そこは、暗く、酷く湿った、生ぬるい空気の漂う十畳程度の狭い密室。そこに居るのはメイド服を着た五人の少女。一人は酷く錯乱し、一人は茫然自失、残りの三人はまだ辛うじて平常心を保っているものの、その表情は浮かない。その三人の仲でも最も向こう気の強い目をした少女が、口を開く。
「貴女達、まずは落ち着いて。そうね、とりあえず、自己紹介をしましょう。」
少女の発言を受けて、他の四人が顔を上げる。それを雰囲気で確認し、少女が続ける。
「まずは私から。名前はリッタ。菜園区の茶園でチーフを任されているわ。」
それに、先ほどまで取乱していた垂れ目の少女が続く。
「…私は、マイヨル。高級居住区の、備品点検と、一般居住区の、リネン交換を、しています、です。」
少女のややたどたどしい自己紹介が終わると、彼女の隣の少女が声のした方に身を乗り出す様にして話し掛けた。
「マイヨル、貴女が、いつも私達のベッドメイキングをしてくれてたのね。」
「私と、先輩達で、です。私、まだ、入ったばかりだから、下手くそで、ごめんなさぃ…」
「緊張しちゃって、かわいいっ。」
「そんな…」
「こらこら、後がつっかえているでしょう。」
「ごめんなさい、リッタ。私、カロールって言うの。門番補佐をしているわ。」
「美鈴様と一緒に?うらやましいなあ。あ、私はエレナ。腐れ縁のカタリナと一般居住区を綺麗にするのが私のお仕事だよ。」
「なによエレナ。私とじゃ不満?…はじめまして。私はカタリナ。同期のエレナと一緒に、一般居住区の清掃及び菜園区との連絡通路で出入り記録係をしています。」
「ああ、その声。菜園区に出入りするときにいつもチェックしてる子ね。よろしくね、エリナ、カタリナ。」
「うん。よろしくね。」
「よろしくお願いします。いつもお疲れ様です、リッタさん。」
「さん付けは要らないわよ。さ、これで皆、自己紹介が終わったわね。どう?少しは、落ち着いたでしょう?」
さっきとはうって変わって和やかな雰囲気になった部屋の様子に、そこに居た皆が、リッタのリーダーシップの高さ感嘆する。
「リッタさ…リッタって、なんだか凄いですね。頼れるお姉さまって感じです。」
「なによそれ。そんなの柄じゃないし、嫌よ。」
「じゃあ、私、リッタのこと、チーフって呼んじゃお!」
「私も…呼んでいい、ですか?チーフって…」
「貴女達、管轄が違うでしょう。全くもう。変に気を使わないでちょうだい。」
「呼んじゃ、だめなの?…そうなの…」
「…好きにしてちょうだい。」
「チーフ…よろしく、お願いします。」
「ええ、よろしくね。マイヨル。 …それじゃあ皆、ここへ来た経緯を、聞かせてくれない?」
「なるほど。皆の話を聞いてみて、とりあえず置かれている状況は把握できたわ。」
話を整理するとこうだ。
最初はカロール。早朝に襲撃をかけたきた雑多妖怪を美鈴率いる門番部隊が退けた後、朝食の時間になり、その前に軽くシャワーを浴びようと、シャワー室の脱衣所に入ったがそこは脱衣所ではなく、真っ暗なこの部屋の中で、出ようにも出口が無く閉じ込められてしまったということである。
二人目はカタリナ。朝一番、一般居住区~菜園区の連絡通路に立ち、菜園区に勤めにいくメイド達(その中にはリッタも居た。)が全員連絡通路を通ったのをチェックした後、朝食を一緒に食べに行こうと、エレナを起こしに向かったのだが、エレナの部屋の扉を開けると同時に、落とし穴に落ちたような浮遊感が襲い、直後、暗闇の中で尻餅をついた。その時に直前にこの部屋に来ていたカロールに話し掛けられたが、真っ暗で何も見えず、聞いたことがない(彼女の持ち場は門番部隊とは接点が無いため)女性の声だったため、部屋の隅に縮こまって震えることしかできなかったのだという。
三人目はマイヨル。他のメイド達の朝食中に、自分に割り当てられた部屋のリネン交換を済ませ、遅めの朝食を摂った後、高級居住区(紅魔館の主であるレミリア等、高い権限を持つ一部の紅魔館住民達のための特別な居住区。)の備品点検に向かったのだが、備品切れ報告のあった暗幕通路に入った途端に自分の持って来ていた魔力を糧に灯りを保つ魔燭灯の魔力が切れて灯りを失ってしまった。彼女が持ってきた魔燭灯は、最近導入された、内臓魔力が尽きても、持っている者の魔力を少しずつ吸収しながら灯りを保てる充魔機構がついている新式ではあったが、そこは入ったばかりで初々しく、ズルをすることを覚えていない彼女。なにより備品点検係である自分が、一番身近な備品の不備に気づかなかった事を知られれば、大目玉は避けられないとの強迫観念に追い立てられ、別のを取りに戻ることも出来ず、真っ暗闇の暗幕通路の備品保管庫を、灯り一つ持たず手探りで探していた。それが報われ、備品保管庫の扉のノブを探り当てることができた。安堵しつつそこを開け、確か、交換用の魔力フルードはこの辺にあったはずだ、と手を伸ばしたが、そこには魔力フルードは愚か、あるはずの棚も無く、前傾姿勢のまま前に倒れようとする体の勢いに耐えることができずに、前につんのめりながら五、六歩よろけながら走った先で、カロールに衝突したのだ。そしてそこはもう、出口の無い密室だった。
