「「うあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」」
悲鳴をあげながら爆走する2人の少女。
慧音と妹紅。
抱えているのはデカいタケノコ。
自身の半分くらいの大きさのタケノコを抱え必死に逃走する。
その少女たちの後ろを追うのは。
相手を圧倒するデカさのイノシシ。
荒い鼻息。
大地を揺るがす振動。
芯から震え上がらせるような咆哮。
そのイノシシから必死に逃走をする2人の少女。
タケノコ抱えて。
◇ ◇ ◇
「け、慧音ーーーーーー!!」
「頑張れ妹紅!もうすぐ人里だぞ!!」
人里に辿り着いた後のイノシシの対処なんて全然頭に入ってない2人が叫ぶ。
ともかく。
人里まであともう少し。
己の全てを賭けて全力で逃げる。
そんな必死な2人の前に。
「あら、妹紅じゃない。こんな所で何をしているの?また私に八つ裂きにされに「輝夜ーーー!コレ持てぇぇぇぇええええ!!」え、何コレ?タケノコ?ちょっと、こんなもの持たし「輝夜!走れーーー!!」ちょっと、慧音まで何を言って・・・。キャァァァァァァアアアアアアアアア!!?」
ここは迷いの竹林。
たまたまそこを散策していた輝夜。
いきなり現れた宿敵と、その相棒。
そして、タケノコ。
そして後ろから迫ってくるのは。
「な、な、な、何よおぉぉぉおおおお!?あのデカいイノシシは!?しかも3匹も!!」
「さ、3匹!?テメェ何言ってやがる!後ろから追ってきてるのは」
「も、妹紅!!い、一匹!一匹増えてる!!」
いつの間にやら増えているイノシシ。
さらに加速して必死な形相で逃げる2人。
巻き込まれた、ぐや。
「何よ何よ何よ!なんで私がこんなことに巻き込まれないといけないのよ!ちょっと妹紅!このタケノコ」
「つべこべ言わずに走れバカ!お前いくら不死だからってアレに突き飛ばされたら」
「ふざけんじゃないわよ!私が何であなたたちの面倒ごとに」
「今はケンカしている場合じゃないぞ!後でタケノコ料理振舞ってやるから全力で逃げろぉぉぉ!!」
「くっ、仕方ないわね!私はタケノコ御飯大盛りよ!」
「案外あっさり承諾したな・・・」
タケノコ料理好きだったのか。
◇ ◇ ◇
なんとか巨大イノシシを振り切った3人。
もう身も心も限界寸前の3人の瞳に写ったのは。
「おぉ、人里の入り口だ」
「た、助かった」
「なんで・・・、私がこんな目に」
それぞれ思うところはあるだろうが、無事に人里に着いた。
もう安心だ。
ホッと息をつき、人里に足を踏み入れた。
だが。
そこは。
異界だった。
巨大化した人間。
筋肉質な太い手足。
分厚い胸板。
狂ったんじゃねぇか、といった感じのモヒカン頭。
そこはまさに。
世紀末だった。
「I'mはショック!!」
「落ち着け、慧音!!」
今まで守ってきた大切な場所。
そして大切な人たち。
その皆が暑苦しいゴツイ巨体になってしまったことにパニくる慧音。
必死に宥める妹紅。
もはや頭がついていってない輝夜。
いろんな意味で、阿鼻叫喚だった。
◇ ◇ ◇
「仕方ない。この異変を解決してもらうために、博麗の巫女の所にいくぞ」
落ち着きを取り戻した慧音。
この人里の状況。
明らかに異変だろう。
ただ。
「ねぇ。人里の守護者がいきなり人里の異変を霊夢に丸投げってどうなのよ?」
「たぶん、まだ少しパニくってるな」
自身の使命を忘却の彼方へと追いやってしまった人里の守護者。
それを少し心配そうに見つめる2人。
「さあ、いくぞ2人とも」
人里の人間の変容から若干目を背けて勇ましく号令をかける慧音。
「しゃーね。私らも協力してやるか」
「結局、私は巻き込まれたままなのね」
その後ろをブツブツ言いながら着いて行く。
目指すは博麗神社。
異変解決のスペシャリスト、博麗霊夢。
少し疲れきった顔で、人里を後にする。
勿論、タケノコを抱えたまま。
◇ ◇ ◇
人里から博麗神社までの道を進む3人。
だが、おかしい。
あまりにも静かすぎる。
ここら辺は妖怪が多い。
博麗神社にあまりまともな参拝客が来ない理由の一つでもある。
なのに。
「なんか、気配が無さすぎることないか?」
「うむ、妖怪がいない。そんな感じがする」
「私はあまり気にしないタイプだけど。こうも静かすぎると逆に不気味ね」
神経を研ぎ澄ませて歩く。
だが、妖怪どころか生き物の気配すら無い。
不自然すぎる。
何時にない違和感に、逆に警戒を高める。
その違和感の正体。
ソレが。
3人の前に立ちふさがった。
ズンッ!!
