はじめまして、私の名前はリリーホワイトです。
私の仕事は春を告げることです。
だから私は今日も元気に叫びます。
「春ですよー!」
この言葉を叫ぶたび、私は元気になります。
みんなの心に春を届けることができるからです。
春は気持ちがとってもぽかぽかする季節なのです。
だから、みんなも幸せな気分になって、それで私も幸せになるのです。
つまり、幸せいっぱいということなのです。
「春なんか来るなー!」
突然聞こえてきた声に私はびっくりしてしまいました。
遠くの方から飛んでくる女の子が見えます。
私はおろおろとするばかりで、その場を動けませんでした。
女の子はもう私の前まで迫っていて、私はびくびくと怯えてしまいました。
「春なんかきちゃだめ!」
女の子は私に向かってそんなことを言うのです。
私は何か痛いことをされるのかなと思って怖かったけど、女の子はじっと私の方を睨むばかりで、何もしませんでした。
その時、私はようやくこの子の名前を思い出しました。
湖上の氷精、チルノさんです。
私は、チルノさんに尋ねました。
「どうして春がきちゃだめなんですか……?」
春がきちゃだめなんておかしいんです。
だって、春はとっても幸せなものなんです。
みんなの心があったかくなるものなんです。
だから、春なんか来るな、なんて言うのは絶対におかしいのです。
「春がきたらレティが消えちゃうでしょ!」
チルノさんの大声に、私はまたびくっと怯えてしまいます。
でも、レティという言葉には聞き覚えがありました。
確か冬の妖怪であるレティさんのことです。
「あの……消えちゃうってどういうことですか?」
「レティは冬の間しかみんなの前にいられないの!」
私はそれを聞いてびっくりしてしまいました。
だってそんなお話、全然聞いたことがなかったのです。
でも、確かに私はレティさんと顔を合わせたことがありません。
姿を見かけたのも、春を告げ始めて一日目だったのがほとんどでした。
だから、チルノさんの言うことが本当なのだとわかりました。
「だから、春なんか絶対ダメなの!」
私は、しゅん、とした気持ちになってしまいました。
春はみんなにとって幸せなものだと思っていたのに。
レティさんみたいに冬の間しか姿を見せられない人の気持ちを考えたことがありませんでした。
チルノさんみたいに、怒ってくる人がいるなんて知りませんでした。
私は何にも知らなかったのです。
なんだかすごく申し訳ない気持ちになってきて。
それから、すごく悲しい気持ちになってきて。
私は声をあげて泣き始めてしまいました。
「ちょ、ちょっと、なんであんたが泣いてんのよ!」
私は泣きながら、何度もごめんなさいを繰り返します。
チルノさんに何度も頭を下げるのです。
それから、ここにいないレティさんにもごめんなさいをします。
何にも知らなくてごめんなさい。
人の気持ちを考えない悪い子でごめんなさい。
みんなを幸せにできるって勘違いしててごめんなさい。
「な、泣かれたって困るのよ!はやく春が来るのを止めてよ」
「うぅ……春が来るのは止められないんです……」
「あんたが春を連れてくるんじゃないの!?」
「えぐ……違います……」
私には春を告げる役割があります。
だけど、私がそうしなくても、春はやって来ます。
だって、季節は巡るものなのです。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、そしてまた春が来るのです。
それが自然の流れなのです。
だから、私にはそれを止めることができません
ごめんなさい。
春を止められなくてごめんなさい。
力のない妖精でごめんなさい。
「ご、ごめん、あたいそれ知らなくて!」
チルノさんは私に謝りました。
でも、チルノさんが謝る必要なんてないんです。
全部私が悪いのです……。
「泣かないで、あんたは何も悪くないんだから……」
それでも、私はなかなか泣き止みませんでした。
チルノさんがおろおろしているのを見て、私はさらに申し訳なくなって、もっと泣いてしまうのです。
それから私が泣き止むまで、チルノさんはずっと私についていてくれました。
「ごめんなさい……チルノさん……」
「もういいってば……そんなことよりさ、あんたの名前教えてよ!」
「えっと……リリーです。リリーホワイト」
「リリーね。じゃあリリー、あたいと友達になろう!」
私はびっくりしてチルノさんの顔を見ました。
チルノさんはにこにこと笑っています。
「ど、どうしてですか?だって私はレティさんを」
「だから、それはあんたのせいじゃないんでしょ?あ……それともあたいのこと怒ってる?」
「そ、そんなことないです……」
「じゃあ友達になってくれる?」
私はドキドキしながら、こくんと一つ頷きました。
友達になろうなんて初めて言われたからです。
