Coolier - 新生・東方創想話

白玉楼の記憶

2005/04/29 10:09:45
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「幽々子様!幽々子様~!どこにいるのですか?そろそろ剣の稽古の時間ですよ!」
妖夢は幽々子を探しに白玉楼を探し回っていた。



「ふう…これだけ捜しても見つからないなんて…いったいどこにいったんだろう?」
妖夢は改めて考え直した。
(いままでの予想からして…)
「よし、多分あそこにいるはず!」
妖夢は思いついた所に向かった。



「やっぱりあそこにいた…」
幽々子は西行妖の所に佇んでいた。
「ゆゆ…!」


「……………」


(幽々子様が涙を…)


「……………」
「多分、私が足を踏み入れてはいけない領域…
 ここは退きましょう」


(幽々子様は普段私の前では決して泣かない御方…)



(誰にも知られたくない秘密があるのだろう…)



     そのような幽々子様をみたのだが…


          次の日は…



「ようむ~、朝御飯まだ~」
幽々子は寝起き姿で整わないまま起きてきた。
「幽々子様、もう少しちゃんとしてください!」
「いいじゃないのよ~ちょっとくらい」
「いいえ、いけません!幽々子様は白玉楼の主なんですよ!少しは威厳を持ってもらわないと…」
「うう~、妖夢がいじめる~」
「いじめてません!これも幽々子様の為です!」


まあ、こんな風景はよくあることなのだ。


「ねえ、妖夢?朝御飯食べ終わったら、散歩にいかない?」
「いいですけど…今日は空の様子がおかしいですよ」
「大丈夫よ」
「では、念の為に雨傘を持っていきます」

そうして、妖夢と幽々子は散歩に出かけた。


「桜もまだまだ咲いてるわね」
「そうですね、桜は咲いていないと寂しくなります」
「ねえ、妖夢…」
幽々子は真剣な顔をして妖夢の方を向いた。
「なんでしょうか?」
「妖夢に話したいことがあるんだけど…」
幽々子はそれと同時に悲しそうな顔をした。
(幽々子様…)
「幽々子様、無理して話さなくてもいいですよ…時間はたくさんあるんですから
 それに幽々子様の悲しい顔は見たくないですし…」
「妖夢…………わかったわ、その時が来るまでこの事は言わないでおくわ…」
「…」
二人で話していると、雪が降ってきた。
「雪ですね」
「そうね…雪…ね」
「幽々子様、傘にお入り下さい」
「うん、ありがとう」
「?」
いつもと違う幽々子に妖夢は変に感じた。
「とりあえず、屋敷に戻りましょう」
「そうね」

二人は一つの傘の下、屋敷に戻っていった。


そして屋敷の中、外が見える部屋。

「幽々子様、いったいどうなされたのですか?さっきから様子がおかしいですよ」
「そ、そう?私はいたって普通よ」
あきらかに幽々子の様子はおかしい。
「幽々子様!」
「………」
幽々子は黙ってしまった。


「あらあら、そんなに幽々子を責めちゃだめよ」
「!?」
「紫…」
空間を裂いて紫が出てきた。



「紫様…」
「妖夢…私は紫と話があるわ…ちょっと席をはずしてちょうだい…」
「幽々子様…」
「聞こえなかったの?…席をはずして…」
「ですが…」


「席をはずしてっていってるのよ!」
幽々子が怒鳴る。
「ッ!!」
「お願い…席をはずして」
幽々子は涙声だ。
「わかりました…」
妖夢は部屋を後にした。



「あれは効いたかもね~」
紫が茶化す。
「紫…今日の用事はそんなことじゃないでしょ…」
「ええ…そうね、桜が咲く中…雪が積もるといつもここに来るわね…」
「なんでだろう…今日のような日があると涙が溢れてくるのよ」
話している幽々子の目には既に涙が浮かんでいる。
「なんでだろうね…普段は泣かないのに…」
「それは…」
(あなたが自ら命を絶った日が今日のような桜の咲く中、雪が積もった日なのよ…
 西行妖の下で真っ白い雪が赤い雪に変わっていたわ…)
紫は言おうとしたのをやめた。
今言ってしまうと、幽々子が幽々子では無くなるからだ。
幽々子は自分の遺体が西行妖の下に眠っているのは知らない…。
紫はそれをしっている…。


「それは…過去の幽々子がなんらかの影響を及ぼしているのかもしれないわ…」
「過去の私…?」
「幽々子…あなたは元は人間、そして私も元は人間…それがなぜこのような妖怪になったのかはわからないけれど…」
「けれど…?」
「人間の時の幽々子の想いが強く、後世に何かを伝えようとしている…」
「生きていた頃の私が死して尚私に伝えようとしている…」
「そのヒントをあげましょうか?」
「紫…貴女はどこまでしってるの?私の事を…」
紫は扇を広げ、口元に持っていき、話した。
「多分…貴女以上に貴女の事を知っているでしょうね…」
「私…以上に…?」
「とりあえず西行妖の下へいきましょう、全ての始まりの場所よ」
「私の全ての始まり…」
幽々子と紫は西行妖の下へと向かった。



「ううっ…私は…私はっ!失格だっ!
 幽々子様が辛い思いをしているのに気付かずに…
 心にさらに深い傷を付けてしまった!
 幽々子様はそのような私を許して下さるだろうか」

妖夢は涙を流しながら自分を責めていた。

「こんな事ではいけない!
 幽々子様が許してくれるまでは!
 このような頼りない私の姿を見られては…しっかりしなくては…
 幽々子様の先代庭師…魂魄妖忌のような…
 お爺様のような厳格ある庭師にならなくては!
 滝に打たれて身を清めよう」


(幽々子様…このような私ですが…慕ってくれますか?)