その地響きと共に現れたのは、巨体。
それは、先ほどのイノシシとは比べ物にならない。
圧倒的な威圧感を放って現れたソレは。
「・・・バッタか」
「うむ、バッタだな」
デカすぎる、バッタだった。
しかもトノサマバッタ。
長い後ろ足。
昆虫独特の複眼。
緑色。
ただバッタがデカくなりすぎただけとも言っていい。
だが、それでも脅威に見える。
踏み潰されてでもしたら一溜まりもないだろう。
恐らく。
周りに生き物の気配がしないのは、コイツを恐れてのことだろう。
そんな突然の来訪者にポカンとしている2人。
「なぁ、輝夜。お前こんなデカいバッタ見たこと・・・?」
何気なく輝夜に問いかけてみた妹紅。
その視線の先には。
「輝夜?」
「どうかしたのか、輝夜?」
全く微動だにしない輝夜が気になって声をかける2人。
ただ。
顔は青白く。
若干ではあるが、身体が震えている。
「おい、どうした輝夜。お前なに黙って」
そう妹紅が言った瞬間。
「き、き、き、キャァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!」
絶叫。
まるで会ってはならないものに遭遇してしまったと言わんばかりに。
瞳に大粒の涙を溜め、力一杯叫ぶ。
そしてそのまま全力で駆け出していく。
「お、おい!輝夜!」
「よく分からんが、追うぞ!」
慌てて後を追う2人。
それと同時に。
3人を獲物と認識したか。
バッタが凄まじいスピードの跳躍で迫ってきた。
◇ ◇ ◇
全力で逃げる3人。
一歩前を出て走るのは輝夜。
キャーキャー叫びながら必死の形相で逃げる。
普段の落ち着いており、余裕を感じさせる月の姫の姿は、そこには無い。
「い、一体どうしたんだ!?何をそんなに」
「わ、わ、わ・・・!」
「わ!?わ、がどうしたというのだ!?」
そして。
今まで必死に我慢していたものを一気に吐き出すかの如く。
「わ、私!バッタ苦手なのよぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
・・・。
・・。
「知っていたか、妹紅?」
「知るか」
輝夜の好き嫌いはともかく。
あの巨大バッタが脅威であることは変わりない。
向こうの方が若干速い。
追いつかれるのも時間の問題だろう。
「そ、そうだ!」
全力で走りながら、何かを思い出したかのように叫ぶ慧音。
「妹紅!お前、閃光弾持ってなかったか!?」
「・・・あ!」
実は妹紅。
最近、突然思いついたかのように閃光弾やら樽爆弾やらを作っていたのだ。
そして、今その懐には。
「ある!1個だけ閃光弾が!」
「よし、相手の顔面目掛けて投げるんだ!」
「無理!タケノコ抱えてるし!」
「じゃあ、懐から落として蹴るんだ!蹴鞠得意だろ!」
その言葉を聞いて。
「・・・走りながらは難しいぞ?」
少し苦い顔をした妹紅。
だが、今は迷っている暇はない。
同じく蹴鞠くらいは出来そうな奴はいるが、あの様子では任せられない。
妹紅は少し身体を捩じらせるように懐のブツを足元に落とす。
それをリフティングをするように2、3回蹴り上げ。
「これでも喰らえやぁ!!」
思いっきりバッタに目掛けて蹴り飛ばした。
標的目掛けて一直線に飛んでいく閃光弾。
だが。
やはり走りながらだったからか。
コースが若干標的から逸れた。
このままでは不発に終わる。
貴重な1発が決まりそうにもないことに顔を顰めた妹紅。
そこに。
何時の間にかバッタの横に回りこんでいた慧音が。
「うりゃぁぁぁぁぁあああああああ!!」
まるでサッカーのゴール前で待ち構えていた長身選手の如く、閃光弾をヘディングで弾き軌道修正を図った。
「慧音、目を潰れ!」
その叫び声が聞こえた瞬間!
