うちのペットが異変を起こして以来、封印された地底の妖怪も少しずつだけど地上の者と交流するようになった。
でも、覚り…忌み嫌われた地底の妖怪からすらも疎んじられる、私のような妖怪が地上に出たところで、決して楽しいことにはならないだろう。
出会った妖怪はもちろん、この私自身も。
とはいえ、お燐や空、放浪癖のあるうちの妹から地上の土産話を聞いている内に、一度くらいは外の世界を散策してみようかなと魔が差してしまったのだ。
実は少しだけ興味のある人物がいる。紅い悪魔レミリア・スカーレット、幻想郷にやって来て程なく一大勢力となった吸血鬼の一人である。
鬼の力を持ち、天狗のスピードを誇り、そのうえ運命まで操るというとんでもない大妖怪…らしい。
魑魅魍魎の跋扈する幻想郷といえども西洋妖怪は珍しい、一度くらい見ておいて損はないだろうと思う。
一応、以前博霊神社へ遊びに行った空が見かけたと言っていたけど、何せあの子は鳥頭だからあまり覚えていなさそうだったし、話も支離滅裂でよくわからなかった。
しかし断片的な情報からでも、それ程凶暴な妖怪でもなさそうな印象ではあった…あまり当てにはならないけど。
そんなわけで私は、期待と不安の入り混じった中、レミリア・スカーレットが棲むという有名な紅魔館というお屋敷までやって来たわけだ。
湖の畔に堂々と建つ窓の少ない真っ赤な洋館…いくら紅い悪魔が棲む家だからって、外観まで真っ赤にする必要はないでしょうに。
この館の主人はちょっと単純なのかしら?いやいや、会う前からそんな事を考えるのはちょっと失礼だわ。
さて、館に入れてもらうにはどうしたものかと考えながら紅魔館の正面へグルリと回ると、門の前にはエキゾチックな感じの民族衣装に身を包んだ門番らしき女性が立っていたのだが
美鈴「・・・・・・。」
門番は端正な顔立ちをキリッと引き締め、真剣な表情で…漫画を読んでいた。
さとり「あの、もし・・・」
美鈴「!?・・・っはい!!え?いえ、違います!!」
何が違うのだろうか?必要以上に慌てふためいた門番は、慌てて読んでいた漫画本を自分の背に隠し、改まった表情でこちらへ向き直した。
美鈴「おほん、えー・・・何か御用でしょうか?」
さとり「えぇ、あの実は・・・」
私が覚りだって事は言わない方がいいかしら?心が読める妖怪なんて、どうせ気味悪がられて門前払いされるものね。
自分が地霊殿の覚りである事以外は正直に経緯を話すと、門番―紅美鈴というらしい―は多少表情を和らげたが、私が地底の妖怪という事もあって依然警戒しているようだった。
初対面の印象でこの門番は不真面目な人物かと思っていたが、どうやら根は真面目らしい。お嬢様、おそらくレミリア・スカーレットの事も随分慕っているみたいだ。
成程、その漫画本もお嬢様から借りた物なの。ふぅん、門番とも結構フランクな仲みたいね。
美鈴「うぅむ・・・わざわざ地底からお越しいただいたとはいえ、素姓のわからない人をお嬢様には・・・」
さとり「お土産の温泉卵があるんですけど、よかったらおひとつどうですか?」
美鈴「えっ?あ、ありがとうございます」
どうやらお腹が空いているらしい門番に温泉卵を差しだしてみると、彼女は(善い人…善い人…)と心の中で連呼しながらモグモグと食べ始めた。
美鈴「いや、ちょうどお腹が空いていたんで助かりました!」
さとり「どういたしまして」
美鈴「あ、ちょっと中でお嬢様にお会い出来るか聞いてきますね!」
さとり「ありがとうございます」
うーん、いい人なんだけど抜けてるなぁ。門番がこんなにザルで大丈夫なのかしら?
待つこと数分、両腕で頭上に大きな丸を描いたポーズの門番が笑顔で戻ってきた。なんだか事が旨く進みすぎている気もするけど、まぁいっか。
綺麗にお手入れされた西洋風の庭を抜けると、紅い館の大きな正面扉の前に一人の銀髪メイドが立っていた。驚いた事にただの人間みたい。
いえ、ただの人間じゃないわね。え、時を操る?それって本当に人間なの?
