※今作は作品集135にある拙作「あの日あの時あの場所で」の続編となっています。
そちらも読んで頂ければ嬉しいです。
『1』
▽―1
さて、多少のゴタゴタはあったが、ついに本屋――いや、貸本屋『香霖洞』開店の目処が経った。
開店場所もあり、信頼の置ける店番も確保出来ている。もはや憂う事は無い。
出来るならすぐにでも開店したい。
そう思って善は急げ、とばかりに本を持ちこんでいたのだが……
貸本屋予定地に本を搬入している途中、僕らは途方に暮れた顔つきで立っていた。
「霖之助さん?」
「なんだい阿求」
目の前を眺めながらの受け答え。なぜか目を離せない。
「これは一体どう言う……」
「ソレを語るにはまず僕と言う存在の趣味や傾向について語らなきゃならないだろうね。そうだな、まず――」
「いえ、言い訳は結構です。簡潔にお願いします」
あっさりと遮られてしまった。阿求、君、そんなに押しの強い子じゃあ無かっただろうに。成長が早すぎるだろう……。
だがまぁ、言い訳した所で始まらないのは確かだろう。
「………そうだね。じゃあ簡潔に」
「本が多すぎて店に入らない」
中をほぼ本で埋めつくした店を見ながら、大量の本を背負った僕は言った。
「どうするんですか?今持ってきてる本をは中に置くとしても、このままじゃあ店にするどころか人も入れないですよ?」
「……その通りだな。全く、以前から思っていたのだが、僕は実は馬鹿なのかもしれないなぁ。これ程の量をよくも自宅に置けたものだ」
その上そこで生活しているほどだ。かも、ではなく間違いなく馬鹿だろう。
そんな事を言えば間を置かずに、
「そんな感想はどうでもいいのです。問題はどうするのか、ですよ」
「…そうだな。こんな量をまたウチに持ち帰るなんて考えたくも無い。しかしてこのままでは店に手を着けられない。何をするにしてもまず本を如何にかしなければなぁ。ああ、困った困った。――まぁ、解決策はあるんだけどね」
「そうなんですか?また何の案もないのに楽観的でこの人は大丈夫なのか、と思っていたんですが」
「……君は偶に酷い事を言うよね」
「ええ。そうですね」
にっこりと笑って返す彼女は、確実に悪女に成長するとここに断言しておこう。
「ゴホン。……この程度なら僕にとっては造作も無い事だよ。それこそ赤子の手を――」
「で、どうなさるんですか?」
「…………」
きっと、コレが彼女の素の状態と言うか、性格なのだろう。
それを僕の前でも出してくれる事は素直に嬉しいと感じられるが、何と言うか、正直良い性格とは言えないな。
恥じらっていた可愛らしい阿求は何処に行ってしまったのだろうか……もう一度会いたい。
「まぁその…幾らでも手を貸してくれる友人が居てね。そいつの手を借りる訳だよ」
「成程。霖之助さんは何もしないんですね!」
またも満面の笑みの阿求。……僕は今泣いていいだろうか…。
▼―2
まぁ、そのせいで開店準備が長引いているというわけなのだ。
友人と呼称していた相手は紫様だった。
あの後彼は、私が持っていた式神を使って紫様に連絡し、増築――もはや建て直しに近い気もするのだけど――を頼んでいた。
スキマを開けて現れた紫様は惨状を見るなり苦笑いで呟いた。
――貴方、確かに手助けするとは言ったけれど……。
あんな顔の紫様を見る事は滅多にない、いや、今回の生ではこれっきりかもしれない。
そう思えば貴重なモノが見れたものだな。
そんなこんなのついでに、私の接客能力の向上作戦が発動した。
そもそも私は対人恐怖症…とまではいかないが、かなり人と接するのが苦手なのだ。なにせ八代振りなのだから。
まずまともに会話を出来るようにしなければならない、と霖之助さんが言い出したのだ。
今、私は霖之助さんや紫様、他数名とまともに会話は出来る。冗談交じりの会話も難なくこなせる程度には。
とはいえ、見知らぬ他人とも会話をする仕事だ。見知った人間と幾ら会話が出来ようとも、他人を前に黙り込んでしまうようでは意味が無い。
喋れるように努力をするにも、道行く人に声を掛ける、何て事は出来ない。
そこで香霖堂での接客、つまりはアルバイトをして慣れていこう、と言う事だった。
曲りなりにも店であるし、彼も其処の店主だ。だったら、気を楽にして仕事も出来るだろう。それに、訊ねてくる人の接客は私に任せる、と言う話だった。
けれどこう言った事――接客は本来、店を始める前に仕込むモノじゃあないのだろうか?
今は出店できないからそんな話になっているが、さっきまでは『明日にでも』、と言っていた。
気になって霖之助さんにそう問いかけると、
「ん?いや、どうにでもなるだろうと思って」
と返ってきた。幾らなんでもあんまりじゃなかろうか。
仮にも店を営む人間がそんな楽観的で良いのだろうか、と一抹の不安が過ぎる。
とはいえ、この偶然は悪い事ではなかった。
本も自由に読めるし、お茶も飲める。その上彼が付いているのだ。断る理由は無かった。
そうして私の香霖堂での住み込み生活が始まった。
▽―3
卓袱台をぼくと阿求で囲んでいる。
茶の間で夕飯を摘まみながら、阿求が初めて店に出るので、店員の心得を言って聞かせているのだ。
「いいかい?まず、お客様は神様だ。そして僕ら店員も神様だ。無理難題を言う様な輩であれば、遠慮はいらない。早々に帰って頂きなさい」
「…………」
「次に、客が来たのならどんな時でも対応しなければならない。寝起きだろうが丑三つ時だろうが、だ。だが相手が客でないと解ったのなら、とっとと帰って頂こう」
「…………」
「最後に、黒白と紅白は基本的に客じゃない。すぐさま帰って頂く」
言い終わると阿求が手をすっ、と上げる。
「はい、阿求」
「あの……接客の心得ですよね?」
「そうだが?」
露骨に馬鹿にした顔で僕を見る阿求。
はて、何か妙な事でも言っただろうか。
「はぁ……霖之助さん、貴方、本当は物を売る気は無いでしょう?」
胸を張って僕は答える。
「失敬な。僕はあくまで一商売人だよ」
「貴方が商売人なら、私は何の迷いも無く店頭に立てるんですけどねぇ……」
そしてまた溜息を吐く。何だろう、この馬鹿にされた感じは…。
「ふん、明日からはそんな憎まれ口も叩けなくなるだろうね。なにせ香霖堂での初仕事だ。緊張でそれどころじゃないだろうから」
すぐに噛みついて来るかと思って見れば、中々面白い面相になっていた。
顔には『そんなことないですよ!』と書かれているのだが、口は引き結ばれている。
思い当たる節があるから反論できない、と言ったところか。
「ま、その緊張を解くための練習なんだ。気を張らずに、と言ったところで無駄だろうけど、出来る限り頑張りなさい」
「はいはい。励ますつもりなら最初からそうしてくれればいいのに」
▼―4
夜が明けた。
遂に私が店に出る日が来てしまった。
霖之助さんには強気な言葉を言っていたが、実の所怖くて仕方が無かった。
私は今まで、初対面の人間とどの様に接していただろうか?
そればかり考えるが、何十何百年前の記憶まで遡った所で、毎回緊張していた覚えしかない。何の参考にもならなかった。
うんうん唸る私を見かねたのか霖之助さんが言う。
「大丈夫かい?やっぱりもうちょっと様子を見てからにした方が良いかな……」
時折矢鱈と優しいから困りものだ。いつもこんなならもっとモテるのに。
「いえ、大丈夫です。逃げてばかりじゃ、勿体ないです。さぁ、行きましょう!」
私は覚悟を決めた。もう逃げない。他人が何だ!きっちりこなして見せましょう!
そうして私の新しい一日が始まり――
誰も来ないまま一日は終わった。
「そうですよね…予想はしてたんですよ。霖之助さんの店が繁盛している訳は無いって。けどまさか、一人も来店しないなんてのは予想外ですよ……」
既に店は閉めて、今は住居でお茶を飲みながらのんびりしている。そのついでに愚痴も溢しているという訳だ。
「まぁ今日は偶々誰も来なかっただけさ。普段なら二人は来る」
「……それは一時間に、ですか?」
「いや?一日に、さ」
頭を抱える。この店で対人能力を鍛える事は諦めた方が良いかもしれない。こればかりは悩んでも仕方が無い。
私は考え事を切り上げ、本を取り出す。
これは私の読んだことの無い類の本、『漫画』だ。
絵物語なんかは読んだ事もあったが、それ以上に絵の量が多い。文章量が減った分、心情などを絵で表現する所は面白いと思う。
反面、読者に想像の余地を余り残さないのが物足りない、と私は思う。
私にとっては、想像する事によって更に長時間楽しむ事も重要だからだ。
霖之助さんは『だからこそ絵で評価したり、描かない事によって表現すると言う小説には難しい事が出来る』と言う。それももっともだ。
今読んでいる本は“ギャグ漫画”の様だ。
時には恐ろしく、時には下らない妖怪たちに主人公が翻弄され、最後には鉄拳制裁で強引に解決を図る、と言うのが基本の一話完結型。
説明台詞が独特の言葉遣いで気にならなくなっている辺りが面白い。ドヒー!
