一生の内に、けして退く事が出来ない戦いという物がある。
百に届くか否かで一生を終える人間にも、その規格から逸脱せし我ら妖怪も、不滅であろう神であろうと、それに例外はない。
生きる事とは戦いなのだ。
朝起きて、食事をし、日々の勤めを行い、湯浴みで疲れを癒し、眠る。
妖怪の山は人里とも外の世界とも違い、働いたからといって給金が出るわけではない。
それでも河童達は日々何かを作る事に精を出すし、天狗たちも各々の役目を全うするべく奔走している。
「生きてるって素晴らしい。だから我々は各々のSAGAに従って新聞を書いていると思うんですよ」
「成る程、いい台詞で、感動的ですね。 でも……今の文さんの状況としては無関係ですよね?」
「……む」
思考時間十秒で思いついたちょっと感動しそうな良い話作戦は、脆くも崩れ去った。
「それとも、私のチョコレートを食べる事が戦いとでも言いたいんですか?」
「い、いえ、決してそのようなことは……」
幻想郷ではマイナーではあるが、目の前の少女、東風谷早苗にとっては一大イベントなのであろう。
今日は二月十四日。俗に、バレンタインと呼ばれる一日。
早苗に数日前に呼び出しを受けて今現在、守矢神社の居住部……もっと言うなら早苗の部屋で、かれこれ十分ほど似たような会話を続けていた。
射命丸文は悩んでいた。
そう、今日はバレンタイン。バンアレン帯ではない。
外の世界の恋人達が、プレゼントされたチョコレートを食べながら乳繰り合って過ごす一日……というのは早苗の談だ。
恋人達が乳繰り合う、そしてそれが正常と判断される日。
文と早苗の普段の態度を考えれば、まあ、早苗のテンションがクライマックスタイムに突入するのは予想が出来た。
が、しかし、文にはどうしても、どうしても一つだけ受け入れられない点があった。
(どうすればいい……どうすれば……!)
今、文の目の前に置かれているのチョコレートだ。
甘い物はあまり好みではないが、饅頭や大福、クッキーならまだ問題はなかった。
チョコレート、これが問題なのだ。
文は忘れはしなかった、あの悲劇を……
遡る事今から十数年前、文は取材の途中で偶然チョコレートを手にいれた事があった。
人里の茶屋からの取材の帰りに、主から外の世界から流れてきた調理書から再現してみた物のあまりと言う事で一枚頂いたのだ。
帰路の中、夕飯までの腹の足しにと文はチョコレートを二つに割り、余った部分を微かに漂う甘い香りに魅せられながらも寒空の下で必死に頑張る烏に分け与えた。
ペロリと平らげた烏を微笑ましく見続けていたが、異変は暫くしてから起きた。
ぐらりとバランスを崩したと思った時には、もう遅かった。
きりもみながら、流れ星のように夜の山に落ちていき、そのまま彼女は帰らぬ人……ならぬ帰らぬ烏になった。
享年三歳、酸いも甘いも楽しめるようになった矢先の悲劇だった。
そんな物思いに耽っていた所を、早苗の声が現実に引き戻す。
「……やっぱり、文さん無理してませんか?」
「ウェイ!?」
「そうですよね……私の手作りお菓子なんか、きっと不味いに決まってます」
「そんなこと……ないですよ」
「だって文さん、何時もなら何か私が用意したらすぐに反応するじゃないですか」
「う……」
否定は、出来ない。
何故なら早苗が幻想郷の常識を知ったとて、外の世界の常識も持っているから里の人間とは反応が違う。
我々妖怪とも、里の人間とも違う反応。
何気ない事でも子供のような輝く瞳で子犬のように反応したり、虫けらを蔑むとっても素敵な笑顔を浮かべたり。
その一つ一つを的確に記憶し、可愛いなと感じてしまう私も、成る程早苗という神に心酔する信者なのかもしれない。
主に抱きしめたいとか鳴かせたいとか付くあたり、間違いなく狂とつく類だろうが。
しかし、言えない。
言える訳が無い。
早苗が折角夜遅くまで頑張って作った食べ物は、私にとっては猛毒でしたなんて口が裂けても言える訳が無い。
その時どんな反応をしてくれるのだろうか?知りませんでしたとはにかむだけか、それともごめんなさいと謝るだろうか? ……泣いてくれたら嬉しい、とても嬉しい。
「……それはそれで、見てみたいかもしれない」
「何をですか?」
「い、いえ、こちらの事ですよ」
頭に疑問符を浮かべながら文を心配そうに覗き込んでくる早苗。
いっそ全て話した方が楽になれるかもしれないがそれはギリギリまで却下したい。
