(一)
地上に出て日の当るところでうたた寝でもしようと、場所を探したところ、でかい体の死神が一足先に来て寝ていた。
閻魔様に叱られるんだろうなぁ、でもこのお姉さんいくら言ってもきかないんだろうなぁ、と思いつつ前足を死神のほっぺたにぽてんとのせた。
肉球でぽてぽてと頬を叩く。さとり様ならこれで起きる。でも死神のお姉さんは起きないので、人型になってでかい乳を揉んだ。起きない。しかたないので脱がせようとしたらさすがに起きた。
寝ぼけ眼に目やにがたくさんくっついていたので、ずいぶん長いこと寝ていたんだろう。起き上がって場所をあけてくれたから、今度はあたいが寝ようと思って丸くなると首根っこひっつかまれて話につきあわされた。
三途の川を渡る死にたての霊の話は聞きあきたので、今日はお前の操る怨霊の話を聞かせろ、と言う。未練を残して死んでその上お前のような妖怪にこき使われているのだから、さぞかし怨みたっぷりのずず黒い話があるだろう、と言う。
ずいぶんな言い草だ。自分の操る怨霊の話なんてまともに聞くことはない。けどまあ、使役していると少しずつ、未練だか怨みだか知らないが、そんなものが染みでてくることはある。短い話でもひとつして、さっさと寝かせてもらおうと思った。
男がひとりいて女がひとりいた。夫婦だった。夫婦はちょっと危険なところを歩いていた。どうしても隣村に行かなければならない用事があったんだ。けれど夜に、そんなところをほっつき歩いていては、襲ってくれと言っているのに等しかった。
相手が妖怪だったら巫女かなんかが助けてくれたかもしれない。けれど相手は強盗だった。強盗は男を殴り倒し、妻を犯した。おもしろいことに強盗は妻を気に入ってしまったみたいで、俺の女になれと言う。妻は拒絶した。ではこの男を殺してしまう、と強盗は言う。女は考えた。
どちらが得だろうか。
そういう言葉で考えたのではないにしろ、なにかとなにかを比べて、迷ってしまったのは事実だった。男にもそれがわかって、男は妻を罵倒した。自分の心を知られたのがわかると、妻は恥ずかしくなった。それで強盗と男に、どちらかが死んでほしい、と告げる。生き残った方に私はついて行く、と。
強盗は了承し、自分の短刀の一本を男に投げ与えた。それで自分とたたかえと言った。男は鞘から刀を引き抜くと、一呼吸も待たずに妻を刺し殺した。呆然とする強盗に踊りかかるが、強盗はなんとかそれを避け、這々の体で逃げ去った。男はその場で自殺した。
という話を死神のお姉さんにした。お姉さんは、うーん、と腕組みをして、不幸な話だなあ、と言った。それで男の方と女の方、どっちがお前さんの怨霊になったんだい。どっちもかい、と訊く。
どっちも転生して今じゃあ幸せに暮らしてると思うよ、とあたいは言う。死神は眉を上げて、じゃあその後強盗が死んで、そいつがなったのか、と言う。そうでもない。
女の腹の中には赤子がいたんだよ。まだ目立ってはいなかったけど。けれどそれもね、夫婦はその子を流産させちまおうって考えてたんだよ。金がなかったのかなんなのかは知らないが、堕胎の薬をもらいに行くところだったんだ。だから夜に、そんなところを歩いていたんだよ。
女が死んだ後も赤子は腹の中で少しだけ生きていて、それで死んだよ。それがこいつさ。
と言ってお気に入りの怨霊を呼び出してお姉さんに見せると、死神はちょっと難しい顔をした。
(二)
地上に出て日の当るところでうたた寝でもしようと、場所を探したところ、でかい体の死神が一足先に来て寝ていた。
閻魔様に叱られるんだろうなぁ、でもこのお姉さんいくら言ってもきかないんだろうなぁ、と思いつつ前足を死神のほっぺたにぽてんとのせた。
肉球でぽてぽてと頬を叩く。起きない。人型になってでかい乳を揉み、間髪入れず速攻で脱がせようとしたところ下まで辿り着く前に起きた。
寝ぼけ眼に目やにがたくさんくっついていたので、ずいぶん長いこと寝ていたんだろう。起き上がって場所をあけてくれたから、今度はあたいが寝ようと思って丸くなると首根っこひっつかまれて話につきあわされた。
この前は暗い話を聞いたから、今度は陽気な話をしろ、と言う。あんな話を聞かされた後じゃ、ついつい仕事に身が入っちまったよ、不甲斐ないことだとかなんとか。無茶苦茶だ。あたいは火焔猫で、死体集めが生業なんだ。怨霊どもから笑い話でも聞き出せってのか?