絵は余り達者じゃないのだが、何故か読む手が止められない。話のテンポが良いのだろうか?それより何より――
「妹が可愛いなぁ…」
ポツリと呟いた言葉に霖之助さんが喰いつく。
「おや、面白い本でもあったのかな」
若干ニヤついているのが嫌だ。だから、敢えてそれには反応してやらない。
丁度読み終わりそうなところだったので訊ねる。
「霖之助さん、この続き、あります?」
そう言って表紙を見せる。どれどれ、と表紙を見た後、
「ああ、多分貸本屋(予定地)に持って言った中にあったんじゃないかな?」
「う~ん……そうですか」
あちゃぁ。それではすぐには読めない訳か。けれど続き自体はある。期待して待つとしよう。
そう思って、私は最近読んでいる別の短編集に手を伸ばした。
外国のホラー作家のモノだが、その全てを超越した恐怖と言うモノは非常に面白い。
そうやって本を読み続けて一日目は終わっってしまった。
明日こそは誰か来ますように、と願わずにはいられなかった。
▽―5
さて、阿求が店に出て二日目だ。
「いいかい、客が来たら大きい声で“いらっしゃいませ!”だ。これは基本なんだ。絶対に抜かしてはならない」
「わ、解りました!いらっしゃいませ、ですね!」
両手をグッと握りしめる阿求。フン、と鼻息荒く答える。
「そう。その位の声で言えれば大丈夫だ――」
言っている内に扉が開いた。
「いらっしゃ…ああ、君か」
「何だい、挨拶ぐらいちゃんとなさいな」
そう言って彼女――八坂神奈子は嬉しそうに笑った。
「おや、その娘っ子は誰だい?」
そう言う神奈子の視線を追っていくと、
カウンターに隠れてヒョコ、と顔だけ出している阿求がいた。
「……あの子は阿求。名前は君も知っているだろう?――阿求!隠れてないで出ておいで!」
阿求はおっかなびっくりと言った感じで出て来た。
「ほら、教えた通りにやってご覧」
「は、はい!……あの、えっと、な……何の御用、でしょうか」
初めて会った時の様にモジモジしだす阿求。可愛い。
「おやおや、聞いてた話と違うねぇ。霊夢の話じゃ肝の据わった、ちょいと尊大な子だと聞いてたんだが」
「人見知りが激しいのさ。だから此処で鍛えてる」
「ハハ!そうなのかい!この店じゃあたかが知れていると思うけどねぇ……そうそう、用件はね、嬢ちゃん。本を借りに来たのさ。――そうだ、良い事思いついたよ」
そう言って阿求に顔を近づける。阿求はモジモジしながらも、相手が客であるから顔を逸らせないでオドオドしている。なんともいじらしい。
「嬢ちゃん。アンタの面白いと思った本を貸してくれないかい?」
「え、え?私の、面白い、ですか?」
「そうさ。どんな本でも構わないよ。小説でも漫画でも、絵本でもね」
何ならお色気本でも、と言ってカラカラ笑う。全く、本当に神なのか?
もっと上品に振る舞ってもいいと思うんだが。女性としても、とはとてもじゃないが口に出来ないが。
「あ、あの。わかりました…少々、お待ちください!」
そう言ってパタパタと店の奥にかけていく。
「で、あの子は大丈夫そうかい?」
「多分問題ないと思うんだよね。何だかんだ言っても結局幻想郷の少女だからね。肝っ玉は座っているし、ああ見えて強い子なんだよ」
「おやおや、随分と熱心な様じゃないか。何か理由でもある?」
聞き出そうとしている神奈子。さて、言っても良いか、黙っていた方が良いか。
少し迷った後、どうせもうすぐ開店するのだし、宣伝に丁度良いかと思い話す事にした。
「実はね、今度里に貸本屋を出すから、その店番を彼女にしようと思っているんだ」
「貸本屋?本当に?そりゃあいい!もっと色んな意見を聞いてみたいと思ってたのさ。アンタは妙に穿った感想が多かったからねぇ」
悪かったな。
奥から阿求が戻って来た。胸には昨日の漫画と初めて会ったときに読んでいた小説。
「あの、この二つ、は、本当に面白い、ので、読んで、その」
「阿求、落ち着いて。深呼吸」
スーハーと深呼吸をし、落ちつけてから続ける。
「あの、感想を聞かせていただけると、嬉しい、です」
「ああ。解ってるさ。ちゃんと感想を言いに来るよ」
受け取りながらにっこりと笑う神奈子。なんだ、そんな笑い方が出来るなら普段からしていればいいのに。いつもの笑い方だとまるで悪役の様に見えるし。
店を出るときにそっと耳元で囁かれた。
「そんなに心配する事も無い様じゃないか」
僕は胸を張って答えた。
「当り前だ。何せ僕直々に教えているのだからね」
その時の神奈子の呆れた様な苦笑いが気になるが、まぁいいか。
結局その日は他に客はなかった。
「阿求、今日は何を読んでいるんだい?」
見るとそれは文庫サイズの本で、昨日読んでいた小説だった。
「その本、そんなに気に入ったのかい?」
「はい!何と言うか、宇宙的恐怖とでもいいましょうか、言葉にはし辛いんですが、すごい面白いですよ!」
彼女の満足気な表情を見るだけで、こっちまで楽しくなってくる。
「そうか。楽しめるのは良い事だ。どんどん読みなさい」
幾らでもあるからね、と続けたのだが、既に耳には入っていなかったようだ。…まぁそれ程楽しんでもらえている様で何よりだ。
その夜、阿求の寝室から、いあ、とか、ふたぐん、とか聞こえて来た。
何だかわからないが、海底の夢を見たのを覚えている。
『2』
▼
あれから更に数日が経った。
幾度か訪れた紫様が言うには、もう少し――長くて一カ月程度かかるそうだ。……どれ程貯め込んでいたんですか、霖之助さん?
そんな訳で今でも香霖堂の手伝いを続けている。
そして今日も、カウンター脇の椅子に腰かけ本を読み、読み終わった本を積み重ねて行くのだ。
さて、そんな毎日を送っている香霖堂での手伝いだが、その中で解った事がある。
まず、人が来ない。全然来ない。
昨日は三人、一昨日は二人。その前は六人。はっきり言って五人を超える事がまず珍しい。
今までの一日の最大来客数は何人だったんだろう。私が来てからは八人だが、それが最大じゃないと良いが。
そして人が来ないと言う事はつまり、私の接客の練習にならないと言う事だ。
今では此処に居る理由が“本を読む事”に変わってきている気がしなくもない。
人が来ないから本を読んでいたのに。これこそ本末転倒だろう。
とはいえ、悪い事ばかりではない。
ヒマを有効に使うために、私は久しぶりに日記をつけ始めたのだ。
今までは厭で仕方が無かった。
何と言っても変化が無い。その上その全てに既視観があるのだ。内容にも何の感慨もない。
それまで惰性的に続けていたが、いつの間にか自然と日記のページは増えなくなった。
その日記の続きを私は書き出したのだ。
その内容だって大したことは書いていない。
変わらない日常。少ない客との会話。その日読んだ本。霖之助さんとの無駄話。その程度の事だ。
だが、日記の文章からは様々な事が読み取れる。嬉しさ、楽しさ、緊張や驚愕、多くの感情。私の感じた、私の感情だ。
私がそんな文章を書く、その事がどれ程嬉しかったか。感情のある言葉を綴れるようになった、それだけでも此処に来た意味があったと、本当に思えた。
う……少し脱線してしまったか。話を戻そう。
香霖堂についてわかった事……と言うよりこれは霖之助さん個人の事だ。
あんな偏屈者の霖之助さんだが、何気に知り合いが多い。
霧雨店店主は元より、紫様に霊夢に魔理沙。神奈子様、諏訪子様に早苗さん。人里にも多く知り合いが居るようだし、妖精の類もやって来る。
ま、その割には来客が少ないというのが不思議だが。
そして私にとって嬉しいのが、彼女達が私の友人になってくれる事だ。
今までは家から出る事が少なかったのだから当り前だが、友人と呼べる人間など片手で数えられた。
その上、人と関わる事に消極的だったのだから、誰かがやって来ない限り新しい知り合いの出来る訳が無かったのだ。
だけど、今の状況は人はやって来るし、その人と積極的に対応しなくてはならないのだ。
嫌でも多くの言葉を交わすし、彼女達は朗らかに明るく接してくれた。
彼女達の話は変幻自在で、尚且つ多種多様で。私にとても楽しい時を過ごさせてくれた。
そしてそのお陰か、皆と自然と親しくなっていったのだ。
今では霖之助さんの知り合いは、私の友人であると言っても過言では無いだろう。
そのお陰か、彼女達とは問題無く話せるようになっていた。いや、そうなるまでに何回も迷惑をかけたのだと思うけど。
そう思えば思うほど、感謝の念は尽きないのだった。
しかし一方で不満もあるのだ。
その不満は霖之助さんには非は無い。けれど原因も霖之助さんなのだ。だから、不満も結果的に霖之助さんに向かってしまう。
彼にとっては不幸としか言いようが無いが、こればかりはどうしようもない。
……全くどうして。どうして――
霖之助さんの知り合いの多くは、女性なのだろうか。
そう、彼の知り合いの多くは女性なのだ。男性の知り合いも少なくは無い。圧倒的に女性の数が多すぎる、と言うべきか。
さっき挙げた数人なんて氷山の一角に過ぎない。
もしかすると女性だけで百人は居るんじゃなかろうか、と最近では疑っている。
