Coolier - 新生・東方創想話

33kbゆかりん

2011/01/29 17:52:39
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 小高い丘に広がる、一面のひまわり。
そよぐ風に肌寒さを感じはじめるこの頃にあってなお、太陽の畑は真夏さながらにいっぱいの黄色をたたえている。
風を受けて、波のようにさざめくひまわりの小路を、一人の女性が歩いていた。
 「妖精相手に、マスパはちょっと大人気なかったかしら」
誰にでもなく呟いたのは、このひまわり畑の主、風見幽香。
お気に入りの日傘を手に、急ぐでもなく家路を進む。
ふと通り過ぎた影を視界にとめて、陽に目を細めて声をあげた。
 「あなた、私の家に何か用?」
「あぁこんにちわ。 ちょっと、リグルに用事があって」
「そう。 家はすぐそこだし、私も帰るところだから、一緒にどう?」
「はいはい」
 幽香の言葉に翼を畳み、ふわりと地上に降り立ったのは、ミスティアだった。
二人で並んで歩き、交わすのはとりとめもない駄弁り話。
当たり障りのない天気や商売の話は早々に切り上げて、ガールズトークに花を咲かせていく。
やれ誰が誰と付き合っただの、里や中原での流行りはどれそれだの、黄色い会話に歯止めはかかりそうになかった。

 「……あ。 そういえば、このひまわりって……」
「なにかしら?」
 さざめくひまわりのなか、ふと、呟きがこぼれた。
それを聞きとめてか、つられて幽香も足を止める。
 「や、このひまわりって、こんな時期なのに咲いてるから、なんか不思議で。
……やっぱり、何か特別な事をしてるのかなって」
「はずれ。 この辺りは日当たりもいいし、土もいい。 だから長く生きている、それだけなの。
この子たちは、ただのひまわりよ。 だから、遠からず枯れ落ちて、土に還るわ」
「それは、どうして? 力を使えば、それこそ一年中咲いてる花だって作れるんじゃないの?」
「それは無粋というものよ。 花は、あるがままに咲いているのが、一番綺麗なのよ」
 答える幽香の髪を、風が揺らす。
まるで、花のさざなみに誘われるように。
儚くも妖しげなその姿に見惚れたのか、言葉を失い立ち尽くす。
そんなミスティアに小さな笑みを投げかけて、優しく、そっと手を引いた。
「さ、家はもうすぐそこよ。 立ち話もいいけど、リグルが待ってるわ」


 _/ _/ _/ _/ _/ _/


 「ただいま」
「おじゃましまーす」
それぞれ言いながら、扉をくぐる。
二人の目に飛び込んできたのは、繕いかけの服を手に、テーブルに伏せるリグルの姿。
 「! リグ――――」
「しっ、大きな声出さないで」
大声を上げようとするミスティアを制して、静かにリグルに近付いていく。
近くで様子をみてみれば、リグルは小さな寝息を立てて、すやすやと眠っているだけだった。

 「あぁ、寝ちゃってるんだ」
「これだけ暖かいもの、無理もないわ。
ハチミツなら持っていっていいわよ、あとで言っておくから」
「んー、そんな急ぎじゃないから、起きるまで待つわ」
「あら、そう」
 それじゃあ、と続けた幽香に頷いて、向かい合うようにテーブルに伏せる。
二人揃ってリグルと同じ格好で、リグルの寝顔を覗きながら、昼寝の時間と決め込んだ。
穏やかな陽気のなか、うららかな昼下がりのひとときが過ぎていく。

 だがしかし。
その平穏は、あんまり長くは続かなかった。

 「こんにちわ奥さん事件です!」
元気な声とともに威勢良く扉を蹴破って、突如乱入する不審者A。
トレンチコートにハンチングの、いわゆる探偵ルックで堂々と不法侵入ぶっかまし、勢い余ってへち倒れた。
 「あたた……鼻、鼻打った……」
「何よあんたは!?」
 平和な時間をブチ壊されて、若干キレ気味に声をあげつつ身を起こす。
いまだにすやすや眠ったままのリグルは、果たして肝が据わっているのか、それとも単に鈍いのか。
ともあれ、勝手にティータイムを決め込みだした探偵コスの不審者――――紫を襟首ひっ掴み、玄関まで引きずり出した。
 「うちは不審者お断りよ、帰りなさい!」
「そんな、いきなり帰れなんてあんまりだわ!
私は探偵よ。 これは密室殺人……あーえーと、人じゃないか。 まあとにかく事件よ!」
「縁起でもないこと言わないでよ! リグルは寝てるだけ!
事件性なんかこれっぽっちもないわねハイ解決、でおしまいよ!」
「素人目にはそう見えるでしょうね。 でも、私の目に狂いはないわ!」
「い・い・か・ら、帰れー!」
 絶叫とともにぶん投げられて、紫の身体は宙を舞った。
空中で3回転半ひねりのウルトラCを決めつつ華麗に着地して、幽香の家へととって返す。
一方の幽香はというと、猛然と迫り来る紫を見てか、露骨に嫌な顔をして、いそいそ扉を閉めにかかる。
 「ふっ、甘いわね幽香! ライフセーバーごっこで鍛えられた私のジャンプ力を見くびらないでちょうだい!
とうっ! アルティメット・ゆかりん・ダイビング!」
叫んで飛び込みジャンプして。
ドアに身体を挟まれた。

 「……ねえ、扉引くのやめてもらえると、お姉さん嬉しいかなー」
「帰れって言ってるでしょ」
「ねーえーおーねーがーいーだーかーらー」
「だから帰れってばさぁ」
 呆れ顔でため息つきつつ、扉を引く手に力を込める。
扉を引いた時にムッチリって感触を感じたのは初めてだった、と、後に彼女は振り返ったそうな。
 「それじゃあこうしましょう。 もう一度ダッシュするから、仕切りなおしで行くわよ」
「……それで失敗したら帰んなさいよ?」
「オーケー、話のわかる子は好きよ。 それじゃあ、れっつていくつー!」
 微妙に情けない交渉の末、放り投げられたあと、着地位置からのリトライを勝ち取った。
それを勝ち取ったと言っていいのかどうかは心の棚にそっとしまって、仕切りなおしのもう一番。
放り投げられたあたりまでひた走り、幽香の家に向き直ると、すでに扉は閉まってた。