咲夜「初めまして、当紅魔館のメイド長を務めております、十六夜咲夜と申します」
さとり「初めまして、古明地さとりです」
咲夜「あら、古明地さとりさん?以前どこかで名前を・・・」
さとり「?」
あぁ、成程。以前うちに押し掛けてきた黒白の盗賊が会話してた地上の魔女はこの館の住人なのね。
しまったな、私がさとりだってバレちゃうかしら?
咲夜「すいません、私の思い違いですわ。ではこちらへ・・・」
どうやらメイドは魔女から地底の話を聞いたけど、詳しい事は忘れてるみたいね。
紅魔館の中は見た目以上に広い。どうやらこの十六夜咲夜とかいうメイドが能力を使って空間を広げているようだ。
途中、例の魔女と鉢合わせしないかと内心ドキドキしてたけど、どうやら図書館で魔法の研究に没頭しているみたいだ。
それにしてもなんて騒がしいのかしら、たくさんのメイド姿の妖精たちがロクに働きもせずに騒いでいる。
メイド長も特に気にしていないようだし、多分これがこの館の日常的な風景なのだろう。
咲夜「お嬢様は一度地底の妖怪と話がしてみたいと仰っていましたわ」
さとり「光栄です。私のような者で良ければ、いくらでも地底の話をしますよ」
このメイド、物腰は柔らかいけど全く隙がない。しかも全身至る所に、大小様々なナイフを隠し持っているようだ。
考えれば当然の事、私のような怪しい地底妖怪がいきなり訪ねて来れば警戒しない方がおかしい。
え?少しでも妙な動きをしたら即首を刎ねるですって?近頃会う人間は物騒な人ばかりね。
全く気の休まらない雑談をしながら長い長い廊下を進むと、メイドは豪奢な装飾の施された扉の前で立ち止まった。
咲夜「お嬢様、お客様をお連れしました」
レミリア「ごくろうさま、入ってちょうだい」
少しだけ心臓の鼓動が速くなった。吸血鬼、紅い悪魔、レミリア・スカーレット。一体どんな人なのかしら?
咲夜「失礼します」
メイドが扉を開ける。果たしてその部屋にいた人物は…
レミリア「よく来たわね地底の妖怪さん」
小さい!思わずそう言いそうになって、慌てて口をつぐむ。そこにいたのは、見た目が10歳にも満たないような女の子だったのだ。
しかし、寒気がするような並々ならぬ妖気と、可愛らしい少女の外見とは不釣り合いに大きい蝙蝠の様な羽を見れば、彼女が吸血鬼レミリア・スカーレット本人であることは一目瞭然だ。
さとり「初めまして、古明地さとりと申します」
魔女は間違いなくレミリアにも地底の話をしているだろう。本当ならここで本名を名乗らない方が良いのだろうが、隣に控えるメイドには既に名乗ってしまった以上仕方ない。
まぁレミリア本人をこうして見ることは出来たわけだし、別に今すぐ追い出されても諦めもつくというものだ。
ところが、当のレミリアの口から出たのはあまりにも意外な言葉だった。
レミリア「ちっさい」
さとり「は?」
え?何、ちっさい?私が?意表を突いた台詞に私が若干混乱していると
レミリア「封印されてた地底の妖怪っていうから、もっとゴツくて強そうなのが来ると思っていたわ」
あろうことか、レミリアは魔女の話など綺麗さっぱり忘れていた。どうやら話半分で聞いていたようだ。
それにしても初対面の相手にちっさいですって?あなたにだけは言われたくありません!
さとり「まぁ、地底の妖怪といっても色々いますから」
レミリア「ふぅん」
そこからはとにかく質問攻めの嵐だった。地底はどんな所か、どんな妖怪がいるのか、街はあるのか、名物は、とにかくキリがない。
彼女は好奇心の塊だった。そして恐ろしく思考のスピードが速い、話があちこちに飛び、しかも同時に別の事も考えているようだ。
台風の様に目まぐるしい思考回路で、かなり集中していないと心を読めない。ひょっとして私が覚りだって気づいてわざとやってるのかしら?
