光を感ずこと能わず、
もともと紫はその巨大な知性を、幻想郷の調停者として奮っていた。いま彼女は、五感を全て廃し、幻想郷そのものを処理する感情を持った計算装置として振舞っている。
どうしてこうなったのか。彼女の能力がその遠因である。
紫はありとあらゆるモノの境界の支配者である。すなわち、任意の境界を認識し、判別し、観測し、変更し、追加し、創造し、破壊することができる。ここで言う境界とは、「差異の主観的認識」を意味する。
たとえば、一個の饅頭があったとする。その饅頭を刃物で切り分けて、二つの饅頭に分けたとする。この饅頭をA,Bとしたときに、AとBに境界が生まれる。ここで重要なのは「切り分けた」という物理的行為ではなく、AとBという認識そのものである。いま、あなたが饅頭をAとBという概念で認識したのであれば、それはあなたがAとBという違い(=AとBの差異)を主観的に認識したということであり、それはまさに境界を意味する。
もっと言ってしまえば「切り分けた」という行為自体必要はなく、あなたが饅頭の色や模様を観察し、そこに二以上の概念的差異を認識すれば、それが境界となるのである。紫はこの境界を操れる。饅頭をAとBとCにできるし、Aのみにできるし、Dにもできる。また甲にとってはAとB、乙にとってはEとFということもできる。2011年1月30日の19:00から2011年1月30日の20:00までAとBと認識させ、それ以降はGとHという認識とさせるというような、時間を指定することもできる。空間もまたに指定できる。大雑把に言うとこんなところであり、これ以上詳細な説明は長くなるので省略する。
さて、この能力であるが、インターフェースが特徴的である――紫は境界を「隙間」という形で可視化し、それに対して能力を行使する。空間とその距離の境界に変更を加えて物質をワープさせる扉を作成する、という使い方は日常からよく行っていた。ある日紫は、今の幻想郷とは別の平行世界に存在する幻想郷への境界を作成した――それが今回の事の起こりである。
紫はその異質な幻想郷にたちまちのうちに取り込まれ、閉じこめられ、行動の自由を奪われた。
それを行ったのはその世界そのものであり、紫が脱出するためには世界そのものの境界に干渉する必要がある。世界は、その世界に存在する個人を含むことができる。ゆえにその世界の構造を熟知せずに境界を弄るのは紫そのものの存在を脅かす危険があった。
そこで、彼女は持ち前の頭脳により、まずは世界の構造を解析する行動を採った――世界が彼女に危険をもたらす可能性に対して常に警戒しておきながら。
そして現在に至る。紫は思考を張り巡らせている――
(この世界と、この世界に類似したいくつかの世界は……どこかまた別の世界から……概念を取得し……それを具体化して……物質を創り上げ、また創り変える。いま……「博麗霊夢」が変更された……いま「紅魔館」が変更された……いま『超人「聖白蓮」(L)』が変更された……いま「魂魄妖夢」が変更された……いま「西行妖」が……)
紫は直後、あることを察知する。
(この世界は……物語……はじまりがあって……それから連続したつづきがあって……最後に終わる……終わりが……いままさに収束しようとしている……統一された結論に向かって……)
その〇.〇〇〇七秒後に、一つの解が算出された。
(「西行妖」が……「開花」し……「全て」が……「死んでいく」……)
世界が大きく揺れ、そして定まった。
このような背景において、一連の物語は幕を開ける。
貴方のためにも
こういう文章は好きですので、書きあがるのを楽しみに待ってます
何も説明が無いのであれこれ邪推してしまいます。
本編希望。