 「くっ、私をハメるとはやるじゃない……でも甘いわね幽香!
この私を誰だと思っているのかしら? うりゃっ、どこでもスキマー!」
 どっかの猫型ロボットみたいな口調で声をあげ、紫はスキマにダイブする。
ひょいっと飛び降りてみた先は、幽香の家の真上、高度300メートルくらいの上空だった。

 空中で、静止して。
下を見て、まばたき2回。
ぽん、と小さく手を叩き。
そのまま垂直ダイビング。
まことにアメリカンなフォールダウンでもって、幽香の家へとお邪魔したのでありました。

 「まあ結果よければすべてよし、今風に言えば結果オーライってやつね」
「どこがよ!?」
自分の空けた大穴をバックに、傷一つなく仁王立ち。
ギャグキャラはなんでもありだから便利よねって、ぱっちぇさんがゆってた。
 「さてと。 こうして家に入れたんだから、約束どおり私の探偵っぷりを思い知らせてあげるわね」
「待ちなさい、そんな約束してないでしょ」
「とゆーわけで大胆にカムヒアよ! 3つのしもべ、じゃなくて助手その1、その2!」
 幽香の抗議をスルーしつつ、声高に叫んで、何かメダルのようなものを空にかざしてみせる。
すると空の彼方から、ではなく近場に空いたスキマから、式とその式が落ちてきた。
 「あいたたた……、な、なんなんですか?」
「いきなり足元にスキマ開けるのやめてくださいよ、まったくもう」
口々に文句を言って、立ち上がりながらお尻をはたく。
片付けしてる最中なのに、と愚痴る藍の襟首を掴んだのは、疲れた顔の幽香だった。
 「ちょっと顔貸しなさい」
「どうした? 風見の」
「いいから」
 紫に背を向けさせて、耳打ち。
聞く気があろうがなかろうが、とにかく言わずにはいられない。
 「あんた、あいつの首へし折るとかして持って帰りなさい。
いきなり乱入していいように引っ掻き回されて、もう散々よ」
「いや、私もできるならとっととそうして帰りたいんだが、それをやるとあとが大変でなぁ……。
あのアホ、もとい紫様は、先日読んだ外の世界の推理小説にいたく感銘を受けたようでな。
『よーし次のヒマ潰しは探偵ごっこよ!』とか抜かして家を飛び出したと、こういうわけなのだ。
飽きるまでやらせてやれば、かえって一番被害が少なく済む。 付き合ってやってはくれまいか?
無論、紫様のはっちゃけに巻き込んでしまったことには、心から申し訳ないと思っている。 この通りだ」
「……あんたも大変なのね」
 深々と頭を下げる藍を見て取って、深い、深ーいため息をつく。
思えばやりたい放題し放題、はた迷惑と破天荒が服を着て歩いているような紫の、いわば保護者みたいなもんである。
日々どれほどの気苦労を背負わされているのか、想像するだに恐ろしい。
 「いいわ、あんたに免じて付き合ってあげる」
「すまん」
あきらめ半分、同情半分で渋々ながら承諾して、耳打ちしていた手を放す。
かくして、迷探偵・紫の推理劇は、ここに幕を開ける運びとなったのでありました。

 普通に考えれば、ものの5kbで解決できてしまうような、超簡単な事件。
それをなんとか33kbもたせる迷探偵、八雲紫。
 次々と繰り出される推理に、ガンガン増える一方の容疑者たち。
果たして、33kbの間に真犯人を見つけることができるのか、できないのか!?

 33kbゆかりん
ただいま、7kbです。


 _/ _/ _/ _/ _/ _/


 「う~~~ん……」
部屋をぐるりと見渡して、小さく唸る。
腕組みの格好であごに手を当て、そのまま数秒。
 「暑いわ」
何を言うかと思いきや、斜め上のコメントにコケる一同。
紫は紫で、今しがたまでかぶっていたハンチングを片手に、コートの襟元をぱたぱたさせる。
暑苦しい格好で暑がる姿を前にして、四者二様に心配したり、呆れたり。
 「そりゃ、まだ冬には遠いもの。 こんな時期にトレンチコートなんか着てたら暑いでしょ」
「そうねぇ……。 そうだ藍、ちょっと着替え取ってきてちょうだい。
ブレザーと蝶ネクタイと短パンと、あとハイソックスね」
「全身タイツでもかぶってろ」
比較的スレスレなリクエストをまるっと無視した呟きは、尻を蹴る音と短い悲鳴に上書きされたのでした。

 「まったく、ひとの言うこと聞かない式を持つと苦労するわね。
でも、こんなこともあろうかと思って、下に普段着を着てた私に隙はなかった」
「身も蓋もないですよね」
怪しさ満点のトレンチコートを放り投げて、ふぁさっと髪をなびかせる。
ちょっと汗臭かった。
 「とりあえずあれよ藍、着替えを持ってこなかったんだから脱ぎなさい」
「嫌ですよ。 なんなんですかいきなり」
「だってしょうがないじゃない、今は記号の時代よ? パッと見で食いつく要素がないと受けないのよ!
探偵が探偵ルックを脱いで普段着になっちゃったんだもの、助手にインパクトを求めるのが普通でしょう?
しがない私立探偵にだって、剣に変身する幽霊幼女が助手についてるこのご時世なんだから!」
「例えがマニアックすぎます!」
 藍の神速ツッコミに、眉をひそめて首をひねる。
幽香たちからこっちみんなと返されて、再び藍に向き直る。
 「バイクに変形する電人を相棒にしてる秘密刑事だっているんだからね!」
「もっとマニアックになってどうするんですか! それに古いし!」
「じゃあ円盤にぶら下がってる電子星獣とか!」
「それもマニアックです! っていうかそれ助手違う!」
「魔法のラジオを渡した少年探偵団!」
「だからコアすぎるっつうの!」
 ザボっと出した例を皮切りに、引き合いがどんどん濃ゆくになっていく。
何度目かの応酬を終えて、このままでは埒があかない、33kbでは収まらないと悟ったのか、例えを打ち切り咳払い。
とりあえず二人ともケモミミだから、Wケモミミシッポ助手ということにして、この場はひとまず収まった。