それに、さっきまであんなに怒っていたチルノさんが、そんなことを言ってくれるなんて思いもしなかったのです。
「よし、じゃあ明日からは毎日湖に集合だからね」
「わ、わかりました」
チルノさんはそれだけ言うとバイバイと大きく手を振って飛んでいってしまいました。
私も小さく「バイバイ……」と言いました。
なんだか、私はまた気持ちがぽかぽかしてくるのを感じました。
それからは楽しいことばかりでした。
春を告げるお仕事を続けながら、時間ができたら湖に行きました。
湖にはチルノさんや、そのお友だちがいっぱいいて、私は一気にお友だちが増えてしまいました。
レティさんはもういなくなってしまっていて、それが少しだけ残念でした。
だけど、ルーミアさんに、リグルさん、大妖精さん、他にもたくさんのお友だちができました。
みんなで弾幕ごっこをしたり、ご飯を食べたり、お昼寝したり、それはとても幸せな時間でした。
春はいつも楽しかったけど、今年は今までで一番楽しい春になったと思います。
ずっとこんな時間が続けばいいな、と思っていました。
でも、私にはそれができないことを、ちゃんとわかっていました。
春の終わりが、近づいていました。
私は最後の日の夜、チルノさんに会いました。
「もう遊べないってどうして!?」
「ごめんなさい……」
「謝られてもわかんないよ!理由を教えて!」
「…………」
「あたいにも言えないことなの?」
「…………春が、終わるからです」
私は春を告げる妖精です。
本来なら、春がはじまるわずかな期間しか、みなさんの側にはいられません。
だけど、みんなといる時間が楽しくて、私は今日までここに残り続けていました。
そのことをチルノさんに伝えたのです。
「……なんでさ……」
「チルノさん……?」
「なんでよ……なんでレティもリリーもすぐにいなくなっちゃうのよ!」
チルノさんの瞳から涙がこぼれていました。
氷精の涙はすごく冷たいと聞いたことがあって、私は反射的に体を震わせました。
でも、俯きながらぼろぼろと涙をこぼすチルノさんが、とても寂しそうに見えて。
私は、チルノさんの涙をそっと指ですくってあげました。
「リリー……?」
チルノさんが不思議そうな顔でこちらを見ています。
私はチルノさんにこっと笑いかけました。
それはまるで、初めてチルノさんと会った時と、逆の立場になったみたいでした。
「チルノさんにはたくさんお友だちがいるじゃないですか」
「友達は数じゃないっ!リリーがいなくなっちゃ駄目なの!誰もいなくなっちゃいけないんだよっ!」
チルノさんは私に向けて叫びました。
その言葉が、私はとても嬉しかったのです。
嬉しくて、涙が出そうになって。
私はチルノさんの体を、そっと抱きしめました。
「ありがとう、チルノさん……」
「お礼なんて……されたくないっ……」
「でも、チルノさんのおかげで本当に楽しい春が過ごせました」
「あたいは嫌だよっ!過去形なんて嫌っ!これからもリリーと楽しい時間を過ごしたい!!」
「はい……だから私は必ず戻ってきます」
私はそこでチルノさんの顔をはっきりと見つめました。
チルノさんも涙目のまま、私の瞳を見つめています。
「私は絶対、チルノさんのところへ帰ってきます」
「ほんと……?」
「はい、それで今度はレティさんともお友だちになりたいです」
春のはじまりなら、レティさんにも会えるはずです。
ちょっとフライングしてもいいかもしれません。
「だから、チルノさん……私のこと、待っていてくれますか?」
「そんなの当たり前でしょ!リリーのバカっ……」
「ごめんなさい……チルノさん……」
私達はお互いの体を深く抱きしめました。
チルノさんの体はとっても冷たいはずなのに。
私はなぜかとても暖かな温もりを感じていました。
この温もりを来年まで手放さないよう、しっかり覚えておこうと思います。
「絶対……絶対戻ってこなきゃ許さないからねっ!」
大丈夫ですよ、チルノさん。
だって、季節は巡るものですから。
春が終わり、夏が終わり、秋が終わり、冬が終わると、また春が来るのです。
それが自然の流れなのです。
それは決して止まることはないのです。
だから、私は季節の巡りに感謝します。
ありがとう、何度も春が巡ってくれて。
ありがとう、こんなに素敵な出会いをくれて。
今の私は、幸せいっぱいです。
「リリーのこと、ずっと待ってるからね……」
「私もチルノさんのこと……絶対に忘れません……」
出来るなら、このままずっとチルノさんの側にいたいけど。
私の本能が、お別れの時間を告げていました。
それでもあともう少しだけ、このままでいさせてください。
ひとつだけ、願い事をする時間をください。
どうか、私を抱きしめてくれる大切なお友達に。
私に幸せをくれた、とっても優しいお友達に。
大いなる春の幸福が、訪れますように……。
私の仕事は春を告げることです。
