Coolier - 新生・東方創想話

たまには酒でも飲んで

2011/02/06 21:46:42
最終更新
サイズ
17.71KB
ページ数
1
閲覧数
1212
評価数
10/39
POINT
2280
Rate
11.53

分類タグ

「遅いなぁ。道に迷ったのか、あいつ」
「おまたせ。遅くなったわ」
「おお、やっときたか。遅かったじゃないか」
「まぁね。というかここに足を踏み入れたの初めてなのよ。できればエスコートして欲しかったわね」
「悪い。次からは気をつけるよ」
そう言って藤原 妹紅は蓬莱山 輝夜に自分の正面に座るように促した。

居酒屋
人里にあり、夜になると賑わい始めるその場所に妹紅と輝夜が待ち合わせたのである。
先に来ていた妹紅は座敷に座り、後から人が来ることを店員に告げてから注文した。
彼女の周りにはお酒の入ったコップやつまみの皿も置いてある。

「取りあえず何飲む?」
「麦酒で良いわ。あとタコから」
「オッケー」
すいませ~ん、と店員を呼んだ妹紅は輝夜の分と自分の追加を頼む。その間、輝夜はすでに置かれてある枝豆をつまみ始めた。
がやがやと賑わう店内は人間だけでなく妖怪も問わず明るく楽しんでいる。こういう場所では種族の壁は無礼講であり、まるでお祭りのように騒ぐ彼らの雰囲気は見ていて自分たちも陽気になれそうであった。

「気に入ったかい?」
「悪くないわね。後はお酒と料理の質ね」
笑う妹紅に輝夜も笑みで返す。普段こういう間柄ではないことはお互い重々承知していたがこの雰囲気に険悪ではいられない。心から楽しむことにしていた。

「お待ちどうさまで~す。麦酒と梅酒、タコからとあげだし豆腐です」
「おお、待ってました! こっちにおいてくれ」
「貴女、いいもの頼んだわね」
「何、あげだし欲しいの? 半分ずつにする?」
「ええ、お願いね」
店員が置いていったあげだし豆腐の入った皿を輝夜は妹紅の前に置いた。
受け取った彼女ははしで器用に半分に切り分ける。それを空いている別の皿に移した。

「この皿、唐揚げ入ってたやつだけどいいか?」
「気にしないわ。ありがと」
輝夜は嬉しそうに分けられたそれを受け取った。
そして目の前に置かれた麦酒を掴み妹紅の前に掲げる。妹紅もそれに倣うように梅酒を輝夜の前に掲げた。

「取りあえず、最初ということで」
「乾杯としますか。ま、私は先に飲んでたけどね」
にって笑いあった。

「「かんぱ~~~い!」」







たまには酒でも飲んで







「で、どうよ?」
「何が?」
「最近だよ、最近………で?」
「そうね…………決闘、決闘、雨、決闘ってとこかしら」
「ああ、ああ。いわれてみれば」
「代わり映えしないわね、私達って」
輝夜は麦酒を一杯飲んでから、少しため息をついた。
決して今の生活に不満があるわけではないが少しは華が欲しいと思うのも事実である。弾幕ごっこは煌びやかはあるが、彼女たちにとってそれは二の次である。
というのも彼女たちの場合、『ごっこ』では済まされないからだ。

「でも、昔に比べたらマシじゃないか」
「確かにね。今じゃ、大手をふっていろんなところに行けるからね」
「そのわりには部屋からあまり出ないじゃないか」
「む~、意地悪ね」
笑いながら茶化す妹紅に輝夜の頬はふくらんだ。事実とは言え、指摘されるとむず痒い感じがしたからだ。
妹紅はそんな彼女の様子を面白がりながらお酌をする。輝夜は並々に注がれた麦酒を呷る。すると喉が洗われるような感じで気持ちよかった。
その気持ちよさがたまらなくてお酒に呑まれるのであった。

「でも、実際まずいとは思ってるんだよね~」
「お、ぐちか? 話してみなよ」
「ほら、私って一応お姫様じゃない。だから今まで働いたことなかったんだけど、最近の永琳たちを見ているとさ、後ろめたいって言うか……辛いのよ」
「ああ、分かる、分かる。特にお前なんか働いている奴が一緒にいるからさ、余計に来るんだろ」
「そうなのよ。でね、もっと辛いのはそんな永琳たちをただじっと見ているしかできないってことなのよ」
「なら、働きたいって言えばいいじゃない」
「言えないわ。だって……」
「だって?」
言いよどむ輝夜の姿勢を妹紅はじっと伺っていた。