 「さて、この部屋の状態から、何か導き出せないものかしら」
「そうね、この屋根と床に開いた大穴の原因も導き出してほしいところね」
 気を取り直して、探偵再開。
脇から飛んでくる皮肉を加齢に、もとい華麗にスルーして、紫は部屋を見回した。
 中央にリグルの伏せるテーブルと、部屋の隅には洋服タンス。
窓際に設えられたベッドの上には、布団がきちんと畳まれ置かれている。
物色された形跡も、もみ合ったような形跡もない、言わば普通の平和な部屋。
ひととおり視線をめぐらせて、ふぅん、と小さく声を漏らす。
 「争ったようなあとは見られないわね。 事後片付けたにしては、特有の不自然さもない。
そうなると、リグルは無抵抗だったってことになる。
そう、見知った顔であるがゆえに、その温和な仮面の下に隠れた獣欲に気付くことなく、その餌食となってしまったのか。
あるいは、穢れを知らぬ無垢な少女が、その柔肌を無防備にさらけ出していた……、と考えられるわ」
「なんで描写がオッサン向けの官能小説風なんですか」
「言いたかったからよ☆」
 柱に頭をぶつける藍をバックに、紫は思考をめぐらせる。
無抵抗の被害者。 どこから見ても平和な部屋。
果たして、ここから事件の糸口を見出すことができるのか――――。
 考えて、考えて、考えるフリをして、考えて。
ふと見上げた窓の外に飛んでいたカラス天狗を撃ち落して、とっ捕まえてガッツポーズ。
 「とったどー! 容疑者確保ー!」
「なんなんですかいきなり!? 不意打ちで落とされるわ容疑者呼ばわりだわ!」
「ふっ、知らばっくれる気かしら? でも、そんな事を言っても無駄よ。 この私の目は誤魔化せないわ。
犯人は必ず犯行現場に戻るものと相場が決まっているのよ!」
「理不尽すぎます!」
 何が何やらもわからないうちに、容疑者の仲間入りを果たしてしまった射命丸。
同情からか、はたまた諦めからか、そこかしこからため息みっつ。
意気揚々となる紫との温度差はとても大きく、下手をしたら台風でも発生しそうな勢いだった。
 「新たな容疑者の発覚、そして事件は新展開を迎える。 推理小説で言うとちょうど佳境ってところね」
「まだ始まったばっかなのに、佳境もなにも無いと思うんですが」
 冷や水どころか氷水を浴びせられ、なんとも言えない顔で藍を凝視する。
何がしたいのかよくわからないが、とりあえず顔芸にしか見えなかった。

 ともあれ、三人に増えた容疑者を横一列に並ばせて、紫は再び推理に入る。
大袈裟なそぶりで部屋を見回しながらテーブルまで歩き、そこでくるりと回れ右。
テーブルに軽く腰かけて、三人と向かい合う。
 「この部屋からは、争った形跡が見られないわ。 言わば平和そのもの。
つまり、犯行は顔見知りによるものだと断定できる。
そして、注目すべきはリグル本人ね。 見たところ、大きな出血を伴うような外傷は無いわ。
絞め痕のようなものもないから、絞殺も考えられない」
「いやだから死んでないって」
「とすれば凶器は鈍器か、細く鋭い針のようなもの……、あるいは、弾幕ね。 それに……」
 言葉を区切って、リグルの背中に触れてみる。
寝息に合わせて小さく上下しているあたりは気にしないで、そのまま居並ぶ3人に向き直った。
 「……まだ暖かいわ。 とすると事件後まだあまり時間は経ってない。 私の見立てでは死後30分ってところね。
あなたたち、30分前は何をしていたのかしら?」
 唐突に投げかけられた問いかけに、三者三様さまざまな態度を見せる。
 「妖精に勝負を挑まれたから、相手してたわ。
あの妖精、結構強くて……、一度マスタースパークを撃ったから、それを見てたのもいるかもね」
面倒臭そうにしながらも、律儀に答える幽香。
 「かば焼きのタレを作ってたよ。 タレに入れるハチミツが切れてたから、リグルに貰いに来たってわけ」
態度も口調も、いつもの調子で答えるミスティア。
 「何ってそりゃ、取材ですよ。 ネタ探しだって楽じゃないんです」
そして、ロコツに嫌げな顔をして、腕組み渋々答える文。
 それぞれの言い分をひととおり聞いた紫は、口もとを手で覆い、あたりに視線をめぐらせる。
しばらくののち、顔を上げて指を鳴らすと、おもむろに幽香を指さした。

