Coolier - 新生・東方創想話

たいせつなもの#4

2011/01/15 17:07:13
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【注意事項】
・オリキャラが出ます。
・これは続き物です。#1#2#3を読んでからお読みになられると、お話が理解できるかと思います。
・前回が読みたい方は作者名あまらーで検索してくださいませ。

では本編をどうぞ!








 「それ、なに?」

 空はぽかーんと間抜けな表情を浮かべて、阿求に尋ねた。
すると阿求はくすりと笑って、求聞史記を空に見せながら言葉を告げる。

 「これは、求聞史記。幻想郷の歴史を纏めた歴史書です。此処には様々な能力の概要や、その能力を使っていた人の名前。はたまた建物の名前や幻想郷に住む全ての者の情報まで……。
稗田の歴史によって積み重ねられた全ての事が、此処には書いてあります」

 「?」

 空はまるで理解していない様子で、阿求の顔を見ていた。困った様子の阿求を見て、さとりは苦笑いしながらフォローを入れる。
鳥頭の空にも分かる説明を出来るのは、もしかしたらさとりだけかもしれない。
それくらいの素晴らしいフォローを挟み込む。

 「簡単に言えば、今まであった事を書いてある絵本ですよ」

 さとりの言葉に納得したのか、空は手を叩いて、古風なリアクションを取りながら理解した事を示した。
そんな空の様子を見て、阿求はゆっくりと求聞史記を開いた。

 「実は、此処へ来たのはお空さんの好きな人……つまり、晃さんの事についてお伝えしたい事があるからなのです。」

 「伝えたい事?」

 「はい……実は晃さんの能力は、『願いを叶える程度の能力』といって、自分の考えた通りに全てを叶えてしまう能力なのです」

 「知ってるよ?」

 そんな空の言葉を聞いて、2人は目を丸くして空を見た。
そんなこと知っているに決まっている。なんたって、晃本人から聞いたのだから。
空はなんだそんな事か、とゆっくりと溜息を吐きながら床に座った。

 「お空、何故そんな事を知っているのですか?」

 「え、だってアキラ君から聞いたんです。能力を使うときの駄目な所も聞きました」

空の言葉に、阿求が興味深そうに食い入る。そう、求聞史記にはデメリットまでは載っていない。
元々能力の強さを考えるとかなりレアな能力。願いを叶えるなんて大きな能力の裏には、当然デメリットが巣食っているはずだ。

 「その駄目な所とはなんなのですか?」

 「うん、何だか使ったら自分の一番大切な物が消えるって……。かわいそうだよね……」

 空の言葉に、さとりは1つ頷いた。矢張り、とそんな核心めいた考えを持ちながら。
阿求は筆を滑らせ、その能力の欄にデメリットを書き込んでいく。求聞史記の歴史が、また1つ追加された。

 「それは大きなデメリットですね……。使えば使うほど、大切な物が消える……ですか」

 阿求がそう呟いていると、それを聞いているさとりがまた言葉を連ねる。
これは、空に対する警告。それであり、心配であった。

 「……お空、昨日はあんな事を言いましたが、もうあの少年に近付くのはやめておきなさい。
もしも貴女があの少年の一番大切な物になってしまったら、あの少年が能力を発動させてしまったとき、貴女は消える事になってしまいます。貴女の主として、貴女が死ぬのをゆめゆめ見過ごすなんて……―――」

 その瞬間、空は無言で立ち上がってさとりをギッと睨み付けた。
さとりの頭の中に入ってきた空の頭の中は、おかしなまでに怒りに満ち溢れていた。空が此処まで怒った所を、今の今までさとりは見た事がなかった。

 「勇儀も、さとり様も、晃君を1人ぼっちにさせたいの?みんな、みんな。アキラ君が嫌いなの?」

 「そんな事を言っているんじゃありません、ただ貴女があの子の大切な何かになってしまえば、それは貴女も―――」

 「もういい、聞きたくないッ!!」

 空は踵を返して、さとりの家から飛び出していった。そう、それは今まで一度もなかったさとりに対する反抗。
さとりは、驚くと同時にくすりと笑みが零れ始めた。
簡単に零れた笑みは徐々にそれを膨らませ、やがてさとりの表情を明るくした。

 「ふふっ……あはははっ!!」

 嬉しそうに笑うさとりに、阿求は不思議そうな表情を浮かべる。
そんな阿求を見て、さとりは笑って出た涙を拭きながら、言葉を連ねる。

「あぁ、ごめんなさい。ふふっ……あの子が、あんなに怒るなんてね。
たった2日前の出来事ですよ?それなのに、もう晃が大好きなんですね……。私は、余計な口出しをしない方がいいのかもしれない」

 にこりと笑うさとりを見て、阿求もくすりと笑う。此処まで笑顔になったさとりを、阿求自身見たことがなかった。そして、さとりは阿求に対して告げる。空の恋路を邪魔する物を、消すための方法を。

