Coolier - 新生・東方創想話

心のスクープ

2011/02/17 03:03:01
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春の妖精が郷を駆け抜けてから早ひと月


我が幻想郷も随分様変わりしたものだ


若芽が息吹き花々が咲き乱れていく


新たに命を受けしもの達がより一層
優雅に風景を仕上げてくれている


和やかな風が周りを包み込んでいくのもわかる


こんな季節にはいくら吸血鬼でも思わず日向に出たくなるだろう





そんないつもよりはやや暑い午の正刻過ぎ


紅魔の館の方角から一つの黒き羽が見えた


その姿から誰かはすぐにわかる


しかし天狗と呼ぶにはあまりにも遅い


肩をがっくりと落としフラフラと飛んでいる


いや、漂っていると言った方が想像しやすいだろう


幻想郷最速と言われる面影はまるでない
(そもそも自称なので誰も呼んでないが)


伝統の幻想ブン屋、射命丸文その人だ





「はぁ~やっぱりダメだったか…」


先程からブツブツと愚痴を零している
おおかた取材に失敗でもしたのだろう


「ネタが~ネタが出ない~
こんなんじゃ次の発行に間に合わないよ…、はぁ」


出るものはため息ばかりである

ちなみに六拾七回目


さて、そんな彼女を少しだけ紹介しよう

彼女は鴉天狗の新聞記者

小規模なものだが文々。新聞という新聞を発行している

しかし内容はごくごく普通な記事ばかりの平凡なものである

したがって購読者は多くない

むしろ減っていくくらいだ

もちろんそんな状況で必死にならないはずがない


「なんとしてももっと文々。新聞の知名度を上げないと…
でも肝心の見出しがないとなぁ、スクープないかしら」


キョロキョロと辺りを見渡す文


その時風上から冷たい風が流れてきたのを感じた


「この方向は…湖からか」


紅魔の館の麓に大きな湖がある


そこからこの冷気は流れてきているのだろう


ちょっと行ってみましょうか、どうせ暇ですし





辿り着いた湖の真ん中には小さな妖精がしゃがんでいるのが見えた


「やはり、ですね。せっかく来たのですし聞き込みでもしていきますか
思わぬところにスクープはあるのかも」


そう言うと文は僅かな期待を胸にその妖精へと向かっていった





「どうも、幻想郷一のブン屋、射命丸文です」


辿り着くや否や文は妖精に話を始めた


「ん?あ、しゃめーまるだ」


話掛けられた小さな妖精はこちらを向いて立ち上がる


「こんにちは、チルノさん」


「うん、あたいチルノ!」


「知ってますよ」


手に凍ったカエルを持っている少女はチルノというらしい


「ちょっとお尋ねしたいのですがよろしいですか?」


「うん、いいよー」


見た目といい話し方といいとても明るい少女だとすぐに分かる


「最近何か大きな出来事や異変はありませんでしたか?」


「いへん?」


「そう、異変です」


「なにもないよー」


「そうですか…」


「それよりさー、しゃめーまる?
このまえのインタビューいつのるのー?」


(あ、しまった)


実は以前、文はチルノに取材を申し込んでいて
記事にしようとインタビューをしたのですが


「あれはですねー…そう、あまりに良い記事になったので
これからのために取っといてあるんですよー、あはは」


「そうなんだー、じゃあのせるときおしえてね!」


「あはは…わかりました」


その取材内容とは以下の通り

Qチルノさんの趣味はなんですか?
Aカエルこおらせること!

Qチルノさんの特技はなんですか?
Aカエルこおらせることだよ!

Q…チルノさんの性格はどのようなものですか?
Aさいきょう!