辺りが激しい光に覆われた。
◇ ◇ ◇
凄まじい光だったからであろう。
顔の辺りが若干黒く焦げた感じになって、バッタは倒れていた。
「ナイスアシスト、慧音」
「当たり前だ」
ハイタッチをし、互いに笑みを浮かべる。
タケノコ持ったままだけど。
ただ。
「うぐっ、ひぐっ。えぐえぐ・・・」
未だ泣き止まないお姫様一人。
そんな彼女を見て。
「おいコラ。いつまでも泣いてんじゃねぇよ。ちゃんと倒したじゃねぇか」
後ろを指差しながら妹紅がめんどくさそうに話しかける。
その言葉を聞き、ようやく顔を上げて2人の後ろ見た彼女は。
「・・・い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
更なる絶叫と共に走り出してしまった。
「おい、ちょっと待てよ!まさかお前、倒れたバッタくらいでそんな」
「も、妹紅・・・!」
横で後ろを指差している慧音の声を聞き、不審そうに振り向いた先には・・・。
「・・・に、逃げるぞ慧音!!」
「当たり前だぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
こちらに向かって進撃している、大量の巨大バッタだった。
◇ ◇ ◇
逃げる、逃げる、逃げる!
後ろから迫る脅威を懸命に振り払うが如く全力疾走の3人。
くどい様だが、タケノコ抱えて。
「見えたぞ、博麗神社の階段だ!」
「あと一息だ、走れぇぇぇええええ!」
「もう嫌あぁぁぁぁぁぁあああああ!」
長い、何段あるかも分からない神社へと続く階段。
そこを猛スピードで駆け上がる。
本来なら気の遠くなるような石段を一瞬とも言える時間で上り。
3人の前に姿を現したのは。
「あ、ねぇねぇ見て見て。これ霊夢とお揃いの巫女服作って着てみたんだけど。似合うでしょ?やっぱし霊夢のパートナーは私しk・・・って、きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!?」
赤い鳥居。
少し長めの参道。
その奥に見える、博麗神社だった。
「ん?さっき、何か聞こえなかったか?」
「そういや、何か踏んづけたような」
「うぅ・・・。な、なんかバッタ以上におぞましい予感がしたから目を逸らしていたんだけど」
3人が後ろを振り返る。
そこには。
誰もいない。
バッタもここまで来ていないようだ。
しんとした境内に立つのは3人のみ。
「・・・?まぁ、いいや。とりあえず、霊夢探そうぜ」
「そうだな。そろそろタケノコ抱えているのも疲れてきたしな」
「結局なんで私までタケノコ抱えてこんな目に。あ、ちょっと。タケノコ料理のこと忘れないでよ」
そんな話をしながら、神社の中へと向かう。
タケノコ料理。
というよりも、人里の異変を解決する手立てを見つけるために。
3人は霊夢の下へと向かった。
◇ ◇ ◇
霊夢はすぐに見つかった。
いつものように縁側で一人お茶を啜る。
3人は人里の有様を一通り伝えた後。
「そ、そろそろこのタケノコ下ろそうぜ。流石にこの大きさを抱え続けるのは辛い」
「そうだな。済まないが霊夢、台所は何処にある?」
「いいけど。人の家の台所使うからには」
「分かっている。ちゃんと霊夢の分のタケノコ御飯も作るさ」
「それならいいんだけどね」
そう言って、霊夢は3人を台所へと案内し始める。
と。
「あ、でも。ウチに今お米ないわよ」
「相変わらず食料の備蓄に乏しいな、ここは」
哀れむような目で見る妹紅に、うっさいといった感じで睨みつける。
「あぁ。それなら心配は要らないわ」
そう言ってきたのは。
「お米、ここにあるわよ。ほら」