そしてどの様な結末を迎えるにせよ、目の前の問題は手早く片付けなくてはならない。
自分の家なら兎も角、ここでは何時八坂神が現れるかわからない。
もし見つかろうものならば面倒は必至、諏訪子様なら気恥ずかしい精神疲労で済むが、彼女だった場合は疲労どころか衰弱に足を突っ込みかねない。
あの二柱の神様達は蛇と蛙を自分のイメージにしてる癖に、根っこは人に近いタイプですからそういうこと無いんですよね悔しい事に。
「よし」
文が頭脳を回転させて出した答えは“食べる”だった。
倒れても構わない、ただ自分のために早苗が作ってくれたものを無碍にしたくな、悲しませたくない。
そんな自分を犠牲にしてでもという結論に既決した自分を、文は本当に早苗に甘くなったと自虐的な笑みを浮かべる事で振り切った。
「……美味しい」
「ほ、ほんとですか!」
「ええ、とても」
先程の不安な顔は何処へやらそれが自分の事のように嬉しそうに笑っている。
ああ、やっぱり可愛いなこの子は。
そんな少女を残して、自分は倒れるのだ……早苗の後にみんなが見えた気がする。
にとり、椛にはたて、八坂神・諏訪子様……
早苗の事、攻めないでくださいね。私の生まれに問題があっただけですから……
「良い顔だったね文さん」
「……にとり」
「食べる時は一気に行きましたね!それでちゃんと感想まで言えたのは流石です!」
「……椛」
「文は変わったわね~ 愛は変える、その者の在り方をも……うん、ちょっといけそうなネタかも!」
「……はたて」
「おいブン屋、そのチョコはなぁ!いままで私の物だったんだぞ!私の!」
「……八坂様」
「いやぁ……決断まで長かったねぇ……でも、食べたのは偉いぞ!」
「諏訪子様」
みんなの姿じゃなくて声も聞こえるなんて、天に感謝しなきゃいけませんね。
こんな自分の最後にみんなが立ち会ってくれるなんて
……みんなが!?
その時、文の霞んでいた視界は何もかもがクリアになった。
見間違いではない。
部屋の中には、何時の間にか、にとりも椛もはたても神奈子も諏訪子もいる。
夢でもなければ幻でもない。
「ど、どどどどどどどうしてみみみ皆さんが!?」
「あ、私が仕込みました。文さんが食べてくれるか不安だったもので」
「さぁぁぁなえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
恥ずかしい、生きてる事が恥ずかしい、恥ずかしさのあまりいっそ楽にして欲しかった。
「ああ、しかし問題ありません。私チョコ食べましたから、もうすぐこの世からおさらばですよ……」
「あ、別にチョコ食べたからって文さんは大丈夫ですよ」
「……え?」
「外の世界じゃ動物にチョコレートは危険ってちょっと調べれば直ぐわかりますからね。流石に烏はどうか解りませんでしたが」
「……えっと、じゃあもしかしなくても」
「はいっ! 文さんの愛、確認しちゃいました! というか、その為にこういうシチュエーションにしたわけですから!」
えっへんと、早苗が大きく大きな胸で主張する。
つまり、早苗は、自分を試す為に、毒だと知っていた、わざと、チョコを、食べさせたと言う事だ。
「でも安心してください!チョコを食べて中毒症状を引き起こすのは小動物ぐらいですから!もしチョコが烏天狗に該当するとしても、症状が出るにはキロ単位で食べないといけない計算です!」
「……そーなのかー」
早苗が何か言ってるようだが、あえて聞かない事にする。
早苗の事だからふとした思い付きでこんな考えを実行したのだろう。
そんなに普段の自分は早苗に信用されていないのか……これでも結構恥ずかしいのを我慢して早苗に優しくしていたつもりだったのに。
ああ、だったら―――
「早苗」
「何ですか? 文さん」
だったら今度は自分が試してみても問題はないはずだ。
子供じみてると笑いたければ笑うが良いさ。
好きな人の反応を見たくて何が悪い。
「大嫌い」
その時誰もが理解した。
部屋の空気が間違いなく凍結したと。
「……すみません、よく聞こえませんでした。もう一度もう一度お願いします。嫌いとか聞こえたような気がしましたが嘘ですよね、絶対嘘ですよね、あ~夜遅くまでチョコ作ってたから疲れちゃったのかな~そうだ!文さん
文さん、文さんチョコくださいよ。持ってないと思いますから、私があげたので構いませんよ?ああ、文さんが口に咥えて私に食べさせてくれたりしちゃったりしてくれたらもう堪りませんねですから文さん!ワンモア!
