Coolier - 新生・東方創想話

ある妖怪の真夏の楽しみ方

2011/01/27 18:17:33
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あつい
熱い、でもなく厚い、でもない。暑い。
夏故に暑さは仕方がないものの、そうわかってはいても暑いと発してしまうのは彼女の至らぬ点ではない。
夏故に暑い。が、やはり彼女は自身の未熟さに嘆いてしまう。嘆こうが暑いものは熱い。間違った、暑いのである。
額に汗を滲ませながら何時もと変わらぬ作業をする彼女、寅丸星は自身に言い聞かせる。
心頭滅却すれば火もまた涼し。
エアコン等という近代科学の代表的夏対策装置など幻想卿にあるはずもなく、書物や墨汁が風で飛ぶ恐れがあるため窓やら障子やらはプルオープンできない。精々三部開きである。
そうなると、日向ではないものの個室の暑さは十分。十分過ぎてお釣りが両手から零れ落ちてしまう。
実際、零れ落ちるのは星の汗ではあり、汗で書物を汚さぬように何度も何度も手拭いで額をぬぐ。もう手拭いは星の汗でベトベト。これでは逆効果。それなりに時間も過ぎていたようで、切りがいいところで休憩に入ろうと腰をあげた。
瞬間、視界が一瞬ボヤけ足下の力が抜けた。体勢が崩れたところで視界は晴れ、倒れる寸前で踏み留まった。
なんのことはない。立ちくらみである。立って、立ちくらみになって初めて自分が少々危ない状態にあったことに気がついた。星だけに。





台所には既に先客が夏の暑さから逃れるように倒れていた。黒髪の正体不明少女、ぬえは団扇を片手にグデ~ンとゲル状になりかかっていた。
星の姿を見ても、あ゛~と発音できそうにもない鳴き声を発するだけ。星はというとぬえを素通りし、蛇口を捻る。命蓮寺を建て直す際に、河童のおかげで色々とそれまでは無かった外界の技術が備わった。これもその一つで、下流の冷えた飲み水を手軽に飲める様になった。それまではわざわざ下流まで水を汲みに行かなくてはならなかったので大助かりになった。特に、今日のような灼熱地獄のような日には本当に大助かりだ。
冷えた水が星の喉を通り抜ける。何とも言えぬ熱からの解放感が一時的ではあるが体に満たされる。
真面目な彼女は、殆ど着崩さず、精々喉元を少し緩める程度。それにも関わらずぬえのようにダランとしていないのは、流石としか言い表せない。
喉の乾きを満たすとまた書斎に戻ろうとしたのだが、それは阻止された。


「あつ~い、あついよ~、なんとかして~」


ぬえ~んと星の後ろからもたれ掛かるぬえ。額には汗がひたたり、半分しか開かない目とダランと口から漏れる舌。


「そう引っ付いていると、更に暑くなりますよ。心頭滅却すればなんとやら、です」

「そんなの頭のイカれた賢人の戯言だって。そんなことで暑さが和げられるならくろうしないよ」

「あなたも随分イカれた側だと思いますが?」

「私は妖怪、正体不明の畏れを背負う鵺様だよ。いいの、このくらいは寧ろいいスパイスだよ」

「そのスパイスで頭を悩ませられるのは私なのですが?」

「私は楽しいからいいの」



そして、最後は聖の愛ある鉄槌を受けるので痛いともいえる。いつまで引っ付き放れないぬえを振るい払う気力を今の星は持ち合わせていない。寧ろ引っ付いていた方が暑さは増すのではと思う時、ぬえの方も妙案を思い付いた。鵺だけに。


