春はあけぼの
どこかの偉い人が言ったとか言わないとか
最近本で知ったこの言葉
あまり馴染みはないがよく言ったものだと私は思う
意外とこの幻想郷にも当てはまる気がする
また誰かが異変を起こしているのではと疑うほどに暑い午の刻とは打って変わり
さらさらとした空気がまだ日が昇らない空を包んでいた
このまま太陽が昇らなきゃいいのに
そうすりゃ涼しいままだし、どこぞのブン屋も喜んで郷を駆け回るだろう
いや、それはそれで困るか
異変ともなると腋丸出しの巫女が黙っちゃいないだろうし
仕方ない、今のうちに少しでも過ごしやすいとこに避難するか
ついでにお菓子でも頂いていくとしよう
何処かって?そんなの決まってる
知ってるか?幽霊って冷たくて気持ちいいんだぜ
トントントン…
騒がしかった妖怪の山に光が差し込む頃
どこか心地よい包丁の音が明け方の空へと響いていた
ここは白玉楼
枯山水にしだれ桜、玉砂利に並ぶ松ノ木
そして流れ造り屋根の見事な本殿
まさしく和の世界が広がっている
包丁の音はそこの台所の方角から聞こえてくる
「フンフ~ン♪」
鼻歌と共に
そこには刀を腰に掛けた少女が立っていた
「…うん、このくらいかな」
豆腐の味噌汁を一口すすり鍋に蓋をする
「さて、そろそろ行かなきゃ」
割烹着を脱ぎ幽々子様の部屋へと向かう
廊下に出るとちょうど朝日が昇る
「…今日も良い一日になりますように」
それを少しだけ眺めすぐに足を戻した
私の名前は魂魄妖夢
この白玉楼で庭師兼剣術の指南役として働かせていただいています
主に見回り等が仕事ですがこうしてお料理も作っています
我が主人幽々子様はお食事が好きな方なので
部屋の前に着き障子越しに声を掛ける
「幽々子様、朝御飯の用意が出来ました」
…返事が無い
まぁいつものことです
「失礼します」
障子を開け中へと入る
そこには布団の中ですやすやとお眠りになる幽々子様
…のあられもない姿
横たわる彼女は服がはだけて柔肌が露になっていた
「………」
はっ!?いけないいけない、何を見惚れているんだ私は
顔を振って気合を入れる、もとい理性を取り戻す
布団を捲りはだけた服を直しつつ身体を揺らす
「幽々子様、朝ですよ、お食事の準備も出来ましたよ」
「ん~…あと五個でいいからぁ…」
ダメだ、今日は完全に寝ぼけてる
しょうがない、とりあえずまずは目を覚ましていただかないと…
仕方ないので寝ぼけ眼の幽々子様を背負い顔を洗いに向かった
その途中何回か肩をかじられる
お餅の夢でも見ているのでしょうか?
「ん~やっぱり妖夢の御飯は美味しいわ~」
やっと夢の世界から帰ってきた幽々子様と朝の食事開始
「もう幽々子様は…」
歯形のついた肩をさする
「どうも柔らかいお餅だと思ったら妖夢だったのね」
「笑い事じゃありませんよぅ」
やはりお餅の夢でしたか
「まったく、いいですか?この前もですよ?いい加減私を食べないでくださ」
と、急に幽々子様が私へと手を伸ばす
ぱくっ
そして私の左頬についていたご飯粒を食べた
「うふふ、妖夢ったらこんなとこにご飯粒つけちゃって、可愛い♪」
美味しい♪とニヤニヤする幽々子様
「な、な、なななな」
思わず自分の顔が赤くなるのがわかった
「ひ、人が真面目に話してるときに食べないでくださいっ!」
突然の出来事で色々とパニックになってる私
そんな私を見て幽々子様は微笑む
その微笑みはとても柔らかく、とても温かいものだった
そんなこんなで慌しい(主に私が)食事が終わり
幽々子様は八雲家へ出かけに行くとのことだったので
早速私は自分の仕事へと取り掛かった
午前中は主に庭の手入れや見回り、お使いなどなど
今日は特に大きな事件はなかったので無事に仕事を終えることが出来た
廊下の端に腰を掛け休憩を取る
日が天高く上がり朝よりはだいぶ気温も上がってきたようだ
暖かく心地よい日差しが注ぐ
こんな日はお昼寝もいいなぁ…
「そういえばお昼は何にしようかな」
そんなことを考えてるとふと今朝のことを思い出す
あの幽々子様の表情
どこか懐かしい気持ちになった
何故だろう
…そうだ、あそこでだ
思い出した
それはとても大切な記憶
わずかに残る私の幼き日の記憶
「いいか妖夢、剣とは常に己との対峙だ
如何なる刻も絶対に気を緩めてはならんぞ」
それは彼の口癖のようだった
西行寺家初代剣術の指南役兼庭師、魂魄妖忌
我が師でもあり良き理解者でもあった
私は彼の剣術を盗もうと日々鍛錬を行っていた
だが妖忌は突如まだ幼かった私に二代目を継がせ姿を消した
残された私は頼るべき人物を失った
ただ覚えていた教え「真実は斬ることで得る」
これだけを信じて私は修行の日々に明け暮れた
しかし当時の幼き私は酷で、そして寂しかった
そんな私に優しく声を掛けてくれる人がいた
「妖夢?どうしたの?元気ないけど、大丈夫?」
西行寺家の娘、西行寺幽々子だった
「あ!そうだ、美味しいお菓子があるの、あっちで一緒に食べよ♪」
そう言って彼女は微笑み私の手を引いた
そうあの微笑みだ
あの微笑みに救われて、私は自分の役割に気づいた
うん、その時から…私は…心に…
…ーむ?…ーむってば…ーーーーむっ!
