長く厳しかった冬も3月ともなれば雪も融け始め、人々も草花も春を迎える準備を始める。分厚い綿入れを仕舞い、春用の物に変える者、そろそろ花粉に怯える者、ハルデスヨーとはしゃぐ者、様々である。
人がこうなら草木も動物も、永い眠りから醒め、再び食物を、光を、水を、手に入れようと活動を始める。
春告精もじきに空を駆け回ろう、生きとし生けるものが活動を再開する季節、喜びの季節、それが春である。
―そう、唯、一人を除いては……
『冬の琥珀』
ここは地底の入り口付近、暗く、ごつごつとした岩の道を一人の女が歩いている。彼女の姿は荒れた道とは真逆、白く一部とがった不思議な帽子、真っ白なエプロンドレス、光り輝く金の三又のブローチ、背には大きな革袋を背負い、おおよそ優雅とは言いがたい足場でもゆっくりと、時折歌を口ずさみながら歩いて行く。
「さて、このあたりに……」
彼女は思い出したように近くの岩陰を探る、するとすぐにお目当てのくすんだ真鍮のハンドベルは見つかった
「あの子に会うのも起きた時以来か……」
少し嬉しそうに呟くそして、すっ、とハンドベルを翳す、ベルを軽く振る、軽やかの音が洞窟に広がった、そして――
ひゅうううううう、からん!
「……(地底にようこそ……あれ?と、言っている)」
軽快な落下音と共に彼女の眼前に突然桶が飛び降りてきた、そしてその桶は小さく囁くような声で歓迎の言葉を述べている
「久しぶりね、キスメちゃん♪」
「……!(あ!レティさん、お久しぶりです!と、言っている)」
桶に向かって彼女、レティと呼ばれた女は嬉しそうに笑い掛けた、キスメと呼ばれた桶の少女も嬉しそうに笑った
「もう春がそこまで来ているわ」
暗く、ごつごつとした岩の道を女が歩いている。彼女の腕には一つの桶、その桶に話かけながら暗い道を歩いていた
「……(春は暖かいから好きです、と、言っている)」
「あら?冬妖怪の腕の中でそんなこと言っちゃうの?」
レティはわざとらしく肩を竦めるとキスメは慌てた様に首をぶんぶん振った
「ふふ、冗談よ♪でも不公意ねー、人間は眠るのが大好きなのに大地を眠らせる冬は大嫌い、人間は惰眠を貪るのは大好きなのに目覚めの春は大好きなんだもの、ホント矛盾してるったらありゃしない」
ため息混じりにレティは吐き捨てるように言った、腕の中でキスメはおろおろとうろたえている
「もお、そんなに怖がらないで、大丈夫、コレでも長い事折り合いつけて生きてきたんですもの♪」
出会った時の様な優しい笑顔でレティは言う、キスメはそれを見て胸をなでおろした
ゆっくりとした歩みで二人は尚も荒れた道を歩いて行く
レティ・ホワイトロックは冬の妖怪である、『大地を眠りに誘うもの』、『実体を持つ大寒波』などと古い時代から語り継がれ、冬は強大な力を振るい幻想郷を冬に閉ざす、言わば幻想郷の冬の支配者といっても過言ではない
しかし、春になれば冷酷な支配者も配下の寒気を失い、その力は大きく衰退する、そして力を失った彼女を狙って人間、妖怪、様々なモノが冬の間の復讐を狙って遣って来た
始めはまだ追い払う事っていたが、今はもう、有り体に言うと面倒臭くなってしまっていた
故に今のレティは春から秋の終わりまで誰にも知られない場所で過ごすようになっていたそして、しばらく前の間欠泉騒動の際に地底の存在を知り、人目に付かず静かな地底で春眠をするようになった
「……(あ、もうすぐ着きます、と、言っている)」
「あら、今年は随分浅い所にねぐらを張ったのね」
歩くレティにキスメが言った、恐らく二人が出会って半刻程だろう
「……(地上からのお客さんも増えたんです、リグルさんとかメルランさん達とか……と、言っている)」
「……地底も賑やかになってきているのね」
―また寝床を探さなければならないかもね、とレティは考える
すると、腕の中のキスメは察したのか慌ててレティの腕を掴み、首を横の振る
「行かないで」
言葉は無いが、そういう意味だとレティは解釈し、桶を少し強くに抱きしめる
