[はじめに]
・長大になってしまったので連載モノの体裁を取らせていただきます。
・不定期更新予定。
・できるだけ原作設定準拠で進めておりますが、まれに筆者の独自設定・解釈が描写されていることがあります。あらかじめご注意下さい。
・基本的にはバトルモノです。
以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。
前回 プロローグ前編
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「今回あなたたちに萃まってもらったのは……他でもない。――みんなで暇つぶしをしましょう」
紫がそう言い放ち、緊迫していた空気が一気に弛緩した。会場の後ろの方で固唾を飲んで聞いていた魔理沙とアリスもぽかんとしている。
――暇つぶし?そう言ったか?それだけのためにこんなメンツを萃めたって?
その疑問は会場内の多くのものも同じようで、疑問符を頭の上に浮かべているものばかりだった。それぞれに隣の者と話す声で会場がざわめきだつ。
ただその時、目の前の何人かの妖怪たちだけは、どこか得心のいった顔をしていたのをアリスは目ざとく見逃さなかった。
壇上の紫は、なぜか満足気にニヤニヤと笑っている。
「まぁ、暇つぶしといってもみんなでオママゴトしようってわけじゃないわ。そんなの、せっかくこれだけの人に萃まってもらったのにもったいないですしね」
紫は続ける。
「今回萃まってもらったのはちょっとしたお遊戯に参加してもらうため。せっかくやるからには頭数が欲しかったから」
相変わらずに彼女は要点を外した話し方をする。
「具体的に言えば……そうね、チーム対抗戦、とでも言えば一番わかりやすいかしら?」
具体的に、と言われてもまだ、会場にいるものの多くは盛大に疑問符を浮かべていた。
そんな彼女たちを置き去りに、
「さて、具体的なこと、って言ったばかりなんだけど……疲れちゃったわ。慣れないことはするもんじゃないわね」
そう言って勝手に話を締めると、
「――と、いうことで、ここからの説明は藍に引き続きやってもらうわ」
残りを自分の式神に丸投げした。
紫がすごく適当なタイミングで話を切り上げたにも関わらず、彼女の式神、八雲藍はすんなりと壇上に姿を現し、打ち合わせをしたかのようにスムーズに主人と入れ替わる。
「さて、皆様。ここからの説明をさせていただきます。八雲藍です。知ってる方ばかりではありますが、一応お見知りおきを」
壇上で恭しく一礼をし、丁寧な口調で挨拶を始める。
「では、僭越ながら私から具体的な説明をさせていただきます。――これから皆様には四つのチームにわかれて頂きまして、そのチームごとの対抗戦をしていただきます」
まるで原稿があるかのように、藍は淀みなく切り出してゆく。
「どのような方法で戦っていただくかと言うと……命に関わらない程度でしたら、基本的に方法は自由です。まぁ幻想郷の慣例として『弾幕ごっこ』であることが一番好ましいですかね。――しかし、繰り返し申し上げますが、戦い方は自由です。各々、また、チームの方針から決めていただいて結構です」
ふぅん、という声が、どこかから洩れた。
「また、勝負してやられたとしても、開催中に戦線復帰が可能でしたら、自由に復帰していただいて構いません。まぁ命を奪うことは禁止しますので、大体の方はやられてもまた戦えるでしょう。任意降伏、つまりギブアップも同じ条件です。――相手が受諾してくれれば、ですが」
間を置かずに、藍の説明は続く。
よく噛まないもんだなぁ、などと考えながら、魔理沙はすでに話半分で聞いていた。長い話が聞いていられない面々は、すでに飽き始めている。
「なお、各チームには“リーダー”を置かせていただきます。このリーダーがやられてしまうとチームとして敗北が決定、及び、そのリーダーの率いるチームメンバーの以後の戦闘が禁止となります。リーダーの方を復活可能にしてしまうと、いつまでたってもチームの負けが決まりませんのでリーダーの方のみ、敗北やリタイア後の戦線復帰は認められません。ご了承下さい」
「もって回ったような言い方だけど……つまりは敵のリーダー役を全員倒せば勝ちってことでいいのよね?」
同じく壇上にいたレミリアから、説明を遮るようにして質問が入った。
「えぇ、お察しの通りです。リーダー役の人がやられてしまった時点で、チーム全体の負けが確定し、そうして最終的に残ったチームがいれば勝ちとなります」
とりあえず、チームを組んで敵の大将を倒すゲーム、ということであるようだ。
なるほどな、と魔理沙は納得したが、そんな彼女の隣でアリスは一人、どこか腑に落ちないといった顔のままでいた。
中断された藍の説明が再び始まる。
「今のレミリアさんのように、質問は随時承っておりますので、お気軽にどうぞ。………………よろしいですかね?――では、次にチーム編成です。現在この会場にいる三十九名をごちゃごちゃに混ぜた混成チームを四つ、こちらで作らせてもらいます。特例的に数名の方には何人かで固まっていただき、一枠とさせていただきますので、基本的には一チーム九名編成となる計算ですね。種族、生まれ、現在の主従……すべて関係なく混ぜさせていただきます。ですから、現在誰かに仕えている方は、それぞれの主人と戦う形になってしまう可能性が高いですが……まぁ遊びだと思って割り切って下さい。私も今回ばかりは紫様に刃向かわせていただきます」
