Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷最速選手権6

2005/05/03 09:08:39
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前回までのあらすじ
みょんなことから競妖に参加したものの、妖夢に二度も負けてしまった魔理沙
次はいよいよ幻想ダービー、霊夢の信頼を取り戻すためになんとしてでも勝たなくてはいけない



「剣じゃ……私の火力には勝てないぜ!」



「あー、魔理沙が遊びに来なくなってからというもの、悲惨だわ~」
5月、新緑の季節。霊夢は縁側でのびていた。
西行妖賞で大負けした勢いで魔理沙と絶交した霊夢だったが、気分が悪くなったのはそれだけではない。
大切な親友だけでなく、皆が羨む強運までもが失なわれてしまったのだ。
あれから全く予想が当たらない。逆に当たっちゃいけないもの(弾とか食べ物など)に当たるようになってしまった。
先日も流れ星が博麗神社にぶつかって現在復旧工事中だ。
魔理沙もここ1ヶ月まったく遊びに来ない。絶交したから当然と言えば当然だが。
実際、霊夢はかなりの窮地に追い込まれている。もはや食料も蓄えも尽きた。
質に入れるべき物も無くしてしまい、一発逆転さえ望めなくなってしまったのだ。
霊夢はカレンダーを見て、今日の日付を確認する。
「来週はいよいよ幻想ダービーかぁ」
幻想ダービー、競妖に関わる者なら誰でも一度は勝ちたいと願うレース。
デビュー1年以内の妖怪で、勝ち進んできた20匹のみが一生に一度だけ出走できる最高の舞台。
「ライフいっこ賭けてみようかな」



「昨日の晩、紫に教えてもらったスキマ魔法を使ったらダメか?」
「ばれたら失格ですよ魔理沙さん」
「ちぇっ、正攻法で行くしかないか」
西行妖賞で再び敗北した魔理沙は、ダービーに勝つ為マヨヒガで調教を続けていた。
霊夢とは若干方向性が違うが、魔理沙もここ数回のレースですっかり競妖に夢中になってしまっている。
ただ、その霊夢の信頼を取り戻すにはもはや勝つしかない。
「どけどけどけー!!!」
「ぬかせませんよー」
この1ヵ月魔理沙は毎日のように橙とレース形式で訓練をしていた。
すでに魔理沙は競走妖でもかなりの強さ。橙も結構本気で魔理沙の相手をするようになっていた。
橙の魔理沙調教方針、それは魔理沙がこれまで未使用の「切り札」安定発動だ。
橙は前回の西行妖賞で確信した。手の内を全て見せた妖夢・妹紅と、切り札なしの地力だけで戦った魔理沙は互角。
魔理沙の持つ「切り札」を使えばダービーで勝てる可能性は十分にある。だがそれは使えればの話。
最初、魔理沙は切り札使用を怖がって使おうとはしなかった。昔嫌な思い出でもあったんだろうか?と思い橙は聞いてみた。
「なにかあったんですか?」
「一回だけ弾幕ごっこで使ったら、魔力が暴走して死にかけたんだぜ」
「じゃあ、訓練して使えるようになりましょー」
「そんなことできるのか?」
「とうぜんですー」
「じゃあ、お願いするぜ」
というわけで始まった橙の魔理沙調教。それは「切り札」のパワーを少しづつ開放していくと言うものだった。
初日はほんの5%、そこから徐々に体を慣らし開放度を上げていく。
正直1ヶ月では4割くらい開放できればいいかな、というのが橙の考えだったのだがそれは綺麗に裏切られてしまった。
魔理沙の現在のパワー開放度は約70%、それは無理さえしなければ十分に実戦で使用可能な水準だ。
「――いくぜッ!」
橙を追いかける魔理沙が「切り札」を発動させる。
「まだまだですねっ!」
橙は超加速で魔理沙をギリギリ抜かせない。魔理沙は橙に勝つと次の調教で手を抜く傾向があるからだ。
今回も橙がほんのわずかに魔理沙を抑えきり訓練終了。
「おーい二人とも、ご飯だぞ~」
藍が二人を呼びに来たのでマヨヒガに帰ったが、魔理沙はなにか煮え切らないようだった。
「最近橙に勝った記憶が無いんだが。ちょっと不安だぜ」
「それなら別に大丈夫です、らんさまでも私に勝てませんから」
「なぬっ?」