 「わかったわ。 犯人はあなたね、幽香」
「なっ……、なんでそうなるのよ!?」

  _/ _/ _/ 容疑者その1、風見幽香 _/ _/ _/

 「あなたは妖精と弾幕ごっこをしていた。 それを証言できる相手も大勢いる。 確かに、完璧なアリバイね。 
でもそれは、実に高度で巧妙なアリバイ工作によって作り上げられたものに他ならない」
「はぁ!? あんた、言いがかりも程々にしなさいよね!」
今にも食ってかかりそうな剣幕に、しかし紫は動じない。
余裕たっぷりな態度でもって、睨む幽香と対峙する。
 「あなたは勝負の最中、マスタースパークを撃った。 それを多数の妖精が目撃しているでしょうね。
だからあの時点での犯行は不可能……、そう思わせることが、あなたの狙いよ。
けれど……、あの時放たれたマスタースパークが、実はリグルを狙った超精密遠距離狙撃だったとしたら、どうかしら?」
「どうもこうもないわよ。 なんで私がリグルを撃たなくちゃならないわけ?
第一ね、私が撃ったのは北向きで、この家はあそこからちょうど真東、狙えるわけがないわ。
それに、そんなものでリグルを狙おうものなら、この家ごと吹き飛んでるわよ!」
 畳み掛けてくる幽香に、不敵な笑みを返す。
すべてお見通しだと言わんばかりのその態度は、根拠のない自信のなせる技だった。

 「果たして、そうかしらね? 幽香がリグルを狙撃することが、実は可能だとしたら……?
事件の全容は、こうよ」
一呼吸置いて、続ける。
 「あなたは、リグルに黙ってハチミツを舐めるのが癖になっていた。
『ヒャッハー! こいつは上物だぜェー!』とか言いながら、浴びるようにね。 もちろん全裸で。
しかしあまりにもハチミツを舐めすぎてしまったため、『次やったら口からサナダムシ入れるよ?』と怒られてしまう。
そこであなたは我慢した。 我慢に我慢を重ねたものの、一人ハチミツプレイの誘惑に、ついに負けてしまった。
ハチミツとの、めくるめくもただれたアバンチュールを過ごし……そして、我に返り、青ざめた。
口からサナダムシを入れられるという特殊なプレイを怖れたあなたは、リグルの殺害計画をくわだてたのよ」
 「馬鹿も休み休み言いなさいよ!」
「まあまあ……」
顔色を変えて怒る幽香となだめすかす藍を尻目に、紫は変わらぬ調子で続ける。
 「流れ弾による、弾幕ごっこ上の事故――――を装っての殺害計画。 まさに完全犯罪としか言いようがないわ。
適当なザコ妖精にケンカを吹っかけたつもりが、相手がルナ5ボスクラスの猛者だったのは思わぬ誤算。
でもそれが、かえってマスパの存在を正当化させることになる。
あとは、頃合いを見てマスタースパークを放てばいい。
そして……、なんやかんやして、見事にリグルだけを撃ち抜いて見せたのよ!」
 「待ちなさい。 ちょっとどころじゃなく待ちなさい。 ……なんやかんやって、何よ?」
心なしか疲れたような表情を浮かべつつ、幽香は抗議の声を上げる。
対する紫はふふん、と鼻を鳴らして胸を張り、びしっと幽香を指さした。
 「なんやかんやは……なんやかんやよ!」
「   」
「   」
「   」
「   」
「   」
 その一言に、全員の目が点になる。
まるっきし放り投げた物言いに、怒るのを通り越して呆れ果てるばかりだった。

 「紫様、そこが一番大事なとこじゃないですか」
「そうかしら?」
紫の言葉にそーですよ、と返したきり、藍もぐったりしてしまう。
さすがにここまでぶっ飛んだ言動は想像していなかったのか、げんなり具合もひとしおだった。

 「この完璧な推理に、ぐうの音も出ないようね。 さあ、年貢の納め時よ!」
「それが完璧とか冗談きついわ。 屋根の穴のほうがまだ小さいわよ」
「いやいや、そんなことないわよ! ここは追い詰められた幽香が自白して一件落着っていう流れでしょ?」
「どこがよ!?」
 強引なのも、ここまで来ると立派なもんだ。
精神的な満身創痍になりかけて、思わず頭を抱える幽香。
いっそ紫をマスパあたりで吹き飛ばそうかと一瞬考えたものの、なんとか思いとどまった。
堪忍袋の緒を締めなおして、目の前のへッポコホームズに合い向かう。
 「あんたの推理は大間違いで、わたしは犯人なんかじゃない。 残念だけど、それが答えよ」
「そ……、そんなまさか!?」
「それに、わたしとリグルの関係をよく知りもしないくせに、適当なことを言わないでちょうだい。
――――そう、あれは忘れもしな「それじゃああなたが犯人ね、ミスティア!」
「え? あたし?」
「ちょ、おま」
 独白に入ろうとした幽香にさっさと見切りをつけて、今度はミスティアに指を突きつける。
後ろで出かかった声にかまわず、再び推理を披露しはじめた。

  _/ _/ _/ 容疑者その2、ミスティア・ローレライ _/ _/ _/

 「あなたはリグルと付き合いが長いようね。 その友情はいつしか好意に変わっていたのではないかしら?
あなたはどうにかして自分の気持ちを伝えようと、リグルに様々なアプローチをこころみた。
ウナギをおまけしたり、時にはハート型のウナギを出したり、お皿にマヨネーズでアイラブユーと書いたり……、
けれど、鈍感なリグルはいつまでも、何をしてもあなたのアプローチに気付かなかった」
 ミスティアの周りを回りながら、訥々と語る。
何も言わずに立つそのさまを、無言の肯定と受け取ったのか、紫は小さく頷いて、続けた。
 「それだけならまだよかったものの、ここで恋敵が登場することになる。 ……そう、幽香よ。
隣の芝生は青く見えるもの。 あなたには、二人のやりとりのすべてが、イチャついているようにしか見えなかった。
嫉妬に狂ったあなたは、ついに幽香のSATSUGAIを決意する」
一瞬どこぞの二世顔になったような気がしたが、別にそんなことはなかったぜ。
 「捜査をかく乱するために、あえて包丁ではなく細く鋭いものを用意するほど周到に、そして白昼堂々大胆に。
悪魔のごとき綿密な計画性をもって、あなたは恋敵であろう相手を後ろから刺した。
けれど、それが幽香ではなくリグルだったことが、あなたの唯一の、そして最大の誤算だったのよ!」
 声とともに、ミスティアに指を突きつけて。
「無いわ」
「無いな」
「無いですね」
「うん、無い」
「紫さま、それまんま昼ドラです」
周りから一斉に、ダメ出しをもらったのでした。