「……怖いのよ。仕事って何か得体の知れないものに圧迫されそうな気がしてさ。目に見えないから余計に怖いのよ」
「なるほどね。それもよく分かるよ」
「嘘! だって貴女、働いているじゃない」
妹紅も輝夜の気持ちが分かる。だから、何度も頷いたが彼女はそれを反対した。
しかし、妹紅はしれっと輝夜を宥めるように言葉を紡いだ。

「働いてるっつーか、手伝ってるって感じだな。慧音の手伝いや永遠亭までの護衛、どれも自発的じゃないさ。全部慧音のお陰だよ。それだけにあいつ無しじゃ、やっていけないかなって思うときがあるよ」
「ふ~ん。貴女も貴女で悩みがあるのね」
「まあな。でも結局のところは自分しだいかなって思うよ。最近さ、考えたんだ。確かに慧音の口ぞえで有り付けたって感じはある。けど、そっからは自分次第じゃないかなって思うんだ。だから、私はそれなりの努力はするよ。慧音に迷惑掛けないようにね」
「……強いわね、貴女って。まるで昔、初めて私を殺そうとしたときみたいな強い意志を感じるわ」
「おいおい、私はいつだってお前を殺そうとしてるんだぜ。そこ、履き違えるなよ」
「はいはい」
今度は妹紅が頬を膨らませながら輝夜に言った。
言われた彼女は適当にあしらいながら、あげだし豆腐にはしをつつく。妹紅の言う言葉が彼女の頭の中で反芻された。

(自分次第か。ありきたりだけど、真理よね)
自分の態度を改めようと心に誓った。

「あ、すいません。梅酒おかわり」
「好きね、梅酒」






「あ、そうだ。輝夜、ここの店、気に入った? 聞くの忘れてたんだけど」
「うん? まぁ、悪くないわ。お酒はなかなかだし料理の幅や値段も納得できるし」
そういって輝夜はお品書きをみている。次、どれにしようか悩んでいた。
因みに天秤はてんぷら盛り合わせとお造りおまかせである。

「ほら輝夜、コップ空いてるよ」
「あ、じゃあ入れといて。私今それどころじゃないから」
妹紅は瓶に入った麦酒を輝夜のコップに注ぐ。普段はそんなことをしないのに妹紅はすんなりとした。

「ありがと」
「どういたしまして。次私にも見せて」
「ん」
自分の前にある梅酒を口に含みながら彼女を待つことにした。





「なぁ、永琳って普段、どんな感じなんだ?」
やっと輝夜から解放されたお品書きを見ながら妹紅は彼女に話をふった。
珍しく人の従者に興味を持った自分のライバルを不思議そうに見ながらも少し酔ってきたせいか頭が重く感じる。
ここまで、輝夜は麦酒の瓶をまるまる一つ開けていた。そのため、考えるのも億劫になったので輝夜は思ったことをすっぱり言い切った。それは妹紅を頷かせるのに的を射た表現であった。

「天才を素で通すわね」
「なるほどな」
妹紅は彼女の言いたいことが少し分かったような気がした。

「でも漠然としてるな。具体的には?」
「朝は5時起床。薬草摘みに出かけて、帰ってから朝食の準備を始めるのよ、全員分ね」
輝夜は呆れながら話した。自分にとっては難しい早起きを毎日するのだから、頭が下がらない。
流石に全員分という言葉に妹紅も驚きを隠せないでいる。

「大体、その辺りから夕方遅くまで診察や合間見て薬の研究もするし、イナバに講義もしてるわね。夜は夜で本を読んでるし、ゆとりがないのに生活できてるのがすごいわ」
「すごいな、それ。でも慧音もそんな感じかな」
「ハクタクも?」
永琳の生活習慣に妹紅は何度も口を丸くし驚くが自分の身近にもそんな生活を送っている人物を思い出し、口に出した。
それに反応した輝夜は興味深そうに体を前に出した。

「聞いたことがあるんだけど、慧音も大体5時ごろには起きてるって言ってたな。里の見回りだとか」
「やるわね。5時起きなんて後は紅魔館のメイドくらいだと思っていたわ」
5時という言葉に輝夜は大きく反応し呆れた。