3人は夕飯を食べながら会話をする。橙は一足先に食べ終えて居間で東方CATVを見ているようだ。
「そうね、藍よりも橙のほうが強いかもしれないわね」
「調教で橙を抜いた時でも、『抜かせてもらった』感覚があるんだよな」
紫と藍は揃って似たようなことをほのめかす。橙おそるべし。
「みんなーはじまったよー」
今日の東方CATVは幻想ダービー特集だった。来週に迫ったダービーの登録妖怪が発表され出演者が予想を行っているようだ。
やはり出演者のほとんどは妖夢を本命に挙げている。ここまで無敗の妖夢に勝てる妖怪はいないというのが大方の予想。
「魔理沙さんは押さえ程度ですね」
「うーん納得いかないぜ、この前も2着だったんだが」
「やっぱり、距離が伸びて不安視されてるわね」
幻想ダービーは紅魔館4800メートルで行われる。たしかに魔理沙はこれまで3200メートルまでのレースしか勝っていない。
「私の感触では、魔理沙は4000~5000くらいが能力を発揮できそうなんだが」
「そういえば、あんまり短い距離でドーっと行くより長めの距離でゆったり行くほうが飛びやすいな」
「たしかに調教でもそのくらいの距離が一番能力を発揮できてますよね」
4人が魔理沙の実力分析をする中、聞いたことのある声がテレビから聞こえてくる。
メイド長予想でおなじみの紅魔館メイド長、十六夜咲夜。咲夜は伏兵をよく本命に選ぶ穴党でもある。
「私の予想?本命はコイツですよ」
自信満々に答える咲夜。
「あら、これはまた美味しそうな妖券ね」
「こんなのフツー来ますか?」
咲夜の本命予想はテウィ。永遠亭最後の刺客だった。



「まさかてゐがダービーに出るなんて」
永遠亭最後の希望、てゐ。
生き残ったイナバは僅か2匹。優曇華が負傷し、永琳が散った永遠亭は滅亡するかと思われた。
そんな中、ダービートライアルを最低人気で勝ったのが永遠亭最強の詐欺師であるテウィだった。
そのレース、観衆はテウィが何処にいるのか最後の最後までわからなかった。
ずっと集団の中に隠れており、ゴール前でちょっぴりだけ先頭に出たのである。
テウィの戦績はここまで16戦3勝、永琳に酷使されたおかげでダービーに出る競走妖の中では最も経験を積んでいる。
「どうやらこれまでの経験が生きたようね、しかしダービーまで持つかしら?」
「師匠がてゐを使いすぎたんですよ。もう師匠のクスリのせいでボロボロなんですから」
てゐもまたクスリを使っていた、と言うより使わされていた。永琳が毎日の食事にクスリを混ぜている。
そもそも優曇華がてゐの変調を感じ取ったのは3ヶ月前、陽気なはずのてゐがちっとも喋らなくなったのだ。
その直後、デビュー11戦目にして競妖初勝利。このレースも最低人気だった。
そのレース振りたるや尋常ではない。一度はスタミナ切れで脱落したにもかかわらず逆転で勝ったのだ。
「師匠、やはりあの時から…」
「優曇華、永遠亭のためには仕方が無いことよ」
そもそも永琳のクスリは検査はおろか、服用している者にさえ発見されることは無い。発見されるのは体が崩壊したときだ。
「ここで永遠亭の歴史を終わらせるわけにはいかないのよ」



