それは、とある暖かい日。
太陽の陽射しが心地よく照りつけ、草木は喜ぶように太陽光を一身に受けている。詩に出てきそうなほどの、美しい晴れ日である。ほどよい気温に、柔らかな風。青く澄み渡った空。白い雲。草木の緑。そして、紅い屋敷。
世間一般に言う良い天気を歓迎していないかのように、キラキラと輝く光を浴びて、ギラギラと紅を振り撒いている。
ある晴れた日。紅い屋敷。そこで始まる、少し珍しい一日。
※
「お邪魔します。ここに人と妖怪の平等が見れると聞いて馳せ参じました」
「はぁ……宗教勧誘なら間に合っていますわ」
「今なら糠に釘、もしくは豆腐に鎹(かすがい)のセットを差し上げましょう」
「つまり、人の話を聞く気はないのね」
紅魔館のメイド、十六夜咲夜は呆れ混じりの溜め息を吐いて、目の前にいる自分たちを眺めていた。
スラリという形容の似合う、瀟洒なメイド。悪魔の館に勤める、人間。
「珍客にしても珍しいわね」
私たちが紅魔館の廊下を歩いているところを見つかったのだが、彼女はどうにも辟易している様子が窺えた。それはそうだ。これだけ話が通じなければ、きっと困るだろう。
私――雲居一輪は、隣に立つ姐さん――聖白蓮を覗き見るようにして視線を送った。
姐さんはいつも通り、ニコニコとした笑顔のままにメイドの正面に立っている。何一つ悪びれる顔をしてはいない。いや、ほとんど忍び込んだようなもんですし、ここは一応謝っておきましょうよ。
結局私は、姐さんの顔とメイドの顔を交互に見比べることくらいしかできなかった。
ニコニコしているままの姐さんに、どうしたものかと思考を巡らせているようなメイドさん。
……とりあえず、謝ってから説明を始めたほうがよさそうねコレ。
思い立ち、口を開いたところで、
「咲夜ぁー、誰コレ」
「あ、お嬢様。これはただの悪質な宗教勧誘みたいですわ」
屋敷の主人、レミリア・スカーレットが廊下を歩いてきた。紅い瞳に小柄な身体、背中に生える羽、お嬢様という二人称。おそらく間違いないだろう。
吸血鬼と聞いているので、きっと完全夜型のお嬢様なのだろう。今はもう昼過ぎだが、起床時間がいつもこの頃のようで、彼女はまだ少し眠そうだった。
紅い瞳をこすりながら、見知らぬ自分たちを眺める。私たちも思わず彼女へと視線を送り、目があった。あちらとしても、やっぱり判断がつかないのだろう。それはそうだ。なにせハジメマシテだから。
「あ、今なら腕押し用の暖簾もつけましょう」
「ね、姐さん……話が進みませんから…………」
一人分増えた視線を受けても、姐さんのペースはまったく変わらなかった。ふわふわとした柔らかい笑みのままに口を開き、言われても困るようなことを言っている。腕押し用の暖簾、って普通の暖簾じゃなくて?
どうにか私の意図が通じてくれたようで、姐さんは思い至ったように一つ手を叩いた。
「おっと、失礼致しました。自己紹介がまだでしたね。私は聖白蓮。命蓮寺にて尼僧をしております」
「え、っと、雲居一輪と申します。同じく命蓮寺にて仏門に帰依しています」
そう言っていまさらの自己紹介をした。変わらぬ笑顔のままの姐さんの隣の私は、きっとひたすら不安そうな顔をしていることだろう。じぃっと見つめる視線が痛い。
「ホントに宗教勧誘でしたか。じゃあやっぱり間に合ってますわ」
「っていうか、悪魔の館に神仏の使いがノコノコ勧誘に来るとは……世も末ねぇ」
「私もそう言って止めたんですけど……」
「何を言ってるの、一輪。ここに私の描く平等の一つのカタチがあるじゃない。人妖が一つ屋根の下、等しく助け合って暮らしている……良い!非常に良いですよ!」
姐さんの笑顔が一段と輝く。吸血鬼の少女と人間のメイドを交互に見比べながら、満足気に一人頷いている。
すぐ隣で、困ったような不安なような、ひきつった笑顔の自分のことは、目に入っていないことだろう。
「等しい……って、咲夜はメイドで、私は主なんだけど」
「そうですわねぇ」
「しかも“助け合って”はいないしね。メイド任せでおんぶに抱っこだもの」
おもむろに、言葉が先に割って入った。メイドと吸血鬼の正面、自分たちの後ろ。あまりに突然声が出てくるので、思わず私は肩を跳ね上げた。奇声は……きっと上げてない。はず。
勢いよく私が振り返った先、そこにはまた別の少女。片手に本。紫の髪、そして同じ色の大きな瞳は気怠そうに半分ほど閉じている。
廊下をペタペタと億劫そう歩く音とともに、パチュリー・ノーレッジが歩み寄っていた。