 ダメ出しの一斉砲撃にもめげずに、ほらどうなのよ、と食い下がる。
当のミスティアはというと、呆れ顔で首を振り、ついでに肩をすくめてみせた。
 「一応聞いておくけど、その細いものって、何よ?
言っとくけど、料理用の竹串じゃあ身体を貫くなんてできないからね」
「あなたは串焼き屋のほかに、深夜に飲み屋もやっていたわよね。
そこで使っているアイスピック……それを念入りに研ぎ上げれば、背中から心臓を一突きにするくらいわけないわ」
「あのさ、うち、アイスピック置いてないんだけど」
氷ならチルノに頼んでるし、と続けるミスティアに向かい、思わず飛び出る二度目の顔芸。
紫はしばし視線を泳がせたのち、こほん、と咳払いをひとつして。
 「じゃあクチバシでいいわよもう!」
駄々っ子さながらに、逆切れかましてみせたのでした。

 「……あのさぁ、クチバシなんかで突き殺したら、それこそ大っきい傷跡が残るよね?」
「なによ、それくらい誤差の範囲じゃない!」
「ずいぶん広いなー誤差ー」
 クチバシなんかないってことにはあえて触れずに、首をかしげて尋ねてみる。
返ってきたあまりにもムチャな屁理屈に、むしろなんだか優しげな顔になりつつあった。
イコール気の毒な子を見るような目だという事実は置いといて、紫はここぞとばかりに畳み掛ける。
 「そう、無防備な背中に忍び足で近寄って、愛しさと切なさと糸井重里を込めたクチバシで突き殺したのよ!
今ならまだ間に合うわ。 罪を認めて自首しなさい! ほら恒例の自白タイム!」
「何の恒例ですか」
 藍の静かなツッコミをガン無視して、勢いに任せずずいと詰め寄る。
なんとか威圧感をかもし出そうとがんばる紫とは対照的に、当の本人はあっけらかんとしたまま。
 「確かにリグルは好きだけどさ、それで嫉妬するようなちゃちい女じゃないよ、私は。
それと、痴情のもつれなんかで相手を傷つけたりなんかしないわよ。 ましてや殺すだなんてもってのほか。
三角関係になったらなったで、二人まとめて可愛がっちゃえばいいじゃない」
「エロいですね。 さすがはピンク髪……」
 呟く文に、いやそれ都市伝説だからと返して、紫にどぉ? とか聞いてみる。
当の紫はというと、円柱ポストみたいに顔を赤くして、しどろもどろになっていた。
「あー、いや、まあ、そうね。 二人まとめてーとか、かなりエロスよね」
「……紫様、いい年こいてウブアピールですか?」
 炸裂、尻蹴・強。
悶える声をBGMにして、紫はまたもや腕組みポーズ。
 「むぅう、またも外れ……? 犯人はどれだけ狡猾なのかしら……」
「いやあんたがヘッポコなだけだからね」
「でも、そうなると残りは……一人しかいなくなる。 必然的に、ね」
 幽香の呟きを右から左へ聞き流して、文にするどい視線を向ける。
射殺されそうなほどに鋭い眼光の先には、今までに無い雰囲気に、思わず気おされる文の姿。
 「わ、わたしはただの通りすがりだって言ってるじゃないですか!」
「貴女のことだもの。 おおかた、また自作自演で事件を起こして、記事にしようとしたんじゃないの?
筋書きは、こうよ」

  _/ _/ _/ 容疑者その3、射命丸文 _/ _/ _/

 「貴女は、新聞のネタが見つからずに困っていた。 そこに飛び込んできたのは、なぜか幽香の家にいるリグル。
それを見た貴女は、邪悪な計画を思いつく。 
そう、ネタがなければ作ればいい。 それはすなわち、自分自身の手で演出する、白昼の殺妖事件。
幽香の家にいたリグルを殺害して、『白昼の愛憎劇、肉欲におぼれた女の末路!』とでも記事にしようとしたんでしょう」
 一息ついて、続ける。
 「でも、ここで躓いた。 超天狗スピンのような大技では、すぐに犯人が特定されてしまう。
そう、『射命丸・コンバトラー・文』の異名を持つあなただとね!」
言いつつどこからともなく取り出したのは、『みたか必殺、超天狗スピン!』とか書かれたポスター。
それを目にした文は、まともに顔をひきつらせた。
 「あの、お願いですからひとの古傷えぐらないで下さい」
何か嫌なことでも思い出したのか、どっと疲れたような声をしぼり出す。
その後ろで、ミスティアがお腹を抱えてぷるぷるしてた。

 「でも、あなたは諦めなかった。超天狗スピンが駄目ならと、別の手段に切り替えたのよ。
あなたの種族は……なんだったかしら? そう、カラス天狗ね。
あなたは新聞配達を装って家の中に侵入し、家の中を物色。 ついでにリグルの生足をしゃぶるように堪能した。
そして素早くリグルの背後に回り、こんなこともあろうかと思って、鋭くしておいたクチバシで突き殺したのよ!」
「ンなわけあるかぁ!」
「またクチバシか!」
「私のどこにクチバシがあるっていうんですか!?」
 方々からのツッコミに、しかし紫はうろたえない。
それどころか、その言葉を待っていたとばかりに、やおら得意満面のドヤ顔を浮かべだす。
 「墓穴を掘ったわね、射命丸。 誰も生クチバシとは言っていないわ。
あらかじめ胸ポケットに入れておいた付けクチバシを着ければ、何の問題もなくクチバシで突き殺せるでしょう?」
「そんなワケのわからないもの入れません!」
言うなり、胸のポケットに手を突っ込んで、紫に向かって突きつける。
その手に握られていたのは、空っぽなのとそうでないのと、二つのフィルムケースだった。
 「それに、胸ポケットは小さいんです! フィルムケース二つでポケットはパンパンなんですよ!?
どうやったら付けクチバシなんて入れられるっていうんですか!」
「うるさいわねぇ……。 入るかどうかなんて細かいこと、どうでもいいじゃない!
さっさと白状したらどうなの? さもないと、おでこにキュウリ刺してブルブル言わせてやるわよ!?」
「だめだこのヒト脳がくさってる!」
 絶望の叫びとともに、頭を抱えてその場にくずおれる。
約一名を除く全員が気の毒そうな視線を向けるなか、唐突に肩を震わせ、乾いた笑いをあげだした。

