白く化粧をした妖怪の山から冷たい雪の花が舞い落ちてきた。霧の湖の上で遊んでいた大妖精はその花をそっと掌に乗せた。
冷たくてすぐに形のなくなった花は数を増やして紅の屋敷に湖に里に降っていた。
「冷たくなったと思ったら、もうそんな季節なんだね」
はぁあ。と白い息をした大妖精は空を見上げていた。どこかで湖を凍らせて遊んでいる友達の妖精は、どんな気持ちでこの白い花をみてるんだろう。
もう一度、花を掌に乗せた。
里に雪が積もるのはあっという間だった。
森の緑も土色の道も白く化粧をしていた。大好きだった花畑もきっと白くなっているだろう。
大妖精はようやく見つけた地面から生える花を持って、湖の畔に生えてある木の中にはいった。そこには、清楚で遊び道具のあまりない妖精にしては変わっている部屋があった。
一人用の小さな机の上には三角フラスコの花瓶が置かれていて、その花瓶にさっき摘んできた花を一輪さした。
「……チルノちゃん。いなかったね」
窓の外では、いまだに雪が降り続いていた。あの氷精はきっと楽しそうに飛び回っているのだろうなと大妖精は思った。
寒さが苦手なはずの妖精なのに、その寒さから生まれた妖精はこんな日でも元気で遊んでいる。防寒をすれば普通の妖精でも大丈夫だけど、好んで外で遊ぼうとは思わない。
頬杖をついて外をみる。
支えている腕が痛くなってすぐにやめた。
草木が芽吹く春が待ち遠しい。虫たちと戯れる夏が待ち遠しい。食べ物が美味しい過ぎた秋が待ち遠しい。
「冬……は……。楽しそうに遊んでいるチルノちゃんの姿が待ち遠しいな」
草木が眠るこの季節なのに、動物も妖精も活動を眠るこの季節なのに、あの娘はきっと一人で遊んでいるんだろう。
「しょうがないなぁ。もう……」
大妖精はコートとマフラーを手にとって雪の降り続く外へと飛び出した。
息は白く。楽しそうな顔で、幻想郷の空へと。
博麗神社の屋根の上でチルノは雪が降り注ぐ空を見上げていた。
蛙を凍らせて遊ぼうにも冬眠していないし、湖を凍らせて遊ぼうにもすでに凍り始めていた。もうすぐ来るはずのレティもまだあっていない。一人じゃつまらなかった。
「ああもう。雪が降ってるじゃない」
神社の巫女は襖を開いて叫んでいた。
あたいがこんなに過ごしやすいんだから、降るにきまってるじゃん。とチルノは思ったがそんなことがいう気にはならない。巫女をからかってもあまり楽しくからだ、一人で遊んでも楽しくないからだ。
「ストーブっと、どこに置いたかしらね。蔵にあるのなら悲惨ね、魔理沙も今日は来ないだろうし一人でやるしかないか」
巫女は襖を閉めた音がした。人間は寒さが苦手なんだなとチルノは考えながら空を見上げた。その時、近くに誰かが下りてきたいつもの魔女じゃなくて緑色の妖精。
「やっと見つけたよ。チルノちゃん、探したんだよ」
大妖精がマフラーとコートを着てそこにいた。
「どうしたの大妖精。こんなに寒いのに風邪を引いてもしらないよ」
「ふん。こんなのチルノちゃんの近くで遊ぶのと変わらないよ、辛くないのは嘘だけどね」
だったら帰ればいいのに、こんな日はあたいなんかと遊んでもつまらないに決まってるよ。チルノは屋根に積もった雪を丸く捏ねた。雪の玉になってゆっくりと大きくなる。
「チルノちゃん……わたしはチルノちゃんが一人で遊んでいると思ってきたの。一人じゃ面白くないのはわたしも同じだからね」
大妖精はチルノの隣りに座った。チルノと同じように屋根の雪で多いな玉を作る。
二人の雪玉は妖精の掌よりも大きくなっていた。大妖精の作った雪玉はチルノの雪玉よりも半分ほど小さく、可愛らしい形になった。