単純かと思ったけど、案外食えない人なのかもしれない。いや、実際単純な性格なのは間違いないのだろうけど。
思ったことはすぐ口に出すし、自己中心的で見栄っ張り、だけど本当のところ何を考えているのかわからない。
わからない?私が?
レミリア「ところであなた、本当はただの妖怪じゃないんでしょう?」
さとり「え?」
やはり気づかれていたのか。心の流れが速くて、いつ疑惑を持たれたのかわからなかった。
どうしよう…ここでネタばらししないと、もう言い出すきっかけがなくなってしまいそう。
私が覚りだと知ったら、彼女はどう思うだろう?何せ今この瞬間も心を読まれているのだ、不愉快な気分になるに違いない。
怒るかしら?いきなり殴られるかもしれない。やっぱり追い出されるのかな。
困った。そう、私は困ってしまったのだ。
思ったことはすぐ口に出すし、自己中心的で見栄っ張り、だけど愛嬌があってどこか不思議な魅力のあるこの吸血鬼のことが…
さとり「私は・・・」
私はわりと嫌いじゃないみたい。
もう少し話をしてみたいな。どんな事を考えてるのか知りたい。変かしら?
でも多分、これ以上の嘘はお互いにとって良い事にはならないだろう。
さとり「私は旧灼熱地獄の管理を任されている地霊殿の覚り・・・心を読む妖怪です」
レミリア「お腹が空いたわ!咲夜、食事の用意をしてちょうだい!」
さとり「えぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!?」
レミリア「何?そんな大きい声を出して。あなたも食べていくでしょう?」
さとり「あ、はぁ・・・」
何なの!?私の決死の覚悟よりご飯が大事なの?もっと先に気にすべき事があるでしょう?
あぁ、でもここは安心するところなのかしら?なんだか頭の中がごちゃごちゃしてよくわからなくなってきた。
さとり「あの、私は心を・・・」
レミリア「私は運命が読めるわ。どう?私の方が凄いでしょう」
それは凄い。凄いけど本当かしら?心を読んで真偽を確かめようとしても、当のレミリアは既に食事の事しか考えていない。
いや、同時に食後はトランプをしようかチェスをしようかとも考えている。だから私は覚りだって言ってるのに。
え?明日は神社に行くんですか、そうですか。本当に子供みたいな人、私がこの人の思考に引きずりまわされちゃうわ。
よく考えればレミリアは運命を操る能力を持っているのだ。他人の運命が視えたって不思議ではない。
でも、このゴミ山みたいに積み上げられた心の中から、事の真相を引きずり出すのは至難の業だ。
どうしようかしら?相手の心がわからない時、どうやって相手の事を知ればいいの?
そう、例えばこいし。心が読めない妹と接する時には…
さとり「レミリアさん、あなたは運命が操れるのですか?」
直接言葉で聞けばいい。そんな簡単な事を忘れそうになるのは、私が覚りだから仕方ないのだ。
そういえばレミリアは少しこいしに似ている所がある気がする。まぁうちの妹はこんなに我儘じゃないけれど。
レミリア「もちろん操れるわ」
さとり「今ここで使えますか?」
レミリア「もう使ってるわ」
さとり「え?」
レミリア「私は楽しい事が好きなの。だから私の周りで楽しい事が起こるように運命を操っているのよ」
レミリアはちっちゃい身体でめいっぱいふんぞり返って、自信満々に言い放った。
偉そうだけど、羽をピンと広げて自分を一生懸命大きく見せているのがたまらなく可愛らしい。
さとり「それは、凄いことですね」
レミリア「えぇ、凄いことなのよ」
結局、レミリアが本当に運命を操っているのかはよくわからないし、確認しようとも思わない。
でも、この人といれば何か素敵な事が起こりそうな予感がするのは間違いない。
それからの時間も本当に楽しかった。
食事の時に顔を出した魔女は私の顔を見て少し嫌そうな顔をしたけど、特に何も言わなかった。
どうやら彼女はどんな相手に対しても同じように嫌そうな顔をするみたいだけど、本心では他人と話すのが大好きな寂しがり屋さん。
自分は食事をしなくてもいいのに毎日食卓へやって来るのも、誰かと話がしたいからなのね。
まぁその事を本人に指摘したら、怒って図書館へ引っ込んでしまったけれど。それを見たレミリアは大笑いしていたわ。
紅魔館では少し様子を見るだけの予定だったのに、すっかり長居してしまった。
深夜、地霊殿への帰り道、地底では見ることが出来ない美しい星空と月を眺めながら、私は今日出会った不思議な吸血鬼の事を思い出す。