「大丈夫よ、友達を置いてどこかに行こうだなんて思わないわ」
抱きしめたキスメは泣いているのか、少し震えていた
「あたしの見てる前で友達を取らないでくれないかなー」
突然頭上から声がして二人は中を見上げる、すると逆さになった金髪の少女が上から垂れ下がってきた、いたずらっぽく笑う少女は間髪入れず
「レティは無自覚に良いオンナなんだからさ、キスメには刺激的過ぎるんだよ!」
と、二人をからかうように言った
「フフ、久しぶりね土蜘蛛さん」
懐かしむように微笑み右手を差し出す
「アハハ!うん、久しぶりだねレティ」
嬉しそうに土蜘蛛と呼ばれた少女はレティの右手を握り返した
土蜘蛛の少女は名を黒谷ヤマメと言った、病を操る力を持つが故にかつてこの地底に封印された妖怪である、しかしその危険な力とは裏腹に、明るく気立てのいい性格から『地底のアイドル』などと呼ばれ親しまれていた
レティと出会ったのはレティがこの地底に降り立ってすぐだった、普通とは違う変わった容姿に警戒し、キスメと共に襲い掛かったが、冬の力が残っていたレティに敗れてしまった、その一件で三人は友達になり、ヤマメは地底の一角をレティに春眠場所として貸しているのだ
「まあ、貰うもの貰うけどねー」
「……(誰に話しているの?と、言っている)」
「ハハ、こっちの話さ、じゃあ改めて、レティお土産ちょーだい!」
屈託の無い笑顔で両手を差し出す
「はいはい、じゃあコレを」
革袋の中から取り出したのは紅い液体入りの瓶だった
「わーお!こりゃいいワインじゃないか!早速みんなで飲もうよ、ほら早く!」
久しぶりのいい酒に瞳を煌かせながら足早にヤマメは駆け出した、それを見てレティはやれやれと苦笑しながら、ヤマメの後を追った
「それでは、春の訪れ……いや、これじゃあレティはめでたく無いか、じゃあ、冬の終わり……も、レティはめでたくないし、うーん……」
「何でもいいわよ土蜘蛛さん、それじゃかんぱーい」
「ええっ!?」
司会であるはずのヤマメの乾杯の音頭を待たず、レティの音頭で三人の酒盛りは始まった
レティの持ち込んだワインを呑みながら三人は色々な話をした、レティは友達の妖怪や妖精の話や人里の噂話、キスメとヤマメは不思議な地底の妖怪達の話や地底で起きた小さな事件の話、話題と笑いは絶えず、三人は楽しい時間を過ごした
「でね、その竜宮の使いが……、あら?」
隣で呑んでいたキスメは何時しか眠っていた
「あー、キスメにしちゃあ呑んだからねぇ」
ヤマメは苦笑すると近くに有った毛布をキスメに掛けた、ううん、と桶の中から寝ぼけた声が聞こえた気がした
「フフ、まるでお姉さんね」
グラスを傾けながら、眼前のほほえましい光景を見て呟く
「あー、よく言われるわー、ま、嫌な気はしないけどね」
毛布を掛けながらヤマメが苦笑しながら言った
「……これを飲んだら私も行くわ、もう眠くて死にそう」
「……そっか」
二人の間に、初めて沈黙が生まれた、そして先に沈黙を破ったのはヤマメだった
「また会って話せるのは秋の終わりかぁ」
「そうね……」
再び沈黙が生まれかけた時レティはグラスのワインを飲み干した、今度は先に沈黙を破ったのはレティだった
「……ごちそうさま、じゃあ寝床に行きましょ?」
「うん……」
楽しい時間の過ぎるのは早く、来た時と違い二人の足取りは酷く重かった
レティの寝床となる横穴は最奥に小さな泉を湛えた横穴だった、レティはこの泉に足を浸し水を全て凍らせ、さながら棺のような氷塊の中で眠るのだ、棺に入れば何人たりとも彼女に触れる事はできない、レティが目を醒ますまでは何人たりともである
重い足取りで二人は寝床に向かう、寝床の目印であるグリフォンの化石が見えて来た
「着いたよ、レティ」
「ええ、秋の終わりと何も変わっていないわ」
あっという間に二人は横穴の前まで着いていた、ぽっかり開いた洞穴は変わらずレティとヤマメを迎え入れた
