私に必要なのは毒ではなく味方だ。
協力者、仲間、賛同者、お友達。呼び方は多々あれど意味合いは大して変わらない。私の隣に立って声高に人形の地位向上を叫んでくれる同士。それを増やすのが私の至上命題であり、現状での最優先課題だった。
今のところ、私のディアフレンドはスーさんだけ。ちなみにここでいうスーさんは鈴蘭のスーさんでもありお供の人形でもある。どちらもスーさんなのだから、オセロ理論が正しいのならば私だってスーさんなのだ。はじめまして、メディスン・メランコリー略してスーさんです。
いわば三体で一体のスーさん同盟。しかして三本の矢が集まっても簡単にへし折れるよう、私達だけでは幻想郷に巣くう数多の猛者共を倒すことなど夢のまた夢。夢幻姉妹の中の夢幻姉妹。
特に人形業界では名前を呼ぶことすら躊躇われるというアリス・マーガトロイドという化け物が存在がしているのだ。西に行っては人形を爆破し、東に行っては人形を破壊する。到底許せる所行ではないのだけれど実力差は明白だ。
月とすっぴんでは勝負にならない。蛮勇を讃える賛同者など狂信者ぐらいのもの。私が欲しているのは名誉でもなければ栄誉でもない。人形達が自分らしく生きて人間達が馬車馬のようにこき使われる人形至上社会だった。パンがなければ油を差せばいいのよ。
崇高な理念を完遂する為には、何はなくとも共犯者が必要だ。永遠亭の薬剤師に毒を回したり、如何にも犯人ですと主張しているような全身黒タイツに毒を提供したり、中高年には毒舌を発揮したりと好感度アップ活動に励んでいる。成果はそこそこ出ているものの、じゃあそいつらが私に協力してくれるのかと言えば首を捻りすぎて取れてしまう。
所詮相手は人間なのだ。わざわざ自分たちの地位を脅かすような存在を認めはしないだろう。かといって妖怪はもっと駄目だ。あいつらは人間よりも立場や矜持を大切にしている。人形に覇権を狙われると知ったなら、魔女狩りならぬ人形狩りを新しいダイエットの方法として里へ広めかねない。
孤立無縁。四面そっか。前門の虎、後門にも虎。
明確な打開策もなく、かといって無闇に毒をまき散らすわけにもいかない。手詰まり感が漂う昨今において、それでも社交的に勤めようとするのは僅かな希望に賭けているなのか。
今日も鈴蘭畑に訪問者がやってくる。
「やあ、久しぶり!」
何分無知な人形ですゆえに、まさか昨日会ったことを久しぶりと表現するとは知らなんだ。日本語というのは難しい。まさに生き物。昨日今日で意味が変わり、次から次へと新しい言葉が生み出されている。うん、まぁ、でもやっぱり久しぶりは無いわよね。
鈴蘭の様子を見ていた私は、顔も向けずに露骨な舌打ち。嫌になるくらい顔を合わせていれば声で誰かが分かるというもの。きっと黒谷ヤマメは太陽が辞表を提出するぐらいの笑顔で手を振っているのだろう。実に鬱陶しい。
「今日こそは良い返事が貰えると思ってるんだけど。考え直してくれたかしら?」
「何度来ても答えはノー。あなたとは協力する気になれないわ」
一人でも多くの同僚が欲しい私だって、選ぶ権利は等しく持っているのだ。確かにヤマメの能力は魅力的であり、実力だって妖怪の中ではそこそこある。力を貸してくれるなら頼りになるけれど、協力というのは一方的では無いのだ。ヤマメにだってお願いがある。それを受け入れてくれるのならば、二つ返事で私に協力しようと言ってくれてはいるんだけど。
いかんせん、その条件が宇宙旅行よりも有り得ない。
「つれないわね。良いじゃない。私と一緒に幻想郷中を毒と病気の世界にしましょうよ!」
後の死の世界である。完全にそして誰もいなくなるコースだ。私は人間に良い感情を持っていないけれど、あくまで私達は人形なのだ。人間がいなければ新しい子は生まれず、人間がいなければメンテも満足にして貰えない。それこそ私ぐらいになれば自分でも出来るけれど、中身の修理となればやはり他者の力が必要だった。
