「・・・・やめてよ」
「いいじゃん、別に。減るもんじゃないし」
「・・・私は、よくないの」
一輪を膝の上に乗せた村紗は、ひたすらに頭をなで続けた。警護の仕事をしたご褒美だとかいって、それを理由に撫で続けた。
頭巾が脱げて、髪をぐしゃぐしゃにさせるほど撫で続けた結果。朝、普段よりも上手く出来ていた髪が台無しになった。上手く出来てたのに、なんて考えていたら。
「一輪は、例え髪の毛が跳ねてても、いつも通り可愛いよ。うん」
心の中を見透かされていたかのように、上からそう返事が返ってきた。その言葉に少しだけ顔を赤くする。
可愛いだなんて平気で言わないで欲しい。言われるこっちの身にもなって欲しい。大体村紗のほうが可愛いし。
目はぱっちりしてるし、髪も似合ってるし、私より少し身長低いけどそこが可愛いし。何でいつも私のことばっかり可愛いなんていうんだろう。
私なんて雲山がいるせいで、地味な子とかいわれてるし。服装も結構地味なのにな。
「一輪の可愛いところは服じゃなくて、一輪自体が可愛いんだよ。髪だって、頭巾を外せば結構可愛い」
ふふふっ、と笑って村紗は優しく私の髪を撫でる。 ・・・また心の中を見透かされた。何で分かるんだろう。
心の中で考えていたことが読まれるだなんて、まるで地底にいる心を読む妖怪みたいだ。いつから村紗は読心術を得るようになったんだろう。
「読心術なんて、これっぽっちも得てないよ」
「じゃあなんで分かるの?」
「顔に出てるから」
「・・・・ほんと?」
「うん」
村紗はくすくすと忍び笑いしながら、私の頬を指でつんつんしてくる。それを聞いた途端、顔が真っ赤になったのが分かった。
『ほら、また顔に出たよ。ほんと一輪は分かり易くて可愛いなぁ』なんて指摘されて、更に顔が赤くなる。正直、その追い討ちをかけるような言動はやめてほしい。羞恥で死にたくなる。
「ふふふ、一輪可愛いー。可愛いよ、一輪」
「・・・やめて」
面白がって指で頬をつんつんしてきたり、両手で頬をぷにぷに挟んできたり。時には私の頬をむにっ、と伸ばしたり。
いい加減にしないと私の頬が餅のように伸びきってしまう。それだけは勘弁して欲しい。頬の伸びきった妖怪なんて怖すぎるにもほどがある。
追いかけてきたら尚更怖いんじゃないかと思う。そこまで想像して、なんだか背筋がぞっとしてきた。
「どしたの?」
「いや、別に・・・」
あはは、と笑って誤魔化す。未だに村紗の頭の上には疑問符が浮かびっぱなしだけど。
話そうかと思ったけど、話してもしょうもないし。第一、話しても何の得もないし。それよりもまずはその頬を掴む手を離させることから始めないと、私の想像した通りになってしまう。それだけはいやだ。
「・・・離してよ村紗」
「えー、一輪のほっぺぷにぷにしてるもん。正直、ずっと触っていたいくらいだよ」
「・・・その、赤くなったままの私の頬なんて、掴んでても面白くないわよ」
「面白いよ、だって私が触る度に一輪の顔が赤くなっていくんだもの。可愛い可愛い」
「・・・・っ」
また、言われた。可愛いって。私はそこまで可愛くないんだってば。それに、可愛いばっかり連呼しないで欲しい。
そのたびに顔が赤くなっちゃうじゃん。私を羞恥で死なせる気なのか村紗は。このド天然船長め。
「人の気もしらないで・・・・」
「ん?何か言った?」
「別に、何も・・・・」
今は村紗の顔を見たくないから、ぷいっ、と顔を背ける。都合のよくない時に限って上手くいって、都合のよい時だけに失敗することに腹が立つ。あぁ、もうむかつくなぁ。
それに、だんだん鼓動が速くなってきた。その鼓動を抑えるために、無理やり深呼吸する。すーはーすーはー、としているといきなり耳元で『怪しいなぁ・・・』という声が聞こえてびっくりした。
じーっと、顔を近くして疑り深く見つめる村紗に、その見つめる目から離れようと、顔を背けた。しかし、顔を背けてもまた追っかけてきて、顔を近くにして見つめられる。
また顔を背ける。また見つめられる。その無限ループ。いい加減にしないと私の羞恥パラメータが最高度になってしまい、突き破ってしまいそうだ。
「怪しい・・・」
「いやだから本当に何でもないってば!気にしないで?ねっ?」
「本当に?」
「うんうん!」
ぶんぶんと勢いよく首を縦に振る。もうちぎれそうなくらい首を振る。
何でもないんだって、嘘をついてる事がばれないように。この天然船長に私の気持ちがばれないように。
「・・・ふーん。じゃ、気にしないでおく」
少し頬を膨らましながら恨みがましく見つめた後、私の元からすっと立ち上がり襖を開けて出て行く村紗。村紗が出て行くのを見た私は、力が抜けたかのようにどすんと倒れる。
疑ることに飽きたのか、もしくは私の力強い肯定のおかげでばれなかったのか。どちらにしてもよかった。内心ひやひやした。
ばれるんじゃないだろうかって、物凄くひやひやした。けどばれてもよかったかも、とかも思ってしまった。だけどばれなかった。少しだけ、複雑な気持ちだ。
「あ、そうだ一輪」
「はひっ!?」
しばらくこの頬に集まった熱が冷めるのを待つために、顔を埋めて体育座りしているといきなり襖を開けた村紗にびっくりした。
しかも変な声が出たし、もういやだ。
「忘れてたんだけどさ、ご褒美。途中までしか膝枕できなかったよね」
「う、うん・・・・」
「だからさ」
何をするのかと疑問符を浮かべている私にすたすたと近寄ると、村紗は私の目の前で中腰になり、いきなり抱きしめてきた。
突然のことに心底びっくりし、『にゃ!?』とかいう猫みたいな変な声が出たことに心底後悔した。
それからぎゅうっと、こっちが苦しく感じるほど力強く抱きしめるとこう囁かれた。
「私は一輪のこと好きだよ。仲間としてじゃなくてね。それじゃ」
本当は小さいんだけど、やけに大きく思えた村紗の身体が離れた後、村紗は最後に私のおでこにキスをして、それからまた襖を閉めて出て行った。
それを見ていた私はしばらく呆けていたが、言葉の意味を理解するとすぐさま顔が赤くなり、体中に熱が走ったかのような感覚に陥った。
そしてすぐに体育座りして顔を埋めた。誰にも見られないように、この赤くなった顔を。それからすぐに考えた。どうして私の気持ちがばれたんだろう。
何でわかったんだろう。何でだろう。とかいう疑問がいっぱいいっぱい頭を占めて。それと何で、村紗の顔は赤かったんだろうと考えて。
限界突破になった私の羞恥パラメータが修復するのに時間がかかるから、しばらくそのままの状態でいた。
素晴らしいムラいちをありがとう御座います
ごちそうさまでした。