最奥の泉の前に二人は立っている
地下水で満たされた泉は冷たく透き通っていた、もうすぐこの泉が全て凍りつきレティの棺となるのだ
「……じゃあ、キスメちゃんによろしく」
「……うん」
―この泉にレティが足を浸せばもう話せなくなる、けれどこれが自然な事なのだ
と、ヤマメは自分に言い聞かせる
―この泉に私が足を浸せばもうヤマメと話せなくなる、けれどこれが自然なことなのだ
と、レティは自分に言い聞かせる
どれほどの時間が経っただろう、レティもヤマメも言葉も無く立ち尽くしたまま時間だけが流れる、そして、レティが意を決して足を踏み出した、その時
「レティ!!」
突然だった、少ししてヤマメが自分を後ろから抱きしめている事に気が付いた
「つ、土蜘蛛さん……」
「レティ!レティ!!嫌だよ、眠っちゃ嫌だよぉ……!」
「!!」
―嗚呼、気付いてしまった、私は土蜘蛛さんの事が
『好きだったんだ』
―嗚呼、気付いてしまった、あたしはレティの事が
「つち……ヤマメ!」
私は振り返るとヤマメの身体を強く抱きしめる、ヤマメも私を強く強く抱きしめ返した
目が合う、呼吸が聞こえる、ヤマメの香りがする、鼓動を、体温を感じる
今まで感じた事の無い熱を感じる
「レティ!レティ!」
レティは振り返ると私の身体強く抱きしめる、私もレティを強く強く抱きしめ返す
目が合う、呼吸が聞こえる、レティの香りがする、鼓動を、体温を感じる
今まで感じた事の無い熱を感じる
強く抱きしめあう永遠を感じるほどに、そして―――
「じゃあ、行くわね」
「うん……」
レティはほんの少し躊躇して泉に足を入れた、少しして泉の水が足から徐々にレティを凍らせて行く
「レティ、また目が覚めたらいっぱい話しようね!」
「ええ、ヤマメの話を私も聞きたいわ」
「ありがとうレティ、……大好きだよ」
「私も大好きよ、ヤマメでもこの話はキスメちゃんにしないほうがいいかなー、刺激が強すぎるわ」
「あうう……レティのえっち……」
氷はすでにレティの胸の辺りまで来ていた
「フフ、それじゃ……おやすみなさい」
「うん……おやすみ、レティ」
俯きながらの別れ、前からピシピシと氷が張る音が聞こえる
その音が止んだ後、レティから言葉が投げかけられる事は無かった
氷の棺の中のレティは、透明な琥珀に閉じ込められているかのようだった
しばらくその氷塊を眺めていたが、レティが動く気配は無い
遠く地上から不意に風が吹いてきた気がした、冬は今眠った、春が来るのが分かる気がした、そして気が付いた
ここにいても仕方ないんだ、私は春を生きられる、この氷の中で眠る彼女の分まで春を……
「それじゃ、レティバイバイ」
レティに背を向けて歩き出す、入り口へ近づくにつれて少しずつ暖かくなって行く気がした、横穴を出ると空気は明らかに今までと違う、きっとこれが春の空気なんだと感じる
―バイバイレティ、次の冬までおやすみ……
風が吹いている、涙は春風が吹き飛ばしてくれた
人がこうなら草木も動物も、永い眠りから醒め、再び食物を、光を、水を、手に入れようと活動を始める。
春告精もじきに空を駆け回ろう、生きとし生けるものが活動を再開する季節、喜びの季節、それが春である。
―そう、唯、一人を除いては……
『冬の琥珀』
ここは地底の入り口付近、暗く、ごつごつとした岩の道を一人の女が歩いている。彼女の姿は荒れた道とは真逆、白く一部とがった不思議な帽子、真っ白なエプロンドレス、光り輝く金の三又のブローチ、背には大きな革袋を背負い、おおよそ優雅とは言いがたい足場でもゆっくりと、時折歌を口ずさみながら歩いて行く。
「さて、このあたりに……」
彼女は思い出したように近くの岩陰を探る、するとすぐにお目当てのくすんだ真鍮のハンドベルは見つかった
「あの子に会うのも起きた時以来か……」
少し嬉しそうに呟くそして、すっ、とハンドベルを翳す、ベルを軽く振る、軽やかの音が洞窟に広がった、そして――
ひゅうううううう、からん!