「この吸血鬼は、お抱えのメイドに抱えられて眠るほど甘やかされてるわよ」
「お抱えられ!良い!非常に良いですよ!」
「ちょ、姐さん!落ち着いてください!」
「いつの間にそこにいた、とかは今はいい。ちょっと表出なさいパチェ」
「今は昼間よレミィ。お日様の下に吸血鬼が出ない方が吉だわ。今日の占い的に」
レミリアさんが睨み、パチュリーさんが億劫そうに返事を返しているちょうど真ん中で、姐さんが妙なところに食いつき、自分がそれをなだめている。
すでに逃げ出したいくらい混沌としていた。
メイドだけが静かに両者を眺め、「どうしたものかしらねぇ」と呟き――ながらも、結局はひたすら静観していた。現状を丸く治めようという意志はまったく見られない。
「ヒキコモリ魔女め……たまに顔出したかと思えばコレだよ」
吐き捨てるように言ったレミリアさんの言葉に、姐さんは我に帰ったようにパチュリーさんへと振り返った。
「ん……?そちらの方はもしかして……魔法使いですか?」
「えぇ。いかにも」
「あなたもこちらにお住まいなのですか?」
「そうよ。その出不精魔法使いは我が家の地下に巣を作って暮らしてるよ」
「研究室と言ってほしいわね」
「そろそろ研究室のお掃除がしたいですわね。埃っぽくていけませんわ」
最後の方の問答は、姐さんには聞こえていないようだった。わなわなと肩を震わせ、言葉を失ったかのようにして立っていた。私をひたすら不安が襲う。
どう声をかけてよいやら……と思案していると、姐さんは、突然パチュリーさんを見、そして振り返ってレミリアさんを見る。あまりに突飛な行動に、思わず二人ともビクリとしていた。私もビックリしていた。
「ね……姐さん…………?」
どうにもその行動の意図が読みきれず、恐る恐ると声をかけた。ふるふると震える姐さんの体に、ゆっくりと手を伸ばしてみる。
「吸血鬼の屋敷に、人間と魔法使い……あぁ、私の大願は叶っていた!見なさい、一輪。これが平等というものです!」
姐さんは突然として、声高に叫んだ。思わず伸ばした手を反射的に引っ込めながら、短く悲鳴を上げてしまった。いや、突然叫ばないでくださいよ!
「……なんか危ないわねアイツ」
「仏教徒ってキレやすいのかしら」
「どちらかと言えば温厚なイメージがありましたね。もう過去形ですけど」
紅魔館の面々は姐さんを眺めながら、口々に適当な感想を述べている。感想ごもっとも。
自分としても、こうなった彼女にどう触れていいのかわからない。
「は、はぁ…………」
と口だけで曖昧な返事を返しておく。とりあえずはそれくらいしか出来ることが浮かばない。
その程度で満足だったのか、はたまた最初から聞いていないのか、姐さんは一人で何度も頷き、急に私へと視線を向ける。
「決めましたよ、一輪」
「え゛……な、何をでしょう?」
思わず声が詰まる。すでにいい予感がまったくしない。
「後学のため、今日は紅魔館にお泊りさせてもらいましょう!」
――その予感は、かくして的中した。
「えぇぇぇぇぇっ!?」
「何勝手に決めてるの!?」
声を上げたのは、私とレミリア氏。タイミングはほぼ同時。共に姐さんへと視線を集め、食いかからんばかりの勢いでいた。
だが、なぜかそれも私たちだけ。
「なんだ、そういうこと……客間ならそこら中空いてるから、好きにして。大図書館にさえ忍び込まなければ好きに見てもらって構わないわ」
「何勝手に話進めてるのよパチェこらぁ!」
パチュリーさんはなぜか呆気なく受け入れ、
「出来れば早めに部屋を決めていただけると助かりますわ。片っ端から掃除しなおすのは、ちょっと大変ですから」
「なんであなたもあっさり受け入れてるんですか!?」
咲夜さんも落ち着いた顔のままにすでに通す部屋を考えていた。
交互に突っ込むレミリアさんと自分がどれほど声を張ろうとも、魔法使いとメイドは顔色を変えることはなかった。
「あぁ、復活はするものですね。こんな素敵な日が来るとは思っていませんでした」
そこにいる面々の真ん中で、姐さんは一人、瞳を閉じて掌を合わせている。
まず間違いなく、話は確定してしまったようだった。
そこにいる、私と家主の意見を完全に無視して。
「か、帰りたい…………」
「帰れ――――っ!」
→ → → 紅魔館・2F客間
「さて、一輪。行きますよ」
「ですよね……。姐さん、もうせめて部屋でゆっくり過ごしませんか?」