ヤマメの案を飲めば多少の憂さ晴らしにはなるだろう。だけどそれでお終い。幻想郷は人間どころか妖怪も住めないような、このいかれた時代へようこそになるのだ。生憎と人類はそれほどタフボーイではない。
「私が目指しているのはカーストの頂点に人形がいる社会。オンリーワンでナンバーワンの世界に興味なんてないわ」
「ふふふ、私が隣にいるじゃない。さしずめ私がアダムであなたがリブ」
「肋骨女と申したか」
生憎と私はヤマメの肋骨から誕生するつもりはない。いっそスーさんの毒で追い払ってやろうかと企みもしたのだが、対抗して病気を撒かれたら大惨事になりかねなかった。ここは大人しくいつものように口で追い払うしかないのか。
「何と言われようとも私はヤマメと組むつもりはないし、もしもどうしても実行するようなら逆に敵側へ回るだろうね。人間は生かさず殺さず。それが私のモットーだよ」
「いやいや、何も私も皆殺しにしようとは言ってないさ。面白い話だけどね、生物ってのはウィルスで進化する奴もいるんだよ。だからここらで一つ病気を大流行させて、人間も妖怪も大いなる進化を遂げさせる――」
「本音は?」
「ウィルスが……撒きたいです」
口論は二時間にも及んだ。
鈴蘭畑を風が吹き抜けていく。近くを飛んでいた鳥がバタバタと落ちていった。風下を飛ぶからだ、もう。
ヤマメの訪問を除けば、私の一日は至って平穏である。ここは無縁塚。来訪者どころか通行人もおらず、人も妖怪も滅多に近づこうとしない。こちらから出向くことが無ければ、一ヶ月誰とも会わずに終わることだって珍しくはなかった。だからこそ積極性が求められる。
待っているだけでは味方は増えない。こちらから勧誘に行かないと。
だがそれも難しい。私の身体からは常に微量の毒が放出されているのだ。生身の人妖が相手では会話も続かず、多くの者達が逃げ出してしまうのだ。ヤマメが変わり者すぎるだけで、普通は私なんかと好んで会おうとする者はいない。
「あなたがメディスンね。はじめまして」
否定した側から話しかけられる。何と空気が読めない奴なのだろうと若干の恨めしさをこめつつ振り向いてみれば、そこには誰にもいなかった。そう、振り向く方向を間違えたのだ。
改めて声のした方を見る。私とお揃いの金髪。だが身長は遙かに高い。見たところ人間のようだけど、外見だけで種族を判断できるほど幻想郷という所は甘くなかった。ただの人間と思って侮っていたら思わぬ反撃を喰らう事だって珍しいことではない。
警戒心を抱きつつ、距離をとる。
「あなたは誰?」
身を屈めて質問を避ける金髪。言葉とは物理的なものだったのかと思わず感心したところで、結局正体不明は正体不明。金髪と言えば霧雨魔理沙を連想するけれど、そういえばこの女も魔法使いみたいな格好をしている。仲間だろうか。
「そんなに怯えなくてもいいわよ。あなたに危害を加えるつもりはないんだから」
「名前を名乗らない不審人物の台詞じゃないなあ」
「ただちょっと解体させて欲しいだけよ」
「それは不審人物の台詞らしいわね。うん。近づくな」
スーさんがざわめく。スーさんも距離も取る。そして私ことスーさんの警戒心も有頂天だった。マグロじゃあるまいし、そうそう簡単に解体なんかされたら困る。
確かに私は人形だ。解体すること自体は技術さえあれば出来る。元に戻さないのであればハンマーを持った子供にだって可能だ。だが一般的にそれは解体ではなく破壊と言われ、いずれにせよ私が壊されることに違いはない。
金髪の女は無表情でスーさんとスーさんとスーさんとスーさんを見下ろしている。冷たい表情だ。本当に血の通った人間なのかと疑いの眼を向けたくなる。これなら、私の方がよっぽど人間らしいのではないか。そう思えるぐらいに。
……ちょっと、さっきスーさん増えてなかった?