がぶっ
「い、いたたたたたたっ!!!!」
思わず飛び起きる
「なっ、何するんですか!?」
「やっと起きたわね?もう、人に言っといて自分がグーグー寝てるなんて」
ぷんぷんと頬を膨らます幽々子様
その様子でやっと状況を把握する私
「え…?あっ…いや、その、すいません…」
「…わかればよろしい」
そう言って彼女はまた微笑む
「その代わり何かお詫びをしてもらわないとね」
そんな幽々子様を見て自然と私も笑みがこぼれる
「ではお茶にでもしましょうか?」
私は立ち上がり幽々子様の隣に立つ
そして二人は歩き始めた
そういえばお菓子がなくなってたわよ?
食べたくてこの前買ってきたばかりなのに
…妖夢食べたでしょ
た、食べてませんよ
ほんとに?
ほ、ほんとですってば...
珍しく穏やかな日差しの昼下がり
賑やかな二人の声は澄んだ空にも届いていた
心に彼女は静かに想う
今はただこの時間が続きますように
永遠に
そのためなら私は契ろう
たとえこの身が朽ち、心が果てようとも
私があなたを守ります
どこかの偉い人が言ったとか言わないとか
最近本で知ったこの言葉
あまり馴染みはないがよく言ったものだと私は思う
意外とこの幻想郷にも当てはまる気がする
また誰かが異変を起こしているのではと疑うほどに暑い午の刻とは打って変わり
さらさらとした空気がまだ日が昇らない空を包んでいた
このまま太陽が昇らなきゃいいのに
そうすりゃ涼しいままだし、どこぞのブン屋も喜んで郷を駆け回るだろう
いや、それはそれで困るか
異変ともなると腋丸出しの巫女が黙っちゃいないだろうし
仕方ない、今のうちに少しでも過ごしやすいとこに避難するか
ついでにお菓子でも頂いていくとしよう
何処かって?そんなの決まってる
知ってるか?幽霊って冷たくて気持ちいいんだぜ
トントントン…
騒がしかった妖怪の山に光が差し込む頃
どこか心地よい包丁の音が明け方の空へと響いていた
ここは白玉楼
枯山水にしだれ桜、玉砂利に並ぶ松ノ木
そして流れ造り屋根の見事な本殿
まさしく和の世界が広がっている
包丁の音はそこの台所の方角から聞こえてくる
「フンフ~ン♪」
鼻歌と共に
そこには刀を腰に掛けた少女が立っていた
「…うん、このくらいかな」
豆腐の味噌汁を一口すすり鍋に蓋をする
「さて、そろそろ行かなきゃ」
割烹着を脱ぎ幽々子様の部屋へと向かう
廊下に出るとちょうど朝日が昇る
「…今日も良い一日になりますように」
それを少しだけ眺めすぐに足を戻した
私の名前は魂魄妖夢
この白玉楼で庭師兼剣術の指南役として働かせていただいています
主に見回り等が仕事ですがこうしてお料理も作っています
我が主人幽々子様はお食事が好きな方なので
部屋の前に着き障子越しに声を掛ける
「幽々子様、朝御飯の用意が出来ました」
…返事が無い
まぁいつものことです
「失礼します」
障子を開け中へと入る
そこには布団の中ですやすやとお眠りになる幽々子様
…のあられもない姿
横たわる彼女は服がはだけて柔肌が露になっていた
「………」
はっ!?いけないいけない、何を見惚れているんだ私は
顔を振って気合を入れる、もとい理性を取り戻す
布団を捲りはだけた服を直しつつ身体を揺らす
「幽々子様、朝ですよ、お食事の準備も出来ましたよ」
「ん~…あと五個でいいからぁ…」
ダメだ、今日は完全に寝ぼけてる
しょうがない、とりあえずまずは目を覚ましていただかないと…
仕方ないので寝ぼけ眼の幽々子様を背負い顔を洗いに向かった
その途中何回か肩をかじられる
お餅の夢でも見ているのでしょうか?
