もうすぐ春が来るような来ないような感じがする妖怪の山はまだ寒い。
そんな中、ここ秋姉妹の家にて静葉と穣子は暇を持て余していた。
穣子はゴザを敷いた床に寝そべり、静葉は机の上に座って本らしいものを読んでいる。
彼女の読んでる書物のタイトルは『突撃!豆まき大作戦パート2』全く意味不明である。しかし穣子は、姉が今読んでいる本など興味もなければ眼中にもない。彼女の視線の先には煤けた天井板だけがあった。
「……暇」
穣子がポツリと漏らす。するとすかさず静葉が言い返してきた。
「蝦」
「は……?」
驚いて姉のほうを見る穣子。それを見た静葉が一言。
「蝦と暇って字の形が似てるわよね」
「知らないわよ!!」
その時、二人の間に寒風が駆け抜ける。そのあまりの冷たさに穣子は思わず身を震わせた。
「もう! 姉さんが変なコト言うから、変な風吹いてきちゃったじゃない!」
「偶然に決まってるでしょ。それよりどこからこんな風入ってきてるのかしら」
「もしかして家の壁の何処かが壊れちゃったのかな」
「あら、それは大変。早く塞がなきゃ凍え死んでしまうわ」
神様だから実際に死ぬことはない。死ぬことはないが死ぬほど寒いのはやっぱり嫌なので二人は家の壁を点検することにした。
「それじゃ穣子は東側の壁をお願いするわよ。私は西側の方を見てみるわ」
「はいはい……りょーかーい」
あまり乗り気じゃない穣子は、しぶしぶ家の東側に向かった。東側は玄関になっていてその脇はずっと壁になっている。穣子が仕方なく壁を点検し始めようとしたその時、青っぽい何かが床に転がってるのを見つける。どうやら冷たい風はそちらから流れてきているらしい。彼女が近づいてみるとそれは小さな人影のようで、床に倒れている様子だった。
穣子が人形か何かかと思ってその物体を掴んでみようとした瞬間、手が瞬く間に凍ってしまった。
「ちょっ!? なによこれー!!?」
思わず穣子はその物体を放り投げてしまう。
「どうしたの穣子、何かあったの?」
彼女の叫びを聞いた静葉がやってくる。そして彼女はその青い物体を見るなり「あら」と言いながら近づいた。
「姉さん。だめだめ。近づいたらこうなっちゃうよ!?」
と、穣子は凍ってしまった右手を姉に見せるが、静葉は全く意に介さない様子で青い物体の間近まで近づくとしゃがみ込んで話しかけた。
「チルノ。こんなとこで寝ていたら風邪ひくわよ?」
静葉の呼び掛けを聞いた青い物体はむくりと起き上がった。そしてその青い目をぱちくりさせてあたりを見回している。どうやらここがどこだかよくわからない様子だ。
「姉さん、知り合いなの?」
「ええ、前ににとりに紹介してもらったのよ。この子は氷精チルノよ」
「ふーん。氷精って何?」
「簡単に言えば夏はありがたいけど、冬は迷惑な存在ね」
「うーん。よくわかるようなわからないような……」
「それはともかく、なんでこんなところにこの子がいるのかしら」
「聞いてみればいいじゃない」
「それもそうね……」
と二人はチルノの方を見るが、いつの間にか姿が消えていた。
「あれ……?」
「あら……」
思わず目を合わせる二人。
「……ねぇ、もしかして幻だったの?」
「きっとそうかもしれないわね。穣子……あなた疲れてるのよ」
「そんなわけないでしょ! というか、姉さんも見たじゃない」
と、その時だ。突然氷の塊が穣子の頭に直撃し、彼女は断末魔の叫びと共に頭ごと床にめり込んだ。天井にいた氷精はその様子をみて大はしゃぎする。
「ふふん。たわいもないわ! あたいの勝ちね!」
彼女は勝ち誇りながら下へと下りてくる。
「それはどうかしら?」
すかさず静葉は大きなかごを上からかぶせてチルノを中に閉じ込めた。
「あ! 何すんのよ!!? こら!! 出せー!!」
チルノはかごから出ようとするが、上に静葉が座っているのでびくともしない。
「さあ、あなたは一体何の用でここに来たのかしら?」
「ふん! 絶対言わないもん!」
と、チルノは腕を組んであぐらをかいてそっぽを向く。
「教えてくれたら飴あげるわよ?」
と、静葉が懐から飴を取り出すと、チルノはたちまち目の色を変えた。
「あのね! レティが暇つぶしにあんたたちと遊んでおいでって」