何時の間にか、片手に米袋を持っていた輝夜だった。
「なに?アンタ普段からお米持ち歩いているの?」
「まさか、竹林で迷ったときの非常食とか言わねぇだろうな?」
露骨に不審者を見るような目をする霊夢と妹紅。
おにぎりとかならともかく、米そのままを持ち歩く奴がいるだろうか。
「まぁ、いいじゃないか。これでタケノコ御飯が作れるぞ」
「わーい、タケノコ御飯タケノコ御飯♪」
上機嫌で台所にタケノコを下ろす慧音に、さらに上機嫌な輝夜。
そんなに好きか、タケノコ御飯。
と。
「あら?」
不審そうな声を上げた輝夜に目を向ける3人。
その視線の先。
正確には、輝夜の持っているタケノコ。
「これ・・・。こんなに赤かったっけ?」
そう。
輝夜の持っていたタケノコだけが、何時の間にか赤く変色していたのだった。
赤いタケノコ。
通常では有得ない現象に。
4人は一斉に赤タケノコから離れた。
「ちょ、ちょっと!何よあのタケノコは!?」
「知らん!私たちが運んでいたときには普通のタケノコだったぞ。おい、輝夜!これはどういうことだ!?」
「私だって知らないわよ。そもそも貴方が渡してきたんじゃ」
「確かに私たちが運んでいるときには赤くなってはなかったぞ?他のタケノコだって」
残りの2つのタケノコは、普通のタケノコである。
明らかに普通じゃないタケノコを目の前にして怯える少女たち。
「・・・誰か。切ってみなさいよ?」
突然、とんでもないことを口にする霊夢。
「いやいや!あんなタケノコ、何が出てくるか分からんぞ!ここは無難に廃棄処分しておいたほうが」
慌てて反論する慧音。
「確かに、あのタケノコは見た目危険かもしれないわ。でもね」
チラリと視線を向けた先には。
「・・・私!?」
「ちょ、ちょっと霊夢!なんで私まで見つめているのよ!?」
明らかにアンタたちやりなさいよ、といった感じの霊夢の視線を受けてうろたえる妹紅と輝夜。
「なんでって・・・。アンタたち死なないじゃない」
「死ななくてもイヤだろうが!もしかしたら爆発するかもしれないんだぞ!」
「幾ら不死だからってね、痛いものは痛いのよ!?」
全力で反論する不死人たち。
「でも、もしかしたら希少種かもよ?案外美味しかったりして」
その霊夢の言葉に、ピクッと反応したのは輝夜。
「う、うぅ・・・」
葛藤。
明らかに見た目危険なタケノコ。
でも、もしかしたら美味しいかもしれない。
今まで味わったことの無いタケノコ御飯にありつけるかもしれない。
身の危険と、自身の保身。
板挟みのような悩みに頭を悩ませていると。
「・・・私が、切る」
そう名乗りでたのは、妹紅だった。
「も、妹紅?」
不思議そうで、それでまた驚いたような目をした輝夜が妹紅を見上げる。
そんな宿敵の視線に目を逸らしながら。
「コイツを巻き込んだのは私だからな」
そういって、包丁を手に赤タケノコに歩み寄る。
何が出るか、何が起こるか分からない。
あまりにも危険。
だが。
この中で自分以外に誰がやる。
輝夜なんて本当はどうでもいいが、巻き込んだのは間違いない。
まさか、何の関係も無い霊夢にやらすのも考え物だ。
何より、自分にとって一番大切な存在である慧音にこんな役目をやらすだなんて以ての外だ。
早まる鼓動を抑え、ゆっくりと目標に歩んでいく。
心配のあまりにやめろとでも言いたげな表情をしている慧音に微笑みかけ。
問題の、赤タケノコの前に立った。
一度、目を閉じる。
それも一瞬。
持っていた包丁を大きく振り上げ。
「おりゃ!!」
力一杯、包丁を振り下ろした。
本来なら、真っ二つになってもおかしくはない渾身の一撃。
だが。
ガキィイイイイイン!!
