注意書き。
この文章はミステリ系です。あなたの好きな人物が死んでしまう可能性を持っています。
又、アレな表現がお嫌いな方は避けて下さい。
設定書き。
これに登場する人物の身体的構造は人間とします。
ただし、それは内面的なものなので人物関係は変わっていないと思います。多分。
以上
-永遠亭の永い時間-
~鈴仙の暇な一日編~
それはまだ春が来る少し前のお話
「優曇華院」
廊下で私は呼び止められた。
長い廊下で、両側にはいくつもの襖がありその先にはいろいろな部屋がある。
所々、襖の上から鉄の扉が閉じている所もある。月の者が襲撃してくるのに備えて師匠が考案したものだ。部屋と部屋の間の壁の中に鉄製の扉を仕込んで、両側から引っ張り出し、畳む様に閉じて錠をするというシステムだ。・・今となっては必要ないものだがこの屋敷自体を密室にする結界もあるんだとか。
てゐがはじめてここに来たときは似たような外見の部屋ばかりだから相当迷ったらしい。・・私もだが。
その部屋一つから師匠こと八意永琳が上半身を仰け反らせながら右手でこっちおいでおいでをしている。コタツでよく見るポーズだ。
疲れているようで、その体は重力にとらわれて床に少しずつ落ちていく。
私はかけ寄った、走っている間に師匠の体は着実に床に落ちていく。
私が師匠のもとに着いた頃には既にその頭を床に預けていた。
「師匠なんですか?」
私は見下ろすように師匠に訊いた。
徹夜したのであろうか目の下に隈が出来ている。
流石の蓬莱の力は疲労をリザレクションしてくれないらしい。
師匠は声を絞り出すように
「ちょっと紅魔館の大図書館に用事があるから・・明日は留守にするわ。下手したら数日帰ってこないかも・・」
と言ったのも束の間、師匠は寝息をたててしまった。
私は軽く返事をして師匠を抱かえ、部屋に入った。
鼻をつくような匂いが部屋に充満している、机の上のすり鉢に植物が磨り潰されたままになっている。原因はこれらしい。
それ以外にも瓶やら本やらが散漫している。片付けたいが下手に触ると後で怒られそうなので触れない。もどかしい。
一旦師匠を少し開いているスペースに置き、適当に床に散らばっていたものをどかして布団を敷いた。
「イナバ」
上がり口で靴紐を結んでいた私は呼び止められた。
後ろを振り向くとそこに姫こと輝夜が立っていた。
姫は笑いながら
「明日、私も永琳と紅魔館へ行くわ。」
私は一瞬考え「分かりました」と返事をして右の靴紐を結んだ。
姫は既に長い廊下に向けて歩き出していた。
左の靴紐が結び終わった頃、姫が
「ああ、そうだわ」
「何でしょう。」
「今日の朝からてゐとその他のウサギたちは旅行に行ってるわ、帰るのは明後日くらいだそうよ」
「・・・またですか・・・私はいつも置いてきぼりですね・・」
「嫌われてるんじゃないの?」
「そうなのでしょうか・・」
こうゆう集団旅行は最近数が多くなってきている。いつも決まって私だけには連絡が来ない。
何処に行ってるのかも分からないことが殆どだ。やはり月の兎だからだろうか・・。
「では、行ってきます」
玄関口で廊下を改めて見たが既にそこには姫の姿は見えなかった。
殆ど獣道と言える道を歩きながら私は考えた。
明日、永遠亭には私しかいない。いつも師匠とかの身の回りをしているから忙しいが、いざ師匠達がいなくなるとなるとかなり暇だ。
私は師匠の薬を(慧音を介して)村の人間に売って生計を立てている。今日もその用事で外に出たのだ。
しばらく歩き、永い竹薮を抜けるとそこに人間の村がある。
慧音に言われ、人間を刺激しないよう耳をリボンのように結ぶ。正直かなり痛い。
そして村の中で慧音を探す。満月の夜でなければ彼女もごく普通の人間である。
村の中心に位置する少し広いスペースに子供たちを相手に作り話──と言うか彼女の話は8割方事実である──を披露しているようだ。
慧音の視界に私が入ったようでそそくさと話をやめて子供たちを解散させている。
私は四方八方に散っていく子供たちを縫うように慧音に向かって進んでいく。彼女は私がある程度近づくまでにはスカートの埃を叩いたりしていた。
「今日は早いな。」
「ちょっと後で寄りたいところがあって。」
「・・・ところで今日、食あたりに効く薬は持って無いか?」
「んーと。一応あるよ。どうして?」
「ちょっと村の一人が苦しそうに見ているのを見てな。」
少し苦笑いを浮かべる慧音。本当に人間が大切なようだ。
「ふーん。はい、食あたり用の薬。あまり多く服用しちゃダメですよ。一回3錠。」
「ん。ありがとう」
「で、これがその他の薬。いつもの傷薬、風邪薬。あと前に頼まれた湿布と岩塩だ」
岩塩は割りと貴重なので、あまり頼まれても売らないのだがお得意様の慧音には感謝の意を込めて大サービス、・・と言いたい所であるが、本音は少しお金がいるのだ。
人によってお金の価値は色々だが、私は村の人に薬を売って村で食材を買ってるため大切なものだと思う。なくても生きていける人が多々いるようだが。
「ありがとう、これでいい料理が振るえそうだ。」
「食あたりの薬もあるしね」
慧音はむっとしながら。
「うるさい。ほい、これ昨日分の薬代だ」
「ん。ありがとう。じゃあもう行くよ」
「ああ、また明日宜しくな」
私は手を振りながら村を後にした。
村を抜けるとそこは森である。・・幻想郷は殆どが森だからしょうがない。
そして森を抜けると・・・やっぱり森なのだが普通の森ではない。魔法の森だ。