「追加に八雲の狐もありじゃない?」
「ああ、ありだわ。あそこの主も大変ぐうたらだからね」
「輝夜に言われちゃおしまいだよ」
笑う妹紅に輝夜は頬を膨らます。本日二度目であった。

「ああ、話が変わったな。で、朝から昼半ばまで寺子屋で授業。昼は外で子供の様子を見ながら課外活動。夜はこっちも本。全く天才はすごいもんだよ」
「私達の周りってすごい人に囲まれてるのよね。今更だけど」
どこかおかしそうに笑いながら言う輝夜に妹紅もついつられてしまう。
自分たちは恵まれている。彼女たちの生は無限の世界。故に周りの人如何によっては面白くもなるし、逆にも転じる。
豊かなめぐり合い。それが通じ合ったからこそ二人は笑った。
これだから人生は面白い。

「ま、身内の自慢話はこれだけにして追加しないか?」
「あら、貴女がふってきたのに……ま、いいわ。私焼酎、ロックであとお造り」
「なら私は杏酒で。あと、白玉ぜんざいも頼もっと」
「………貴女って甘党なの?」













「なぁ?」
「……あによ」
「タバコ吸っていいか?」
「いいけど。私にも一本ちょうだい」
「お前、吸うのか?」
妹紅は懐からタバコを取り出した。
輝夜が吸えることを初めて知り、驚きながらも箱から飛び出ているタバコを彼女に向ける。お酒で顔を真っ赤にしながらも輝夜はそれを取り出すと口にくわえ、妹紅の手から出た火をあてる。じりじりと先端が燃えるのを感じながら彼女はゆっくりと吸い込んだ。

「……ふぅ」
「様になってるな。美人が吸うタバコってのは絵になるね」
「美人って言われるのは嬉しいけど、おやじくさい表現ね」
ははは、と笑いながら自分のタバコに火をつける妹紅。こちらもゆっくりと煙を楽しんでいた。
輝夜ももう一度吸ってからぽつりと言葉を洩らした。

「永琳に止められていたのよ」
「あん?」
「さっき吸うのかって言ったでしょ。その答えよ。昔は吸ってたけど永琳に止められてね。それ以来吸っていなかったわ」
「へぇ…じゃあ、いつ以来なんだ?」
「そうね、たしか最後に吸ったのは…………ぶふっ!」
「うわっ! 汚ねえな」
突然吹きだした輝夜に妹紅はしっしと手を向ける。そんな彼女を気にせず、輝夜は一人高笑いをした。その笑い声は鈴の音が響くような綺麗な声なので、騒ぎ声でごった返す店内によく響いた。

「どした? 変なとこに入ったのか?」
「ち、違うのよ……あはははは………ちょっと、ね…ふふ………」
「?」
怪訝な顔を向ける妹紅に輝夜は手で大丈夫と合図した。
ゆっくり呼吸をしてから彼女は吸っていたタバコを灰皿において、正面に座る妹紅に話した。

「実はね、喫煙最後の日、永琳に馬鹿なこと言っちゃってね。『タバコ最後にするから死ぬまで吸わせて』って言っちゃったのよ」
「マジか? で、結果は?」
「もちろん、死んだわ。死因は肝臓癌。記録は1万飛んで839本。日記にも残してあるのよ。起きたら永琳ドン引きだったわ。『ないわ~』って言ってたもの」
「馬鹿だなあ、おい! ホントにそんなんで死んじまうなんて」
けたけたと馬鹿笑いする妹紅に輝夜も笑うしかなかった。笑いすぎたせいか、目じりに涙を溜めながら妹紅も思い出したように言葉を紡ぐ。
前のめりになりながら話すので、輝夜も身を乗り出した。

「ああ、でも私もそんな馬鹿なことしたな。昔、死ぬほど酒が飲みたいって思ったことがあってな。手元にあった金を全部酒につぎ込んだんだ」
「それで?」
「夜飲み始めて、起きたらまた夜になっていたよ。どうやら一日死んでたみたいなんだ。文字通り浴びるように飲んだからさ、服も酒臭くってたまんなかったな」
「記録はどうなの?」
「取りあえず樽だ。単位がな」
「ふふっ、馬鹿よね。お互い」
「いいんじゃない。私達には真面目な連れがいるんだ。その分誰かが馬鹿やってないと吊りあわないだろ」
だから馬鹿をやるのさ、そう言って妹紅は注文をするために店員を呼んだ。