「ん~やっぱり妖夢の御飯は美味しいわ~」
やっと夢の世界から帰ってきた幽々子様と朝の食事開始
「もう幽々子様は…」
歯形のついた肩をさする
「どうも柔らかいお餅だと思ったら妖夢だったのね」
「笑い事じゃありませんよぅ」
やはりお餅の夢でしたか
「まったく、いいですか?この前もですよ?いい加減私を食べないでくださ」
と、急に幽々子様が私へと手を伸ばす
ぱくっ
そして私の左頬についていたご飯粒を食べた
「うふふ、妖夢ったらこんなとこにご飯粒つけちゃって、可愛い♪」
美味しい♪とニヤニヤする幽々子様
「な、な、なななな」
思わず自分の顔が赤くなるのがわかった
「ひ、人が真面目に話してるときに食べないでくださいっ!」
突然の出来事で色々とパニックになってる私
そんな私を見て幽々子様は微笑む
その微笑みはとても柔らかく、とても温かいものだった
そんなこんなで慌しい(主に私が)食事が終わり
幽々子様は八雲家へ出かけに行くとのことだったので
早速私は自分の仕事へと取り掛かった
午前中は主に庭の手入れや見回り、お使いなどなど
今日は特に大きな事件はなかったので無事に仕事を終えることが出来た
廊下の端に腰を掛け休憩を取る
日が天高く上がり朝よりはだいぶ気温も上がってきたようだ
暖かく心地よい日差しが注ぐ
こんな日はお昼寝もいいなぁ…
「そういえばお昼は何にしようかな」
そんなことを考えてるとふと今朝のことを思い出す
あの幽々子様の表情
どこか懐かしい気持ちになった
何故だろう
…そうだ、あそこでだ
思い出した
それはとても大切な記憶
わずかに残る私の幼き日の記憶
「いいか妖夢、剣とは常に己との対峙だ
如何なる刻も絶対に気を緩めてはならんぞ」
それは彼の口癖のようだった
西行寺家初代剣術の指南役兼庭師、魂魄妖忌
我が師でもあり良き理解者でもあった
私は彼の剣術を盗もうと日々鍛錬を行っていた
だが妖忌は突如まだ幼かった私に二代目を継がせ姿を消した
残された私は頼るべき人物を失った
ただ覚えていた教え「真実は斬ることで得る」
これだけを信じて私は修行の日々に明け暮れた
しかし当時の幼き私は酷で、そして寂しかった
そんな私に優しく声を掛けてくれる人がいた
「妖夢?どうしたの?元気ないけど、大丈夫?」
西行寺家の娘、西行寺幽々子だった
「あ!そうだ、美味しいお菓子があるの、あっちで一緒に食べよ♪」
そう言って彼女は微笑み私の手を引いた
そうあの微笑みだ
あの微笑みに救われて、私は自分の役割に気づいた
うん、その時から…私は…心に…
…ーむ?…ーむってば…ーーーーむっ!
がぶっ
「い、いたたたたたたっ!!!!」
思わず飛び起きる
「なっ、何するんですか!?」
「やっと起きたわね?もう、人に言っといて自分がグーグー寝てるなんて」
ぷんぷんと頬を膨らます幽々子様
その様子でやっと状況を把握する私
「え…?あっ…いや、その、すいません…」
「…わかればよろしい」
そう言って彼女はまた微笑む
「その代わり何かお詫びをしてもらわないとね」
そんな幽々子様を見て自然と私も笑みがこぼれる
「ではお茶にでもしましょうか?」
私は立ち上がり幽々子様の隣に立つ
そして二人は歩き始めた
そういえばお菓子がなくなってたわよ?
食べたくてこの前買ってきたばかりなのに
…妖夢食べたでしょ
た、食べてませんよ
ほんとに?
ほ、ほんとですってば...
珍しく穏やかな日差しの昼下がり
賑やかな二人の声は澄んだ空にも届いていた
心に彼女は静かに想う
今はただこの時間が続きますように
永遠に
そのためなら私は契ろう
たとえこの身が朽ち、心が果てようとも
私があなたを守ります