だから私は今日も元気に叫びます。
「春ですよー!」
この言葉を叫ぶたび、私は元気になります。
みんなの心に春を届けることができるからです。
春は気持ちがとってもぽかぽかする季節なのです。
だから、みんなも幸せな気分になって、それで私も幸せになるのです。
つまり、幸せいっぱいということなのです。
「春なんか来るなー!」
突然聞こえてきた声に私はびっくりしてしまいました。
遠くの方から飛んでくる女の子が見えます。
私はおろおろとするばかりで、その場を動けませんでした。
女の子はもう私の前まで迫っていて、私はびくびくと怯えてしまいました。
「春なんかきちゃだめ!」
女の子は私に向かってそんなことを言うのです。
私は何か痛いことをされるのかなと思って怖かったけど、女の子はじっと私の方を睨むばかりで、何もしませんでした。
その時、私はようやくこの子の名前を思い出しました。
湖上の氷精、チルノさんです。
私は、チルノさんに尋ねました。
「どうして春がきちゃだめなんですか……?」
春がきちゃだめなんておかしいんです。
だって、春はとっても幸せなものなんです。
みんなの心があったかくなるものなんです。
だから、春なんか来るな、なんて言うのは絶対におかしいのです。
「春がきたらレティが消えちゃうでしょ!」
チルノさんの大声に、私はまたびくっと怯えてしまいます。
でも、レティという言葉には聞き覚えがありました。
確か冬の妖怪であるレティさんのことです。
「あの……消えちゃうってどういうことですか?」
「レティは冬の間しかみんなの前にいられないの!」
私はそれを聞いてびっくりしてしまいました。
だってそんなお話、全然聞いたことがなかったのです。
でも、確かに私はレティさんと顔を合わせたことがありません。
姿を見かけたのも、春を告げ始めて一日目だったのがほとんどでした。
だから、チルノさんの言うことが本当なのだとわかりました。
「だから、春なんか絶対ダメなの!」
私は、しゅん、とした気持ちになってしまいました。
春はみんなにとって幸せなものだと思っていたのに。
レティさんみたいに冬の間しか姿を見せられない人の気持ちを考えたことがありませんでした。
チルノさんみたいに、怒ってくる人がいるなんて知りませんでした。
私は何にも知らなかったのです。
なんだかすごく申し訳ない気持ちになってきて。
それから、すごく悲しい気持ちになってきて。
私は声をあげて泣き始めてしまいました。
「ちょ、ちょっと、なんであんたが泣いてんのよ!」
私は泣きながら、何度もごめんなさいを繰り返します。
チルノさんに何度も頭を下げるのです。
それから、ここにいないレティさんにもごめんなさいをします。
何にも知らなくてごめんなさい。
人の気持ちを考えない悪い子でごめんなさい。
みんなを幸せにできるって勘違いしててごめんなさい。
「な、泣かれたって困るのよ!はやく春が来るのを止めてよ」
「うぅ……春が来るのは止められないんです……」
「あんたが春を連れてくるんじゃないの!?」
「えぐ……違います……」
私には春を告げる役割があります。
だけど、私がそうしなくても、春はやって来ます。
だって、季節は巡るものなのです。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、そしてまた春が来るのです。
それが自然の流れなのです。
だから、私にはそれを止めることができません
ごめんなさい。
春を止められなくてごめんなさい。
力のない妖精でごめんなさい。
「ご、ごめん、あたいそれ知らなくて!」
チルノさんは私に謝りました。
でも、チルノさんが謝る必要なんてないんです。
全部私が悪いのです……。
「泣かないで、あんたは何も悪くないんだから……」
それでも、私はなかなか泣き止みませんでした。
チルノさんがおろおろしているのを見て、私はさらに申し訳なくなって、もっと泣いてしまうのです。
それから私が泣き止むまで、チルノさんはずっと私についていてくれました。
「ごめんなさい……チルノさん……」
「もういいってば……そんなことよりさ、あんたの名前教えてよ!」
「えっと……リリーです。リリーホワイト」
「リリーね。じゃあリリー、あたいと友達になろう!」
私はびっくりしてチルノさんの顔を見ました。
チルノさんはにこにこと笑っています。
「ど、どうしてですか?だって私はレティさんを」
「だから、それはあんたのせいじゃないんでしょ?あ……それともあたいのこと怒ってる?」
「そ、そんなことないです……」
「じゃあ友達になってくれる?」
私はドキドキしながら、こくんと一つ頷きました。
友達になろうなんて初めて言われたからです。
それに、さっきまであんなに怒っていたチルノさんが、そんなことを言ってくれるなんて思いもしなかったのです。