「心配はいらないわ。解体して中を見たらすぐに元へ戻してあげる。危害は加えない。ただあなたの中身が気になるだけよ」
「素敵な殺し文句ね。殺人鬼もきっと似たような台詞を吐くと思うわ」
「ふふっ。殺人鬼と殺し文句をかけるとは人形の癖になかなか洒落ているじゃない」
「お褒めに預かり光栄ね」
「ふふふ、本当に、ふふふ、素敵だわ。ふふふ」
笑いすぎじゃない? いや、他人の笑いのツボに興味はないんだけど。そんなに面白いことを言ったつもりはない。
それに金髪の女は口では笑いながらも、顔には笑顔など欠片もなかった。無表情のまま「ふふふ」とか言っているのだ。柳の木の下で会えば確実に幽霊と見間違えるだろう。
いずれにせよ危ない奴だ。交渉の余地はない。私はこっそりと身体から放出する毒の量を増やした。古今東西のありとあらゆる毒が混合された特殊な煙。吸えばたちまちに身体が痺れ、あっという間に動けなくなる。
笑っていられるのも今のうちだ。ほくそ笑みそうになる感情を抑える。
「ますます解体したくなったわね。大丈夫、痛くしないわよ」
「人形に痛みはないんだけど」
「なら、ますます最高じゃない。私も生きた人形を解体するのは初めての体験だわ。一生忘れられない記憶になるでしょうね」
私としても忘れるのは難しい。
「一体、あなたの中はどうなってるのかしら。本当に興味深いわ。例え普通の人形と同じ構造だったとしても、それはそれで私の研究の糧になるし。いえ、むしろ普通の方が好都合ね。それは私にも同じものが作れるという事なのだから」
何やらぶつぶつと呟いている。彼女は人形を作っているのか。なるほど、それなら私に興味を持つのも分からないでもない。こうして自分の意志で動いたり喋ったりする人形とお目にかかれたことはなかった。他の人形は大抵人間の言いなり。だからこそ私が珍しいのだろう。
解体したがるわけだ。だが素直に従う私ではない。
私ではないのだが、それにしても何時になったら倒れるのだろう。とっくの昔に毒は吸い込んでいるはずなのに。顔色一つ変えないとは魔法でも使っているのか。
「あら、不思議そうな顔ね。まさか私に毒でも仕向けたのかしら」
思わず反応してしまう。それが真実だという証拠になると知りながらも。
「その様子だと図星みたいね。だけどお生憎様。私に毒は通用しないわよ」
「そんなわけない。大抵の人間は私の毒でイチコロだもの」
「そう、人間ならばね」
意味ありげな台詞に目を見開いた。
まさか、まさか。そんな馬鹿な。
「気付いたようね。その通り。あなたの前でこうして喋っているのはただの人形。私が作った精巧な人間そっくりのお人形よ。もっとも意志は宿っていないから、こうして私が操ったり喋ったりしなければいけないのだけど」
この私が、人形たる私が見抜けないほどの物を作り上げるとは。生半可な技師の仕事ではない。狭い幻想郷のこと。それだけの腕を持った奴などそうそういるわけもなく、すぐに候補者の名前が頭に浮かんできた。
名乗らないわけだ。名乗ったら即座に攻撃していた。
「あなた、アリス・マーガトロイドね!」
「如何にも。私がアリスよ、可愛らしいお人形さん」
唐突に背後から抱きしめられる。細く伸びた白い腕は、まさしく先程まで見ていたアリス人形の物とそっくり。だから、つまり、これは、すなわちアリス本人だ。
いつのまに背後をとられていたのだろう。先程は全く気付かなかった――
「さっきのスーさんはあなただったのね!」
「ご明察。服を弄るのも趣味みたいなものだから、あなたの服を真似るのは簡単だったわよ」
唇を噛みしめる。スーさんが三人とか言って遊んでいたツケが回ってきたのだ。迂闊と罵っても既に手遅れ。私の運命はアリスの腕によって掴まれている。
「もう逃がさない。さあ解体しま」
アリスは痺れ、そのまま倒れた。当たり前だ。
毒の塊に抱きついてタダで済むわけがない。
何故出てきた。アリス・マーガトロイド。
相手がいかな極悪人と言えども死人はまずい。風の噂は天狗よりも速く駆け抜け、尾ひれセフレががくっつく有様。ちなみに当方の知識は稗田阿求提供なので、所々にあの乙女の悪戯心が紛れ込む可能性があったり無かったり。