四人目はエレナ。起きてみて、まず不自然であることに気がついた。今、自分は誰からも起こされず自分で起きたということにだ。なんとも情けない話だが、彼女のパートナーであるカタリナがしっかり者なため、そうなってしまったのかもしれない。そう、本来ならば、カタリナが起こしてくれるはずなのだ。はて、風邪でも引いたか、様子を見に行くか、と部屋を出ようとして、ドアノブに手をかけた。あとはカタリナと同じく密室に落下する。したたかに打った背中をさすりながら、いたた、と呟いた直後、咽び泣くマイヨルの嗚咽に混じって、カタリナの声がするのに気づいた。『エレナ?エレナなの?』と。自分がエレナであることを主張すると、カタリナが一回なにかに躓いて転び、三回壁ぶつかって、更に誰かと一度ぶつかった後、抱きついてきた。話を聞かされ、自分の置かれている状況に戦慄しながらも尚、そのムードメーカー的性格から、決して希望を失わず、カタリナを励まし続けていた。
最後はリッタ。茶園で収穫された茶葉を選定し、クラス分けして、全体から見ればわずかな量の最上級の茶葉をメイド長に納品した。手塩にかけて育てたダージリンの中でも特に選ばれた茶葉。それも新茶だ。とは言ってもそれは平メイド達の口には当然入る筈もなく(勿論、この茶園の管理者に据えられている彼女であってもだ。)、高級居住区に住むことを許される程度の権限を持つ紅魔館住民だけに限定して愛好される。だが彼女は満足であった。我が子の様に真心を惜しまず育てた茶葉が、敬愛するレミリア様達に愛してもらえるのだから。午前中の仕事を終えた彼女は、収穫の際、一時的に撤去していた散水機を再び元の場所に据えるため、用具倉庫に向かった。そこで、古びた散水機を取り、水を入れ、さあ設置しに行こうかと用具倉庫を出た瞬間、目の前に広がっているはずの茶園の景色は無く、暗闇の只中に居た。前後不覚に陥りながらも耳を欹てれば、聞こえてくるのは、啜り泣き、咽び泣き、内容は聞き取れないがぶつぶつと呟く声。そのどれもが女性の物であるといことを確認し、これはただ事ではないと瞬時に察した彼女は、状況を把握し整理するためにも、全員に、自己紹介を持ちかけ、情報収集を行った。
最初のカロールがここに来てから、もう五、六時間程経つ筈だが、その間彼女は何もしていなかったわけではない。他のものは震えていたり、すすり泣いたりするばかりで行動を起こさなかったが、門番補佐として毎日の様に凶暴な妖怪と対峙している彼女は、この状況におかれても、押し潰されそうな心を気丈に保ち、壁を破れないものかと、いろいろと試みてみたが、結局実を結ぶことは無かった。カロールはこの中で、こと戦闘能力においては突出している。そのカロールにして、ダメだったのだ。結論として、脱出は不可能。外部からの救出を待つ、という形で意見が一致した。
「それじゃ、とりあえず使えそうな持ち物が無いか、確認をしましょう。カロール。」
「ごめんなさい、チーフ。私は、何も持ってきていなくて…」
「しかたないわよ。じゃあ、カタリナは?」
「私も、なにも…。護身用のナイフぐらいです。」
「何かの役に立つかもしれないわ、大事に持っていてね。マイヨルは?」
「新式の、魔燭灯、持ってます。」
「そうだったわね。あとは火があればいいんだけど…」
「ごめんなさぃ、私が、ちゃんと、魔力の残量、チェックしてから、持ってきてれば…」
「大丈夫よ、マイヨル。」
「あ、私、マッチ持ってるよ。」
「そのマッチが使えれば、灯りが取れるわ。やったわね、エレナ。マッチは何本あるの?」
「ええと…五本しかないみたい。」
「そう、大事に使わないといけないわね。」
「チーフ、灯りが、欲しい、です。」
「そうね、まずは魔燭灯を点けましょう。」
「マイヨルはどこにいるの?」
「エレナ、どこ、ですか?」
「マイヨル、そのまましっかり、魔燭灯を持っていてね。エレナ。壁沿いに私の声のする方へ。」
「はい、わかりました、です、チーフ。」
「今、私の前にいるのがチーフ?」
「そうよ、エレナ。じゃあ、マッチを貸してくれない?」
「うん。横が、擦るところだから。」
「ありがとう。マイヨル、魔燭灯の動力設定、外部補給に切り替えてちょうだい。」
