小野塚小町は限界だった。
「いやぁ、不覚だったね。まさかこんなことになるとは……」
自分の不注意により起こった惨事、小町は長年"友"と思ってきた者によって胸を締めあげられていた。
何の恨みでもあるのか、それの締め上げる力は異常に強い。
無理やり振りほどこうと思っても、締め付けにより呼吸も満足に出来なくなってしまった小町にとって
それは既に不可能であった。
相手に拘束されている以上、能力を使って逃げることもできない。
今まで何の敵意も感じなかった相手によるこの仕打ち。
それを全く予想できなかった自分の鈍感さに嫌気がさした。
「やばい――もう無理」
浅い呼吸の中で小町は自分の限界を感じた。事実、視界は既に白んできていた。
意識を失ってしまうのも、時間の問題だと思われた。
「四季様、あたいが倒れたら気づいてくれるかな」
こんな極限の状態になっても、考えてしまうのは己の上司のことであった。
また魂を運んでこないと怒る少女の顔が頭にちらついた。
こんなことになるなら普段からちゃんと仕事をしておくべきだった。
いつも自分のせいで怒ってばかりいる彼女。
こんなときに思い浮かぶ顔が怒り顔だなんて本当に申し訳ないと思った。
最期ぐらい笑顔を見たかったと、今までの自分の行動を少しだけ後悔した。
倒れることに恐怖はなかった。むしろ小町は今まで怠けていた自分への罰だと感じていた。
ただ、今後コレが彼女に害を与えるのではないかと、それだけが怖かった。
ついに限界が来た。小町は最後まで上司の事を考えていた自分に苦笑した。
「ごめんなさい。今日はもう魂そっちに運べそうにないです」
最後に、か細い声でそう対岸に向かって呟くと、彼女は意識を手放した。
どう、と彼岸に死神の倒れる音が響き渡った。
◆◆◆
一向に魂が運ばれてこないことに業を煮やした幻想郷の閻魔、四季映姫は、部下の様子を探りに行った。
いつものようにサボっているのだろうと見当をつけていた矢先、彼女は川岸に倒れこんだ死神の姿を発見した。
映姫はあわてて近づき、容態を確認する。
倒れていたのは彼女の部下、小野塚小町。
呼吸はしているが、顔面は蒼白で意識もない。映姫は自分の顔から血の気が引くのを感じた。
周囲を警戒したが、敵の気配は感じられなかった。
映姫はすぐに緊急事態を表す弾幕を打ち上げ、意識を回復させるために耳元で彼女の名を呼んだ。
「小町、小町。分かりますか。小町!返事をしてください!!」
繰り返すこと数度、小町の目がうっすらと開かれた。
「いったい何があったのですか!?今助けをよんでいます。しかし、一体何がおきたのです!?」
意識の回復にひとまず安心するものの、
いち早く小町の現状を掌握したいという焦りにより、思わず語気が荒くなってしまう。
なぜ小町は倒れたのか、病気なのか、それとも誰かに襲われたのか――。
小町の状態に対する恐れと怒りとが映姫を包みこんでいた。普段の冷静沈着な彼女の姿はどこにもなかった。
映姫は小町の唇が微かに動くのを感じた。
しかし、その音を聞きとることは出来なかった。
すぐさま映姫は小町の口元に耳を近付け、一語一句漏らさず聞き取れるよう懸命に努める。
すると今度は小町のかすれた声を聞くことが出来た。
「し……き、さま……。さ……らし、が……きつくて……t」
映姫は全てを悟った。
彼女は静かに小町から身体を話すと無言で小町に懺悔の棒を振り下ろした。
ぎゃん、と短い悲鳴が響き渡った後、辺りは静寂に包まれた。
彼女の死神はもう喋らない。
今日も幻想郷は平和である――。
いや、何となくデカメロンタグで想像できましたがw
しかし、意識失うほどって相当…。
誤字報告を。
・「映姫」が時折「英姫」に
・幻想今日→幻想郷
あと、「業を切らす」ではなく「業を煮やす」かと思います。
「ブチンぼるるんっ!」
に違いない。んで映姫様は反動で吹っ飛ぶ