そうして、私たちは紅魔館の客室のひとつに通されていた。展開の速さに置いていかれそうになる。
メイド曰く。
大きな屋敷ではあるが、泊まりの来訪者はほとんどいないため、使っていない部屋は埃だらけ――だっただなんて、今は思えない。
すでに優秀なメイドによる掃除は済み。細部に至るまで清掃が行き届き、来客用の豪奢な装飾が私たちの周囲で煌いている。
いや、優秀過ぎでしょ、あのメイド。
もはや呆れるレベルだった。
ともあれ、かなり予想外の展開ではあったが、こういう豪華な洋風な一室で過ごすのならば悪い気分ではない。長く仏門に帰依し、和室で過ごした身としては憧れるところもあった。豪奢な洋館での優雅な生活、なんて響きに胸が躍らないこともない。
……あくまで、この部屋で過ごすのなら。
「何を言っているんです。せっかくだから屋敷を見せてもらいましょう。そのついでに、ここに住む方々にお話を聞かせて頂きたいのです」
ですよね。
その言葉に、私はあからさまに肩を落とした。溜め息もついでに吐いておく。
別に悪魔の屋敷だなんだと言って、毛嫌いするつもりはない。ほとんど知らないような人と話をすることが別段ニガテ、というわけでもない。
ただ……姐さんと一緒に巡るというのが、ひたすらに不安だった。トラブルが待っていないはずがない。人間の里に説法に赴くのとは、わけが違うのだ。
なんというか……この屋敷の面々は、かなりクセ者揃いと聞いている。それと姐さんをぶつける。それだけで胃が収縮してゆくのを感じるようだ。
「うぅ……わかりましたよ…………」
私は泣く泣く、彼女の言葉に従う。
誰に聞いたのか、この屋敷のことを知ったときもそうだった。ほとんど有無を言う前に、気づけば私はここまで引っ張られていた。考えてみれば、あれ以来いい予感がまったくしない。星さんにでも任せて留守番していたかった…………。
「さて、最初は…………ふむ。そうですね。まずはお庭から見せてもらいましょう」
「あ、外に出るんですね。賛成です」
なんとなく、外の空気を吸いたかった。少しでも気分をフラットに戻したい。
「確か門番の方がいらっしゃいましたよね」
「あぁ、寝ていたから素通りしてしまいましたが……いましたね」
「あの方とはまったくお話していないので、まずは門番さんに会いに行きましょう」
なぜか妙にウキウキと、姐さんは跳ねるように部屋を出て行く。
そんないつでも明るい彼女が大好きで――もう置いて帰りたいくらい先行きが不安でもあった。
→ → → 紅魔館・正面庭
「ふむふむ。立派なお庭ですね」
「ですね。来た時も思いましたが、悪魔の屋敷なのに風光明媚と言いますか……」
うっかりと零れたそんな感想に、一瞬後で気づいて口を閉ざした。変に取られては怒られそうなセリフだ。
いや、ちがくて、ね。なぜか内心で自分に言い訳をし、まぁ仕方ないでしょ、と言い訳を聞く自分も肯定していた。なにせ目の前に広がる庭の美しさは、それほどなのだ。
豪奢な屋敷に似合う、贅沢に広大な庭。緑の芝が太陽を受けてキラキラと輝き、門から屋敷までをつなぐ石畳の目は整然と敷き詰められている。
木々が植わり、枝を大きく伸ばしているその下は気持ちよさそうだし、花壇を彩る花たちは、屋敷の紅に押されながらも、精一杯に咲き誇っている。
まさに風光明媚。和風の誇る侘び寂びとは対照的に、色彩が目に美しい。
私は思わずキョロキョロと庭を眺め、やはり一瞬遅れて自重した。あんまりキョロキョロとしているのもはしたない。
「あら。あそこにいるのって門前にいた方じゃないでしょうか?」
そんな私などお構い無しに、姐さんは一人で庭を駆けていた。止める声など、おそらく聞こえてはいないだろう。
「あれ、お客さん。いつの間に」
「こんにちはー」
「こんにちは。ようこそ、紅魔館へ」
門を飛び越える際に見た彼女は、今は庭に立っていた。顔を見るのは二度目だが、声をかけるのは初めて。だがあちらとしては初見である。ひとまず挨拶をせねば始まるまい。
その気持ちが伝わったのか、同じことを思ってくれていたのか、私が声を上げる前に姐さんが自己紹介を始めていた。
「聖白蓮と申します。こっちが雲居一輪」
「改めまして、雲居一輪と申します」
「ご丁寧にすみません。紅美鈴です。この紅魔館の門番をやってます」
えぇ、知ってます。見ました。
もちろん口には出さない。
「門番の方がお庭で何を?」
ひとまず、当たり障りのなさそうな質問を尋ねておいた。