「あらー?藍。ずいぶんと挑戦的ね。お仕置きが必要かしら?」
「ぜひお手柔らかにお願いします」
「ふふふ……ほらほら、こっちと話をしてないで説明を続けなさいな」
「おっと失礼。お恥ずかしい所をお見せしました。とりあえず、そういうことです。ちなみにチーム分けは公平を期すためにこれからクジ引きで決めさせていただきます。――また、先ほどリーダーの説明をする際に申し上げ忘れていましたが、リーダー役の方は勝手ながらこちらで決めさせていただきました。発表の際に、今初めて聞いた、というリーダー役の方は事後承諾という形となってしまうことをお許しください」
そう言いながら、藍は壇上で深々と頭を下げた。
事後承諾とは言え、この場にいるのはチームの頭に据えられたら喜ぶようなタイプばかりだから問題ないだろう、と魔理沙は勝手に思っていた。おそらく紫もそう考えていたからリーダー役の承諾をわざわざ取り付けておくことはしなかったのだろう。
とは言え、リーダー役のチョイスについては気になるところであった。
先程の話を聞くに、リーダーに弱いやつを持ってこられたらその時点でチームとしての負けが確定してしまうようなものだ。勝手に決めるくらいだから、おそらくそんなに偏った選抜はしないだろうが。
――万が一、チルノあたりがリーダーのチームに組まれたら、内部でクーデターでも起こしてやろう。きっと面白いことになるぜ。
魔理沙は密かに息巻いていた。
「それでは、リーダー役の方を発表させていただきます。――まず、ここ紅魔館のレミリア・スカーレット様、次に永遠亭の蓬莱山輝夜様、並びに守矢神社の八坂神奈子様、そして、主催者である八雲紫様。これらのお歴々にリーダー役をやっていただこうと思います」
会場内がまたざわつく。
案の定、“なによ、私じゃないのー?”と不満を叫ぶ声も聞こえた。誰の声かは聞き取れなかったが――おそらく氷精か天人だろう。
「それでは、今挙げた四名の方は壇上までお願いします」
藍の号令で、四名が壇上に集結する。
壇上から、レミリアと紫。
人ごみを掻き分けるようにしてステージへと昇る、輝夜と神奈子。
さすがにリーダー役に選ばれるだけあって、四人とも、急な指名でも動揺の様子は見られない。
というか、改めて見るとみなそれぞれの根城で主をしているような面々ばかりだった。
彼女たちなら力的にも、組織を導く指導力的にも問題はなさそうだが――なぜか魔理沙は、急に違和感を感じた。なぜだろう、と考えたみたが結局理由が思いつかない。さっさと諦めて壇上の動きに集中することにした。
四名が壇上に揃う。
主催者の紫と、予め話を聞いていたであろうレミリアは別としても、とっさに呼ばれた輝夜と神奈子ですら、どこか“こうなることを予測していた”といった顔をして、そこに立っていた。
「レミリア様には予め承諾の方は貰っていますが、お二人はリーダー役を引き受けていただけますか?」
藍が輝夜と神奈子に今さらの確認を取る。
「せっかくご指名をもらったんだもの。やらせていただくわ」
「私も異論はないね」
と、二人ともあっさり二つ返事で首を縦に振っていた。
――やっぱり、何か変……か?……気のせい?
「それでは了解の方も得られましたところで、これからリーダーの方にチーム分けのクジ引きをしていただきます。引かれた方の名前を読み上げさせてはいただきますが、少々お時間もかかります。みなさま、楽にしてお待ち下さい」
そう言って藍は、自分の式神である橙にクジが入っているであろう箱を持って来させた。
※
会場は再び、それなりの騒々しさを取り戻していた。
それぞれに一緒に来た友人と喋ったり、その場に用意された軽食を黙々と食べたり、興味津々と壇上を眺めたりと、思い思いに過ごし、自分の名前が呼ばれるのを待っている。
不思議なことに、レミリアが現れ、藍の長ったらしい説明が始まり、クジ引きにいたるまで、会場にいる皆が比較的大人しく話を聞いていた。
落ち着きのない妖精も、わがままな天人も、飽きっぽい幽霊も、人の話を聞かない人間も、誰もが壇上の声に耳を傾けていた。
改めて考えると、これは不思議な光景である。異様である、とさえ言えた。しかし、そのとき会場にいたもののだれもがそのことを疑問には思わずにいた。
「いやー、あの悪趣味な妖怪にしてはなかなか面白そうなことを企画するじゃないか」
魔理沙は近くのテーブルから持ってきた、なんだかよくわからない料理を口に運びながら言った。紅魔館で出る料理だからか、全体的に赤みがかっているメニューばかりだった。
「吸血鬼の家で出る料理なんだから、全部血が入ってるとかじゃないわよね?これ」
そんな魔理沙の横で、アリスは綺麗に盛り付けられた料理を訝しげに眺めていた。なんとなく口を付ける気にならなかったので料理は持たず、とりあえず飲み物だけを手にしている。それすらも正体不明ではあったが。
チーム分けのクジ引きは今も行われている最中である。
まず、レミリアがクジを引き、天狗を仲間に引き入れ、次に紫が引き、白玉楼の所の庭師を引き当てたところまで興味津々で眺めていたのだが、どうせ自分が引かれれば呼ばれることに気づき、耳だけ澄ましながら料理でも食べて待っていることにしたのだ。
