「はいはい、ちょっと待って」
皆で食卓を囲んでいた時、輝夜が突如として言った。
「なんでしょうか、姫様」
永琳がおはしを置く。
「どうせまた、ニートとか、引きこもりとか、ぐーたら姫様とか、始まるんでしょう? 」
てゐが溜息を吐いた。
またか、と。
輝夜は被害妄想癖を患っていた。それも重度の。
周りがニートとか、引きこもりとか、ネトゲ廃人などの二次要素を付加し、それで散々弄ったせいだった。
お陰で盆栽をこよなく愛し、気品に満ちた永遠亭のお姫様である輝夜は、周りが何かをすれば「どうせまたいつものように、ニートネタに繋げるんでしょ? 」と、怯えた目で言う程の被害妄想に捕らわれるようになってしまった。
勿論、永琳も憂慮している。
ババア倶楽部に加入させられたならまだしも、輝夜が二次ネタ通りの引きこもりがちになっているのは耐えられなかったのだ。
「後、鈴仙虐めも始まるんでしょ? 」
茶碗蒸しを虫のようにちびちびと食べていた優曇華が、ビクッ!! と肩を震わせた。
そして震えながら、怯えたレイプ目で隣の永琳を見る。
彼女もまた、被害者なのだ。
「今時誰もやりませんよ、そんな150円ネタ」
泣き出した優曇華を抱き締めながら、永琳は言った。母のような、慈愛に満ちた笑顔で。
「じゃあ、奴らが新しいジャンルでも開拓したとでも言うの? 」
輝夜がガタガタ震える。
「今度はなに? 薬のモルモット? 虐められっ子? それとも――――」
「姫様」
永琳の手が、輝夜の手の上に重ねられる。
そして優しく握った。
「今日は何の日でしょうか? 」
輝夜は暫く沈黙した後、ポツリと言った。
「知らない……。私にとっては、毎日が地獄だし」
「今日はですね――――」
そう言って、てゐにアイコンタクトをする。
てゐが嬉しそうに頷き、走って部屋を出る。
そして、戻って来たてゐの手の上には、可愛らしく包装された包みが載っていた。
「バレンタインなんですよ姫様」
てゐの包みを、震える手で取る輝夜。
「……だから? 」
「周りがどんなに貴方をニートだとか、ネトゲ廃人だとか弄っても、私達は姫様がそんな人間では無い事を良く知っています。だから……」
輝夜の目に涙が滲んだ。
「……恐がらなくて良いんですよ」
溢れた涙が、雫となって頬を伝って落ちた。
「ありがとう……ありがとうみんな……」
「さあ、開けてみて下さい」
「うんッ!! 」
輝夜は、笑顔で頷き包みを開けた。
『うどんげっしょー! 』
そう言う機械声と共に、箱の中から小さなウサギが飛び出した。
「しゃぁ! 」
てゐがガッツポーズする。
「……結局150円ネタじゃねーーーーーーーーーかあああああああ!!!!!!!!!!111!!! 」
輝夜のパンチが、てゐのみぞおちにめり込んだ。
この子は原作通りね、と永琳は苦笑するしかなかった。
その後、妹紅と慧音を含めた皆で、仲良く永琳と優曇華お手製のチョコケーキを食べて、輝夜は楽しいバレンタインを過ごしました。