「おにいさん、林檎酒ひとつ! 黒蜜たっぷりところてんも」
「火使うのに甘党なのね」







「そう言えば」
「うん、どした?」
「貴女、タバコ吸う前にぜんざい食べてたじゃない。それって微妙じゃない?」
「う~ん……そうかな?」
妹紅は早速卓上に置かれた黒蜜たっぷりところてんをほうばる。冷たくて喉越しがいいところてんは油ものを食べた後には丁度いい。

「そうに決まってるわよ。基本、甘み系は最後に食べるものよ」
「でもそれだとさ、食べたいものが食べれなくなる可能性もあるんじゃない? それなら食える時に食うのがいいだろ」
「言いえて妙ね。そういう考えもありか」
輝夜は小皿に醤油を垂らし注文したお造りにはしをつつき始める。涼しいところにおいてあったのか身は冷たくてこちらも喉が気持ちよくなる。
もっとも、彼女の場合だいぶ酔っているのか顔はリンゴのように赤い。どれくらい顔が火照っているのか掌を当ててみると、まるで熱を出したときのように熱かった。

「私真っ赤?」
「ああ、真っ赤も真っ赤。まるで怒っているみたいだ」
「そういう貴女はまるで変化がないわね。私より飲んでるのに」
「私は顔に出ないタイプさ。これでも結構酔ってるよ」
そう言って妹紅は林檎酒を呷る。甘みが丁度いいようで輝夜には気分が良さそうに見えた。

「で、好きなの甘いの?」
「ああ、もう大好きさ」
「私と比べたら?」
「天と地ほど」
「ひどいわね。これでも私は妹紅のことは好きなのよ?」
「ああ、そうかい。私は嫌いだ。理由は言わなくてもいいよな?」
決して憎憎しげに言わないところをみるかぎり、妹紅が本当に嫌っているのか輝夜には判断がつかなかった。それに酔いも相まって判断が正常じゃない。考えるのが辛かった。

でも、最後の言葉はよく分かった。彼女のいったことがもし本音なら、その理由はよく分かる。家族を辱められたら誰だって怒るだろう。
輝夜にとって本当の意味での家族はここにはいないが新しい家族はいる。
自分は頭である。先頭きって守る義務がある。そんなときが来ないことを願いながら麦酒を一杯呷った。

「ああ、お酒って最高ね」
「全くだ」
そう言って妹紅はコップを輝夜の前に突き出す。
突き出された輝夜もそれに答えるようにコップを掲げる。

チン!








「次何頼む?」
「ええ? まだ頼むの?」
「もち。今日は金があるからね。そう言えば、輝夜はどうなんだ。もうやばい?」
「ううん。永琳にお小遣いもらってきたから大丈夫」
「どんくらい?」
「う~ん……1万ほど」
どれくらいもらったのかを思い出しながら金額を告げると妹紅は吹いた。

「たかだか居酒屋で1万も持ってくんなよ。今日頼んだので一番高いのだってお造りおまかせだって800円と良心的なんだぞ。少しは考えろよ」
「知らないわよ。永琳は『これで丁度だと思います。楽しんできてくださいね』って言ってたんだから。文句なら永琳に言ってよ。って言うか、ちょっとホントにやばい……気持ち悪い」
「厠に行ったら? 少しはすっきりできるんじゃない?」
「そうする……」
卓上に突っ伏していた輝夜はのそりと起き上がり、立ち上がった。
妹紅は彼女が帰ってくるまで暇をもてあましていたので、お品書きでも見ていることにした。




「おまたせ~」
「遅かったね」
「うん。結構並んでたわ。何か頼んだ?」
「いちごの練乳かけ」
「また、甘いものを……」
そう言って輝夜は座るなりまた卓上に突っ伏した。
厠に行ってもあまり気分が良くならなかったらしい。

「どうする、出るか?」
「そうして……もうおなかも辛いし」
取りあえずここから出る目処はついた。
暫くして、注文をしたものが置かれると妹紅は嬉そうにそれを食べる。一方の輝夜はその様子を見ている余裕がないほどお酒に呑まれたようであった。