変な人。終始振り回されっぱなしで大変だった。我儘だし、何を考えいるのか全然わからない。
わからない。
そんな言葉を自分の中に見つけて、思わず声を出してふふっと笑ってしまった。
こいし「あれ?お姉ちゃんが地上にいるなんて珍しいね!しかも何だか楽しそう」
いつの間にか隣りには、神出鬼没な我が妹がいた。何を考えているのかわからない私の妹。
こいし「どうしたの?何を笑っていたの?」
さとり「私ね、わかんないの」
そう言ってまたクスクスと笑いだした私を見て、妹は怪訝そうな顔をしていた。
こいし「わかんない?何言ってるのか私がわかんないわ、ねぇ」
さとり「あはは、わかんなーい」
ふと、妹がレミリアと会ったらどんな話をするのか気になった。
そうだ、今度レミリアに会う時はこいしを連れて行ってみよう。どうなるだろう?
そんな事を考えながら、私は隣を歩く妹に、今日友達になったおかしな吸血鬼の事を話し始めるのだった。
でも、覚り…忌み嫌われた地底の妖怪からすらも疎んじられる、私のような妖怪が地上に出たところで、決して楽しいことにはならないだろう。
出会った妖怪はもちろん、この私自身も。
とはいえ、お燐や空、放浪癖のあるうちの妹から地上の土産話を聞いている内に、一度くらいは外の世界を散策してみようかなと魔が差してしまったのだ。
実は少しだけ興味のある人物がいる。紅い悪魔レミリア・スカーレット、幻想郷にやって来て程なく一大勢力となった吸血鬼の一人である。
鬼の力を持ち、天狗のスピードを誇り、そのうえ運命まで操るというとんでもない大妖怪…らしい。
魑魅魍魎の跋扈する幻想郷といえども西洋妖怪は珍しい、一度くらい見ておいて損はないだろうと思う。
一応、以前博霊神社へ遊びに行った空が見かけたと言っていたけど、何せあの子は鳥頭だからあまり覚えていなさそうだったし、話も支離滅裂でよくわからなかった。
しかし断片的な情報からでも、それ程凶暴な妖怪でもなさそうな印象ではあった…あまり当てにはならないけど。
そんなわけで私は、期待と不安の入り混じった中、レミリア・スカーレットが棲むという有名な紅魔館というお屋敷までやって来たわけだ。
湖の畔に堂々と建つ窓の少ない真っ赤な洋館…いくら紅い悪魔が棲む家だからって、外観まで真っ赤にする必要はないでしょうに。
この館の主人はちょっと単純なのかしら?いやいや、会う前からそんな事を考えるのはちょっと失礼だわ。
さて、館に入れてもらうにはどうしたものかと考えながら紅魔館の正面へグルリと回ると、門の前にはエキゾチックな感じの民族衣装に身を包んだ門番らしき女性が立っていたのだが
美鈴「・・・・・・。」
門番は端正な顔立ちをキリッと引き締め、真剣な表情で…漫画を読んでいた。
さとり「あの、もし・・・」
美鈴「!?・・・っはい!!え?いえ、違います!!」
何が違うのだろうか?必要以上に慌てふためいた門番は、慌てて読んでいた漫画本を自分の背に隠し、改まった表情でこちらへ向き直した。
美鈴「おほん、えー・・・何か御用でしょうか?」
さとり「えぇ、あの実は・・・」
私が覚りだって事は言わない方がいいかしら?心が読める妖怪なんて、どうせ気味悪がられて門前払いされるものね。
自分が地霊殿の覚りである事以外は正直に経緯を話すと、門番―紅美鈴というらしい―は多少表情を和らげたが、私が地底の妖怪という事もあって依然警戒しているようだった。
初対面の印象でこの門番は不真面目な人物かと思っていたが、どうやら根は真面目らしい。お嬢様、おそらくレミリア・スカーレットの事も随分慕っているみたいだ。
成程、その漫画本もお嬢様から借りた物なの。ふぅん、門番とも結構フランクな仲みたいね。
美鈴「うぅむ・・・わざわざ地底からお越しいただいたとはいえ、素姓のわからない人をお嬢様には・・・」
さとり「お土産の温泉卵があるんですけど、よかったらおひとつどうですか?」
美鈴「えっ?あ、ありがとうございます」
どうやらお腹が空いているらしい門番に温泉卵を差しだしてみると、彼女は(善い人…善い人…)と心の中で連呼しながらモグモグと食べ始めた。
美鈴「いや、ちょうどお腹が空いていたんで助かりました!」
さとり「どういたしまして」
美鈴「あ、ちょっと中でお嬢様にお会い出来るか聞いてきますね!」
さとり「ありがとうございます」
うーん、いい人なんだけど抜けてるなぁ。門番がこんなにザルで大丈夫なのかしら?
