空を見上げると、屋根に穴が開いていた。
そこから雪が室内に降ってきている。
「あの侵入者ですか?」
周りを見渡すと、なんか実験器具のような物が壊れてたり。
変な液体が入った入れ物がひっくり返り変な煙を出している。
「それともお客様ですか?」
全部私がやったことだけどまずい。
弁償しろと言われても、無理だ。
そもそもここがどこなのかも、どの時代なのかもわからない。
「どちらにしろ、博士の実験器具壊したから実験材料になると思いますけど」
悩む。
どうしたらいいか悩む。
「……もう殺していいですか?」
よし、逃げよう
自分の中であっさりと結論が出た。
私は自慢では無いけど、見てみぬ振りは得意である。
なにしろ今までそのおかげで生き残ってきたのだ。
「ああでも今の私にはできないのでした…無念です」
バイバイ、知らない人の家。
犬にでも噛まれたと思ってあきらめてね。
よーし、ママ逃げちゃうぞー。
子供産んだことも、異性相手の経験も無いけど。
「あのー聞いてます?」
「………ごめんなさい」
もうそろそろ現実逃避は止めて、目の前にいる
緑色の髪をして羽を生やした、なんだかよくわからない人物に対して謝ることにした。
人間では無い、人間はこんな禍々しい気配を持っていない。
妖怪でも無い、気配が妖怪とは思えない。
どちらかというと妖精よりの気配が漂っている、怪しいが。
「それで貴方は侵入者ですか?」
「違うわよ」
「ではお客様?」
「違うわよ」
「じゃあ…博士に弟子入りしてたのですか?」
そもそも博士とは誰なのだろうか。
部屋の様子を見れば何か研究しているのはわかるが。
地球儀の残骸。翼のある鳥のような木の模型。大量の火薬、水銀、干からびた何か、毒草。
あとフラスコに大量の赤黒い何か、馬の死体、男の…そういうときの…アレ。
この材料、なんだか見覚えがある。
確かアレは…
「博士って?」
「それは私を作ってくれた偉大なるチルノ博士に決まってます!」
昔、物凄く昔。
私がヨーロッパを放浪している時に聞いたことがある。
曰く「ひどいバカがいる」と。
人間でも空を飛べるような物を作ってるだの。
遠くの物と会話できるような謎の物を作ろうとしてるだの。
自分自身は不老不死の天才と公言して。
なおかつ死者蘇生や、人工生命体ホムンクルスを作ってるだの、怪しげな噂まみれの謎の錬金術師だ。
頭が痛い。
そんな電波なバカの元に送られた事実に頭が痛い。
そもそも人間が空を飛べるはずないだろう、妖怪でも飛べない物がいるというのに。
遠くの物と会話するってのもなんなのだ、普通に手紙でいいだろうに。
「突然頭を抱えだしましたが何かありましたか?」
「何でも無いわよ」
確かそのバカは、町をいくつも巻き込んだ自殺を図ったらしいが。
巻き込まれては溜まらない、さっさと逃げよう。
「それで…貴方は?」
「私はチルノ博士によって造られた対人間殲滅用ホムンクルス、コードネームはD42」
「へぇ」
ホムンクルスの作成方法は聞いたことはあるが、あんなことしてもただの生ゴミができるだけだろう。
しかし目の前で胸を張る少女は、なんだかよくわからない存在であるのは確かだ。
もしかして本当に作りあげたのだろうか。
そう考えるとバカでは無いのかも知れない。
「博士の偉大さを分からぬ者たちに天罰を下す、そう滅びの使者にして死を運ぶ妖精、Die妖精です」
「…はぁ」
でも、目の前の少女を見るに…。
その辺りの妖精を適当に洗脳して改造でもしただけのように思える。
「それで…その首輪と鎖は?」
「この首輪は私の圧倒的なパワーを封じるための首輪です、これが無ければ私は世界を滅ぼしてしまうのです」
目の前の少女の力は正直私と同じぐらいだろう。
いやちょっとだけ私が弱いかも知れない。
しかし私と同レベルぐらいの妖気の存在を拘束する理由なんて…。
「人間も、妖精も、妖怪も全て私が滅ぼします、見ていてくださいチルノ博士」
こんな言動で力が無く、頭が少し可哀想だから拘束されているだけな気がする。
いやだってこんな奴を外に野放したらまずいでしょう。
何しでかすかわかんないわよ。
チルノ…会ったこともないけど同情するわ。