「はい。…ばっちり、です。」
「それじゃあ、手にもった魔燭灯を、真っ直ぐに差し出して。」
「こう、ですか?」
「そのまま、じっとしていてね。すぐだから。」
受け取ったマッチの箱から丁寧に一本を取り出し、擦る。一度、二度、三度、四度目の試みで、マッチの先端に火が点いた。火を、マイヨルの持つ魔燭灯へと近づけていく。かくして無事、魔燭灯に火を点けることに成功し、魔燭灯が部屋を明るく照らす。
「わあ」
「明る…!」
希望を映し出すと思われた魔燭灯の光。しかし、部屋に広がる光景はあまりにも凄惨だった。
「なに…これ…」
「怖い、です…」
床に転がる、五つの白骨。その全てが、色褪せてぼろぼろになったメイド服を着ている。
「つまり、これは…」
「私達の前にも、迷い込んだ人がいたんだ…そして、脱出は叶わなかった…」
「いやだ…」
「貴女達、落ち着いて。」
せっかく取れ始めていた統制の乱れを危惧し、少女が皆を諭すように言う。
「確かに、この人達の死は事実だわ。だけれど、私達は違う。絶対に生き延びてみせる。そうでしょう?こうやってそれぞれが有用な道具を持ち寄っているし、命を繋ぐための水もある。」
そう言ってリッタは、自分の足元にあった散水機を指差す。
「これは、私が茶園で使っている散水機。中の水は新鮮だし、満タンの一斗(約18L)タンクが三個入っているから、量も十分。しばらくは持つわ。」
続けて、部屋を見回す。
「それに、小汚いけれど、一応、おトイレもあるわ。」
部屋の隅には薄汚れた便器が一基。生憎と汲み取り式だ。仕切りとなるものも、黄色く変色した薄布一枚が垂れ下がっているのみ。随分と都合の悪いトイレではあるが、そこに居た少女達の表情にやや安堵の色が浮かぶ。やはり、どんな状況下にあっても、女としてのプライドは捨てきれないらしい。
「私達は生きてここを出るの。絶対に諦めてはいけない。みんな、希望をもちましょう。」
「チーフ…」
「マイヨル、絶対、助かるわ。約束する。」
見詰め合う二人の少女。そこに、気まずそうな声がかかる。
「あの、チーフ、ちょっといい?」
「なに?カロール。」
「その、私、おトイレ…」
「あ、私もいいですか…?」
「私も起きて一度も行ってなかったから、我慢の限界だったんだ。」
「私も…いきたい、です。」
「ああ、どうぞどうぞ。話の続きは、身軽になってからね。」
少女たちは部屋の真ん中で輪を作り、幾分和んだ空気の中で談笑していた。この絶望的な状況の中でありながらも、リッタというリーダーを得て、そこから生まれた連帯感からか、少女たちの心はやや高揚していた。絶対に諦めない、諦めてなるものか。そんな空気が、この部屋を満たしていた。
「本当、驚いたんだから。この子ったら、突然体当たりしてきて、そのまま崩れ落ちて泣き喚くんだから。」
「だって…怖かった、です。」
「もう、かわいいっ」
「そんな…」
「でも、マイヨルって本当、小さくって、可愛らしくて、綺麗なブロンドも相まって、お人形さんみたい。」
「カロールの、ロングストレートの、ブロンドも、とっても、綺麗、です。」
「うふ、ありがとう。でも、門番補佐なんて仕事してると、筋肉ついちゃって。」
「結構じゃない。体力が無いと勤まらない仕事でしょう?」
「そりゃあそうですけど、チーフは、乙女心がわかってないですね。」
「でもさー。紅魔館には、女しかいないもんねー。」
「まあねえ。」
「その点、チーフは、周りのメイドさん達から人気ありそうだよね。」
「それはどういう意味かしら、エレナ。」
「だって、気の強そうな赤毛のショートヘアに、きりっとした目つき。責任感も強くて、かっこいいんだもん。」
「喜んでいいのかしら…」
「エレナのプラチナブロンドもいいわね。咲夜さんみたいで。」
「わ、うれしいな!ありがと、カロール。それが、私の自慢なんだ。あとさ、あとさ、カタリナの髪も、綺麗だよね。」
「え…、そう?」
「ええ、とっても、綺麗。」
「やだチーフ。恥ずかしいですよ…」
「照れなくてもいいじゃん。友人の贔屓目なしに綺麗だもん。世界が嫉妬する髪、ってやつだね!」
「黒くて、綺麗なロングストレートで、憧れます、です。」
「そうねえ。艶やかで、鴉の濡れ羽色ってやつかしら?いいわねえ。」
「あ、ありがとうございます…」
「そろそろ、皆、寝なさい。体力は温存しないとね。」
「うん。起きててもお腹がすくよー。」
「マイヨル。魔燭灯を貸してちょうだい。」
「はい、です。」
「幸い、これは充魔機構が付いている新式だから、交替で寝ずの番をすればいいわ。」
皆の視線がリッタの持つ一本の魔燭灯に注がれる。
紅魔館では主にこの魔燭灯を用い灯りをとる。