…まぁ以上のような答えが殆どを埋め尽くしましてね
これを記事にしたらカエルと購読者に何を言われるか…わかりますよね


「そ、それでは何かあった時はぜひご一報をお願いしますね、では失礼します」


そう言うと文は足早に湖から去ろうとした…その時


「まって!」


突然チルノに呼び止められた


「な、なんでしょうか」


「これからしゅざいいくんでしょ?あたいもついてく!」


「え!?」


いきなりの宣言に戸惑う文


「だ、だめですよ」


「だいじょうぶ、あたいすごいから」


何が凄いのかはいまいちわからないが自信満々なチルノ


「しゃめーまるいいでしょ~おねがい~がんばるから~」


「そ、そんなこと言われても…」


キラキラした目で見つめてくる


「うぅ…わ、わかりましたよ」


元々人の頼みをうまく断れない文はしぶしぶ了承することに


「その代わりちゃんと働いてくださいよ?」


「わかった!」


こうしてチルノの熱意に押された文


新たな助手を連れてスクープ探しに出かけるのであった…





ふたりはまず最も情報が集まるであろう人間の里に出向くことにした


しばらく様々な店や人に聞き回っていくがこれといったものは得られずにいた


元々平和な世界である
そんな事件など滅多に起こらないだろう


起きたとしても大体人間の知れぬ間に解決されてしまうし


「あの巫女は厄介この上ないなぁ」


スクープにしようと動き出している途中で先を越されてしまう


「しばらく密着取材で張り込もうかしら…」


それよりも今は隣にいる子が厄介だ


お菓子が欲しいとねだるわ

商品を凍らせて遊ぶわ

いつの間にかどっかいっちゃうわで文はてんてこ舞い


取材どころじゃないよまったく…


「わーい!」


「今度は何処に行くんですか~」


チルノにあっちへこっち振り回されていると途中見覚えのある人物を見かけた


「あれは…メイドよねぇ、チルノさん!ストップストップ!」


「ん~なーに?」


さっきは主に門前払いを食らったが

あのメイド長なら話を出来るだろうと踏んだ文


早速買い物中のメイド長に話しかけた


「どうも咲夜さん、幻想郷一のブン屋、射命丸文です」


咲夜と呼ばれたメイド服姿の彼女はこちらに振り向いた


「あら?射命丸さんじゃないですか
しかも珍しいわね、チルノさんも一緒だなんて」


「うん、あたいチルノ!」


「知ってますわ」


軽く挨拶を交わし文は本題に入る


「ちょっとお聞きしたいのですがよろしいですか?」


「ええ、構いませんよ」


「最近身の回りに大きな出来事や異変とかありませんでした?」


腕を組み少し考えるメイド長


「ごめんなさい、ちょっと思いつきません」


「そうですか…わかりました
すいませんね、お時間を取らせてしまいまして」


少し肩を落としつつ文はお礼を述べた


「いえいえ、それでは私は失礼しますね」


「うん、じゃあ~ね~」


そう言ってメイド長は買い物袋を抱えてその場を後にした


「う~ん、結局何も得ず仕舞いですか…」


咲夜に見えなくなるまで手を振っていたチルノは文に振り返り


「ねぇ、次は神社に行こうよ!」


「神社って博霊神社のことですか?」


うんうんと頷くチルノ


「そうですね~あの巫女なら何か異変に気づいてるかもですし
ちょっと行ってみましょうか」





博霊神社と書かれた鳥居の前に到着


神社だというのにあまりにも人がいない…


「と~ちゃく~、れ~む~きたよ~」


本殿に向かい走り出すチルノ


「ここはいつも寂れてますね…」


文は思わず本音を漏らす


「廃れてはいないわよ」


「わぁ!霊夢さん!?」


後ろから急に現れた巫女姿の少女に思わず飛び退く文


「人がいないところで悪口言わないでよ」


鋭い目つきで文を睨む霊夢と呼ばれた巫女


「あはは…」


「あ、れーむいた!」


いつの間にか中に入っていたチルノが本殿から顔を出す


「あら?なんでチルノが文と一緒にいるの?」


珍しい組み合わせにマジマジと二人を見つめる霊夢


「うん、あたいチルノだよ!」


「知ってるわよ」


右手に箒を持っている霊夢


恐らくおもてを掃除していたようだ


「あの~霊夢さん?ちょっとお聞きしたいことがあるのですが…」


「嫌よ」


なんという即答


予想だにしない答えに驚く文


「え!?な、なんでですか?」


「だってどうせろくなことじゃないでしょう」


「そんなぁ…」


まるで聞く耳を持たない霊夢にチルノが尋ねた


「れーむ?さいきんなにかなかった?」


「何かってなによ」


「おおきなできごとだってさ」


少し考える霊夢


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


「何よ、今考えてるんだから静かにしててよ」


「す、すいません…ってそうじゃなくて!
なんで私の質問には答えてくれないですか!?」


どうやらそこに納得いかなかったようだ


「だからあんたはろくなことしないじゃない」


ガーン!


文は深く心に傷を負った


「あ、そういえば一つあったわ」


「!?その話詳しく!」


ふて腐れて横になっていた文もガバッっと起き上がり身を乗り出した


「昨日のことなんだけど…」


「ふむふむ…」


すかさずメモを取り出す文


「魔理沙が私のおまんじゅう食べちゃったのよ!」


………へ?