普通の森とは具体的に何が違うのかと聞かれれば渋い顔をしなくてはいけないが。雰囲気が違うとでも言っておこう。
ねっとりとした湿気が肌にまとわり付く。私は足早に香霖堂へ向かった。
「いらっしゃい」
青年が店に入った私に声をかけてくれた。外見的には・・歳は師匠と同じだろうか。──師匠の本当の歳なんて私は知らないけど
銀髪で妙な服装をしている、あの前にたれているのは何なんだ。何だか妙に緊張する。
「何かお探しですか?」
私は一瞬ピクリと動き
「あ、はい。明日一日暇なので・・・遊べるものを・・」
しばらくお待ちください、と青年は言いながら店の奥へ消えていった。
恥ずかしい事ながら私は幻想郷に来てから一度も玩具やその類で遊んだことがない。毎日師匠やてゐ達の身の回りのことで手一杯だった。
だからこういう暇な時が来ないか、と思いながら日々貯めたお金は心許ないが集まっていた。
それにしてもこの店。多少は整理してあるのだが、一部の棚が山賊にでも襲われたかのように荒らされている。・・しつけの悪い熊でもいるのだろうか。
店内はいたるところに配置されたランプがナトリウム灯の様にオレンジに光って少し寂しい感じを漂わせている。
「コレなんかいかがですか」
青年が店の奥から両手に箱のようなものを抱えて持ってきた。横から見た感じでは台紙が二つ折りにされて中に何か入っているようだ。広げればかなりの大きさだろう。
「一人では遊べないんだが・・」
そう言いながら青年はその箱のようなものを広げた。
その中にはなにやら数字の書かれた独楽や沢山穴の開いた四角小さな箱や紙の束などがあり、それを包んでいた台紙には色々な文字とマスが書かれていた。
「双六ですか?」
私は見慣れない物を前に青年に訊いた。
「人生げーむといって、・・外の人間の人生の縮図を双六形式で遊んで。大往生した人が勝ちという玩具です。」
人生の縮図で遊ぶ、こんな大胆な発想聞いたことない。もしも師匠に見せたら喜んでくれるかもしれない。
「こ・・これ。これだけで足りますか?」
といって私は青年に財布を見せる。
青年は大丈夫ですよといって、お金を半分程度抜き取って返してくれた。
「ではコレ、ちょっと大きいですので転ばないように気を付けてくださいね」
私は軽くお辞儀をしてオレンジ色の店を後にした
魔法の森は何故か湿気が多い・・ねっとりとした湿気がまとわりついてやる気を削ぐ、それが嫌だから自然と足早になる。
しかし・・来た時より湿気が多いのは気のせいだろうか?
改めて周りを見渡す。大きな荷物を抱えていたからついつい足元を注意していたようだ。辺りは若干だが霧に包まれている。
そしてどうやら・・・迷った。森といっても一応道くらいはある。なのに今自分の居る所がまったく見当がつかない。
立ち止まっても仕様がないので歩くことにした。
薄い霧の中を木が私を通り過ぎるような錯覚を起こしながら、30分程歩いただろうか。急に森が開けて、あたり一面霧・・の下に水が見えた。・・・湖らしい。
やけに寒い・・もうすぐ春だというのに。
その答えは湖にあった。霧に映る影・・レティとチルノである。
彼女達は寒いところを好むため森や水気のある場所で会うことが多い。今回も条件一致なのだが。
彼女達もこちらに気付いたようで──むしろ誘い込んだ気さえするが──私に向って飛んでくる。
「よう!レイセン・・・っていったけ?何持ってるんだ?」
「大きな荷物ね」
私は二人に言われて改めて手に持っている「人生げーむ」というものを見て、青年の言葉を思い出した。
『一人では遊べない』
私は師匠に見せたら喜ぶかなと思って持ってきたが、すっかり明日自分一人しかいない事、しかも暇だから玩具を探していた事を忘れていた・・本末転倒。
ここは無難に
「一風変わった双六です。よかったら明日永遠亭で一緒にやりませんか?」
数は多い方がいいので彼女たちを誘ってみた。
してその反応は
「ほんと!?」
喜びの声と
「よろしいんですか?」
こちらも喜びと解釈していいであろう。
「ええ、大丈夫です。辰の4つほどに竹藪前でいいですか?」
「OK」と双方から返事が返ってきた。
私は一度間を置いて
「では・・まだ数が足りないので後3人ほど呼んできてくれますか?」
そう頼むと、彼女たちは返事とともにそれぞれ思い当たる方向へ飛び去っていった。
明日は退屈しないで済みそうだ。
そして私は家路に着いた
大きな荷物のせいでもう夕日が沈んでいた
*二日目
私達、総勢6名は今、集合を終え竹藪を目的地、永遠亭への獣道を突き進んでいる。
メンバーは私鈴仙・U・イナバ 、そして軽いリュック姿のチルノ、ボストンバックを持っているレティ、何故か指揮棒を持っているミスティア、そして橙とトートの八雲藍である。人生げーむでは飽き足らないのか、各々が色々と持ち寄っている。約一名何するかが目に見えているが。
暫く歩き玄関先に辿り着いた時、上がり口に姫が座って慌ててるのが見えた。どうやら師匠は先に行ってしまったらしい。
姫は急いで靴を履き、私たちとは入れ違いになるように走り去っていった。永遠亭に篭りっきりだった姫も一応運動は出来るらしい。
私は皆を家に上げ居間に案内した。永遠亭の構造は縦に長細く玄関から見てTの形をしている。因みに、居間があるのは長い廊下で左手の一番玄関に近い部屋である。