「チルノちゃん……雪だるま作ろうか?」
「う、うん」
博麗神社の屋根の上に可愛らしい雪だるまが出来ていた。その隣りには長いマフラーに包んだ二人の妖精が背中を合わせて眠っていた。
「ねぇ、大妖精は何であたいなんかと遊んでるの」
「……わかんない。でも、わたしはチルノちゃんのこと好きだよ。大事な友達なんだから」
白い吐息を吐きながら、チルノは「あ、あたいも」と聴こえないようにいった。大妖精も気付かれないようにコクンと頷いた。
それから一晩雪が降り続いた。
大妖精が住んでいる木の枝から雪の塊が落ち、ドサっと大きな音で目を覚ました。
窓の外は白銀の世界が広がり、昨夜の豪雪で霧の湖は白い平原へと変わっていた。
どこからが水面なのかわからなかった。
「チルノちゃんは大丈夫なのかな」
大妖精はチルノの家がある湖の方を見た。白い鎌倉は積もった雪のおかげで見つけることが出来なかった。
(きっと埋まってるのね。チルノちゃんは本当にバカなんだから……しょうがないな)
昨日と同じコートとマフラーを身につけて、雪かき用のスコップを担いだ。
チルノの家は紅い屋敷の正面、湖を挟んだ向こう側に隠されている。家を作るのが苦手なチルノの家は人間でも容易で見つけることが出来る。
大妖精は少し飛ぶとチルノの鎌倉の屋根を見つけた。出入り口は、やっぱり雪に埋もれていた。掘り返した様子がないことからまだ中で眠っているのだろう。
大妖精は鎌倉の上からノックをした。
「チルノちゃん。大丈夫……起きてる……」
すると中から暢気な感じのノック返ってきた。
「その声は大妖精、これすごいよ。起きたら、あたいの出口が埋まった」
「見てれば解るよ。家からスコップ持って来たから、わたしは外から掘るね。チルノちゃんは中から掘ってよ」
「わかった。あたいも頑張るよ」
冬の訪れと共にレティは霧の湖みやってきた。姉妹のような付き合いをしているチルノに会いにきたのだ。
「たしかこのあたりよね」
白い平原の向こうに紅い屋敷が建ってるところを見るとここが湖であったことがわかるのだが、どれだけ飛んでもチルノの鎌倉が見つからなかった。すると、遠くで雪を掘っている妖精の姿があった。
「あなた、チルノの友達の大妖精よね」
大妖精はレティの姿を見つけるとやっと来た。と雪の上にへたり込んだ。
「どうしたの?チルノはどこに居るかな。会いに来たんだけど」
「よかったです。ああ、チルノちゃんは……」
大妖精は座っている鎌倉の屋根を指を指し、状況を説明をした。レティは呆れた顔で「なる程ね、後は私に任せて」と大妖精からスコップを受け取った。
「あの子は相変わらずね、安心したわ」
「そうなんですよ。チルノちゃんはバカだから、まぁそこが好きなんですけどね」
妖精と違って体の大きなレティは、倍よりも早く雪を掘り返していった。大妖精は鎌倉のやっと覗けるようになった入り口から中を見ると、そこには何故かチルノの姿がなかった。
「レティさん。チルノちゃんが居ないですよ」
「ん?ここにいるのよね」
「そのはずですけど……あ!!」
あまり広くない鎌倉の奥にもう一つの穴があった。まさか……と大妖精はその穴に向って呼びかけた。
その穴は鎌倉の側面から下に掘り進められていて、誰かがまだ掘っているような音がした。絶対にチルノちゃんだ。
「チルノちゃん。チルノちゃーん。何をしているの」
穴の奥からチルノの声で「穴を掘っているんだよ」と返ってきた。