 「あぁ……、もう、しょうがないですね。
本当なら、隠しておきたかったんですが、仕方ありませんよね。 背に腹は変えられないですよね。
正直に白状しましょう。 30分前……、私は取材には行っていなかったんです」
「ほら、ごらんなさい。 はじめからそうやって、素直に吐いていればよかったのよ」
「その時間は、椛に……モミーに笹カマボコを食べさせさせられていたんですから……」
消え入るような文の声に、眉をひそめて首をかしげる。
なにか、おかしかった。 何がおかしいのかはよくわからないけど、とにかくおかしかった。
 「食べさせ……させられて? ねぇ、それっておかしくない?」
「おかしくは、ないですよ。 私が動いて、モミーが笹カマを食べるんです」
そう答える文の目は、どこかうつろだった。
まるで遠い昔を思い出しているような、あるいは心を折られてついでにえぐられたような、そんな顔。
 「でも、それだけでしょ? それでアリバイになるなんて……」
「あなたに……あなたたちにっ!
人肌にあっためた笹カマを冷えるまでふーふーさせられる虚しさがっ、わかるっていうんですかっ!?」
 紫をさえぎって出された声は、もはや涙声。
今にもあふれそうな涙を目に溜めて、そのまま早口でまくしたてる。
 「意味もなく氷で冷やした笹カマを、わき腹とか太ももに貼り付けられてあっためさせられてっ!
笹カマ好きなのに一口だって食べられなくて、さもマズそうな顔で食べつくされてっ! うっ……うわぁぁぁぁぁん!!」
 話すうちに思い出してしまったのか、とうとう大声で泣き始めてしまう。
タフさには定評のある文が、ここまで打ちのめされるという事実に、全員が全員とも、動揺を隠せなかった。
あいつだけは敵に回さないようにしようと、満場一致で頷きあい、ひとまず文を落ち着かせる。
しゃっくりあげる文から視線を外して、紫は小さく嘆息した。

 「……やれやれ、かくして推理は振り出しに、か。 それなら証拠品を集めるわよ」
言い切るよりも早く、部屋を物色し始める。
真っ先にベッドの下を調べて、舌打ちとともにタンスに向かう。
タンスを開けてみれば、わりと大きな黒レースのブラジャー。 おそらく、勝負下着。
 「まあダイタン」
「ちょっと! 何勝手に人んちのタンス漁ってるのよ!」
「証拠品が見つかるかもしれないでしょう? それにタンスくらい、今日び勇者だって漁るわよ。
あら? これは……。 ねえ藍、ちょっとこれを見てちょうだい」
「何か、あったんですか?」
 手招きに誘われるまま、紫のもとに歩み寄る。
紫がタンスから取り出したのは、大きくて丸みをおびた長方形のバングルが眩しい、一本のベルトだった。
 「このベルトよ。 世紀王モデルで、真ん中のファンライトが緑色……。 つまりシャドームーンね」
「確かに。 でもそれが、何の関係があるんです?」
「……それもそうね」
 ベルトを元通りタンスに押し込んで、咳払いをひとつ。
どうもこの場には、犯人を指し示す決定的な証拠はないようだ。 それなら――――。
一瞬考えて、立ち上がる。
それならば、次に取るべき行動は、ただひとつ。

 「ひとまずここは、このあたりで聞き込みよ!」
「了解です」
「わかりましたー」
 一同は頷きあって、散り散りに走り出す。
紫はシュート・イン! とか言いながらキャスター椅子に乗ってくるくる回り。
藍は紅魔湖の湖岸にパラソルとチェアと、ついでにひんたぼ島の地図を置いて、優雅なひとときを過ごし。
橙はでっかい土鍋に飛び込んで、猫鍋グラビアの表紙を飾り。

 「……幽香さん、『あのこと』は……」
「……黙っていればわからない。 言う必要はないわ」
深くなっているのか、よくわからない謎を置いてけぼりにして、捜査はあさっての方向に進んでいくのでした。