ダービーまで後一週間となったある日、咲夜はこっそりとマヨヒガにやってきた。
「質素なあばら家ですね」
「あなた、いつの間にやら勝手に入り込んできた上に失礼なこと言うのね」
激怒している紫をよそに、咲夜は魔理沙を探す。
咲夜がマヨヒガを訪れることにしたのは、魔理沙に一言伝えるためだった。
「おや、咲夜のお出ましとは珍しいな」
「魔理沙、あなたに一言伝えておくことがあるわ」
「なんか妖しいな、簡潔に頼むぜ」
「お嬢様が霊夢を買い取ったわ」
「はぁ?」
「霊夢は生活に困ってお嬢様に自分を売った、それだけのことよ」
それだけ言うと咲夜は紅魔館へと帰っていった。
「ねぇ魔理沙、それって…」
紫は顔を赤らめ、あらぬことを考える。しかし魔理沙の考えは違っていた。
「霊夢のヤツ腹をくくりやがった。人生生きるか死ぬかの大勝負に出る気だな!」
「どういうこと?」
「いいか、レミリアは常々霊夢を欲しがっていた。おそらく金で買えるものなら幾らでも出すだろうぜ。」
「それだけじゃ全然大勝負にならないじゃない」
「対する霊夢は最近流れ星が当たって大ピンチ、博麗神社を直すためのお金が必要だ。でも霊夢にそんな金は無い」
「体を売ったお金で直すんじゃないのかしら?」
「霊夢はレミリアに自分を売った金でダービーで大勝負するはずだ。それこそとんでもない額だろうぜ」
「でも、あなたに賭けるとは限らないじゃない」
「そうでもないぜ」
そういうと、魔理沙はエプロンのポケットから手紙を取り出した。西行妖賞の後受け取った霊夢からの置手紙だ。
「ただの絶交宣言じゃないの?」
「一昨日気がついた。あぶり出しだぜ」
火を当てると、うっすらと『ダービーでもう一度だけチャンスをあげる』と言う文字が浮かんできた。
「まだ私は見捨てられてなかったようだぜ」
「なるほど…霊夢はあなたの力を信じているのね」



一週間後、ついにその日はやってきた。
紅魔館競妖場で行われる最大のレース、幻想ダービー(G1)右回り4800メートル。今年も20匹フルゲート。
魔理沙は八雲一家と一緒に決戦の場へとやってきた。今回はみんな目の色が違う。
特に橙は自分の教え子?である魔理沙がダービーに出るとあって興奮を抑えきれないようだ。
「まりささん、死んでも勝ってくださいね!」
「無茶言うな、死んだら負けだぜ」
「魔理沙、お前なら勝てるぞ、間違いない!」
「おまえらちょっと落ち着け」
一昨年の幻想ダービーで3着に負けてしまった藍も調教パートナーである魔理沙には是非勝ってもらいたい。
「あらあら、みんな取り乱してるわね」
「そういう紫も、靴下が裏表反対だぜ」
いつもは冷静な紫でさえも少々舞い上がっている。
競妖にあまり馴染みの無かった魔理沙にも、今日は特別な日だということが徐々に分かってきた。
「なるほどな、幽々子がなにがなんでも妖夢でダービーに勝ちたいという気持ちが分からんでもないぜ」



「妖夢、準備はいい?」
「はい、準備万端です」
「いいか、落ち着いていつも通り飛べば勝てる。今日は遠慮なく切り札を使ってやれ」
「ありがとう慧音さん、あなたのおかげでここまで来れました」
妖夢に西行妖賞の反動は見られない。慧音の調整によって完璧なコンディションでダービーに出られる。
「あとは私が頑張るだけ、吉報をお待ちくださいっ!」
妖夢は控え室へと走っていった。その後姿を見送る幽々子と慧音。
「慧音、妖夢は勝てるかしら…」
「心配ない、今日は紅魔館だから直線も長い。それに大体の相手とは決着が付いてるからな」
今日の出走メンバーのほとんどに妖夢は一度以上勝っている。
ダービートライアルからのメンバーにも、妖夢に歯が立つような妖怪はいない。
「幽々子さん、あなたの念願が遂に叶いそうだ」



「ふふ、このダービーが終われば霊夢は私のもの」
「まだ分からないわよ、逆に私が勝てばゴッソリ戴く物は戴くわよ」
霊夢はレミリアから自分を担保にお金を借り、そしてそれを全て魔理沙に注ぎ込んでしまっていたのだ。
これまで人生最大の大勝負は何回か経験があるが、今回ついに人生そのものを賭けてしまった。
親友と強運、この二つを取り戻すべく霊夢は文字通り命を賭ける。
「いい、このレースで魔理沙が勝てば私は自由の身。それ以外は私があなたのものになる。それでいいわね」
「当然よ、この私が約束を破るなどと言う愚行をするはずが無いわ」
運命を操る者と強運を持つ者、ここに戦いの幕が切って落とされた。