閑話休題。鈴蘭畑でシンデレラのように眠りこけるアリス・マーガトロイド。残念ながら我が鈴蘭王国には七人の侍も王子様も存在していない。このまま放っておけばスーさんの毒で永眠は確実だろう。
いっそ埋めて養分にしてしまえば死体は残らない。目撃者もいないことだし、ここで外敵を駆除してしまうのも案の一つかと悩みはしたのだが彼女にだって帰る国はあるだろうし家族だっているはずだ。迂闊に手を下せば騒ぎになるかもしれない。神隠しの主犯は冬眠しているともっぱらの噂だ。真っ先に疑われることは無いと思いたいのだが、名探偵よりも勘の良い巫女もいることだし。
ここは大人しく帰すのが大吉だろう。安らかに眠るアリスを担ごうとした。体格差を考えるのなら犬が人間を背負うようなものだけど、そこは人形の腕力を舐めてはいけない。まぁ、引きずるくらいなら何とか出来る。
「うーん、むにゃむにゃ、もう食べさせないわよ」
背中から圧政を強いる王族の声が聞こえてきた。痺れさせただけなのにどうして眠っているのか、今更ながらに意味が分からない。私に触れているから解毒どころか毒は深まるばかりだが、このまま放っておくよりかは幾分かマシだ。鈴蘭畑から遠ざけて置いておけば、明日の今頃には毒も抜けきるだろうし。
そういえばあのアリス人形はどうしたものか。破壊するのは言語道断としても置いておくのも不気味である。人形ですら怖がる物体を引き取ってくれる輩がいるとは思えないし、ヤマメ避けに飾っておくしかないのか。
「ほら、起きなさいよ」
少し離れた大木の下にアリスを寝かせる。ここなら鈴蘭畑の毒も届かないだろう。それなりの距離を運んだので疲れた。人間ならば汗だくになっていただろうけど、そこはさすがに人形の身体。精神的な疲労感はあっても肉体的な疲労は一切無かった。
「ん、んん……此処は?」
「さっきの所から少し離れた所。あのままにしておいたら、あなた死んでただろうからね」
恩着せがましい発言はあくまでアリスへの威嚇だ。仲良くするつもりなど毛頭ないし、むしろ不快感を覚えて嫌ってくれるのなら有り難い限り。
「これに懲りたらもう二度と私には近づかないこと。私の毒は無意識に放出しているものもあるし、どうせ解体するなんて不可能なのよ」
「……だけど指先なら動くわ」
「毒の量が少なかったからね。唇やら指先は動くかもしれない。だけど、肝心の身体が動かないなら意味ないでしょ」
アリスの頬が微妙に引きつる。顔の筋肉は麻痺している。上手く感情を表せないのだろう。
「私の名前を知っているのなら迂闊としか言えないわね。私は人形使い。指先さえ動かせるのなら、あなたを拘束するぐらい容易いことよ」
「え?」
脇の下から伸びた手が私の身体を羽交い締めにする。馬鹿な。人の気配は全く無かった。
だとすれば答えは一つだ。アリスは人形使い。そしてこの場にあった人形は三体だけ。
私と、スーさんと、あの本物そっくりのアリス人形。
「生憎と私の糸は見えない仕様になっているの。油断したわね、お人形さん」
「くっ!」
相手は同じ人形。毒など通用しない。
人形を腐敗させる毒もあるのだが、それは瓶詰めにして畑へ保管してある。迂闊に放てば自分も腐るのだ。おちおち使えたものではない。
「そして人形を動かすことが出来るのなら、あなたの解体も簡単よ。実行は人形に任せ、私は見るだけで良いんだから」
「ひ、卑怯者!」
「研究者には倫理も道徳も通用しない。社会に背負わされた法律が無ければ好奇心は猫どころか天も地も殺すのよ。良心なら両親と一緒にあっちの世界へ置いてきたわ。観念することね」
アリス人形は私を抱えたままアリスから引き離していく。上手い具合にここは風下。毒を撒こうにも届かない。かといって抵抗もままならなかった。いくら敵対しているからといって人形を壊すのは私の心が許さない。そもそも体格差が違いすぎる。身体をよじったところでブレイクダンスにもなりゃしない。
このまま蹂躙されてしまうのか。半ば諦めかけた時だった。
「そこまでだぁ!」