更に言うなら、来客の殆どが女性の知り合いなのだ。
そして妙に親しげで、何と言うか、私はモヤモヤとした気分になってしまうのだ。
――例えば、河城にとり。
彼女は何かの発明を日頃からしている様で、部品であったり専門書であったりをよく買い求めにやって来る。
霖之助さんもあの性格だ。大いに興味を示して楽しげに会話している。
「……と言う訳。で、このライトの制作中な訳さ」
「成程。この小ささの筒から昼の光が放たれるのか。面白い、実に面白いね」
「だろう?だからその部品を探しているんだ。ココに書かれてるモノがあれば助かるんだけれど、どうだい?」
「よし!ちょっと探してこよう。少し待っていてくれ給え、期待に応えて見せよう!」
と言う具合に、いつもの霖之助さんより元気五割増しといった調子だ。そんな調子は私と二人きりでは見る事は出来ないだろう。
――例えば、アリス・マーガトロイド。
人形師である彼女は、人形に着せる服を作るための布や、改良を加える際の材料を探しにやって来る事がある。
彼女とは熱心に会話する、と言った感じではない。しかし、彼女の性格が霖之助さんの性格と噛み合っている様に思う。
「貴方からは商売っ気が見えないわね。そのお陰でこうしてツケでモノを買えるのだけど」
「おいおい。何時までもツケにはしてあげられないよ。これでも商売なんだ」
「そうね、それでも貴方の興味を引く様な対価を差しだせばどうかしら?」
「はは。確かにツケの支払いは催促しなくなるだろうね。例えばその人形なんかは対価たりえるよ」
「あら、それは良い事を聞いたわ。今度何体か持ってくる事にしましょう」
そして笑い合う。
彼女と話す時、霖之助さんはとても落ち着いた調子で冗談も飛ばす。軽口も言う。
その大人びた空気も、私と二人きりでは出す事は出来ない。素直に羨ましいと感じたものだ。
――そして。
きぃ、と扉が開き、彼女が入って来る。
「……今日は何か用があるのかい?魔理沙」
「心配するな。今日も何もないぜ」
――例えば、霧雨魔理沙。
▽
「まぁまぁ、今日もやる事が無くて忙しい中来てやったんだ。有難く思えよ?」
そんなことはいつもの事じゃないか、と言う突っ込みもいつも通りに過ぎると思った僕は、別の言葉で返す事にした。
「何か一つでも買っていくのならね」
そうしていつもの様に冗談や憎まれ口をたたき合う。……僕はずっと本音だが。
「よぉ阿求。人見知りは治ったか?」
「いえ、まだこれから、と言った感じです。――けれど、大分マシにはなったと思いますよ。少なくとも、常連の方々とは普通に話せるようになりました」
「そうか、そりゃあ良かったな。まぁあのままでも人気は出たと思うぜ?あれはあれで可愛らしかったからな」
カラカラと笑う。全く屈託のない笑顔は小さいころから変わらない。このまま、ずっと変らないでいて欲しいと思う。
来店時に宣言したように何の用も無かったようで、店内をフラフラして品物を見たり、阿求と会話したりを繰り返していた。
全く、ここを商店として扱ってくれたのは何時が最後だったか。
それにしても、だ。
昔から不思議に思っているのだが、何故彼女は僕の店に足繁くやって来るのだろう。
正直、魔理沙が興味を引くモノは余りこの店には無い。人里の店の方がよほど彼女に会う筈だ。
ま、敢えて聞く事はしない。もしそれで彼女がこの店に来なくなったら、唯でさえ人の来ないこの店の数少ない常連が居なくなってしまうからね。
一通り魔理沙の品定めが終わった時、
「なぁ香霖」
声を掛けられた。何かと首を傾げると、
「ちょっと膝、借りていいか?」
片手に本を持って問いかける。
ああ、成程。それが何か知っている僕は、
「良いよ。騒がしくしなければね」
「それじゃあ少し借りるぜ」
彼女はよいしょ、と僕の膝の上に腰かけた。
――昔から、彼女を良く膝の上であやしていた。そのせいだろうか。
僕と魔理沙が一緒の時、多くの時間をこうして過ごしてきたように思う。
彼女も膝の上に居る時はとても落ち着いている。
今だって、静かに読書に没頭しているのだから。
ある意味、僕らにとって最も自然な状態と呼べるかもしれない。
この格好になると、僕もとても落ち着くのだった。
日も落ちて暗くなってきた頃。
魔理沙は丁度本を読み終わったようで、ん~と伸びをした。
「いや、中々面白かったなぁこの本。香霖、続きは無いのか?」
「えっとね。ああ、コレの続きだったらまだ家に置いているよ。持って帰るかい?」
「そうだなぁ。…うん。借りて帰るよ」
どうせまた今日と同じ様に此処で読むのだろうな。
そう思いつつ探し当てた本を渡して
「ちゃんと返せよ。それは商売道具になるんだから」
「解ってるって。じゃあ、またな」
そう言って箒に跨って飛んでいく。
魔理沙を見送って、そろそろ閉店にしてもいいだろう、そう考えて店を閉めた。
▼
霧雨魔理沙と初めて会ってから一年程度経つだろうか。
確か霊夢と共に私の家へやって来たのが始まりだった。
彼女らはあの性格だ。私に遠慮を許さず、あっと言う間に気の置けない仲となった。
魔理沙はいつも元気で、朗らかで。私は彼女の性格が大好きだった。
私もあんな風に走れたら、飛べたら、喋れたら。
憧れは留まる所を知らずに膨れ上がって行く。
同時に、暗い思いが沸いてくる。
私は彼女よりも優れている。私は彼女を越える能力を持っている。
私は彼女よりも――。そんな思いが駆けめぐるのだ。
それに気付いて、私は私が厭になるのだ。
私は彼女にはなれない。そんなことはわかっている。だから私は、私らしく生きようと思った。
今こうして、様々な助力のお陰ではあるが、自ら選択して香霖堂で働く事も出来た。
此処で働くようになって多くの事を学び、多くの喜びを知った。
私はようやく、『御阿礼の子』ではなく、『私』の人生を歩み出したのだ。
そして多くの衝撃を受けた。
楽しげに笑う少女達の、元気に遊び回る姿。
弾幕勝負での楽しげな姿、弾幕の美麗さ。
けれど、何よりも衝撃を受けたのは。
やって来る彼女達の、美しさ。可憐さ。毅然とした姿勢。愛らしい態度。
――私の知らなかった、『女らしさ』。
そしてその衝撃が、私に不明瞭な感情を与えてくるのだ。
この感情は一体何だと言うのだろうか?私には解らなかった。
――私はこれまでの八回の生の中で子を残す事が出来たのは一度だけ、阿礼の時だけだった。
二度目の生からは体が弱くなり、子を成す余裕などなくなっていた。
そのせいだろうか。気がつけば私の精神は性や愛というモノから離れていた。
そして今、阿礼の頃は感じたであろう感情が解らなくなってしまっている。
この感情は一体何だっただろうか。
――コレは愛?
いや、愛情はこんなに粘性のある感情では無かった筈だ。
――コレは恋?
違う。そんなに不透明なモノじゃない。
――コレは友情?
確かにそれが一番近いだろう。それを私は持っている。
しかし今私の中にある感情は、それとは違う、一過性のモノの様な――。
思い出せない。それが酷く辛かった。
更に数日が経った。
私はまだこの感情の模索を続けていた。私はこの数日、そこから一歩も進めないままだ。
けれど現実は確実に動いていた。
三日ほど前に紫様がやって来た。
その顔は疲れ切っていたが、何かをやり遂げた達成感が満ちていた。
『ようやく終わったわ……。当初の四倍位の大きさまで増築したから当分は問題ないでしょう。……無いわよね?』
『そうだね。まぁこのスペースなら……一年は持つかな?』
返答を聞いた紫様の表情は正しく言葉に出来なかった。
ともかく、ようやく開店の目処が経ったのだった。
そして、『善は急げだ!』という霖之助さんの提案により、本の搬入を行った。
昼頃から始めたと言うのに、それだけで一日かかってしまった。…多分、この店は一年も持たないんじゃないだろうか?紫様、頑張って下さい……。
二日目には本棚やら何やらの搬入、配置。こちらは重労働だったので、その日はこれだけでお終いになった。
そして三日目、私にはあまり理解出来なかったが、紫様と霖之助さんで『防犯対策』を行っていた。
何でも、一つ一つの本に呪を掛け、その呪を解かない限り店外に持ち出せない、という代物らしい。
『僕の店だと分かれば、容赦無く持って行ってしまうだろう心当たりがあるからね。二つほど』
誰かは言わずもがな。
これまた大作業だったので一日がかりだった。
そうして今日一日は休みに当ていつものように香霖堂で働き、ついに明日開店という事になった。
本来なら今頃、私は緊張と恐怖で大変な事になっていた筈だ。
明日は上手くやれるだろうか?ミスをしないようにしなくては、と気負っていた筈だ。
だが、今の私は感情の正体を考えるのに必死でそれどころではなかった。
この感情に答えが出ないと、気持ちが落ち着かないのだ。
確かにかつて感じた事がある筈だ。それも恐らく、最初の、阿礼の頃に。
思い出そうとしても、その答えは一向に浮き上がって来ない。
その結果、今日まで延々と堂々巡りを続けていた。
仕方ない、また何度目かの“原点に戻る”をやるとしよう。
そもそも、この感情が発露したのはなぜか?