待つこと数分、両腕で頭上に大きな丸を描いたポーズの門番が笑顔で戻ってきた。なんだか事が旨く進みすぎている気もするけど、まぁいっか。
綺麗にお手入れされた西洋風の庭を抜けると、紅い館の大きな正面扉の前に一人の銀髪メイドが立っていた。驚いた事にただの人間みたい。
いえ、ただの人間じゃないわね。え、時を操る?それって本当に人間なの?
咲夜「初めまして、当紅魔館のメイド長を務めております、十六夜咲夜と申します」
さとり「初めまして、古明地さとりです」
咲夜「あら、古明地さとりさん?以前どこかで名前を・・・」
さとり「?」
あぁ、成程。以前うちに押し掛けてきた黒白の盗賊が会話してた地上の魔女はこの館の住人なのね。
しまったな、私がさとりだってバレちゃうかしら?
咲夜「すいません、私の思い違いですわ。ではこちらへ・・・」
どうやらメイドは魔女から地底の話を聞いたけど、詳しい事は忘れてるみたいね。
紅魔館の中は見た目以上に広い。どうやらこの十六夜咲夜とかいうメイドが能力を使って空間を広げているようだ。
途中、例の魔女と鉢合わせしないかと内心ドキドキしてたけど、どうやら図書館で魔法の研究に没頭しているみたいだ。
それにしてもなんて騒がしいのかしら、たくさんのメイド姿の妖精たちがロクに働きもせずに騒いでいる。
メイド長も特に気にしていないようだし、多分これがこの館の日常的な風景なのだろう。
咲夜「お嬢様は一度地底の妖怪と話がしてみたいと仰っていましたわ」
さとり「光栄です。私のような者で良ければ、いくらでも地底の話をしますよ」
このメイド、物腰は柔らかいけど全く隙がない。しかも全身至る所に、大小様々なナイフを隠し持っているようだ。
考えれば当然の事、私のような怪しい地底妖怪がいきなり訪ねて来れば警戒しない方がおかしい。
え?少しでも妙な動きをしたら即首を刎ねるですって?近頃会う人間は物騒な人ばかりね。
全く気の休まらない雑談をしながら長い長い廊下を進むと、メイドは豪奢な装飾の施された扉の前で立ち止まった。
咲夜「お嬢様、お客様をお連れしました」
レミリア「ごくろうさま、入ってちょうだい」
少しだけ心臓の鼓動が速くなった。吸血鬼、紅い悪魔、レミリア・スカーレット。一体どんな人なのかしら?