確かにわたしはチルノちゃんに「中から掘ってよ」と言ったけど、こんな穴を掘るなんて信じられなかった。どうりでいくら掘ってもチルノちゃんの声がしないわけだ。
「レティさん。わたしチルノちゃんを連れてきますね」
「本当にしょうがない子ね、お願い」
「……はい」
そして、数分ご泥だらけのチルノと大妖精が鎌倉から出てきた。外ではレティが濡れたタオルを二人にわたした。
無邪気な顔のチルノに大妖精は胸を撫で下ろした。
「大妖精にレティ、あたいどうなるかと思ったよ。いくら掘っても、外に出られないんだもん」
「はぁ、チルノちゃん当たり前だよ。上じゃなくて下に掘ってたんだよ。もうすぐ湖に出ていたし」
「チルノは穴掘りの才能がありそうね。さてと、チルノの顔も見たしそろそろ里にもいこうかな」
レティはチルノと大妖精に手を振って里の方へと飛んでいった。
「待ってよレティ。あたいもいくよ」
チルノもレティの後を飛んだ。少し飛んで大妖精に振り返った。
「じゃあね、大妖精。あたい、レティと遊んでくるよ」
「え……う、うん。じゃあね」
レティと一緒にいるチルノの顔がわたしと遊んでいるときよりも明るく楽しそうに見えた。
大妖精は胸の奥が少し痛くなるのを感じた。(それでも、わたしはチルノちゃんの友達だよ)と言いきかせるしかなかった。
(毎年のことだもんね。一年の内で少ししか遊べないレティさんにやっと会えたんだから、チルノちゃんは嬉しいよね)
(でも、なんだろう。胸の奥が少し痛くなってきた……わたし風邪でも引いたのかな)
(チルノちゃん。助かってよかったなぁ、楽しそうでよかったなぁ)
大妖精は二人の姿が見えなくなると、スコップを持って家へと帰った。
チルノが掘った穴の奥。春の花が一輪氷漬けで置かれていた……大妖精の好きな花だった。この花を見つからないように穴を掘ったことは大妖精もレティも知らなかった。
季節は巡り春の風が吹く頃この花は溶けてなくなった。そのことはチルノも覚えていなかった。
レティさんは暖かな春が来る前にわたし達の前から居なくなった。チルノちゃんは毎年寂しそうな顔で北の空を見ていた。わたしはそんなチルノちゃんの背中を優しく抱きしめた。
「いっちゃったな……レティ」
「そうだね。チルノちゃんはやっぱり寂しいの」
「あたいバカだから、わかんない。次の雪が降ったらまた会えるから寂しくないとおもう。それに」
春の息吹が風に乗って大妖精とチルノのスカートと髪をなびかせた。
(春ですよー)と白い妖精が視界の端を横切った。
「あっ。リリーさんが春を運んでいるよ。本当に春が来たんだね」
霧の湖が見える小高い丘に雪の下で眠っていた花が一面に咲いた。
二人の妖精は肩を寄せ合うようにして野原に置かれた岩を背にして座っていた。春の陽気にチルノは眠り、大妖精は花を摘んで何かを編んでいた。色とりどりの花を編みこんだ花の冠は小さな妖精の頭にちょうどいい大きさだった。
「チルノちゃん……これあげる」
眠っているチルノの頭の上に花の冠をそっとかぶせた。チルノは冠を落とさないように寝返りをうつ。
「もう、チルノちゃんは寝てばっかりだね。これからも友達でいようね」
大妖精はふっくらとした頬にキスをした。チルノは顔を赤くして必死にごまかした。
春の陽気が降注ぐ野原の上でチルノの隣りで大妖精も眠った。
遠くでリリーホワイトの声がした。
――春ですよ。と……
冷たくてすぐに形のなくなった花は数を増やして紅の屋敷に湖に里に降っていた。
「冷たくなったと思ったら、もうそんな季節なんだね」