いよいよ幻想ダービー発走の時。
一番人気はご存知ヨーヨーム、無敗のダービー妖誕生の可能性は濃厚だ。
以下スカーレットデビル、スカーレットシュートとレミリア所有の妖怪が続き、マリサはまたもや四番人気。
メイド長オススメのテウィは十四番人気、大穴だ。
「今度こそ間違えずに買ったわよ」
「あ、ゆかりさまの本命はなんですかー?」
「ヨーヨームで間違いないわ、さようなら霊夢」
「酷っ」
「冗談よ、今回は私もマリサに賭けたわ。10倍もつくなんて美味しいじゃない」
「そうですよね、私は魔理沙さん一着固定のスカーレットシュート、ケダマコンコルド、フジミキセキへ流し3点です」
「あなたヨーヨームを嫌ってる?この前も外して大損だったじゃない」
「ぎくっ」
橙が固まった。どうやら図星のようだ。
「今度こそ当たりますからっ!」
「珍しいわね、橙が思い入れで賭けるなんて」
「お楽しみのところなんだが、そろそろ始まるぞ」
続々とスタートゲートに収まる競走妖達、魔理沙・妖夢も静かにスタートを待つ。
「このレースだけは負けられない、お前にも負けられない」
「3連敗なんて、ご遠慮申し上げるぜ!」
合図とともにゲートが開き、今年のダービーがスタートした。



スカーレットシュートが素晴らしいスタートを決め先頭に立つ、その直後にマリサがいつものように二番手追走。
「あの熱い妹紅がダービーに出なくて良かったぜ」
今日は妹紅がいない。妹紅にはダービーの距離が長すぎるとして慧音が出走させなかったのだ。
レースは平均ペース、展開の有利不利はなさそうな流れ。
妖夢はいつもと違い14番手あたりを飛んでいた。いつもの定位置と違う。
「おや、今日は妖夢のやつ最後方じゃないな。レースに慣れてきたのか?」
とはいえ最後の追い込みは警戒すべき。魔理沙はこのポジションをキープすることにした。
魔理沙はかなり鍛えられ、ただ全力で飛ばすだけだった飛行も今では0.1km/h単位で速度調整が出来るようになっている。
先頭から2・3番手のインコース。これが近代競妖では最も有利な位置。
そこへ素早く位置することが勝利への近道だと言うことを橙に叩き込まれたのだ。
1000メートルを通過してしばらく経った時、レースが動く。
魔理沙は異変に気がついた。なんか窮屈になっている。
「なんか紅いのに囲まれてる気がするんだが」
魔理沙を取り囲むようにして、前にスカーレットシュート、左にスカーレットデビル、後ろにグングニル。
しかも間隔が狭い上に体当たりまでしてくる。反則ギリギリのラフプレー。
「いててっ、なにこの陰謀」
魔理沙は押し返そうとするが相手はびくともしない、如何せんパワーが違う。
かといってマジックミサイルを叩き込むわけにもいかない。体格の小さい魔理沙にとっては厳しい戦いが始まった。


「と、飛びづらい…」
妖夢はいつもの最後方待機ではなく、集団の中で飛んでいる。
最後方で待機するつもりが、思いの他スタートがよかったために集団の中に入ってしまったのだ。
周りの動きにあわせて飛ぶという初体験、これは慣れないと余分な体力を使ってしまう。
だが妖夢は違うところを心配していた。
「身動きが取れないくては、直線で現世斬がつかえないじゃないか」
あせる妖夢。動きたいのだが簡単に動くことが出来ない。
先程から、てゐが妖夢の邪魔をしていた。妖夢が前に出ようとすれば進路を塞ぎ、左右に動こうとすればピッタリと隣に位置取る。
「仕方が無い、とりあえず集団から抜け出そう!」
なんとか隙間を探し、集団の外へと移動していく妖夢。少しづつ着実に集団から抜け出していく。
そしてなんとか集団の外側に出ることが出来た。が…
「…しまった、コーナーでの距離ロスを忘れていた」
妖夢は「コーナー」の存在をすっかり忘れていたのだ。外にいればいるほど長い距離を飛ばなくてはならない。
レースは2500メートルを通過し、丁度第3コーナーに差し掛かる所。
隊列は1000メートル地点とほとんど変わっていない。仕掛けるのならばここからだ。
ところが妖夢は大外に位置取ってしまったためにズルズルと後退する。競妖では完全な負けパターン。
「OK、妖夢脱落」
ほくそえむてゐ。このタイミングで妖夢が集団から外へ逃げるように仕向けたのもてゐの作戦であった。
しかし妖夢は顔色一つ変えていない。それどころか口元に笑みが浮かぶ。
「好都合、邪魔者は居なくなった」