「あぁ、庭木の剪定とお花の水遣りですよ。なぜか庭師も兼ねてまして」
彼女は照れるような困っているような、色々と混ざった笑顔を見せて、手にしていた柄杓と桶を軽く掲げてみせた。えへへ、と笑う顔がどうにも垢抜けていないようで可愛らしい。
「大変ですね」
「いえいえ、咲夜さんも手伝ってくれたりしますし、そう忙しくもないですよ」
「咲夜……というと、あの人間のメイドさんですね」
「よくご存知ですねー」
そうして私と彼女とで、他愛無い会話を続ける。どうにも安穏とした雰囲気の人だ。ここの住人がみんなこうなら、私としても大歓迎である。なにより姐さんをぶつけてもさほど問題が無さそうなところがウェイトとして大きい。大事なことだ。
だが私は、どうやら相手のことよりも身内のことをもっと心配すべきだったようだ。
「あなたは妖怪ですね?人間と同じ屋敷で寝泊りすること、どうお考えですか?」
ここまでの私たちの会話を一刀両断し、姐さんが口を開いた。思わずに、私も彼女も目を丸くして姐さんを見る。
「……はい?」
困ったような返事を返していた。それはそうだ。なんかごめんなさい。
「同じ屋根の下に眠り、同じ釜の食事を摂る……素敵なことですよね」
「はぁ…………」
「姐さん、それじゃ尋ねてませんよ……」
いや違った。それよりも最初に“そんなこと急に尋ねては失礼ですよ”と言うべきだ。
「おぉっと失敬。あなたはどうお考えですか?」
あぁ……タイミングが…………。
ずずいっと身を寄せながら、食い入るようにして彼女へと答えを求める。誘導尋問的というか、圧迫質疑である。いや、そんなに詰め寄られても困りますって。
「よくわかりませんが……咲夜さんと一緒は楽しいですよ。人間とか、妖怪とか、あんまり気にならないですね」
「その心は?」
ぐいぐいと詰め寄ってゆく。
「え?えぇー……っと……咲夜さんって、結構人間離れしてるとこがあるので、あんまり人間という気にならないというか……下手するとそこら辺の妖怪たちより恐ろし――――」
――答えを急かされたのが、いけなかったのかもしれない。
さっきまで目の前に立っていた彼女が、視界から消えた。近い言葉で表すなら、一瞬で。パラパラマンガの途中のページを飛ばしたように、の方が正確かもしれない。
視界からは消えていたが、彼女はいなくなったわけではなかった。
ただ、立っていたはずの彼女が、その場にゴロンと転がっていた。
「ひぃぃっ!な、なに!?なんで!?」
それに気づいた時、私は思わず悲鳴を漏らしていた。あまりに突然過ぎて、感覚がついていかない。
辺りをキョロキョロと見渡すが――誰もいない。目の前には力無く転がる門番さんの体。倒れる彼女の顔には、顔一面を覆うほどの大きな張り紙。
広い紙面にデカデカと「黙」とだけ書かれていた。
……いや、意味がわからない。もうただひたすら怖い。
「あら、黙られてはお話できませんね」
「い、いや、それどころじゃない気が…………」
なぜ姐さんが落ち着いていられるのかもわからない。いくら古くからの大魔法使いだと言えど、この事態には驚いていいはずだ。というか一緒になって驚いてくれないと私が一向に落ち着かないんですけど。
「口無しになってしまったのなら仕方ないです。良いお話も聞けましたし、次に行きましょう」
そう言って姐さんはその場からスタスタと歩き出してしまった。依然として変わり果てた門番さんの体はその場に転がっている。顔色はわからなかったが、一応死んでいる様子は無い。……無いわよね?
いいのかなぁ、と思いながらも、一人残されるわけにはいかず、私は姐さんの後を追ってその馬を後にした。
→ → → 地下・大図書館
「――図書館に侵ってこなければどこでもどうぞ、って言ったと思うんだけど」
「せっかくですから。それにここは研究室だと聞きましたし」
「図書館の大きなカテゴリの中に研究室の一面があるの。俯瞰で捉えるならば、両方一緒」
ジロリと嘗めるように睨む彼女の視線を受けながら、私と姐さんは地下大図書館にいた。
館内に戻ってきてすぐ、まるで場所を知っているかのように真っ直ぐに、姐さんはここへと歩を進めていた。まったく屋敷の造りがわかっていなかった私は黙ってそれについてゆき、大きな扉が開かれるまでここが件の地下図書館だとは気づかなかった。我ながら情けない話ではある。
「ね、姐さん、ダメって言われたんだから出ましょうよ、ね?」
刺さる視線にいたたまれず、私は声を潜めながらに姐さんへと耳打ちした。