妖夢は滝の下へ向かった。



「どう、幽々子…何か感じる?」
「ええ…こう…何か…心に響く感じがするわ」
(やっぱり…気付き始めているわね)
「でも、何でだろう…ここに来ると紫が別人に見えるわ」
「私が…別人に?」
(多分それは…私は人間の貴女とここで既に知り合っているからだと思うわ)
「別人に見えるのは…私と過去の貴女が既にここで出会っているからだと思うわ」
「過去の私が…紫と既に出会っていた?」
「そうよ…多分ね」
「あ…」
「どうしたの?」
何かに気付いたように幽々子が言う。
「紫の持っている扇子って、私のと似てない?」
幽々子が自分の扇子と紫の持っている扇子を見比べて言う。
「それは…そうよ」
紫は遠くをみながら呟いた。
(この扇子は人間の時の貴女から貰った物なんだから…)
「紫…それも私に関係あることなの…?」
「関係…あるわ」
「事実を教えて!紫!」
「この扇子の事だけでもいい?
 本当の事を教えると…幽々子…貴女はもうここにはいられない…」
「私が、ここにいられなくなる…」
「どうするの?」

幽々子は少し考えて…
穏やかな表情をして口を開いた。

「わかったわ…扇子の事だけでもいいから教えて」
「いいわ」
紫は話し始めた。

「この扇子が幽々子のと似ているのは当たり前なの
 これは…まだ貴女が人間の時に貰った物なのよ
 だから貴女が似ていると思うのもしかたがないのよ」

「それじゃあ、紫は既に人間の時の私に出会っていたんだ…」

「そうよ…人間の時の貴女は、妖怪の私でも皆と分け隔てなく愛してくれたわ」

「それが巡り巡って今の私と紫になっていたのね」

「輪廻転生…と呼ぶのかしらね」

「でも、それがあって今の私達の関係ができたのかもしれないわね」

「幽々子…気はすんだ?まだ貴女には殆んど教えてないけど…」

幽々子は笑って…

「いいわ…今の私は紫との関係を崩したくないもの。
 それがあって私達は知り合えた。そして、親友と呼べる関係になった
 昔の私も気になるけど…今を生きている私の方が…ね」

「あら、幽々子はもう死んでるんじゃないの?」

紫が茶化した。

「ふふ、そうね。もう死んでいるのよね。
 でも死んでいても私はこうして生きているわ。
 それなら私は今を大切にするわ」

「そうね…それでこそ幽々子よ。
 昔の貴女も諦めが悪かったわ、でも…
 意志の強さは昔と変わっていないわ」

「ふふ…これでいいわ。
 これからも宜しくね。紫」

「こちらこそ…幽々子に出逢えてよかったわ」

二人は笑いあった。


「そろそろ、身体も冷えてきたわね」

「そうね、風邪引く前に戻りましょ」

二人は屋敷に戻る為に歩き始めた。



    しばらく歩いていると…



「あら、あれは…」

幽々子は滝に打たれている妖夢が目に止まった。

「ちょっといい?紫…」

「行って来なさい…」

「じゃあ、ちょっと」

幽々子は妖夢の所へ向かった。



(幽々子様の気持ちを理解出来ないとは…)

妖夢は先ほどの幽々子の気持ちを痛いほどに痛感していた。

(ううっ!…幽々子様…幽々子様!)

「妖夢~」

「この声は!幽々子様!」
妖夢の前に幽々子が立っていた。

「さっきはごめんなさい、妖夢。どなったりして…」

「……幽々子様」

「さっきの事は私の人間の時の話だったの…紫に言われて…ね」

「幽々子様の人間の時のお話だったのですか…」

「だから…ごめんね」

「いいんですよ…幽々子様の気持ちも理解できない私はまだまだ未熟者です。
 ですから…これからも幽々子様のもとにいてもいいですか?」

「何をいってるの…妖夢…あなたは私の誇れる剣士よ!」

「幽々子様!」

妖夢は幽々子に抱きついた。

「ううっ…幽々子様…ゆゆこさま~」

「こらこら、剣士は泣かないんじゃなかったの?」

「ううっ…はいっ!幽々子様!」

その二人を遠くから見る紫。

「あの二人はこれからもっと強くなっていくでしょうね。
 ねぇ…妖忌?」


その日、白玉楼に雪が降った。
雪が降る日、白玉楼の主は涙を流す。
その涙は過去の自分との境界線を引く。
そして境界線を越えることはできない。
でも、境界を広げる事はできる。
そう、時間はあるのだ。
死んでいる者に時間という概念は無いのかもしれない。
だが、白玉楼の時間は…幽々子の時間は確実に時を進めている。
白玉楼の記憶は幽々子と共にある。
今回、二作品目なフィリスです。
前回の御感想に『妖夢もいたほうがいい』と書かれていたので、今回は妖夢、幽々子、紫のお話でした。
本当は妖夢、幽々子で書きたかったのですが、紫もいないと…ね。
と、いうことで前回とは程遠い真面目なお話になってしまいました。
まだまだ、努力が足りないです。
精進いたします。
フィリス
[email protected]
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コメント



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9.100名前が無い程度の能力削除
よかった
16.80Rin削除
前作に引き続き読ませていただきました。とても良い話だと思います。
失礼ですが、元ネタは某最萌支援動画ですか?違うようでしたらすみません……
前作でもそうでしたが、フィリスさんの作品は最後のまとめの部分に強く引き付けられるものが感じられます。私はとても好きです。
これからもがんばってください。次作にも期待しております。
17.90ブラボー様削除
私も幽々子妖夢の話を書いている者です。
あなたの作品は、とても勉強になりました。
そして一読み手として、とても感動しました。
ありがとうございました。