しかしまあ面倒くさい。この前程度の話で満足するならお安い御用だ。短い話でもひとつして、さっさと寝かせてもらうことにした。
女がひとりいてもうひとり女がいた。覚妖怪だった。さとり様とこいし様だね。地霊殿の寝室でお二人はあれやこれや洋服をとっかえていた。どこに出かけるんだか知らないが、普段しない正装をいくつもためしているので、きっと大事な用事なんだろう。もう一時間もあれでもない、これでもないとたくさんの服を脱いだり着たりしていた。
お姉ちゃん髪の毛が桃色だからこっちの色のほうが合うわ。
こいしは色が白いからもう少し派手なものを着なさい。
なに、肌の白さじゃさとり様だって一緒だ。そしてあたいに言わせれば、服は黒色のロングドレスで決まりだ。レースやフリルを使うのもいいし、コルセットをつけてもいい。薄い色の洋服なんて、やってられないね。
かねてからそう考えていたあたいはつかつか歩いて、自分の部屋からお気に入りのドレスを二着持ってきた。さとり様もこいし様も、きょとんとした顔をしてたね。だけどものはためしと思ったんだろう。すぐにふたりともそれに着替えた。鏡を見ると素敵な黒いドレスに身を包んだ地獄の当主様とその妹様が、驚いたような顔つきで自分を見ていた。あたいの服なんて着たのはじめてだから、見慣れなくて戸惑っていたんだ。けれどほら、想像してご覧よ。さとり様とこいし様が二人揃ってあたいのドレスを着てるんだよ。うれしくって、きれいで可愛らしくて色っぽくって、鼻血が出そうじゃないか。
ひとしきり鏡を見つめて、それから向い合ってお互いの姿を心ゆくまで検分して、それからおずおずと、こいし様があたいに尋ねたよ。
あのー、お燐、似合うかな。
あたいは答えたね。
「にゃあう」
地上に出て日の当るところでうたた寝でもしようと、場所を探したところ、でかい体の死神が一足先に来て寝ていた。
閻魔様に叱られるんだろうなぁ、でもこのお姉さんいくら言ってもきかないんだろうなぁ、と思いつつ前足を死神のほっぺたにぽてんとのせた。
肉球でぽてぽてと頬を叩く。さとり様ならこれで起きる。でも死神のお姉さんは起きないので、人型になってでかい乳を揉んだ。起きない。しかたないので脱がせようとしたらさすがに起きた。
寝ぼけ眼に目やにがたくさんくっついていたので、ずいぶん長いこと寝ていたんだろう。起き上がって場所をあけてくれたから、今度はあたいが寝ようと思って丸くなると首根っこひっつかまれて話につきあわされた。
三途の川を渡る死にたての霊の話は聞きあきたので、今日はお前の操る怨霊の話を聞かせろ、と言う。未練を残して死んでその上お前のような妖怪にこき使われているのだから、さぞかし怨みたっぷりのずず黒い話があるだろう、と言う。
ずいぶんな言い草だ。自分の操る怨霊の話なんてまともに聞くことはない。けどまあ、使役していると少しずつ、未練だか怨みだか知らないが、そんなものが染みでてくることはある。短い話でもひとつして、さっさと寝かせてもらおうと思った。
男がひとりいて女がひとりいた。夫婦だった。夫婦はちょっと危険なところを歩いていた。どうしても隣村に行かなければならない用事があったんだ。けれど夜に、そんなところをほっつき歩いていては、襲ってくれと言っているのに等しかった。
相手が妖怪だったら巫女かなんかが助けてくれたかもしれない。けれど相手は強盗だった。強盗は男を殴り倒し、妻を犯した。おもしろいことに強盗は妻を気に入ってしまったみたいで、俺の女になれと言う。妻は拒絶した。ではこの男を殺してしまう、と強盗は言う。女は考えた。
どちらが得だろうか。
そういう言葉で考えたのではないにしろ、なにかとなにかを比べて、迷ってしまったのは事実だった。男にもそれがわかって、男は妻を罵倒した。自分の心を知られたのがわかると、妻は恥ずかしくなった。それで強盗と男に、どちらかが死んでほしい、と告げる。生き残った方に私はついて行く、と。
