「動かないでくれたまえ…」
私は暗い倉庫の中で後ろから棒状の何かを突きつけられていた。
「おいおい…お前さんのソレは人様に突きつけるような道具だったのか?」
私は言われた通りそいつから『見えない場所以外』はピクリとも動かすことなくそいつに語りかける。
「生憎と使えるものはどんな使用方法にも活用する主義なんでね、こうして相手を拘束したり頭をぶん殴ったりにも使っているよ。どうだい、多機能だろう?さぁ、ゆっくりと手を上げて床に這いつくばってもらおうか」
「物は言いようだなぁ…私にゃそいつの声無き泣き声が聞こえてくるようだぜ」
そいつはグイグイと棒状のものを私の背に突き付け観念するように強要してくる。だがね…私が今まで生きてきた中でこんな場面に遭遇したことが無いと思っているのか?古くは悪戯がばれて親父に捕まった時から最近だと霊夢が楽しみにしてた饅頭を黙って食べてる途中に見つかった時に至るまでこの手の経験でこの魔理沙さんの右に出るものはいないんだz………
「おっと、その左手の八卦炉は渡してもらおうか。魔力も込めないでおくれよ?何かしら怪しいことをした時点で私は獲物を思いっきり前に突き出さなきゃならない…。私の力では致命傷にはならないだろうがね、すっごく痛いぞ」
「そいつぁ怖いな…私は普通の魔法使いだが、それ以前に花も恥らう乙女なんでね。痛い思いをしたら泣いちゃうかもしれないな…」
少し相手の方が上手だったみたいだ…私はゆっくりと八卦炉を自分のすぐ脇に置いて、素直に床に這いつくばる。八卦炉は私の大事な道具だからな寝るときだって『手の届かない場所』になんか置かないんだぜ。
「丁重に扱ってくれよ?私の大事なお宝なんだ…」
「判っているさ…しかしだね、少々君と距離が近いようだ……ねっ!」
私に獲物を突き付けつつそいつは起用に八卦炉を私の手の届かない位置まで蹴り飛ばす。あぁ…やっちゃった…。
「何てことするんだ、あいつは私のそばを離れると癇癪起こすんだぞ?」
「ふん…君は少し痛い目を見たほうがいい。建立して日が浅いとはいえ神聖な仏閣の倉庫で盗みを働いた罪を私が毘沙門天様に変わって裁いてあげようって所だね」
そいつは調子に乗って私の背中を踏みつける。こいつめ…自分が優位だからって調子に乗って……。
「出来立ての癖に盛況なお寺の仏様はその有り余る慈悲の心で以ってその罪を赦してはくれないのか?」
「お蔭様で人里にも周りの妖怪たちにも受け入れて貰えて来ているよ、それだけに慈悲の心も生産が追いつかなくてね。泥棒相手には年中売り切れなんだ」
ぐりぐりと執拗に体重をかけてくる。いたた…小柄なくせに痛いつぼを狙ってぐりぐりするなんて、私が変な世界に目覚めたらどうするんだ!
「そんなに強くしないでくれよ、同じ鼠仲間じゃないか」
「ふふん…生憎と私はファミリー以外には冷淡なのだよ…」
私を足蹴にしているコイツ、ナズーリンは思ったよりもドSな奴だったようだ。このままだと私は本当にこいつに従順な犬に調教されてしまうかも…万事休すだぜ!私っ!
「さぁて…どうしてくれようかな?聖やご主人に引き渡したらあっさり許してしまうだろうし。ここは私が一晩中…くふふふ…壊してしまわないか心配になってきたな…」
うわぁ…伏せてるから見えないけど絶対こいつ今お子様には見せられない顔してる…いたっ!いたたたたっ!らっ、らめぇ!そんなに強くしたらイケナイ世界に目覚めちゃう~~~~!