それは、少女達の見せる女らしさであろう。
今まではそう考えていたが、重大な、そしてとても簡単な見過ごしに気付いた。
そうだ、原因はソレじゃない。だってこの感情を知った時は――
『阿礼の頃の私』は、男性だったからだ。
だから――原因は性には求められない。
根底から数日間の考えが覆され、頭の中にこれまでの記憶が駆け廻る。
そして、この間の事。
霖之助さんと魔理沙の事を考えた時。
この感情の正体が、やっと解った。
なんだ、そんな事だったのか。
そして私は言った。
「ねぇ、霖之助さん。今日は――」
『3』
▽
カチャン。
聞き慣れた音が鳴ってドアのカギが閉まる。
今はまだ日も高い真昼だったが、僕は店を閉め始めていた。
その把手に『閉店』の札を掛けて、住居へと戻る。
『ねぇ、霖之助さん。今日はもう店を閉めちゃって、祝賀会でもしませんか?』
唐突な一言だった。
意図も何も分からない。僕が反応できずにいると、彼女は畳み掛けて来た。
『明日、開店するんですから、その前にパーっとやりましょうよ。お酒でも飲んで、ついでに私を檄でも飛ばしてくれれば有難いんですが……』
『ああ、なんだ、そう言う事か。……そうだねぇ。うん、君も頑張ってくれていたしね、それ位してもいいだろう。よし、それなら取って置きの酒を出そう。紫に貰ったものでね、味も保証済みだ。後はそうだな、紫と、魔理沙と霊夢辺りも誘って―――』
『あ、あの!』
声を上げる阿求の顔が紅潮している。どうしたのだろうか?
そう思った矢先。
『あのですね、その、何と言いますか。今回は、香霖堂の、私たち二人だけで祝いたいんです。ほっほら!実際働くのも私達ですし!』
わたわたと腕を振り回す。
その懸命な仕草が可愛らしく、面白かったので少し笑ってしまった。
『ふふ、いや失敬。そうだね。そうやって慌ててると落ち着く事も出来ないからね。僕たち二人だけで、ひっそりとやるとしよう』
『そ、そうですね!そうしましょう!』
とても嬉しそうな笑顔で彼女は応えた。
そう言う訳で、今日一日がかりで祝賀会を行う事にしたのだった。
だが夜明けまで呑み明かす訳にはいかない。何せ明日は開店日だ。最初から醜態を見せたら、どこぞの天狗に面白おかしく書かれてしまう。
そこで昼から行おう…と思ったが、僕の家には何時も最低限しか食料を置いていない。
これでは食事も酒もすぐに底をついてしまう。
仕方が無いので、僕らは人里まで買い出しに出向くことにしたのだった。
「本当に誰も呼ばなくていいのかい?僕は喋るのは好きだけど、人を楽しませる話は多くないし、その内静かに酒を飲むだけになってしまうと思うんだが……」
「大丈夫。承知の内ですよその位。良いじゃないですか、静かな祝賀会。それもまた風流と言うものですよ」
「そんなモノかな。まぁ確かに、静かに人と酒を飲むなんてのはトンと無かったしね。そんな趣向もありか」
会話を交わしながら里を歩く。
阿求は物珍しそうに周りを見ている。今まで、全てを使用人に任せていたのだそうだから、里に来る事も多くは無かったのだろう。
「美味しそうな団子ですねぇ。…けどちょっと高いなぁ」
「大きな建物ですね……何のお店なんでしょうか?」
「此処は何ですか?え?寺子屋?」
いつもは大人っぽく見られがちな彼女が、年相応の少女らしくなっていた。
粗方買い物は済んだ。
「さて、祝賀会が始まるのは夕刻一寸前くらいになる、かな?」
「そうですね。香霖堂に戻ったらその位ですね」
「それにしても。散々悩んだ割にはあんまり買わなかったなぁ」
手に持つ袋を軽く持ち上げる。
酒瓶とつまみが殆どだった。料理の材料を買いに来た筈が、結局つまみだけしか買っていない。
料理は家のモノでいいんじゃないか、と阿求が提案したのだ。
よくよく考えれば、僕も阿求も小食な方だ。
豪華な料理など作った所で、生ゴミが増える事になるだろう。
だから買い物はすぐ終わる筈だったのだ。
それなのに長引いてしまったのは阿求のせいだ。
つまみの選択、酒の選択に長時間迷って、結局どちらも買おうと言いだす。それを僕が諌めて、片方を選ぶ。
それに阿求が頷けば良し。もう一度考えだしたらもう一巡。今日の買い物は大まかにこんな感じだった。
「う…ほら、二人だけですから、豪華な料理よりは多くのつまみの方が良いですし!」
「良いんだけどね、別に。時間はたっぷりあるし、そんなにずっと呑み続ける訳でもないし。さ、速く帰ろう。いい加減疲れて来たよ、誰かが悩み過ぎてたせいで」
「もぉ~!根に持ってるじゃないですかぁ~」
コト。
皿を並べ終え、僕も腰を下ろした。
卓袱台の上には結局つまみしか並んでいなかった。
山かけ豆腐、焼きナス、大根の煮付け等など。
所狭し……とはいかないが、ソコソコの数が並んでいる。
用意してあった酒瓶を手に取り、阿求の杯に注ぐ。
「それじゃあ阿求。どうぞ」
「あ、すいません」
ギリギリまで注ぎ、次いで自分の杯に注ぐ。
よし、準備完了。
「では、香霖堂第二店舗、貸本屋『香霖洞』の開店を祝して」
杯を持ち上げる。
「「乾杯!!!」」
▼
――私は、この状況ですでに満足だった。
霖之助さんと二人、ただ酒を飲み交わすだけの祝賀会。あまりいつもの食事風景と差異が無い。けれど、それだけで良かったのだ。
少なくとも今日一日は私と二人きり。
そう、ただ――
ただ、彼を一人占め出来れば良かったのだ。
私を何日も悩ませていたあの感情の正体。
ソレは――――軽い嫉妬。
霖之助さんが色んな女性に見せる、私の知らない表情。
それが私の心をチクチクと突いていたのだ。
私の目の前で、彼を私以外の人が独占している。それが原因なのだろう。
けれど、まだ嫉妬として形を成すほどのモノではなかった。
明確に形になったのは、魔理沙と彼の関係を目の当たりにした時だろう。
あの二人の、気の置けない関係。長い時間によって培われた安心感。
それが羨ましくて、微笑ましくて、妬ましかったのだ。
私にはそういう関係になる必要も無いし、それとは違う関係を作りたいと思っている。
けれどそれでも。嫉妬は勝手にやって来るモノなのだ。
阿礼の時に感じたソレを思い出す。
仲の良い友人が、見知らぬ人と会話をしている時に感じる嫉妬。
愛する女性が他の男と話している事に対して感じる嫉妬。
二つの嫉妬があった。
今のこの感情が嫉妬である事は解ったが、それが『どちらの嫉妬』なのかは、まだわからない。
今までであれば、間を置かずに友情からのモノだ、と言えただろう。
けれど今の私は断言できなくなっていた。
私に嫉妬を思い出させるキッカケ、『女らしさ』。
――それが本当にキッカケなのか、はたまた原因なのか?その結論が、全てを解決するのだと思う。
けれど今は、解決しなくても構わない。
この静かな祝賀会だけで、今私は満足できている。
この感情に答えを出す必要はまだない。いや、出したくない。
このぬるま湯の様な日常をもっと味わいたい。そう思ったのだ。
杯を呷る。
「ン……ふぅ。美味しいお酒ですね」
「そうだろう?フフ、阿求がそう言ってくれるだけで、このお酒を出した甲斐があったと言うモノだ」
二人で笑い合う。
これだけで満足できるんだ。今の私なら、もっと楽しめる気がする。
当分私はこのままでいい。
いや、このまま『が』、いいんだ。
この夜、私はこのモヤモヤとした気持ちを抱え続ける覚悟を決めたのだった。
『4』
▼
「うわぁ…すごいですよぉ、霖之助さん。一杯人が来てますよぉ」
香霖洞開店十分前。
店舗の二階から店の前を覗いてみると、そこには驚く程多くの人が並んでいた。
果たして私や霖之助さん以外にこの店は需要があるのか?と思っていたのだが、その考えは的外れだったと思い知らされた。
「そうだね。……僕もここまでは想像していなかったなぁ…」
「仕方ないですね…。来ないよりは来てくれた方が有難いですし…頑張るしかないですね」
「おや?大分前向きになったようだね。その意気だよ阿求。こういう時は楽しんでしまった方が気が楽さ」
ははは、と笑う霖之助さんは本当に楽しそうだ。
良し、やるぞ!と気を引き締め階下へ向かう。
階段を下りながら考える。
今さっき覗いた店の前。
確かに多くの人が居たが、一つの懸念が浮かぶ。
――集まっていた人の顔に見覚えがあった。つまり、多くの客が香霖堂と同じなのだろう。
結局、来てくれる人はいつもの常連なんだろうかなぁ、と思いながらカウンターへ。
店の前に浮かぶ人影。ワイワイと聞こえる人の声。
それらを眺めていると、不思議とやる気が出てくるのだ。
「それじゃあ開けるよ。準備は良いかい、阿求?」
眼を伏せて思い出す。
二人きりの祝賀会。同年代の少女達との会話。想いを書きつづる日記。
そして、霖之助さんと、初めて会った時の事。
眼を開ける。
「ええ。大丈夫です、霖之助さん。開店しましょう!」
ニッコリと笑って霖之助さんが扉を開ける。
――これから、もっと多くの『初めて』を経験する事になるだろう。
この店で、この場所で。