荘厳なほどに並ぶ本棚、そこに刺さる本たち。それらが音を吸収しているんじゃないかと思うほど、ここはひたすら静かだった。息づかいはおろか、心臓の音さえも響いてしまいそうでさえある。
そんな静寂の中に、カチャンと食器類の音が響いた。
「そんなところにいらっしゃらないで、こちらにおかけください。お茶も用意しましたんで」
そう言って微笑む、またも見知らぬ顔。スラリと背が高く、清潔感のある黒のスカートスーツをすらっと着こなし、紅い髪をなびかせながらこちらを見ていた。大人っぽいスマートさを持ちつつも、私を見るその瞳は大きく、可愛らしい。
「あら、ご丁寧にどうも。――こちらの方は?」
ね、姐さん……一度立ち止まってから物を考えて、それから行動してみるっていうのも、大事だと思いますよ。
「私の使い魔よ。――小悪魔、別にお客じゃないのだからもてなす必要は無いわよ」
「そうもいきませんよ」
主人のその声に、彼女も困ったような笑顔を向けて返していた。
「パチュリー様に言わせれば、ここに来る方はみんな部外者で終わっちゃうじゃないですか」
「だってそうだもん」
「たまに来る魔理沙さんとかとも一緒にお茶にすればいいんですよ」
「なんで泥棒とテーブルを囲むのよ」
「一度そうすれば、次からまた変わってくるかもしれませんよ」
「次からお茶目当てに来られても、結局やっかいが増えるだけだと思うんだけど」
二人は和気藹々と話していた。重そうに半分閉じた瞳のまま無表情でいるパチュリーさんだったが、私にはそう思えた。小悪魔さんが楽しそうなのが一因だろうが、それと同じくらいパチュリーさんも気を許している雰囲気が伝わってくる。ほのぼのとさえする場面である。
そして、大概そういった場面で口を挟むのが、我らが姐さんなのだ。
「魔理沙……というと、魔法使いの人間の子ですよね」
おもむろに、今出た人物の名前を口ずさんだ。
「そうね。黒白で箒に乗ってて魔理沙って名前なら、きっと他にはいないでしょうね」
霧雨魔理沙。地下の封印が解けた聖蓮船へと真っ先に乗り込んできた、奇妙な人間。私も雲山とともに弾を交えた身である。聖蓮船が寺院として機能してからも、彼女は度々姿を見せていたので印象深い。
「なんと!この館には外部からも人間が遊びに来るのですか!」
瞳をキラキラと輝かせながら、静かな図書館で高らかに叫ぶ。
「いや、泥棒…………」
「あなたは見たところ、生粋の魔法使い。言ってしまえば人外の者でしょう。そんなあなたの元に、人間の少女が遊びに来るだなんて……この館の下に、平等が広がっていくかのよう!良い!良いですよ!」
聞こえていない。とういよりは、聞いていない。
「……ダメねこれ。文字通り話にならない」
「なんかごめんなさい……」
「なんだか幸せそうな人ですねー」
小悪魔さんはそう言い、僅かに考えると、
「……この図書館の蔵書と、パチュリー様の知識を頼りに、結構色々な人が訪ねてきますよ。同じ魔法使いの方とか、幽霊の庭師の方とかも来たことがありましたねー」
姐さんへと微笑んだ。
「なんと!そんなに幅広い層の方が訪れるとは……知の下での平等を謳っているのですね!良いじゃないですか!ご一緒に仏門へと下り、法の下での平等を説きませんか!?」
そして案の定喰いつく姐さん。姐さん…………。
「……いらんこと言うから、さらに手がつけられなくなった」
「いやぁ、すいません。ちょっと反応が気になったもので」
「ね、姐さん、落ち着いて下さい!」
「おっと失礼」
そこでどうにか我に返ってくれる。はっとした顔を経由し、普段のにこやかな表情に戻る。
「――ところで、あそこにいるもう一方はどなたで?」
その言葉も、申し訳ないけど、まだハッキリとスイッチが切れていないだけなのだと思った。
だが、
「あれ、バレた」
その言葉はちゃんと正鵠を射ていた。
広大な図書館の一角――それも私たちのすぐ傍から声が上がる。私には気配がまったく読めていなかっただけに、今度もひどく驚いた。……私、ここに来て驚いてばっかりね…………うぅ。
軽快な声を上げて出てきた姿はその声に似つかわしい、可愛らしい小柄な少女だった。金髪を揺らし、紅の瞳をクリクリと輝かせ、背中には七色の羽根。紅の服を着た少女が、楽しそうな顔をして踊り出していた。
「ん。――あぁ妹様。図書館にいたのね」
「あなたの妹君ですか?」
相変わらず動揺などまったくせず、姐さんがすぐに尋ねた。