「わ、私は食べてもおいしくないぜっ!」
「さて、それでは私の寝所に来てもらうとしようかな。あ、心配しないでくれたまえ。食べるのは君の純潔と尊厳だけだし、君の運搬は私の子鼠たちがやってくれる。君はそのまま楽にしていてくれ」
ナズーリンの言葉と共に私の周りにざわざわと大量の何かの気配が沸き立ち始める。きっとナズーリンの部下の子鼠どもだ。あぁ…私はこのままナズーリンに純潔を散らされた上に語尾に「チュ~」とかつける事を強要されたりするんだろうか…。
「さすがの君もこうなってはただの人間の乙女だね、今夜は君の涙を肴に最高の夜宴としゃれ込めそうだよ…」
私の包囲がすっかり済んで勝ちを確信したのか背中の足をどけて好き勝手に言ってくる鼠娘、だがね…。
「宴と聞いちゃ胸のわくわくを押さえられない魔理沙さんだけどな、私はそろそろお暇するぜ?何しろあっちで八卦炉が癇癪起こしそうなんでな~」
「馬鹿を言わないでくれたまえ、主賓を欠いた宴など成立しない。ゆっくりしていって………」
私の言葉を最後の負け惜しみと取ったのか冗談めかしてナズーリンも返してくる…が、生憎と私は………。
「本気で言ってるんだぜっ!」
「なっ!?」
私が叫んだ瞬間、今までうんともすんとも言っていなかった八卦炉から膨大な光があふれ出す。光と音の本流に私の周りの子鼠共が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し始める。ちなみにこの「蜘蛛の子を散らす」って言葉の語源になった蜘蛛はアシダカグモって言うんだが、気になる奴は調べてみるといい…トラウマになること請け合いだぜ。
「馬鹿な!いったい何をしたっ!?うわっぷ……こらっ!君たち、落ち着かうわぁあああああああっ!!」
自分の部下どもの波に押し流されるナズーリンを尻目に私は全力で戸口まで走る。
「おっと、コイツを忘れちゃ商売上がったりだ!」
戸口近くに転がってた八卦炉を掻っ攫って私は箒に飛び乗ると一気に上空まで加速する。トラブルがあったものの今日の成果は上々だ。
「ハッハァッ!私を捕まえた時点でさっさと移動しなかったのが運のつきってなぁ!」
私からある一定以上の時間八卦炉が離れると八卦炉内の残留魔力を放出する機構になってるんだぜ。勿論、私が香霖に言って追加させた機構だ。二重三重に保険をかける、これぞ生き抜くための知恵って奴なんだぜ。因みにこれでも動じなかった奴にはご褒美として私のヒップアタックを贈呈することにしている。
「よし!追っ手がかからないうちにさっさと帰って寝ることにしますかねっ♪」
私は気分良く帰路に着き、その日は早々にあったかい布団で眠りに着いた。今思えばこの時が…いや、命蓮寺に『借り物』をしに行った時点からがケチのつきはじめだったのかもしれない。
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「やられた…こいつは一杯食わされたぜ…」
命蓮寺に盗…いや『借り物』をしに行った次の朝、私は愕然とした思いで八卦炉を手に佇んでいた。いや、八卦炉の様な物といったほうがいいかな。というのも今しがた起きて、昨日の成功のお陰で目覚めも良いから起き抜けイッパツよろしくモーニングマスパでもしようかと八卦炉を窓から構えてみたんだが……うんともすんとも言ってくれない。
「偽物…か…」
くそ…食えない奴だ。一瞬で見た目までそっくりな偽者なんか作れるはずがない。つまり…もともと私が盗み…『借り物』!……に入る事を想定していたか、後々私の八卦炉をすり替えて奪うつもりでいたんだろうな。肌身離さず持ち歩いてる私がすぐに気がつかない程には精巧に作られている。
「どうする…今度は真正面から突っ込んで奪い返してやるか…?」
いや…私が気づく事くらい向こうも織り込み済みだろう。私だったらそう簡単に取り戻せない所に隠すだろうな、ならば相手もそれ位のことはしているはずだ。
「探りを入れてみるか…な…?」
こんこん…
………どうやら先手を取られたようだ。如何に非常識な奴が多いこの幻想郷と言えど、こんな早朝に尋ねてくる奴は私の知り合いには数えるくらいにしかいない。数えられるくらいにはいるんだけどな……。
「やぁ、ご機嫌いかがかな?白黒鼠君」
「あぁ…、割と斜めだがお前さんなら歓迎だ。灰色鼠さん?」
予想通り、扉を開けてみるとそこには小柄な体に大きな耳、真っ赤なくりくりの瞳を皮肉っぽく細めた憎いあんちきしょうが立っていた。
「今朝は何故かどうしても君の顔が見たくなってね、非常識ながら訪ねさせて貰ったよ。入ってもいいかい?」
「勿論なんだぜ。私もお前さんに会いに行きたくなってた所なんだ」
「ほう、それはそれは…まるで運命の様じゃないか?」
「いや、むしろ宿命だぜ」
「いやぁ、なかなかに素敵なお住まいじゃないか。私たち鼠には至極心地の良い空間だよここは」
なんて大げさに言いながらナズーリンはきょろきょろと私の部屋を見回している。私はナズーリンを家に招き入れてお茶の準備をしている。私からは見えていないが今頃ナズーリンの支持で子鼠が私の部屋をくまなく捜索しているところだろう。ふん…さっきも言っただろ?『私だったらそう簡単に取り戻せない所に隠す』って、私の心の中でだけどな。見回して判るようなところに置くもんか。
「そうだろう?私の自慢のコレクションを心行くまで楽しんでいってくれよ」
私も余裕を見せて返してやる、こいつがどれだけ探しものの名人だろうとそう簡単にはことを運ばせてやらないぜ。
「ありがたいな!これだけあると鑑賞のしがいもあるってものだね、それこそ箪笥をひっくり返すほどの勢いでかからなければいけないな」
「箪笥は勘弁願いたいな、私の乙女の秘密が満載なんだ」
そう…女のお洒落は見えないところこそ大胆に…だぜ!
