「私はさ、ボロボロになる前に死にたいと思ってるんだ」
極めて自然に、まるで明日の予定を告げるかのように魔理沙はそう言った。けれども呟いたその内容は自然との対極にあるような剣呑なもので、思わず霖之助は魔理沙の顔を見詰めてしまう。またいつもの、人を煙に巻く冗談を言っているのだろうとの希望を抱きつつ。
しかしそこにあったのは、何の感慨も抱かせない空虚な穴そのものだった。その穴を覗き込んだ事で、霖之助は魔理沙の今の言葉は伊達でも酔狂でもなく、彼女の心に開いた穴の奥底からこぼれてきた真実そのものなのだと理解出来てしまった。
この発言のそもそもの発端は何だったのだろうか。霖之助はそれを振り返ろうとするのだが、全く切っ掛けというものが見出せなかった。先程まで二人で他愛もない話、後になって思い返してみても思い出せないような、そんな下らない世間話をしていたはずなのに。
唐突に投げられた魔理沙の『死』に霖之助は何と返していいかも判らず、ただ身じろぎも出来ずに押し黙ってしまった。言葉を返すべき霖之助が口を噤んだ事で、たちまち香霖堂内には沈黙が重くのしかかる。それこそ誰かの訃報が駆け巡ったかのように。
「今はさ、いいんだ。周りの奴と一緒に馬鹿をやっていられるから」
思い倦ねる霖之助の心情を知ってか知らずか、淡々と魔理沙が先程の言葉の真意を語る。
魔理沙の顔には相変わらず感情の色は浮かんでおらず、まるで他人事のように自分の内面を吐露するその異様な風景。霖之助は今目の前で応対している少女が、本当に自分の知っている少女なのかさえ判断が付かなくなっていた。
「でもずっと今のままが続くなんて事は、ありえない。それくらい私にも判ってる。そして続かないって事は、何かが変わるって事も」
能面のような表情のまま、魔理沙は言葉を紡ぐ。彼女が知った世の中の真理を。世界は変わり続けると言う事を。
「何かが真っ先に変わるとしたら、それは間違いなく私だ。なんたって私は普通の人間だからな。あいつら特別な奴らとは違う、ただの、人間」
そこで初めて、魔理沙の表情が変わった。苦虫をかみつぶすような、酷く歪んだものへと。
彼女は知ってしまったのだ。変わる世界、変わる自分を。
そしてその変化は、好ましいものばかりではなく、受け入れ難いものもあると言う事に。その変化の歩みはいつか、死という終点に辿り着くと言う事に。
確かに、彼女の周りの存在もいつかはその終点に辿り着くかもしれない。しかしそれは遠い遠い先の事。普通の人間である魔理沙が終点に着いた時、周りの少女達はまだ少女のまま歩みを進めているに違いないのだ。
「いつか私がボロボロに変わってしまっても、あいつらは私を、今の私を覚えているだろうか。あいつらと馬鹿をやり合った私を。でも……もしかしたら、あいつらにとってボロボロになった私は、私じゃないのかもしれない。一緒に馬鹿をやれない私は。それを思うと怖くて、いても立ってもいられないんだ」
自らの傷口を抉りながら、最早泣き出しそうな表情で魔理沙は呟く。そうして絞り出された言葉は、事更に霖之助の耳朶とそして胸を打った。
そう遠くない先、魔理沙は今のようにがむしゃらには飛べなくなるかもしれない。少なくとも、今のまま少女を続ける事は出来ないだろう。そうなった魔理沙は、彼女の友人達にとっての『魔理沙』のままでいられるのだろうか。それとも友人達は、変わってしまった魔理沙になど興味はなく、また別の『魔理沙』と馬鹿をやり合うのだろうか。
彼女の最も恐れた事。それは大切な友人達にとって、自分はただの暇潰し、路傍の転がる石に過ぎないのではないかという事。自由気ままに彼女達とつきあえる今の内はいいが、それが上手く立ちゆかなくなった時、あっさりと自分は捨てられるのではないかと。
「怖くて怖くてどうしようもないから、忘れられる前に私からあいつらを捨ててやるんだ。あいつらに、一生忘れられない傷が残せればいいと願いながら。だから私は、ボロボロになる前に死にたいんだ。流れ星のように派手にな」