皆は居間に荷物を降ろして既に雑談ムードだ。私は例のものを取りに居間を後にしようとした。その時、レティがトイレの道を聞いてきたのでついでに案内することにした。
「トイレはこの廊下の突き当たりを左に曲がってすぐのところです。」
歩きながら私は道順を教えた・・・・と言ってもT字の廊下で右の突き当りの台所、左の突き当たりのトイレとその隣にある二階の屋根裏へ続く階段は配置的に非常に覚えやすい。
廊下の真ん中くらいでレティはふいと横に目をやり立ち止まった。
「あの部屋は?」
そこの部屋は鉄の扉で錠がされていた。しかし、他の部屋の鉄の扉とは年季が違って見える。
「ここは師匠の・・」
師匠と言ったとたんレティは疑問の顔をした。
私は勘付いた。そうだ、ここには私の人物関係なんて知ってる人なんて居ないんだ。なら・・師匠には悪いけど・・
「永琳・・・永遠亭の住人の一人の部屋なんです」
永琳・・ちょっと新鮮な感じを覚えた。一気に二人の距離が縮まった気がする。・・・師匠には悪いけど今日の間は「永琳」と呼ばせてもらおう。
「へぇ、ずいぶん年季の入った扉ですね・・よく使ってらっしゃるのですね」
私達は歩きを再開した。人生げーむのある私の部屋は長い廊下の一番奥の左手なのでレティとは着き当たり前で分かれた。
私は部屋に入り、レティがトイレに入ったのを耳を澄ませて確認した後。テーブルの上にある紙を見てして「ふふ」と笑うのだった。
私が人生げーむを居間に運んだときにはまだレティは帰ってきていなかった。
人生げーむの配置を藍に任せて私は飲み物を取りに台所へ向かった。
台所に着くと鍵がかかっているのに気が付き。私は仕方なく玄関にある鍵置き場に向かった。
「あれ?飲み物はどうしたんだ?」と途中、居間の前を通ったときにチルノが話しかけてきた。
私は「台所の鍵が掛かっていた」と溜息混じりに話し、玄関へ向かった。
鍵を取ると、早足で台所へ向かった。この往復はつらい。廊下が長すぎるのだ・・
台所前に着くころには私の息が少し荒くなっていた。
私は冷たい鉄の扉に手を掛け、鍵を外し、扉を開いた。
ひんやりとした・・むしろ寒いくらいの冷気が私を襲う。
そこには冷気に包まれたレティ・・・・の死体があったのだ。
だけどレティの顔色を窺うことは出来ない・・何故なら・・首が無いのだ
断末魔の悲鳴が永遠亭を震わせる。
居間に居た皆は何事かと台所に集まった。悲鳴から少したっていたので私は何とか落ち着きを取り戻すことに成功していた。
「レティ・・・」
チルノが嗚咽交じりにレティによって行く。しかしそれを藍が制した。
「あまり現場を荒らしたくは無い。鈴仙、ちょっと来てください」
私はふらふらする足に気合を入れてレティの横に屈んだ。藍が現場を荒らしたくないのは八雲紫に繋げる為だと見える。
「鈴仙、このレティの足元に落ちているのは何だ?」
私は足元を注目した、レティの鮮血に染まる足元には確かに光るものが落ちていた・・・鍵だ。
「この台所の鍵ですね・・」
私は先ほど使った鍵と見比べて鍵先が全く同じであることを確かめ、元の場所においた。・・まだ動揺しているようだ・・手が震える。
「鍵は二つしかないのか?」
「無いです。そもそもここ以外の部屋は一つだけなんです。万が一の時の為に台所のは二個作ってあるんです。」
「二つは同じところに?」
「いえ、同時紛失を避ける為に別々の場所へ。普通は玄関、もう一つは姫・・・輝夜の部屋です」
「・・・輝夜の部屋は今開いているか?」
「いえ。先ほど出られたので・・開いてないかと。」
藍は流石八雲紫の式と言ったところだ。状況を分析しようと頭が働いている。
「勝手口は閉まっているな・・これは中からしか鍵が掛けれないようだな・・・密室か」
勝手口の戸は引き戸で中央の下に杭があり、それを地面内に埋め込んである穴に入れて錠をかう。因みに杭を下げたまま左右にずらそうとすると土の摩擦で全然全く動かない。
藍は今一度周りをじっくり見渡して。
「ここにいるのは少々嫌だろう。一旦部屋の外に出よう。」
我々は藍の指示に従い部屋を出ることにした。
錠を掛け鍵を藍に渡す。
チルノは今だ信じられないようで床に座り込み声を上げずに泣いていた。その姿から彼女の受けた悲しみは考えるだけでも辛い。
他の者──橙は無言で藍の手を強く握り。ミスティアはただ呆然と立っているだけであった・・
皆が一通り落ち着くのを見計らって藍が。
「ここにいても仕様が無い・・一度居間へ・・」
長い廊下を行く足取りも重い。私はチルノと一緒に最後尾を歩く。
居間の前まで来て最前列に居た藍が皆の方を振り返る。
「いいか、この事は私が紫様に伝え。必ず犯人を捕まえる!だから皆はこの居間でゆっくり・・・・───────!!!!」
藍は居間のふすまを開け。驚いた。そして私達も、もう見ることの無いと思っていたものがそこに存在していたのだ。
居間には────先ほど見たレティの死体と、あたかもそこで殺されたかのように部屋中が鮮血で染まっていたのだった。
そして────居ないのだ。
私の隣に居るはずのチルノさえも─────────
チルノが消えた。
すかさず私と藍はチルノの捜索に乗り出した。
「藍、チルノは突き当りを曲がるまでは私と一緒に居たことを保障できます。ですから唯一外に出られる勝手口のある台所は入れません、即ちまだこの家の中にいることは確かです。」
「そのようだな、ここは二手に分かれて捜索しよう」
「私は突き当りを曲がった先のトイレと二階の物置を!」
