「AKB48って知ってます?」
博麗神社の片隅、そこで緑髪を揺らしながら東風谷早苗は熱弁を振るっていた。といっても観客は二人だ。しかも無理やり聞いてもらっている。
「え……えーけーびー?」「知らないな」二人は知らないという素振りを見せる。呆れ顔とにやけ顔、その反応の仕方は最初の話の時から変わっていない。
「ええそうでしょうね、なんだって外の世界の話ですからね」早苗はどや顔で一人、うんうんと勝手に頷いていた。
観客の一人、博麗霊夢は呆れていた。外の世界にはまるで興味が無いために、でぃーえすだのぴーえすぴーだの、そんな話を聞いても隣の魔女のように目を輝かせる事は一度も無かった。
それよりも早く部屋の布団に籠りたかった。季節は冬の真っ只中だというのに、この二人は何が面白くてこんな話を聞いたり話したりしているのか解らない。
「簡単に言えば、私達と同い年くらいの可愛い幼気な子達が48人集まって信仰を集めているんです!今や信仰はうなぎ上りなんですよ」
「今やって…それに信仰?どうやって?」
魔理沙は質問する。霊夢は一応話は耳に入れていたが終わったら何を食べるかで頭はいっぱいになっていた。ほとんど聞き流している状態。
「ダンスや歌で人々を魅了しているんです、メイクもばっちりしてるからテレビで見てても凄い可愛く映るんですよね」
「だんす?めいく?てれび?」
「ああもう、面倒臭いですね」
「いやお前が始めたんだろ? 根掘り葉掘り教えるのが筋ってもんだぜ」
「ダンスは厄神がくるくるやってますよ、メイクは……」
「もう余所でやってくれない?」
二人が一緒に霊夢を見た。驚きの表情を浮かべている。はあ、と霊夢はうんざりした顔でため息をついた。
「あのね、私外には興味ないの、そういうの河童や天狗が好きそうだから家に戻ってやってちょうだい」
「えー、でも信仰ですよ?私たちも彼女達みたいにすれば信仰得られますよ?」早苗は宥めるような目で霊夢を見ていた。ジト目とも言えるだろう。
「あんた……最初からそのつもりでここに来たのね……」
霊夢はようやく早苗の目的を知った。早苗は協力するつもりでここに来たのだ。えーけーびーふぉーてぃーえいととやらの真似事をするために。
しかし疑問が湧く。どうやったってこの女も二人の神も協力なんて事を考える性格じゃない。
「彼女達の真似をすれば人里の人口でも一人数万は落としてくれます!信仰集め放題です!」
「すうまんって何円だ?」
「またもう、少し自重してください」
「ついていけないわ……」霊夢は疲れ顔をしていた。この調子で人生を過ごしていたら老け顔になってしまう、と思い始めていた。
考えてみれば48人なんて人数、新しく引っ越してきたばかりの三人に集めることなんて不可能だ。そこで人脈のあるだろう自分に頼ってきたのだろう。
だがお色気で集める信仰なんて何の価値も無い。実力で集めてこそ博麗の巫女「数万ってのは饅頭が何百個って買えるんですよ!」
「やるわ」「「えっ」」
二人は素っ頓狂な声を上げた。霊夢が乗り気になったのが予想外だったのだろう。
一方霊夢は考え事をしたような顔のまま一人ブツブツと独り言を発していた。
「そうよ……結局実力なんて言っても金には変えられないわ……実際お賽銭集まらないし、自分のためにここは恥を晒してでも信仰を集めるしか……そうよ」
「おい?霊夢?どうしたんだ?」
「やるべきよ……やりましょう」
霊夢の顔は決心に満ち溢れていた。魔理沙が呆れ顔になる番だった。一方早苗は計画通り、といった表情になった。
「じゃさっそく45人集めてきてください!」
「いや……どうやって?」霊夢は質問した。
「「えっ」」
「いや……そんな顔してるからには方法があるんじゃないのか?」
「無いわ、私達三人でやりましょう」「「えっ」」
「霊夢さん、妖怪とかに頼るっていうはどうですか?」
「そんな事やってくれる奴いないわ、楽器吹いたり剣振り回したり飛んだりする奴ならいるけど」
二人の表情は困惑していた。それが霊夢には理解できなくなっていた。饅頭の話が霊夢の頭の中の比率を占めすぎて、聞き流していた部分の記憶を忘れていたのだ。
「霊夢さん……失望しましたよ」早苗はやる気を失った顔をしていた。三人じゃ信仰なんてどうやっても得られないと考えたのだろう。
「私達三人なら何とかなるわ!一日饅頭数千個も夢じゃないはずよ」しかし霊夢はまるで諦めていなかった。
「いや私もやる事前提?」
「48人いてこその信仰ですよ?」
「一人16人分頑張ればいいのよ!」
「三人じゃ人気にも限度があります、まあ48人にもなると人気無い人の方が多いですけど」
「人気?信仰に人気が必要なのか?」
「そうです!三人じゃ紅白にすら出れませんよ」
「紅白?霊夢に出る?え?」
「紅白って何?何人集まれば出れるの?」
「もう今日はお開きにしましょう!また明日来ますからね」
「ちょ……」
早苗は一人すたすたと歩いて行く。残された二人は意味が解らない、と言いたげな顔になっていた。
「結局あいつは何を言いたかったんだ」
「きっと……他人が知らない世界を自慢したいお年頃なのよ」
「それって独り善が「中に戻って饅頭食べましょう……あと45人いればそれが数万個食べれたのに……いやそもそもさっきの話は本当かどうか……」
「うんそうだな、もうさっきの事は忘れようか」
霊夢は誰かどう見ても負のオーラを発していた。顔も生気が感じられなくなっている。
その気迫だか何だかに押された魔理沙はもうこの話はなるべく忘れよう、と心に誓ったのであった。
「私がいるわ!」女が謎の空間からひょこっと顔を出してきた。
「いらない」霊夢が一蹴すると、紫は悲しそうにスキマの中へ帰って行った。
最後の一瞬だけなのにゆかりんがやたら可愛いぞ
ゲームでボス務めたキャラだけでも50くらいはいるか?
最初はどうなるのかなぁと冷や汗かいたけれど、紫の登場で全て解決した。最後で笑った私の負けですw