「かき氷、かき氷食べに里に向かおう。ぬえちゃんナイスアイディア」

「確かに、こんな暑い日にはかき氷などの冷たいものはいいですね。そうだ、里に行くのならそのついでに夕飯のお使いをたのみます。今、何を買ってくるのか言いますから」

「星っちは行かないの~?」

「私はいいです。これも修練の一環、いつまでも毘沙門天様の弟子という立場に満身していてはいけませんし……っひゃい!」


耳を甘咬みされてキャンっと泣いているようではまだまだ先は長そうである。ちなみに本当はあまり関係ない。どんな悟りを啓こうが聖人だろうが神格だろうが驚くときは驚くものである。
幻想郷在住の妖怪の賢者などは、よくそんな実力者のお茶目な一面をのぞき見したいがためにちょくちょく首をつっこんだりしており、それが幻想郷の日常でもある。自分の式神に縁側で桶を持たされたまま立たされるまでの流れを含めて、である。
星の反応に満足そうに笑うぬえ。その勇ましくそびえる双大な胸を鷲掴む、あるいは服の隙間に忍び込みあんなことやこんなことや、といった選択肢もあったのだが夏バテが幸いして耳咬みまでランクダウンしたのだから別にいいじゃないか、というぬえの主張に反論するのも馬鹿らしくなった。


「星も行こうよ。かき氷食べたいでしょ! おいしいよぉ、炎天下の中、日陰に腰をおろしてさぁ、額に汗が流れる中、キンキンに冷えたかき氷、味はぁ~星ならレモンかなぁ、白が3で黄色が7、スプーンを入れるとシャリっていう音がかき氷からささやかに聞こえてきて、口に入れると氷の冷たさとレモンのさわやかな甘味と酸味が広がってぇ、キーンって頭まで冷感が流れるんだよ~。あぁ、いってたらマジ食べたくなってきた。ねぇ行こ~よぉ~」



「他の皆さんと一緒に行ってきてください。私はまだやる事があるのでいけません。」

「えー。だって星が来なかったらどうやって氷屋まで行って誰のお金でかき氷を買ったらいいんだよ。それくらい毘沙門天の弟子ならわかりんさい」

「本人を目の前に財布呼ばわりするのは感心しませんね」

「ええい! ままよ! こうなれば有言実行実力行使不撓不屈の精神をもって毘沙門天(弟子)の御心を動かそうぞ!! 」



宣言を言い終わらないうちに、星の背中へと瞬時に飛び跳ねる。つい先ほどまで真夏の熱気にダラダラであったとは思えない身のこなしで星の背中へ。対する毘沙門天が弟子、星は咄嗟のことで反応することができなかった、わけではなく、単に反応するのが面倒なくらい暑さでだめになっていただけである。
だらんとぶら下がるぬえのお経の囀りのような主張我儘が絶えず星の耳へと届き続ける。
左右に身体を揺らす。
振り子の玉のように左右に揺れる身体。足を腰に巻きつけておくのが面倒になったのか、両足を下ろしたため本当に振り子の玉のように両足が揺れる。


ぶらんぶらんぶらららん。


そうして、毘沙門天の弟子は仕方がなしに折れた。決して、断じてかき氷の開破的な氷結力や甘味に魅かれたわけではい。断じてない。そう深く心に言い聞かせる星であった。





さて、どうしてぬえは星にぶら下がったのだろうか。これは至極単純なものであり、氷屋までの道中歩くのも飛ぶのも疲れるからであった。つまり、里の氷屋までの道中、星はずっとぬえを背負って歩いてきたことになる。
日傘を差し、ぬえを首にぶら下げ、のらりくらりと歩いて進んだ。いい具合の息抜きになるように、そう気をつけながら。
あまりにもゆっくりとのっそりと歩いていたので当のぬえは始まりうるさく後はだんまりぶーらぶら。
そうしてようやく氷屋の前へと着く。
この夏のひと時、こうも暑いと里人にとっては苦しいこことこの上ないが、氷屋にとってはこの上なく商売日和となっており、昼時を過ぎ行列こそできてはいないが、店前では子供やお年寄り、買い物帰りの奥方たちがかき氷を片手に一息。繁盛しているようだった。
行列ができていないのは好都合。並ばずにかき氷へとたどり着けるのはいいことだ。
麦わら帽子のおっちゃんは白い薄着を身にまとい、うちわ片手に立っていた。
氷屋に着くや否や、全身に芯が入ったようにピンと活動を再開したぬえが意気揚々と星を押しのけた。ここまで運んでやった恩なんてなんのその。


