幻想郷の妖怪山にある守矢神社。
「これでよしっと……」
東風谷早苗は、最後の仕上げを終える。台所でエプロンに三角巾を着けて、テーブルにはハートの形をしたチョコレートが出来ている。
「あとはここに……」
早苗は生クリームをチョコレートに盛り付ける。慎重にクリームで文字を作っていく。
「よしっ! 出来ました!」
緊張感から解放されて早苗は一息を吐く。
「何とか間に合った」
早苗は台所の柱にかけてある日替わりカレンダーを見る。カレンダーには二月十四日となっている。今日は乙女達にとって、とても大事な日である。
「霊夢さん。喜んでくれるかな」
早苗は博麗神社の巫女博麗霊夢にチョコレートを渡すために作っていたのだ。早苗は霊夢にチョコレートを渡した所を想像する。
『早苗、ありがとう。すごく嬉しいわよ』
『霊夢さんの為に一生懸命作ったのですよ』
『それじゃぁ、一緒に食べましょうか』
『やだ、霊夢さん。恥ずかしいです』
『大丈夫よ、早苗。ほら、あ~ん……』
「イヤ~ン! 霊夢さん! そんな~! あはははは~~!」
満面の笑みで顔を赤くして、照れる早苗。
「さ、早苗……早苗が、壊れた」
その光景を台所の入り口前で隠れて見ている八坂神奈子は顔が真っ青になっている。
「おのれ~……あの、貧乏巫女めぇ~……今度こそ、奴の息の根を……」
神奈子は巨大御柱を二つ構える。
「やめなさい、神奈子」
すると、神奈子の頭上に大きなタライが降ってきた。
「ぐはっ!」
見事に決まり、そのまま神奈子はバタリと倒れた。
「もう、ダメでしょう、神奈子。早苗の邪魔をするなって、いつも言ってるでしょう」
そこには守矢神社のもう一人の神である洩矢諏訪子である。
「す、諏訪子……このままでは、早苗が……」
「早苗の幸せを願うのなら、このままにしてあげなよ」
「し、しかし……早苗があの貧乏巫女の所に嫁いでしまったらどうするつもりなのよ」
「いや、早苗本人、霊夢の嫁だと思っているから」
「な、何ですってぇぇ~!?」
神奈子の背後に雷が落ちた。
「ちょっとあの貧乏神社に行ってくる」
「だからやめなさいって……」
諏訪子はどこからか上に垂れている糸を引っ張る。すると、またタライが神奈子の頭に直撃して、今度こそ気絶した。
「あの、諏訪子様。一体何をしているのですか?」
流石に騒がしすぎたのか、早苗が諏訪子の所にやってきた。
「いや~、早苗。何でもないよ。それより、早く博麗神社に行かないと、あの吸血鬼かスキマ妖怪に先を越されてしまうよ」
「あっ! わ、私、行ってきます!」
早苗は慌てて神社を出る。
「いやいや~、良いモンですね。さて、私は神奈子がまた何かしないように縛っておくか……」
諏訪子は気絶している神奈子を引き摺っていく。
「で、来たものの……」
早苗は博麗神社に辿り着いたが、いざ渡そうとなると緊張して鳥居の所で隠れている。幸い境内には霊夢はいないみたいである。
「と、とりあえず……どうやって渡したら良いのかな」
早苗はこれまでバレンタインにチョコレートを渡した事がなかった。
「あ、あの……これ受け取ってください! だ、ダメです……ストレートに言っても、きっと霊夢さんのことですから伝わるかどうか……べ、別に霊夢さんの為に作ったんじゃないですから。ダメェ~! じゃぁ、いらないと言われるのがオチだよ」
ハァ~と溜め息を吐く早苗。
「霊夢さん……」
「私が何か?」
「ひゃっ!?」
早苗はビックリして周りを見ると、境内に博麗神社の巫女、博麗霊夢がいた。
「あんた、こんな所で何やっているの?」
「え、えぇと……」
あまりに唐突な出現で早苗の頭の中はパニックを起こしている。
「まぁ、良いわ。ちょうどあんたに用があったのよ」
「えっ? よ、用って……?」
「うん……」
霊夢は少し頬を赤くして早苗から目を逸らす。そして、袖の中をゴソゴソと何かを取り出そうとしている。
「まぁ、何だ……これ」
霊夢が取り出したのは、白の包装紙に赤のリボンで結んである四角い箱である。
「え、えぇ!? こ、これって……!?」
「分かるでしょう。チョコレートよ」
まさか霊夢がチョコレートを作っていたとは早苗は思っていなかった。