着火の際には火がいるが、一度火がつけば、内蔵された魔力を燃料に、それが尽きるまで燃え続ける便利な代物だ。これには充魔機構が付いているので、内臓魔力が切れても、魔力を持つ者が持っていれば、灯りを保つことができる。
「でも、いいねー。マイヨルには、新式の魔燭灯が支給されてるなんて。」
「…だって、私の担当には、あの、暗幕通路も、含まれてる、ですから。しかも、日勤だから、真っ暗、です。」
暗幕通路とは、紅魔館高級居住区にあるレミリアの部屋周辺の廊下のことである。彼女は陽の光を嫌うため、日中は窓という窓に暗幕がかけられ、一切の光が無い。故に、暗幕通路と呼ばれている。
「とにかく、まずは私が番をするわ。皆、ゆっくり寝て、体を休めてちょうだい。」
「でも、チーフ、私は体力には自信があるから、私が番をしますよ。」
「いいの?」
「チーフこそ、私達のために色々気を使ってくれて、疲れたでしょうから、ゆっくり休んでください。」
「ありがとう、カロール。お言葉に甘えさせてもらうわ。」
「ええ。おやすみなさい。チーフ。みんな。」
「おやすみなさい。カロール。」
「おやすいなさい、です。」
「おやすみー。ね、カタリナ、手、繋いで寝よー。」
「もう、エレナったら。…おやすみなさい、カロール。」
そして一人一人、眠りの中へ落ちていく中、少女はただ一人、揺らめく炎を見つめ続けていた。
「ううん…あれ、真っ暗、です!」
「…どうしたのよ、マイヨル…あ、火が消えてる!?」
「わ、暗いよ、カタリナ、暗いよ。」
「…うーん、エレナ…?真っ暗、なんで?カロール?」
返事は、無い。
「カロール、寝ちゃった、ですか?」
「しかたないわね、マッチもまだ、後四本あるから…」
「しっかりしてくれないと、困るよカロール。」
「とりあえず、魔燭灯はどこかしら…?」
少女達は手探りで魔燭灯を探す。
「あ、ありました、です。」
「よかった。貸してちょうだい。もう一度火を点けるわ。」
マッチを擦る音がしばらく部屋に響く。一度擦るたびに、少女達の心が焦燥に煽られる。ややあって、無事、魔燭灯に再び灯りが点された。
「ふう。カロール。疲れていたのはわかるけど、引き受けた以上はしっかりしてもらわないと、困るわ・・よ・・・?」
「…カロール?」
「ひ…あ、あ、カロールが、カロールが…」
目の前で起こっていることが、理解できないと言う顔で、少女達は呆然とする。
「カロール…、そんな…」
「…死んでいるわ。」
「なんで、そんなの、やだ…、カロール、起きて…」
少女は、少女だったものは、既に冷たくなって床に倒れていた。胸には、鋭利な刃物で刺されたような、刺し傷。そして、床に広がる血溜り。既に事切れているのは、誰の目からも明らかだった。
「カロール、どうして…」
「! これは…」
「…チーフ、どう、しましたか?」
少女の視線の先にあるのは、カロールの骸の横に落ちていた、血糊の着いたナイフ。
「カタリナ…、これ、貴女のナイフよね?」
「え!…ち、違います。私、そんなこと、しません!」
「でも、なんで…」
「チーフ、信じてください!」
「カタリナは、そんなことしないよ!それに、私とカタリナはずっと、手を繋いで寝ていたんだから。」
「エレナ…ありがとう…」
「…わかったわ。でも、誰が…」
「私、私、違う、です。う、うう…」
「わかっているわ、マイヨル。貴女にそんなことができるわけないわよね。」
「私も、してないよ。カタリナと、ずっと…」
「ええ、わかっているわ。」
「カロール…。とりあえず、この件は保留にしましょう。わからないことを、咎め合っても仕方ないわ。ただし…そのナイフは、私が預かるわ。」
「はい…」
「チーフ、随分経ったね。お外は今何時頃かなぁ。お腹空きっぱなしで、腹時計は役に立たないや。」
「救出、来ません、ね。」
「待ちましょう。きっと助けは来るわ。それを信じて。」
「私も、お腹、空きました…」
「それは皆もよ。それに、貴女と私はまだ昨日の朝食までは摂ったから、まだいいわ。エレナとカタリナは、昨日の朝から水しか飲んでいないのだから。」
「エレナ、カタリナ、ごめんなさぃ…」
「えっ、いいよいいよ。あなたが気にすることじゃないったら。ね、カタリナ。」
「ええ。そうよ、マイヨル。私達は、全然大丈夫だから、ね。」
「よかった、です。」
「ねえ、チーフ。」
「何?」
「ええとさ、チーフの作ってるお茶って、美味しいの?」
「…ええ。美味しいわよ、とても。自信を持って、お勧めできるわ。最も、一番美味しいのは、レミリア様達だけが飲めるのだけどね。」
「そうなんだ。じゃあさ、ここを出れたら、こっそり、それを飲ませてよ。」