突如として私を拘束していた力が消える。そしてアリス人形は吹き飛び、地面を削りながら地平線の彼方へと消えていった。
「な、何者!?」
動揺するアリス。この乱入は予定に無かったのだろう。
私も驚いている。だが、それはアリスのものとは違う。まさか彼女が私を助けてくれるなんて。そういった意味での驚きだ。
あれほど冷たくあしらったのに。あれほど頼みを断ったのに。
それでも私のピンチに駆けつけてくれた。
「無事だったようね、メディ」
「ええ、あなたのおかげでねヤマってあなた誰よ!」
「通りすがりの忘れ傘! ジャスティスタタラとはわちきの事だ!」
やたらとキャラを作ってる妖怪がそこにいた。申し訳程度に虎のマスクを被っているが、どこからどう見ても多々良小傘である。同じ捨てられた物同士として以前から気になっていたのだが、まさかこんな形で出会うことになるとは。
「己の私利私欲の為にか弱い人形を破壊しようとは言語道断! お天道様が許しても!」
「うにゅ?」
なんか来た。
「このジャスティスタタラがお前が倒す!」
「おお、格好いい!」
拍手をして烏っぽい子は帰っていった。なんだあれ。
「ジャスティスタタラ……またしても私の邪魔をすると言うのね。いいわ、今日こそここであなたとの腐れ縁を解消してみせる」
「顔見知りだったのね」
「ええ、あいつとは浅からぬ因縁があるのよ」
唇を噛みしめるアリス。まさか私の知らない所で人形の地位向上の為に動いている奴がいたのか。確かに彼女も捨てられた存在。だが人形と傘では違いもあるだろうと思っていたのに。
小傘は私の方を見ると、凛々しい笑顔を見せた。やばい、惚れそう。
「下がって、メディ。あいつの相手は私がするわ!」
「大丈夫よ。アリスの身体は私の毒で痺れて動けない。肝心の人形もどこかへ消えてしまったもの」
人形がいなければ人形使いはただの魔法使い。恐れるに足らない。
「ふふふ、相変わらず油断するのが好きなのね。人形なら、そこにあるじゃない」
「なっ!?」
肝心な事を忘れていた。私もまた人形であるという事を。
身体から自由が奪われていく。動かしたい方向に動かせない。
なるほど、これが糸で操られるという感覚なのか。操り人形の子達は毎日このようにして強制的に動かされているのだ。そう思えばますます人形使いに怒りを覚える。
見えない力に引きずられ、私はアリスを守るようにして立たされた。
「さあ、ジャスティスタタラ。あなたが守るべき者はこうして私の手中に収まった。迂闊に攻撃しようとすれば彼女も一緒に犠牲になるわよ。これでもあなたは攻撃できるかしら?」
「出来る!」
言い切りおったぞ、こやつ。
惚れそうになった私の感情を返せ。
「このまま見過ごせばメディは解体されるだろうね。だったらいっそ、この手で私が先に破壊すればいい!」
「本末転倒じゃ! 本末転倒が此処におるぞ!」
「動揺することはないわ、お人形さん。どこの世界に守るべき相手を進んで倒そうとする正義の味方がいるのかしら。あれはあくまでブラフ。私が油断してあなたを手放す隙を作ろうとしてるのよ。そうでしょ、ジャスティスタタラ?」
得意気なアリスの口調も空しく、小傘は思いきり首を傾げやがった。
「わちきは正義の味方じゃないよ。そんな事、一言も言ってないでしょ」
「……じゃあ、あなたは何の味方なのよ」
得意気に胸を張り、おもむろに自分を指さした。
「決まってるでしょ。わちきはわちきの味方だ!」
ここまで最低の発言を堂々と叫ぶ奴を初めて見た。もういっそ小傘が正しいんじゃないかと思うぐらいの言いきりっぷりだった。
アリスも冷や汗を流しているだろう。だったら早く解放して欲しい。
「面白いじゃない。なら見せて貰いましょうか、あなたの力というやつを!」
「待て! 私を巻き込まないでよ! 関係ないでしょ!」
「あるわ。だって私一人がやられるのは寂しいじゃない」
「知るか!」
アリスは毒で痺れ、私はアリスの糸で封じられ。どちらとも動けない状況なのだから、このままいけば共倒れは必至だ。ここはスーさんを動かして私を突き飛ばせば良いと考えたのだが、いつのまにか遠く離れているスーさん。あいつ、自立してないか?