「まさか。たぶん私の妹に羽は生えない。レミィの五つ違いの妹、フランよ」
「あら家主の妹君でしたか。言われてみればよく似ています」
そ、そうかなぁ……?私は思わず首を傾げた。どちらかと言えば、似てない部類だと思うけど。
「ねぇパチェ。この変なテンションの人はだれー?新しいメイドさん?」
「これに入られたら普通に迷惑ね。仏門からの刺客よ。紅魔館に平等の精神を見物に来たんですって」
「びょう……どう?」
パチュリーさんの声に、彼女は不思議そうに首を傾げていた。
「はい!人と吸血鬼が互いに助け合い、暮らす……そんな素晴らしいことが実践されている屋敷があるというので、お邪魔させて頂いております。いやはや、噂は本当でした」
そんな様子などお構い無しに、姐さんはいつもの節をそらんじる。
せっかく切ったはずのスイッチがもう一度入ってしまったようだ。またどうにか軌道修正しないと。
そう思った矢先、私は背筋を奔る悪寒に体を震わせた。
「なんか、可笑しなことを言う人ね。この屋敷に、平等なんて存在しないじゃない」
今度は私にもはっきりとわかる。
ゆっくりとその気配へと視線を向ける――吸血鬼の妹が、クスクスと微笑んでいた。
ただ笑っているだけ。顔色自体はついさっきまでとまったく変わらない。同じ顔で同じように笑っている。だが……その笑顔が放つ雰囲気は、明らかに常軌を逸していた。この広大な図書館の空気を丸々変えてしまうほどに、後ろ暗い笑い声が聞こえる。ほとんど殺気に近いほどの、だが微妙に違う気配。
後で聞いて知ったが、この妹君――フランドール・スカーレットは、狂気の吸血鬼。このとき私たちに向けられていたのは、その狂気の一端だったようだ。
私は思わず声を失ってしまっていた。
だが姐さんはそうはなっていない。
「ふむ……。興味深いお話ですね」
この場の雰囲気に気づいていないわけはない。それでも気圧される様子もなく、調子を変えずに口を開いている。私は無意識のうちに、姐さんに寄り付くようにして傍に立っていた。
「ここは吸血鬼の屋敷。厳密には、異様に紅いだけのハリボテの城なだけ。偉そうな顔してふんぞり返って人間と妖怪をコキ使う、悪い悪魔がいるだけよ」
紅い瞳がクリクリと輝く。今となっては、可愛らしくは感じられなかった。
「あなたも吸血鬼では?」
「そうよ。館主の実妹。――でも私はアイツに長いこと閉じ込められてたの。この紅魔館の地下で、ジメジメと、暗いところで」
「……本当なんですか?」
「ノーコメント」
顔色を変えるわけでもない姐さん。同じく変わらない顔のままに答えるパチュリーさん。その傍に立つ小悪魔さん。私だけが、すがりつくように姐さんの傍で言葉を失っていた。
「ね。これでわかったでしょ?あなたが見てたのは、全部アイツのハリボテ。見栄っ張りのアイツらしい、中身の無い話なのよ」
クスクスと笑う声が響く。音の無い図書館で、その声が反響して返ってくる。彼女の笑い声が耳の奥でこだまするようだった。
「ね、姐さん…………」
気づかぬうちに、私は姐さんの服の裾を掴んでいた。かなり強く握っていることが自分でもわかる。
私はすがりつく思いで姐さんの顔を覗き込んだ。さすがにいつものようにニコニコと笑う彼女の顔ではない。何か返す言葉を考えているかのように黙り、静かに思考を巡らせているようでもある。
そうして暫時黙し――姐さんは、ゆっくりと、はっきりと、口を開く。
「妹って、やっぱり可愛いわ。私、弟も嬉しかったけど、妹も……実は結構憧れてまして」
えへへ、と声を漏らし、瞳を輝かせていた。
「…………は?」
それは私の口から出た声かもしれないし、他の誰かのものかもしれない。姐さん以外の全員が、まったく同じ感想だったのだから。
私も含め、姐さん以外の四人は皆須らく目を丸くしていた。
「でもね、お姉さんのことを“アイツ”だなんて言っちゃダメよ。お姉さん的にはすごいショックだから」
そんな目線を集めるに任せている姐さんは、緊張感無く言葉を続けている。
「いや……は?ここまでの話の流れから、私がアイツを“お姉ちゃん♪”って呼ぶ!?呼ばないでしょ!五百年近く幽閉されてるのよ!?」
「それくらいでグレちゃいけませんよ。私たちも随分長く封印されてました。私に至っては完全に一人ぼっちでしたし」
嗜める姐さんの声に、妹君は烈火の如くに捲くし立てる。
「そんなこと知らないから!いい!?ここには平等は無いの!アイツが咲夜とか美鈴とかを好き勝手使って好き勝手してるだけの自己満足なお屋敷なの!」