「よし、じゃあ明日からは毎日湖に集合だからね」
「わ、わかりました」
チルノさんはそれだけ言うとバイバイと大きく手を振って飛んでいってしまいました。
私も小さく「バイバイ……」と言いました。
なんだか、私はまた気持ちがぽかぽかしてくるのを感じました。
それからは楽しいことばかりでした。
春を告げるお仕事を続けながら、時間ができたら湖に行きました。
湖にはチルノさんや、そのお友だちがいっぱいいて、私は一気にお友だちが増えてしまいました。
レティさんはもういなくなってしまっていて、それが少しだけ残念でした。
だけど、ルーミアさんに、リグルさん、大妖精さん、他にもたくさんのお友だちができました。
みんなで弾幕ごっこをしたり、ご飯を食べたり、お昼寝したり、それはとても幸せな時間でした。
春はいつも楽しかったけど、今年は今までで一番楽しい春になったと思います。
ずっとこんな時間が続けばいいな、と思っていました。
でも、私にはそれができないことを、ちゃんとわかっていました。
春の終わりが、近づいていました。
私は最後の日の夜、チルノさんに会いました。
「もう遊べないってどうして!?」
「ごめんなさい……」
「謝られてもわかんないよ!理由を教えて!」
「…………」
「あたいにも言えないことなの?」
「…………春が、終わるからです」
私は春を告げる妖精です。
本来なら、春がはじまるわずかな期間しか、みなさんの側にはいられません。
だけど、みんなといる時間が楽しくて、私は今日までここに残り続けていました。
そのことをチルノさんに伝えたのです。
「……なんでさ……」
「チルノさん……?」
「なんでよ……なんでレティもリリーもすぐにいなくなっちゃうのよ!」
チルノさんの瞳から涙がこぼれていました。
氷精の涙はすごく冷たいと聞いたことがあって、私は反射的に体を震わせました。
でも、俯きながらぼろぼろと涙をこぼすチルノさんが、とても寂しそうに見えて。
私は、チルノさんの涙をそっと指ですくってあげました。
「リリー……?」
チルノさんが不思議そうな顔でこちらを見ています。
私はチルノさんにこっと笑いかけました。
それはまるで、初めてチルノさんと会った時と、逆の立場になったみたいでした。
「チルノさんにはたくさんお友だちがいるじゃないですか」
「友達は数じゃないっ!リリーがいなくなっちゃ駄目なの!誰もいなくなっちゃいけないんだよっ!」
チルノさんは私に向けて叫びました。
その言葉が、私はとても嬉しかったのです。
嬉しくて、涙が出そうになって。
私はチルノさんの体を、そっと抱きしめました。
「ありがとう、チルノさん……」
「お礼なんて……されたくないっ……」
「でも、チルノさんのおかげで本当に楽しい春が過ごせました」
「あたいは嫌だよっ!過去形なんて嫌っ!これからもリリーと楽しい時間を過ごしたい!!」
「はい……だから私は必ず戻ってきます」
私はそこでチルノさんの顔をはっきりと見つめました。
チルノさんも涙目のまま、私の瞳を見つめています。
「私は絶対、チルノさんのところへ帰ってきます」
「ほんと……?」
「はい、それで今度はレティさんともお友だちになりたいです」
春のはじまりなら、レティさんにも会えるはずです。
ちょっとフライングしてもいいかもしれません。
「だから、チルノさん……私のこと、待っていてくれますか?」
「そんなの当たり前でしょ!リリーのバカっ……」
「ごめんなさい……チルノさん……」
私達はお互いの体を深く抱きしめました。
チルノさんの体はとっても冷たいはずなのに。
私はなぜかとても暖かな温もりを感じていました。
この温もりを来年まで手放さないよう、しっかり覚えておこうと思います。
「絶対……絶対戻ってこなきゃ許さないからねっ!」
大丈夫ですよ、チルノさん。
だって、季節は巡るものですから。
春が終わり、夏が終わり、秋が終わり、冬が終わると、また春が来るのです。
それが自然の流れなのです。
それは決して止まることはないのです。
だから、私は季節の巡りに感謝します。
ありがとう、何度も春が巡ってくれて。
ありがとう、こんなに素敵な出会いをくれて。
今の私は、幸せいっぱいです。
「リリーのこと、ずっと待ってるからね……」
「私もチルノさんのこと……絶対に忘れません……」
出来るなら、このままずっとチルノさんの側にいたいけど。
私の本能が、お別れの時間を告げていました。
それでもあともう少しだけ、このままでいさせてください。
ひとつだけ、願い事をする時間をください。
どうか、私を抱きしめてくれる大切なお友達に。
私に幸せをくれた、とっても優しいお友達に。
大いなる春の幸福が、訪れますように……。
リリーは妖精だし、自然の一部だからこの出会いと別れも季節の流れが作ったものでしょう
さて、これから梅雨が来て夏がくる・・・