「……(地底にようこそ……あれ?と、言っている)」
軽快な落下音と共に彼女の眼前に突然桶が飛び降りてきた、そしてその桶は小さく囁くような声で歓迎の言葉を述べている
「久しぶりね、キスメちゃん♪」
「……!(あ!レティさん、お久しぶりです!と、言っている)」
桶に向かって彼女、レティと呼ばれた女は嬉しそうに笑い掛けた、キスメと呼ばれた桶の少女も嬉しそうに笑った
「もう春がそこまで来ているわ」
暗く、ごつごつとした岩の道を女が歩いている。彼女の腕には一つの桶、その桶に話かけながら暗い道を歩いていた
「……(春は暖かいから好きです、と、言っている)」
「あら?冬妖怪の腕の中でそんなこと言っちゃうの?」
レティはわざとらしく肩を竦めるとキスメは慌てた様に首をぶんぶん振った
「ふふ、冗談よ♪でも不公意ねー、人間は眠るのが大好きなのに大地を眠らせる冬は大嫌い、人間は惰眠を貪るのは大好きなのに目覚めの春は大好きなんだもの、ホント矛盾してるったらありゃしない」
ため息混じりにレティは吐き捨てるように言った、腕の中でキスメはおろおろとうろたえている
「もお、そんなに怖がらないで、大丈夫、コレでも長い事折り合いつけて生きてきたんですもの♪」
出会った時の様な優しい笑顔でレティは言う、キスメはそれを見て胸をなでおろした
ゆっくりとした歩みで二人は尚も荒れた道を歩いて行く
レティ・ホワイトロックは冬の妖怪である、『大地を眠りに誘うもの』、『実体を持つ大寒波』などと古い時代から語り継がれ、冬は強大な力を振るい幻想郷を冬に閉ざす、言わば幻想郷の冬の支配者といっても過言ではない
しかし、春になれば冷酷な支配者も配下の寒気を失い、その力は大きく衰退する、そして力を失った彼女を狙って人間、妖怪、様々なモノが冬の間の復讐を狙って遣って来た
始めはまだ追い払う事っていたが、今はもう、有り体に言うと面倒臭くなってしまっていた
故に今のレティは春から秋の終わりまで誰にも知られない場所で過ごすようになっていたそして、しばらく前の間欠泉騒動の際に地底の存在を知り、人目に付かず静かな地底で春眠をするようになった
「……(あ、もうすぐ着きます、と、言っている)」
「あら、今年は随分浅い所にねぐらを張ったのね」
歩くレティにキスメが言った、恐らく二人が出会って半刻程だろう
「……(地上からのお客さんも増えたんです、リグルさんとかメルランさん達とか……と、言っている)」
「……地底も賑やかになってきているのね」
―また寝床を探さなければならないかもね、とレティは考える
すると、腕の中のキスメは察したのか慌ててレティの腕を掴み、首を横の振る
「行かないで」
言葉は無いが、そういう意味だとレティは解釈し、桶を少し強くに抱きしめる
「大丈夫よ、友達を置いてどこかに行こうだなんて思わないわ」
抱きしめたキスメは泣いているのか、少し震えていた
「あたしの見てる前で友達を取らないでくれないかなー」
突然頭上から声がして二人は中を見上げる、すると逆さになった金髪の少女が上から垂れ下がってきた、いたずらっぽく笑う少女は間髪入れず
「レティは無自覚に良いオンナなんだからさ、キスメには刺激的過ぎるんだよ!」
と、二人をからかうように言った
「フフ、久しぶりね土蜘蛛さん」
懐かしむように微笑み右手を差し出す
「アハハ!うん、久しぶりだねレティ」
嬉しそうに土蜘蛛と呼ばれた少女はレティの右手を握り返した
土蜘蛛の少女は名を黒谷ヤマメと言った、病を操る力を持つが故にかつてこの地底に封印された妖怪である、しかしその危険な力とは裏腹に、明るく気立てのいい性格から『地底のアイドル』などと呼ばれ親しまれていた
レティと出会ったのはレティがこの地底に降り立ってすぐだった、普通とは違う変わった容姿に警戒し、キスメと共に襲い掛かったが、冬の力が残っていたレティに敗れてしまった、その一件で三人は友達になり、ヤマメは地底の一角をレティに春眠場所として貸しているのだ