「パチュリー様は?」
「私は友人枠で無罪放免よ」
小悪魔さんが尋ね、パチュリーさんが返す。この二人もすでに緊張感が無い。
「パチェだってそう!小悪魔をコキ使ってる!」
「雇用による上下関係までは問いませんよ。そればかりは仕方の無いことです」
「そういうんじゃなくて!……あぁ、もう!」
「何にそんなに苛立っているのかわかりませんが、豆腐に釘のセットを進呈しますから、機嫌を直してください」
「だからイラついてるのはアンタにだって!」
「セットも混ざってるし。糠は腕押しするのかしら」
「パチェは黙ってて!」
思い通りのリアクションが何一つ返ってこないことに憤慨してか、妹君は地団駄を踏むようにしながら姐さんとパチュリーさんを交互に睨んでいた。
どうにか私も、このころには緊迫感から抜け出せていた。だが展開についていけてはいない。結局まだ目を丸くしながら、姐さんの服の裾を掴み、この妙な風景を眺めていることしかできなかった。なんなの、コレ。
狂気の吸血鬼が憤りながら何か叫んでいる。
それを姐さんが柔らかくたしなめている。
パチュリーさんがお茶を催促する声に、小悪魔さんが返事をしてパタパタとお茶を取りにゆく。
いや、なんなの、コレ。
妹君と私たちを視界に入れ、パチュリーさんが呆れるように呟いた。
「こりゃいよいよダメね。――咲夜」
その声で、私たちの目に映る景色が、一瞬で変わった。
→ → → 紅魔館・(?)廊下
「……は!?何、何ですか!?え、ここは紅魔館の……廊下?」
「あら、追い出されちゃったかしら」
気づけば私と姐さんは、見知らぬ場所に立っていた。いや、内装からして紅魔館の廊下だということはわかる。だがそれ以上のことはわからない。ただでさえ統一感のある造りになってる上に、極端に窓の少ないこの屋敷では、今何階のどこにいるのかもわからなかった。
「お客様。あんまり騒いでもらっても困りますわ。次はどこかの野原に置いてきますよ」
背中に声がかかる。勢いよく振り向いた先――そこには、瀟洒なメイドが呆れるように笑って立っていた。
「は、はぁ……すいません……?」
まだどうにも理解の追いついていない私は、疑問符を浮かべながらたどたどしく謝っておいた。諌めるような口調に反射的に謝罪したが、それが図書館で騒いでいたことを指しているということに気づくのですら一瞬遅れていた。どうにもまだ頭が働けていないようだ。
「では私はこれで。ごゆっくりどうぞ」
咲夜さんはペコリと小さく一礼し、流れるような所作で歩き出していた。背筋に一本筋が通ったその後ろ姿は実に模範的な歩法だろう。いや、そんなことはいいんだけど。
ヒールが床を叩く音が等間隔に響く。カッカッカッ、と鳴るその音にぼんやりと耳を傾けていたその時、
「……あなた、人間にしては珍しいことができるのですね」
隣にいた姐さんが、おもむろに口を開いた。
カッ、と硬質な音が止まる。
「時間停止……操作もできるのかしら。しかも魔術などの術式ではなく、個人の能力で。……なるほど、市井に於いては居住まいが悪いでしょう」
メイドは背を向けたままにその言葉を受けている。
姐さんは薄く微笑んだままに彼女へと言葉を続ける。
「それで……人里離れて悪魔の館に?ここならあなたを受け入れてくれると?」
「姐さんっ!」
私は思わず叫ぶようにして声を上げていた。
「いくらなんでも失礼ですよ!」
姐さんは、そんな私の声に一瞥もくれず、依然としてメイドの背中を眺めていた。
「いえ、いいですよ」
代わりに、背中を向けたままだった咲夜さんがこちらを振り返る。怒らせてしまったかとヒヤリとしたが、その顔は変わらず柔らかなままだった。
「そうね……ひとつずつ答えさせてもらいますわ」
彼女はゆっくりと口を開く。
「まず一つ、時間停止。並びに時間操作が私の能力です。……これをまじまじと答えるのって、よく考えれば初めてだわ」
何か可笑しいのか、小さく笑みを零しながら彼女は言う。
「次に一つ、市井に溶け込めず人里離れ、ですね。うーん……そうねぇ」
腕を組み、僅かに悩んだように短く唸る。
「まぁ確かに気持ちいい顔をされる力ではないわね。使い方次第ではあるけど」
そう言いながら、彼女は腕を解き、右手の指先で何か布をクルクルと回す。ゆっくりと回るそれは、紺色のシンプルな布。ちょうど頭巾のような大きさで――って私の頭巾!?