残り1500メートル、もうじき紅魔館名物の長い直線に差し掛かるところだ。
魔理沙は相変わらずレミリアの使い魔たちにいたぶられている。
「あいたたた、こいつら私をなんだと思ってるんだ」
弾き飛ばそうにも相手のほうが大きい。それにまだここで仕掛けるわけにはいかない。
なんとか抜け道を探す魔理沙、だが後ろを見たときに血の気が引いた。
「おいおい、マジかよこんちくしょう!」
後ろの敵はグングニル。そう、レミリアの槍だ。そのグングニルがこの地点で仕掛けるべく力をためている。
しかも目指すものはゴールではない、魔理沙そのもののようだ。
そんな凶悪なものを箒だけで防ぎきれるはずが無い。
このグングニルが突っ込んできたら掘られるどころの話ではすまない。ほぼ確実にマイライフブレイク。
「ふふふ、残念だけど魔理沙はここで予後不良よ」
これがレミリアの作戦だった。ここで魔理沙が貫かれればば確実に霊夢は自分のものになるのだ。
仮にグングニルの直撃を避けてもそれ相応のダメージを受け、レースでは負ける。
それにダービーは紅魔館、グングニルの暴走と言うだけで事態は収まるだろう。
「レミリアの奴、ひどいぜ」
魔理沙はレミリアの姿をオーナー席に確認したが、ここからではなにも出来ない。
それに隣のスカーレットデビルが体当たりを仕掛けてくので、後ろからの攻撃を避けられない!
「どけこのやろ!」
「魔理沙、さようなら」
直線に差し掛かった直後、グングニルに向かってオーナー席でレミリアが合図を送る。
グングニルが眩い光となり、魔理沙に向かって突き進んでいく。
「どわーーーー!!」
「魔理沙ぁーーーー!!!」
「霊夢、バレない反則は反則ではないのよ」







「ひ、ひどすぎますっ!」
「最悪の展開ね…」
橙と紫が憤るのも無理は無い。競妖でこんな惨劇は滅多に起きるものではなかった。
先頭集団から脱落する二匹の競走妖。
「…いや、勝つためなら手段を選ばないやつも存在する。真剣勝負とはそういうものだ」
「らんさま、そんなこといわないでください!」
「実際私もそういう敵と幾度と無く戦ってきたんだ、これが勝負の世界なんだよ橙」
「……」
「でも、二匹も競走中止にさせるなんてエゲつないわね」



1200メートルの直線に差し掛かり、全員が先頭を目掛けて仕掛け始める。
「邪魔だ邪魔だー!!!」
迫り来る集団から逃げる魔理沙。先程力尽きたのはスカーレットシュートとデビルの二匹だった。
魔理沙はグングニル衝突の瞬間、イチかバチかでスキマ魔法で自分と隣のスカーレットデビルとの位置を入れ替えたのだ。
つまりは同士討ちを誘発させた魔理沙。二匹を掘ったグングニルもまた魔力を無くしズルズルと後退していく。
魔理沙にとってグングニルが発光したことが幸運だった。光で紛れてスキマ魔法がバレなかった。
「バレない反則は高等技術ねっ!」
「な、なんてことッ!!」
レミリアは苦虫を噛み潰したような表情で霊夢を睨みつける、が後の祭り。この状況ではもはや魔理沙を止められない。
しかし、当然魔理沙もスキマ魔法を使ったことによる魔力の消耗は避けられない。
「これじゃあ、逃げ切れないかもしれないな」
次の瞬間、後方から強力な威圧感が魔理沙を襲う。これまで2度経験した『アレ』だ。
ダービーを勝つためには避けられない戦い、その幕が切って落とされる。
「おいでなすったな、妖夢!」


「妖夢、ここが頑張りどころよ!!!」
「いけ!ここで現世斬だ!」
「現世斬!」
声援に後押しされ、三たび繰り出された妖夢の稲妻。最後方から残りの17匹を一刀両断するために解き放たれた必殺の剣。
紅魔館の直線は1200メートル、全てを切り捨てるには十二分な距離。
一匹、また一匹と抜き去る妖夢、残り600メートルで残るは6匹。
「持ってくれ…私の体!!!」