「それは、無理よ。」
「ケチー。チーフのケチー。一杯分ぐらい、いいじゃないのー。」
「エ、エレナ…チーフが困っているじゃない。」
「うふふ、仕方ないわね。一番良いお茶は無理だけど、そこそこに良いのを、皆にご馳走するわ。」
「チーフ、ありがと!楽しみにしてるからねっ。」
「ええ、そのためにも、絶対にこんな所で死ぬわけにはいかないわ。」
「カロール、お茶、飲めなくて、かわいそう、です…」
「…大丈夫よ、マイヨル。ここを出れたら、レミリア様に許可をとって、カロールの墓前に、最高の一杯を手向けるわ。そして、その傍で、私達も一緒に紅茶を楽しみましょう。カロールと一緒に…」
「…うん!」
「皆、眠たくないと思うけれど、体力を温存するためにも、そろそろ眠りなさい。灯の番は私がするわ。」
「うん。起きてても、やっぱりお腹が空いちゃうもんね。私、昨日の夢の中で、後もう少しでケーキを食べれるところだったんだ。続きを見なきゃ。」
「それは残念だったわね。それは、なんのケーキなの?」
「ガトーショコラだよ。私、チョコとケーキが、大好きなんだ。」
「私も、です。」
「そう。それじゃあ、紅茶のお茶請けは、それにしましょうね。」
「チーフ、大好き!一生付いていくから!」
「ありがとう。なら、茶園に転属願いを出してみる?」
「それはいいや。私、カタリナと一緒がいいもん。」
「そう、良かったわね。カタリナ。」
「もう、エレナったら…。」
「なによー。うれしいくせにー。」
「お友達、うらやましい、です。」
「マイヨル、私達ももう、お友達だよ。」
「えっ…」
「そうよ、マイヨル。」
「ここを出たあとも、勤め場所は違うけど、仲良くしましょうね。」
「エレナ…チーフ…カタリナ…、ありがとぅ…うう…」
「ね、マイヨル、三人で、手を繋いで寝ましょう。」
「そうね。マイヨルの手、とってもやわらかそうね。」
「いえっ、今日は、私が、魔燭灯の、番をしますっ。」
「でも、マイヨル…」
「いいの、ですっ。私に、させてください。悪い人が、来ないように、見張ります。…お友達を、守ります、です!」
「わかったわ。マイヨル。…ありがとう。」
「見直したよ、マイヨル。やっぱり持つべきものはお友達だね!」
「えへへ。」
「ここへ来て初めて、貴女の笑顔が見れた気がするわ。とっても、可愛いわよ、マイヨル。」
「恥ずかしい、です。」
「照れなくてもいいじゃないのよ、ね、もう一回、笑って見せて?」
「こう…ですか?」
「かっわいいー!もー!頬擦りしちゃえ!」
「苦しぃ、です。」
「うふふ。それじゃあ、これをお願いね。マイヨル。」
「はい。確かに、お願いされました、です。がんばります!」
「それじゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみ、マイヨル。」
「おやすみなさい、マイヨル。」
「おやすみなさい、です。」
「カタリナ、チーフ、はい。」
「手?」
「どうしたの?」
「何言ってるのよー。三人で手を繋いで寝るの。」
「また?しかたないわねぇ。」
「わかったわ。そうしましょう。」
「うらやましい、です!でも、我慢します!」
「うふふ。がんばってね、マイヨル。」
「がんばります!」
初めは、空腹と不安からか、なかなか寝付けないでいた少女達だったが、やがて、少し乱れてしまった川の字を書いたまま、静かな寝息を立て始めた。
「…あれ…チーフ、暗いよ、また、暗いよ!」
「ううん、…え!? マイヨル!?」
「エレナ、どうした…、あ、また、魔燭灯が…、マイヨル、マイヨル!?」
「待って、すぐ、火を点けるから!」
少女が、自分のすぐ横に転がっていた魔燭灯を探り当て、マッチを擦る。今度は、あっさりと火が点いた。
「…そんな…マイヨル…」
「マイヨルまで…」
「うそ…」
そこには少女が静かに横たわっていた。大きく裂かれた喉元から、大量の血をほとばしらせて。
「…折角、お友達になれたばっかりだったのに…、こんなのって、ないよ…」
「あの子が見せてくれた最初の笑顔が、最後の笑顔になってしまうなんて…」
「マイヨル…いい子だったのに…」
「また、あのナイフ…」
少女が疲れた目で見つめる先にあるのは、やはり血糊を滴らせたナイフ。
「私が、持っていた筈なのに…」
「私のナイフが、また…」
「マイヨル…うう…」
ムードメーカー的存在であった少女が涙を流したのをきっかけに、他の二人の少女も、堰を切ったように涙を流し始める。しばし、部屋には少女達の悲しげな嗚咽だけが響いていた。
「うっ、ううっ、あの子と一緒に、紅茶を飲みたかった…、お腹一杯、ご飯を食べさせてあげたかった…。」
「ひっく…チーフ、私、気づいたことがあるの。」