そう言うと魔理沙は、先程までとは打って変わって晴れやかな笑みを見せた。しかしそれは何処か諦念を感じさせる、無理して作っているのがありありと見て取れる笑いだった。
「そりゃあ私だって、これがどれだけ愚かな事かは理解してるつもりだ。だからこれは選択肢の一つ。あらゆる手を尽くしに尽くして、それでもどうにもならなかった時、選ぶかもしれない道の一つだ。だから案外、ケロッとした顔で生きてるかもな? ボロボロの身体で」
あくまでこれは可能性の一つだと魔理沙は言う。しかし、霖之助は内心で理解していた。魔理沙の事だ、きっと本当にどうしようもならなくなったら、迷わずこの選択を取るだろうと。可能性の一つなんていうのは誤魔化す為のポーズだと言う事を。霖之助の知る霧雨魔理沙という少女は、『諦めて受け入れる』事を何より嫌っていたから。
「これを誰かに言うのは初めての事なんだぜ、香霖。なんでわざわざお前にこれを言ったか判るか?」
「……いや、皆目見当も付かないかな」
霖之助は少し考え込むそぶりを見せるが、すぐに両手を挙げ降参を告げる。魔理沙はその白旗を見やると今まで座っていた壺から降り、いつも通りの不貞不貞しい表情を浮かべながら霖之助に言い寄っていった。
「私の周りの奴らはみんな強い、私に何があろうと関係なく生きていけるくらいに。けどな香霖!」
霖之助の目の前に立った魔理沙は、歩み寄った勢いそのままに、彼の目と鼻の先に人差し指をずいと突き出す。
「お前は格別に弱いからな! きっと突然私が流れ星になったら、いつまでも女々しくウジウジしてるだろう? そんな事にならないように今の内に教えておいてやったんだ。私は優しいからな」
魔理沙は自信満々に胸を反らしながら、霖之助は女々しいと告げる。霖之助はその様子と物言いに、思わず苦笑いを浮かべた。
「……そうだね。魔理沙は優しい。それに強いな」
「強い? 私が? ふん、皮肉か。本当に強かったら、死にたいなんて言わないぜ」
「フムン……そうだね。君が誰にも言わないでいた秘密の計画を話してくれたお礼だ。僕も一つ秘密を教えてあげよう。商売人としては、ただでものを貰うのは性に合わないからね」
霖之助は咳払いを一つすると、腕を組みながら話を続ける。魔理沙はと言えば、一体何を言い出すのやらと楽しみ半分、呆れ半分でその話に耳を傾ける。
「僕はね、魔理沙。君が言ったように弱くて仕方がない。だから君が、君たちが怖くて仕方ないんだ」
そう言いふっと苦笑した霖之助の気配が、斜に構えて聞いていた魔理沙の身体を揺らした。
私が怖い? 強いの後は怖いとは何の冗談だ。魔理沙は思わず言い返そうとする。しかし今の霖之助の調子は、茶々を入れるのが憚られるような雰囲気があり、結局返そうとした言葉は口中で霧散した。
「君はさっき言っただろう。他人の中の自分が消えるのが怖くてしょうがないと。僕もそれと同じなんだよ。但し僕の場合は、自分の中の他人が消えるのが怖くてしょうがなかったんだが」
自分の弱さ、最も知られたくない部分を率直に告げる霖之助。魔理沙はそれを聞いて、ある事実を悟る。彼は別に半妖だからといって、自分とはまるで違う特別な存在などではない。普段一歩引いた立ち位置から世の中を見据えて、どこか超然とした雰囲気を漂わせていた霖之助もまた『弱い人間』の部分を持っていたのだと。霖之助の弱さは、鏡に映った自分自身の弱さなのだとも。
結局、自分と霖之助はお互いに似たもの同士と魔理沙は気付く。そしてそれに呼応するように、得体の知れない熱が自らの中で高まるのを感じた。
「知っての通り僕は普通の人間とは違う。だから、他人と歩み寄って生きるなんて事は出来なかった。歩幅が違うんだ」