包丁は少し切り込んだ所で止まり、響いたのは鉄と鉄をぶつけ合ったような音。
全員がきょとんとした目で見つめる中。
赤タケノコが、ブルブルと震えだした。
「妹紅!離れた方が」
「分かってる!」
距離を取り、赤タケノコを凝視する。
そして。
先ほど妹紅が付けた切り口から突如として飛び出してきたのは。
「銀色の」
「髪の毛・・・、かしら?」
そう。
出てきたのは一房の髪。
ぴょこんと出てきたソレは、天に向かって逞しくそびえ立っていた。
「ま、まさか・・・」
頭痛そうにしかめっ面しているのは霊夢。
「なぁ、霊夢。お前はアレに見覚えでも」
そう慧音が尋ねた瞬間。
「慧音、気をつけろ!なんか凄まじいプレッシャーを感じるぞ!」
庇うように慧音の前に立つ妹紅。
「な、なんか。唸り声のようなものが聞こえない?」
怯えるように声を震わせる輝夜。
聞こえる。
地獄の底から聞こえてくるような唸り声が。
そして。
突如として内側から砕け散るタケノコ。
3人が震えるように身を潜めあう。
その中を、ゆっくりと歩んでいく霊夢。
現れたのは。
「アァァァァァァァァアリィィィィィィィィィィィイスゥゥゥゥゥゥゥゥウチャァァァァァァァァアンンン!!」
自身のありったけを込めた様な咆哮。
赤いローブ。
黒い羽のようなもの。
そして、逞しくそびえ立つアホ毛。
「アリスちゃぁぁぁぁぁん!何処にいるのぉぉぉぉぉぉお!?」
「煩いわ!!」
霊夢の渾身の拳が、アホ毛の人の顔面にめり込んだ。
◇ ◇ ◇
博麗神社の居間。
ここで5人の少女たちがタケノコ御飯を食っている。
霊夢、慧音、妹紅、輝夜。
そして。
「神綺、さん?」
「ま、魔界の神?」
慧音と妹紅が驚くも無理はない。
なにせ、魔界の創造主がタケノコの中に入っていたのだから。
何故かと問いかければ。
「それがねぇ。何とか魔界の警備網を掻い潜って幻想郷に来たのよ。それで愛しのアリスちゃんの家目指していたら」
「地面から生えてきたタケノコに食われた、と」
なんで魔法の森に住んでいるアリスに会いに来ているのに竹林でウロウロしていたのかとか、自分の領土の警備網を掻い潜って来たとかはこの際横に置いておこう。
問題は。
「タケノコに食われたですって?さっきアンタが出てきたあのタケノコ?てか、タケノコに食われるってどういう状況よ」
霊夢の困惑も無理はない。
普通、タケノコが人を獲って食らうだなんてありえない。
だが、タケノコの中に神綺が入っていたのは事実。
「神綺さん、でしたわね。何時ごろからあのような状態でいたのかしら?」
タケノコ御飯を掻っ込みながら輝夜が尋ねる。
その質問に対して、唇に指を当てながら、うーんと考え。
「かれこれ、1週間くらいかしら」
とんでもない事実を口にするアホ毛。
「い、1週間!?」
「そんなに長い間タケノコの中にいて、なんともなかったのですか?」
「大丈夫よ」
もぐもぐとタケノコ御飯をお茶をググッと飲み干す。
「なんか生命力を吸収されるような感じはあったけどね。こっちも負けられないから吸収し返してあげて何とか生き延びたわ」
「相変わらず、逞しいというかなんというか」
「だからタケノコが赤く変色していたのね」
神綺の服は赤色。
なんで生命力を吸われて服の色に変化したのかは不明だが。
「けど」
タケノコ御飯を平らげた霊夢。
「迷いの竹林のタケノコ。ただ事ではなさそうね。慧音、輝夜。ここ最近で竹林で似たような被害とかは耳にしていない?」
「あぁ、人里で行方不明が出れば、すぐさま私の耳に届くはずだ」
「私も竹林でなにか異変が出たって耳にするのは今回が初めてよ」
「なら、まだ被害者は神綺だけってことでいいわね」
箸を置き、霊夢が立ち上がる。
「いくわよ、迷いの竹林に。あくまでも勘だけど、今回の騒動は竹林に原因があると思うわ」
◇ ◇ ◇
で、迷いの竹林。
5人が何か異常はないかと調べていく。
「ねぇ。私そろそろアリスちゃんのところに」