「稗田の、お願いがあります」



頬を膨らませながら、空は地霊殿を歩いていた。
さとりの家を飛び出してきてからというもの、空の頭に浮かぶのは晃の顔だけだった。そんな晃に嫌いだのなんだの言う人の言葉なんか、聞こうなんて思えなかった。

「さとり様なんであんな事言うんだろ、アキラ君はとってもいい人なのに……」

怒りが落ち着いてきたのか、空は少しだけ不安感にさいなまれる。さとりの家を思い切り飛び出してきたのだ。今までやった事のない反逆。さとりは怒っていないだろうか、そんな不安感が空にはあった。

「もし怒ってたら……あわわ……どうしよ……お燐に手伝ってもらって謝るしかないよね……」

しゅんとしながら、羽根を下げる。見ただけでもう落ち込んでいるのが分かるような露骨な落ち込み方をしていた。辺りには誰も見当たらない。それもそうだ、地霊殿は人が余り寄り付かない場所。

「はぁ……そういえば、アキラ君どうしてるかな……」

空の頭に浮かぶのは、晃の事だけだった。悲しい過去を持っている晃を、空は慰める事すら出来はしない。そのやり方が、空には分からないからだ。溜息を吐いていると、空の前に1つの人影が現れた。
遠目でしか確認できないが、明らかに見たことのあるシルエット。そう、ずっと頭の中に浮かんでいたその少年。

晃だ。

「アキラく…―――」

その瞬間、空の動きが止まった。晃を呼ぼうとしているのに、まるで声が出なくなった。
晃は俯いて歩いていた。まるで、人を寄せ付けない雰囲気を出すかのように。
もしも、此処でまた晃と喋って晃を傷付けてしまったら……もしも、晃を泣かせてしまったら?

 空の頭の中には、そんな不安が浮かんでいた。ただでさえ、自らの能力を語る時にですら晃は辛そうな顔をした。嫌な事をすぐ忘れてしまうような空であっても、あの顔だけはいつまで経っても頭から離れる事はなかった。

 「私……邪魔、なのかな」

 俯き、ただ1つ言葉を零す。空自身が、今まで味わった事がない感覚だった。
悲しんでいる相手に、手を差し伸べることすら出来ない無力感。そして何よりも、晃を助ける手段が思い浮かばない、自分への嫌悪感。

 遠くにいる晃に、声をかける事すら出来なかった。邪魔なのかもしれない、何より、近寄ったらいけないかもしれない。
また、晃に辛い顔をさせてしまうかもしれない。

 「……」

 空は、ただ黙って、1つ涙を流した。
目の奥から、どんどん、どんどん涙が零れてきた。
そうだ、自分は無力なんだ。ただ傍に居てあげる事しか出来ない、そんな存在。

 晃が泣いていても、涙を拭ったりなんか出来ないのだから。
さとりや勇儀に言われた言葉のせいか、空の思いはどんどん暗いものになっていった。
晃の傍にいたら、私は死んでしまうかもしれない。消えてしまうかもしれない。
そんな事、何も恐くないのに。私が死んだら、悲しむ人がいる?
誰にも泣いて欲しくない、みんなに笑っていて欲しい。そうしようとしたら、晃を見放すしか、方法がない?


 そんなことない。

 気付けば、空は涙を拭っていた。
空の願いはただ1つ、みんなで笑っていられる事。その為に晃を見放してしまったら、晃が笑顔になれない。

「アキラ君!」

そして、お空はその名前を叫んだ。その言葉を聞いた瞬間、晃はちらと空の方を見た。
だがその瞬間、晃は空から背を向け、そのまま何処かへと逃げていってしまった。
晃が逃げているのを確認すると、空はばさりと羽根を羽ばたかせて晃に向かって高速で飛んでいく。

 走って逃げることなど、今の空の前では不可能だ。

 「なんで逃げるの!?」

 「……付いて来るなッ!!!」

 その瞬間、晃は立ち止まって空を睨み付けた。
空も地面に降り立ち、ゆっくりと晃に向かって歩き始める。すると晃は、体の中の力を振り絞って全身にオーラを纏う。人間なりにも、能力を持っているのだ。戦う技術がない筈なんかない。

 「……」

 空は無言で、ただ晃に向かって歩く。そんな空に向かって、晃は思い切り弾幕を放つ。
外すつもりなんかない、真剣に空を狙ったその弾幕を。
どうせかわすはずだ。威嚇のつもりでしか打たない。
晃はそう考えていた。それでも、それは間違いだった。

 ただただ純粋な空が、拒んでいる相手を目の前に退くだろうか。
泣いている誰かを前にして、それから目を背けるだろうか?