「私の自己紹介は終わりましたので、貴方様のお名前をお聞かせ願えますか、侵入者さん」
「私は風見幽香、しがない花…」
花妖怪。
そう言おうと思ったが止める。
危ない危ない。
しばらく妖怪の世界にいたから普通に名乗りそうになったわよ。
人間世界で妖怪なんて言ったら可哀想な目で見られるか討伐されてしまう。
「花屋よ」
「そうですか、花屋ですか」
「そうよ」
「嘘ですね」
そうよね。
流石に普通の花屋が突然降ってきたなんていって信じるはずないわよね。
先ほどまでのバカな言動からして騙されてくれるかなとちょっと思ったけど。
「しがない花屋が降ってくるはずがありません、ということは…」
Die妖精はこちらにビシリと指を差す。
全てお見通しだ、そんな視線だ。
「貴方は家を見るとつい登ってしまいたくなる花屋ですね!このDie妖精の目はごまかせません」
前言撤回、やっぱりこのDie妖精はバカだ、それもとてつもないバカだ。
この様子では本人曰く造られた、実際は怪しいこのバカな子を作った博士も苦労しているだろう。
「ふふふ、私の名推理に感動して声も出せませんか。
博士に「ミズリムシの頭脳」と言われたこの私に読めないことなんてありません」
チルノ博士…。
そうよね、こんな子がいたらそんなことも言いたくなるわよね。
会ったことも無いけれど涙が出てきたわ。
「私の推理に感動しましたか?」
「ええ」
きっとこの子は人の精神を殺すからDie妖精と名乗っているのだろう。
だから家に首輪と鎖で繋がれているのだ。
「私の素晴らしさをわかってくれる方には褒美をあげましょう、侵入者からお客様に格上げです」
「そうありがとう」
「もうそろそろチルノ博士がお帰りになりますからお待ちくださいね」
「えっ?」
まずい。
今帰ってこられるとまずい。
何しろここに降ってきた時に色々壊してしまったのだ、知らない人間に、間違えた妖怪に物を壊されて
気前よく許してくれる人間なんているはずがない。
早く逃げないと。
「いや、私はちょっと用事ができたから帰るわね」
「いえいえお客様にもてなしもせずに帰らせるわけには行きません」
「いやでも」
「この前博士が良い鉄鉱石を持って帰ってきたのですよ、それをご馳走するまでは」
いや鉄鉱石なんてどうやって食べるのよ。
そもそもそれ食べ物では無いわよ。
そもそもお客に鉄鉱石出すってどんな家よ。
「鉄鉱石が嫌ならば、水銀もありますよ」
「毒じゃない」
「何を言ってるのですか、不老不死の材料ですよ」
「いやそれ間違ってるから」
そもそも不老不死なんてなれるはずが無い。
生ある物、いつか必ず滅びる物だ。
「博士と同じような事を貴方も言うのですね」
「当たり前よ…そもそも水銀なんて花の天敵よ」
「くっ、仕方がありませんこうなれば…」
「じゃあね」
突っ込み続けてたらこの家の主人が帰って来て大変なことになりそうだ。
早く帰らなければ。
帰る場所は…、恐らくこの時代には私がいるはずだから私の家に転がり込もう。
ああもう、未来の私に出会ったり過去の私に出会ったり訳が分からない。
私はただ平穏に過ごしたいだけなのに。
「待ってください」
「壊してごめんなさい、悪気は無かったのよ」
「くぅぅぅ、鎖で繋がれているから止めることすらできませんチルノ様ぁ」
いくらおかしいとは言え、外見が可愛らしい少女に泣かれるとバツが悪い。
しかし怒りを買って実験材料にされる訳にはいかないのだ。
かなりボロい木のドアを開ける。
家の中に強風が吹き込んできて、空が綺麗だ。
思わず叫びたくなる綺麗さだ。
思わず絶望の叫びをあげたくなる綺麗さだ。
上も空だ。
右も空だ。
左も空だ。
下には雲が見える。
「あははははははははははは」
落ち着け。
落ち着け私。
家の外に出たら、僅かな地面以外には青い空と雲が広がっている。
遠くの方にはお城が見える。
大きな島の上に立つ城が。
大きな空を飛ぶ島の上に立つ城が。
「ここどこよ」
空を飛ぶ城なんて見たことが無い。
空を飛ぶ島も見たことは無い。
むしろそんな物は存在すら聞いたことが無い。
ここは一体どこなんだ。
「一体ここはどこなのよ」
答えは無い。