「まだ500メートルもあるのかよっ」
魔理沙は自分の限界が近いことを悟る。妖夢の勢いも少し衰えたが抜かれるのは時間の問題だ。
「おや、魔理沙さんここで終わりですか?」
「い、いつのまに!」
テウィ襲来、突然の伏兵の登場に驚く魔理沙。
「じゃあ、私が勝たせてもらいますよ~」
しかしてゐもその言葉とは裏腹にいっぱいいっぱいだ。スピードも魔理沙とほぼ同じ。
その上それに続く3匹は明らかにてゐよりも手ごたえが良い。このままでは確実に抜かれる。
そして後方の妖夢は今まさに『二つ目の切り札』を使おうとしている。
「しかたない、覚悟を決めるぜ」
そう言うと魔理沙は詠唱を始めた。残った魔力で『切り札』のスイッチを入れる。
「未来永劫斬ッッ!!!」
稲妻から閃光へと変化する妖夢、もはやそのスピードは神の領域。
後方からは妖夢が迫ってきているし、既にケダマコンコルドとフジミキセキが魔理沙を抜きにかかった。
だが魔理沙は構わず詠唱を続行する。
「魔理沙、覚悟ーーー!!!!」
閃光と化した妖夢が魔理沙を含めた先頭集団に襲い掛かったその時、魔理沙の詠唱が終わった。
「剣じゃ……私の火力には勝てないぜ!」


魔理沙は彗星となり直線を蹂躙せんとばかりに突撃する。
「どけどけどけー!!!」
「なにあの加速力!?」
魔理沙は遂に切り札『ブレイジングスター』を発動させた。そしてその爆発的なスピードで一挙に先頭へと躍り出る。
瞬く間に妖夢他2匹を抜き去り体一つ抜け出した魔理沙。だがこのまま終わる妖夢ではない。
「幽々子様のためにも…負けるわけにはいかないッ!!」
妖夢は自分の限界を顧みず、負けじと『第三の切り札』を切る。
「待宵…反射…衛星斬ッ!」
「うわっ、いったい幾つ切り札もってやがるんだこいつは!」
魔理沙と妖夢の三度目の一騎打ち、今度はお互いに切り札を出した正真正銘の追い比べ。
壮絶な戦いが繰り広げられる残り300メートル。ある者は手に汗握り、またある者は大声で応援する。
「このレースだけは…絶対に負けられない…」
「妖夢のやつ、化け物だなこりゃ」
魔理沙と違い妖夢は既に1000メートル近く全力で飛ばしている上、切り札を三つも切っているのだ。
妖夢はすでに気力だけで飛んでいる。体力も魔力も使い果たし意識が飛びかけているようだった。
魔理沙もすでにいっぱいいっぱいだが、最後の力を振り絞って最大出力のブレイジングスターを繰り出す。
「引導を渡してやるぜ!」
「そんな…私が負けるなんて……」
魔理沙が妖夢を引き離した直後、妖夢は力を使い果たしたのか急激に失速し脱落。ついに妖夢が競妖で敗北した瞬間だった。
「妖夢討ち取ったり!」


「討ち取ったけど…私もヤバいぜっ!」
残り100メートル、魔理沙も魔力が切れてブレイジングスターを維持できなくなってしまった。
魔力が無くなった為にスピードダウンする魔理沙。後ろからはテウィとフジミキセキが猛然と追い込んできている。
「待てや魔理沙ー!!!」
「てゐのやつ本性現しやがったな!」
てゐは先程までいっぱいいっぱいだったのに、今は元気マンタン。永琳のクスリを使ったようだ。
必死で逃げる魔理沙、鬼の形相で追うてゐ。
「来るな来るな来るなー!!」
「あひゃひゃひゃひゃ、まちやがべっ!?」
残り50メートルでてゐ脱落。クスリの副作用が出てしまったようだ。
この時点でマリサとフジミキセキの差は5妖身。魔理沙セーフティリード。
「今度こそ勝ったぜ!」
魔理沙は一着でゴールラインを通過し、ついに栄光のダービー妖となったのだった。
二着はフジミキセキ、ヨーヨームは六着、テウィはゴールにたどり着けず失格となってしまった。
「やったぜ!!」
魔理沙は三度目の戦いにしてついに妖夢を倒した。これまで努力が報われた瞬間だっだ。
「勝ったー!!!!!」
同じく絶叫する霊夢、レミリア相手の真剣勝負で勝利したのだ。
「そんな、この私が負けるなんてッ!!」
「あなたには私の強運を捻じ曲げるだけの力がなかった、それが敗因よ」