「分かった、私は鍵の掛かってないすべての部屋を探す。いくぞ橙」
私達は一斉に走り出した。一応ミスティアは玄関を見張った。
「あれ?もう帰って来たんですか?」
私はミスティアに問いかけられた。
「何も無かった・・」
私は溜息混じりに答えた。もう疲れて気力が出ない
私の見たところではチルノは見つからない。
廊下の右手の奥の部屋から藍と橙が帰ってきた。
「あれ?いつ帰ってきた?全く気づかなかった・・」
藍は私に向かって訊いて来た。疲労困憊が伺えるその顔からやはりチルノは見つからなかったらしい。
「つい先ほどね。一足お先に」
藍は少し訝しげに
「屋根裏は?」
「駄目だった見たいです」
何故かミスティアが答える
藍は一度私の方を見てミスティアにひそひそと話しかけた。
藍は納得したような顔で屈んでいた体を起こし。外に出た。
「勝手口を調べる。」
勝手口はやはり閉まっていた。力を入れてもうんともすんとも言わない。
藍は私の方を見て笑みを浮かべた。その意味は読み取れない。
「一度、居間・・・ではまずいな・・少し集まれる部屋は無いか?」
私は少し考えて。
「居間の反対側の所なら空いてますよ」
「では、そこへ。」
私達は玄関に戻り居間を改めて見た。
「流石に・・・酷い・・」
「誰でも知り合いが死ぬのは辛いことです・・しかもあなたはここの住人ですから・・」
藍が私に声をかけてくれた。
「いいえ、お気遣い無く・・早く入りましょう」
居間の隣の部屋。今は誰も使ってないの部屋だ。
藍が一息ついて話し出す。
「いいですか皆さん。もうこれはある意味犯人との人生をかけたゲームです。恐らく見失った者は全て・・・・死ぬでしょう。」
「じゃあ、チルノも・・」
ミスティアは口に手を当てて。俯いた。
沈黙が走る。長い時間、全てが止まっているようにも思えた。
「あの・・」
沈黙を破ったのは私である。
「トイレ・・いいですか?」
藍はふぅっと息を抜いて。
「いいですよ、しかし私も行きます。物置がもう一度見たい。」
私は頷き、一緒に部屋を出た。
藍は物置を改めて見渡した。
鈴仙は何も無かったと答えているが・・・いや、深く考えるのはよそう。
暗い・・・光の欠片すら感じ取れないことからここからの脱出は不可能だろう。
一応部屋にはそれぞれ窓があるがいかんせん小さい上にはめ込み式抜けれるのはチルノ位だろう・・つまり、玄関を封じられるとここは完全な密室と化す・・相手にその手段をとられる前に・・紫様に何としても伝えねば!
ゴゴゴゴゴ
地響きが木魂する。
「何事だ!」
藍が階段から駆け下りる。
トイレ前に居た私とぶつかりそうになった。
藍が直線の廊下に挿しかかろうとした時、地響きは鳴り止んだ。
「今の音は・・?」
「まさか!」
藍は慌てた様に玄関に向かって走り出した。
「藍様?」
橙がすごい勢いで走ってくる藍に話しかけたが、返事は返ってこない。
と、次の瞬間
ゴン!という鈍い音を発して藍が床に倒れこんだ。
「これは・・」
玄関は開いている。しかし、通れないのだ。
「・・・・永琳の密室の術・・」
私は藍の後ろに立っていた。
外界との通信手段は絶たれた。
時は既に夕刻であった。
夕飯は無い。
正確に言えばあるのだが、台所に行く気がしない。
私達は相談しあい。とりあえず永琳もしくはてゐ達の帰宅を待つことにした。
一晩の時を過ごす方法で私は提案をした。
「少しでも生き残るために、私達4人は2人ずつに分かれてお互いに手をとり、存在を確かめ合いながら布団に入るのが良いと思う。」
その意見に藍は
「うむ。そうすれば片方に異常があってったらすぐに片方が分かるし。相手が皆殺しを考えているのなら分けた方が生存確率は4人全員で寝るよりは高い。」
他の二人の意見も一緒のようだ。
「では、私とミスティア、藍は橙とでいいね?」
異議の申し立ては無い。本案は可決成立された。
部屋はお互いの音が取れる様に鉄の扉は閉めず(閉めたら、完璧に遮断され。永琳が来ても分からないからだ)、廊下を隔てて隣接する部屋で寝ることとなった。
お互いに布団を敷き、手を取り合って、神経を手に集中して眠る──仮眠と言った方が良いだろうか。
夜は永い。
早く、普通の夜に
早く、外に
早く、元の生活に
早く、寝ないかなぁ。
夜は永い。
───────────
「んー藍様ぁ・・」
「何だい?橙・・」
「トイレ行きたいの・・」
「分かった。一緒にいってやろう・・」
「手、つないで・・」
「ほら、トイレだぞ」
「うん・・」
「早く済ましてこいよ・・」
パタパタ、バタン
「終わったよ・・藍様~」
「・・・藍様?」
「あ、藍様!」
「手、つないで帰ろ」
「おやすみ・・藍様・・」
「オヤスミ」
───────────
朝、最初に起きたのはミスティアであった。
「ほら、起きて。」
つないだ私の手をぶんぶんと振っている。
「ん~おはよう。何事も無く朝を迎えれてよかった・・」
「橙も起こそう」
そう言ってつないだ手を離して。隣の部屋に移る。
私もミスティアの後を追う。
藍の部屋には布団が二つあって──当たり前だが──真ん中の開いた空間に二人の手が見える。
「橙。起きろ、朝だぞ。」
「ん~」
橙はごそごそと動いて起きた。その時握っていた手が離れた。
「ふぁぁ。藍様も起きて~」
と、手を引っ張ったその時。
「────藍様!!」
布団の中には・・・腕と少量の血液しかなかったのだ。
そしてその頃、永遠亭の前に一つの隙間が現れたのだった。
