Coolier - 新生・東方創想話

赤い宮殿 2

2011/02/06 05:46:16
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『赤い宮殿』の1、つまり起承転結の起にあたる物語は、二月三日に投稿されています。お手数ですが、そちらを先に読んで頂けると、いっそう話がわかるかと思います。ただ、二次創作ということもあり、こちらを先に読んでも、わからないということはなかろうと思います。

 二

 ある日、吸血鬼のお姉さんは、まだ日も暮れていないと言うのに、起きて来て、テラスでぼうっと考え事をしていました。それは今日に限ったことではありませんでした。その頃は毎日毎日、従者の入れた紅茶にも口をつけずに、ただただぼうっとしてばっかりいたのです。
 それを見て、何時も冷静で、しっかりものの従者も気が気ではなくなって、吸血鬼の親友の魔女さんに、
「かれこれこういうさまで、心配です、何か心当たりはございませんか?」
 と相談しに行ったくらいです。そうすると魔女は、
「ふむふむなるほど。おっほっほ、任せなさい。」
 と言って、一冊の本を持って、妹のところへ行きました。

 しばらくすると、妹は、お姉さんのところへ言って、こうおねだりするのです。
「お姉さま、私、御本を読みたいのだけれども、うまく字が読めないわ。このお国の言葉は、とても難しいの。読んで聞かせてくださいな。」
「あら、貴方、御本を読むのね。しかも、わざわざこのお国の御本を読むなんて、どうしたことかしら。でも、良いことね。わかったわ。読んで差し上げましょう。昔々あるところに、とても仲の良い姉妹がおりました……」
 そうして、二人仲良く、御本を読んで過ごす日が続きました。それからお姉さんは、物思いに耽って、ぼうっとすることも無くなりました。魔女はそのことを従者から聞くと、
「おっほっほ。私の思ったとおりだったね。私に任せておけば、何でもこの通りさ。」
 と嬉しそうに笑いました。従者も、
「全く、魔女様のおかげです。あぁ、よかったよかった。」
 と言って、嬉しそうに笑いました。
 そうして、皆笑って、仕合せな日々が続きました。

 三

 その日も妹は、お姉さまに御本を読んでもらっていました。赤い冊子の、大きな御本です。
 その御本に書いてあるお話では、ある仲の良い姉妹が、楽しそうに交換日記をしています。お庭に咲いているお花が、青くてかわいかったこと。蝶々がひらひら飛んでいて、綺麗だったこと。お星様を繋いで、色々な生き物に見えるのが楽しいこと。今日はお人形さんで遊んだこと。女中さんがおかしなことを言って大笑いしたこと。何でもかんでも、あけすけに二人はお話をするのです。直接お話しするのは恥ずかしいことでも、交換日記を通じてなら、へっちゃらです。謝りたいときは、交換日記で謝ります。相談したいときも、交換日記で相談します。そうして、姉妹はもっともっと仲良しになるのです。
 そのお話を読んで聞かせてもらっていると、妹は、
「あぁ、羨ましいなぁ。私も、そうやって、お姉さまともっと仲良しになりたいわ。」
 と思って、どうしてもお姉さんと交換日記をしたくなりました。でも、交換日記をしたいとは、中々言えません。妹は、すっかり困って、しょぼくれてしまいました。
 妹がしゅんとしているのに、お姉さんは気がつきます。
「あらあら、どうしたのかしら。こんなに楽しい御本を読んでいるというのに、辛そうな顔をしてしまって。お腹でも痛いのかしら?」
「ううん、そうじゃないのお姉さま。なんでもなくってよ?」
「そう、なら良いのだけれども……」
 結局妹は、素直にお姉さんと交換日記がしたいとは言えませんでした。
「お姉様が、もう一度聞いてくれたら、もしかしたら、素直になれたかも知れないのになぁ。」
 とも思いました。しかし、お姉さんは、無理に理由を問うては、妹が困ると思いましたし、まだすっかり素直になることが出来なかったので、繰り返し聞くことはしませんでした。
 二人はなんだかぽっかりと心に穴があいてしまったような気持になりながら、今日の御本はおしまいとなりました。