 そんな真似、空がするはずもなかった。
ただ晃の弾幕を受け、そしてそのまま吹き飛ばされる。何度も、何度も攻撃が来ても、空はまるで怯むことなく晃に向かって歩いていく。

 「やめろ……来るな……来るな!!」

 晃の心の中には、恐怖感のような物が宿っていた。
もうすぐ、空が一番大切な対象になってしまいそうな、そんな感覚。嫌がってはいた。何よりも、誰にも近寄って欲しくなかった。
そんな時でも、空は傍にいてくれた。2日前からだけだけど、もうずっと一緒にいるような感覚だった。

 楽しかった。話している間は、時間が、能力が。全てなくなればいいと思えるようになっていた。
だから、空を消したくない。自分の傍に、空を近寄らせたくない。

 あの時手を弾いたのも、それが原因だった。自分が空に頼りたい、空を大切だと思ってしまえば、能力を発動したときに空が消えてしまう。
 大切な物なんか作っちゃいけない、それで、空が消えないのなら。

 「俺に近寄ったら不幸になるんだ、挙句の果てには消えてなくなる!
なのになんで、なんでそんなに俺に近寄るんだよ!?」

 晃は泣きながら弾幕を放っていた。それを見て、空は更に近寄るスピードを速める。
どんどんと、空と晃の距離が近くなるにつれ、空の体には傷が増えていった。

何度、何度傷付いても、空は立ち上がった。
何度、何度吹き飛ばされても、空は真っ直ぐ晃に向かって歩いていく。

 「私も、なんでこんなに必死になってるのかなんか分からないよ?だって、私馬鹿だもん。でも、ね。
私はアキラ君の事を助けてあげたい、アキラ君にも、大切な物を作ってあげたい。
だって、アキラ君の事が好きなんだもん」

にこりと笑った空を見て、晃は力を失ったかのようにがくりと地面に崩れた。
誰かに頼る事は出来なかった。誰も消したくなかったから。
大切な物なんか作りたくなかった。誰にも悲しませたくなかったから。

空が近くに寄ると、晃はただぼそりと来るな、と告げた。
そんな言葉を聞く気もないのか、空はゆっくりと崩れ落ちた晃の肩に腕を回す。

そして、ぎゅっ、と空は晃を抱きしめた。その瞬間、晃の目からぽろぽろとまた無意識に涙が溢れた。

「なんで……なんだよ……。周りの大人は……みんな俺を嫌ったんだぞ……?
あの子の傍にいたら消えちまうって……ずっと……ずっと……」

晃の言葉には、深い悲しみが溢れていた。
昔から、飛行機の事故で生き残ったあの日から、晃は誰も頼ろうとしなかった。
大人は皆晃を嫌い、遠く遠くへ離れていった。ずっと、1人だった。

 それなのに、空は違った。
一度自分と話してからというもの、ずっと毎日自分の所にやって来てくれた。
自分に、笑顔を見せてくれた。

 「だって、晃君の能力って大切な物が消えちゃうんでしょ?
それで消えたなら、晃君の一番大切なものってことだよ?とっても嬉しいよ」

 肩越しに聞こえる声に、晃は何粒も、何粒も涙が溢れた。
純粋だから、何も恐れないからこそ、空は晃の気持ちを受け止められる。

 誰にも頼る事が出来ない晃の、小さな心の拠り所へと変わることが出来る。

 「なんだよ……それ……馬鹿みたいじゃん……」

 晃は涙を流しながらも、ずっと微笑んでいた。
涙を流してぐちゃぐちゃに笑いながら、ぼろぼろと幾つも、幾つも涙を流した。そんな笑顔を浮かべる晃を見て、空は晃を見ながら一言告げる。

 「アキラ君、やっと笑ってくれた」

 真っ直ぐ晃の顔を見詰めて、空はにこりと微笑んだ。
そんな空の言葉を聞いて、晃は一瞬呆れたが、またにこりと微笑んだ。感情を表に出す事が出来ないなりに出した、本当の笑顔を。

 「あぁ……本当にな」

 苦笑いする晃に、空はただ、優しい笑顔を浮かべた。
最終的にオチがちょっとだけ酷いかな…。
無理やり感がいなめない、半年振りくらいの続編投稿です。
読んでくださっている方がいるなら非常に申し訳ないorz

いつもより少しだけ長めにしてみました。
実際長いのかどうかはよくわからないんですが・・・(

では、此処まで読んでくださってありがとうございました。
読者様に最大の感謝を……。

※【追記】
なんか描き方のせいでもう終わりみたいになってますが、まだ続いたりします。
よければもう少し程、お付き合いいただければ、と思います。
あまらー
http://
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コメント



0.100簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
ひそかに楽しみにしていました
ハッピーエンドで何より
5.無評価あまらー削除
実はまだ続いたりします(
ありがとうございます!そのお言葉だけで励みになります><