この文章はミステリ系です。あなたの好きな人物が死んでしまう可能性を持っています。
又、アレな表現がお嫌いな方は避けて下さい。
設定書き。
これに登場する人物の身体的構造は人間とします。
ただし、それは内面的なものなので人物関係は変わっていないと思います。多分。
以上
-永遠亭の永い時間-
~鈴仙の暇な一日編~
それはまだ春が来る少し前のお話
「優曇華院」
廊下で私は呼び止められた。
長い廊下で、両側にはいくつもの襖がありその先にはいろいろな部屋がある。
所々、襖の上から鉄の扉が閉じている所もある。月の者が襲撃してくるのに備えて師匠が考案したものだ。部屋と部屋の間の壁の中に鉄製の扉を仕込んで、両側から引っ張り出し、畳む様に閉じて錠をするというシステムだ。・・今となっては必要ないものだがこの屋敷自体を密室にする結界もあるんだとか。
てゐがはじめてここに来たときは似たような外見の部屋ばかりだから相当迷ったらしい。・・私もだが。
その部屋一つから師匠こと八意永琳が上半身を仰け反らせながら右手でこっちおいでおいでをしている。コタツでよく見るポーズだ。
疲れているようで、その体は重力にとらわれて床に少しずつ落ちていく。
私はかけ寄った、走っている間に師匠の体は着実に床に落ちていく。
私が師匠のもとに着いた頃には既にその頭を床に預けていた。
「師匠なんですか?」
私は見下ろすように師匠に訊いた。
徹夜したのであろうか目の下に隈が出来ている。
流石の蓬莱の力は疲労をリザレクションしてくれないらしい。
師匠は声を絞り出すように
「ちょっと紅魔館の大図書館に用事があるから・・明日は留守にするわ。下手したら数日帰ってこないかも・・」
と言ったのも束の間、師匠は寝息をたててしまった。
私は軽く返事をして師匠を抱かえ、部屋に入った。
鼻をつくような匂いが部屋に充満している、机の上のすり鉢に植物が磨り潰されたままになっている。原因はこれらしい。
それ以外にも瓶やら本やらが散漫している。片付けたいが下手に触ると後で怒られそうなので触れない。もどかしい。
一旦師匠を少し開いているスペースに置き、適当に床に散らばっていたものをどかして布団を敷いた。
「イナバ」
上がり口で靴紐を結んでいた私は呼び止められた。
後ろを振り向くとそこに姫こと輝夜が立っていた。
姫は笑いながら
「明日、私も永琳と紅魔館へ行くわ。」
私は一瞬考え「分かりました」と返事をして右の靴紐を結んだ。
姫は既に長い廊下に向けて歩き出していた。
左の靴紐が結び終わった頃、姫が
「ああ、そうだわ」
「何でしょう。」
「今日の朝からてゐとその他のウサギたちは旅行に行ってるわ、帰るのは明後日くらいだそうよ」
「・・・またですか・・・私はいつも置いてきぼりですね・・」
「嫌われてるんじゃないの?」
「そうなのでしょうか・・」
こうゆう集団旅行は最近数が多くなってきている。いつも決まって私だけには連絡が来ない。
何処に行ってるのかも分からないことが殆どだ。やはり月の兎だからだろうか・・。
「では、行ってきます」
玄関口で廊下を改めて見たが既にそこには姫の姿は見えなかった。
殆ど獣道と言える道を歩きながら私は考えた。
明日、永遠亭には私しかいない。いつも師匠とかの身の回りをしているから忙しいが、いざ師匠達がいなくなるとなるとかなり暇だ。
私は師匠の薬を(慧音を介して)村の人間に売って生計を立てている。今日もその用事で外に出たのだ。
しばらく歩き、永い竹薮を抜けるとそこに人間の村がある。
慧音に言われ、人間を刺激しないよう耳をリボンのように結ぶ。正直かなり痛い。
そして村の中で慧音を探す。満月の夜でなければ彼女もごく普通の人間である。
村の中心に位置する少し広いスペースに子供たちを相手に作り話──と言うか彼女の話は8割方事実である──を披露しているようだ。
慧音の視界に私が入ったようでそそくさと話をやめて子供たちを解散させている。
私は四方八方に散っていく子供たちを縫うように慧音に向かって進んでいく。彼女は私がある程度近づくまでにはスカートの埃を叩いたりしていた。
「今日は早いな。」
「ちょっと後で寄りたいところがあって。」
「・・・ところで今日、食あたりに効く薬は持って無いか?」
「んーと。一応あるよ。どうして?」
「ちょっと村の一人が苦しそうに見ているのを見てな。」
少し苦笑いを浮かべる慧音。本当に人間が大切なようだ。
「ふーん。はい、食あたり用の薬。あまり多く服用しちゃダメですよ。一回3錠。」
「ん。ありがとう」
「で、これがその他の薬。いつもの傷薬、風邪薬。あと前に頼まれた湿布と岩塩だ」
岩塩は割りと貴重なので、あまり頼まれても売らないのだがお得意様の慧音には感謝の意を込めて大サービス、・・と言いたい所であるが、本音は少しお金がいるのだ。
人によってお金の価値は色々だが、私は村の人に薬を売って村で食材を買ってるため大切なものだと思う。なくても生きていける人が多々いるようだが。
「ありがとう、これでいい料理が振るえそうだ。」
「食あたりの薬もあるしね」
慧音はむっとしながら。
「うるさい。ほい、これ昨日分の薬代だ」
「ん。ありがとう。じゃあもう行くよ」
「ああ、また明日宜しくな」
私は手を振りながら村を後にした。
村を抜けるとそこは森である。・・幻想郷は殆どが森だからしょうがない。
そして森を抜けると・・・やっぱり森なのだが普通の森ではない。魔法の森だ。