「おっちゃん! いちごにメロン、ブルーハワイにレモンを4:2:2:2の割合で配合したぬえちゃん特別製鵺味風味を一つ!! あ、星はレモンでいいよね。んじゃレモンを一つ。あとばれないように底の方にスコヴィルのザ・ソースを忍ばせといて」

「聞こえています。そのようなイタズラは止めなさい。それに、それはイタズラの域を超えています」


妖怪でも、辛いものは辛いのである。
店主は仰いでいた団扇を手元に置いてかき氷の準備に取り掛かった。店の奥から大きな氷柱を取り出し、かき氷機の回転口にセッティングする。がっちりと氷と削り口、回転元を固定した後、かき氷のカップを下に置き、シロップを少し入れて置いておく。
粉砕された氷の出口を確認しながら、横に着いたサドルを回転させ氷柱を回す。ジョリジョリと氷が削られる音がなり響き粉砕された氷がコップへと注ぎこまれる。途中、半分くらいまでの所で再びシロップをかけ、ラストスパート。
山もりになったところでトドメのシロップ、スプーンを添えて出来上がり。


余談だが、鵺味の場合、底はイチゴ単品。中枢からは四色をきれいに四等分にかけ、最後にはイチゴ、メロン、ブルーハワイ、レモンの順に大雑把にかけ、色が変色し始めたら完成。
人間、子供のころに一度はチャレンジし、後悔した覚えがないだろうか。


全行程数分程度の短時間で出来上がり、身も心も涼しくさせてくれる夏の風物詩の一つ、かき氷が二点。



「ご主人、すみませんがどこか座る場所はありませんか? 」

「どしたの星? あ、悪阻? 」

「貴方を背負って里まで来たので疲れたのです。こんなに熱いのに密着してきたり後ろ髪に顔を突っ込んだり、気疲れと気だるさが夏の暑さに加わってしまいましたよ」

「情けないなぁ。それでも君は命蓮寺の毘沙門天かい? わたしゃ涙が出てきたよ……」

「それは汗です。目に入ると痛いですよ」



案の定嘘泣きをと目の下を擦った時に汗が進入してきて本当に涙が出ました。良かったね、ぬえ。目が痛いから必死に目を擦る。擦ったらまた汗が進入する。また痛い。という負の連鎖を繰り返すぬえにあきれながらもハンカチを差し出す星。
目がうまく開けられないため、ハンカチすら取れないようだったので仕方なしに目に入った汗をハンカチで拭いてやった。初めは少し抵抗したものの、それ以上に痛いのはごめんであるので素直に顔をあげ、拭いてもらった。


主人の紹介で、隣の団子屋に腰を下ろすことになった。
真夏の直射日光から生まれる日陰の空間が、これほど心地よいと感じるのはこの季節の風物詩ではないだろうか。やれやれといったご様子でレモン味のかき氷を口に運ぶ。うん、おいしい。


「ね~、星~。レモン味食べたい~」

「貴方のも一部はレモン味でしょう」

「一口あげるからさ、ね」

「いりません」

「なんでー。いいじゃん一口くらい~。かわいい女の子のお願いは聞きなさい、聞く義務権利がある」

「年齢は余裕で三、四ケタ越えてる癖に……」

「心の中はいつでも乙女」

「聞いていて恥ずかしいです。ですからそんなに物干しそうな顔そこちらに向けないでください。気になります、周りの方々が」

「星が気にしなよ。ほら、私のあげるから。おいしいって、ぜ~ったいおいしいから。ね、ね」



ないものねだり、とはいうもので別々のものを注文すると、自然と「あれ、あっちの方がおいしそうじゃね?」と感じるもので、この流れは至極当然というわけだ。
計算していようがしてなかろうが、大きな抵抗なくこの流れになるだろう。
ぬえの再三の催促に、渋々と自分のレモン味かき氷を一口スプーンに取って渡す。そして、パクリと一口。


