もう、幾人をこの手で殺めただろうか。
私は罪深い人間だ。
私に殺された人間は、私に殺されたことに気が付くことはない。一生涯。
私にはそれがとても愉快だった。この世のどんな快楽よりも、楽しかった。
誰も、私を止められない。
私は、時を止められる。
誰も、私を捕められない。
私を、誰か止めてください。
初めて人を殺したのは、何時で誰を殺したのか?
「この化け物! あんたなんて産まなきゃ良かった!」
ああ、そうだった、そうだった。
「私が………化け物……?」
そう、わたしは化け物。
「なんで?」
「なんで?」
「私の子がよりにもよってこんな化け物なのよ!」「そんなこと言うの、お母さん!」
手には白銀の物体。私はそのとき初めて自分の意思で力を使った。
宣言。
千間。
「―――――――時よ、止まれ。」
また、私を口汚く罵るために開かれた口の動きが止まる。私を殴ろうとしていたその手が止まる。
止まる。留まる。停まる。
「サヨナラ。産んでくれてありがとう、お母さん。」
手を突き出す。手に持った物体が目の前の物体に刺さる。
至極、当然のこと。
「時よ、動け――――――――」
鮮血、流血。
何が起こったかも解らず、自らの血溜まりの中に崩れ落ちる母を見ながら。
――――そのときだと思う。
私は壊れた。
死体を裂いて、捌いて。
「あは」
私は笑った。
「あはははははははははははははは」
多分、だいぶ前から狂ってたんだろうと思う。
「なぁんだ。人を殺すのって、こんなに簡単なんだ。」
ためしに、もう一人殺してみようと思った。
血まみれのナイフを握ったまま外に出る。隣の家の呼び鈴を鳴らす。
「はーい、どなたですか?」
「 です。回覧版届けにきましたー。」
「あら、ありがとうね。」
がちゃり。
扉が開く。
「時よ、止まれ。」
一突き。ナイフを抜いて、我が家に帰ってから、呟く。
「時よ、動け。」
どさり、となにかが倒れる音がした。
いや、なにかなんて言うまい。となりのおばさんだったものが、倒れた。
これが2回目の殺人。
多分、百人くらいだろうか。
それくらい殺した時点で私は飽きてきた。
いわゆる、倦怠期という奴だ。マンネリとも言う。
もはや、百人目ともなるとパターン化が進んでしまい、殺していても楽しくないのだ。
「様は簡単に壊れすぎなのよね。」
そう、いくら殺しても殺されて生きてる奴がいない。それが、問題だった。
「壊れない人間、なんていないわよね………」
ふう、とため息。
一拍。
―――――世界が、変わった。
「へ?」
私は思わず間抜けな声をもらしてしまった。
「ここ、どこ?」
鬱蒼と茂る森の中に私はいた。さっきまで私はビジネスホテルの中にいたはずだった。
これはどういうことだろうか。
―――――神隠し
そんな言葉が頭をよぎった。
「神隠し、神隠しねぇ。だとしたら神様も大馬鹿よね。血に汚れた殺人鬼を隠したって何の得にもならないじゃない。」
あはは、と笑いながら辺りを見まわし、
「あれ、見られてるわね。」
その視線に気付いた。
「とりあえず出てきたら?」
「こんな夜中に人間風情が出歩くとはな、よっぽどの愚か者なのか?」
がさり、と茂みの奥から姿を現したのは明らかに私よりも年下の少女だった。
「あなたは人間じゃないの?」
一応、人間風情呼ばわりされたので質問を質問で返す。
「まぁ、関係無いけど―――――――時よ、止まれ。」
ナイフで心臓を一突き。そして引きぬく。
マンネリ化しているといいながらこの方法が一番確実なのも事実なのだ。
「時よ、動け。」
どさり、と少女が倒れる音が森に――――――――響かない。
「何を、した、人間?」
信じられないことに少女は生きていた。
「あなたこそ、なんで生きてるのよ?まぁ、死なないなら死ぬまで殺し尽くすだけだけど。」
「はっ、人間風情がこんな陳腐な手品で私を殺すだと?笑わせるな!」
「うるさいわね。本気で殺すわよ?――――――――――時よ、止まれ。」
一本、弐本、参本、四本。四方からナイフを突き立てる。
「時よ、動け。」
「………………この程度か。」
まだ、死なない。どれだけ殺せば良いんだろうか?
「しぶといなんてモノじゃないわね。」
「今度はこちらから行かせてもらう。もっとも、これが最後だろうが。」
いつのまにか、少女の目の前にさまざまな光が集まっていた。そして、その光が――――――はじけた。
やばい。あれはなにか得体が知れない。避けなきゃ。避け―――――――
「ぐっ!」
当たった。痛い。とても痛い。凄く痛い。血が出てる。私の血。久し振りの、私の赤。痛い。痛いのはイや。どうすれば良い?どうすればイイ?
―――――――殺すしかない。
自然と口が動いていた。
「私は、殺人、ドール。 時よ、止まれ。」
ナイフを投げる。ありったけを少女に向かって投擲する。はずした分は拾ってまた投げる。刺さったナイフをまた引きぬいて、投げる。手が痛い。体が痛い。でも、投げる。殺さなきゃ、殺さなきゃ行けないから――――――
「あははははははははは」
笑っていた。泣いていた。血が出ていた。痛かった。
関係ない。殺せばイイ。
そうして力の効果時間いっぱいまで投げて、力尽きた。
「これで、死んだ、わよね。」
少女からは反応がない。おそらく数百回、殺し尽くされた少女は確かに、死んで、いた。
「ところで――――」
ばたり、と地面にふしたまま、呟く。
「あの少女は、なんだったのかしら?」
少なくとも人間じゃない。人間は一回殺しただけで生きてない。
「とんだ神隠しね。まぁ、良いわ。多分ここには殺し甲斐のある奴が沢山いるんでしょうし。」
「ああ、其処の貴方。さっきの質問に答えてあげるわ。」
ふいに、幼い声がした。
「あれは妖怪。」
いつのまにか、月が、紅い。
「そして私は―――――――」
少女は言った。
「吸血鬼よ。」
THE END.
咲夜のルーツに対する一つのアプローチである以上、
(作中における)現在の二人の関係に至るまでの話があってこそ
この物語は生きてくるのではないかな、と、個人的には感じました。
テンポのいい文章は好印象でした。読みやすかったです。
このスピードのまま、弾幕戦に雪崩れ込んだら格好いいだろうなぁと
思ってしまったもので、お気に障ったらすいません。
そういう考えを持つ読者も居るのだなぁ、程度に認識して頂ければ。
個人的には「痛いのはイや」が、焦燥感出しててるトコが好きです。
シリアスを書ける人は凄いと思います。
次はぜひ、咲夜さんの弾幕を希望したいです。
ただ惜しいかな、「起承転結」でいうところの「結」の部分が無いと思います。
なので、未完成の作品ということで、本来の点数の半分をつけさせていただきました。