 _/ _/ _/ _/ _/ _/


 ところ変わって、地底は旧都の片隅。
人通りもまばらなそこに立ち並ぶ、キャッチーなノボリの真ん中に、小さな露店が設えられていた。
もみ殻を敷いた箱に卵をずらりと並べ、椅子に座るは古明地さとり。
営業スマイルと呼ぶにはややアンニュイな表情で、棒読み気味に売り文句をのべたてる。
 「生みたてとれたて作りたて、おくう印の温泉卵はいかがでしょうかー。
黄身はとろとろ、白身はぷるぷる。 おくう印の……」
「くださいなー」
「はい、いらっしゃいませ。 おいくつですか?」
「永遠の17歳よ。 それはともかく……買いたいものは、情報よ」
 言うなり紫が取り出したのは、一本のペロペロキャンディ。
おもむろに差し出されたそれを受け取り、さとりは真剣な面持ちで紫と相対した。
 「……例の、蛍少女のことですね?」
「ええ、さすがに話が早いわね」
「わかりました。 彼女は、いわゆる脱ぐとスゴいタイプのようですね。
少々品のない言い回しをすると、ボンキュッボン。 ……とまではいきませんが、均整の取れたスタイルのようです。
ですが、そのスタイルを人目につかせるのが恥ずかしいらしく、ああいった野暮ったい格好をしていると」
「なるほど、奥ゆかしいのね」
 紫の呟きに、小さく頷く。
「そうですね。
夜に肌恋しくなった時などは、恥ずかしがりながらもボタンを一つ多く外して、慎ましやかにアピールするとか」
「何その可愛い生き物」
「ええ、私もペットに欲しいくらいです。 ただ……」
「ただ?」
「栄養満点、風味抜群、おくう印の温泉卵は――――」
 再び、ペロキャン。
「彼女の家は、何者かに爆破されています。
家が再建するまでの間、友人の家に身を寄せているようですね」
「爆破? そいつはキてるわね」
「ええ、穏やかじゃないですね。
ですが、本人の覚えのないところで、恨みを買ってしまうというのはままあることです。
それが逆恨みであるのなら、なおのこと」
「そう、わかったわ。 ありがとう」
 紫は短い謝礼のあと、足早にその場を後にした。
遠くなる背中を見送って、さとりは再び温泉卵の売り子に戻る。
 「生みたてとれたて作りたて、おくう印の――――はい、クラゲの倒し方ですか。
アイスビームと、ミサイル5発。 この二つが大前提です。 取り付かれたときは丸まって――――」


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 そして……舞台は再び、幽香の家へ。
待ちくたびれた様相の容疑者一同に、紫は真正面から向かい合う。

 「私は、大事なものを見落としていたわ。 それは……これよ」
紫がそう言って目の前に差し出して見せたのは、タンスを漁っていた時に見つけたブラジャー。
 「そう、このブラジャーの持ち主が誰なのか。 私はそれを失念していたの。
さて、このブラジャーはいったい、誰のものでしょうね?」
 紫の問いかけに、文は幽香を、もとい幽香の胸を凝視する。
一方幽香とミスティアは、そろってリグルを指さした。
 「そう、このブラジャー……74のDは結構大きい部類よね……は、他ならぬリグルのものなのよ!」
「な、なんだってー!?」
一人で驚く文をよそに、紫は言葉を続ける。
 「そう、リグルはいわゆる隠れ巨乳……ゆえに巨乳殲滅を目論む秘密結社の一員に殺害されてしまったのよ!
『ケヒャッヒャー、巨乳は消毒だァー! ケーッヒッヒッヒ!』ってな具合にね!」
「「「「ありえんありえん」」」」
 まったく同時に異口同音、手を振る動きもまったく同じ。
完璧な合体ツッコミに、さしもの紫も目を泳がせる。
 「……ありえないかしら? うーん、それもそうね。 そんな変な組織なんかないわよね」
「「「「うん、ないない」」」」
またも完璧なタイミングで、容疑者一同プラス一名、紫ともども頷きあう。

 ――――同時刻、某所。
 「ぶへっくしょい!」
「おや、風邪ですか紅白R。 組織の長たるもの、健康管理はしっかりしていただかなくては」
「そうよ。 今回から新たな団員、山田Eを加えての会合なんだから。 しっかりしてよね」
 「いやーごめんごめん。
では第15回、胸なし娘(みなしご)たちの叫びの団、定例集会を始めます」
「だからなんで人の家で妙な会合開くんだよお前らは!」
頭隠して服隠さずな一団は、相変わらずでありました。

 それはともかく。

 「結局、真犯人とやらの特定はできずじまいじゃない。 探偵ごっこはもう終わりね」
容疑者は全員シロ。 それを覆すような、新たな証拠も見つからない。
八方塞がりとなった迷探偵に、幽香は冷たい視線と声を投げかけた。
 それでも、紫は諦めない。
冷たい視線に真っ向から対峙して、最後の推理を繰り出した。

 「いいえ、最後の容疑者がまだ残っているわ。 それは……リグル自身よ!」
沈黙。
しん、と耳鳴りがするほどに、静寂が満ちる。
それを打ち破ったのは、やはり幽香。
バカバカしい、と呟いて、さっきよりも鋭い目つきで紫を睨む。
 「……あんた、自分が何を言ってるか、わかってるの?」
「いいから、聞きなさい。
リグルは幽香とミスティア、二人と同時に交際していた。 つまり二股をかけていたのよ。
女と女、巨乳と貧乳……、情愛におぼれ、欲望のおもむくままに肉欲をむさぼっていた」
そこで、一息。
 「けれどある日、ふと罪悪感にとらわれる。
今までの行いを恥じたリグルは、自らの命を絶つことで、二人への謝罪としようとした……。
そして今日、付けクチバシを着けたヘラクレスオオカブトを操って、自分を刺し殺したのよ!」
「ないわー。 それだけは絶対ないわー」
「あんた、いっぺん脳味噌洗濯してきなさい」
「ってゆーかどんだけクチバシにこだわるのよ」
 「だぁらっしゃあ!!
人の言うことにピーチクパーチクやかましいのよ! このクチバシの黄色い小娘どもがぁ!」
 叫びを上げて、はた、と我に返る。
気まずい空気と沈黙の中、言い訳を探しているのか、ひたすら目を泳がせる。
「……別に若さに嫉妬してるわけじゃないんだからね!」
「今までの何よりも説得力がねぇ!」
苦しまぎれのひとことは、やっぱり苦しかった。

 「はぁ……、もう付き合ってられないわ。 ほらリグル、起きて」
「……んー? なぁに……?」
幽香に起こされて、リグルはようやく目を覚ました。
まだ半分寝ているような面持ちで、寝ぼけまなこを小さくこする。
 「はい、これであんたにもわかったでしょ? 
リグルは寝てただけ。 はじめから事件なんて起きちゃいなかったのよ」
「なるほど、そういうことだったのね。
リグルは死んではいなかった……、つまり事件性はなかったんだわ! これで一件落着ね!」
「うん、みんな初めから知ってた」
 今さらな事をドヤ顔で言う紫に、藍は生暖かく微笑みながら答える。
それはまるで、頭のかわいそうな子を見るような顔だったらしい。