「で、でも……どうして?」
「べ、別に……多分、あんたの事だからチョコ作ってくるんじゃないかなと思ったから、私も作ってあげようかなと思っただけよ」
「れ、霊夢さん……」
早苗は嬉しくて涙が流れしそうになった。早苗は後ろに隠してあるチョコレートを霊夢の前に出した。
「では、私も。はい、霊夢さん」
「……ありがとう、早苗」
「私のほうこそ、ありがとうございます」
二人とも、嬉しそうに笑い合う。
「それじゃぁ、霊夢さん……」
「んっ?」
すると、早苗は自分のチョコレートを開けると、チョコレートを霊夢の食べさせようとする。
「はい、あ~ん」
「ちょっと、早苗! 何やっているのよ!?」
流石の霊夢もマズいと思ったのか、早苗がやろうとしている事を拒否する。
「この前読んだ本で、自分の作ったお菓子を相手に食べさせてあげるというのがあったのですよ。こうして『あ~ん』としてね」
「いやいや、おかしいでしょう!」
「よいではないか、よいではないか」
「それも違うでしょう! って、うわぁ!」
すると、早苗に押し倒された霊夢。早苗はチャンスだと思って、霊夢の上に乗っかった。
「えへへへ~……」
早苗はニヤリと笑って、霊夢にチョコレートを食べさせようとしている。
「こ、こんなのあいつに見つかったら……」
「私が何か?」
すると、カメラをカシャカシャと撮っている鴉天狗の射命丸文がいた。
「ちょっ!?」
「いやぁ~、良い物撮らせていただきました。それでは、新聞を楽しみにしていてくださいね」
そう言って、文は嵐の様に去っていった。
「コラァァ~~! 待ちなさ~い!」
霊夢は追いかけようにも早苗に押し倒されているから追う事が出来ないのだ。
「さぁ、霊夢さん」
「い、い……いい加減にしなさ~い!」
霊夢はスペルカードを取り出して発動させ、神社の境内で大爆発が起きた。
新聞にはこう書かれていた。
『博麗神社にて、巫女二人がチョコレートを食べあいっこ。百合百合な関係を披露!』
それを読んだ霊夢は当然怒りで新聞を破いた。
(了)
「これでよしっと……」
東風谷早苗は、最後の仕上げを終える。台所でエプロンに三角巾を着けて、テーブルにはハートの形をしたチョコレートが出来ている。
「あとはここに……」
早苗は生クリームをチョコレートに盛り付ける。慎重にクリームで文字を作っていく。
「よしっ! 出来ました!」
緊張感から解放されて早苗は一息を吐く。
「何とか間に合った」
早苗は台所の柱にかけてある日替わりカレンダーを見る。カレンダーには二月十四日となっている。今日は乙女達にとって、とても大事な日である。
「霊夢さん。喜んでくれるかな」
早苗は博麗神社の巫女博麗霊夢にチョコレートを渡すために作っていたのだ。早苗は霊夢にチョコレートを渡した所を想像する。
『早苗、ありがとう。すごく嬉しいわよ』
『霊夢さんの為に一生懸命作ったのですよ』
『それじゃぁ、一緒に食べましょうか』
『やだ、霊夢さん。恥ずかしいです』
『大丈夫よ、早苗。ほら、あ~ん……』
「イヤ~ン! 霊夢さん! そんな~! あはははは~~!」
満面の笑みで顔を赤くして、照れる早苗。
「さ、早苗……早苗が、壊れた」
その光景を台所の入り口前で隠れて見ている八坂神奈子は顔が真っ青になっている。
「おのれ~……あの、貧乏巫女めぇ~……今度こそ、奴の息の根を……」
神奈子は巨大御柱を二つ構える。
「やめなさい、神奈子」
すると、神奈子の頭上に大きなタライが降ってきた。
「ぐはっ!」
見事に決まり、そのまま神奈子はバタリと倒れた。
「もう、ダメでしょう、神奈子。早苗の邪魔をするなって、いつも言ってるでしょう」
そこには守矢神社のもう一人の神である洩矢諏訪子である。
「す、諏訪子……このままでは、早苗が……」
「早苗の幸せを願うのなら、このままにしてあげなよ」
「し、しかし……早苗があの貧乏巫女の所に嫁いでしまったらどうするつもりなのよ」
「いや、早苗本人、霊夢の嫁だと思っているから」
「な、何ですってぇぇ~!?」
神奈子の背後に雷が落ちた。
「ちょっとあの貧乏神社に行ってくる」
「だからやめなさいって……」