「うっさいアホ毛。アンタ被害者なんだから協力しなさい。後でアリスの家まで案内してあげるから」
「分かった、手伝う」
あっさり承諾する神綺。
それはともかく。
「タケノコが原因なんだよなぁ。でも、それらしいタケノコは見当たらないぞ」
「私たちが持ち去ったデカいタケノコが原因と考えられるが。そう簡単には見つからないか」
よく目を凝らし、辺りを注意深く観察する妹紅と慧音。
だが、怪しいタケノコは見つからない。
「おい、輝夜。お前もちゃんと探してるんだろうな?」
さっきから何も喋らない輝夜に対して文句を言う。
だが。
妹紅の振り返った先には。
「・・・お、おい!」
「どうした、妹紅?」
「なんか見つけたの?」
「アリスちゃぁん・・・」
妹紅の少し上擦った声に反応して、3人が集まってくる。
妹紅の視線の先。
そこには。
デカいタケノコがそびえ立っていた。
・・・。
・・。
「問題の、タケノコね」
「大きいわね。人間一人がスッポリ入りそう」
霊夢と神綺がのんびりとした口調で言うのだが。
「いや、それより輝夜は?」
嫌な汗を流しながら言う妹紅に対して、ハッとなる慧音。
「ま、まさかこの中に!?」
「も、もしかして食われた?」
「あら、このタケノコ・・・」
神綺が口にしたその時。
タケノコが、突如として光輝き始めた。
光るタケノコ。
光る竹・・・。
「間違いない!この中に輝夜がいるぞ!」
「おい、どうする!?早く助けないと」
「大丈夫なんじゃない。アイツ死なないし」
「あ、じゃあ私に任せてください」
そう言いながらタケノコの前に立つ神綺。
そして。
いきなりアホ毛が伸びて、物凄い速さでタケノコをガシガシ突き始めた。
「ハイハイハイハイハイハイハイハイ!」
鋼の硬さを思わせる神綺のアホ毛が次々とタケノコの表面を削っていく。
というか。
「アレ、武器にもなるのね」
「何か他のゲームでいなかったか。髪の毛伸ばして武器にするやつ」
「シッ、ここは黙殺しておくんだ妹紅」
とりあえず、危険な発言を控えて見守る3人。
光るタケノコが削れていく。
中から出てきたのはやはり。
「あ、危なかったぁ・・・」
輝夜だった。
「食べるんだな、ここのタケノコは」
妹紅が呆れたように呟く。
「ちょっと、貴方はコレの恐ろしさが分かってないわね。生命力を吸収されるのよ。私なんか3回もリザレクションしたんだからね!」
「生命力弱いな、お前・・・」
なんでこんな奴と殺し合いを続けてきたのかと頭を痛くする妹紅。
この魔界神、1週間も耐えた上に吸収し返したんだぞ。
ご立腹なお姫様をスルーして、慧音に話しかける。
「竹林に住んでる身としても、ここのタケノコは無視できない。どうする・・・!?」
妹紅の目が驚愕に開かれる。
慧音がいたはずであろうその場所。
そこには。
デカいタケノコ。
「け、け、慧音が食われたぁ!!」
「落ち着きなさい、妹紅」
「落ち着いてられるか、霊夢!この一瞬でここのアホてるよが3回も死んだんだぞ!慧音にもしものことがあってみろ!テメーどうやって落とし前つけてくれやがるんだ!?」
慌てふためく妹紅。
そりゃそうだ。
愛しの人が生命の危機にさらされているのだ。
「慧音に内側から破るくらいの力があったら問題ないんだけどね」
「慧音さんって、そこまでの力は無いんですか?」
「ハクタクモードになったら可能性はあるんだけどねぇ」
「なれるわけねーだろ!慧音が変身できるのは満月のときだけだ。今は真昼間だぞ!」
神綺と輝夜ののんびりしたやりとりに激昂する妹紅。
ただ。
その言葉を聞いた霊夢が名案を閃いた。
「聞いたことがあるわ。確か満月を作り出すには星の酸素と自身の気を混ぜ合わせることで、大猿化に必要な月を作り出す・・・」
「それは違うマンガだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
慧音を大猿にしてどうする?