歩幅が違うから、人間に歩み寄ろうとしても誰もが先に行ってしまう。かといって妖怪に近付けば、彼等は半妖の自分よりもゆっくりと歩く。そうして置いて行かれて一人ぼっちになるのが怖くて、ならば最初から近寄らなければ良いと、次第に霖之助は思うようになっていった。
「でも僕は魔理沙のように強くはなかったから、一人きりのまま自分から消えるなんて選択肢は選べなかった。だからおっかなびっくり、境界線の上を歩き続けているんだ。思い切って近寄る事も出来ず、遠ざかる事も出来ずに」
結局、一人で生きていけるほどの強さは霖之助にはなかった。押しては返すさざ波のように、人に交わろうと近づいたと思えば、いつしか恐怖心に駆られ身を引く。こうして彼は、光とも闇とも付かない薄暗がりを恐る恐る歩いてきた。そしてその中途半端な立ち位置のまま、どことも付かない中途半端な場所に店を構え、今に至るという訳だった。
そこまで言うと、霖之助は「ふぅ」と一つ息を吐いた。そして今までにない真剣な目をすると、改めて魔理沙へと身体を向け直す。
「だから魔理沙。もし君が流星になるその時は、是非僕も一緒に乗せてくれないだろうか。強い君と一緒なら、弱い僕も飛べる気がするんだ。飛んでしまえば、歩幅の違いなんて関係ないからね」
諦めとも悟りとも取れる笑みを浮かべながら、霖之助はその手を魔理沙へと差し出した。その手は、弱い自分をここから連れ去ってくれと祈っているのだろうか。それとも、その手を掴んだ彼女を決して離さないという決意の表れだろうか。
「ああ、いいぜ香霖。その時が来たら、とっておきの特等席に乗せてやるよ。それで二人して、誰も彼もの心の中に焼き付くでっかい流れ星になってやろうぜ」
魔理沙は霖之助の提案に心底楽しそうな笑みになると、自らの内奥の熱が赴くままに力強く、彼が伸ばしたその手を掴むのだった。互いの強い部分、弱い部分。それを知って補い合える二人なら、必ず輝く流れ星になれると確信しながら。
極めて自然に、まるで明日の予定を告げるかのように魔理沙はそう言った。けれども呟いたその内容は自然との対極にあるような剣呑なもので、思わず霖之助は魔理沙の顔を見詰めてしまう。またいつもの、人を煙に巻く冗談を言っているのだろうとの希望を抱きつつ。
しかしそこにあったのは、何の感慨も抱かせない空虚な穴そのものだった。その穴を覗き込んだ事で、霖之助は魔理沙の今の言葉は伊達でも酔狂でもなく、彼女の心に開いた穴の奥底からこぼれてきた真実そのものなのだと理解出来てしまった。
この発言のそもそもの発端は何だったのだろうか。霖之助はそれを振り返ろうとするのだが、全く切っ掛けというものが見出せなかった。先程まで二人で他愛もない話、後になって思い返してみても思い出せないような、そんな下らない世間話をしていたはずなのに。
唐突に投げられた魔理沙の『死』に霖之助は何と返していいかも判らず、ただ身じろぎも出来ずに押し黙ってしまった。言葉を返すべき霖之助が口を噤んだ事で、たちまち香霖堂内には沈黙が重くのしかかる。それこそ誰かの訃報が駆け巡ったかのように。
「今はさ、いいんだ。周りの奴と一緒に馬鹿をやっていられるから」
思い倦ねる霖之助の心情を知ってか知らずか、淡々と魔理沙が先程の言葉の真意を語る。
魔理沙の顔には相変わらず感情の色は浮かんでおらず、まるで他人事のように自分の内面を吐露するその異様な風景。霖之助は今目の前で応対している少女が、本当に自分の知っている少女なのかさえ判断が付かなくなっていた。
「でもずっと今のままが続くなんて事は、ありえない。それくらい私にも判ってる。そして続かないって事は、何かが変わるって事も」
能面のような表情のまま、魔理沙は言葉を紡ぐ。彼女が知った世の中の真理を。世界は変わり続けると言う事を。
「何かが真っ先に変わるとしたら、それは間違いなく私だ。なんたって私は普通の人間だからな。あいつら特別な奴らとは違う、ただの、人間」
そこで初めて、魔理沙の表情が変わった。苦虫をかみつぶすような、酷く歪んだものへと。
