「ねえ、お燐……あなたは私の事が好き?」
いつものように椅子に腰かけながら、あたいを膝の上に置いて愛撫するさとり様は唐突にそう訊ねてきた。
なぜ、そのような事を聞いてきたのかは分からない。
そもそも、ペットであるあたいがさとり様を嫌う筈などありやしないのに。
『大好きですよ、さとり様』
あたいは心の中でそう呟いた。
さとり様は本当に優しくあたいを包み込んでくれる。
それは、母親の子どもに対する母性愛のそれに近いだろう。
さとり様には何もかもがお見通しだ。
例えば、お腹が空いたらすぐにご飯を用意してくれるし、撫でて欲しいところがあればすぐに察してくれる。
言葉を話せない動物にとってここまで素晴らしい主人はそういない。
「そんなに褒められても困るわ……お燐」
さとり様は嬌笑を浮かべながらあたいの瞳を覗き込むように見つめてくる。
淡い紫色の瞳にはあたいの黒い顔がしっかりと捉えられていた。
『別にあたいは本当に思っている事を言っているだけにすぎませんよ』
そう、あたいはを厳密には口にしていない訳だがさとり様に告げた。
「ありがとう、お燐」
そう言ってあたいを胸元に抱えこむ。
さとり様の心音が一定のリズムを刻み、まるで心地よい子守唄のようであった。
だけど、そのシラベはどこか悲しみを孕んでいるような気がしてならなかった。
あたいには勿論、お空にも他の子たちにも取り除く事のできない、こいし様と言う悲しみをさとり様は背負っている。
あたい達に出来る事があるのだとしたらその悲しみを和らげるくらいなものだ。
さとり様が大好き、優しい時のさとり様はもっと大好き、ちょっぴり不機嫌なさとり様も大好き、さとり様のありとあらゆるものが大好き。
だけど、悲しんでいるさとり様は見たくない。
きっと、この思いもさとり様には届いているのだろう。
『ねえ、さとり様……あたいはいつまでも、たとえ死んだ後でも、ずっと側にいますからね』
そう心の中で囁くと、さとり様はあたいをほんの少しだけ、強く抱きしめるのだった。