はぁあ。と白い息をした大妖精は空を見上げていた。どこかで湖を凍らせて遊んでいる友達の妖精は、どんな気持ちでこの白い花をみてるんだろう。
もう一度、花を掌に乗せた。
里に雪が積もるのはあっという間だった。
森の緑も土色の道も白く化粧をしていた。大好きだった花畑もきっと白くなっているだろう。
大妖精はようやく見つけた地面から生える花を持って、湖の畔に生えてある木の中にはいった。そこには、清楚で遊び道具のあまりない妖精にしては変わっている部屋があった。
一人用の小さな机の上には三角フラスコの花瓶が置かれていて、その花瓶にさっき摘んできた花を一輪さした。
「……チルノちゃん。いなかったね」
窓の外では、いまだに雪が降り続いていた。あの氷精はきっと楽しそうに飛び回っているのだろうなと大妖精は思った。
寒さが苦手なはずの妖精なのに、その寒さから生まれた妖精はこんな日でも元気で遊んでいる。防寒をすれば普通の妖精でも大丈夫だけど、好んで外で遊ぼうとは思わない。
頬杖をついて外をみる。
支えている腕が痛くなってすぐにやめた。
草木が芽吹く春が待ち遠しい。虫たちと戯れる夏が待ち遠しい。食べ物が美味しい過ぎた秋が待ち遠しい。
「冬……は……。楽しそうに遊んでいるチルノちゃんの姿が待ち遠しいな」
草木が眠るこの季節なのに、動物も妖精も活動を眠るこの季節なのに、あの娘はきっと一人で遊んでいるんだろう。
「しょうがないなぁ。もう……」
大妖精はコートとマフラーを手にとって雪の降り続く外へと飛び出した。
息は白く。楽しそうな顔で、幻想郷の空へと。
博麗神社の屋根の上でチルノは雪が降り注ぐ空を見上げていた。
蛙を凍らせて遊ぼうにも冬眠していないし、湖を凍らせて遊ぼうにもすでに凍り始めていた。もうすぐ来るはずのレティもまだあっていない。一人じゃつまらなかった。
「ああもう。雪が降ってるじゃない」
神社の巫女は襖を開いて叫んでいた。
あたいがこんなに過ごしやすいんだから、降るにきまってるじゃん。とチルノは思ったがそんなことがいう気にはならない。巫女をからかってもあまり楽しくからだ、一人で遊んでも楽しくないからだ。
「ストーブっと、どこに置いたかしらね。蔵にあるのなら悲惨ね、魔理沙も今日は来ないだろうし一人でやるしかないか」
巫女は襖を閉めた音がした。人間は寒さが苦手なんだなとチルノは考えながら空を見上げた。その時、近くに誰かが下りてきたいつもの魔女じゃなくて緑色の妖精。
「やっと見つけたよ。チルノちゃん、探したんだよ」
大妖精がマフラーとコートを着てそこにいた。
「どうしたの大妖精。こんなに寒いのに風邪を引いてもしらないよ」
「ふん。こんなのチルノちゃんの近くで遊ぶのと変わらないよ、辛くないのは嘘だけどね」
だったら帰ればいいのに、こんな日はあたいなんかと遊んでもつまらないに決まってるよ。チルノは屋根に積もった雪を丸く捏ねた。雪の玉になってゆっくりと大きくなる。
「チルノちゃん……わたしはチルノちゃんが一人で遊んでいると思ってきたの。一人じゃ面白くないのはわたしも同じだからね」
大妖精はチルノの隣りに座った。チルノと同じように屋根の雪で多いな玉を作る。
二人の雪玉は妖精の掌よりも大きくなっていた。大妖精の作った雪玉はチルノの雪玉よりも半分ほど小さく、可愛らしい形になった。
「チルノちゃん……雪だるま作ろうか?」
「う、うん」
博麗神社の屋根の上に可愛らしい雪だるまが出来ていた。その隣りには長いマフラーに包んだ二人の妖精が背中を合わせて眠っていた。
「ねぇ、大妖精は何であたいなんかと遊んでるの」