「それはさておき、お茶どうぞ…だぜ」
「これはどうも……うん、いい香りだ。私はやはり緑茶の方が好きでね、特にこの何でも喋りたくなってしまう様な配合が最高だね」
ちっ…ばれてる上に耐性持ちか。何の躊躇いもなく飲んじゃったよ。
「ふふっ、昔から人間にはいろいろな『スパイス』をご馳走になってきてるからね。我々は、ちょっとした『スパイス』では少々物足りないんだ。そこを言うと魔理沙、君は良くわかっているね。気に入ったよ」
「そいつはどうもだぜ…」
ん~、霧雨オリジナルブレンドの何でも喋りたくなっちゃうお茶は駄目かぁ…とすると、やっぱり弾幕ごっこか?ストレートに…。それともふんじばって昨日踏んづけられた借りを返しつつ尋問でもしてやろうか。
「おやおや魔理沙、少々お顔に険があるよ。いけないな、花も恥らう乙女が眉間に皺なんか寄せちゃ。まるで恋敵を闇に葬ろうと画策する魔法使いのようだよ?」
「魔法使いなんだけどな、実際。私の表情には全て魅了の魔法と同等の威力があるんだぜ。奪われないよう気を付けたほうが良いぜ?主に心とか」
「そいつは剣呑だ。私も気を付けないといけないな。いや…もう手遅れかもしれないけどね。大事な物的に」
借りてるだけだぜっ☆
「そうそう、剣呑といえば昨日我等が命蓮寺の倉庫に盗賊が入り込んでしまってね」
「へぇ…そいつは物騒だな」
おっと、そう簡単に返す意思が無いってことは伝わったみたいだな?いよいよ本題だぜ。
「そのことにいち早く気がついた私が現場で盗賊を拘束したんだが、敵もなかなかやる手合いでね。取り逃がしてしまったんだよ」
「いやぁ、惜しかったなぁ。油断大敵って奴じゃないか?」
お互いに判りきってることだけどな~。
「いや、本当に惜しいことをしたよ。その盗賊というのがね…見目麗しい絶世の美少女だったのさ。あのまま拘束出来ていたら一晩で語尾に『チュ~』を付けて喋る位に躾けてやるつもりだったのに…」
「そ、それはお気の毒に…だぜ、盗賊が…」
うわっ、鳥肌がっ!
「しかしだね捕縛は失敗したものの、我々もただじゃぁ転ばないよ。キヤツの大事な物を一つだけ奪ってやることに成功したんだ!」
「へぇ…それは凄いな。その盗賊もさぞや困ってることだろうなぁ。だから返してやったらどうだ?」
そうだ~返せよ!私の八卦炉!
「あぁ、それは無理だ」
ちっ!
「ちっ!」
「どうしたんだい?」
「なんでもないんだぜっミ☆」
まぁ、当たり前か。
「命蓮寺のご本尊、まぁご主人の事なんだがね。彼女の大事な物が倉庫から忽然と消えてしまっていてね」
「いつもの如く、うっかりどこかになくしちゃったんじゃないか?」
あいつほんとによく物をなくすもんなぁ…ま、実際には私の手中にある訳だけどな。
「そう…あまりにもよくなくすものだから、使用時以外はあの倉庫に保管して『私』が管理することになっているんだよ」
「なるほどな、つまりあそこから物がなくなると…」
前回はン千年越しで探してたのが今回は必死で取り戻しにくるわけだぜ…。
「そうなのだよ、私の責任が問われることになるんだが。それだけじゃぁなく、高々一匹の鼠に宝物を奪われたとあってはご主人の財宝神や武神としてのイメージが崩れて、ひいては毘沙門天様の威光にまで傷が付く。それだけは絶対に避けなければならない」
「うへぇ、主人を二人持つと大変だなぁ」
と、他人事のように言ってやる。ま、実際他人事だしな~。しかし、高々鼠一匹ってお前さん…自虐か?