その喜びを込めて、私は言葉を放った。
「いらっしゃいませ!ようこそ『香霖洞』へ!!」
そちらも読んで頂ければ嬉しいです。
『1』
▽―1
さて、多少のゴタゴタはあったが、ついに本屋――いや、貸本屋『香霖洞』開店の目処が経った。
開店場所もあり、信頼の置ける店番も確保出来ている。もはや憂う事は無い。
出来るならすぐにでも開店したい。
そう思って善は急げ、とばかりに本を持ちこんでいたのだが……
貸本屋予定地に本を搬入している途中、僕らは途方に暮れた顔つきで立っていた。
「霖之助さん?」
「なんだい阿求」
目の前を眺めながらの受け答え。なぜか目を離せない。
「これは一体どう言う……」
「ソレを語るにはまず僕と言う存在の趣味や傾向について語らなきゃならないだろうね。そうだな、まず――」
「いえ、言い訳は結構です。簡潔にお願いします」
あっさりと遮られてしまった。阿求、君、そんなに押しの強い子じゃあ無かっただろうに。成長が早すぎるだろう……。
だがまぁ、言い訳した所で始まらないのは確かだろう。
「………そうだね。じゃあ簡潔に」
「本が多すぎて店に入らない」
中をほぼ本で埋めつくした店を見ながら、大量の本を背負った僕は言った。
「どうするんですか?今持ってきてる本をは中に置くとしても、このままじゃあ店にするどころか人も入れないですよ?」
「……その通りだな。全く、以前から思っていたのだが、僕は実は馬鹿なのかもしれないなぁ。これ程の量をよくも自宅に置けたものだ」
その上そこで生活しているほどだ。かも、ではなく間違いなく馬鹿だろう。
そんな事を言えば間を置かずに、
「そんな感想はどうでもいいのです。問題はどうするのか、ですよ」
「…そうだな。こんな量をまたウチに持ち帰るなんて考えたくも無い。しかしてこのままでは店に手を着けられない。何をするにしてもまず本を如何にかしなければなぁ。ああ、困った困った。――まぁ、解決策はあるんだけどね」
「そうなんですか?また何の案もないのに楽観的でこの人は大丈夫なのか、と思っていたんですが」
「……君は偶に酷い事を言うよね」
「ええ。そうですね」
にっこりと笑って返す彼女は、確実に悪女に成長するとここに断言しておこう。
「ゴホン。……この程度なら僕にとっては造作も無い事だよ。それこそ赤子の手を――」
「で、どうなさるんですか?」
「…………」
きっと、コレが彼女の素の状態と言うか、性格なのだろう。
それを僕の前でも出してくれる事は素直に嬉しいと感じられるが、何と言うか、正直良い性格とは言えないな。
恥じらっていた可愛らしい阿求は何処に行ってしまったのだろうか……もう一度会いたい。
「まぁその…幾らでも手を貸してくれる友人が居てね。そいつの手を借りる訳だよ」
「成程。霖之助さんは何もしないんですね!」
またも満面の笑みの阿求。……僕は今泣いていいだろうか…。
▼―2
まぁ、そのせいで開店準備が長引いているというわけなのだ。
友人と呼称していた相手は紫様だった。
あの後彼は、私が持っていた式神を使って紫様に連絡し、増築――もはや建て直しに近い気もするのだけど――を頼んでいた。
スキマを開けて現れた紫様は惨状を見るなり苦笑いで呟いた。
――貴方、確かに手助けするとは言ったけれど……。
あんな顔の紫様を見る事は滅多にない、いや、今回の生ではこれっきりかもしれない。
そう思えば貴重なモノが見れたものだな。
そんなこんなのついでに、私の接客能力の向上作戦が発動した。
そもそも私は対人恐怖症…とまではいかないが、かなり人と接するのが苦手なのだ。なにせ八代振りなのだから。
まずまともに会話を出来るようにしなければならない、と霖之助さんが言い出したのだ。
今、私は霖之助さんや紫様、他数名とまともに会話は出来る。冗談交じりの会話も難なくこなせる程度には。
とはいえ、見知らぬ他人とも会話をする仕事だ。見知った人間と幾ら会話が出来ようとも、他人を前に黙り込んでしまうようでは意味が無い。
喋れるように努力をするにも、道行く人に声を掛ける、何て事は出来ない。
そこで香霖堂での接客、つまりはアルバイトをして慣れていこう、と言う事だった。
曲りなりにも店であるし、彼も其処の店主だ。だったら、気を楽にして仕事も出来るだろう。それに、訊ねてくる人の接客は私に任せる、と言う話だった。
けれどこう言った事――接客は本来、店を始める前に仕込むモノじゃあないのだろうか?
今は出店できないからそんな話になっているが、さっきまでは『明日にでも』、と言っていた。
気になって霖之助さんにそう問いかけると、
「ん?いや、どうにでもなるだろうと思って」
と返ってきた。幾らなんでもあんまりじゃなかろうか。
仮にも店を営む人間がそんな楽観的で良いのだろうか、と一抹の不安が過ぎる。
とはいえ、この偶然は悪い事ではなかった。
本も自由に読めるし、お茶も飲める。その上彼が付いているのだ。断る理由は無かった。
そうして私の香霖堂での住み込み生活が始まった。
▽―3
卓袱台をぼくと阿求で囲んでいる。
茶の間で夕飯を摘まみながら、阿求が初めて店に出るので、店員の心得を言って聞かせているのだ。
「いいかい?まず、お客様は神様だ。そして僕ら店員も神様だ。無理難題を言う様な輩であれば、遠慮はいらない。早々に帰って頂きなさい」
「…………」
「次に、客が来たのならどんな時でも対応しなければならない。寝起きだろうが丑三つ時だろうが、だ。だが相手が客でないと解ったのなら、とっとと帰って頂こう」
「…………」
「最後に、黒白と紅白は基本的に客じゃない。すぐさま帰って頂く」
言い終わると阿求が手をすっ、と上げる。
「はい、阿求」
「あの……接客の心得ですよね?」
「そうだが?」
露骨に馬鹿にした顔で僕を見る阿求。
はて、何か妙な事でも言っただろうか。
「はぁ……霖之助さん、貴方、本当は物を売る気は無いでしょう?」
胸を張って僕は答える。
「失敬な。僕はあくまで一商売人だよ」
「貴方が商売人なら、私は何の迷いも無く店頭に立てるんですけどねぇ……」
そしてまた溜息を吐く。何だろう、この馬鹿にされた感じは…。
「ふん、明日からはそんな憎まれ口も叩けなくなるだろうね。なにせ香霖堂での初仕事だ。緊張でそれどころじゃないだろうから」
すぐに噛みついて来るかと思って見れば、中々面白い面相になっていた。
顔には『そんなことないですよ!』と書かれているのだが、口は引き結ばれている。
思い当たる節があるから反論できない、と言ったところか。
「ま、その緊張を解くための練習なんだ。気を張らずに、と言ったところで無駄だろうけど、出来る限り頑張りなさい」
「はいはい。励ますつもりなら最初からそうしてくれればいいのに」
▼―4
夜が明けた。
遂に私が店に出る日が来てしまった。
霖之助さんには強気な言葉を言っていたが、実の所怖くて仕方が無かった。
私は今まで、初対面の人間とどの様に接していただろうか?
そればかり考えるが、何十何百年前の記憶まで遡った所で、毎回緊張していた覚えしかない。何の参考にもならなかった。
うんうん唸る私を見かねたのか霖之助さんが言う。
「大丈夫かい?やっぱりもうちょっと様子を見てからにした方が良いかな……」
時折矢鱈と優しいから困りものだ。いつもこんなならもっとモテるのに。
「いえ、大丈夫です。逃げてばかりじゃ、勿体ないです。さぁ、行きましょう!」
私は覚悟を決めた。もう逃げない。他人が何だ!きっちりこなして見せましょう!
そうして私の新しい一日が始まり――
誰も来ないまま一日は終わった。
「そうですよね…予想はしてたんですよ。霖之助さんの店が繁盛している訳は無いって。けどまさか、一人も来店しないなんてのは予想外ですよ……」
既に店は閉めて、今は住居でお茶を飲みながらのんびりしている。そのついでに愚痴も溢しているという訳だ。
「まぁ今日は偶々誰も来なかっただけさ。普段なら二人は来る」
「……それは一時間に、ですか?」
「いや?一日に、さ」
頭を抱える。この店で対人能力を鍛える事は諦めた方が良いかもしれない。こればかりは悩んでも仕方が無い。
私は考え事を切り上げ、本を取り出す。
これは私の読んだことの無い類の本、『漫画』だ。
絵物語なんかは読んだ事もあったが、それ以上に絵の量が多い。文章量が減った分、心情などを絵で表現する所は面白いと思う。
反面、読者に想像の余地を余り残さないのが物足りない、と私は思う。
私にとっては、想像する事によって更に長時間楽しむ事も重要だからだ。
霖之助さんは『だからこそ絵で評価したり、描かない事によって表現すると言う小説には難しい事が出来る』と言う。それももっともだ。
今読んでいる本は“ギャグ漫画”の様だ。
時には恐ろしく、時には下らない妖怪たちに主人公が翻弄され、最後には鉄拳制裁で強引に解決を図る、と言うのが基本の一話完結型。
説明台詞が独特の言葉遣いで気にならなくなっている辺りが面白い。ドヒー!
