外の人間に忘れ去られたら、私達はどこに行くんだろう?
小傘は山の中を歩いていた。ポツポツと降り出した雨雫を紫色の傘に受けながら、何が在るのかわからない道の無い道を進んでいた。身体中に草や枝で引っかいた傷が無数に付けられていた。
「……」
この奥にいったい何が在るんだろう?
誰かに呼ばれているような気がしてならなかった。懐かしいような空気が小傘のまわりに漂い始めていた。
何か――行ってはならない場所。それでも、行かなければならない場所。
森を貫けるとただ広い場所に出た。何も無いけれど、どんよりとした場所だった。
「……私を呼んだのは誰?どこに居るの?」
<こんばんは、捨てられた傘さん>
声がした方向へ小傘が目を凝らすとそこには、山のように積み上げられたゴミがあった。
テレビ。冷蔵庫。大きな机に箪笥。様々な物がそこに打ち捨てれていた。
小傘はそのゴミの山の下まで走った。
「私を呼んだのは・・・・・・」
<あなたを呼んだのはわたしよ>
小傘の目の前に置かれたテレビの電源がついた。そこに、ボヤッと人間のような顔が浮かび上がった。顔立ちがはっきりとした女の人。
いきなり声を掛けられた小傘はドキリと心の中で飛び跳ねた。
「なんなの。あなたは何?」
<わたしがなんなのかだって。それはわたしにもわからないな、捨てれた傘さんは自分がなんなのかわかってるの>
小傘はテレビに映った女の人に向って左右に首を振った。
「こ、こんばんは私は小傘と言います。あなたは」
<こんばんは小傘さん。わたしは&’%$’と言うの>
小傘は目を見開いた。名前が聞き取れなかった。頭の中にたくさんの疑問符が現れては消えていった。
<やっぱりね。聞き取れなっかでしょう。ここはそういう場所なのよ……わたしの名前はもう無くなったのよ>
「無くなった!?どうしてですか」
<ここを管理するのに必要が無いからかな。ここはゴミたちの墓場だから>
「ゴミたち……墓場?」
<そうよ。いつかは消えてなくなってしまうゴミたちのね。でも、ここに来られるのは一部の選ばれたゴミだけなの。魂のこもった物たちだけ>
小傘はゴミの山を見た。そのゴミたちはゆっくりと動いているようだった。魂のこもったゴミたちが小傘をここに呼んだのだろう。
「私も呼ばれたのかな。あのう、そろそろ私帰りたいんだけど」
<ああ、それは無理よ>
「無理ってどういうことですか?」
<ここはゴミたちの楽園なの。小傘さんも過ごしやすいでしょう>
「……ぜ、全然。わ、私は帰ります」
小傘は後に向って走った。しかし、帰り道がどうしても思い出せなかった。どこを通ってきたのか、どこに行ったらいいのか。
何もわからない……少しずつ帰りたい場所が消えていくような気がしていた。
身体を抱えて蹲った。冷や汗なのか脂汗なのか、わからない汗が身体中から溢れ出していた。
お寺も里も友達も何もかも、忘れていく事が何よりも恐かった。
「さ、早苗。ぬえちゃん……白蓮……ナズ……」
みんな消えていくの?私を残して消えていくの?なんで。
<無駄な抵抗はやめなさいな。捨てれた傘さん。あなた自分の名前は思い出せる?>
自分の名前?思い出せるに決まっ――て。
「えっ!!嘘だ」
なんだっけ。私の名前ってなんだっけ。そういえば黒い友達も緑の巫女も誰だっけ。
小傘は崩れていった。精神が跡形も無い程に。
「なんだっけ……」
<全てを忘れなさい。大丈夫だから、ここはあなたの仲間が沢山いるわ>
小傘はわけもわからないまま涙を流していた。
「つまらないわね。本当につまらないわ」
その時、小傘を包むように光のカーテンが降りてきた。温かい光に小傘は空を見上げた。
<私の可愛い傘に何をするつもりなの?>
「だ、誰?」
「私は正義の味方かな」
ゴミの山を見下ろすように空に出来た隙間に座っている女性がそこにいた。
<あらあら、これは久しいですわね。ゴミたちはわたしの領分のはずですよ、隙間妖怪>
「そうだったかしら。でも、この娘はもう妖怪よ」
<・・・・・・>
「あなたは、そんなにこの娘が欲しいのかしら。勝手に意思を縛り付けるような真似をしておいて、それは契約違反ではないかしら」
<ふぅ。そうですね。あきらめます>
「それが懸命。あなたが強行をするようならここの空間を消し去るつもりだったからね」
隙間妖怪は小傘の方を向いた。優しく頭に触れると耳元で何かを呟いた。
「多々良小傘。何も無かった。あなたはここで在ったことを全て忘れなさい……もうすぐ夜明け」
小傘は命蓮寺の部屋で目を覚ました。酷く疲れていた。
「変な夢を見たなぁ。そうだ、ぬえちゃんと早苗に会いに行こう」
小傘は飛び出した。ポケットから一枚の葉っぱが布団の上に落ちた。
小傘は山の中を歩いていた。ポツポツと降り出した雨雫を紫色の傘に受けながら、何が在るのかわからない道の無い道を進んでいた。身体中に草や枝で引っかいた傷が無数に付けられていた。
「……」
この奥にいったい何が在るんだろう?