「アリスと私は誰のところに配属されるかね?」
「さぁ?別に誰のところでも構わないけど……なんとなく紫のところは嫌かしら」
「おいおい、そんなに嫌ってやるなよ。きっとアイツはいい上司だぜ。藍のようにコキ使われることだろうよ」
「それがヤダって言ってんのよ」
壇上では、輝夜がクジを引いていた。
まだそんなもんしか進んでないのか……とも思ったが、もしかしたらもう何週かした後かもしれない。まぁ自分が呼ばれてない以上、魔理沙にはどうでもいいことだった。
「……あ。そういえば、霊夢見たか?」
ふ、となんでもない拍子に、今日来る前に誘い損ねた友人のことを思い出した。
「あぁ、そういやそうね。私たちが最後だったみたいだから、来てるんなら先に来てたんだろうけど……見てないわね。まだ名前も呼ばれてないみたいだし。たぶんだけど」
「ふーん……まぁこんだけ面白そうなイベントだ。アイツも参加してんだろ」
「私たちも実際来るまでどんなことやるのか知らなかったじゃない。そもそもあの子ならこんなことやるって知ってたら来なかったわよ?メンド臭がって」
「霧雨魔理沙さん」
話に夢中になっているうちに名前を呼ばれ、魔理沙はハッとして壇上の方へと目をやった。
箱の前に立っていたのは――レミリアだった。
となると、どうやら吸血鬼のお嬢様に引き当てられたようだ。
「あーはいはい、ここだぜー」
返事をしながら手を振っておく。
壇上にいるレミリアは相変わらず偉そうにしながら立っているだけだった。魔理沙の方を眺めながらも、特にリアクションは無く、ふいっと箱の前から下がっていってしまった。
「なんだよ。この私を引き当てたんだぜ?もっと嬉しそうな顔してもいいだろうに」
「自分の屋敷に入る泥棒がチームメイトじゃ気も滅入るんじゃない?」
「何度も言うようだが、私は盗んでるんじゃない。借りてるだけだぜ?それにレミリアからはなにも盗ってないんだから恨まれる謂われはないな」
「今自分で“盗った”って言いながらよくもまぁぬけぬけと……」
「アリス・マーガトロイドさん」
魔理沙が呼ばれてすぐにアリスにも指名がかかった。壇上へと視線を戻し、箱の前にいるリーダー役を確認する。
壇上では神奈子がこちらを見て手を振っていた。つくづくフランクな神様だ。
アリスは特に返事もせず、軽く会釈だけし、視線で確認の意を送っておいた。
「――どうやら私は神様チームのようね」
「そのようだな。つまり、お互い敵同士になったわけだ」
「そのようね。なに?手加減でもして欲しいの?」
「おいおい、私とおまえの仲じゃないか。――手なんか抜いたらこっちも手を抜いてやるからな」
「あら、それはいただけないわ。あなたとならいい勝負しそうなのに。まぁ所詮黒白二色のあなたの力は、私の二割八分六厘にも満たないけど」
「ふん、言ってろ。撃つと動くぜ。主に私が動く」
二人して臨戦態勢になったところでクジ引きは終わったようだ。藍が壇上でそんなようなことを言って挨拶をしている。
そんな藍の言葉を耳にした時点で、二人してある事実に気がついた。
ほぼ同時に、
「あ」
という間の抜けた声を漏らす。
二人とも話に夢中で、自分のチームのチームメイトをまったく把握していなかった。
※
「さて、皆様大変長らくお待たせいたしました。おかげさまでチーム分けの方もつつがなく終了となりました。紅魔館のメイド長がここまで読み上げた分をまとめて下さっていたようですので、改めてこちらをご覧下さい」
そう言って壇上にチームの一覧が書き出された紙が貼りつけられ、壇下にいたものがこぞってステージの傍まで寄ってくる。
チームメイトをまったく把握していなかった二人もいそいそとその人だかりの中に混ざっていった。
レミリア・スカーレット
射命丸 文
東風谷 早苗
藤原 妹紅
紅 美鈴
橙
永江 衣玖
霧雨 魔理沙
ルーミア
八雲 紫
魂魄 妖夢
リグル・ナイトバグ
八意 永琳
フランドール・スカーレット
上白沢 慧音
風見 幽香
小野塚 小町
鍵山 雛
八坂 神奈子
鈴仙・優曇華院・イナバ
博麗 霊夢
西行寺 幽々子
プリズムリバー三姉妹
ミスティア・ローレライ
秋静葉 秋穣子
アリス・マーガトロイド
比那名居 天子
蓬莱山 輝夜
河城にとり
十六夜 咲夜
パチュリー・ノーレッジ
伊吹 萃香
チルノ
レティ・ホワイトロック
洩矢 諏訪子
八雲 藍
「ほー、私のチームには文やら早苗やらいるのか。それにレミリアがいて、妹紅がいて、私……なんだ、楽勝そうじゃないか」
「あら、私のところにも幽々子やら霊夢やらが……ってそういえば、いるわね。霊夢」
「あー?……ホントだ。なんだよ、やっぱり来てたんじゃないか。水臭いヤツだな……って…………ん?」
「どうかした?」
「……オマエのトコ、なんかやたら多くないか?」
アリス――もとい神奈子のチームは、確かに頭数が多かった。プリズムリバーの三姉妹と秋の神の姉妹が両方とも一枠の中に納まっていたためである。
藍の説明していた「特例的」グループだろう。三人で一枠と二人で一枠とがあったらしい。しかもそれが両方とも神奈子のチームにいたため、他のチームが九人編成であるのに対し、このチームだけ実質十二名もいた。