咲夜「失礼します」
メイドが扉を開ける。果たしてその部屋にいた人物は…
レミリア「よく来たわね地底の妖怪さん」
小さい!思わずそう言いそうになって、慌てて口をつぐむ。そこにいたのは、見た目が10歳にも満たないような女の子だったのだ。
しかし、寒気がするような並々ならぬ妖気と、可愛らしい少女の外見とは不釣り合いに大きい蝙蝠の様な羽を見れば、彼女が吸血鬼レミリア・スカーレット本人であることは一目瞭然だ。
さとり「初めまして、古明地さとりと申します」
魔女は間違いなくレミリアにも地底の話をしているだろう。本当ならここで本名を名乗らない方が良いのだろうが、隣に控えるメイドには既に名乗ってしまった以上仕方ない。
まぁレミリア本人をこうして見ることは出来たわけだし、別に今すぐ追い出されても諦めもつくというものだ。
ところが、当のレミリアの口から出たのはあまりにも意外な言葉だった。
レミリア「ちっさい」
さとり「は?」
え?何、ちっさい?私が?意表を突いた台詞に私が若干混乱していると
レミリア「封印されてた地底の妖怪っていうから、もっとゴツくて強そうなのが来ると思っていたわ」
あろうことか、レミリアは魔女の話など綺麗さっぱり忘れていた。どうやら話半分で聞いていたようだ。
それにしても初対面の相手にちっさいですって?あなたにだけは言われたくありません!
さとり「まぁ、地底の妖怪といっても色々いますから」
レミリア「ふぅん」
そこからはとにかく質問攻めの嵐だった。地底はどんな所か、どんな妖怪がいるのか、街はあるのか、名物は、とにかくキリがない。
彼女は好奇心の塊だった。そして恐ろしく思考のスピードが速い、話があちこちに飛び、しかも同時に別の事も考えているようだ。
台風の様に目まぐるしい思考回路で、かなり集中していないと心を読めない。ひょっとして私が覚りだって気づいてわざとやってるのかしら?
単純かと思ったけど、案外食えない人なのかもしれない。いや、実際単純な性格なのは間違いないのだろうけど。
思ったことはすぐ口に出すし、自己中心的で見栄っ張り、だけど本当のところ何を考えているのかわからない。
わからない?私が?
レミリア「ところであなた、本当はただの妖怪じゃないんでしょう?」
さとり「え?」
やはり気づかれていたのか。心の流れが速くて、いつ疑惑を持たれたのかわからなかった。
どうしよう…ここでネタばらししないと、もう言い出すきっかけがなくなってしまいそう。
私が覚りだと知ったら、彼女はどう思うだろう?何せ今この瞬間も心を読まれているのだ、不愉快な気分になるに違いない。
怒るかしら?いきなり殴られるかもしれない。やっぱり追い出されるのかな。
困った。そう、私は困ってしまったのだ。
思ったことはすぐ口に出すし、自己中心的で見栄っ張り、だけど愛嬌があってどこか不思議な魅力のあるこの吸血鬼のことが…
さとり「私は・・・」
私はわりと嫌いじゃないみたい。
もう少し話をしてみたいな。どんな事を考えてるのか知りたい。変かしら?
でも多分、これ以上の嘘はお互いにとって良い事にはならないだろう。
さとり「私は旧灼熱地獄の管理を任されている地霊殿の覚り・・・心を読む妖怪です」
レミリア「お腹が空いたわ!咲夜、食事の用意をしてちょうだい!」
さとり「えぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!?」
レミリア「何?そんな大きい声を出して。あなたも食べていくでしょう?」
さとり「あ、はぁ・・・」
何なの!?私の決死の覚悟よりご飯が大事なの?もっと先に気にすべき事があるでしょう?
あぁ、でもここは安心するところなのかしら?なんだか頭の中がごちゃごちゃしてよくわからなくなってきた。
さとり「あの、私は心を・・・」
レミリア「私は運命が読めるわ。どう?私の方が凄いでしょう」
それは凄い。凄いけど本当かしら?心を読んで真偽を確かめようとしても、当のレミリアは既に食事の事しか考えていない。
いや、同時に食後はトランプをしようかチェスをしようかとも考えている。だから私は覚りだって言ってるのに。
え?明日は神社に行くんですか、そうですか。本当に子供みたいな人、私がこの人の思考に引きずりまわされちゃうわ。
よく考えればレミリアは運命を操る能力を持っているのだ。他人の運命が視えたって不思議ではない。
でも、このゴミ山みたいに積み上げられた心の中から、事の真相を引きずり出すのは至難の業だ。
どうしようかしら?相手の心がわからない時、どうやって相手の事を知ればいいの?