「まあ、貰うもの貰うけどねー」
「……(誰に話しているの?と、言っている)」
「ハハ、こっちの話さ、じゃあ改めて、レティお土産ちょーだい!」
屈託の無い笑顔で両手を差し出す
「はいはい、じゃあコレを」
革袋の中から取り出したのは紅い液体入りの瓶だった
「わーお!こりゃいいワインじゃないか!早速みんなで飲もうよ、ほら早く!」
久しぶりのいい酒に瞳を煌かせながら足早にヤマメは駆け出した、それを見てレティはやれやれと苦笑しながら、ヤマメの後を追った
「それでは、春の訪れ……いや、これじゃあレティはめでたく無いか、じゃあ、冬の終わり……も、レティはめでたくないし、うーん……」
「何でもいいわよ土蜘蛛さん、それじゃかんぱーい」
「ええっ!?」
司会であるはずのヤマメの乾杯の音頭を待たず、レティの音頭で三人の酒盛りは始まった
レティの持ち込んだワインを呑みながら三人は色々な話をした、レティは友達の妖怪や妖精の話や人里の噂話、キスメとヤマメは不思議な地底の妖怪達の話や地底で起きた小さな事件の話、話題と笑いは絶えず、三人は楽しい時間を過ごした
「でね、その竜宮の使いが……、あら?」
隣で呑んでいたキスメは何時しか眠っていた
「あー、キスメにしちゃあ呑んだからねぇ」
ヤマメは苦笑すると近くに有った毛布をキスメに掛けた、ううん、と桶の中から寝ぼけた声が聞こえた気がした
「フフ、まるでお姉さんね」
グラスを傾けながら、眼前のほほえましい光景を見て呟く
「あー、よく言われるわー、ま、嫌な気はしないけどね」
毛布を掛けながらヤマメが苦笑しながら言った
「……これを飲んだら私も行くわ、もう眠くて死にそう」
「……そっか」
二人の間に、初めて沈黙が生まれた、そして先に沈黙を破ったのはヤマメだった
「また会って話せるのは秋の終わりかぁ」
「そうね……」
再び沈黙が生まれかけた時レティはグラスのワインを飲み干した、今度は先に沈黙を破ったのはレティだった
「……ごちそうさま、じゃあ寝床に行きましょ?」
「うん……」
楽しい時間の過ぎるのは早く、来た時と違い二人の足取りは酷く重かった
レティの寝床となる横穴は最奥に小さな泉を湛えた横穴だった、レティはこの泉に足を浸し水を全て凍らせ、さながら棺のような氷塊の中で眠るのだ、棺に入れば何人たりとも彼女に触れる事はできない、レティが目を醒ますまでは何人たりともである
重い足取りで二人は寝床に向かう、寝床の目印であるグリフォンの化石が見えて来た
「着いたよ、レティ」
「ええ、秋の終わりと何も変わっていないわ」
あっという間に二人は横穴の前まで着いていた、ぽっかり開いた洞穴は変わらずレティとヤマメを迎え入れた
最奥の泉の前に二人は立っている
地下水で満たされた泉は冷たく透き通っていた、もうすぐこの泉が全て凍りつきレティの棺となるのだ
「……じゃあ、キスメちゃんによろしく」
「……うん」
―この泉にレティが足を浸せばもう話せなくなる、けれどこれが自然な事なのだ
と、ヤマメは自分に言い聞かせる
―この泉に私が足を浸せばもうヤマメと話せなくなる、けれどこれが自然なことなのだ
と、レティは自分に言い聞かせる
どれほどの時間が経っただろう、レティもヤマメも言葉も無く立ち尽くしたまま時間だけが流れる、そして、レティが意を決して足を踏み出した、その時
「レティ!!」
突然だった、少ししてヤマメが自分を後ろから抱きしめている事に気が付いた
「つ、土蜘蛛さん……」
「レティ!レティ!!嫌だよ、眠っちゃ嫌だよぉ……!」
「!!」
―嗚呼、気付いてしまった、私は土蜘蛛さんの事が
『好きだったんだ』
―嗚呼、気付いてしまった、あたしはレティの事が
「つち……ヤマメ!」
私は振り返るとヤマメの身体を強く抱きしめる、ヤマメも私を強く強く抱きしめ返した
目が合う、呼吸が聞こえる、ヤマメの香りがする、鼓動を、体温を感じる
今まで感じた事の無い熱を感じる
「レティ!レティ!」