「あら、ホントね。これが例の“特例”ってことかしら?しかし、特例を両方引き当てるって……噂の神通力ってヤツかしら?」
「……ただのズルじゃないのか?」
騒霊の姉妹も秋神の姉妹も一人一人の力はそんなに大したものではないため、この特例措置はわからなくもない。だが固まられると、それはそれでやっかいである。特に騒霊の三姉妹は三人揃うとチンドン騒ぎに収拾がつかなくなるので、下手をするとチームメイトからもやっかいがられる。それでもまともに弾幕勝負となれば、魔理沙あたりなら問題なく勝てる部類であることに変わりはないので、彼女は大した心配はしていなかった。
ともあれチーム編成は、頭数の問題を差し引けば、わりとバランス良く振り分けられているように見えた。
そう、クジ引きで分かれるにしては、バランス良く。
「さて、そろそろみなさんチームの確認もすんだでしょう。一応この表の小さいのを各リーダーの方にもお配りさせていただいたので、また気になりましたらリーダーの人に見せてもらって下さい」
壇上で藍がおもむろに切り出した。
「それではみなさまには各チームに散っていただきましょう。各チームの拠点はそれぞれのチームのリーダーの方のお住まいを使わせてもらえるそうですので、そことさせていただきます。また、紫様のチームは幽々子様から白玉楼の使用許可をいただきましたのでそこが開始地点となります。幽々子様には主人の代わりにこの場を借りて厚くお礼を申し上げます」
紫はどうやら主催者のくせに自分の家を使わせたくないようだ。それならそんなルールにしなければよかったのに。
「では、各チームの移動は紫様のスキマを使わせていただきますのでどうぞ。――また最後になりましたが、各チームの拠点から半径数キロ圏内でのみ、戦闘の方が認められております。これは……そうですね。紅魔館で言えば霧の湖、永遠亭で言えば竹林全域が含まれるくらいが目安です。それ以外――例えば、人間の里などでの戦闘行為は禁止です。これは今回のイベントに参加していない方々に迷惑をかけないための措置だと思ってください。ちなみにこれに違反した場合は、そのチームの連帯責任としてチームを即時解散し、以後の参加を禁止する、という厳罰を以って処させていただきますので、お気をつけ下さい」
そこまで言ってから、一拍間を置いた。
「では、簡単ではありましたが、これで私からのルールの説明は終わりとさせていただきます。長々とお付き合い下さいましてありがとうございました。それではそれぞれの拠点へと、移動の方始めさせていただきます。――皆様のご健闘をお祈りしております」
言葉を締め、深々と頭を下げる。
それと同時に、会場の中に大きなスキマが三つ現れた。
それぞれが、白玉楼・永遠亭・守矢神社に通じているのだろう。各チームのリーダーがそれぞれスキマの前へと進み、それを目印にして、他の面々もぞろぞろと移動を始めた。
「じゃあな、アリス。せいぜい頑張って倒されてくれ」
魔理沙はレミリアのチームなので居残りである。
「ええ、それじゃあね。あなたも張り切ってやられてね」
アリスは神奈子のチームであるので移動である。
憎まれ口を挨拶に、アリスがゆっくりとスキマへと歩を進めた。
参加者は彼女らのように、思い思い一緒に参加した相手との挨拶を交わし、スキマの中へと消えていった。次々と参加者は部屋から減っていき、定員を飲み込んだスキマから空間を閉じるようにして消えてゆく。
そうして、最後に残ったスキマが一つ。
それに紫が入りながら、そこに残った九名へと声をかけた。
「ふふ、それではごきげんよう。せっかくなんだから楽しんでいってね」
その紫のセリフに、レミリアが返事を返す。
「ここまでしたんだからそうさせて貰うわ。あなたも、精々楽しませてね」
「あら、怖い怖い」
そう言いながら紫はスキマの中に入り、そして消えていった。
紅魔館の来客用のホールの中、先ほどまでいた大人数の喧騒は聞こえない。
振り分けられた一/四が、思い思いに胸を膨らませながら、そこに佇んでいるだけだ。
現状を不安になど、そこにいる誰一人として思っていなかった。
幕間
紅魔館――――――
「さて、邪魔者も去ったことだし、作戦会議するわよ!!」
レミリア・スカーレットは、そう言って息巻いていた。
さっきまで、壇上で大人しくしていた姿はどこにもない。よっぽど楽しみであったのか、わかりやすいほどにウズウズしているのが顔に出ている。キラキラと輝く紅い瞳で、そこにいる八人を見渡していた。
「って言ってもなぁ……なにを作戦会議するんだ?」
不思議そうな顔をしながら、霧雨魔理沙が尋ねた。
「何って……これから具体的にどう動くか、って話じゃないんですか?役割分担とか……どこから攻める……とか」
魔理沙の顔がよっぽど間抜けなものに見えたのだろう、傍にいた風祝、東風谷早苗は半分呆れながらに返した。
まだ幻想郷に来て間の無い彼女は、神奈子や諏訪子と離れたことで、少し緊張しているように見える。こっちでやってる宴会にも顔は出したし、そう知らない人ばかりでもないのだが、まだ多少心許ないのだろう。
「そうですね。まぁ作戦会議って言うくらいだから、きっとその辺のことを話し合うんでしょう」