「う゛~~きぼぢわるい」
「おいおい、こんなとこで吐くなよ」
「今なら蓬莱の輪廻から開放ざれぞうだわ」
店を後にした二人。
リンゴのように真っ赤な顔した輝夜は飲みすぎたせいか、妹紅の肩に寄りかかりながら足を進める。妹紅はあまり酔っていないのか顔は最初のころとあまり変化が見られない。なので、しっかりしている彼女が輝夜を支えている。しかし、輝夜の足元がおぼつかないのか、ふらつく彼女の歩みに妹紅も足を取られる。

「どうする、向こうに裏路地あるけどそこで吐くか?」
「いあ~! そんなの出来ない」
「そういうと思った」
まがりなりにも月の姫であった輝夜。そんなはしたないことをするはずがないと思いながらも妹紅は出来れば吐いて欲しいと思った。
このままでは自分が痛い目にあいそうだと思ったからだ。例えば、ふっかけられるとか……

「仕方ない。慧音ん家行くぞ。そこで休もう、な?」
妹紅の言葉に彼女はこくりと頷く。
妹紅の家も永遠亭に比べれば近いが、輝夜の様子が不味いと感じたのでここから比較的近い自分の友人の家に行くことにした。
時刻は午前の2時。時間的に厳しいかなと思いながら二人はふらふらしながら歩いた。






トントン、トントン
夢の世界にリズムよく叩かれる音が聞こえた。
その音に聞き覚えがあった。確か戸を叩く音だったな、などと考えていると次第に眠気が覚めてくる。

「何だこんな時間に…」
折角深い眠りについていたのに邪魔をされて少し不機嫌になる。しかし、急な用事があるのかもしれないと思いなおし、上白沢 慧音は布団から這い出た。

「誰だい、こんな夜中に私を訪ねるのは?」
「や、こんばんは、慧音」
「妹紅か……それに輝夜までいるな」
「う~~~~ハクタク、水ちょうだい」
二人の突然の訪問に特に驚きもせず慧音は二人を招き入れる。玄関の戸を閉め、いそいそと台所へ水を汲みに行った。
妹紅はゆっくりと壁の近くに輝夜を座らせると、慧音に手渡された水を渡した。

「ごくごく………あ~生き返る。こんな簡単なリザレクションも悪くないわね」
「そっか。一回殺しときゃ気持ち悪さも吹っ飛んでたかもしれないな」
「お前はなんて物騒なことを……いくら輝夜相手だからといってそれは駄目だからな」
妹紅を嗜めながら慧音は輝夜に水の追加を聞いた。彼女の質問に首を横に振り、輝夜はぱたぱた手で仰ぐ。どうやら酒の飲みすぎで火照っているようだ。

「何杯飲んだのだ?」
「えっと…麦酒ならコップ5,6杯ぐらいかな。あんまり覚えてないけど」
「それぐらいならじきに気持ち悪さも収まるだろう。もっとも輝夜がお酒に弱いのでなければだが」
妹紅は輝夜が落ち着いた様子を見計らって台所に向かった。
自分もどうやらそれなりに酔っていたらしい。顔に出ないだけで時々、視界がおぼつかないこともあった。それを自覚していたので水を飲みにいったのだ。

「あ、ついでに厠借りるよ」
慧音はこくりと頷く。
真夜中の訪問、どうやら殺しあいの帰りではないことに少し胸がほっとした。
妹紅と輝夜の因縁を分かってはいるがやはり知り合い同士がしているのは気分が悪いからだ。
だが、今の状態は結構良好だとも思う。昔はもっと殺伐としていたが、今はこういうなれあいも挟むようになった。時間がゆっくりと良い方向に持っていっているのかもしれない。

「ねぇ、慧音…」
「…うん、どうした」
考え中の慧音に輝夜はふと彼女に呼びかけた。

「私って今の幻想郷が好きよ」
「何だ、藪から棒に……まだ酔いがさめていないのか?」
「そうかもしれない。そうでないかもしれない。ただ、何となく口にしたかっただけ」
「………なら、それを永琳たちに言ってやれ。それだけで彼女たちが喜ぶ顔を見れるだろう」
輝夜は答えない。どうやら、眠りの世界に一足先に入国したらしい。
でも綺麗な笑顔を見せているところを見ると聞いてもらったようだ。それだけで慧音は満足だった。