諏訪子はどこからか上に垂れている糸を引っ張る。すると、またタライが神奈子の頭に直撃して、今度こそ気絶した。
「あの、諏訪子様。一体何をしているのですか?」
流石に騒がしすぎたのか、早苗が諏訪子の所にやってきた。
「いや~、早苗。何でもないよ。それより、早く博麗神社に行かないと、あの吸血鬼かスキマ妖怪に先を越されてしまうよ」
「あっ! わ、私、行ってきます!」
早苗は慌てて神社を出る。
「いやいや~、良いモンですね。さて、私は神奈子がまた何かしないように縛っておくか……」
諏訪子は気絶している神奈子を引き摺っていく。
「で、来たものの……」
早苗は博麗神社に辿り着いたが、いざ渡そうとなると緊張して鳥居の所で隠れている。幸い境内には霊夢はいないみたいである。
「と、とりあえず……どうやって渡したら良いのかな」
早苗はこれまでバレンタインにチョコレートを渡した事がなかった。
「あ、あの……これ受け取ってください! だ、ダメです……ストレートに言っても、きっと霊夢さんのことですから伝わるかどうか……べ、別に霊夢さんの為に作ったんじゃないですから。ダメェ~! じゃぁ、いらないと言われるのがオチだよ」
ハァ~と溜め息を吐く早苗。
「霊夢さん……」
「私が何か?」
「ひゃっ!?」
早苗はビックリして周りを見ると、境内に博麗神社の巫女、博麗霊夢がいた。
「あんた、こんな所で何やっているの?」
「え、えぇと……」
あまりに唐突な出現で早苗の頭の中はパニックを起こしている。
「まぁ、良いわ。ちょうどあんたに用があったのよ」
「えっ? よ、用って……?」
「うん……」
霊夢は少し頬を赤くして早苗から目を逸らす。そして、袖の中をゴソゴソと何かを取り出そうとしている。
「まぁ、何だ……これ」
霊夢が取り出したのは、白の包装紙に赤のリボンで結んである四角い箱である。
「え、えぇ!? こ、これって……!?」
「分かるでしょう。チョコレートよ」
まさか霊夢がチョコレートを作っていたとは早苗は思っていなかった。
「で、でも……どうして?」
「べ、別に……多分、あんたの事だからチョコ作ってくるんじゃないかなと思ったから、私も作ってあげようかなと思っただけよ」
「れ、霊夢さん……」
早苗は嬉しくて涙が流れしそうになった。早苗は後ろに隠してあるチョコレートを霊夢の前に出した。
「では、私も。はい、霊夢さん」
「……ありがとう、早苗」
「私のほうこそ、ありがとうございます」
二人とも、嬉しそうに笑い合う。
「それじゃぁ、霊夢さん……」
「んっ?」
すると、早苗は自分のチョコレートを開けると、チョコレートを霊夢の食べさせようとする。
「はい、あ~ん」
「ちょっと、早苗! 何やっているのよ!?」
流石の霊夢もマズいと思ったのか、早苗がやろうとしている事を拒否する。
「この前読んだ本で、自分の作ったお菓子を相手に食べさせてあげるというのがあったのですよ。こうして『あ~ん』としてね」
「いやいや、おかしいでしょう!」
「よいではないか、よいではないか」
「それも違うでしょう! って、うわぁ!」
すると、早苗に押し倒された霊夢。早苗はチャンスだと思って、霊夢の上に乗っかった。
「えへへへ~……」
早苗はニヤリと笑って、霊夢にチョコレートを食べさせようとしている。
「こ、こんなのあいつに見つかったら……」
「私が何か?」
すると、カメラをカシャカシャと撮っている鴉天狗の射命丸文がいた。
「ちょっ!?」
「いやぁ~、良い物撮らせていただきました。それでは、新聞を楽しみにしていてくださいね」
そう言って、文は嵐の様に去っていった。
「コラァァ~~! 待ちなさ~い!」
霊夢は追いかけようにも早苗に押し倒されているから追う事が出来ないのだ。
「さぁ、霊夢さん」
「い、い……いい加減にしなさ~い!」
霊夢はスペルカードを取り出して発動させ、神社の境内で大爆発が起きた。
新聞にはこう書かれていた。
『博麗神社にて、巫女二人がチョコレートを食べあいっこ。百合百合な関係を披露!』
それを読んだ霊夢は当然怒りで新聞を破いた。
(了)
神奈子さまの反応も面白かったです。