「ん~! やっぱりレモン味だ~」

「レモン味のかき氷に一体何を期待したんですか」

「ほら、星の唾液でレモン味が濃厚なパイン味に変わるのかなぁって」

「もしパイン味がしたのなら、味覚障害ということで永遠亭という所の名医に連れて行く口実ができましたのに。残念です」

「鵺の味覚は正体不明。味覚なんて所詮単なる幻想なんだし」

「ならその幻想な味覚の治療のついでに、健康診断でも受けに永遠亭に連行してもいいんですね」

「あ、そうだ。はい、ぬえちゃん特性かき氷のおかえしだよ~ん」

「――――いりません」


自分のかき氷を口に運んでキーン。
毘沙門天の弟子でも、かき氷を食べればキーンとなるんです。しかし、周りの目もあるので、あからさまにリアクションできず、結果必死に歯を食いしばる星。
このアイスクリーム頭痛の原因は実ははっきりとわかっていない。説は色々とあるらしいけど、キーンと痛くなるのは万物不変の自称のようである。ちなみに、アイスクリーム頭痛とは、“ice cream headache”という正式な医学用語らしいです。友達に馬鹿にされたらけなし返しちゃいましょう。


頑なに拒む星に、あきらめたように差し出していたスプーンを自分の口へと運ぶぬえ。
キーンとなってまた一口。程よい寒気がいい感じに広がる。しかし熱い。暑い。篤い。厚い。星を見ているとこれらのあつさがすべて当てはまるので、みているぬえ本人までせっかく輩出した熱気が復活しそうだ。あーいやだ、とスプーンを口にくわえたまま天井を三井上げる。木目の正方形が均等に張り巡らされた昔ながらの造りは、どうしてこう人の心を和ませることか。人じゃないけどさ、と自分で相槌。



「さて、食べ終わったら帰りますよ。まだやり残している仕事がいろいろとあるのですから」

「えー、もう帰っちゃうの~。すこし見て回ろうよ」

「あなたはちょくちょく里に降りていたずらしているでしょ。この前里の守護者から報告がありましたよ」

「はたまた星はといえば、里にめったに下りないじゃん」

「私はこれでも毘沙門天として人々の信仰の対象となっているんですよ。むやみやたらに里に下りてしまっては、神格が疑われてしまいます」

「今日は降りてきたじゃん」

「今日は、です。それに、里の様子は氷屋に来る道中である程度わかりましたし。後はナズーリンの報告を待ちます」

「だからいつもと違う服装だったんだ」

「あれでは目立ちすぎてしまいますからね。では、帰りにみんなの分のカキ氷を持って帰りますよ」

「ねぇ、私やっぱり味覚がおかしくなっちゃったみたい」



下をペロリと出してかわいさアピールをするぬえにぽかんと固まる星。笑顔なのに、その奥にある悪魔的な目の鋭さを隠そうともせず、私悪巧みして今から実行しまーす、てへ、と誰から見ても明らかにわかる、そんな笑顔に見えてしまった。実際に、そのとおりなので余計たちがわるい。命蓮寺で、ぬえの被害にに遭いやすいランキングの殿堂入りを果たしている星にとっては、そこはかとなくいやな予感しかしない。
レモン味のカキ氷が、一段階すっぱく感じた。もしかしたら、私も味覚障害になっちゃったのかな、と半笑いを浮かべながら毒付いた。