「……わかんない。でも、わたしはチルノちゃんのこと好きだよ。大事な友達なんだから」
白い吐息を吐きながら、チルノは「あ、あたいも」と聴こえないようにいった。大妖精も気付かれないようにコクンと頷いた。
それから一晩雪が降り続いた。
大妖精が住んでいる木の枝から雪の塊が落ち、ドサっと大きな音で目を覚ました。
窓の外は白銀の世界が広がり、昨夜の豪雪で霧の湖は白い平原へと変わっていた。
どこからが水面なのかわからなかった。
「チルノちゃんは大丈夫なのかな」
大妖精はチルノの家がある湖の方を見た。白い鎌倉は積もった雪のおかげで見つけることが出来なかった。
(きっと埋まってるのね。チルノちゃんは本当にバカなんだから……しょうがないな)
昨日と同じコートとマフラーを身につけて、雪かき用のスコップを担いだ。
チルノの家は紅い屋敷の正面、湖を挟んだ向こう側に隠されている。家を作るのが苦手なチルノの家は人間でも容易で見つけることが出来る。
大妖精は少し飛ぶとチルノの鎌倉の屋根を見つけた。出入り口は、やっぱり雪に埋もれていた。掘り返した様子がないことからまだ中で眠っているのだろう。
大妖精は鎌倉の上からノックをした。
「チルノちゃん。大丈夫……起きてる……」
すると中から暢気な感じのノック返ってきた。
「その声は大妖精、これすごいよ。起きたら、あたいの出口が埋まった」
「見てれば解るよ。家からスコップ持って来たから、わたしは外から掘るね。チルノちゃんは中から掘ってよ」
「わかった。あたいも頑張るよ」
冬の訪れと共にレティは霧の湖みやってきた。姉妹のような付き合いをしているチルノに会いにきたのだ。
「たしかこのあたりよね」
白い平原の向こうに紅い屋敷が建ってるところを見るとここが湖であったことがわかるのだが、どれだけ飛んでもチルノの鎌倉が見つからなかった。すると、遠くで雪を掘っている妖精の姿があった。
「あなた、チルノの友達の大妖精よね」
大妖精はレティの姿を見つけるとやっと来た。と雪の上にへたり込んだ。
「どうしたの?チルノはどこに居るかな。会いに来たんだけど」
「よかったです。ああ、チルノちゃんは……」
大妖精は座っている鎌倉の屋根を指を指し、状況を説明をした。レティは呆れた顔で「なる程ね、後は私に任せて」と大妖精からスコップを受け取った。
「あの子は相変わらずね、安心したわ」
「そうなんですよ。チルノちゃんはバカだから、まぁそこが好きなんですけどね」
妖精と違って体の大きなレティは、倍よりも早く雪を掘り返していった。大妖精は鎌倉のやっと覗けるようになった入り口から中を見ると、そこには何故かチルノの姿がなかった。
「レティさん。チルノちゃんが居ないですよ」
「ん?ここにいるのよね」
「そのはずですけど……あ!!」
あまり広くない鎌倉の奥にもう一つの穴があった。まさか……と大妖精はその穴に向って呼びかけた。
その穴は鎌倉の側面から下に掘り進められていて、誰かがまだ掘っているような音がした。絶対にチルノちゃんだ。
「チルノちゃん。チルノちゃーん。何をしているの」
穴の奥からチルノの声で「穴を掘っているんだよ」と返ってきた。
確かにわたしはチルノちゃんに「中から掘ってよ」と言ったけど、こんな穴を掘るなんて信じられなかった。どうりでいくら掘ってもチルノちゃんの声がしないわけだ。
「レティさん。わたしチルノちゃんを連れてきますね」
「本当にしょうがない子ね、お願い」
「……はい」
そして、数分ご泥だらけのチルノと大妖精が鎌倉から出てきた。外ではレティが濡れたタオルを二人にわたした。