普通の森とは具体的に何が違うのかと聞かれれば渋い顔をしなくてはいけないが。雰囲気が違うとでも言っておこう。
ねっとりとした湿気が肌にまとわり付く。私は足早に香霖堂へ向かった。
「いらっしゃい」
青年が店に入った私に声をかけてくれた。外見的には・・歳は師匠と同じだろうか。──師匠の本当の歳なんて私は知らないけど
銀髪で妙な服装をしている、あの前にたれているのは何なんだ。何だか妙に緊張する。
「何かお探しですか?」
私は一瞬ピクリと動き
「あ、はい。明日一日暇なので・・・遊べるものを・・」
しばらくお待ちください、と青年は言いながら店の奥へ消えていった。
恥ずかしい事ながら私は幻想郷に来てから一度も玩具やその類で遊んだことがない。毎日師匠やてゐ達の身の回りのことで手一杯だった。
だからこういう暇な時が来ないか、と思いながら日々貯めたお金は心許ないが集まっていた。
それにしてもこの店。多少は整理してあるのだが、一部の棚が山賊にでも襲われたかのように荒らされている。・・しつけの悪い熊でもいるのだろうか。
店内はいたるところに配置されたランプがナトリウム灯の様にオレンジに光って少し寂しい感じを漂わせている。
「コレなんかいかがですか」
青年が店の奥から両手に箱のようなものを抱えて持ってきた。横から見た感じでは台紙が二つ折りにされて中に何か入っているようだ。広げればかなりの大きさだろう。
「一人では遊べないんだが・・」
そう言いながら青年はその箱のようなものを広げた。
その中にはなにやら数字の書かれた独楽や沢山穴の開いた四角小さな箱や紙の束などがあり、それを包んでいた台紙には色々な文字とマスが書かれていた。
「双六ですか?」
私は見慣れない物を前に青年に訊いた。
「人生げーむといって、・・外の人間の人生の縮図を双六形式で遊んで。大往生した人が勝ちという玩具です。」
人生の縮図で遊ぶ、こんな大胆な発想聞いたことない。もしも師匠に見せたら喜んでくれるかもしれない。
「こ・・これ。これだけで足りますか?」
といって私は青年に財布を見せる。
青年は大丈夫ですよといって、お金を半分程度抜き取って返してくれた。
「ではコレ、ちょっと大きいですので転ばないように気を付けてくださいね」
私は軽くお辞儀をしてオレンジ色の店を後にした
魔法の森は何故か湿気が多い・・ねっとりとした湿気がまとわりついてやる気を削ぐ、それが嫌だから自然と足早になる。
しかし・・来た時より湿気が多いのは気のせいだろうか?
改めて周りを見渡す。大きな荷物を抱えていたからついつい足元を注意していたようだ。辺りは若干だが霧に包まれている。
そしてどうやら・・・迷った。森といっても一応道くらいはある。なのに今自分の居る所がまったく見当がつかない。
立ち止まっても仕様がないので歩くことにした。
薄い霧の中を木が私を通り過ぎるような錯覚を起こしながら、30分程歩いただろうか。急に森が開けて、あたり一面霧・・の下に水が見えた。・・・湖らしい。
やけに寒い・・もうすぐ春だというのに。
その答えは湖にあった。霧に映る影・・レティとチルノである。
彼女達は寒いところを好むため森や水気のある場所で会うことが多い。今回も条件一致なのだが。
彼女達もこちらに気付いたようで──むしろ誘い込んだ気さえするが──私に向って飛んでくる。
「よう!レイセン・・・っていったけ?何持ってるんだ?」
「大きな荷物ね」
私は二人に言われて改めて手に持っている「人生げーむ」というものを見て、青年の言葉を思い出した。
『一人では遊べない』
私は師匠に見せたら喜ぶかなと思って持ってきたが、すっかり明日自分一人しかいない事、しかも暇だから玩具を探していた事を忘れていた・・本末転倒。
ここは無難に
「一風変わった双六です。よかったら明日永遠亭で一緒にやりませんか?」
数は多い方がいいので彼女たちを誘ってみた。
してその反応は
「ほんと!?」
喜びの声と
「よろしいんですか?」
こちらも喜びと解釈していいであろう。
「ええ、大丈夫です。辰の4つほどに竹藪前でいいですか?」
「OK」と双方から返事が返ってきた。
私は一度間を置いて
「では・・まだ数が足りないので後3人ほど呼んできてくれますか?」
そう頼むと、彼女たちは返事とともにそれぞれ思い当たる方向へ飛び去っていった。
明日は退屈しないで済みそうだ。
そして私は家路に着いた
大きな荷物のせいでもう夕日が沈んでいた
*二日目
私達、総勢6名は今、集合を終え竹藪を目的地、永遠亭への獣道を突き進んでいる。
メンバーは私鈴仙・U・イナバ 、そして軽いリュック姿のチルノ、ボストンバックを持っているレティ、何故か指揮棒を持っているミスティア、そして橙とトートの八雲藍である。人生げーむでは飽き足らないのか、各々が色々と持ち寄っている。約一名何するかが目に見えているが。
暫く歩き玄関先に辿り着いた時、上がり口に姫が座って慌ててるのが見えた。どうやら師匠は先に行ってしまったらしい。
姫は急いで靴を履き、私たちとは入れ違いになるように走り去っていった。永遠亭に篭りっきりだった姫も一応運動は出来るらしい。
私は皆を家に上げ居間に案内した。永遠亭の構造は縦に長細く玄関から見てTの形をしている。因みに、居間があるのは長い廊下で左手の一番玄関に近い部屋である。