「そう、教えてくれてありがとう。いい子で助かるわ」
静葉はチルノに飴を渡すと、急いで外へと出る。寒風吹きすさぶ家の外には、宿敵レティ・ホワイトロックの姿があった。
「あら、よく私がいることがわかったわね」
「あの子はここの場所知らないから、どうせあなたが案内したんだろうと思ってね。それに面倒見のいいあなたのことだから、この子を置いていったりはしないだろうし」
「ふーん。相変わらずいい勘してること」
二人じっとお互いを見たまま対峙する。
「一体何の用なのよ」
静葉の問いかけにレティは、ほほ笑みを浮かべて答えた。
「あの子が暴れたくてしょうがない様子でね。どうせあなた達暇してるだろうから少し遊んでもらおうと思って」
「まったく、いい迷惑よ。せめて普通に来れば普通に相手してあげるのに……」
と、その時、家の中から爆発音と破壊音が響き渡る。そしてそれと一緒に穣子とチルノの何やら言い争うような声も。
「いけない! 穣子ったらチルノとやりあってるんだわ」
慌てて家の中に入ると、案の定、穣子とチルノが弾幕勝負をしていた。すでに家の中は半壊状態である。
「食らえ! この芋妖怪!」
「誰が芋妖怪よ! 暴れかき氷!」
二人の放った弾幕が打ち消しあい四散する。その散った弾幕が家のあちこちを破壊していく。見かねた静葉はすかさず止めにかかった。
「何やってるのよ。家が壊れちゃうでしょ!」
「姉さんどいて!そいつ倒せない!」
「だめよ穣子。ここは家の中よ。家の中で暴れたらどうなるかわかるでしょう。そうでなくても、あなた今までに何回家壊してると思ってるのよ」
静葉の言葉にようやく穣子は引き下がった。
一方レティの方も、チルノを止めにかかっていた。
「こら! チルノ! あなたやり過ぎよ!」
「レティどいて!そいつ殺せない!」
「バカねぇ。神様なんだから殺せるわけないでしょ」
「バカじゃないもん!」
「バカよ。人の言うこと聞けない子がお利口なわけないでしょ!」
「ふんだ。レティのバカっ!!」
レティに叱られたチルノは半べそで捨て台詞を放つとどこかに行ってしまった。やれやれといった様子でレティは彼女を追いかけようとするが、ふと気づいたように二人の方を見やると、微笑みを浮かべた。
「それじゃ、どうもお騒がせしたわね」
「まったくよ。二度と来ないでほしいわ!」
穣子は、まだご機嫌斜めな様子でそっぽを向いている。
「ごめんなさい。しばらく来ないことにするわ」
「ええ、そうして頂戴。清々するわ!」
「それじゃ、また来年……」
「……え?」
驚いた穣子がレティの方を見ると彼女の姿はすでになく、いつの間にか冷たい風も止んでいた。
きょとんとしている穣子に家の片づけを始めていた静葉が言った。
「もう、穣子ったら気づいてなかったの?」
「え?」
「今日は立春よ」
「……あ!」
立春とは春が立つ。すなわち冬が終わりを告げる日。それが今日なのだ。
「そ、彼女は、お別れの挨拶を言いにきただけなのよ」
「……別れの挨拶って……そんなら普通に言いにくればいいのに……」
穣子が荒れ果てた家を見回しながらつぶやくと、静葉が小さな声でぼそりと言った。
「……まったく素直じゃないわね……お互いに」
「え……何か言った?」
「さ、穣子も家の片づけ手伝って頂戴! 今夜は春の陽気に負けないように栗ご飯でも作って精力付けましょ」
「あ、うん……! いいね! 栗ごはん好き!」
二人は家の片づけに取りかかる。気がつくと春を感じさせるような、なま暖かい風が辺りを包んでいた。
と、その時だ。
「見つけたぞ! 芋妖怪!!」
どこからともなく現れた半べそ状態のチルノが、穣子の後頭部にめがけてクロスチョップをかましてきた。
「どぉおおおおっ!?」
直撃を受けた穣子は前のめり状態で突っ伏す。
「よ、よくもやったわね! このかき氷!!」
起き上がった穣子が負けじと弾幕でやり返すと、チルノも弾幕を繰り出して応戦。その流れ弾が半壊状態の家にとどめを刺した。
「ぎゃああああ!!?」
「いやぁあああっ! なんでこーなるのよ!?」
結局二人は崩れた家の下敷きになって仲良く気絶してしまう。
一足先に逃げていた静葉は、呆れた様子でつぶやいた。