そんな不安げな早苗の声に、竜宮の使い、永江衣玖が続いた。普段、雲の中をフヨフヨ漂っているか天人のワガママに付き合わされているかの彼女も参加しているのだから、今回のイベントの集客力は半端なものではないとわかる。
「関係無いんじゃないか?適当に攻め入って、目に付いた敵から倒していく、でいいんじゃない?」
「……それ、作戦って言うんですか?」
好戦的な案を出した藤原妹紅に、紅美鈴がツッコミを入れた。剣呑な話の割に、不思議なほど緊張感が感じられない。
「でもそれアリなんじゃないですか!?攻撃は最大の防御ってことで!!」
「そーなのかー」
橙とルーミアにも緊張感は皆無である。少女ばかりの面々の中でも、特に幼く見える二人もはしゃいでいる。背丈だけならレミリアも変わらないのだが、もちろんそれは誰も口には出せない。
「まぁ私はなんでも構いませんよ。山から出て来れた時点で一人の新聞記者なんで。面白ければなんでもアリです」
そう言った天狗、射命丸文の手にはなぜか愛用の手帖とペンが握られていた。今何をメモっているか知るものはいないし、それに興味を示すものもいなかった。正直メモを取るような有用な話は、まだひとつも出来ていないのだから。
「……んで、結局どうするんだい大将殿?」
そして最終的に話をまとめたのは、魔理沙であった。アリスあたりが見たら違和感を感じずにはいられない光景だが、他に言い出すものがいなかったのだから仕方ない。
「そうねぇ。今聞いた中で一番面白そうだった人間の意見でいいんじゃない?」
「このチームに人間は三人いるぜ」
「あら、ホントだ。よくこんだけ固まったもんね。人間は群れて生きる生き物って本当だったんだ」
「いや、そもそもクジ引いたのあなたじゃないですか……」
早苗は早くもグッタリしていた。慣れない面々の中にいるだけで疲れるのに、それがしかもこれほど濃くては、彼女でなくとも疲れるだろう。
「冗談よ。――妹紅。あなたの案で行きましょう」
「そりゃどーも」
「って言うと適当に攻め入るってことですか?」
美鈴が尋ねた。
尋ねる声を、“待ってました”と言わんばかりの自信満々な笑顔で迎えると、
「そうよ。まぁぶっちゃけ誰も言わなくてもそうするつもりだったんだけど」
レミリアは言い放った。
改めて考えると、このお嬢様が館で大人しく侵攻されるのを待つとは思えない。彼女をよく知っている者たちは、思わずしみじみと納得してしまった。
「――それで、どこから攻めるんですか?三択しかないですけど」
「別にどこだっていいわよ?上手く散らばってるみたいだし、どことやってもそれなりに面白そうだしね。……そうだ、妹紅決めていいわよ?言い出しっぺなんだし」
「私が言わなくてもそうする気だったくせに、よく言うよ」
そう言って妹紅はケラケラと笑う。
「んー……私も別にどこでもいいかな。って言っても、他のチームの編成ってよく覚えてないけど」
「へぇ、オマエのことだから輝夜のチームからやるって言い出すと思ったぜ。いつもやりあってるだろ?」
魔理沙の疑問はもっともである。
蓬莱山輝夜と藤原妹紅による、不死人同士の結果の出ない殺し合いは有名であった。やるたびに竹林が炎上したりしていたのだから有名にならない方がおかしい。しかも蓬莱の薬を飲んだ不死人同士による、千年以上も続いている途方もない話だ。普通の魔法使いの魔理沙からすれば、意味がわからないのを通り越して笑い話ですらあった。
「いつも殺りあってるからさ。なにもわざわざこんな日に会いに行く必要はないね。――まぁいざやるとなったら、輝夜は私にやらせてもらうけど」
「なんだよ結局やるんじゃないか。飽きないヤツだなぁ」
「うっさいよ」
ニヤニヤと笑う魔理沙に、妹紅がツンケンと返す。
「じゃあ結局どこに行くかは決まらず、ね。なら私が勝手に決めちゃうわよ?リーダーなんだし」
やけに嬉しそうにレミリアが言った。なんだかんだ言いながらも組織の頭として自分主導で物事を進めていくことが好きなお嬢様は、ポーカーフェイスが苦手なようである。
「ん――――じゃあ、妖怪の山に行きましょう」
「ほぉ、ちなみにその動機は?」
文がレポーター口調で尋ねた。こんな時まで新聞記者の姿勢を崩さないとは、流石天狗である。普段から、仕事とは別に彼女はこの役回りを楽しんでいるのだろう。
「特に理由は無いわ。ここから一番近場にあるからってだけよ」
「そりゃまた、大雑把な理由ですねー」
「わかりやすい、って言って欲しいものね。まぁ期限なんて三日しかないんだから、近場からやってかないと。――ん、じゃ、目的地も決まったことだし、行くわよ」
「え!?すぐですか!?作戦会議は!?」
早苗は慌てて声を上げ、静止しようとしたが、
「あら?あなたは今までなにしてたのかしら?……はい!魔理沙!!」
「作戦会議です!!」
奇妙なテンションのレミリアと魔理沙のコンビに阻まれた。なぜか妙に息が合っている。
「はい良く出来ました。わかったかしら?」
「いや、でも目的地決めただけじゃないですか……」
「他になんか決める?営繕係とか」
「じゃあ私恋愛係やるぜ!」
「それは中等部からね」
「……もういいです」
早苗はガクンと肩を落とし、反論を諦めた。
どうやら彼女の期待していた作戦会議は、ほとんど期待していたことをやらない内に終わっていたようだ。
――これが幻想郷仕様なのかしら……?