そう、例えばこいし。心が読めない妹と接する時には…
さとり「レミリアさん、あなたは運命が操れるのですか?」
直接言葉で聞けばいい。そんな簡単な事を忘れそうになるのは、私が覚りだから仕方ないのだ。
そういえばレミリアは少しこいしに似ている所がある気がする。まぁうちの妹はこんなに我儘じゃないけれど。
レミリア「もちろん操れるわ」
さとり「今ここで使えますか?」
レミリア「もう使ってるわ」
さとり「え?」
レミリア「私は楽しい事が好きなの。だから私の周りで楽しい事が起こるように運命を操っているのよ」
レミリアはちっちゃい身体でめいっぱいふんぞり返って、自信満々に言い放った。
偉そうだけど、羽をピンと広げて自分を一生懸命大きく見せているのがたまらなく可愛らしい。
さとり「それは、凄いことですね」
レミリア「えぇ、凄いことなのよ」
結局、レミリアが本当に運命を操っているのかはよくわからないし、確認しようとも思わない。
でも、この人といれば何か素敵な事が起こりそうな予感がするのは間違いない。
それからの時間も本当に楽しかった。
食事の時に顔を出した魔女は私の顔を見て少し嫌そうな顔をしたけど、特に何も言わなかった。
どうやら彼女はどんな相手に対しても同じように嫌そうな顔をするみたいだけど、本心では他人と話すのが大好きな寂しがり屋さん。
自分は食事をしなくてもいいのに毎日食卓へやって来るのも、誰かと話がしたいからなのね。
まぁその事を本人に指摘したら、怒って図書館へ引っ込んでしまったけれど。それを見たレミリアは大笑いしていたわ。
紅魔館では少し様子を見るだけの予定だったのに、すっかり長居してしまった。
深夜、地霊殿への帰り道、地底では見ることが出来ない美しい星空と月を眺めながら、私は今日出会った不思議な吸血鬼の事を思い出す。
変な人。終始振り回されっぱなしで大変だった。我儘だし、何を考えいるのか全然わからない。
わからない。
そんな言葉を自分の中に見つけて、思わず声を出してふふっと笑ってしまった。
こいし「あれ?お姉ちゃんが地上にいるなんて珍しいね!しかも何だか楽しそう」
いつの間にか隣りには、神出鬼没な我が妹がいた。何を考えているのかわからない私の妹。
こいし「どうしたの?何を笑っていたの?」
さとり「私ね、わかんないの」
そう言ってまたクスクスと笑いだした私を見て、妹は怪訝そうな顔をしていた。
こいし「わかんない?何言ってるのか私がわかんないわ、ねぇ」
さとり「あはは、わかんなーい」
ふと、妹がレミリアと会ったらどんな話をするのか気になった。
そうだ、今度レミリアに会う時はこいしを連れて行ってみよう。どうなるだろう?
そんな事を考えながら、私は隣を歩く妹に、今日友達になったおかしな吸血鬼の事を話し始めるのだった。
物語については破綻も無くきっちりと最後まで読むことが出来ました。
内容については大変失礼ながら、ありがちという印象は否めませんね。
ただ、作者様の「こんなさとりやレミリアを書きたい!」という熱が作品から伝わってくるような気がして、
なんというか嬉しい気持ちになりました。
作者様の自由で結構だとは思うのですが、個人的には会話文の頭に人物名は必要ない気がします。
無くても誰の台詞かはきちんと判りますしね。
断言は出来ないのですが、創想話では台本形式があまり好まれていない節があるように思えますので。
『名は体を表す』という諺通りの、一直線で力強い妄想の具現化を今後も期待しております。
わがままなのに格好良く見える。
さとりとレミリアの交流もこの後どうなっていくのかすごく楽しみ
ただ、他の方も書いてるが台詞の前の名前の表記はやめた方がいいと思う。
次の作品も楽しみにしています。
次も期待してます。
またこの二人を書いてくれると嬉しいなあ
これまた素晴らしい、応援しています、どんどんやっちゃってください