「…なに?エレナ…」
「あのね、ガイコツが、減ってるの…」
「…!」
「確かに…最初は、五人分あったはずなのに…、二人分、減っているわね…」
「いえ…チーフ、減ったというより、これは、まるで…」
「よく見たら、カロールと、マイヨルの、…死体の位置と格好、減ったガイコツと、同じだね…」
「どういうこと…?」
「もしかしたら…ガイコツと同じ運命を辿ったんじゃないかなって…」
「エレナ!」
「あ、…ごめんなさい、チーフ。私、どうかしてたよ…。」
「エレナ、カタリナ、確かにこの部屋はおかしいわ。なにもかも、常軌を逸している。だけどね、私達は、諦めてはいけない。カロールが、いつも身を粉にして外敵から私達を守ってくれていた。マイヨルが、勇気を振り絞って私達のためにその命を散らしてしまった。私達は生きなければいけない。いえ、生きる義務がある。二人の気持ちを無駄にしてはいけない、それを、心底胆に命じなければいけない…!」
「カロール、マイヨル…私達のために…こんなのって…あんまりだよ…」
「…ごめんなさい…ごめんなさい…!」
「…二人とも、もう涙は止めなさい。そして、横になるの。無駄なエネルギーを消費しては駄目。」
「…うん。」
「わかったわ、チーフ…。」
「この先、灯の番はずっと私がするから。二人はずっと、横になっていて。おトイレと、お水を飲むとき以外は、動いてはだめよ。」
「うん、わかった。」
「はい、ごめんなさい、チーフ…」
「絶対に、生きて戻るのよ…、絶対に…。諦めて、なるものですか…!」
二人の少女は、川の字を書く。真ん中に、自分達を守って命を落とした、健気な少女を挟んで。やがて二人は、空腹と泣きつかれから、気絶するように夢の中へと落ちていった。生きている時に繋ぐことの出来なかった、少女の手の柔らかさに、涙しながら。
「…う!?チーフ!?」
「ん…、灯が、…チーフ!」
「魔燭灯はどこ!?」
「マッチはここにあったよ!」
「魔燭灯もあったわ、貸して!」
「う、うん!」
受け取ったマッチを、急いで取り出す。その際に焦りすぎて箱が破れ、残っていた二本のマッチを取り落としてしまったが、その内一本をすぐに探り当て、魔燭灯に火を点す。
「う…あ…」
「チーフ…、そんな…なんで、なんでだよ…」
どんなに信じても、どんなに願っても、踏みにじられる想いはある。彼女の結末は、最悪のシナリオに忠実に、白骨のあった場所で、胸を一突きにされ、訪れた。
「また、この、ナイフ…」
「エレナ…違うの…信じて…許して…」
「…カタリナ、私は絶対に、カタリナのこと、信じてるから。」
「エレナ…!」
「カタリナ…」
「どこにも、行かないで。私を置いて、行かないで…!」
「どこにも、行かないよ。私とずっと、一緒だよ…!」
「約束よ、エレナ…」
「絶対だよ、カタリナ…」
「ねぇ、カタリナ。」
「なに?エレナ。」
「私、絶対に、カタリナを守ってみせるから。」
「私も、絶対に、貴女だけは死なせない。そして二人で、生きてここを出るの!」
「うん!そしたら、私、真っ先に美味しいお茶の淹れ方を覚えるんだ。そして、カタリナと…、カロールと、マイヨルと、チーフも一緒に、五人で、お茶を飲むんだ!」
「ええ、絶対に…、絶対に!」
「寝よう、カタリナ。起きてたら、どうしても、涙が出ちゃうよ…」
「そうね…、私が灯の番をするから、ゆっくり、休んで…。」
「ううん。カタリナも、一緒にだよ。」
「でも、魔燭灯が…」
「こうすれば、いいよ。」
「あ…」
「ね。そっちの手には、ナイフの柄を持って。悪い奴に、使われないように、二人でしっかり持っておこう。」
「…うん。」
「ちょっと寝辛い体勢だけど…、カタリナとなら、よく眠れそうだよ。」
「うん、私も。エレナ、絶対に、離さないでね…。」
「カタリナもね。じゃあ、おやすみ、カタリナ。」
「おやすみ、エレナ…。」
向き合って両手を繋ぎ、横になった二人の少女。力強く繋がれた手の片方には魔燭灯が握られ、もう片方には、ナイフが握られている。その顔はとても安らかで、程無く、二人は眠りに落ちた。
「…エレナ…?」
繋いでいた筈の両手は、いつのまにか解かれていた。握れていた魔燭灯も既に手の中には無く、部屋はまたしても暗黒に包まれている。そして、ナイフも。
「エレナ!エレナあっ!」
やはり返事は、無い。
「お願い!返事をして、エレナ!」
叫びながら、床を転がるようにして最後のマッチと魔燭灯を探り当て、マッチを擦る。急ぐあまり、マッチが中ほどで二つ折りになってしまったが、短くなったマッチを握り直し、なお擦る。少し時間がかかったが、少女の目に溢れた涙が頬を伝う頃、漸く魔燭灯に灯が点った。