なんか頭痛くなってきた妹紅。
と、そこに。
「ようするに、満月があればいいんですよね?」
そう言った神綺が、どこから持ち出してきたのか紙とペンを出してスラスラと何かを描きはじめる。
「はい、できました!」
そこに描かれていたのは。
月だった。
真ん丸な満月。
ただし、紙に描かれたイヤにリアルな満月。
本物と思わせるような描写だが。
「いや、確かに凄くリアルな満月描いてくださってありがとうございます。でもな、絵に描いたような月じゃ」
コイツ天然じゃねぇのか、と思わせる神綺のボケっぷりにさらに頭を痛くする妹紅。
だが。
「み、みて!」
輝夜の指差した先。
慧音が飲み込まれたであろうタケノコ。
そのタケノコが、大きく揺れ始めた。
そして。
「お、お、おぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉおおおおおお!!」
ハクタクけーねが内側から出てきた!
「って、お前こんな簡単に変身できるのかよ!?」
頭痛の種が増えて、ますます困惑する妹紅。
だが、大切な人が無事に救出されたのだ。
あまり文句は言えない。
とりあえず、側に駆け寄る。
「だ、大丈夫か慧音!」
「あ、あぁ。というか、なんで私は真昼間から変身しているんだ?」
抱きしめながら擦り寄る妹紅に疑問を投げかける慧音。
そんなやりとりを見ていた霊夢が、視線を横に向ける。
「来たわね。この異変の首謀者」
おそらく、博麗の巫女としての直感。
それが、現れた相手を何者かと認識したのであろう。
霊夢の視線の先に。
異形ともいえる存在が立っていた。
◇ ◇ ◇
その姿、まさにタケノコ。
いや、ただのタケノコではない。
巨大なタケノコにゴツイ筋肉質な手足が生えている。
そして毛深い。
「ハハハッ!我が名は『タケノコ廃人』。悠久の時をかけて生まれた最強のタケノコよ!」
自分で廃人と名乗ってる段階でもう色々とおしまいなんだろう。
ともかく。
「・・・きもっ」
「なんだ、あの気持ち悪い奴は?」
「あぁ、慧音。アレが俗に言う『変態』ってやつだ」
「全く、近寄りがたいわね」
「あぁ、あれが噂に聴く『変態』ってやつですか」
5人の感想が結構酷いが、それも仕方ないだろう。
誰がどう見ても変質者である。
妖怪というよりも、ただの化け物だろう。
幻想郷に、こんなキモい妖怪はいらない。
だが、そんな5人の言葉なんてお構いなし。
「見よ、この美しいフォルム!THE・肉体美!!」
変なこと叫びながら5人に向かってキリモミ状態で飛んできた。
「うわっ、こっち来るな!」
「危なっ!」
突然の攻撃に驚くものの、なんとか避ける。
すると今度は陸上の短距離選手の如く、猛ダッシュして迫ってきた。
「HAHAHA!このカオスより生まれし暗黒の戦士から逃げられるとでも思ったか!」
訳のわからんことを叫んでいるが、結構速かったりする。
だが、キモいのは確かだ。
みんなキャーキャー言いながら逃げ回っている。
「はぁ、はぁ・・・。さ、流石だな。このタケノコの王からここまで逃げまとうことができるとは」
数分後、完全に息切れしている変態。
「気持ち悪くて近寄りがたいってのがネックね。速いから攻撃も難しいし」
霊夢が額の汗を拭う。
「おい、同じタケノコ妖怪としてなんとかできないのか?」
「私はタケノコの妖怪じゃないわよ!それ以上ふざけたこと言ったら消し飛ばすわよ!?」
相変わらず喧嘩している妹紅と輝夜。
そんな中で。
「おい、そこの変態。聞きたいことがある」
そう言って前に出たのは慧音。
鋭い眼光で目の前の異形を見つめる。
「ここには、おかしなタケノコが多いな。お前の仕業か?」
その問いに。
「ふ、ふふふ・・・」
不敵な笑みを漏らすタケノコ廃人。
口もないのに何処から笑みを漏らしているのかは分からんが。
「その通りよ!」
両手を広げ、誇らしく叫ぶ。
「ここに生息しているタケノコは我が力の結晶!一たび喰えば、我と同じようにこの美しいボディと化すことができるのだ!」
そう言いながら、ポージングを決めるタケノコ。
「・・・!ならば、人里のみんなが変わってしまったのも」
「その通り。我が分身でもあるタケノコを喰ったからよ」
もし、この変態の言うことが正しければ。
人里の皆の変化。
そして。
先ほどまで遭遇した巨大生物。
あれも、このタケノコの所為?
