信頼する従者、私のナズーリンへ
まず、ずっと連絡がとれなかったことをお詫びします。用足しに人里へ出かけてからはや二週間、私は一度もお寺へ戻りませんでした。さぞかし心配をさせてしまったことでしょう。ほんとうに申し訳ありません。聖が封印されてから、もう百と何十年も経ちます。慣れたつもりでしたが、もしかすると、私が妖怪であることがばれてしまって、問題が起きたのかと、そういう気遣いをさせてしまったかもしれませんね。
でも、そうではないのです。今日は、私の身に起きたことを、残らず知らせようと思って筆を取りました。できれば、この手紙は座って読んでほしいと思います。かなり大事なことを、私は書くつもりです。
さて、実際のところ、私は今とてもうまくやっています。人里に来てすぐの日、私は大きな商家の上階に上りました。そこで売っている、お菓子を買おうと思ったのです。ところが、私がいるときに、そこで火事が起きてしまいました。私は窓から飛び降りて、足を折り、脳震盪を起こして、頭蓋骨を骨折してしまいました。もちろん、私は飛べますが、人間たちの前で飛ぶわけにはいかなかったし、あまり丈夫なところを見せるわけにもいかなかったですしね。でも、今はとても良くなっています。医者に運ばれて、そこには数日しかいませんでしたが、今は大体普通に頭が動くし、頭痛も日に一回くらいになっています。運がいいことに、火が出て私が飛び降りたところを、火元の近くにいた油売りの男性が見ていて、周りの人に知らせてくれたのです。その方は、何度かお見舞いに来てくれました。お話しをしていると、とてもいい方で、私はお医者様のところを出てその方のお住まいに寝泊まりすることにしました。親切に甘えすぎだ、とあなたは言うかもしれませんね。彼の住まいは普通の長屋なんですけど、畳をはがすと、床下に地下室が作ってありました。自分で掘ったんだそうで、風通しが悪いのが玉に瑕ですが、灯りもあるし、結構気がきいています。彼は、とても素晴らしい男性です。ナズーリン、私たちは、夫婦になるつもりでいるんです。婚礼の席は、設けるつもりですけど、まだ日取りは決まっていません。お腹があまり目立たないうちに、済ませたいと思っています。
そうです、ナズーリン、私は妊娠しています。あなたもきっと、子どもが生まれるのを楽しみにしてくれると思います。以前にお寺で赤ちゃんを預かったとき、あなたはとても楽しそうにしていましたもんね。あの時と同じように、子どもを可愛がってくれますよね。まだ式をあげていないのは、彼が伝染病をもっていたことで、私の怪我の経過観察の際にそれがお医者様に見つかってしまったからです。おまけに私も、うっかりそれを貰ってしまったことがわかりました。でも、ナズーリンは私たちを、新しい家族として温かく迎えてくれますよね。彼は優しいし、あまり学はありませんが、野心をもっています。私たちと違って人間ですし、仏教徒でもなくって、なにやら、くとぅるふ、ですとか、ないあるらとほてっぷ、ですとか、そんな神様を崇めているようで、ときどき私には聞き取れない言葉で儀式をはじめたりしますが、寛大なナズーリンのことだから、そんなことは気にしないと思います。
さて、今まであったことは、これでほぼ書き終わりました。では、ここから先も読んでくださいね。火事があったなんて嘘です。だから脳震盪も起こしていないし、骨も折っていません。医者にかかっていませんし、妊娠もしていません。もちろん婚礼もないですし、病気もありません。いたって健康です。ただ、また宝塔をなくしてしまいました。わかっています。これでもう、ええと……何度なくしたかは、問題じゃないですよね。でも、私が妊娠したり、病気になったりすることを考えれば、それがどれくらいの重みをもつことなのか、よく考えてほしいと思います。けっして、怒られるのが怖くて逃げまわってたんじゃないんです。ごめんなさい。
あなたの素敵なご主人様
寅丸 星
「ご主人のバカ!バカ!」とか言いながら、顔真っ赤にして怒っているナズーリン幻視余裕でした。
わかる、わかるよ…一度逃げると、嫌な事からとことん逃げたくなるんだよな…
宝塔を無くしたというショックを和らげようと・・・・
ってできるかーい!
大好きです
元ネタの紹介はしておいた方がいいんじゃないかと思いましたが…
しかし、この作戦はどう見ても逆効果にしか見えないww
もぉ、宝塔と虎、まとめて柱にくくりつけておけw