絵は余り達者じゃないのだが、何故か読む手が止められない。話のテンポが良いのだろうか?それより何より――
「妹が可愛いなぁ…」
ポツリと呟いた言葉に霖之助さんが喰いつく。
「おや、面白い本でもあったのかな」
若干ニヤついているのが嫌だ。だから、敢えてそれには反応してやらない。
丁度読み終わりそうなところだったので訊ねる。
「霖之助さん、この続き、あります?」
そう言って表紙を見せる。どれどれ、と表紙を見た後、
「ああ、多分貸本屋(予定地)に持って言った中にあったんじゃないかな?」
「う~ん……そうですか」
あちゃぁ。それではすぐには読めない訳か。けれど続き自体はある。期待して待つとしよう。
そう思って、私は最近読んでいる別の短編集に手を伸ばした。
外国のホラー作家のモノだが、その全てを超越した恐怖と言うモノは非常に面白い。
そうやって本を読み続けて一日目は終わっってしまった。
明日こそは誰か来ますように、と願わずにはいられなかった。
▽―5
さて、阿求が店に出て二日目だ。
「いいかい、客が来たら大きい声で“いらっしゃいませ!”だ。これは基本なんだ。絶対に抜かしてはならない」
「わ、解りました!いらっしゃいませ、ですね!」
両手をグッと握りしめる阿求。フン、と鼻息荒く答える。
「そう。その位の声で言えれば大丈夫だ――」
言っている内に扉が開いた。
「いらっしゃ…ああ、君か」
「何だい、挨拶ぐらいちゃんとなさいな」
そう言って彼女――八坂神奈子は嬉しそうに笑った。
「おや、その娘っ子は誰だい?」
そう言う神奈子の視線を追っていくと、
カウンターに隠れてヒョコ、と顔だけ出している阿求がいた。
「……あの子は阿求。名前は君も知っているだろう?――阿求!隠れてないで出ておいで!」
阿求はおっかなびっくりと言った感じで出て来た。
「ほら、教えた通りにやってご覧」
「は、はい!……あの、えっと、な……何の御用、でしょうか」
初めて会った時の様にモジモジしだす阿求。可愛い。
「おやおや、聞いてた話と違うねぇ。霊夢の話じゃ肝の据わった、ちょいと尊大な子だと聞いてたんだが」
「人見知りが激しいのさ。だから此処で鍛えてる」
「ハハ!そうなのかい!この店じゃあたかが知れていると思うけどねぇ……そうそう、用件はね、嬢ちゃん。本を借りに来たのさ。――そうだ、良い事思いついたよ」
そう言って阿求に顔を近づける。阿求はモジモジしながらも、相手が客であるから顔を逸らせないでオドオドしている。なんともいじらしい。
「嬢ちゃん。アンタの面白いと思った本を貸してくれないかい?」
「え、え?私の、面白い、ですか?」
「そうさ。どんな本でも構わないよ。小説でも漫画でも、絵本でもね」
何ならお色気本でも、と言ってカラカラ笑う。全く、本当に神なのか?
もっと上品に振る舞ってもいいと思うんだが。女性としても、とはとてもじゃないが口に出来ないが。
「あ、あの。わかりました…少々、お待ちください!」
そう言ってパタパタと店の奥にかけていく。
「で、あの子は大丈夫そうかい?」
「多分問題ないと思うんだよね。何だかんだ言っても結局幻想郷の少女だからね。肝っ玉は座っているし、ああ見えて強い子なんだよ」
「おやおや、随分と熱心な様じゃないか。何か理由でもある?」
聞き出そうとしている神奈子。さて、言っても良いか、黙っていた方が良いか。
少し迷った後、どうせもうすぐ開店するのだし、宣伝に丁度良いかと思い話す事にした。
「実はね、今度里に貸本屋を出すから、その店番を彼女にしようと思っているんだ」
「貸本屋?本当に?そりゃあいい!もっと色んな意見を聞いてみたいと思ってたのさ。アンタは妙に穿った感想が多かったからねぇ」
悪かったな。
奥から阿求が戻って来た。胸には昨日の漫画と初めて会ったときに読んでいた小説。
「あの、この二つ、は、本当に面白い、ので、読んで、その」
「阿求、落ち着いて。深呼吸」
スーハーと深呼吸をし、落ちつけてから続ける。
「あの、感想を聞かせていただけると、嬉しい、です」
「ああ。解ってるさ。ちゃんと感想を言いに来るよ」
受け取りながらにっこりと笑う神奈子。なんだ、そんな笑い方が出来るなら普段からしていればいいのに。いつもの笑い方だとまるで悪役の様に見えるし。
店を出るときにそっと耳元で囁かれた。
「そんなに心配する事も無い様じゃないか」
僕は胸を張って答えた。
「当り前だ。何せ僕直々に教えているのだからね」
その時の神奈子の呆れた様な苦笑いが気になるが、まぁいいか。
結局その日は他に客はなかった。
「阿求、今日は何を読んでいるんだい?」
見るとそれは文庫サイズの本で、昨日読んでいた小説だった。
「その本、そんなに気に入ったのかい?」
「はい!何と言うか、宇宙的恐怖とでもいいましょうか、言葉にはし辛いんですが、すごい面白いですよ!」
彼女の満足気な表情を見るだけで、こっちまで楽しくなってくる。
「そうか。楽しめるのは良い事だ。どんどん読みなさい」
幾らでもあるからね、と続けたのだが、既に耳には入っていなかったようだ。…まぁそれ程楽しんでもらえている様で何よりだ。
その夜、阿求の寝室から、いあ、とか、ふたぐん、とか聞こえて来た。
何だかわからないが、海底の夢を見たのを覚えている。
『2』
▼
あれから更に数日が経った。
幾度か訪れた紫様が言うには、もう少し――長くて一カ月程度かかるそうだ。……どれ程貯め込んでいたんですか、霖之助さん?
そんな訳で今でも香霖堂の手伝いを続けている。
そして今日も、カウンター脇の椅子に腰かけ本を読み、読み終わった本を積み重ねて行くのだ。
さて、そんな毎日を送っている香霖堂での手伝いだが、その中で解った事がある。
まず、人が来ない。全然来ない。
昨日は三人、一昨日は二人。その前は六人。はっきり言って五人を超える事がまず珍しい。
今までの一日の最大来客数は何人だったんだろう。私が来てからは八人だが、それが最大じゃないと良いが。
そして人が来ないと言う事はつまり、私の接客の練習にならないと言う事だ。
今では此処に居る理由が“本を読む事”に変わってきている気がしなくもない。
人が来ないから本を読んでいたのに。これこそ本末転倒だろう。
とはいえ、悪い事ばかりではない。
ヒマを有効に使うために、私は久しぶりに日記をつけ始めたのだ。
今までは厭で仕方が無かった。
何と言っても変化が無い。その上その全てに既視観があるのだ。内容にも何の感慨もない。
それまで惰性的に続けていたが、いつの間にか自然と日記のページは増えなくなった。
その日記の続きを私は書き出したのだ。
その内容だって大したことは書いていない。
変わらない日常。少ない客との会話。その日読んだ本。霖之助さんとの無駄話。その程度の事だ。
だが、日記の文章からは様々な事が読み取れる。嬉しさ、楽しさ、緊張や驚愕、多くの感情。私の感じた、私の感情だ。
私がそんな文章を書く、その事がどれ程嬉しかったか。感情のある言葉を綴れるようになった、それだけでも此処に来た意味があったと、本当に思えた。
う……少し脱線してしまったか。話を戻そう。
香霖堂についてわかった事……と言うよりこれは霖之助さん個人の事だ。
あんな偏屈者の霖之助さんだが、何気に知り合いが多い。
霧雨店店主は元より、紫様に霊夢に魔理沙。神奈子様、諏訪子様に早苗さん。人里にも多く知り合いが居るようだし、妖精の類もやって来る。
ま、その割には来客が少ないというのが不思議だが。
そして私にとって嬉しいのが、彼女達が私の友人になってくれる事だ。
今までは家から出る事が少なかったのだから当り前だが、友人と呼べる人間など片手で数えられた。
その上、人と関わる事に消極的だったのだから、誰かがやって来ない限り新しい知り合いの出来る訳が無かったのだ。
だけど、今の状況は人はやって来るし、その人と積極的に対応しなくてはならないのだ。
嫌でも多くの言葉を交わすし、彼女達は朗らかに明るく接してくれた。
彼女達の話は変幻自在で、尚且つ多種多様で。私にとても楽しい時を過ごさせてくれた。
そしてそのお陰か、皆と自然と親しくなっていったのだ。
今では霖之助さんの知り合いは、私の友人であると言っても過言では無いだろう。
そのお陰か、彼女達とは問題無く話せるようになっていた。いや、そうなるまでに何回も迷惑をかけたのだと思うけど。
そう思えば思うほど、感謝の念は尽きないのだった。
しかし一方で不満もあるのだ。
その不満は霖之助さんには非は無い。けれど原因も霖之助さんなのだ。だから、不満も結果的に霖之助さんに向かってしまう。
彼にとっては不幸としか言いようが無いが、こればかりはどうしようもない。
……全くどうして。どうして――
霖之助さんの知り合いの多くは、女性なのだろうか。
そう、彼の知り合いの多くは女性なのだ。男性の知り合いも少なくは無い。圧倒的に女性の数が多すぎる、と言うべきか。
さっき挙げた数人なんて氷山の一角に過ぎない。
もしかすると女性だけで百人は居るんじゃなかろうか、と最近では疑っている。