皆は居間に荷物を降ろして既に雑談ムードだ。私は例のものを取りに居間を後にしようとした。その時、レティがトイレの道を聞いてきたのでついでに案内することにした。
「トイレはこの廊下の突き当たりを左に曲がってすぐのところです。」
歩きながら私は道順を教えた・・・・と言ってもT字の廊下で右の突き当りの台所、左の突き当たりのトイレとその隣にある二階の屋根裏へ続く階段は配置的に非常に覚えやすい。
廊下の真ん中くらいでレティはふいと横に目をやり立ち止まった。
「あの部屋は?」
そこの部屋は鉄の扉で錠がされていた。しかし、他の部屋の鉄の扉とは年季が違って見える。
「ここは師匠の・・」
師匠と言ったとたんレティは疑問の顔をした。
私は勘付いた。そうだ、ここには私の人物関係なんて知ってる人なんて居ないんだ。なら・・師匠には悪いけど・・
「永琳・・・永遠亭の住人の一人の部屋なんです」
永琳・・ちょっと新鮮な感じを覚えた。一気に二人の距離が縮まった気がする。・・・師匠には悪いけど今日の間は「永琳」と呼ばせてもらおう。
「へぇ、ずいぶん年季の入った扉ですね・・よく使ってらっしゃるのですね」
私達は歩きを再開した。人生げーむのある私の部屋は長い廊下の一番奥の左手なのでレティとは着き当たり前で分かれた。
私は部屋に入り、レティがトイレに入ったのを耳を澄ませて確認した後。テーブルの上にある紙を見てして「ふふ」と笑うのだった。
私が人生げーむを居間に運んだときにはまだレティは帰ってきていなかった。
人生げーむの配置を藍に任せて私は飲み物を取りに台所へ向かった。
台所に着くと鍵がかかっているのに気が付き。私は仕方なく玄関にある鍵置き場に向かった。
「あれ?飲み物はどうしたんだ?」と途中、居間の前を通ったときにチルノが話しかけてきた。
私は「台所の鍵が掛かっていた」と溜息混じりに話し、玄関へ向かった。
鍵を取ると、早足で台所へ向かった。この往復はつらい。廊下が長すぎるのだ・・
台所前に着くころには私の息が少し荒くなっていた。
私は冷たい鉄の扉に手を掛け、鍵を外し、扉を開いた。
ひんやりとした・・むしろ寒いくらいの冷気が私を襲う。
そこには冷気に包まれたレティ・・・・の死体があったのだ。
だけどレティの顔色を窺うことは出来ない・・何故なら・・首が無いのだ
断末魔の悲鳴が永遠亭を震わせる。
居間に居た皆は何事かと台所に集まった。悲鳴から少したっていたので私は何とか落ち着きを取り戻すことに成功していた。
「レティ・・・」
チルノが嗚咽交じりにレティによって行く。しかしそれを藍が制した。
「あまり現場を荒らしたくは無い。鈴仙、ちょっと来てください」
私はふらふらする足に気合を入れてレティの横に屈んだ。藍が現場を荒らしたくないのは八雲紫に繋げる為だと見える。
「鈴仙、このレティの足元に落ちているのは何だ?」
私は足元を注目した、レティの鮮血に染まる足元には確かに光るものが落ちていた・・・鍵だ。
「この台所の鍵ですね・・」
私は先ほど使った鍵と見比べて鍵先が全く同じであることを確かめ、元の場所においた。・・まだ動揺しているようだ・・手が震える。
「鍵は二つしかないのか?」
「無いです。そもそもここ以外の部屋は一つだけなんです。万が一の時の為に台所のは二個作ってあるんです。」
「二つは同じところに?」
「いえ、同時紛失を避ける為に別々の場所へ。普通は玄関、もう一つは姫・・・輝夜の部屋です」
「・・・輝夜の部屋は今開いているか?」
「いえ。先ほど出られたので・・開いてないかと。」
藍は流石八雲紫の式と言ったところだ。状況を分析しようと頭が働いている。
「勝手口は閉まっているな・・これは中からしか鍵が掛けれないようだな・・・密室か」
勝手口の戸は引き戸で中央の下に杭があり、それを地面内に埋め込んである穴に入れて錠をかう。因みに杭を下げたまま左右にずらそうとすると土の摩擦で全然全く動かない。
藍は今一度周りをじっくり見渡して。
「ここにいるのは少々嫌だろう。一旦部屋の外に出よう。」
我々は藍の指示に従い部屋を出ることにした。
錠を掛け鍵を藍に渡す。
チルノは今だ信じられないようで床に座り込み声を上げずに泣いていた。その姿から彼女の受けた悲しみは考えるだけでも辛い。
他の者──橙は無言で藍の手を強く握り。ミスティアはただ呆然と立っているだけであった・・
皆が一通り落ち着くのを見計らって藍が。
「ここにいても仕様が無い・・一度居間へ・・」
長い廊下を行く足取りも重い。私はチルノと一緒に最後尾を歩く。
居間の前まで来て最前列に居た藍が皆の方を振り返る。
「いいか、この事は私が紫様に伝え。必ず犯人を捕まえる!だから皆はこの居間でゆっくり・・・・───────!!!!」
藍は居間のふすまを開け。驚いた。そして私達も、もう見ることの無いと思っていたものがそこに存在していたのだ。
居間には────先ほど見たレティの死体と、あたかもそこで殺されたかのように部屋中が鮮血で染まっていたのだった。
そして────居ないのだ。
私の隣に居るはずのチルノさえも─────────
チルノが消えた。
すかさず私と藍はチルノの捜索に乗り出した。
「藍、チルノは突き当りを曲がるまでは私と一緒に居たことを保障できます。ですから唯一外に出られる勝手口のある台所は入れません、即ちまだこの家の中にいることは確かです。」
「そのようだな、ここは二手に分かれて捜索しよう」
「私は突き当りを曲がった先のトイレと二階の物置を!」