「だからどうしても奪われたものを返してもらわなければならないのだよ、それは恐らく向こうさんも一緒だと私は考えている」
「私にゃ良くわからないがきっとそうだぜ。そうに決まってる」
私の数ある大事なものの中でもあれはトビキリの大事なものだ。どうしたって返してもらうさ。
「だから、こちらが奪ったものと向こうさんが奪ったものを交換したいんだよ。ということで魔理沙、お宝の行方を知っていたりしないかい?」
「知らないぜ☆」
即答してやる。確かにお互いに無二の宝を交換するんだから条件としては悪くない。悪くはないんだが…それじゃぁ苦労して侵入した私の労力やぐりぐりされた痛みが報われないってもんだ。条件としては私のほうが損になるんじゃ公平な取引とはいえないな。魔法使いに取引を持ちかけるつもりならそれ相応の見返りを用意するんだな。
「話には聞いていたけれど、実際に目の当たりにしてみると相当なひん曲がりだな君は…」
「何のことだかさっぱりなんだぜ~♪だが私も魔法使いだって事を忘れてもらっちゃ困るなぁ」
それに、前もって八卦炉のダミーを用意してる周到さから見てもナズーリンは私と張る位には強かな奴だ。そんな奴の持ちかけた取引に素直に従ったらどんなしっぺ返しを食らうか判らない。
「魔法使いに取引を持ちかけるなら…てやつかい?」
「どんな依頼も等価交換!霧雨魔法店を宜しくなんだぜ☆」
さて、どう出てくるんだ?素直にこの場で八卦炉を差し出しても私はアレを返すつもりはないぜ?
「よし、ではこうしようじゃないか」
「?」
ぽんと手をたたいて私に提案するナズーリン。しかし…閃いた時に出たチーズはどっからだしてるんだ?
「魔理沙、探し物はないかい?失せ物でも、未発見の物でもかまわない。それを私がピタリと探し当てて上げようじゃないか。それに加えて今回はストーブにも使える八角形がイカした魔法具まで付けよう。それを等価として、我々の探し物を霧雨魔法店の店主さんに探してもらいたいんだ。この機を逃す手はないと思うんだがね?」
「ふむ、探し物…ねぇ?ここで特に無いって言ったらどうなるんだ?」
私の言葉にナズーリンはスッと目を細め、ニヤァと薄気味悪い笑みを浮かべる。
「大事な宝物を2度に渡って紛失した罪に問われてご主人は毘沙門天代理の座を剥奪。ご本尊を失った命蓮寺は最悪ただの妖怪の根城へ早代わり。そして、それらの監視をしていた私も無能と判断されて監視役の任を解かれてただの妖怪鼠に成り下がることになる」
「ふむ、大事だな」
私も世紀の大悪霊だったお師匠様譲りのニヒルな笑みで返してやる。
「それだけじゃぁ無い、その妖怪鼠はね…割と執念深いんだ。血と汗と涙を流して十二神将の末席に迎えられた者の端くれとしてね、ただの妖怪に貶められた恨みは語尾に『チュ~』では済まされないかもしれない。正直、何するかわからんね」
そういいながら私の足元から舐め上げる様にねっとりとした視線を全身に浴びせかけてくるナズーリンに私のニヒルな笑みが若干引きつってしまう。ううっ、この人目が本気なんです…。大体にして鼠は口先で牛を騙して一番とったって慧音が言ってた!