レティは振り返ると私の身体強く抱きしめる、私もレティを強く強く抱きしめ返す
目が合う、呼吸が聞こえる、レティの香りがする、鼓動を、体温を感じる
今まで感じた事の無い熱を感じる
強く抱きしめあう永遠を感じるほどに、そして―――
「じゃあ、行くわね」
「うん……」
レティはほんの少し躊躇して泉に足を入れた、少しして泉の水が足から徐々にレティを凍らせて行く
「レティ、また目が覚めたらいっぱい話しようね!」
「ええ、ヤマメの話を私も聞きたいわ」
「ありがとうレティ、……大好きだよ」
「私も大好きよ、ヤマメでもこの話はキスメちゃんにしないほうがいいかなー、刺激が強すぎるわ」
「あうう……レティのえっち……」
氷はすでにレティの胸の辺りまで来ていた
「フフ、それじゃ……おやすみなさい」
「うん……おやすみ、レティ」
俯きながらの別れ、前からピシピシと氷が張る音が聞こえる
その音が止んだ後、レティから言葉が投げかけられる事は無かった
氷の棺の中のレティは、透明な琥珀に閉じ込められているかのようだった
しばらくその氷塊を眺めていたが、レティが動く気配は無い
遠く地上から不意に風が吹いてきた気がした、冬は今眠った、春が来るのが分かる気がした、そして気が付いた
ここにいても仕方ないんだ、私は春を生きられる、この氷の中で眠る彼女の分まで春を……
「それじゃ、レティバイバイ」
レティに背を向けて歩き出す、入り口へ近づくにつれて少しずつ暖かくなって行く気がした、横穴を出ると空気は明らかに今までと違う、きっとこれが春の空気なんだと感じる
―バイバイレティ、次の冬までおやすみ……
風が吹いている、涙は春風が吹き飛ばしてくれた
続き期待!
作者様の言いたいこと、言わせたい台詞、見せたいシーンがなんとなくですがこちらに伝わって来た様に思えます。
レティが氷の棺の中で眠りにつくシーン、薄っすらと微笑む彼女が目に浮かぶようだ。
ただ、なんと表現すればいいかな、上手な作家さんが十のプロットを箇条書きしてそれぞれをストーリーで
つなぎ合わせていくとすれば、作者様は五か六くらいでそれをしていると私から見ると感じます。
つまりちょっとつなぎ目が粗かったり唐突な印象を受けるといえばいいのでしょうか。傲慢な物言いでごめんなさいね。
プロットの引き出しを多くするには、うーん、どうすればいいんだろう。
非常に月並みですけど体験の積み重ねですかね。見たり聞いたり読んだり遊んだり、そしてその都度アンテナを高く張っておく。
例えばキスメちゃんの描写。私が昔見た映画やプレイしたゲームの表現方法を当てはめてみると、
彼女の台詞はほぼ「……」や「……っ!」、「……??」のみで、相対したレティやヤマメの台詞にその中身を反映させる。
そしてただ一言、作者様が本当に伝えたいただ一言を言語化させる。
キスメちゃんがヤマメの立場なら、「……またね、レティ」とか。────やべぇ、ありきたり且つかなり臭ぇ。
ま、あれですよ。こういう馬鹿な読者のコメントなんかも反面教師にしつつこれからも創作活動頑張って下さい、みたいなね。
長文、失礼致しました。
ご意見ありがとうございます!
ご指摘いただいたとおり、誤字が多くて申し訳ありません
コチドリ様のご意見を踏まえて改めて読んでみて自分の文章の未熟さを痛感しました、でもこれからも是非書かせていただきたいので、その時はよろしくお願いします!
作者さんには期待しています。
レティさんとヤマメちゃんが、互いを意識するようになった経緯なんかをもっと詳しく知りたいですね。
それと、携帯からだと少し読みづらかったので『。』も使って書いた方が読者は嬉しいかと思います。
ありがとうございます、二人の話は書きたいので、そう言っていただけると有り難いです。
携帯から見てみましたが、確かに読みづらいので次からは気をつけます
他、点数を付けていただいた方々も大変ありがとうございました、未熟者ではありますが、これからもがんばって書いていきます!