もう一度愛を、私に見せてください!先程の台詞は空耳ですから、私何も聞こえてませんよ!嫌いなんて聞こえてませんよ!はい!優しい口調であ~んってお願いしますか―――」
言い切る前に、早苗の両肩に心地よい重みが加わる。
文の手だ。
眩い笑顔の文が早苗の両肩に手を置き、そのまま早苗の背中に手を回す。
必然的に抱き寄せる形となるわけだ、二人の吐息が絡み合うほど文は早苗を引き寄せると、するりと顔をずらし、耳元に口を近づけると一言。
「大っ嫌い」
早苗が、聞き間違えないようにはっきりと、叫ぶ事なく、さも当たり前のよう言い放った。
笑顔のままで。
「文さんが嫌いだってだって文さんが嫌いだってだってだって文さんが嫌いだって文さんが文さんが文さんがあややややややや……」
そして壊れた。
見事に壊れた。
早苗は先程からこんな調子だ、十分ほど同じ状態だ。
そろそろ良い頃合か。
「早苗」
自分だって、十分考えた、差し引きはこの程度で良いだろう。
「大好きだからね」
そういって、文は咥えたチョコと一緒に早苗に唇を重ねた。
百に届くか否かで一生を終える人間にも、その規格から逸脱せし我ら妖怪も、不滅であろう神であろうと、それに例外はない。
生きる事とは戦いなのだ。
朝起きて、食事をし、日々の勤めを行い、湯浴みで疲れを癒し、眠る。
妖怪の山は人里とも外の世界とも違い、働いたからといって給金が出るわけではない。
それでも河童達は日々何かを作る事に精を出すし、天狗たちも各々の役目を全うするべく奔走している。
「生きてるって素晴らしい。だから我々は各々のSAGAに従って新聞を書いていると思うんですよ」
「成る程、いい台詞で、感動的ですね。 でも……今の文さんの状況としては無関係ですよね?」
「……む」
思考時間十秒で思いついたちょっと感動しそうな良い話作戦は、脆くも崩れ去った。
「それとも、私のチョコレートを食べる事が戦いとでも言いたいんですか?」
「い、いえ、決してそのようなことは……」
幻想郷ではマイナーではあるが、目の前の少女、東風谷早苗にとっては一大イベントなのであろう。
今日は二月十四日。俗に、バレンタインと呼ばれる一日。
早苗に数日前に呼び出しを受けて今現在、守矢神社の居住部……もっと言うなら早苗の部屋で、かれこれ十分ほど似たような会話を続けていた。
射命丸文は悩んでいた。
そう、今日はバレンタイン。バンアレン帯ではない。
外の世界の恋人達が、プレゼントされたチョコレートを食べながら乳繰り合って過ごす一日……というのは早苗の談だ。
恋人達が乳繰り合う、そしてそれが正常と判断される日。
文と早苗の普段の態度を考えれば、まあ、早苗のテンションがクライマックスタイムに突入するのは予想が出来た。
が、しかし、文にはどうしても、どうしても一つだけ受け入れられない点があった。
(どうすればいい……どうすれば……!)