「さあ刮目して見るといい。これがジャスティスタタラの隠しきれぬ真の実力!」
どこからともなく取り出したのは、只の字に似た板きれ。白い表面には『←アリス ジャスティスタタラ→』の文字が記されている。それを私と小傘の真ん中あたりに突き刺した。
嫌な予感しかしない。
期待を裏切らず、遥か遠くの山から不気味な唸り声が聞こえてきた。濛々と土煙をあげながら近づいてくるのは、見たこともない鉄の塊。さながら巨大な円柱が唸りをあげて突っ込んできているようなものだ。それも私達目がけて一直線に。
「助けにゲボァ!」
ちなみに助けようとして出遅れたヤマメが思い切り撥ねられたのだが、それは割愛する。なんか自分たちの未来を見ているようで辛いから。
「ふふふ、なるほどこれがジャスティスタタラの全力。だけど温いとしか言えないわね。この程度のもの、私には通用しないわよ!」
敵方であるはずのアリスの台詞は、今は何故だか頼もしく思える。
「現れなさい、ゴリアテ人形!」
勇ましいアリスの掛け声と共に、遥か上空に巨大な人形が姿を見せた。
そしてそのまま見事に飛び去っていった。
「しまった! 今日は非想天則とのデートの日だったわ!」
「あほかーっ!」
鉄の塊は速度をあげて、地面を削りながら迫ってくる。
「忘れ傘の夜行列車! 耐えられるものなら耐えてみなさい!」
「耐えられるわよ! お人形さんが!」
「無茶言うな!」
文句を言おうと不満を言おうと危機は去らない。鉄の塊が近づいてくる。
もう駄目だ。目を閉じようとした瞬間、信じられない光景が眼前に広がっていた。
私もアリスも言葉を失う。
こんな光景、今までに見たことがなかった。どう表現すればいいのかも分からない。
それでも無理に言葉を当て嵌めようとするのなら、
――地上の太陽。
鼻先に落ちてきたのは烏の羽。顔を上げてみれば、そこには先程の烏っぽい少女が御柱みたいな棒を地上に向けていた。
「凄く強そうだったけど、こんなもんかあ。うーん、残念」
寂しそうに呟いて、烏っぽい少女はゴリアテ人形の後を追うようにして飛び去っていく。ありがとう名前も知らない少女。今度会うことがあったら、お礼に特選毒の詰め合わせを贈ることにしよう。
「ふふふ、凄いでしょう。私の八咫烏人形は」
「うるさい」
かくして危機は去り、私はアリスから解放され、凶悪な人形使いは箱に詰めて魔理沙の所へ送り届けた。おそらく再び私の前に姿を現すだろう。
そして問題なのはジャスティスタタラ。鉄の残骸は多々あれど、結局彼女の姿はどこにも見あたらなかった。正体は知っているので敢えて追求しないけど、出来ればもう二度と会いたくないものだ。
私は溜息をつき、無名の丘の掃除を続けた。
もうすぐヤマメが来る時間。彼女は懲りずにまた私を誘うのだろう。
今度こそ言ってやらないといけない。私は毅然とした態度で伝えるつもりだ。
「いいね、やろう!」
こうしてタッグを結成した私達の前に、再びジャスティスタタラが立ちふさがるのは間もなくのことであった。
次回、第28話『裏切りのスカーレット』に続く
ほんまぐろさんの所のアリスみたいだww
一番笑ったのは後書き4行目www
すっぴんがネタか誤字かなんてもうどっちでもいい
スーカレット(笑)
ここらへんまで耐えてたのに…!
このままドス黒い幻想郷に染まらず真っ白でいてくれー!w
また寺子屋で0点貰う気ですか! ぎゃ王さまの出番ですか!
ヤマメが主役の話が来たと思ったら、そんなことはなかったぜ。ヤマメェ……。
というか最初は軽く流してたのに伏線として再び活用されるとは思わなんだ
ってツッコミしか思い浮かばないw
ってツッコミしか思い浮かばないw
メディスンのツッコミキャラの似合いっぷりは異常
もう一個のお話は時間が無いからおいおい放課後に・・ お嬢様
ではジャスティスメイドは私で・ 冥途蝶
アリスちゃんのおバカっぷりがよかったですね~
トラのマスクだとジャスティスタイガーに被るんでは・ 超門番
人形がいなければメンテも満足~
人間がいなければ?ですかね…?
画面の前でニヤケ顔が収まりません。
怖っ