Coolier - 新生・東方創想話

水と空と夜と

2011/02/04 19:05:50
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水と空と夜と

 冬の銀河は久しく蒼茫。夜空の青なるふしぎ、青白き星の数々、月の光の玲瓏。湖を覆いて隈無し。月星、矢の如き静寂の光を水面に浮かばせ遊ぶ。水と空と夜との世界をまなでるのは、日の光を受けてなお月を思わす絶世の美女。
 水辺の石に腰掛、水面に映るかげを見ながら、傍らに立つ少女に、
「貴方も、座ってはどう?」
 と語りかける。
 少女は月の光を受けると雖も、なお陽の光を失わず、月に従うを潔しとしなかった。美女が、「流石に寒いでしょう。」と促すように言うのだが、それでも従容としない。「火を灯せば良いことでしょう」と、つれなく返すのだった。
「雅に欠くこと」と美女は返し、「二度、まるで同じ風景を見ることは出来ないでしょうに」と、今度は少し、挑戦的に言う。
 少女とて、高貴な身分の出である。このように言われておきながら、積年の恨みから一夜の雅を軽んじることがあっては恥となる。止むを得ず美女の横に座る。
(しかし、積年の恨みがあると言っても、果たしてそれはなお、今も私の胸を焦がし続けるものであるかどうか……)

 並び座して暫しの時が流れる。お互いに言葉はない。少女は、何事かを考えているようだ。美女は、それを察して、あえて言葉を紡ぐことはせず、自然の機が訪れるのを待つのだった。
 やや雲が流れ、湖畔を照らす星の光が一層鮮明になる。青白く差し込むその光は、はっきりと筋になって見て取れる。そうして、美女は優しく語り掛けた。
「見て御覧なさい。魚が泳いでいるわ」
「そうだね」
「星の光を避けて泳いでいるように見えるわね」
「そう見えなくもないわ」
「何故あんなに、意固地になるのかしら」
「……さあね」
「水と空が一つになることを潔しとはしないのかしらね」
「そうかもしれないわね」
 そうして、言葉は途切れる。そぞろに思い起こされる過去。それは、すっかり過去なのか。それとも、未だ過去とはなっていないのか。少女にとって、それはよく分からないことだった。過去の様な気もするが、まだ過去となりきっていない気もする。一方で美女にとって、それはまだ過去にはなっていなかった。いや、正確には、過去になっていたのだけれども、最近、過去であってよいものかと思い始めたのだ。そう自分が考えていることに気がついたとき、美女はもう、過去が過去ではなくなっていることに気がついた。それがわかると、後はただ、機会を待つだけであった。そうしてこの日、その機会は訪れたのであった。
 美女、優美に語りかけることには、
「ねぇ、貴方。まだ、私のことを怨みに思っているのかしら?」
 しばし、少女は言葉に悩む。そうして、言葉を決する。ただ、多少の勇気に欠く。水面を伺うこと暫し、魚の星に重なるを見る。
「言うほど、嫌ってはいないよ」
 梢、風に吹かれてざわめくこと多少。声を沈めて、来る静寂は一層。
「少し、寒いわね」
「そうだな」
 そうして、少女は、少し体を美女に預ける。美女もまた、それに応える。
「すっかり冷たいわ」
 そうして手を握り、優しくさすってやるのであった。
以前、「詩の様な小説」を書いて見ようと思って作ったものなのですが、知り合いに感想を求めると、「わからなくって困る」でした。「う~ん、そっか。あんまり向いてないかな」と思って、それっきりなのですが、どうでしょうか?率直なご意見を頂けると、有り難いです。
雲井唯縁
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コメント



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4.無評価名前が無い程度の能力削除
この量ならジェネリックの方が…
9.60名前が無い程度の能力削除
言葉遣いは綺麗で好きな感じ、でも、どっちがどっちかわかりにくかった。
10.90名前が無い程度の能力削除
文章はたいへんに綺麗ですし、雰囲気にも引き込まれました。
正直に言うと大好きな作品なんですが、展開に起伏が少ないという印象もあります。
それが作者さんの仰る「詩の様な小説」であるのなら、
そういう作風なのだろうとも納得できるのですが、まずは個人的な感想を。
11.無評価雲井唯縁削除
コメント有難う御座います。

>言葉遣いは綺麗で好きな感じ、でも、どっちがどっちかわかりにくかった。

確かにどっちがどっちかわかり難いですね。なんというか、煌びやかな詩的雰囲気を目指しすぎて、ごっちゃごっちゃになっている感じが、自分でもします。やりすぎちゃったかなぁ。

>展開に起伏が少ないという印象もあります。それが作者さんの仰る「詩の様な小説」であるのなら、そういう作風なのだろうとも納得できるのですが

コメント有難う御座います。好きだといってもらえて嬉しい限りです。
起伏の少なさですか。これは、詩がどうかと言うよりは、自分の作風ですね。
「詩を詠む」とはどういうことでしょうか?
詩というのは、日常で起こる、心の変化を綴ったものだと思います。或いは、心に何か響くものがあった、それを綴るものです。詠むと言うのは、言葉を永くすることで、余韻を持たせて人の心に響かせる、或いは、永遠の価値を与えるものだと思います。自分は出来るだけ、物語を作るときは平凡な主人公を描きたいと思っていますが、それはそういった平凡な人の心を詠むことにこそ、普遍的な価値があると思うからです。そういった普遍的な価値を持つ心のありようこそが、純粋素朴な人間の心であって、それを捉えると言うのが、自分の創作の在り方なのです。
ですから、話の起伏が無いのは、これは自分の作風ですね。なんというか、起伏をや世界観で、読者をあっと驚かす小説が多いように思いますが、そうじゃなくって、もっと目指すべき大切なこころは、ここにあるんだということを、知ってほしいなぁっと言うのが、自分の創作上のテーマなんです。