「……まったく。とんだ『冬の忘れ物』ね」
そんな中、ここ秋姉妹の家にて静葉と穣子は暇を持て余していた。
穣子はゴザを敷いた床に寝そべり、静葉は机の上に座って本らしいものを読んでいる。
彼女の読んでる書物のタイトルは『突撃!豆まき大作戦パート2』全く意味不明である。しかし穣子は、姉が今読んでいる本など興味もなければ眼中にもない。彼女の視線の先には煤けた天井板だけがあった。
「……暇」
穣子がポツリと漏らす。するとすかさず静葉が言い返してきた。
「蝦」
「は……?」
驚いて姉のほうを見る穣子。それを見た静葉が一言。
「蝦と暇って字の形が似てるわよね」
「知らないわよ!!」
その時、二人の間に寒風が駆け抜ける。そのあまりの冷たさに穣子は思わず身を震わせた。
「もう! 姉さんが変なコト言うから、変な風吹いてきちゃったじゃない!」
「偶然に決まってるでしょ。それよりどこからこんな風入ってきてるのかしら」
「もしかして家の壁の何処かが壊れちゃったのかな」
「あら、それは大変。早く塞がなきゃ凍え死んでしまうわ」
神様だから実際に死ぬことはない。死ぬことはないが死ぬほど寒いのはやっぱり嫌なので二人は家の壁を点検することにした。
「それじゃ穣子は東側の壁をお願いするわよ。私は西側の方を見てみるわ」
「はいはい……りょーかーい」
あまり乗り気じゃない穣子は、しぶしぶ家の東側に向かった。東側は玄関になっていてその脇はずっと壁になっている。穣子が仕方なく壁を点検し始めようとしたその時、青っぽい何かが床に転がってるのを見つける。どうやら冷たい風はそちらから流れてきているらしい。彼女が近づいてみるとそれは小さな人影のようで、床に倒れている様子だった。
穣子が人形か何かかと思ってその物体を掴んでみようとした瞬間、手が瞬く間に凍ってしまった。
「ちょっ!? なによこれー!!?」
思わず穣子はその物体を放り投げてしまう。
「どうしたの穣子、何かあったの?」
彼女の叫びを聞いた静葉がやってくる。そして彼女はその青い物体を見るなり「あら」と言いながら近づいた。
「姉さん。だめだめ。近づいたらこうなっちゃうよ!?」
と、穣子は凍ってしまった右手を姉に見せるが、静葉は全く意に介さない様子で青い物体の間近まで近づくとしゃがみ込んで話しかけた。
「チルノ。こんなとこで寝ていたら風邪ひくわよ?」
静葉の呼び掛けを聞いた青い物体はむくりと起き上がった。そしてその青い目をぱちくりさせてあたりを見回している。どうやらここがどこだかよくわからない様子だ。
「姉さん、知り合いなの?」
「ええ、前ににとりに紹介してもらったのよ。この子は氷精チルノよ」
「ふーん。氷精って何?」
「簡単に言えば夏はありがたいけど、冬は迷惑な存在ね」
「うーん。よくわかるようなわからないような……」
「それはともかく、なんでこんなところにこの子がいるのかしら」
「聞いてみればいいじゃない」
「それもそうね……」
と二人はチルノの方を見るが、いつの間にか姿が消えていた。
「あれ……?」
「あら……」
思わず目を合わせる二人。
「……ねぇ、もしかして幻だったの?」
「きっとそうかもしれないわね。穣子……あなた疲れてるのよ」
「そんなわけないでしょ! というか、姉さんも見たじゃない」
と、その時だ。突然氷の塊が穣子の頭に直撃し、彼女は断末魔の叫びと共に頭ごと床にめり込んだ。天井にいた氷精はその様子をみて大はしゃぎする。
「ふふん。たわいもないわ! あたいの勝ちね!」
彼女は勝ち誇りながら下へと下りてくる。
「それはどうかしら?」
すかさず静葉は大きなかごを上からかぶせてチルノを中に閉じ込めた。
「あ! 何すんのよ!!? こら!! 出せー!!」
チルノはかごから出ようとするが、上に静葉が座っているのでびくともしない。
「さあ、あなたは一体何の用でここに来たのかしら?」
「ふん! 絶対言わないもん!」
と、チルノは腕を組んであぐらをかいてそっぽを向く。
「教えてくれたら飴あげるわよ?」
と、静葉が懐から飴を取り出すと、チルノはたちまち目の色を変えた。
「あのね! レティが暇つぶしにあんたたちと遊んでおいでって」
「そう、教えてくれてありがとう。いい子で助かるわ」