「お、輝夜寝たのかい?」
「ああ、たった今な」
「そっか」
妹紅はよいしょといって慧音の隣に座る。年寄りくさい表現に慧音は苦笑した。

「なぁ、妹紅。お前は今の世界が好きか?」
「藪から棒だね。ま、好きといえるよ。慧音がいてついでにこいつもいるんだ。退屈しないですむ世界になったよ」
「それは私がいなくなっても言えるか?」
慧音の切り返しに妹紅は少し驚き、顔を上げる。考えるときはいつも天を仰ぐのが彼女の癖であった。

「たぶん、いえないと思うよ。でも、代わりのものを見つけようとしているかな」
多分だけどねと、いってはにかむ。
慧音はそっか、と言ったきり二人は黙り込んだ。






慧音は壁に寄りかかりながら眠る輝夜の体を抱え、布団に寝かせる。
あいにく布団は二人分しかないので、戸棚に閉まってあったもう一つを取り出し、二つくっ付けてそこに三人が川の字で寝ることにした。慧音を真ん中に右手に輝夜、左手に妹紅が横になる。
ちなみに輝夜の傍には袋がおいてあった。いつ吐いてもいいようにと慧音なりの親切である。

「そういえば、今日は何で一緒に飲みにいったんだ?」
「なんとなくだよ、なんとなく」
「そうか」
輝夜の静かな寝息だけが部屋に響く。

「……まぁ、言うなら…」
「うん?」
「輝夜のことをもっと知りたくなったんだ。どうせこいつとこれから先、嫌というほど付き合わなくっちゃいけないからね」
「それで二人っきりの酒宴か。妹紅にしてはいい考えだな」
「それしか思い浮かばなかったよ。二人で普通のときにおしゃべりするってのも、がらじゃないしさ」
自分で言ったことを妹紅は想像した。茶屋で世間話をする二人。あまりにも似合わないと思い、恥ずかしいのか彼女は慧音に顔を見られないようにそっぽ向いた。

「酒の力は偉大だよ。何でも強気にさせてくれる」
「で、結果は?」
「………少しはこいつのことを知れたと思うよ。うぬぼれ抜きでね」
「そっか………………妹紅、寝るか」
「そうだね、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
時刻は午前3時。
あと二時間で起きる予定の友人の方に顔を向けて妹紅は眠りについた。
楽しかったなと寝言で呟いたのは言うまでもない。
どうも、モノクロッカスです。
殺伐でない夜もいかがというのが、テーマって感じです。実際、こんなに仲がいいのかはわかりませんが、偶に飲むくらいありですよね。

そう思いながら今回も感想をお待ちしております。ありがとうございました。
モノクロッカス
http://
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1290簡易評価
5.100奇声を発する程度の能力削除
偶にはこういう夜も良いですね
7.100名前が無い程度の能力削除
いいじゃない、こういう雰囲気

誤字?
永琳の下りで、
>>自分にとっては難しい早起きを毎日するのだから、頭が下がらない。
姫様らしいっちゃらしいですが、「頭が上がらない」では?
そこは下げましょうよwww
9.100名前が無い程度の能力削除
いいね
11.100名前が無い程度の能力削除
居酒屋で愚痴やらなんかをこぼしつつ、友人と飲んでみたいですね。
こんな雰囲気が大好きです。
12.90名前が無い程度の能力削除
死ぬまで煙草ww
体の替えがあったらやってみたいですね
13.100名前が無い程度の能力削除
たまにはこんな妹紅と輝夜も素敵ですね。
誰かと飲みたくなります。
16.100名前が無い程度の能力削除
タバコの発想はあったww
殺伐とした二人もいいですけど、出会って数百年。
こういったこともあってもいいと思うんです。
25.100リペヤー削除
こういう輝夜と妹紅の二人もいいですね。
なんとなく大学生二人がだべってるように見えました。
良いお話をありがとう。
36.100名前が無い程度の能力削除
Good!w
ナイスgdgd!w
ま、永遠に、この世が終わるまで付き合わなきゃならない2人ですからw
「殺しあうのは明日でもいいじゃない」って感じでw
38.100名前が無い程度の能力削除
これは・・・いける!
こんな二人を期待してたんだ!サイコー!!