今、文の目の前に置かれているのチョコレートだ。
甘い物はあまり好みではないが、饅頭や大福、クッキーならまだ問題はなかった。
チョコレート、これが問題なのだ。
文は忘れはしなかった、あの悲劇を……
遡る事今から十数年前、文は取材の途中で偶然チョコレートを手にいれた事があった。
人里の茶屋からの取材の帰りに、主から外の世界から流れてきた調理書から再現してみた物のあまりと言う事で一枚頂いたのだ。
帰路の中、夕飯までの腹の足しにと文はチョコレートを二つに割り、余った部分を微かに漂う甘い香りに魅せられながらも寒空の下で必死に頑張る烏に分け与えた。
ペロリと平らげた烏を微笑ましく見続けていたが、異変は暫くしてから起きた。
ぐらりとバランスを崩したと思った時には、もう遅かった。
きりもみながら、流れ星のように夜の山に落ちていき、そのまま彼女は帰らぬ人……ならぬ帰らぬ烏になった。
享年三歳、酸いも甘いも楽しめるようになった矢先の悲劇だった。
そんな物思いに耽っていた所を、早苗の声が現実に引き戻す。
「……やっぱり、文さん無理してませんか?」
「ウェイ!?」
「そうですよね……私の手作りお菓子なんか、きっと不味いに決まってます」
「そんなこと……ないですよ」
「だって文さん、何時もなら何か私が用意したらすぐに反応するじゃないですか」
「う……」
否定は、出来ない。
何故なら早苗が幻想郷の常識を知ったとて、外の世界の常識も持っているから里の人間とは反応が違う。
我々妖怪とも、里の人間とも違う反応。
何気ない事でも子供のような輝く瞳で子犬のように反応したり、虫けらを蔑むとっても素敵な笑顔を浮かべたり。
その一つ一つを的確に記憶し、可愛いなと感じてしまう私も、成る程早苗という神に心酔する信者なのかもしれない。
主に抱きしめたいとか鳴かせたいとか付くあたり、間違いなく狂とつく類だろうが。
しかし、言えない。
言える訳が無い。
早苗が折角夜遅くまで頑張って作った食べ物は、私にとっては猛毒でしたなんて口が裂けても言える訳が無い。
その時どんな反応をしてくれるのだろうか?知りませんでしたとはにかむだけか、それともごめんなさいと謝るだろうか? ……泣いてくれたら嬉しい、とても嬉しい。
「……それはそれで、見てみたいかもしれない」
「何をですか?」
「い、いえ、こちらの事ですよ」
頭に疑問符を浮かべながら文を心配そうに覗き込んでくる早苗。
いっそ全て話した方が楽になれるかもしれないがそれはギリギリまで却下したい。
そしてどの様な結末を迎えるにせよ、目の前の問題は手早く片付けなくてはならない。
自分の家なら兎も角、ここでは何時八坂神が現れるかわからない。
もし見つかろうものならば面倒は必至、諏訪子様なら気恥ずかしい精神疲労で済むが、彼女だった場合は疲労どころか衰弱に足を突っ込みかねない。
あの二柱の神様達は蛇と蛙を自分のイメージにしてる癖に、根っこは人に近いタイプですからそういうこと無いんですよね悔しい事に。
「よし」
文が頭脳を回転させて出した答えは“食べる”だった。
倒れても構わない、ただ自分のために早苗が作ってくれたものを無碍にしたくな、悲しませたくない。
そんな自分を犠牲にしてでもという結論に既決した自分を、文は本当に早苗に甘くなったと自虐的な笑みを浮かべる事で振り切った。
「……美味しい」
「ほ、ほんとですか!」
「ええ、とても」
先程の不安な顔は何処へやらそれが自分の事のように嬉しそうに笑っている。
ああ、やっぱり可愛いなこの子は。
そんな少女を残して、自分は倒れるのだ……早苗の後にみんなが見えた気がする。
にとり、椛にはたて、八坂神・諏訪子様……
早苗の事、攻めないでくださいね。私の生まれに問題があっただけですから……
「良い顔だったね文さん」
「……にとり」
「食べる時は一気に行きましたね!それでちゃんと感想まで言えたのは流石です!」
「……椛」
「文は変わったわね~ 愛は変える、その者の在り方をも……うん、ちょっといけそうなネタかも!」
「……はたて」
「おいブン屋、そのチョコはなぁ!いままで私の物だったんだぞ!私の!」
「……八坂様」
「いやぁ……決断まで長かったねぇ……でも、食べたのは偉いぞ!」
「諏訪子様」
みんなの姿じゃなくて声も聞こえるなんて、天に感謝しなきゃいけませんね。
こんな自分の最後にみんなが立ち会ってくれるなんて
……みんなが!?