静葉はチルノに飴を渡すと、急いで外へと出る。寒風吹きすさぶ家の外には、宿敵レティ・ホワイトロックの姿があった。
「あら、よく私がいることがわかったわね」
「あの子はここの場所知らないから、どうせあなたが案内したんだろうと思ってね。それに面倒見のいいあなたのことだから、この子を置いていったりはしないだろうし」
「ふーん。相変わらずいい勘してること」
二人じっとお互いを見たまま対峙する。
「一体何の用なのよ」
静葉の問いかけにレティは、ほほ笑みを浮かべて答えた。
「あの子が暴れたくてしょうがない様子でね。どうせあなた達暇してるだろうから少し遊んでもらおうと思って」
「まったく、いい迷惑よ。せめて普通に来れば普通に相手してあげるのに……」
と、その時、家の中から爆発音と破壊音が響き渡る。そしてそれと一緒に穣子とチルノの何やら言い争うような声も。
「いけない! 穣子ったらチルノとやりあってるんだわ」
慌てて家の中に入ると、案の定、穣子とチルノが弾幕勝負をしていた。すでに家の中は半壊状態である。
「食らえ! この芋妖怪!」
「誰が芋妖怪よ! 暴れかき氷!」
二人の放った弾幕が打ち消しあい四散する。その散った弾幕が家のあちこちを破壊していく。見かねた静葉はすかさず止めにかかった。
「何やってるのよ。家が壊れちゃうでしょ!」
「姉さんどいて!そいつ倒せない!」
「だめよ穣子。ここは家の中よ。家の中で暴れたらどうなるかわかるでしょう。そうでなくても、あなた今までに何回家壊してると思ってるのよ」
静葉の言葉にようやく穣子は引き下がった。
一方レティの方も、チルノを止めにかかっていた。
「こら! チルノ! あなたやり過ぎよ!」
「レティどいて!そいつ殺せない!」
「バカねぇ。神様なんだから殺せるわけないでしょ」
「バカじゃないもん!」
「バカよ。人の言うこと聞けない子がお利口なわけないでしょ!」
「ふんだ。レティのバカっ!!」
レティに叱られたチルノは半べそで捨て台詞を放つとどこかに行ってしまった。やれやれといった様子でレティは彼女を追いかけようとするが、ふと気づいたように二人の方を見やると、微笑みを浮かべた。
「それじゃ、どうもお騒がせしたわね」
「まったくよ。二度と来ないでほしいわ!」
穣子は、まだご機嫌斜めな様子でそっぽを向いている。
「ごめんなさい。しばらく来ないことにするわ」
「ええ、そうして頂戴。清々するわ!」
「それじゃ、また来年……」
「……え?」
驚いた穣子がレティの方を見ると彼女の姿はすでになく、いつの間にか冷たい風も止んでいた。
きょとんとしている穣子に家の片づけを始めていた静葉が言った。
「もう、穣子ったら気づいてなかったの?」
「え?」
「今日は立春よ」
「……あ!」
立春とは春が立つ。すなわち冬が終わりを告げる日。それが今日なのだ。
「そ、彼女は、お別れの挨拶を言いにきただけなのよ」
「……別れの挨拶って……そんなら普通に言いにくればいいのに……」
穣子が荒れ果てた家を見回しながらつぶやくと、静葉が小さな声でぼそりと言った。
「……まったく素直じゃないわね……お互いに」
「え……何か言った?」
「さ、穣子も家の片づけ手伝って頂戴! 今夜は春の陽気に負けないように栗ご飯でも作って精力付けましょ」
「あ、うん……! いいね! 栗ごはん好き!」
二人は家の片づけに取りかかる。気がつくと春を感じさせるような、なま暖かい風が辺りを包んでいた。
と、その時だ。
「見つけたぞ! 芋妖怪!!」
どこからともなく現れた半べそ状態のチルノが、穣子の後頭部にめがけてクロスチョップをかましてきた。
「どぉおおおおっ!?」
直撃を受けた穣子は前のめり状態で突っ伏す。
「よ、よくもやったわね! このかき氷!!」
起き上がった穣子が負けじと弾幕でやり返すと、チルノも弾幕を繰り出して応戦。その流れ弾が半壊状態の家にとどめを刺した。
「ぎゃああああ!!?」
「いやぁあああっ! なんでこーなるのよ!?」
結局二人は崩れた家の下敷きになって仲良く気絶してしまう。
一足先に逃げていた静葉は、呆れた様子でつぶやいた。
「……まったく。とんだ『冬の忘れ物』ね」