「勝ったぜ!」
「やったね魔理沙さん!」
表彰式で抱き合って喜ぶ魔理沙は橙。魔理沙は栄誉とと共に賞金15000コインを手に入れた。これはもう大金持ちである。
「すごいな、正直ダービーを勝てるとは思わなかったよ」
「そうね、まさかこんなドル箱だったなんて」
「へへへ、気合だぜ」
紫も藍も驚きを隠せなかった。ほんの数ヶ月前まではまさかこんな黒白がダービーを勝つとは夢にも思わなかったからだ。
紫は魔理沙の手元にあるコインを見て、あの話を切り出した。
「帰ったら早速家を直しましょうか」
「そのことなんだが…」





「妖夢…」
幽々子の問いかけにも妖夢は反応しない。すでに身も心もボロボロだった。かろうじて息をしている。
「幽々子さん、もう妖夢は飛べないかもしれません」
「慧音、あなたは良くやってくれたわ。今年の相手が強すぎたのよ」
慧音は幽々子に妖夢が再起不能であることを告げる。
「よく頑張ったわね妖夢、もうこれ以上飛ぶ必要は無いのよ。帰りましょうね」
そう言うと幽々子は泣きながら妖夢をおぶって白玉楼へと帰っていった。それを見送る慧音。
「私としたことが…妖夢の身体限界を失念していただなんてっ」
自分のせいで妖夢は再起不能になってしまった。もうあれほどの競走妖には出会えないだろう。
慧音は自分の未熟さに腹が立ち、涙を流した。
「すまない妖夢、おまえの仇は必ずや…!」








「ふぅ、今日もお茶が美味しいわ」
ダービーが終わって早3ヶ月、霊夢はいつもどおりの生活に戻っていた。
あの後博麗神社もいつのまにか修繕されていて、借金の担保に取られてしまった品々も帰ってきていた。
誰の仕業かはわからないが、とりあえず霊夢は以前の平穏を取り戻すことが出来た。
「さすがに命を賭けるのはもうゴメンだわ…」
4ヶ月間、魔理沙を競妖に誘ってからの波乱万丈ギャンブラー生活を振り返る霊夢。
まさか最後は人生まで賭けるとは思わなかったが、いままで生きてきた中で最も緊張感あふれる楽しい時間だった。
「それにしても、最近お賽銭が増えたわね。生活に困らなくなって助かってるけど」
あのレミリアとの「ライフいっこ賭ける」勝負以来『博麗神社は勝負師の神様が祀られている』ということで参拝客が絶えない。
『運命を操る吸血鬼vs強運の巫女』一世一代の大勝負がなぜか世間に知れ渡ったようで、霊夢のご利益にあやかろうとする人ばかりだ。
現在、霊夢は賽銭を競妖に全部注ぎ込むなどと言うバカなことはやめ、楽しむ程度にやっていた。
ただ、賭ける金額は楽しむ程度だが予想にはより一層気合が篭ることになる。
ダービーの後、「博麗の巫女」という名前で競妖予想を任されるようになった霊夢。
そこで『レミリアに勝った強運のギャンブラー』の名に恥じない成績を挙げ、一躍人気予想家となったのだった。
「さて、日曜日メインレースの予想をしないと」
すべてがめてたしめでたしのようにも見えたが…
「魔理沙、全然来なくなっちゃったわね…」
あの置手紙の細工に気づいてくれなかったのかもしれない。
妖夢の現役引退、フランドール短距離転向などの情報は入ってくるのだが、魔理沙に関する情報は一切無い。
自分から謝りに行こうにも魔理沙の家は数ヶ月前に吹き飛んで以来無くなっているのだ。今はどこにいるのかさえも分からない。
唯一会える可能性のある競妖場にも魔理沙は姿を見せない。どこか遠くへ行ってしまったのだろうか。
「どうせそのうちヒョッコリと現れるでしょ、さて予想予想」
ちょっとさびしい気もするが、そればかりにこだわってもいられない。
今週も霊夢は「博麗の巫女」として競走妖に印を打つ。夏も終わりに差し掛かり、秋はすぐそこまで来ていた。
「競妖は遊びじゃあ勤まらない、まさに食うか食われるかの真剣勝負なのよ!」
みなさんこんばんわ 競走妖まりさ第6話です。
今回で当初構想のダービーが終わりました。元々これ一話だけ出すつもりが、えっらい長編に…(計90k)
「競馬知らない人が多いんじゃないか」という不安の中で出した第一話。
あれの反応で調子に乗って㌧㌧と話が膨らみ、気がつけば6話構成になってしまいました。
また、多くの皆さんに読んでいただいて大変励みになりました。ありがとうございます。
後々第7話以降も作っていくかもしれませんが、このお話はここでひと区切り。
それでわまた次の作品で。