開けた視界が捉えたのは、最も、恐れていた光景。
「あ…うあ…エレナ…」
光に包まれた世界で少女を出迎えたのは、四つの、骸。
「いやああああああああああああああああ!」
少女は目の前の現実に耐え切れず喉が張り裂けんばかりの叫び声をあげる。四つ目の骸、それは少女の無二の親友の物に他ならない。他の骸達と同じように、白骨死体のあった場所で、同じカタチで、冷たくなっていた。茫然自失に陥り、ただ、俯いて、壊れた蓄音機の様に同じ台詞を繰り返す。
「エレナ…違うの…許して…違うの…許して…違うの…」
「…!」
少女がはっと顔を上げる。その目線の先には、最後の白骨。少女以外は皆、この白骨達と寸分違わぬ運命を辿った。
「そんな…まさか…」
少女はゆっくりと、できるだけ音を立てぬよう、できるだけ周りを見ぬよう、白骨に近づく。白骨はただ静かにその骸を横たえたまま。おもむろに、うつ伏せていた白骨を、つま先で表返す。
「ひぃっ!」
その白骨の胸には、ナイフが、深々と突き刺さっていた。そのナイフの柄には白骨の両手が添えられている。まるで、刺されたナイフを、抜こうとしてるうちに、果てたかのように。もしくは、自害を図ったかのように。そしてそのナイフには、見覚えがあった。
思わず飛び退いた少女の手から、魔燭灯が零れ落ちる。
「あっ…」
急いで手を伸ばしたが、時すでに遅し。地面に叩きつけられた魔燭灯は、無残に床に散らばった。そのショックで、僅かに中に残されていた魔力がショートしたのか、魔燭灯の残骸がぽつっぽつっという明滅を繰り返す。
「いやあ…」
なんで、なんでこんな目に…
私が何をしたというの、なにもしてない。
皆が死んだのは何で?私も死ぬの?殺されるの?いやだ…
不規則な明滅を繰り返す魔燭灯の灯りのみが、部屋に光を与えている。
彼女は凝視した。あまりにも頼りないその光、それは彼女にとって、最後の希望だった。
だが、それがいけなかった。見てしまった。
なに…あれ…
明滅する光の中、最初はただ、同じ光景が繰り返し、瞼に焼きつくだけだった。
その光景を壊したのは、影。
明滅する部屋の中を歩き回る人影。明滅の度に、あちらこちらに、浮かび上がる。
人影が動きを止める。明滅の世界が、再び静止したかのように思えたのも束の間。
人影が、少女の方に、向き直った。
見ないで…来ないで…
だが少女の目も釘付けになっていた。見覚えのある、その顔に、体格に、漆黒の髪に。
そして、手に握られた、ナイフに。
人影が、ゆっくりと、少女に近づいてくる。
部屋の明滅と共に、コマ送りの様に、ゆっくりと、ゆっくりと。
少女は迫り来る恐怖に堪え切れず、目を固く閉じた。
そうだ、寝てしまえばいい。私はずっと寝ていて、死ななかったんだ。
寝てしまえばいい。目を閉じて、一切を見なければ、きっとやり過ごせる…
少女はただ、祈るように、耐え続けた。
どれくらいたっただろうか。
瞼に差し込む光の間隔が少しずつ伸びていく。少女は、魔燭灯の魔力が完全に無くなろうとしていることを悟った。
はやく…完全な暗闇に… もうなにも、見なくて済むように…
少女は切なる願いを込め、祈り続けた。
やがて、明滅が止まり、少女は完全に光を失った。
助かったのか、もう、何も見ずに済むのか。
絶望を映す壁も、友の亡骸も、ナイフを持った、見覚えのある、影も。
完全な暗闇の中、少女は恐る恐る、目を開く。
もう、何も無い。何も見えない。助かった…助かっ
魔燭灯の残骸が、これが最後とばかりに、もう一度だけ、明滅した。
眼が 合った
場所は紅魔館高級居住区のテラス。二人の少女が談笑している様子が伺える。その輪に更にもう一人の少女が加わる。
「お嬢様、パチュリー様、紅茶が入りました。」
「流石、仕事が早いわね。今頼んだばかりなのに。淹れ置きじゃなく、今淹れたばかりの香り立つダージリン・スカーレット、しかも新茶ね。美味しく淹れるのが最も難しいファーストフラッシュをこれだけ完璧に淹れることができるのは、ここのメイドでも貴女だけよ。全く瀟洒ね。満点よ、咲夜。」
「褒め過ぎですわ、パチュリー様。仮にも紅魔館のメイド長を務める以上、このくらいは当然です。それに、そんなにお褒めになられては、今の採点箇所に見落としがあった等とは、とても言えなくなるじゃないですか。」
「しれっと言ってるじゃない。」
「確かにね。パチェ、それじゃあ確かに90点だわ。この紅茶、ローズマリーも入っているわね。」
「大正解ですわ、お嬢様。ローズマリーの花言葉は記憶。日がな一日頭脳労働に励まれている、パチュリー様の助けになれば、と思いまして。さて、パチュリー様。今度は、何点でしょうか?」