 「そ・れ・じゃ・あ? 犯人扱いしてくれた落とし前をつけさせてもらおうかしら?」
「よし乗った。 私もいい加減、我慢の限界だったしねぇ」
「そうですね。 ウサとかうっぷんとか、いろいろ晴らしておきたいですし」
 一件落着と喜んだのもつかの間、突如迎える新たなピンチ。
薄い笑みを貼り付けて、紫に迫る容疑者三人。
だがしかし、全員が全員とも、その目はまったく笑っていなかった。
 「ふっ、数にものを言わせて袋叩きにでもするつもりかしら? でも、そんなんじゃあダメね。
私が本当の暴力ってものを教えてあげる。 それは……やりたい放題の投げっ放しってことよ!」
言葉とともに、高く掲げた指を鳴らす。
そして、次の瞬間。

 伝統とお約束の、爆破オチをかましたのでした。


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 ドリフのコントよろしく、壁を四方に倒して崩れた元・幽香の家。
そこに累々と横たわる、数人の焦げアフロたち。
プスプス上がる煙が収まり、それからしばしの間をおいて、ようやく一人が身を起こした。
 「ゆ・か・りィィィ~~~!」
ひざ立ちになって、やる気まんまん、殺意100%の目つきで周囲を見回す。
そんな幽香の目に飛び込んできたのは、服がビリビリに破れ、なんともそこまでよな格好になったリグルだった。
 「もう、いったいなんなの?」
涙目、泣き声、胸元を隠すイヤンな手つき、すべてがツボにクリティカル。
こんな可愛いリグルを、放っておくなんてとんでもない。
アフロ頭をもさりと揺らして、幽香はリグルのもとへと這い寄っていく。

 「リグル……。 そんなおいしそう、じゃないけしからない格好するなんてジュルリもう我慢できない!」
「そんな顔して誘ってるの誘ってるんでしょううん誘ってるのねいただきまーす!」
「ひえぇ!? ちょっ、ちょっと待って! 怖い! なんか怖っひにゃぁぁぁあ!?」
 リグルに群がる二人のアフロ。 そしてそれを激写しまくるアフロ。
そんなアフロの群れから逃げるように、一人のアフロが走りだし、別のアフロに阻まれた。
 「なっ、いつの間に回りこんで……ってなんだ、藍じゃない。
あっちが若さゆえの過ちを犯している今がチャンス! この隙にずらかるわよ!」
「ご随意に。 ですがその前に……」
言うなり、ランニングの姿勢で足を上げ下げするアフロの頭を、両手でガッチリ挟みこみ。

 「そぉい!」
コキャッ☆
「へぐぅ!?」

 かたや愛と欲望のハニーフラッシュ、かたや式神ブリーカー。
どうにも収集のつかない光景を前に、橙は穏やかな微笑みのまま。
短冊と筆を手にとって、一編の歌を詠みだした。

『響く声 アフロの林に ピンク色 
        主は今日も 首を折りけり』

めでたくなしめでたくなし。
はじめましての人も、お久しぶりの人もこんにちわ、ふみつきです。
まず最初にごめんなさい。 実はこのSS、33kbと言いつつ33kb以内に収まっていないのです。
33,9kbなので33kb台だよ! 問題ないよ! と自分に言い聞かせつつの投稿なのです。

ところで、すっかり寒いこの時期、お風呂あいたから入れと言われることもありますよね?
先日、ちょうどネタを思いついたときに、タイミングよく妹からそう言われました。
姉ちゃんが上がったから早くして、後がつかえてるんだからと。
ネタを書かないと忘れると思い、「お前のあとでいいよ」と言ったつもりが、

                   , -, - 、
             ,、 ,、 ,イ!〃 , ='‐ \__ト,__i、_
             l T! Tl'lT_-r-、ィ_‐_7´ l l! l!  | お前の残り湯でいいよ
            l、` ` lヽ_lー〈!_,. - ´j  _ -, ! 
            \`丶!、l  ̄ l /,ィ ´  /_
            ,.イ\ i、!  ̄ l´ ,ィ ヽ/ )`ゝ
        ,.;:r''"^´::::ヽ.l l`'ヽ‐_7´ ll /::::::::
     , :-='"::::::::,..、:::::::::`ー、     _,,.ィ''"::::::::::::::
   ,/f'T=―-:(ー'`ヽ、:::::::::``''''┐f:::::::::::::::::::::::::::
  /' (」`'''ー-= `゙゙゙  ヽ:::::::::::::::::::i l:::::::::::::::::::::::::::
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.,i:::::::::::::::::::::::::`゙゙゙`''ー(     `゙゙`ヽ、,,__::::::::::::::::::::::

ええ、空気が凍りました。

それからしばらくの間、一番風呂か親父orおかんの入った直後でないと、風呂に入らせてもらえなくなったふみつきでした。
ふみつき
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コメント



0.480簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
カオス過ぎワロタwwww
3.100名前が無い程度の能力削除
さりげに夜の女な気配がするみすちーへこの点数を捧ぐ
6.100奇声を発する程度の能力削除
後書きを含めてとても面白かったですww
7.100名前が無い程度の能力削除
本編も酷いけどあとがきはもっと酷いwwww
9.100名前が無い程度の能力削除
ワロタwww
13.100名前が無い程度の能力削除
こう言う作品、好きよ
15.100名前が無い程度の能力削除
いやぁ壊れギャグ、久しく読んでいませんでしたが良いものです。勢いだけではなくネタも詰まっている作品でした。
18.100名前が無い程度の能力削除
後書きのインパクトwwwww