 四

 お部屋に帰って、妹は、一人お人形さんを抱えながら、やっぱりお姉様と、素敵な交換日記をしたいなぁっと思いました。けれども、そう言い出す勇気がありません。なんでこんなに私は臆病なのかなぁっと思うと、自分が嫌になってしまいます。そうしてがっかりして、泣きたくなってしまったので、もうお布団を頭までかぶって、寝てしまおうと思いました。ですが、気持が穏やかではないのと、どうしても交換日記を諦められないとで、頭と心がごちゃごちゃしてしまって、到底眠ることが出来ません。悶々として仕方が無いので、もう寝るのはよして、お屋敷の中を、何か気を紛らわすものはないかとそぞろに歩き回るのでした。
 そうして歩き回っていると、ふと図書館の前に着きました。
 そうそう、当時は、あのお屋敷には、別館の図書館があったのです。そこに、例の魔女さんは住んでいました。ですから、妹は、もしかしたら魔女さんが、何か面白いことをしているかもしれないと思って、図書館の中に入りました。ですが、図書館の中には、誰もいません。探してみますが、どうにも見つかりませんから、なんだ、つまらないと思って、妹は図書館から出てしまおうと思いました。
 ですが、その時、図書館の一角にある机の上に、一冊の本が置いてあるのを見つけました。
 それはピンクのかわいい表紙の本で、
「まぁ、かわいいわ。どんな御本かしら?」
 と、妹はすっかり惹きつけられてしまいました。しかし、どういうわけか、それは白紙の本でした。ですが妹は、白紙の本を見ると、
「まぁ、素敵。これはきっと良い日記帳になるわ。」
 と考えて、ぱぁっと、明るい笑顔を浮かべました。
 そう思って、その本を手にとって、表紙を眺めてみたり、ぱらぱらっとめくってみたりしていました。そのうち、その本が愛しくなってきて、ぎゅうっと抱きしめました。そうすると、心がぽかぽか穏やかになってきて、さっきまでのささくれ立った気分が、もうすっかり嘘のようになりました。

 と、その時、遠くから、人の声がするのを聞いて、妹は、やましいことなんて何もないのに、思わず図書館から飛び出して、急いでお部屋に戻ってしまいました。そのピンクの御本を胸に抱えたままです。そうしてお部屋にかえって、気がついたら、あぁ、大変。御本を取ってきてしまいました。本当なら、もとあった場所に返さなくてはならないのですが、どうしても妹はそれを手放したくなくって、ぎゅっと抱いたまま、お布団の中に潜り込んで、そのまま眠ってしまいました。

 翌朝、中々起きて来ない妹を、姉は起こしにやって来ました。
 どうしてかその日だけは、従者ではなくって、お姉さんが起こしに来たのです。
 妹の起きるのが随分と遅かったからでしょうか?或いは、昨日、様子がおかしかったのを、気にかけてのことでしょうか?それは本人しかわかりません。
 ただその日は、お姉さんが起こしに行ったのです。
「あなた、おね坊さんですよ。」
「うぅ~ん、あれ、お姉様?どうしてお姉様が起こしに来てくださったのかしら?」
「それは貴方が、ずっと寝ているからですよ。さぁ、起きてお着替えをしましょう。お顔も洗ってらっしゃいな。あら、何かしら?その御本は。昨日は、遅くまで御本を読んでいたから、おね坊さんなのかしら?」
 そういわれて、妹は、あ、そういえば、御本を抱えたまま眠っちゃったのだと気がつきました。また、その御本は、図書館から取って来たものだとも思い出しました。本当は、お姉さんに見つかって大変です。妹も、最初は、そう思って慌てました。
 ですが、その御本を見ているうちに、不思議な勇気が湧いてきて、昨日ずっと悩んでいたことが嘘のように、
「ねぇ、お姉様。私、お姉様と交換日記をしたいの。」
 と、素直に言えるようになっていたのです。
 そうして、そのピンクの御本を、お姉さんに手渡しますと、お姉さんは、
「ようございますよ。」
 とだけ、簡単に言って、にっこり笑って下さいましたから、妹も、にっこりと笑って、
「それじゃ、朝のご準備致しますね。」
 と言って、きびきびとお着替えをし、お顔を洗い、お食事をして、お姉さんと一緒に御本を読むのでした。
 それはそれは、春風も微笑む爽やかな日の出来事でした。