その時、文の霞んでいた視界は何もかもがクリアになった。
見間違いではない。
部屋の中には、何時の間にか、にとりも椛もはたても神奈子も諏訪子もいる。
夢でもなければ幻でもない。
「ど、どどどどどどどうしてみみみ皆さんが!?」
「あ、私が仕込みました。文さんが食べてくれるか不安だったもので」
「さぁぁぁなえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
恥ずかしい、生きてる事が恥ずかしい、恥ずかしさのあまりいっそ楽にして欲しかった。
「ああ、しかし問題ありません。私チョコ食べましたから、もうすぐこの世からおさらばですよ……」
「あ、別にチョコ食べたからって文さんは大丈夫ですよ」
「……え?」
「外の世界じゃ動物にチョコレートは危険ってちょっと調べれば直ぐわかりますからね。流石に烏はどうか解りませんでしたが」
「……えっと、じゃあもしかしなくても」
「はいっ! 文さんの愛、確認しちゃいました! というか、その為にこういうシチュエーションにしたわけですから!」
えっへんと、早苗が大きく大きな胸で主張する。
つまり、早苗は、自分を試す為に、毒だと知っていた、わざと、チョコを、食べさせたと言う事だ。
「でも安心してください!チョコを食べて中毒症状を引き起こすのは小動物ぐらいですから!もしチョコが烏天狗に該当するとしても、症状が出るにはキロ単位で食べないといけない計算です!」
「……そーなのかー」
早苗が何か言ってるようだが、あえて聞かない事にする。
早苗の事だからふとした思い付きでこんな考えを実行したのだろう。
そんなに普段の自分は早苗に信用されていないのか……これでも結構恥ずかしいのを我慢して早苗に優しくしていたつもりだったのに。
ああ、だったら―――
「早苗」
「何ですか? 文さん」
だったら今度は自分が試してみても問題はないはずだ。
子供じみてると笑いたければ笑うが良いさ。
好きな人の反応を見たくて何が悪い。
「大嫌い」
その時誰もが理解した。
部屋の空気が間違いなく凍結したと。
「……すみません、よく聞こえませんでした。もう一度もう一度お願いします。嫌いとか聞こえたような気がしましたが嘘ですよね、絶対嘘ですよね、あ~夜遅くまでチョコ作ってたから疲れちゃったのかな~そうだ!文さん
文さん、文さんチョコくださいよ。持ってないと思いますから、私があげたので構いませんよ?ああ、文さんが口に咥えて私に食べさせてくれたりしちゃったりしてくれたらもう堪りませんねですから文さん!ワンモア!
もう一度愛を、私に見せてください!先程の台詞は空耳ですから、私何も聞こえてませんよ!嫌いなんて聞こえてませんよ!はい!優しい口調であ~んってお願いしますか―――」
言い切る前に、早苗の両肩に心地よい重みが加わる。
文の手だ。
眩い笑顔の文が早苗の両肩に手を置き、そのまま早苗の背中に手を回す。
必然的に抱き寄せる形となるわけだ、二人の吐息が絡み合うほど文は早苗を引き寄せると、するりと顔をずらし、耳元に口を近づけると一言。
「大っ嫌い」
早苗が、聞き間違えないようにはっきりと、叫ぶ事なく、さも当たり前のよう言い放った。
笑顔のままで。
「文さんが嫌いだってだって文さんが嫌いだってだってだって文さんが嫌いだって文さんが文さんが文さんがあややややややや……」
そして壊れた。
見事に壊れた。
早苗は先程からこんな調子だ、十分ほど同じ状態だ。
そろそろ良い頃合か。
「早苗」
自分だって、十分考えた、差し引きはこの程度で良いだろう。
「大好きだからね」
そういって、文は咥えたチョコと一緒に早苗に唇を重ねた。
早苗さん、貴方という人はw
苦さも甘さもあって良かったです。
最高おおおおおおお!甘いぜ!甘すぎる!
ハハッ君はどうやら私を糖尿病にしたいんだね!
望むところだ!!!!!
ごちそうさまでした。