさいっ!』
『そうですよっ、「チルノ惨状」って文字が違いますしねっ』
『……突っ込むトコが違うと思うわ……とにかく、皆で湖に追い込むのよっ』
『『『はいっっっ』』』

 悪戯した氷霊を門番隊全員で湖まで追い掛け回したこと。



『隊長、後はお願いします……』



 そして―――――――落ち逝く彼女達の悲痛な叫び。



 美鈴は顔を上げ魔理沙を睨み付け、心の中で叫んだ。


(時間稼ぎなんかじゃない……あの娘達は、あの娘達は……私を助けたい為だけに来てくれたのよっっっ!)


 しかし彼女は口には出さなかった。
 今は一対一の戦い。言葉に出すような物は何も無い。


 やる事といえばただ一つ……弾幕勝負のみ。



「幻符『華想夢葛』!!」



 美鈴は魔理沙に向かって溜めていた気を一度に放出した。
 自分の想いを弾幕に託して――――――――――――――





 その後の事を美鈴はよく覚えていない。
 覚えているのは、自分が敗れたと言う事。
 
 そして

 あの6人が、未だに復帰出来ないほどの癒えない傷を負った事、だけ―――――――――――――



          -----------------



 痛む体を叱咤し、美鈴は魔理沙を追う。
 
 (あの時、私が不甲斐なくなかったら、あの娘達が無理やり乱入する事も無かった……)

 美鈴は魔理沙が悪いのではない事を知っている
 美鈴は乱入したメイド達が悪いのではない事を知っている。
 悪いのは自分、あまりに不甲斐なさ過ぎた自分が悪いのだ、そう言い聞かせ続けている、のだ。






「霧雨魔理沙あああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」
「おっ、追いついてきたか、門番」
「も、もう一度、勝負よっ」
「おいおい、息も絶え絶えな状態で私に勝負するつもりかよ」
「構わないわ……行くわよっ」






 
 彼女は今日も戦う



 門番として
 部下を想う上司として
 傷ついた一人の戦士として

 

 例え敵わぬとも、絶対に引かずに戦う


 それが彼女が門番である証


 それがあの日の6人の仲間達が見せた、名も無き弾幕への彼女の誓い






 ――――――――弾幕に己の想いを託し、門番は今日も戦う。
初めまして、変身動物ポン太と言う者です。
この拙作『それは名も無き弾幕の物語』は私の初東方SSでして、出来は非常に粗いです。
それで少しでも楽しんで頂けたら幸いです(礼

このSSの書いたきっかけは紅魔郷プレイの3面、紅美鈴のボス戦です。
華麗な彼女の弾幕の最中、突然6体の雑魚キャラが出てきたことはかなり驚きでして。
私の記憶違いかもしれませんが、東方プロジェクト3部作でボス戦にボス以外が乱入してくるのは彼女だけだったので妙に記憶に残っていたのです。
で、普通は一対一で争う弾幕戦に雑魚キャラ―つまり美鈴の部下―が乱入してくると言う事は、余程の理由があるか、もしくは彼女は相当部下に慕われてるんだろうなあ……と勝手に想像が始まったのでして、こんなSSが出来あがってしまった訳です。
あまりに想像が膨らんでしまったせいで、原作と懸け離れてしまってすいませんです(特に美鈴、格好良すぎるかもしれません(汗))
あと、魔理沙をかなり悪役にしてしまってかなりすいません(謝)

それでは、また。
変身動物ポン太
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コメント



0.2480簡易評価
21.40名前が無い程度の能力削除
読ませて頂きました。
美鈴って、根が真面目ですよねぇ・・・
とってもいい人(妖怪)だと、改めて思えるSSですね。
32.50削除
おー、知り合いでまた一人東方SS書かれる人が増えた。
とりあえず「み、美鈴隊長、大丈夫ですかっ?」は
素なのか狙ってるのか判断に困る所です。

これからも頑張って書いてください。