私はそれに気づき、咄嗟に頭へと手をやる。被っていたはずの頭巾は無く、ダイレクトに髪の毛の感触が伝わる。
「ちょっとしたタネ無し手品ですわ」
笑いながらにそう言い終わるころには、彼女の手に頭巾は無く、代わりに私の右手に握られている、それ…………。
「わっわわわわわっ!」
「いい反応のお客さんですね。披露のし甲斐がありますわ」
メイドは、クスクスと笑っていた。
「私は普通に人間の里に買い物にも行くし、人間の知り合いもゼロではないわ。人付き合いが下手な方ではないと自負もしています。それでも……私はこの屋敷を離れようとは思わないけど」
真っ直ぐに向ける視線にはっきりとした言葉を乗せ、私たちへと――姐さんへと送る。
「コキ使われているというお話もいただきましたが?」
「まぁね。ウチのお嬢様たちとご友人様はワガママでいらっしゃるから。……でも、ま、それでも私は楽しんでるわ」
多くを語らない代わりに、その瞳が全てを伝えてくれている気がした。深い色を湛えた、綺麗な瞳。
なぜか――私は涙を流しそうになっていた。
「それに、ある夜に悪魔と約束をしてしまってね。私が生きてる間は、一緒にいることにしたのよ」
「吸血鬼には一瞬の時間でしょうに」
「人間にとっては、長い一生よ」
二人の言葉が交差する。言葉にしていない想いも空気を伝う。私はいよいよ泣きそうになる。
そして姐さんが静かに声を上げる。
「……微妙に論点がズレてきてしまいましたね」
「全てを聞かないと不満かしら?」
「――いいえ、とんでもない。あなたがこの妖怪だらけの屋敷での暮らしを楽しいと言ってくれて、私はそれだけでとても満足です。幻想郷が楽園たることを、やはりあなたが示してくれているような気がします」
「そんな大層なもんでもありませんわ」
そう言って、二人は笑っていた。私はただ黙っていた。一緒になって笑いたかったのだが、言葉が詰まってしまっている。熱くなっている目頭が今は憎い。
そんな私の方へと振り向き、姐さんは穏やかに私の名前を呼んだ。
「一輪」
「はい」
静かに返事をする。
「レミリアさんのところへと行きましょう。お暇しますよ」
「はい…………はい?」
頷き――もう一度声を上げてしまっていた。何か具体的な言葉を待っていたわけではないが、それでもその言葉は予想外だった。私はきっと、目を丸くしてしまっていた。
「あら、もうお帰りで」
「えぇ、もう充分にこのお屋敷を見せていただきました。――私の理想に限りなく近い、素晴らしいお屋敷でしたよ」
そう言って、姐さんはにっこりと笑っていた。
→ → → 紅魔館・レミリアの部屋
「あら、お帰り?大したもてなしもできずに悪いわねー」
メイドに連れられ、私たちはレミリアさんの部屋へと通された。いくら従者に連れられていたとは言え、部屋まで押しかけたことに腹も立てず、笑顔で迎えてくれていた。ふふふ、と零す声がわかりやすく響く。あぁ……帰ってもらいたかった感がひしひしと伝わる…………ハヤクカエレと副音声が聞こえる気さえするわ。
「いえいえ、お構いなく。悪魔の館、楽しませていただきましたわ」
私の隣に立つ姐さんは、そんな空気などお構い無しにニコニコと笑って挨拶を返していた。本当に気づいていないのか、わかった上でやっているだけなのか、もはや私にはわからなかった。もうこの際どっちでもいいような気もした。
「良い隣人たちをお持ちですね。さぞ楽しく暮らせているでしょう」
「う……ま、まぁね。――って、何言わせてんのよ。さぁさ、帰った帰った」
しっしと手を払う。その様子を咲夜さんが微笑み顔で眺めていた。
「はい。それでは失礼させていただきます。次来る時は泥に灸のセットをお持ちしますね」
「次もこっちの話を聞く気は無いのね」
「“Useless like beating the air”って言葉もあるわよ」
「英語までは押さえてませんでした」
「……と言うか、ここまでの謎のセットも用意してませんよ」
「じゃあ次にお邪魔するときまでに用意しておきましょう」
「いらないと思いますよ」「いらないから」「いりませんわね」
「あらあら、残念」
そう言って笑うばかりの姐さんと、呆れたように溜め息を漏らす私たち三人。
「――それでは失礼しますね。また機会がありましたらぜひ」
「どうもお世話様でした。メイド長におかれましては、部屋の用意までしてくださったのに申し訳ありません」
「いえいえ、お構いもせず」
「はいはいどーも。咲夜、お見送りよろしく」
そうして、私と姐さんは悪魔の館を後にした。
気づけばそろそろ逢魔が刻。
一日の終わりが、吸血鬼にとっての一日の始まりは、もうすぐだ。
※
「ねぇ、一輪」
「なんでしょう、姐さん」
「なんだか命蓮寺の皆の顔が見たくなったわ。早く帰ってみんなでご飯を食べましょう」
「それは賛成です。なんだかずいぶん顔を見ていない気さえしますよ」
「紅魔館の人々がなかなかに良い人ばかりでしたからね」
「いや、いい人……あー……まぁ個性的な方ばかりではありましたね」
「良いことじゃないですか。――今度、命蓮寺の皆も連れて、全員で伺いましょうか」
「え゛…………。い、いやぁさすがに止めておきましょうよ……ね」
「名案だと思うのだけどねぇ」
茜色に染まりつつある空を、私たちは飛ぶ。
次の機会に思いを馳せながら。
次来ることがあるのなら、その時はどうにか代理を立てようと、心の中だけで誓った。
姐さんに振り回されるのは、なにせちょっと楽しくて、結構疲れるのだ。
…チッ(ボソ
聖の暴走っぷりと一輪のツッコミが面白かったですw
と思うのは私だけでしょうか?