健康診断をなぜか嫌って逃げ回っていたぬえを、一回はしっかりと受けさせてやりたいとは思っていた。思っていたものの、まさかこのタイミングで受ける気になるとは思ってもいなかった。星自身は、カキ氷を食べ終わったらすぐに帰る予定であったので、服装もいつもの神々しく寅を印象付けさせるものから、質素でなんとも貧乏くさい年頃の女の子が着るとは思えないものへとなっている。年頃、とはいってもそれは毘沙門天の弟子としてはまだまだ若輩者であるという表現であるので、厳密には違うだろうが、外見が外見だけ残念な仕上がりとなってしまっているのは否めない。
さすがに、この格好で永遠亭まで歩くのは忍びない。星にだって恥ずかしいという女の子相応の感情は持っている。
持っていても、その感情を戒めるのが星なのだが、今回はその戒めが更なる恥ずかしさへと繋がってしまった。


「どうしてあなたはこう、いつもいつも私をこまらせるようなことしかしないのですか」

「だって、たのしいじゃない。いたずらなんて、当人が楽しいからやってるだけの幼稚で崇高な遊びだもの」

「被害を受ける人の身にもなってください」

「大丈夫。いたずらする人はしっかり選んでいるから」

「その基準は?」

「禁則事項どえす」


星と並んで歩くぬえは、ニッシッシとしてやったりといった感じだ。星も、もうどうにでもなれといった様子で開き直ることにした。
真夏の炎天下の中でも、里の人々は元気に活動をしている。売るもの、働くもの、買うもの、遊ぶもの、世間話から噂話、のろけ話からどうでもいい話、子どもから大人まで、改めていろんな人がいる。ナズーリンの報告である程度は里の情勢は知っているものの、やはりこうして直に自分の眼と耳で触れるというのは、新鮮に感じる。
最近は書物の整理などのデスクワークが多く、なかなか命蓮寺から出ることはなかったので、これはこれでいい機会なのだと視界を広げ、静かに歩いた。
珍しく、ぬえも星にはちょっかいを出すことなく、二人は静かに里の人々を眺めながら道中を進んで行った。
すみません、と声をかけられたのは、あと少しで里を抜けるというところであった。振り返ってみると、紅い長髪の悪魔と金髪の洋風女性という二人組が立っていた。
片方は、頭に蝙蝠の羽に似たものがあったので、妖怪、うん、悪魔であろう。もう片方は、セミロングの金髪に西洋風の衣装、顔立ちもよく女性の二人が見ても美人とたたえるほどの整った顔立ち、まるで、そう人形のような女性だ。
声をかけてきたのは紅い長髪の悪魔らしく、立ち止まって振り返るとおどおどと慌てふためいた。声をかけてきた側がなぜこうも慌てふためくのか、とにかくものすごいテンパリ状態で、見るに見かねたセミロングの女性が代わりに声をかけた理由を話してくれた。
自己紹介で、紅い長髪のほうが小悪魔、セミロングの金髪がアリスということがわかった。一応宴会などでも会ったことがあるらしい、これは申し訳なかったと反省する星も、自己紹介をし、お互いの名前がわかったところで本題へと入った。
星はてっきり、ぬえがまた何か悪さを働いたのかと思っていたが、どうやら用があったのは星の方にであった。疑われたぬえは、ここぞとばかりに星を攻撃、星も疑ってしまったことは事実なので何も言い返せず、アリスの仲裁がなければ永遠亭まで言われ続けていただろう。
さてさて、用件の内容はというと、これまた不思議なもので、体のサイズを測らせてほしいというものであった。


「別にかまいませんが、一体どうするんですか?」

「ちょっとした実験みたいなものよ。私は修行の一環で人形を作っているのだけれども、今度どれだけ本人に似せて作れるのかを試したくなってね。ただ、知り合いにいい被写体がいなかったから。貴方みたいにスタイルのいい被写体に協力してもらっているのよ」

「そうですか。私のようなものでも役に立つのでしたら、喜んで引き受けましょう。ただ、これから少々永遠亭に用事がありますので、すみませんがその後でもよろしいでしょうか?」