誰かに呼ばれているような気がしてならなかった。懐かしいような空気が小傘のまわりに漂い始めていた。
何か――行ってはならない場所。それでも、行かなければならない場所。
森を貫けるとただ広い場所に出た。何も無いけれど、どんよりとした場所だった。
「……私を呼んだのは誰?どこに居るの?」
<こんばんは、捨てられた傘さん>
声がした方向へ小傘が目を凝らすとそこには、山のように積み上げられたゴミがあった。
テレビ。冷蔵庫。大きな机に箪笥。様々な物がそこに打ち捨てれていた。
小傘はそのゴミの山の下まで走った。
「私を呼んだのは・・・・・・」
<あなたを呼んだのはわたしよ>
小傘の目の前に置かれたテレビの電源がついた。そこに、ボヤッと人間のような顔が浮かび上がった。顔立ちがはっきりとした女の人。
いきなり声を掛けられた小傘はドキリと心の中で飛び跳ねた。
「なんなの。あなたは何?」
<わたしがなんなのかだって。それはわたしにもわからないな、捨てれた傘さんは自分がなんなのかわかってるの>
小傘はテレビに映った女の人に向って左右に首を振った。
「こ、こんばんは私は小傘と言います。あなたは」
<こんばんは小傘さん。わたしは&’%$’と言うの>
小傘は目を見開いた。名前が聞き取れなかった。頭の中にたくさんの疑問符が現れては消えていった。
<やっぱりね。聞き取れなっかでしょう。ここはそういう場所なのよ……わたしの名前はもう無くなったのよ>
「無くなった!?どうしてですか」
<ここを管理するのに必要が無いからかな。ここはゴミたちの墓場だから>
「ゴミたち……墓場?」
<そうよ。いつかは消えてなくなってしまうゴミたちのね。でも、ここに来られるのは一部の選ばれたゴミだけなの。魂のこもった物たちだけ>
小傘はゴミの山を見た。そのゴミたちはゆっくりと動いているようだった。魂のこもったゴミたちが小傘をここに呼んだのだろう。
「私も呼ばれたのかな。あのう、そろそろ私帰りたいんだけど」
<ああ、それは無理よ>
「無理ってどういうことですか?」
<ここはゴミたちの楽園なの。小傘さんも過ごしやすいでしょう>
「……ぜ、全然。わ、私は帰ります」
小傘は後に向って走った。しかし、帰り道がどうしても思い出せなかった。どこを通ってきたのか、どこに行ったらいいのか。
何もわからない……少しずつ帰りたい場所が消えていくような気がしていた。
身体を抱えて蹲った。冷や汗なのか脂汗なのか、わからない汗が身体中から溢れ出していた。
お寺も里も友達も何もかも、忘れていく事が何よりも恐かった。
「さ、早苗。ぬえちゃん……白蓮……ナズ……」
みんな消えていくの?私を残して消えていくの?なんで。
<無駄な抵抗はやめなさいな。捨てれた傘さん。あなた自分の名前は思い出せる?>
自分の名前?思い出せるに決まっ――て。
「えっ!!嘘だ」
なんだっけ。私の名前ってなんだっけ。そういえば黒い友達も緑の巫女も誰だっけ。
小傘は崩れていった。精神が跡形も無い程に。
「なんだっけ……」
<全てを忘れなさい。大丈夫だから、ここはあなたの仲間が沢山いるわ>
小傘はわけもわからないまま涙を流していた。
「つまらないわね。本当につまらないわ」
その時、小傘を包むように光のカーテンが降りてきた。温かい光に小傘は空を見上げた。
<私の可愛い傘に何をするつもりなの?>
「だ、誰?」
「私は正義の味方かな」
ゴミの山を見下ろすように空に出来た隙間に座っている女性がそこにいた。
<あらあら、これは久しいですわね。ゴミたちはわたしの領分のはずですよ、隙間妖怪>
「そうだったかしら。でも、この娘はもう妖怪よ」
<・・・・・・>
「あなたは、そんなにこの娘が欲しいのかしら。勝手に意思を縛り付けるような真似をしておいて、それは契約違反ではないかしら」
<ふぅ。そうですね。あきらめます>
「それが懸命。あなたが強行をするようならここの空間を消し去るつもりだったからね」
隙間妖怪は小傘の方を向いた。優しく頭に触れると耳元で何かを呟いた。
「多々良小傘。何も無かった。あなたはここで在ったことを全て忘れなさい……もうすぐ夜明け」
小傘は命蓮寺の部屋で目を覚ました。酷く疲れていた。
「変な夢を見たなぁ。そうだ、ぬえちゃんと早苗に会いに行こう」
小傘は飛び出した。ポケットから一枚の葉っぱが布団の上に落ちた。