Coolier - 新生・東方創想話

捨てた者と捨てられた物

2011/01/12 13:21:36
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外見そのものは可愛い美少女そのもので誰も人形だとはすぐに分からないだろう。
メディスン・メランコリーは猛毒にも薬にもなる鈴蘭の畑とともに過ごしている。
最近では永遠亭にも顔を出すようになっており、ここに住むものとの交友も盛んである。
「あ! メディスンだー」
ここに来る患者にも人気となった彼女は、女の子に抱きつかれたりと孤独の花畑以外での生活を初めて体験している。
「まったく。人間は私を捨てながら……」
一通り人がいなくなってから毒を吐いているが、その顔は嬉しそうとしか言いようがなかった。
「にやけ顔と台詞がかみ合ってないわよ」
仕事を終えた優曇華が横から突っ込みを入れる。
「人に愛されて喜ぶのは人形の本能みたいなものだからしかたないじゃない。なんていうか、本能と頭の中は別なのよ」
「そうね。理解していても納得できないことはあるわ」
彼女にも思い当たるところが多々ある。
「でしょ。人形開放……。すなわち、全ての人形は愛されるために生まれたことを人間に分からせないと駄目なのよ!」
嫌っていた者から愛されたい。
この捻じれた気持ちを抱きながらも人を愛したい。
これがアリス・マーガトロイドが目指した自立人形としての完成系の1つなのだろうか。
「嫌ってる人から愛されるって複雑じゃない?」
「確かに複雑ではあるけど……さっきの子とかみたいに笑顔を向けてくれる子に武器は向けられないじゃない。たぶん映姫様はこうなることを分かっていたのよ!」
小さい子がお兄ちゃんやお姉ちゃんに甘えるように、この幼き妖怪は四季映姫に甘えなついている。
永遠亭に顔を出すようになったのも、結果的に人のために動いているのも映姫の助言によるもの。
花の異変の際に、大量の者に説法をしたが一番その話を真面目にきいて取り組んでいるのはこのメディスンだと言っても過言ではない。
「ほんと閻魔のこと好きだねえ」
「そりゃね、映姫様のお陰で捨てられた私がまた愛される道を選べるんだよ。優曇華も何か言われてたけどちゃんといいつけ護ってるぅ?」
「え、まぁそれなり」
月を捨てて逃げ続けている自分に救いは無い。
きっとあの閻魔は罪は罪。それでも救いある者にはそれを与える奴だ。
でも、自ら救いを拒絶してしまって罪に囚われている自分にそれは怖い。
「駄目だよー。最初は辛いかもだし、映姫様の言い方は分かりにくいところ多いけど凄いいいことは教えてくれてるんだしさぁ」
「ついでに話も長いわ。……大丈夫。それこそ理解はしているけど自分が納得してないだけだから。世界中の誰もが許し愛してくれても、自分が自分を許せず愛せない。たぶん今の私はそうなんだ」
「それって辛くない?」
「どうだろうね。まぁ医者とカウンセラーには困らないし、メディスンが羨ましくなったら閻魔ところにまた行くわ」
手をひらひら振りながら優曇華は自室のほうへと戻って行く。
「あれでも笑うことが増えたほうなのよ」
どこから話を聞いていたか分からないが、入れ替わりで現れた永琳が少し寂しそうな表情で優曇華を見送る。
診療所でこれだけ会話していれば聞き耳を立てなくても聞こえてたのだろう。
「罪を裁くのは閻魔。罪に罰を与えるのは自分自身。その罰は不要だと思えてくれたらいいのだけれども。故郷と友達を捨てたことは重いのでしょうね」
毒で何かを殺すことはできても、自分では何も救えないことが歯痒い。
善行だとかそういうのではなく、友達として彼女を助けられないだろうか。
「ちょっと眼覚まさせて行ってきます。優曇華に必要なのは家族と……友達だと思うから」
指をパキパキ言わせながら、拳を優曇華の去って行ったほうへと向ける。
「一応病院も兼ねてるとはいえ……あまり過激なのは……」
永琳はジト汗を流しながら制止の方向へもっていこうとするが
「ああいう馬鹿は一発殴ってやらないと起きないわ。映姫様の言葉も理解せず、てゐのじゃれあいも楽しめないんじゃ何年たっても笑えやしない」
いたずら兎のてゐが必要以上に優曇華にかかわるのは、彼女を笑わせてやりたいからである。
やり方が少し歪んでいる気もしないではないが、本気で怒りもしなければ笑いもしない。そんな檻の中の兎を外に出したいだけだ。
「私はてゐみたいなことはできないし、能力は何かを殺める毒しかない。けどね、友達一人不幸から解放できないで人形全てを幸せにできるはずがないよ」
体は人形であれ心はある。
神になれなくとも意地はある。
厄神のように厄をとれず毒を撒き散らす身であれ友達を一発殴る腕はある。
「ということで、なんかあったらアリス呼んでね!」
「何もないことにはできないのかしらねえ」
「それは優曇華次第だよ。映姫様ほど言葉が上手じゃない若手の妖怪だから殴るしか表現方法がないの」
メディスンは永琳の横を走り抜け、優曇華が向かったであろう中庭を目指す。
たぶん自分の言ったことで何か思うことがあるなら、考え事をするときによくいる中庭に向かうはず。
むしろそこにいなければそれこそ、彼女が求める救いを自分で捨ててしまっているだけに救いようが無い。