5/5追記
ちょこっと誤字修正 WEBサイトへのリンクぺたり

なんとこんなに反響があるとは思いもよらず!読んでいただいた方みなさんに感謝です。
特にどんきち様、私に影響されたですとー!?
逆にあなたの毛玉ストーリーに私は影響されますたっ(特にこの6話)
刺し身
http://www.icv.ne.jp/~yatufusa/
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コメント



0.3910簡易評価
13.100どんきち削除
素敵でした…
実は私、貴方に触発されて東方SSを書き始めました。
このSSとの出会いがなければ投稿することもなかったと思います。
ずっと気後れして50点だけ入れ続けてきました。
でも、一旦の締め括りということなので、最後くらいは、正直に100点を入れたいです。
夢を見せてくださってありがとうございました。
幻想郷最速選手権の続きも、新しいSSも、とにかく待ちわびています。
これからも、がんばってください。私もがんばります。
16.60七死削除
あーん!みょんさまが再起不能になった!
みょんさまよいしょ本&みょんさまF.Cつくろー!って思ってたのに…
くすん…牝馬薄命だ…

・゚・(ノД`)・゚・うっうっう…ひどいよお…ふえーん!!
この間「今、時代はヨーヨームだ!」の葉書きを出してまだ2週間じゃないですか!
どーして、どーして!?あれで終わり!?嘘でしょ!?
信じられないよおっあんなG彗星ごときに潰されるなんてっ!!
紅妹と差がありすぎるわっ!!もう一度出走しますよね?ね?ね?
……泣いてやるぅ・゚・(ノД`)・゚・

私はあのおそろしく単純な彼女が(たとえ半幽霊でもさ!ヘン!)大好きだったんですよっ!!
みょん様あっ!ここで終わっちゃやだああああああっ!!
刺し身様のカバッ!!え~ん・゚・(ノД`)・゚・

※スト様が死んだのガイドライン ⇒ ネット上の何処か。

冗談はさておいて最後の最後まで銭ゲバ繰り返していた霊夢もどうしたもんかとw
何はともあれ連載終了お疲れ様でした。 もし続きがあるなら是非、楽しみにさせて頂きますねw

それにしても・・・あーんみょんさまが死んだぁ(死んでません)
22.100SETH削除
壮大なスペクタクルに世界が泣いた
28.70名無しっぽい人削除
魔理沙はどこへいってしまったんだろう・・・。

ともかく、長編お疲れ様でした。
35.100名前が無い程度の能力削除
最後の大舞台で、ライバルに勝利し優勝。王道的な展開でとても楽しめました!
エーリンに続き、ヨーヨームまでが再起不能になってしまったのは流石に大ショックでしたが…
厳しい世界みたいですね、競妖とは。
第一回からずっと楽しみに読んできていたので、今回で最終回なのかなと少し残念に思ったのですが、
どうやら、まだ続きがありそうな……?? 是非また、幻想最速の世界を楽しみたいですッ!
何はともあれ、連載、お疲れ様でした。
48.80ハルカ削除
ずっと読んでました! 完結おめでとうございます。
次回作も続編も、ともに期待しています。では ノシ
51.100d削除
6話分、一気に読ませていただきました。すごく面白かったです。
出てくるキャラに余分が全然ないのが文章の組み立て方とか巧いんだなぁと思います(偉そうですいません)。競馬をあまり知らない自分でものめりこむ事ができました。
何はともあれ、一区切りお疲れ様です。もし続きがあるなら期待してますのでぜひがんばってください。
52.100他人四日削除
お疲れ様でした、毎回とても面白かったです。
次回作も楽しみにしてます!!
87.100時空や空間を翔る程度の能力削除
次は「世界」を狙いますか???
92.80名前が無い程度の能力削除
何だか泣けるよ・・・