思わずペンが止まる


「へ?じゃないわよ!
後で食べようと思って大事に取っといたのに~」


「食べられちゃったって…
たかがおまんじゅうじゃないですか」


呆れたようにつぶやく文


その一言に霊夢の様子が変わった


「たかが!?おまんじゅう!?
あれは私がなけなしのお金を使って買ったのよ!?
それなのに魔理沙ときたら…あ~!思い出しただけで腹が立ってきたわ…」


プルプルと怒りに震える霊夢


「あ~…取材ご協力ありがとうございました…」


隅でちょうちょを追っかけてたチルノを連れてそそくさと抜け出す文


「あ!まだ話は終わってないわよ!」


霊夢の怒号を置いて文達は神社を後にした


「れーむはもういいの?」


「十分話は聞けましたから」


苦笑いを浮かべながら文は伝えた





その後も文はチルノの提案であちこちを回っていった


しかしどれも思い通りにはいかなかった


永遠亭では兎に聞こうとしたが
話の途中で彼女らが薬師に引きずられていってしまったので
結局聞けず仕舞いになるし


迷いの竹林では何故か焼き鴉にされそうになるし


白玉楼では何故か主が話が終わる度に私を見てよだれを垂らしているし


そのまま地獄に連れてかれて裁かれそうになるし


ほんと行くとこ行くとこ踏んだり蹴ったり


何も得られないまま二人は最初の湖に戻ってきてしまった





二人は畔の影に腰を掛けた


西方の空に日が沈み湖が夕焼け色に染まっている


「はぁ…」


結局スクープはおろか記事に出来るようなものも見つからなかった


「どうしよう…このままじゃ新聞出せないよ…」


一日かけても何も見つからなかった


本当にこのままじゃ文々。新聞は…


思わず目に涙が浮かぶ


ふと横のチルノがこちらを向いているのに気づいた


必死に涙を止め拭い


「すいませんでした、今日はわざわざ一日付き合ってもらったのに…
ご迷惑までおかけしちゃって、ほんと…に…」


また涙が滲む


「すいません…」


堪えきれずに下を向いてしまう


そんな文を見たチルノは湖へと視線を戻した





しばらく時が止まったかと思うとふいにチルノが口を開く


「しゃめーまるってさ、なんでしんぶんかいているの?」


「……それは…」


思わず言葉が詰まる…何故?


チルノは構わず続けた


「あたいね、きょうすごくたのしかった、
いろんなひととあって
いろんなはなしして
しゃめーまると、一緒にでかけて」


「あたいバカだからさ
文字も書けないし
ひとと仲よくしようとしてもなぜか怒らせちゃったり
しゃめーまるみたいにうまく出来ないんだ」


私はただ黙って聞いていた


「でもね、新聞だけは読めるんだよ
大ちゃん達に教えてもらって
今じゃ一人でも読めるんだよ」


そう言って彼女は自慢げに笑った


「しゃめーまるが書いた新聞もね
毎回読んでるんだよ
いつも楽しくて
だから今日どうやって書いてるのか見てみたかったの」


「やっぱり凄く楽しかった
取材ってこんなに楽しいんだなぁって思った
でも…でもしゃめーまるだけは、楽しそうじゃなかった」


その言葉になぜか私はドキッとした


「里に行ったときも、神社に行ったときも、
なんでなのかな?って思った
そういうの何でかあたいはわかんない、だけどね」


彼女は静かに立ち上がる


「しゃめーまるも楽しんでやらなきゃダメだよ?
せっかくの楽しい新聞が台無しになっちゃうんだから」


「何ならあたいが保障するからさ、射命丸の新聞が凄く楽しいってこと」


そう言って彼女は私に優しく微笑んだ






この時私は思い出した

何で新聞を書き始めたのか

何でこんなに広めたがっていたのか


答えは簡単

「楽しさ」

新聞を書くこと自体楽しかった

感想を貰えるのも嬉しくてそれを読むのも楽しかった


このことを読む人にも伝えたいから

多くの人に読んでもらいたいから

だから私は広めたかった


それがいつからだっただろうか

楽しんでもらうにはスクープが必要

広めるにはスクープが必要


いつしか記事を楽しんで書くことも忘れて

ただ記事を追い求めるだけになっていた


どんな記事でも私が楽しんで書かなければ

読んでいる人も楽しめるはずがなかったのに



自然と笑みがこぼれるのがわかった




「ありがとうね、チルノさん」




そこに一輪の花が咲いたように彼女は笑った






文は今回のことを記事にした


それを読んだ天狗仲間達には笑われたりもした


だけど購読者達にはいつもより感想を多くもらうことが出来た


それを見て文は微笑む


「さて、そろそろ取材に行きますか」


それらの紙を机の上に置いて、文は家を出る






今回の文々。新聞の見出し



氷の妖精、初めての助手






「おーい、チルノさーん」

遠くから手を振って彼女に近づく

それに気づいて近づいてくる彼女

「お待たせしました、それでは行きましょうか」

「うん、いこーか!」


そうそうこの前の新聞読んでくれました?


よんだよ!あたいのってた!


どうでした?


あたいかっこよかった!


あはは、それは良かったです


今日はどこに行きましょうか


う~んとねぇ...





季節は春





だが一日一日確実に夏へと移ろいでいく





しかし天狗と妖精は今日も郷を駆け巡る





心のスクープを求めて
初めましての方は初めまして。

そうでない方、またお会いできて嬉しいです。

紅夜と申します。

これは二作目の作品になります。

今回は少し長文にしてみましたがいかがだったでしょうか?

面白かったと思ってもらえればとても嬉しいです。

では、また良かったら次の作品でお会いしましょう☆
紅夜
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コメント



0.370簡易評価
19.100名前が無い程度の能力削除
かわいい助手さんだ