無邪気な顔のチルノに大妖精は胸を撫で下ろした。
「大妖精にレティ、あたいどうなるかと思ったよ。いくら掘っても、外に出られないんだもん」
「はぁ、チルノちゃん当たり前だよ。上じゃなくて下に掘ってたんだよ。もうすぐ湖に出ていたし」
「チルノは穴掘りの才能がありそうね。さてと、チルノの顔も見たしそろそろ里にもいこうかな」
レティはチルノと大妖精に手を振って里の方へと飛んでいった。
「待ってよレティ。あたいもいくよ」
チルノもレティの後を飛んだ。少し飛んで大妖精に振り返った。
「じゃあね、大妖精。あたい、レティと遊んでくるよ」
「え……う、うん。じゃあね」
レティと一緒にいるチルノの顔がわたしと遊んでいるときよりも明るく楽しそうに見えた。
大妖精は胸の奥が少し痛くなるのを感じた。(それでも、わたしはチルノちゃんの友達だよ)と言いきかせるしかなかった。
(毎年のことだもんね。一年の内で少ししか遊べないレティさんにやっと会えたんだから、チルノちゃんは嬉しいよね)
(でも、なんだろう。胸の奥が少し痛くなってきた……わたし風邪でも引いたのかな)
(チルノちゃん。助かってよかったなぁ、楽しそうでよかったなぁ)
大妖精は二人の姿が見えなくなると、スコップを持って家へと帰った。
チルノが掘った穴の奥。春の花が一輪氷漬けで置かれていた……大妖精の好きな花だった。この花を見つからないように穴を掘ったことは大妖精もレティも知らなかった。
季節は巡り春の風が吹く頃この花は溶けてなくなった。そのことはチルノも覚えていなかった。
レティさんは暖かな春が来る前にわたし達の前から居なくなった。チルノちゃんは毎年寂しそうな顔で北の空を見ていた。わたしはそんなチルノちゃんの背中を優しく抱きしめた。
「いっちゃったな……レティ」
「そうだね。チルノちゃんはやっぱり寂しいの」
「あたいバカだから、わかんない。次の雪が降ったらまた会えるから寂しくないとおもう。それに」
春の息吹が風に乗って大妖精とチルノのスカートと髪をなびかせた。
(春ですよー)と白い妖精が視界の端を横切った。
「あっ。リリーさんが春を運んでいるよ。本当に春が来たんだね」
霧の湖が見える小高い丘に雪の下で眠っていた花が一面に咲いた。
二人の妖精は肩を寄せ合うようにして野原に置かれた岩を背にして座っていた。春の陽気にチルノは眠り、大妖精は花を摘んで何かを編んでいた。色とりどりの花を編みこんだ花の冠は小さな妖精の頭にちょうどいい大きさだった。
「チルノちゃん……これあげる」
眠っているチルノの頭の上に花の冠をそっとかぶせた。チルノは冠を落とさないように寝返りをうつ。
「もう、チルノちゃんは寝てばっかりだね。これからも友達でいようね」
大妖精はふっくらとした頬にキスをした。チルノは顔を赤くして必死にごまかした。
春の陽気が降注ぐ野原の上でチルノの隣りで大妖精も眠った。
遠くでリリーホワイトの声がした。
――春ですよ。と……
「チルノは穴掘りの才能がありそうね。さてと、チルノの顔も見たしそろそろ里にもいこうかな」
に違和感を感じました。
おそらく、チルノに何か才能がある、と言ったのだからチルノは何かしらの反応を示すはずだ、と思ったんですね。
自分は小説を書いた経験はありませんが、こういう小さな所を埋めていくと、より味のある作品になると思います。
かまくらはひらがながいいと思いますよ
雰囲気はとても素敵。終わりゆく冬の寂しさと、春の予感を感じさせるいいSSでした。