「分かった、私は鍵の掛かってないすべての部屋を探す。いくぞ橙」
私達は一斉に走り出した。一応ミスティアは玄関を見張った。
「あれ?もう帰って来たんですか?」
私はミスティアに問いかけられた。
「何も無かった・・」
私は溜息混じりに答えた。もう疲れて気力が出ない
私の見たところではチルノは見つからない。
廊下の右手の奥の部屋から藍と橙が帰ってきた。
「あれ?いつ帰ってきた?全く気づかなかった・・」
藍は私に向かって訊いて来た。疲労困憊が伺えるその顔からやはりチルノは見つからなかったらしい。
「つい先ほどね。一足お先に」
藍は少し訝しげに
「屋根裏は?」
「駄目だった見たいです」
何故かミスティアが答える
藍は一度私の方を見てミスティアにひそひそと話しかけた。
藍は納得したような顔で屈んでいた体を起こし。外に出た。
「勝手口を調べる。」
勝手口はやはり閉まっていた。力を入れてもうんともすんとも言わない。
藍は私の方を見て笑みを浮かべた。その意味は読み取れない。
「一度、居間・・・ではまずいな・・少し集まれる部屋は無いか?」
私は少し考えて。
「居間の反対側の所なら空いてますよ」
「では、そこへ。」
私達は玄関に戻り居間を改めて見た。
「流石に・・・酷い・・」
「誰でも知り合いが死ぬのは辛いことです・・しかもあなたはここの住人ですから・・」
藍が私に声をかけてくれた。
「いいえ、お気遣い無く・・早く入りましょう」
居間の隣の部屋。今は誰も使ってないの部屋だ。
藍が一息ついて話し出す。
「いいですか皆さん。もうこれはある意味犯人との人生をかけたゲームです。恐らく見失った者は全て・・・・死ぬでしょう。」
「じゃあ、チルノも・・」
ミスティアは口に手を当てて。俯いた。
沈黙が走る。長い時間、全てが止まっているようにも思えた。
「あの・・」
沈黙を破ったのは私である。
「トイレ・・いいですか?」
藍はふぅっと息を抜いて。
「いいですよ、しかし私も行きます。物置がもう一度見たい。」
私は頷き、一緒に部屋を出た。
藍は物置を改めて見渡した。
鈴仙は何も無かったと答えているが・・・いや、深く考えるのはよそう。
暗い・・・光の欠片すら感じ取れないことからここからの脱出は不可能だろう。
一応部屋にはそれぞれ窓があるがいかんせん小さい上にはめ込み式抜けれるのはチルノ位だろう・・つまり、玄関を封じられるとここは完全な密室と化す・・相手にその手段をとられる前に・・紫様に何としても伝えねば!
ゴゴゴゴゴ
地響きが木魂する。
「何事だ!」
藍が階段から駆け下りる。
トイレ前に居た私とぶつかりそうになった。
藍が直線の廊下に挿しかかろうとした時、地響きは鳴り止んだ。
「今の音は・・?」
「まさか!」
藍は慌てた様に玄関に向かって走り出した。
「藍様?」
橙がすごい勢いで走ってくる藍に話しかけたが、返事は返ってこない。
と、次の瞬間
ゴン!という鈍い音を発して藍が床に倒れこんだ。
「これは・・」
玄関は開いている。しかし、通れないのだ。
「・・・・永琳の密室の術・・」
私は藍の後ろに立っていた。
外界との通信手段は絶たれた。
時は既に夕刻であった。
夕飯は無い。
正確に言えばあるのだが、台所に行く気がしない。
私達は相談しあい。とりあえず永琳もしくはてゐ達の帰宅を待つことにした。
一晩の時を過ごす方法で私は提案をした。
「少しでも生き残るために、私達4人は2人ずつに分かれてお互いに手をとり、存在を確かめ合いながら布団に入るのが良いと思う。」
その意見に藍は
「うむ。そうすれば片方に異常があってったらすぐに片方が分かるし。相手が皆殺しを考えているのなら分けた方が生存確率は4人全員で寝るよりは高い。」
他の二人の意見も一緒のようだ。
「では、私とミスティア、藍は橙とでいいね?」
異議の申し立ては無い。本案は可決成立された。
部屋はお互いの音が取れる様に鉄の扉は閉めず(閉めたら、完璧に遮断され。永琳が来ても分からないからだ)、廊下を隔てて隣接する部屋で寝ることとなった。
お互いに布団を敷き、手を取り合って、神経を手に集中して眠る──仮眠と言った方が良いだろうか。
夜は永い。
早く、普通の夜に
早く、外に
早く、元の生活に
早く、寝ないかなぁ。
夜は永い。
───────────
「んー藍様ぁ・・」
「何だい?橙・・」
「トイレ行きたいの・・」
「分かった。一緒にいってやろう・・」
「手、つないで・・」
「ほら、トイレだぞ」
「うん・・」
「早く済ましてこいよ・・」
パタパタ、バタン
「終わったよ・・藍様~」
「・・・藍様?」
「あ、藍様!」
「手、つないで帰ろ」
「おやすみ・・藍様・・」
「オヤスミ」
───────────
朝、最初に起きたのはミスティアであった。
「ほら、起きて。」
つないだ私の手をぶんぶんと振っている。
「ん~おはよう。何事も無く朝を迎えれてよかった・・」
「橙も起こそう」
そう言ってつないだ手を離して。隣の部屋に移る。
私もミスティアの後を追う。
藍の部屋には布団が二つあって──当たり前だが──真ん中の開いた空間に二人の手が見える。
「橙。起きろ、朝だぞ。」
「ん~」
橙はごそごそと動いて起きた。その時握っていた手が離れた。
「ふぁぁ。藍様も起きて~」
と、手を引っ張ったその時。
「────藍様!!」
布団の中には・・・腕と少量の血液しかなかったのだ。
そしてその頃、永遠亭の前に一つの隙間が現れたのだった。