「だったら、永遠亭で済ませちゃうわ。そのほうが手っ取り早いでしょう。小悪魔も、それでいいでしょ」

「私は、その、パチュリー様の用件が、達成できれば……」

「らしいから、こっちはいいんだけど、よろしいかしら?」

「こちらもかまいませんよ。ねぇ、ぬえ」

「――――まぁ、いいんじゃなーい?」


こうして、二人から四人へと数を変えて、永遠亭へと向かった。心なしか、ぬえの機嫌が悪くなったように感じた星が、何回かぬえに聞いてみたがなんでもないの一点張りに終わった。まったく、気が利いていない。


永遠亭へとたどり着くと、受付の妖怪ウサギに事情をはなし、ぬえを引き渡して二人と一緒に個室へと向かった。
ぬえがここに来て駄々をこね始めたが、そこは割愛することにする。



「で、散々逃げ回っていた割には、さもあっさりときたわね」

「最後に駄々こねたから、あっさりとではないですよー」

「はいはい。じゃぁ早速はじめるから。うどんげ、準備して。ほら、貴方も上着脱ぎなさい。それとも、その下に何もはいてないとか?」

「そういう発言が、セクハラに繋がるんだよ」

「セクハラしたいからいっているのだもの、最近うどんげの反応もマンネリしてきてね。あれはあれで面白いんだけど」


何言っているんだこの薬師は。後ろのほうでうどんげと呼ばれたウサギ妖怪の小さな尻尾がブルリと震えた。なるほど、これはこれで面白そうであるといたずら好きのぬえはすぐに理解した。
さて、なぜ健康診断をする必要があるのだろうかと思うかもしれないが、一応は理由がある。なにせぬえ達命蓮寺のメンバーのほとんどは長く封印されていたりした妖怪達である。こうして封印もとかれ、幻想郷へと再び現れたとしても長年の封印生活で体のどこかに支障をきたいている可能性もあるため、宴会で知り合った永遠亭に健康診断を頼んだのである。ちなみに、ぬえ以外はすでに終わっており、皆健康であった。
なぜぬえが健康診断を嫌がるのか。それは、ぬえの本質に関係していたりする。正体不明の四文字熟語を冠する妖怪であるぬえが一番嫌うのは、自分の正体が明るみになること。
健康診断でいろいろと調べられるのが嫌なのである。アイデンティティの危機、というやつだ。
何度か星が永遠亭に連れて行こうと試行錯誤したものの、見事にその裏、裏の裏、裏の裏の裏をかき、今日まで逃げてきたのである。


「さっさと終わられてよね。私の存在意義が薄らぐんだから」

「そういえば、鵺ってまだ解剖したことなかったのよね」

「うわ、マッドサイエンティストだ!バイオハザードだ!」

「そう暴れると、本当に解剖しちゃうわよ」



目が笑っていません、本当に怖いです。妖怪といっても、健康診断が特殊になることもなく、身体検査、血液採取、診断といったごくごく普通の内容である。ちなみに、存在意義が薄らいだところでぬえが消える、なんて怪奇現象は起きないらしい。そんなに簡単に存在意義がなくなったら当の昔に絶滅しているとか。
妖怪とは、なんとも不思議な存在である。これは、幻想郷に住まうものなら誰もが知っている常識だ。
健康診断を進めていく中、永琳がぬえに聞いた。どうしていきなり来る気になったのか。いままで散々駄々をこねて逃げていたくせに、と。
医者というのは、とにかく声が優しい。声質、というのか雰囲気、というのか、やわらかさを兼ね備えた独特の音量、患者を安心させるテクニックじゃないだろうか。この永琳は薬師であるけど、医者みたいなもんだ。
だから、どことなく、あまり親しくないのも影響しているのだろう、ぬえの口が緩んだ。


「うちの馬鹿が、これまた面白くってさ~。い~つも難しい顔してるんだ。たまに笑ってるかな~って思ったら、ぜんぜん笑ってないしさ~。苦笑い? 苦し笑い? 嘘笑い? なんていうのかな。とりあえず、馬鹿なんだよ」