彼女は知ってしまったのだ。変わる世界、変わる自分を。
そしてその変化は、好ましいものばかりではなく、受け入れ難いものもあると言う事に。その変化の歩みはいつか、死という終点に辿り着くと言う事に。
確かに、彼女の周りの存在もいつかはその終点に辿り着くかもしれない。しかしそれは遠い遠い先の事。普通の人間である魔理沙が終点に着いた時、周りの少女達はまだ少女のまま歩みを進めているに違いないのだ。
「いつか私がボロボロに変わってしまっても、あいつらは私を、今の私を覚えているだろうか。あいつらと馬鹿をやり合った私を。でも……もしかしたら、あいつらにとってボロボロになった私は、私じゃないのかもしれない。一緒に馬鹿をやれない私は。それを思うと怖くて、いても立ってもいられないんだ」
自らの傷口を抉りながら、最早泣き出しそうな表情で魔理沙は呟く。そうして絞り出された言葉は、事更に霖之助の耳朶とそして胸を打った。
そう遠くない先、魔理沙は今のようにがむしゃらには飛べなくなるかもしれない。少なくとも、今のまま少女を続ける事は出来ないだろう。そうなった魔理沙は、彼女の友人達にとっての『魔理沙』のままでいられるのだろうか。それとも友人達は、変わってしまった魔理沙になど興味はなく、また別の『魔理沙』と馬鹿をやり合うのだろうか。
彼女の最も恐れた事。それは大切な友人達にとって、自分はただの暇潰し、路傍の転がる石に過ぎないのではないかという事。自由気ままに彼女達とつきあえる今の内はいいが、それが上手く立ちゆかなくなった時、あっさりと自分は捨てられるのではないかと。
「怖くて怖くてどうしようもないから、忘れられる前に私からあいつらを捨ててやるんだ。あいつらに、一生忘れられない傷が残せればいいと願いながら。だから私は、ボロボロになる前に死にたいんだ。流れ星のように派手にな」
そう言うと魔理沙は、先程までとは打って変わって晴れやかな笑みを見せた。しかしそれは何処か諦念を感じさせる、無理して作っているのがありありと見て取れる笑いだった。
「そりゃあ私だって、これがどれだけ愚かな事かは理解してるつもりだ。だからこれは選択肢の一つ。あらゆる手を尽くしに尽くして、それでもどうにもならなかった時、選ぶかもしれない道の一つだ。だから案外、ケロッとした顔で生きてるかもな? ボロボロの身体で」
あくまでこれは可能性の一つだと魔理沙は言う。しかし、霖之助は内心で理解していた。魔理沙の事だ、きっと本当にどうしようもならなくなったら、迷わずこの選択を取るだろうと。可能性の一つなんていうのは誤魔化す為のポーズだと言う事を。霖之助の知る霧雨魔理沙という少女は、『諦めて受け入れる』事を何より嫌っていたから。
「これを誰かに言うのは初めての事なんだぜ、香霖。なんでわざわざお前にこれを言ったか判るか?」
「……いや、皆目見当も付かないかな」
霖之助は少し考え込むそぶりを見せるが、すぐに両手を挙げ降参を告げる。魔理沙はその白旗を見やると今まで座っていた壺から降り、いつも通りの不貞不貞しい表情を浮かべながら霖之助に言い寄っていった。
「私の周りの奴らはみんな強い、私に何があろうと関係なく生きていけるくらいに。けどな香霖!」
霖之助の目の前に立った魔理沙は、歩み寄った勢いそのままに、彼の目と鼻の先に人差し指をずいと突き出す。
「お前は格別に弱いからな! きっと突然私が流れ星になったら、いつまでも女々しくウジウジしてるだろう? そんな事にならないように今の内に教えておいてやったんだ。私は優しいからな」
魔理沙は自信満々に胸を反らしながら、霖之助は女々しいと告げる。霖之助はその様子と物言いに、思わず苦笑いを浮かべた。
「……そうだね。魔理沙は優しい。それに強いな」
「強い? 私が? ふん、皮肉か。本当に強かったら、死にたいなんて言わないぜ」