後ろの方からはガチャガチャと鎖の音だけがなっている。
そんな風に呟いていると、遠くのほうに小柄な少女の姿が見えた。
青髪だよ。
なんかこっち向いてとんでるよ。
物凄い殺気と、妖力漂わせて、こちらにむかってきている。
「あははははは…」
その少女を見ながら笑う。
もう何これ意味が全然わからない。
そうしている間にも青髪の少女はこちらに向かってきて、私の前に降り立った。
「人間が私の家になんか用かい?」
遠くからは見えなかったが青髪の少女は白衣を着ていた。
目の隈が凄い。
「何の用事も無いわよ」
「そう、ならそこどいて」
「ええ」
不機嫌そうなので、逆らわないように大人しく従う。
「あの馬鹿ども、天才のアタイの言葉が信じられないなんて死ぬばいいんだ」
ぶつぶつと誰かに文句を言いながら部屋に入っていく。
立ち止まり周りを見渡している。
そうよね、あきらか物が散らばってる物ね。
部屋の真ん中で鎖と首輪に繋がれた少女が何かを言い、私の方を指差している。
その瞬間こちらに怒気が殺気が
ダメだ、無理だ、言い訳も何もできない。
「アタイの実験器具を壊したのはお前か?」
「あははははははは」
もうどうにでもなってしまえ。
逃げも隠れもしない。
「そうこの風見幽香が全てを壊してあげたわ」
「わかったなら死ね」
腕をこちらに向けた瞬間氷が私に向かって飛んでくる。
こう見えても動体視力は良いからばっちり見えるのよ。
何の対策もできないけど。
見えるだけで身体追いつかないけど。
そして顔面に迫る氷が私を打ち抜くのを見ながら笑っていた。
私の人生はここでデッドエンドのようだ。
そう思った瞬間、氷が飛び散った。
「待て、風見幽香といったか?」
「ええ」
急に殺気と、怒気が収まり、よくわからない気配。
歓喜のような気配が漂う。
「…待ってたよ」
突然口調が子供っぽくなる。
そして苛立ち、怒りの表情が唐突に穏やかな表情にかわる。
まったくもって意味がわからない。
急展開ってレベルでは無い。
逃げようかしら
いやでも、こんな高さから落ちたら死ぬ、絶対に死ぬ。
かといって突然雰囲気が変わった青髪の少女。
「アタイずっと待ってたよ、幽香お母さん」
はは、見たことも無い奴にお母さん呼ばわりされたよ。
後ろでDie妖精は変な声あげてるし、私も変な声あげそう。
本当にここどこ?
貴方だれ?
私風見幽香、しがない中級妖怪よ。
子供なんて産んだこともないし…
ああああああもう意味がわからないってレベルじゃないわよ!
誰か教えてよ、一体何が起こってるのよ!
ああもう誰かたすけて!
謎空間(未来含む)に飛ばされてから、展開がビミョーな感じになってきた気がします。
とりあえず、当分は誰にも助けてもらえそうにねえなあ、ゆうかりん。
タイトルの「幽香の秘密」に少しそぐわない気がします。
なんて言いつつも、チルノ博士にdieちゃん、幽香お母さんとな!?
ワクワクして続きが気になって仕方がありません。
急に増えて来たなぁ。
東方キャラに演じて貰った系の話が多すぎる。
しかしまさかこのシリーズまでそんな風になるとは。
作家さん達の中でそう言うのがブームなのかな。
実力ある人たちまでみんな書いてるんだから。
点数はこれを東方だというのは違う気がしたのでつけませんでした。
人それぞれの東方の考えもまた受け入れて欲しいですね。
私は好きですよこういったはなし
楽しみに待っています
次回はどうなるんだろう?
が足りない……
理不尽な展開に盛大に吹いて、その後で「ああもう、誰か助けて!」に悶え殺されたかったのに……
それと、話はズレてないと思いますよ。
タイトルは「幽香の秘密」な訳だし。
幽香以外誰も知らない事、つまり「秘密」をSSにしてるんだから。
勘違いも秘密、過去か未来も秘密。
単発ギャグものとかならともかくこれは……。
前回からこう、学園物だったのにバトル物に急に変わった漫画のように、路線転換して置いてけぼりの人は放って置いて付いてくる人だけ受け入れるような作風に……。
話がずれる感覚はこういうところから来ているかと。
初心、取り戻してほしいなぁ。
時間軸の自由さは世界の自由です。
続編を全裸待機しています。