「あなたも十分馬鹿なんじゃないの?」

「うちの馬鹿ほどじゃないさ。聖だって村紗だって、一輪だってナズーリンだってみんなに気づかれてんのにさ~。最近に至っては部屋にこもってば~っか。こうして無理やり連れ出してもすぐ帰ろうとするし。こっちの身にもなりやがれって」

「だから、あなたも十分馬鹿だって言っているの」

「なんで?」

「そのお馬鹿さんのために来たくもない健康診断に来たり、そのくせ自分が心配していると気づかれたくないからイタズラでごまかしたり、ね」

「それは違うって。私は、あの馬鹿があたふたとしている姿がとても面白いだけだって。薬師さんとおんなじさ」

「そう、なら私も馬鹿なのかしらね」

「馬鹿が多いのも、今の幻想郷の良さじゃなーいの?」

「あら、できれば私が馬鹿、というところは訂正してほしかったわね」

「い~や~だ~。もしかして自覚ないの~?」

「まさか。私は天才なのよ?」


うどんげ~、と呼ぶ声が広がり名を呼ばれたウサギ妖怪が来ると必要器具を持ってくるよう伝え、ウサギ妖怪もわかりましたと取りに走った。次は血液採取。薬師はとてもうれしそうに、ぬえはその笑顔に若干の不安を感じながが腕を差し出した。
廊下では、測定の終わった星が、おどおどそわそわと何故か心配そうに長いすに座り、健康診断が終わるのを待っていました。もちろん、どうせ心配しているんだろうなぁ、と予想はついていたぬえは、今度はどんなイタズラをしようか考えることで、この薬師のスマイルを見なかったことにした。

そうだ、帰りは買い物をして、夕食を手伝ってやろう。



今日も、幻想郷はまだまだあついです。
ぬえ「星のお着替えの写真、ほっしいひと~!!!」

命蓮寺一同「よろしい!!ならば弾幕だ!!!!!!!!」

ぬえ「それじゃあ生写真をかけてバトルロアイヤル弾幕戦第13回!!!!スタート!!!!」


その後、星が部屋から出てくるまでの数時間、激しいバトルロアイヤルが続きました。そしてもちろん、すぐに一同星に説教されました。


季節はずれでごめんなさい。
お久しぶりです。レイシェンです。

今回は、星とぬえの夏のお話です。もちろん、最初は夏のころに考えてたんですが、なんだかんだでここまでながながとおなっちゃいました。
星は、まだまだ過去を引きづっていそうなかんじで、ぬえはぬえであまのじゃくな感じです。
最近、会話のやりとりを書くのが楽しいんですが、反面字の文が雑になりかけたりしてます。
なんとか、しなくちゃなぁ

結構途中まで書いててほっぽりだしちゃったものがあったりするので、まずはそれらを片付けたい今日この頃です。


ではまたノシ
レイシェン
http://cidering.blog45.fc2.com/
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コメント



0.610簡易評価
5.80奇声を発する程度の能力削除
>幻想卿
一箇所だけなってました
ぐだったぬえちゃん可愛いよ
9.90名前が無い程度の能力削除
ぬえぬえ
15.100名前が無い程度の能力削除
寒気がブルルッとしました。何故、かき氷の描写を細かくしたしww 今日の日本は寒いです。
ぬえぬえーの言動が可愛いですねっ!
なるほど、星ちゃんとぬえをそうやって絡ませますかっ! 有りです! 大有りです!
16.無評価レイシェン削除
感想、コメントありがとうございます。
あらら、誤字かぁ、やっぱりかぁ、悔しい……でも、感じ、ませんよ!

さて、ぬえがかわゆく伝わってよかったです。
一応、躊躇はしましたが、真夏の気分で冬の寒さを吹き飛ばしてもらおうと思って投稿。

結果、かき氷で身も凍り、なんとも、ねぇ。

次は、ちょっと長編、かまた短編か、とにかくみなさんに楽しんでもらえる作品を書きたいと思います。


誤字、無くそう、本当に。