更に言うなら、来客の殆どが女性の知り合いなのだ。
そして妙に親しげで、何と言うか、私はモヤモヤとした気分になってしまうのだ。
――例えば、河城にとり。
彼女は何かの発明を日頃からしている様で、部品であったり専門書であったりをよく買い求めにやって来る。
霖之助さんもあの性格だ。大いに興味を示して楽しげに会話している。
「……と言う訳。で、このライトの制作中な訳さ」
「成程。この小ささの筒から昼の光が放たれるのか。面白い、実に面白いね」
「だろう?だからその部品を探しているんだ。ココに書かれてるモノがあれば助かるんだけれど、どうだい?」
「よし!ちょっと探してこよう。少し待っていてくれ給え、期待に応えて見せよう!」
と言う具合に、いつもの霖之助さんより元気五割増しといった調子だ。そんな調子は私と二人きりでは見る事は出来ないだろう。
――例えば、アリス・マーガトロイド。
人形師である彼女は、人形に着せる服を作るための布や、改良を加える際の材料を探しにやって来る事がある。
彼女とは熱心に会話する、と言った感じではない。しかし、彼女の性格が霖之助さんの性格と噛み合っている様に思う。
「貴方からは商売っ気が見えないわね。そのお陰でこうしてツケでモノを買えるのだけど」
「おいおい。何時までもツケにはしてあげられないよ。これでも商売なんだ」
「そうね、それでも貴方の興味を引く様な対価を差しだせばどうかしら?」
「はは。確かにツケの支払いは催促しなくなるだろうね。例えばその人形なんかは対価たりえるよ」
「あら、それは良い事を聞いたわ。今度何体か持ってくる事にしましょう」
そして笑い合う。
彼女と話す時、霖之助さんはとても落ち着いた調子で冗談も飛ばす。軽口も言う。
その大人びた空気も、私と二人きりでは出す事は出来ない。素直に羨ましいと感じたものだ。
――そして。
きぃ、と扉が開き、彼女が入って来る。
「……今日は何か用があるのかい?魔理沙」
「心配するな。今日も何もないぜ」
――例えば、霧雨魔理沙。
▽
「まぁまぁ、今日もやる事が無くて忙しい中来てやったんだ。有難く思えよ?」
そんなことはいつもの事じゃないか、と言う突っ込みもいつも通りに過ぎると思った僕は、別の言葉で返す事にした。
「何か一つでも買っていくのならね」
そうしていつもの様に冗談や憎まれ口をたたき合う。……僕はずっと本音だが。
「よぉ阿求。人見知りは治ったか?」
「いえ、まだこれから、と言った感じです。――けれど、大分マシにはなったと思いますよ。少なくとも、常連の方々とは普通に話せるようになりました」
「そうか、そりゃあ良かったな。まぁあのままでも人気は出たと思うぜ?あれはあれで可愛らしかったからな」
カラカラと笑う。全く屈託のない笑顔は小さいころから変わらない。このまま、ずっと変らないでいて欲しいと思う。
来店時に宣言したように何の用も無かったようで、店内をフラフラして品物を見たり、阿求と会話したりを繰り返していた。
全く、ここを商店として扱ってくれたのは何時が最後だったか。
それにしても、だ。
昔から不思議に思っているのだが、何故彼女は僕の店に足繁くやって来るのだろう。
正直、魔理沙が興味を引くモノは余りこの店には無い。人里の店の方がよほど彼女に会う筈だ。
ま、敢えて聞く事はしない。もしそれで彼女がこの店に来なくなったら、唯でさえ人の来ないこの店の数少ない常連が居なくなってしまうからね。
一通り魔理沙の品定めが終わった時、
「なぁ香霖」
声を掛けられた。何かと首を傾げると、
「ちょっと膝、借りていいか?」
片手に本を持って問いかける。
ああ、成程。それが何か知っている僕は、
「良いよ。騒がしくしなければね」
「それじゃあ少し借りるぜ」
彼女はよいしょ、と僕の膝の上に腰かけた。
――昔から、彼女を良く膝の上であやしていた。そのせいだろうか。
僕と魔理沙が一緒の時、多くの時間をこうして過ごしてきたように思う。
彼女も膝の上に居る時はとても落ち着いている。
今だって、静かに読書に没頭しているのだから。
ある意味、僕らにとって最も自然な状態と呼べるかもしれない。
この格好になると、僕もとても落ち着くのだった。
日も落ちて暗くなってきた頃。
魔理沙は丁度本を読み終わったようで、ん~と伸びをした。
「いや、中々面白かったなぁこの本。香霖、続きは無いのか?」
「えっとね。ああ、コレの続きだったらまだ家に置いているよ。持って帰るかい?」
「そうだなぁ。…うん。借りて帰るよ」
どうせまた今日と同じ様に此処で読むのだろうな。
そう思いつつ探し当てた本を渡して
「ちゃんと返せよ。それは商売道具になるんだから」
「解ってるって。じゃあ、またな」
そう言って箒に跨って飛んでいく。
魔理沙を見送って、そろそろ閉店にしてもいいだろう、そう考えて店を閉めた。
▼
霧雨魔理沙と初めて会ってから一年程度経つだろうか。
確か霊夢と共に私の家へやって来たのが始まりだった。
彼女らはあの性格だ。私に遠慮を許さず、あっと言う間に気の置けない仲となった。
魔理沙はいつも元気で、朗らかで。私は彼女の性格が大好きだった。
私もあんな風に走れたら、飛べたら、喋れたら。
憧れは留まる所を知らずに膨れ上がって行く。
同時に、暗い思いが沸いてくる。
私は彼女よりも優れている。私は彼女を越える能力を持っている。
私は彼女よりも――。そんな思いが駆けめぐるのだ。
それに気付いて、私は私が厭になるのだ。
私は彼女にはなれない。そんなことはわかっている。だから私は、私らしく生きようと思った。
今こうして、様々な助力のお陰ではあるが、自ら選択して香霖堂で働く事も出来た。
此処で働くようになって多くの事を学び、多くの喜びを知った。
私はようやく、『御阿礼の子』ではなく、『私』の人生を歩み出したのだ。
そして多くの衝撃を受けた。
楽しげに笑う少女達の、元気に遊び回る姿。
弾幕勝負での楽しげな姿、弾幕の美麗さ。
けれど、何よりも衝撃を受けたのは。
やって来る彼女達の、美しさ。可憐さ。毅然とした姿勢。愛らしい態度。
――私の知らなかった、『女らしさ』。
そしてその衝撃が、私に不明瞭な感情を与えてくるのだ。
この感情は一体何だと言うのだろうか?私には解らなかった。
――私はこれまでの八回の生の中で子を残す事が出来たのは一度だけ、阿礼の時だけだった。
二度目の生からは体が弱くなり、子を成す余裕などなくなっていた。
そのせいだろうか。気がつけば私の精神は性や愛というモノから離れていた。
そして今、阿礼の頃は感じたであろう感情が解らなくなってしまっている。
この感情は一体何だっただろうか。
――コレは愛?
いや、愛情はこんなに粘性のある感情では無かった筈だ。
――コレは恋?
違う。そんなに不透明なモノじゃない。
――コレは友情?
確かにそれが一番近いだろう。それを私は持っている。
しかし今私の中にある感情は、それとは違う、一過性のモノの様な――。
思い出せない。それが酷く辛かった。
更に数日が経った。
私はまだこの感情の模索を続けていた。私はこの数日、そこから一歩も進めないままだ。
けれど現実は確実に動いていた。
三日ほど前に紫様がやって来た。
その顔は疲れ切っていたが、何かをやり遂げた達成感が満ちていた。
『ようやく終わったわ……。当初の四倍位の大きさまで増築したから当分は問題ないでしょう。……無いわよね?』
『そうだね。まぁこのスペースなら……一年は持つかな?』
返答を聞いた紫様の表情は正しく言葉に出来なかった。
ともかく、ようやく開店の目処が経ったのだった。
そして、『善は急げだ!』という霖之助さんの提案により、本の搬入を行った。
昼頃から始めたと言うのに、それだけで一日かかってしまった。…多分、この店は一年も持たないんじゃないだろうか?紫様、頑張って下さい……。
二日目には本棚やら何やらの搬入、配置。こちらは重労働だったので、その日はこれだけでお終いになった。
そして三日目、私にはあまり理解出来なかったが、紫様と霖之助さんで『防犯対策』を行っていた。
何でも、一つ一つの本に呪を掛け、その呪を解かない限り店外に持ち出せない、という代物らしい。
『僕の店だと分かれば、容赦無く持って行ってしまうだろう心当たりがあるからね。二つほど』
誰かは言わずもがな。
これまた大作業だったので一日がかりだった。
そうして今日一日は休みに当ていつものように香霖堂で働き、ついに明日開店という事になった。
本来なら今頃、私は緊張と恐怖で大変な事になっていた筈だ。
明日は上手くやれるだろうか?ミスをしないようにしなくては、と気負っていた筈だ。
だが、今の私は感情の正体を考えるのに必死でそれどころではなかった。
この感情に答えが出ないと、気持ちが落ち着かないのだ。
確かにかつて感じた事がある筈だ。それも恐らく、最初の、阿礼の頃に。
思い出そうとしても、その答えは一向に浮き上がって来ない。
その結果、今日まで延々と堂々巡りを続けていた。
仕方ない、また何度目かの“原点に戻る”をやるとしよう。
そもそも、この感情が発露したのはなぜか?