「言葉も無いわ。猫度学の権威を保つためにも猫度採点の基準を上げないといけないわね。」
「メイド達が悲鳴を上げてしまいますわ。」
「そもそも他のメイド達には時を操るなんてズルはできないもの。貴女専用の特別基準よ。」
「ズルとは手厳しいですわ。これでもまだまだ未完成なのですから。」
「そうね。咲夜、貴女の時間制御の能力は強力すぎる異能。早く完全に扱えるようになりなさい。」
「お言葉ですがお嬢様、現在の能力を制御することは容易にできるのですよ。問題なのは新しい可能性の模索です。」
「わかっているわ。例のアレでしょう。」
「そのアレですわ。」
「私にも説明が欲しいわ。」
「今私が研究している、時間と空間を操る能力を最大限拡張した力場を操る能力の事ですよ、パチュリー様。例えば、その力場の中で、私がパイを焼き始めたとしますね。そうしたら、同時にその結果が力場の中に再現されるのです。つまり、結果としてパイが美味しく焼きあがるのなら、美味しいパイプレートがテーブルに出現して、万が一失敗してしまうのなら、美味しくないパイがゴミ箱に出現するわけです。もちろん、それは力場の中のみで存在を許されたシミュレート結果ですので、そのパイを食べても、現実にパイが完成する前に力場を閉じればそれは無かったことになります。ですが、現実がシミュレート結果に追いつけば、それは確かな現実となるわけです。これを使いこなせれば、様々な場所で有意義な使い道が生まれます。人事での採用不採用は、有能か無能かを、働かせた結果をその場で見極めてから決めれますし。お料理を作る際にも、何を作ればお嬢様に喜んでいただけるかを事前に知ることができます。」
「なるほど。本来無秩序であるはずの四次元空間を制御する試みなわけね。魔法でもそんなものは前代未聞だわ。でも、その程度の使い方じゃ持て余さないかしら?っていうか何一つ自分のために使ってないじゃない。その能力があれば、レミィの運命操作にも抗えるわよ。」
「私は多くを望みませんから。」
「ねえレミィ、私にも咲夜一人ちょうだい。」
「パチェ、いくら貴女でも、それは無理な相談よ。咲夜は全部私のだから。」
「っていうか私は増えたり減ったりしませんから。」
「そう?増える分には問題ないのに。」
「ごめんこうむりますわ。」
「パチェ。減る分には問題ないのに、増える分には大問題。これなーんだ。」
「体重ね。」
「大正解。」
「理解を示していただけて光栄ですわ。今晩のお食事から、お嬢様とパチュリー様に辛苦を共にしていただけるなんて、感激ですわ。」
「話題を振ったのはレミィよ。」
「結論を出したのはパチェよ。」
「三人四脚でがんばりましょう。」
二人の少女の必死の抗議に耳を貸さず、メイド服の少女はティーセットの片付けにかかる。
「今夜が楽しみですわ、お嬢様。それでは、パチュリー様も、ごゆっくり。」
「…待ちなさい、咲夜。」
部屋を出て行こうとした少女の後姿に、静止の声が飛ぶ。駄々をこねるような声ではなく、凛とした威圧感のある声。振り返った少女の顔からも、茶化すような笑みは消えている。
「まだ話は終わっていないわよ。」
「…」
「貴女にしては、詰めが甘いわね。」
「…B型よりも、O型の方が宜しかったでしょうか?」
「惚けないで。…そんな大それた研究、一体どこでしているの?」
「心配は要りません。空間を隔てた密室にて行っています。」
「そう?数日前から、紅魔館のあちらこちらに、空間の裂け目が生じているようだけれど。」
「…わかりましたわ。研究は一次中断して、空間を配置しなおします。被害が出る前に。」
「そうしてちょうだい。これ以上、被害が出る前に。」
「手厳しいですわ。」
少女は再び踵を返し歩き出す。その足取りは先程より、幾分重かった。
おなかいっぱいです。
こんだけ魅力を感じるオリキャラは、以前創想話で見たマリアリの話に出てきたクレア以来です。
結末を明かしてないというのが、凄く悔しく、凄くうれしいのですが、
私は彼女達の結末に希望をもってもいいのですよね?
今後もがんばって創想してください。
この私が久しぶりに夢中になりました。
続編にも期待してます。
ただ、会話間の描写がもっと欲しかったように思います。
ちょっとした気持ちの変化等や、もっと文章を区切っての
「間」などを使ったら面白くなるんじゃないかなぁ、と。
続編、頑張って書いて下さい。
特にマイヨルが死んだところでは、激しくこみ上げるものがあった。
それだけに、最後の結末の適当さが悔やまれてしかたない。
これでは死んだ彼女達も浮かばれないでしょう。あくまで個人的感想ですが。
今回はフリー。加筆修正後に改めて点数を入れさせていただきますね。