「さて、話も済んだことだし……出かけましょうか。こんなお祭り滅多にないわ。精々倒して倒されることを――楽しみましょう」
そう言いながら吸血鬼は羽をはためかせ、玄関へと向かっていった。
永遠亭――――――
「ふぅ……あの妖怪のスキマって初めて入ったわ。うーん…………便利だけど快適なもんじゃないわねぇ。なんか居心地悪くなかった?」
蓬莱山輝夜は永遠亭に着くなり、誰に言うともなく愚痴をこぼした。
流れる黒耀の髪を肩から払う。竹林に住まう永遠の姫は、その美しさを竹取の時代から保ち続けていた。
「まぁ基本的には誰かを入れるためのものではありませんからね。仕方ないですよ」
八雲藍が輝夜の愚痴を拾う。豊満な九本の尻尾をゆさゆさ揺らす様と、人の良さそうな笑顔は、壇上にいた時から変わらない。
「うちのチームの連中は……ひふみよ……っとはぐれてなさそうね」
「流石に紫のスキマではぐれたら洒落にならないなぁ」
あはははははー、と、伊吹萃香が豪快に笑う。
紫との親交が深い彼女はあのスキマに入ったのも初めてではないらしく、ケロッとした顔で瓢箪の酒をあおっていた。
「まぁ、私も含めて無事でなによりね。あれでリタイアだったら笑い話にもならないわ」
部屋の中を見渡し、それぞれの顔を眼に収める。
今日を入れ、三日を共に過ごす面々。知る顔もあれば、知らない顔もある。
輝夜はそこにいる一同へと、薄く微笑んだ。
「――さて。ようこそ月から最も遠い屋敷、永遠亭へ。歓迎するわ。……って言ってもお茶出しの兎は他所へ行っちゃってていないからお茶は出ないけど」
輝夜のチームに割り振られた面々はスキマによって飛ばされ、永遠亭の一室に集っていた。
畳敷きの普通の一間。こうして九人もの人間がいても狭苦しさを感じさせない広い部屋で、そこに移された彼女たちは、立っていたり座っていたりと各々勝手にくつろいでいる。
「ねぇレティ!!探検しよう!!あたい永遠亭って来るの初めてなの!!見たことない生き物でるかも!恐竜とか!!」
「私も来るのは初めてよ、チルノ。普段竹林の方って来ないしねぇ~」
氷精、チルノは早くもテンションが上がりきっていた。今回招待された唯一の妖精である彼女だが、やはり良くも悪くも妖精である。状況を問わず持ち前の落ち着きの無さが遺憾なく発揮されていた。
隣で冬の妖怪、レティ・ホワイトロックがたしなめるでもなく返事をしている。やはり、冬に強い二人は仲が良いのだろう。
冷気・寒気に依る二人は、相性としても良いのかもしれない。
「いいわよ、二人とも。せっかく来たんだから存分にウロウロして頂戴。迷子になったら“迷子になったー”ってちゃんと言うのよ?あと、残念ながら恐竜は出ないわ」
「おぉー!!なんか許しが出たみたい!ね、行こうレティ!!」
「そうね~。じゃあ行こうかしら。失礼しますね~」
そう言って二人はバタバタと座敷を後にした。廊下を遠ざかってゆく声が、だんだんと小さくなっていくのが聞こえた。
「――まったく、妖精は元気ね。ウチでも一匹飼おうかしら。永琳が許してくれなそうだけど」
「……妖精飼ってても大して働かないし、ロクなことないわよ」
「まぁ残念ながら同感ですわ。ホント残念ながら」
パチュリー・ノーレッジと十六夜咲夜が、そう返した。
紅魔館にもメイド妖精がかなりの数いるが、ほとんどはまともに働いていない。フワフワとそこら辺を漂っているのが関の山。ヘタをすると仕事を増やす始末である。そのため、結局メイド長である咲夜がほぼ全ての家事をやっているのだ。
「ところで、二人欠けちゃったけどいいのー?これからのこと……なんか話すんじゃない?」
「そうそう。まぁチルノあたりは聞いてても覚えられなそうだけど」
一角に座る、洩矢諏訪子と河城にとりが尋ねた。彼女らも比較的落ち着きのない部類だが、さすがに妖精より長生きしているだけあって、すぐに飛び出していくほど幼くはないようである。
「あーそうねぇ。んー……。って言っても別に今日はなんかする気は無かったから、いいんじゃない?」
輝夜の気の無い返事。
「……はい?」
その声には思わず、誰ともなくそんな声を漏らしてしまっていた。
「まぁまだ始まったばかりよ。せっかく期限が三日もあるんだしね、ゆっくりと構えましょ」
「――じゃあ、このチームの方針としては、専守防衛ってこと?」
諏訪子は尋ねる。
「いや、そういうワケでもないわ。とりあえず今日はチーム行動的なことをするつもりは無いって話。ただの待機ね。あ、別に出かけるのは構わないわよ?だから実際今日は“待機”って言うより“自由行動”にするわ。どう?」
「……少し悠長過ぎるんじゃないかしら?他のチームも動き出しは一緒なんだけど」
そうパチュリーが異を唱え、
「そうですね。他のところが攻め入ってきたときはどうするんです?」
と、藍も追言した。
そんな二人からの反論を前にしても、輝夜は変わらずにあっけらかんとしたままだ。
「んー?まぁそうなったらバラバラに逃げるなり戦うなりしていいわよ?今日は完全に“自由行動”だからね」
そう言い放ち、
「ま、今日ウチに団体さんで攻め入ってくるとは思えないけどね」