・・・。
・・。
ん、まてよ?
「ちょっと待ちなさい。食べたんじゃない、タケノコ」
そうだ。
確かに食べた。
巨大なタケノコ。
神社でタケノコご飯。
全員が嫌な汗をかく。
「ハハハハハッ!そうよ、このタケノコを食べれば我と同じこの美しい肉体美を手に入れることができるのだ!」
なんか自慢げな感じで叫ぶ変態。
想像してみる。
筋肉質なボディ。
世紀末救世主的な世界。
その災いが自身にも降り注ぐ?
「さぁ、今こそ我と共にこの美しい身体を手に入れ・・・ごふぅ!?」
変態が叫んでいるところに強烈な一撃を入れたのは、輝夜だった。
当たり前だ。
このままじゃ、自分も醜いゴツイ身体に変化してしまうのだ。
そんなこと、お姫さまである輝夜が無視できるはずがない。
輝夜の一撃を喰らって倒された変態を、ガシガシと踏みつける。
「さぁ、言いなさい!どうやったらこの異変から逃れることができるのか!」
ちょっと半泣きの輝夜。
ただ、その足には恐ろしいまでの力が宿っている。
「は、ハハハッ!わ、我を倒すしか方法はな、い・・・、ぐぉ!?だが、倒せるかな、我は最強の・・・って痛い痛い!」
余裕をかましていた変態も、やはり力いっぱい踏みつけられるのは堪えるのだろう。
ちょっと苦しそうだ。
「あらあら、あの子は必死そうね」
そんな風にのんびりした口調で話す神綺。
「あのねぇ・・・」
そんな魔界神に、半眼で口を出したのは霊夢。
「アンタ、そんなにのんびりしてていいの?ゆくゆくはアンタもあの変態と同類よ?そんな姿でアリスの所に行くつもり?」
その言葉に、神綺が硬直する。
想像する。
恐ろしくゴツくなってしまった自分。
アリスとの再会。
そんな姿を見たアリスの反応は当然・・・。
「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
絶叫と共に疾風のように変態に向かって駆け出す神綺。
狂ったように輝夜と共にガシガシ踏みつける。
「あ、あ、アリスちゃん、アリスちゃん、アリスちゃんがぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
「この変態!変態!変態!!消えなさい、今すぐこの世から抹消されなさい!」
錯乱状態な2人におもいっきり足蹴にされる変態一匹。
変態の身体から、徐々にミシミシと音が鳴り始める。
だが、先ほどまで苦しんでいた本人は。
「あ、あ、あぁ・・・。なんだか、ちょっと気持ちよく」
もし、この変態に表情というものが見られるとしたら。
その表情は、きっと光悦になっていたのだろう。
女の子2人に踏みつけられ今にも昇天しそうな変態。
そして。
「あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
この新たな属性を身に着けた変態は、本当に昇天した。
ボキッという、まさに一つの生命の終わりを告げる音が聞こえた。
その音と共に。
徐々にその身体が消えていく。
そして。
最後に変態が残した言葉は。
「我が人生に、一片の悔いもなし・・・!」
そうして、タケノコの姿をした変態は。
その短い人生の幕を閉じた。
◇ ◇ ◇
変態との一戦を終えた5人の少女。
色んな意味で疲れ果て、人里に戻る。
そこで見た風景は。
「お、おぉ・・・」
慧音の嬉しそうな笑み。
人里は、何事もなかったように、その平穏を取り戻していた。
「この様子を見た感じ、私たちにも異変は起きなさそうね」
どこかホッとした感じで霊夢が同じように笑みを漏らす。
「にしても、あんな可笑しな奴がいるもんなんだなぁ」
夕暮れを見ながら、苦笑を浮かべる妹紅。
「うぅ・・・。今度からはタケノコは永琳に調べてもらってから食べよう」
ちょっと涙目な輝夜。
「ねぇねぇ、アリスちゃんは?アリスちゃんのお家は?」
もう待ちきれないといった感じで霊夢に擦り寄る神綺。
ここは幻想郷。
可憐な人妖が活躍する裏側で、ああいった異端もやっぱりいるわけで。
皆さんも、そういった輩がいることをお忘れなく。
ラオウの比じゃねーぞ
ちなみにタケノコは大きければ大きいほど固くて苦くて不味いです。