 五

 交換日記をするようになってから、姉妹はずっと仲良くなりました。
 ちょっとしたことでも、交換日記を書いているうちに、ぱぁっと思い浮かんで、ついつい書いてしまいますし、いつもは中々言えないことでも、交換日記を通じてなら、何だって言えます。ですから、交換日記をしていると、今までは知らなかった姉妹の素顔が見られて、びっくりしますし、それがとっても嬉しくって、誇らしい気持になるのです。
 もっとも、この妹さんは、ちょっといたずら好きなところがあって、
「こう言ったら、お姉様はどんなことを仰るかしら?」
 とか、
「このっくらいのことを言っておいたほうが、お姉様は一杯書いてくださるに違いないわ!」
 といったことを考えて、お姉さんを密かに観察していたのです。
 でも、そんなこと、お姉さんはお見通しです。ただ、かわいい悪戯ですから、
「仕方がない子ね!」
 と愛嬌に思って、悪戯に付き合ってあげるのでした。
 それはもう、二人とも、すっかり仲良しさんになって、傍目から見ていても、微笑ましくって、思わずにっこりしてしまうくらいです。夏の間は、ずっとそうやって、皆で幸せに過ごしたのでした。

 さて、皆はきっと、どんなことを交換日記でお話したのか、気になって仕方ないでしょうから、先生が教えて差し上げます。先生は、ちょっとした縁があって、何度か二人に会って、お話をしたことがあります。交換日記も、読ませてもらったことがありますから、ちゃんと覚えているのですよ。例えば、こんなことを交換日記でお話していました。

「お姉様、私、人間が羨ましいわ。夏は、暑くって寝られやしないもの。そう思いませんか?」
「ものは考えようね。例えば冬は、暖かくって寝やすいでしょう?それに夏は、夜のほうが過ごしやすいのだから、人間からすると、吸血鬼のほうが羨ましいかも知れないわよ?」

 吸血鬼は、夜行性ですから、夏はとっても寝苦しくって、冬はちょっぴり、寝易いのですね。

「人間の子供はちょっとおかしなところがあるわ。だって、雨の中、傘を差して、長靴を履いて、泥まみれになって喜ぶらしいの。どうしてかしら?」
「ちょっとわからないわね。確かに、人間は、雨に濡れても平気だけれども、泥で汚れては、気持が悪いだろうに。私も不思議に思ったから、うちの賢者に聞いてみたら、『人間にとって、旱魃はとても恐ろしい現象で、雨乞いの儀式をするくらいだから、雨とはそれほどに有り難いものなのよ。』ですって。なるほどねぇ。」

 どうやら吸血鬼には、泥んこで遊ぶ楽しさがわからないみたいですね。「うちの賢者」は、魔女さんのことです。魔女さんは、物知りですけれども、こんな調子で、ちょっとずれたことを言うのが常でした。

「お姉様、門番が今日も人間を追い払っていましたよ!毎日毎日、追い払われても諦めない人間は、何てバカなんでしょうか?やっぱり、私達が、支配してあげなくっちゃダメね!」
「あら、でも、馬鹿ほど怖いものはないのよ?だって、諦めないのですもの。」

 当時、紅魔館には門番のお姉さんがいて、毎日その人に、武術を教えてもらっている、男の人がいたのです。どうやら、紅魔館の偉い人には、それが分かっていなかったようですね。

「冬の朝はちょっと残念。だって、太陽が湖を、夜明け色にぼうっと照らして、とっても幻想的で、素敵なのに、ずっと見てはいられないのですもの!でも、あの憎らしい太陽も、冬の黄昏だけは、私、嫌いじゃないの!」
「そうね。私も、黄昏だけは、嫌いじゃないかも知れない。美しいものは、何であっても、憎みがたいものよ。」

 吸血鬼は、もしかすると、私達人間より、もっとロマンチックなのかも知れませんね。

 こういった感じで、毎日毎日、姉妹は交換日記でお話していたのです。さて、最後に、お姉さんは、とてもとても、良いことを仰っておられましたから、それを紹介しましょう。

「お姉様は、どうしてそんなに凛としていらっしゃるの?」
「それは信念があるからよ。信念がある者は、決して迷わない。そして、決して絶望しないわ。だから信念がある者は、闇夜の中でも、盲目にはならないわ。」
童話とは、童心を題材にした文学作品であると、ある童話作家は言っています。
出来るだけ、童心を捉えたつもりですが、どうでしょうか?
しかし、『赤い宮殿』は、起承転結の、各場面で、丁度きりが良いから区切ってアップしようと考えたのですが、そうすると、場面場面で別々になって、読み難いわけですね。
その1を削除して、一緒にしたのを別にアップしたほうがいいのでしょうか?
このあたり、知恵をお借りしたいのです。
雲井唯縁
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コメント



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6.無評価名前が無い程度の能力削除
この分量なら完結してから投稿されたほうがよかろうと、すくなくとも僕は思いますよ。