「フムン……そうだね。君が誰にも言わないでいた秘密の計画を話してくれたお礼だ。僕も一つ秘密を教えてあげよう。商売人としては、ただでものを貰うのは性に合わないからね」
霖之助は咳払いを一つすると、腕を組みながら話を続ける。魔理沙はと言えば、一体何を言い出すのやらと楽しみ半分、呆れ半分でその話に耳を傾ける。
「僕はね、魔理沙。君が言ったように弱くて仕方がない。だから君が、君たちが怖くて仕方ないんだ」
そう言いふっと苦笑した霖之助の気配が、斜に構えて聞いていた魔理沙の身体を揺らした。
私が怖い? 強いの後は怖いとは何の冗談だ。魔理沙は思わず言い返そうとする。しかし今の霖之助の調子は、茶々を入れるのが憚られるような雰囲気があり、結局返そうとした言葉は口中で霧散した。
「君はさっき言っただろう。他人の中の自分が消えるのが怖くてしょうがないと。僕もそれと同じなんだよ。但し僕の場合は、自分の中の他人が消えるのが怖くてしょうがなかったんだが」
自分の弱さ、最も知られたくない部分を率直に告げる霖之助。魔理沙はそれを聞いて、ある事実を悟る。彼は別に半妖だからといって、自分とはまるで違う特別な存在などではない。普段一歩引いた立ち位置から世の中を見据えて、どこか超然とした雰囲気を漂わせていた霖之助もまた『弱い人間』の部分を持っていたのだと。霖之助の弱さは、鏡に映った自分自身の弱さなのだとも。
結局、自分と霖之助はお互いに似たもの同士と魔理沙は気付く。そしてそれに呼応するように、得体の知れない熱が自らの中で高まるのを感じた。
「知っての通り僕は普通の人間とは違う。だから、他人と歩み寄って生きるなんて事は出来なかった。歩幅が違うんだ」
歩幅が違うから、人間に歩み寄ろうとしても誰もが先に行ってしまう。かといって妖怪に近付けば、彼等は半妖の自分よりもゆっくりと歩く。そうして置いて行かれて一人ぼっちになるのが怖くて、ならば最初から近寄らなければ良いと、次第に霖之助は思うようになっていった。
「でも僕は魔理沙のように強くはなかったから、一人きりのまま自分から消えるなんて選択肢は選べなかった。だからおっかなびっくり、境界線の上を歩き続けているんだ。思い切って近寄る事も出来ず、遠ざかる事も出来ずに」
結局、一人で生きていけるほどの強さは霖之助にはなかった。押しては返すさざ波のように、人に交わろうと近づいたと思えば、いつしか恐怖心に駆られ身を引く。こうして彼は、光とも闇とも付かない薄暗がりを恐る恐る歩いてきた。そしてその中途半端な立ち位置のまま、どことも付かない中途半端な場所に店を構え、今に至るという訳だった。
そこまで言うと、霖之助は「ふぅ」と一つ息を吐いた。そして今までにない真剣な目をすると、改めて魔理沙へと身体を向け直す。
「だから魔理沙。もし君が流星になるその時は、是非僕も一緒に乗せてくれないだろうか。強い君と一緒なら、弱い僕も飛べる気がするんだ。飛んでしまえば、歩幅の違いなんて関係ないからね」
諦めとも悟りとも取れる笑みを浮かべながら、霖之助はその手を魔理沙へと差し出した。その手は、弱い自分をここから連れ去ってくれと祈っているのだろうか。それとも、その手を掴んだ彼女を決して離さないという決意の表れだろうか。
「ああ、いいぜ香霖。その時が来たら、とっておきの特等席に乗せてやるよ。それで二人して、誰も彼もの心の中に焼き付くでっかい流れ星になってやろうぜ」
魔理沙は霖之助の提案に心底楽しそうな笑みになると、自らの内奥の熱が赴くままに力強く、彼が伸ばしたその手を掴むのだった。互いの強い部分、弱い部分。それを知って補い合える二人なら、必ず輝く流れ星になれると確信しながら。
でもこれ死ぬ約束でもあるんだよね…
灰になってお墓の下なんて、らしくないもん
だが後書きで台無しだwww
良いですね
後書きにもあるように、二人が炎となっているからだろうか。
後腐れのないハタ迷惑なやつらだw