強盗は了承し、自分の短刀の一本を男に投げ与えた。それで自分とたたかえと言った。男は鞘から刀を引き抜くと、一呼吸も待たずに妻を刺し殺した。呆然とする強盗に踊りかかるが、強盗はなんとかそれを避け、這々の体で逃げ去った。男はその場で自殺した。
という話を死神のお姉さんにした。お姉さんは、うーん、と腕組みをして、不幸な話だなあ、と言った。それで男の方と女の方、どっちがお前さんの怨霊になったんだい。どっちもかい、と訊く。
どっちも転生して今じゃあ幸せに暮らしてると思うよ、とあたいは言う。死神は眉を上げて、じゃあその後強盗が死んで、そいつがなったのか、と言う。そうでもない。
女の腹の中には赤子がいたんだよ。まだ目立ってはいなかったけど。けれどそれもね、夫婦はその子を流産させちまおうって考えてたんだよ。金がなかったのかなんなのかは知らないが、堕胎の薬をもらいに行くところだったんだ。だから夜に、そんなところを歩いていたんだよ。
女が死んだ後も赤子は腹の中で少しだけ生きていて、それで死んだよ。それがこいつさ。
と言ってお気に入りの怨霊を呼び出してお姉さんに見せると、死神はちょっと難しい顔をした。
(二)
地上に出て日の当るところでうたた寝でもしようと、場所を探したところ、でかい体の死神が一足先に来て寝ていた。
閻魔様に叱られるんだろうなぁ、でもこのお姉さんいくら言ってもきかないんだろうなぁ、と思いつつ前足を死神のほっぺたにぽてんとのせた。
肉球でぽてぽてと頬を叩く。起きない。人型になってでかい乳を揉み、間髪入れず速攻で脱がせようとしたところ下まで辿り着く前に起きた。
寝ぼけ眼に目やにがたくさんくっついていたので、ずいぶん長いこと寝ていたんだろう。起き上がって場所をあけてくれたから、今度はあたいが寝ようと思って丸くなると首根っこひっつかまれて話につきあわされた。
この前は暗い話を聞いたから、今度は陽気な話をしろ、と言う。あんな話を聞かされた後じゃ、ついつい仕事に身が入っちまったよ、不甲斐ないことだとかなんとか。無茶苦茶だ。あたいは火焔猫で、死体集めが生業なんだ。怨霊どもから笑い話でも聞き出せってのか?
しかしまあ面倒くさい。この前程度の話で満足するならお安い御用だ。短い話でもひとつして、さっさと寝かせてもらうことにした。
女がひとりいてもうひとり女がいた。覚妖怪だった。さとり様とこいし様だね。地霊殿の寝室でお二人はあれやこれや洋服をとっかえていた。どこに出かけるんだか知らないが、普段しない正装をいくつもためしているので、きっと大事な用事なんだろう。もう一時間もあれでもない、これでもないとたくさんの服を脱いだり着たりしていた。
お姉ちゃん髪の毛が桃色だからこっちの色のほうが合うわ。
こいしは色が白いからもう少し派手なものを着なさい。
なに、肌の白さじゃさとり様だって一緒だ。そしてあたいに言わせれば、服は黒色のロングドレスで決まりだ。レースやフリルを使うのもいいし、コルセットをつけてもいい。薄い色の洋服なんて、やってられないね。
かねてからそう考えていたあたいはつかつか歩いて、自分の部屋からお気に入りのドレスを二着持ってきた。さとり様もこいし様も、きょとんとした顔をしてたね。だけどものはためしと思ったんだろう。すぐにふたりともそれに着替えた。鏡を見ると素敵な黒いドレスに身を包んだ地獄の当主様とその妹様が、驚いたような顔つきで自分を見ていた。あたいの服なんて着たのはじめてだから、見慣れなくて戸惑っていたんだ。けれどほら、想像してご覧よ。さとり様とこいし様が二人揃ってあたいのドレスを着てるんだよ。うれしくって、きれいで可愛らしくて色っぽくって、鼻血が出そうじゃないか。
ひとしきり鏡を見つめて、それから向い合ってお互いの姿を心ゆくまで検分して、それからおずおずと、こいし様があたいに尋ねたよ。
あのー、お燐、似合うかな。
あたいは答えたね。
「にゃあう」
お燐ちゃん、もう一遍こまっちゃんを起こしに行ってくれませんか次こそは次こそは
………終わり!?
いやむしろなんか清々しいけどw
そして安心のエロ猫
やられました。
藪の中かしら? ちょっと展開は違うけれど。
にゃあい。