「いたっ!」
ドドドドド!
メディスンは床を蹴りつけ駆け寄る。
「え、メディスン!?」
「このバカ兎がー!」
足音のほうへ顔を向けた優曇華の顔に拳がめり込む。
「何すんのよ!?」
「何するって!? 目覚めのブラックコーヒーよ。あんたがいつまでたっても牢からでようとしない。だったら私がその檻から開放する!」
「意味が分からないわよ。私は幻想郷という自由の地にいるのよ」
「月の重力に囚われた兎は高く跳べやしないわ。優曇華は自らの過ちにとらわれ過ぎて今の光を見ていない!
捨ててきた過去も汚れもひっくるめて受け入れてくれる家族と友のために一歩踏み出す勇儀が、今の優曇華にできる善行だよ!」
殴りつけて倒れている優曇華に向け、閻魔のごとくメディスンは力強く言葉を発する。
「あの口うるさい閻魔のまねごとはやめて。 私だって過ちぐらい分かってるわ! 私の気持ちを知りもしないメディスンに閻魔みたいに言われる筋合いなんて……」
「このアホ兎がぁ!」
本日2回目の拳が優曇華の顔に再び襲いかかる。
「知ってもらおうともしないで、勝手に引きこもってるくせに吠えてどうするのよ! 鈴蘭の畑しか知らなかった私と同じで、あんたは本当の空を知らない蛙よ!」
「年下のくせにー!」
「図星だっただけでしょう!」
優曇華とメディスンの殴り合いが開始される。
てゐ達が止めようとしていたが、永琳がそれを制止する。
「てゐや永琳はあんたがしたことを理解して家族として、弟子として向かい入れてくれている! この私ですら友として迎え入れてくれるあの人たちを一番近くにいて信じていない! いらだつのよ!」
「花の異変からいきなりやってきて、私の輪の中に入り込んでくる! それどころか私の壁すら壊そうとする。あんたこそ私の毒だわ!」
2人の殴り合いと罵りあいは止まらない。
「えぇ。毒人形がこの私の誇りよ! その鋼鉄の作り笑いがようやくぶち壊れたわね!」
優曇華が本気で怒っている。
てゐがいろんな悪戯をしてきても、ここまで怒りをむき出しにした優曇華の姿を見せたことはない。
感情をむき出しにメディスンと殴り合いをしている。
「私は……映姫様や永遠亭のみんながいたから、人との関わりをもう恐れやしない。だから優曇華にもその空を見せてあげるわ。貯め込んだ感情の毒を全て私が吸い取ってみせる!」
「感情をかき回したその口が言う!? えぇ。毒人形風情でこの私を受け入れられるならやってみなさい!」
威勢はいいがノーガードで殴り合っていた二人は荒げた口調ほどの力はない。
それでもメディスンには意地がある。
優曇華はただ図星をさされ怒っているだけだが、メディスンには引けない意味がある。
2人には勝敗へのこだわりへ大きな差があった。
「私は! 私はメディスン・メランコリー! 鈴仙・因幡・優曇華院の友達だ! 私はこれ以上誰にも何も捨てさせやしない! 人形も心も友達も!」
最後の叫びに優曇華はハッとした眼で目の前の少女を見る。
降り出した拳に力は無いが言葉には何よりも大きな力があった。
ぽすっと音を立ててメディスンの拳は力なく優曇華の胸を叩く。
その撃ちだされた拳の上に水滴が一粒。また一粒と。しまいには大きな滝となり雨となる。
「本当に私を友達と言ってくれるの?」
「当然だよ。永遠亭の皆は優曇華の家族で幻想郷の皆は優曇華の友達。その中でも私は最高の親友になれるわ」
「……人形じゃない。友を捨ててきた私を受け入れるの?」
「誰もが間違いを犯す。それを悔い改め生きていくのは人も妖怪も同じ。だから私は映姫様の言葉を信じてここにいる。だから次は私は誰かに信じてもらう生き方をする。2度も捨てさせないためにね!」
優曇華は泣く。
声をあげメディスンに抱きついて今までの毒を抜くかのように泣く。
「このまま抱いてあげたいけど……もうむり」
最高のシーンではあったが、ガチの殴り合いでメディスンは限界を迎えそのままぱたっと倒れ込む。



「まぁ永琳に呼ばれた時点で予備パーツは持ってきてるけど、特注の人形なんだから治すのも大変なのよ」
ボロボロになったメディスンの手当てをするアリス。その隣では優曇華の手当てをするてゐと永琳、そして輝夜の姿があった。
「いいところを全部メディにとられた!」
「てゐは回りくどすぎたのよ。……大丈夫よ。あんたは家族ポジションってのがあるんだから」
「まぁ鈴仙が笑ってくれるようになるなら安いもん。今回はそれでチャラにしてやる」
「てゐも素直じゃないねえ。とはいえ、あんたとまで殴り合いはもう勘弁。もうこりごりだわ」
厄神ほどのことはできないけど、友達の心の毒ぐらいなら引き取れる。
さぁ明日から本気で笑い合おう。
企画第2弾。優曇華とメディスンの指定でSSを書きました。永夜抄はほぼスルー状態だったからこの作品のために頑張ったんだ……。
前回と違ってこのカプはもうやらない! これ以上どうこうできる気がしない!

そんでもって次のカプは雛と指定を受けました。
雛で被ったら慧音にするねーと伝えたのですがWIN版+書籍を入れて50を軽く超えるキャラ達。
そうそう被るわけないだろと思っていて2人目に希望を聞いたら
「雛で」とこの現実世界において 奇跡降臨。
まさかの指定キャラ被りになったので雛と慧音になりました!
例大祭の準備にレミさなも書きたいので、今回もゆっくりと書かせてもらいますー。
八神桜花
http://www.pixiv.net/member.php?id=305493
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