と、静かに一言付け加えた。
「ちなみに聞こうかな。――根拠は?」
その発言に反応したのは、萃香だった。
始終楽しそうに笑って眺めていた彼女だったが、酒を呑む手を止め、真面目な顔で訊ねる。
「無いわ。ただの勘よ。――もっと言えわせてもらえば、私の勘だから外れるとは思えないけど」
輝夜は薄く笑って応える。
二人は暫時、お互いの眼を見合う。誰も声を上げず、重い沈黙が流れる。
一瞬で限界まで張り詰めた空気は、しかし、
「――ははっ」
不意に微笑んだ萃香の声で、あっさりと破られた。
「ならしょうがないねー。今日はなにしよっかなー?」
瓢箪の中身を煽りながら、ケラケラと笑って輝夜の提案を受け入れていた。ほんの今までの重い雰囲気は、すでに跡形も無い。
「やることないなら私と晩酌しない?永遠亭には普段からお酒飲む人っていなくて。一人酒にも飽きてたのよ」
「お、いいねぇ。言っとくけど私はお酒強いよ?鬼のように」
「あら、私もなかなかよ?なんせどれほど飲んでも肝臓悪くならなくてね」
二人はそう言って、いつの間にか酒飲み談義に花を咲かせている。
輝夜は萃香に合わせていた視線を、そのまま他の少女たちに送る。
「あなたたちはどう?」
小首を傾げて全員を見た。
一瞬答えあぐねるような間が出来たが――それぞれに返事は決まっていた。
「……まぁ今回私の主はあなたになっていますしね。指示には従いますよ」
と藍、
「そうね。自由行動も魅力的だし」
とパチュリー、
「私も一緒に呑んでいいですかね?」
とにとり、
「んじゃあ、私も竹林見て回ってようかなー」
と諏訪子、
そして咲夜は姿勢良く座って微笑んでいた。
それにしても和室にメイドは不調和ね、そんな呑気な感想が輝夜の頭に浮かんだ。
とりあえず、どうやら誰からも反対意見はないようだった。
「満場一致ね。――あ、そうそう。どこ行っててもいいけど、明日の夜にはちょっと動く気でいるからそれまでには帰ってきててね。何するかはまた明日言うわ。できれば一人も欠けてない方がいいなぁ。……それじゃあ、狐さん?」
「藍ですよ。最初に壇上で挨拶したじゃないですか」
「あらそうね、ごめんごめん。とりあえず、明日まで自由だけど明日には帰って来なさい、ってさっき出てっちゃった二人に伝えて来てくれる?」
「ふふ、やっぱり先に出て行かせたらマズかったんじゃないですか」
「む、揚げ足取りはよくないわよ?せっかくいつも口煩いのがいないんだから勘弁して頂戴な」
「それはそれは失礼しました。では、行ってきますね」
そう言って藍は静かに座敷を後にした。その後姿を見送ると、輝夜は不意に咲夜の方へと視線を向ける。
「さて、紅魔館のメイドさん?あなたにもお願いがあるわ。……このチームを預かるリーダーとしてね」
彼女は真面目な顔をしてそう言った。
「はい、なんでしょう?」
咲夜も真面目な表情で応える。
ここまでを笑って過ごした輝夜の真面目な顔――それと向き合う彼女は、何か大事な命を受けるのかと心を構える。
「奥に台所があるから、そこから適当にお酒を持ってきて頂戴。あと、お酒に合うおつまみね」
輝夜の真面目な表情は長くは続かず、そう喋り終わるころには、笑顔に戻っていた。
その言葉と雰囲気に、咲夜は杞憂であった緊張を解きながら、
「かしこまりました。お嬢様」
微笑んで応え、こ慣れた普段通りの仕事に就いた。
守矢神社――――――
「うーん、やっぱり我が家は落ち着くねぇー」
八坂神奈子は大きく伸びをした。
洋館というのも嫌いではなかったが、やはり自分の神社の方が居心地が良い。彼女を祀る神社であるので、居心地が良いのが当然でもあったが。
「へぇ~これがもう一個の神社かぁ……。話には聞いてたけど初めて来たわ。こっちのがおっきくていいわね」
「あら、私は博霊神社の方が好きよ~。あの小ぢんまりしたのがいいんじゃない。まるで茶室のようで趣き深いと思わない?」
失礼な話で盛り上がっているのは天人、比那名居天子と亡霊、西行寺幽々子である。二人とも自宅は広大な屋敷であり、住居に対する感覚が麻痺しているのだろう。件の小さな神社に住んでいる巫女を目の前にして堂々とサイズ比較をする彼女たちは、確実に他の感覚もちょっと麻痺していた。
「うっさいわよ。神社ったら私んトコくらいが普通なの。ここは大きすぎ」
博麗神社の巫女である、博麗霊夢も一応の負け惜しみを口にした。残念ながら、貧乏神社である博麗神社は一般的な神社からしても小さい方である。とは言え、最近まで幻想郷で唯一の神社であったので本人自身も一般的にどの程度なのかは知らなかった。
「そういえば、私たちは博麗神社にお呼ばれしたことってないわね。まったく。豊穣を祈り、それに感謝する気はないのかしら」
「まぁあの神社で新嘗の祭りなんかやっても人が萃まってくれなそうだし、別にいいんじゃない?」
そう言って姉の秋静葉は、憤慨している妹、秋穣子をなだめた。この姉妹はともに紅葉・豊穣を司る八百万の神の端くれである。今回ペアで登録されているように、秋でない今は彼女たち単体に大した力は備わっていなかったが、曲がりなりにも神格である。祀る対象の神々にも博麗神社は小馬鹿にされていた。