それは、少女達の見せる女らしさであろう。
今まではそう考えていたが、重大な、そしてとても簡単な見過ごしに気付いた。
そうだ、原因はソレじゃない。だってこの感情を知った時は――
『阿礼の頃の私』は、男性だったからだ。
だから――原因は性には求められない。
根底から数日間の考えが覆され、頭の中にこれまでの記憶が駆け廻る。
そして、この間の事。
霖之助さんと魔理沙の事を考えた時。
この感情の正体が、やっと解った。
なんだ、そんな事だったのか。
そして私は言った。
「ねぇ、霖之助さん。今日は――」
『3』
▽
カチャン。
聞き慣れた音が鳴ってドアのカギが閉まる。
今はまだ日も高い真昼だったが、僕は店を閉め始めていた。
その把手に『閉店』の札を掛けて、住居へと戻る。
『ねぇ、霖之助さん。今日はもう店を閉めちゃって、祝賀会でもしませんか?』
唐突な一言だった。
意図も何も分からない。僕が反応できずにいると、彼女は畳み掛けて来た。
『明日、開店するんですから、その前にパーっとやりましょうよ。お酒でも飲んで、ついでに私を檄でも飛ばしてくれれば有難いんですが……』
『ああ、なんだ、そう言う事か。……そうだねぇ。うん、君も頑張ってくれていたしね、それ位してもいいだろう。よし、それなら取って置きの酒を出そう。紫に貰ったものでね、味も保証済みだ。後はそうだな、紫と、魔理沙と霊夢辺りも誘って―――』
『あ、あの!』
声を上げる阿求の顔が紅潮している。どうしたのだろうか?
そう思った矢先。
『あのですね、その、何と言いますか。今回は、香霖堂の、私たち二人だけで祝いたいんです。ほっほら!実際働くのも私達ですし!』
わたわたと腕を振り回す。
その懸命な仕草が可愛らしく、面白かったので少し笑ってしまった。
『ふふ、いや失敬。そうだね。そうやって慌ててると落ち着く事も出来ないからね。僕たち二人だけで、ひっそりとやるとしよう』
『そ、そうですね!そうしましょう!』
とても嬉しそうな笑顔で彼女は応えた。
そう言う訳で、今日一日がかりで祝賀会を行う事にしたのだった。
だが夜明けまで呑み明かす訳にはいかない。何せ明日は開店日だ。最初から醜態を見せたら、どこぞの天狗に面白おかしく書かれてしまう。
そこで昼から行おう…と思ったが、僕の家には何時も最低限しか食料を置いていない。
これでは食事も酒もすぐに底をついてしまう。
仕方が無いので、僕らは人里まで買い出しに出向くことにしたのだった。
「本当に誰も呼ばなくていいのかい?僕は喋るのは好きだけど、人を楽しませる話は多くないし、その内静かに酒を飲むだけになってしまうと思うんだが……」
「大丈夫。承知の内ですよその位。良いじゃないですか、静かな祝賀会。それもまた風流と言うものですよ」
「そんなモノかな。まぁ確かに、静かに人と酒を飲むなんてのはトンと無かったしね。そんな趣向もありか」
会話を交わしながら里を歩く。
阿求は物珍しそうに周りを見ている。今まで、全てを使用人に任せていたのだそうだから、里に来る事も多くは無かったのだろう。
「美味しそうな団子ですねぇ。…けどちょっと高いなぁ」
「大きな建物ですね……何のお店なんでしょうか?」
「此処は何ですか?え?寺子屋?」
いつもは大人っぽく見られがちな彼女が、年相応の少女らしくなっていた。
粗方買い物は済んだ。
「さて、祝賀会が始まるのは夕刻一寸前くらいになる、かな?」
「そうですね。香霖堂に戻ったらその位ですね」
「それにしても。散々悩んだ割にはあんまり買わなかったなぁ」
手に持つ袋を軽く持ち上げる。
酒瓶とつまみが殆どだった。料理の材料を買いに来た筈が、結局つまみだけしか買っていない。
料理は家のモノでいいんじゃないか、と阿求が提案したのだ。
よくよく考えれば、僕も阿求も小食な方だ。
豪華な料理など作った所で、生ゴミが増える事になるだろう。
だから買い物はすぐ終わる筈だったのだ。
それなのに長引いてしまったのは阿求のせいだ。
つまみの選択、酒の選択に長時間迷って、結局どちらも買おうと言いだす。それを僕が諌めて、片方を選ぶ。
それに阿求が頷けば良し。もう一度考えだしたらもう一巡。今日の買い物は大まかにこんな感じだった。
「う…ほら、二人だけですから、豪華な料理よりは多くのつまみの方が良いですし!」
「良いんだけどね、別に。時間はたっぷりあるし、そんなにずっと呑み続ける訳でもないし。さ、速く帰ろう。いい加減疲れて来たよ、誰かが悩み過ぎてたせいで」
「もぉ~!根に持ってるじゃないですかぁ~」
コト。
皿を並べ終え、僕も腰を下ろした。
卓袱台の上には結局つまみしか並んでいなかった。
山かけ豆腐、焼きナス、大根の煮付け等など。
所狭し……とはいかないが、ソコソコの数が並んでいる。
用意してあった酒瓶を手に取り、阿求の杯に注ぐ。
「それじゃあ阿求。どうぞ」
「あ、すいません」
ギリギリまで注ぎ、次いで自分の杯に注ぐ。
よし、準備完了。
「では、香霖堂第二店舗、貸本屋『香霖洞』の開店を祝して」
杯を持ち上げる。
「「乾杯!!!」」
▼
――私は、この状況ですでに満足だった。
霖之助さんと二人、ただ酒を飲み交わすだけの祝賀会。あまりいつもの食事風景と差異が無い。けれど、それだけで良かったのだ。
少なくとも今日一日は私と二人きり。
そう、ただ――
ただ、彼を一人占め出来れば良かったのだ。
私を何日も悩ませていたあの感情の正体。
ソレは――――軽い嫉妬。
霖之助さんが色んな女性に見せる、私の知らない表情。
それが私の心をチクチクと突いていたのだ。
私の目の前で、彼を私以外の人が独占している。それが原因なのだろう。
けれど、まだ嫉妬として形を成すほどのモノではなかった。
明確に形になったのは、魔理沙と彼の関係を目の当たりにした時だろう。
あの二人の、気の置けない関係。長い時間によって培われた安心感。
それが羨ましくて、微笑ましくて、妬ましかったのだ。
私にはそういう関係になる必要も無いし、それとは違う関係を作りたいと思っている。
けれどそれでも。嫉妬は勝手にやって来るモノなのだ。
阿礼の時に感じたソレを思い出す。
仲の良い友人が、見知らぬ人と会話をしている時に感じる嫉妬。
愛する女性が他の男と話している事に対して感じる嫉妬。
二つの嫉妬があった。
今のこの感情が嫉妬である事は解ったが、それが『どちらの嫉妬』なのかは、まだわからない。
今までであれば、間を置かずに友情からのモノだ、と言えただろう。
けれど今の私は断言できなくなっていた。
私に嫉妬を思い出させるキッカケ、『女らしさ』。
――それが本当にキッカケなのか、はたまた原因なのか?その結論が、全てを解決するのだと思う。
けれど今は、解決しなくても構わない。
この静かな祝賀会だけで、今私は満足できている。
この感情に答えを出す必要はまだない。いや、出したくない。
このぬるま湯の様な日常をもっと味わいたい。そう思ったのだ。
杯を呷る。
「ン……ふぅ。美味しいお酒ですね」
「そうだろう?フフ、阿求がそう言ってくれるだけで、このお酒を出した甲斐があったと言うモノだ」
二人で笑い合う。
これだけで満足できるんだ。今の私なら、もっと楽しめる気がする。
当分私はこのままでいい。
いや、このまま『が』、いいんだ。
この夜、私はこのモヤモヤとした気持ちを抱え続ける覚悟を決めたのだった。
『4』
▼
「うわぁ…すごいですよぉ、霖之助さん。一杯人が来てますよぉ」
香霖洞開店十分前。
店舗の二階から店の前を覗いてみると、そこには驚く程多くの人が並んでいた。
果たして私や霖之助さん以外にこの店は需要があるのか?と思っていたのだが、その考えは的外れだったと思い知らされた。
「そうだね。……僕もここまでは想像していなかったなぁ…」
「仕方ないですね…。来ないよりは来てくれた方が有難いですし…頑張るしかないですね」
「おや?大分前向きになったようだね。その意気だよ阿求。こういう時は楽しんでしまった方が気が楽さ」
ははは、と笑う霖之助さんは本当に楽しそうだ。
良し、やるぞ!と気を引き締め階下へ向かう。
階段を下りながら考える。
今さっき覗いた店の前。
確かに多くの人が居たが、一つの懸念が浮かぶ。
――集まっていた人の顔に見覚えがあった。つまり、多くの客が香霖堂と同じなのだろう。
結局、来てくれる人はいつもの常連なんだろうかなぁ、と思いながらカウンターへ。
店の前に浮かぶ人影。ワイワイと聞こえる人の声。
それらを眺めていると、不思議とやる気が出てくるのだ。
「それじゃあ開けるよ。準備は良いかい、阿求?」
眼を伏せて思い出す。
二人きりの祝賀会。同年代の少女達との会話。想いを書きつづる日記。
そして、霖之助さんと、初めて会った時の事。
眼を開ける。
「ええ。大丈夫です、霖之助さん。開店しましょう!」
ニッコリと笑って霖之助さんが扉を開ける。
――これから、もっと多くの『初めて』を経験する事になるだろう。
この店で、この場所で。
その喜びを込めて、私は言葉を放った。
「いらっしゃいませ!ようこそ『香霖洞』へ!!」
今度は霖之助が貸本屋を繁盛させている阿求に嫉妬するかも……しないか。
このまま終わりでもいいけど、続きも気になる・・・
それはそうと、阿求が読んだ漫画は押切蓮介の「でろでろ」ですね!
私も大好きな作品です。
留渦は可愛いな~。
余計な話をして申し訳ないです。
これからも期待しています。
ああ、なぜ私は「それ」に気づいてしまったのか……
次でひと段落なんて言わずに。
しかし文章を書ける人ってほんと羨ましい。
次も、あったらいいな