「♪ららら~貧乏~ビンボォ~で~なぜ悪い~」
と、ふざけて歌にしている夜雀ミスティア・ローレライに、これまたふざけて騒霊のプリズムリバーの三姉妹がアドリブで曲をつけている。やはりこの三姉妹を固めて迷惑被ったのは同じチームの面々であったようだ。それに夜雀の歌も加わって収拾がつかなくなっているので、想定していた以上の効果だと言えよう。
「はいはい、ドンチャン騒ぎもいいけど、結局これから私たちはどうすんの?」
パンパンと手を叩いてアリス・マーガトロイドが切り出した。危うく収拾がつかなくなりそうなところで出てきた彼女は、若干イラついていた。呆れていたとも言える。
「そ、そうですよ!騒いでる場合じゃないですって!」
アリスに便乗して鈴仙・優曇華院・イナバも声をあげる。普段なら率先して姫や師匠の脱線を修正しようと声を出す彼女だったが、その姫も師匠もいないこの状況では声をはさむのが多少遅れていた。
「おぉっと、そうだね。久々のチンドン騒ぎで楽しくなってる場合じゃなかった」
そう言って、ようやく神奈子が動き始めた。
――まったく、ホントに騒いで終わらすつもりだったのかしら……ありうるわね。
アリスはまた呆れ、思わず頭を抱えたくなる。
「さて……んじゃまぁ一応自己紹介でもしとこうかね。この組の長を任せてもらう、八坂神奈子よ。今は幻想郷で神やってます。まだ会ったことなかった人も、そうじゃない人も、神頼みならココ、守矢神社をよろしくね。神様が直々に相談に乗るよ」
そう言って、自分の紹介だか神社の紹介だかわからないような自己紹介をしていた。神社に祀られている神とは思えない気さくさは相変わらずで、いっそ清々しいほどである。
「ん~名前だけは聞いてるけど、実際会うのは初めての人ばかりだねぇ。なんせ私も、こっちに越して来て日が浅くてねぇ……ホントはちょっとお酒でも酌み交わしながらお話したいんだけど、今回そういう会じゃなさそうだし」
「じゃあ、どうするのかは決まってるみたいね~。――で、どうするのかしら?」
そう切り出したのは幽々子だった。
彼女の顔は先ほどと変わらない笑顔のままだったが、どことなく圧を感じる気配を出している。自身が頭に据えられてもおかしくはないほどの力の持ち主だけに、自分を治める立場にある神奈子を見定めようとしているかのようだった。
「――そうだね。まず、今日を凌ごうか」
「って言うと?」
アリスが食いつく。
「戦いはすでに始まってるっていうことさ、人形使いさん。私たちはまず、攻めてくるものに対しての備えが必要じゃないかしら?」
「言いたいことはわかりますが……こちらから攻めるんではないんですか?」
鈴仙も質問してみた。先ほどから聞きたいことを先にアリスに言われてしまっているが、聞きたいことに違いはないため彼女は特に気にしていなかった。
「そうさねぇ。実質意味は変わらないんだけどね。こっちはどうやら守りの戦いの方が強そうだから、“守る”っていう攻撃方法を取る方針で行こうと思うわけよ」
そんな神奈子の提案を、天子は口を尖らせながら聞いていた。
「ふーん、つまり籠城戦ね。まぁ楽でいいけど……こっちの方に攻めてくる保証はあるのかしら?いやよ、山で三日過ごして終わり、っていうの」
誰が見てもわかるくらいに不満そうな顔の彼女を見て、思わずに笑いながら神奈子が答える。
「大丈夫さ、どう頑張ったって相手は三組しかないんだし。ウチも確実に狙われるだろうよ」
そう言う彼女の顔は、まるで自分がチームリーダーとして狙われる立場にいるのを楽しんでいるようにも見えた。
「まぁ……それに私の勘なんだけどね、たぶんすぐに来るよ。今晩中に。誰が来るかは知らないけど、たぶん誰だかが。まぁきっとそれを凌いでれば今日の暇は上手いこと潰れるはずさね」
「あら、ずいぶん立派な勘をお持ちなのね。それじゃあなにか策もあるのかしら?」
幽々子も楽しそうだった。
よく見ると天人も騒霊も夜雀も秋神も月兎もいつの間にか期待に膨らんだような眼差しをしていた。
それに気づいたアリスは、おもむろに霊夢の方を見た。
他の誰にも見えない所で、彼女だけが、つまらなそうな顔で佇んでいた。
to be next resource ...
幻想郷で1、2を争う戦闘力に加えて、スキマを使った奇襲を行えば、神奈子勢のような防衛(篭城)戦法が無意味になり、結果的に戦略としては「攻める」一択になってしまうと思う。
誤字報告的な。
>>季節はまだ晩夏であったが、二人とも季節は問わないようだ。
レティは冬の間しか出てこれませんよ。
根本的解決にはなってませんが……非常に申し訳ない、脳内補完でお願いします。これ言ったらキリ無いんであんまり好きじゃないんですが……。
季節もこのまま。レティにもまだ頑張ってもらいます。
紫の扱いについては決まってます。
かなりチート解釈なトコも出てくるかもしれませんが……まぁゆかりん無双にはしませんのであしからず。
チルノの冷気のお陰で夏でも、チルノの付近だけ大丈夫ってとこですかね?