「い、良いだろう…その商談乗ったぜ!その代わり、探し物は超難易度の物だから覚悟しとけよ!」
「毘沙門天様とご主人の名にかけて、私に探し出せない物は無い…とだけ言っておくよ」
こうなりゃとことんだ、ネズ公め…覚悟しろよ。
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所変わってここは霧の湖と呼ばれる幻想郷一大きな湖。今私たちの目の前に広がるのは清らかな水面を湛えた深夜の湖と、それをバックに不気味に浮かび上がる真っ赤な洋館。そしてその洋館の門前で『ウルトラ上手に焼かれました~♪』状態の門番の成れの果てだった。
「あ~…魔理沙?」
「なんだ?」
ぶすぶすと立ち上る焦げ臭い匂いの中、ナズーリンが困ったように私に顔を向ける。
「焦げてるんだが…」
「ああ、焦げてるな…」
ぴくぴくと痙攣している門番だった物の前で立ち尽くす私たち。
「今回は客として行くってさっき…」
「いつもの癖で…つい……」
紅魔館の数少ない窓に照明が灯り始める、あ…なんか警報っぽい音も聞こえるな。
「この人、魔理沙が歩いて来たから『あ、今回はお客様ですか?いやぁ、ありがたいです。正直毎回毎回焼かれるのはしんどいんですよ~、これからもお客様として来てくださぶべっ!』って…」
「ほぼ無意識でスペカ使ってた、今は反省している」
こいしじゃ…こいしの仕業じゃ……あ、まずい。夜間の上に不意打ちだからエキストラメイド隊が出てきちゃった…。
「どうするんだい?今日のところは引いて作戦を練り直すかい?」
「いや…これはいつものことさ、やっぱりお宝を狙うなら正面突破。これに尽きる」
それに、今逃げ帰ったら私は目的も無いのに門番を吹っ飛ばした通り魔になっちゃうじゃないか。通り魔や辻斬りなんて冥界の庭師で十分だぜ。
「さぁ、お仕事の時間だぜ。ネズ公よ、しっかり掴まってろよ!」
「私はゆったり飛ぶのが好みなんだがね、できれば牛車くらいの速度を希望するよ」
「私の牛車は音速だぜ!」
言うが早いか私は愛用の箒にフルスロットルで魔力を供給する。弾かれる様に飛び出した私たちが今までいた地点には弾の雨が降り注いでいる。
「ふははは!毎度ー!霧雨魔法店だぜぇ~☆」
「ま、魔理沙…目立つような事しないで追っ手をまいて侵入すれば…」
何を言うんだこのネズ公、一度ばれたからには華々しく大立ち回りを演じてやらなきゃ女が廃るってもんじゃないか。
『白黒だぁ~!これ以上奥へ進ませるなぁ~!』
『隊長っ!奴の目標が判明しました!奴の目的は大図書館ですっ!』
エクストラメイド隊が次々に館内放送魔法で伝令を飛ばしあっている。そう、今日の私の獲物は大図書館にありだぜ。
『いつもの事だな!ようし、ポイントαを封鎖して迎え撃つ!ポイントα付近のメイド隊及びエキストラメイド隊は至急防衛線を張れ!』
『うわぁっ!光のように速いっ!ポイントα封鎖できません!』
『くそぉっ!誰か奴を止めろぉっ!』
「情報が駄々漏れなんだがこの館、大丈夫なのか?」
「いつもの事だぜっ」
未だ混乱の最中にあるポイントαとやらを私たちは悠々とすり抜けていく。
「しかし、超難易度というから緊張しっぱなしだったけれど、この分なら存外楽に事が進みそうじゃないか?」
「いや…そうでもないぜ。そろそろ奴が来る頃合だ」
「お呼びかしら?」
「そうそう、そろそろお前さんが出張って来…うぉっ!」
「わぁっ!」
二人乗りで進んでいたはずの箒にいつの間にか3人目が乗り込んでいた。突然の事に思わず全力で逆噴射かけちゃったぜ。突然の急制動に箒の最後尾に悠々と横すわりしていた3人目はそのままの姿勢で空中に投げ出されるが、猫のようにしなやかな捻りを加えた姿勢制御でふわりと紅魔館の廊下に降り立つ。
「呼ばれて飛び出てふふふふ~ん♪ですわ」
「おまっ、おまっ…吃驚するじゃないか!」
「危なかった…少々ちびるところだった…」
危険なフレーズと共に私たちの前に立ちはだかったのはこの紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。
「いつもどおりの目の前にナイフを投げて牽制しながらの登場では芸が無いと思いまして、お気に召しまして?」
「ああ、その登場シーンも吃驚だったが、何よりお前さんがそういうジョークが出来るって事自体が大発見だぜ」
「見るからに鉄面皮の氷の女って感じだものな」
完全で瀟洒なメイドの二つ名を持つこいつは宴会の席でも乱れず騒がず、いつもかすかな微笑みを浮かべてしなやかに立ち回る姿しか見たことが無い。個人的な付き合いの場でもケーキを焼いてくれたりお茶を入れてくれたりといつもお姉さん然としてしているので今回の発見は割りと衝撃的だった。
「今日はお嬢様がお出かけになられているので、フランお嬢様が大変退屈なさっておられるのです。ですから今までフランお嬢様にマジックなどお見せしておりましたの」
「なるほどな。で、そこにちょうど私たちが侵入してきたと…」
「ええ、これぞ正しく飛んで火に入る夏のリグル…いえ、渡りに小町ですわ。左様でございましょう?フランお嬢様」
「うん!魔理沙!あそぼっ?」
咲夜の影からひょこっと小さな影が顔を覗かせる。金色の髪をサイドポニーにまとめた愛らしい紅い瞳をもった少女、この少女こそこの館の支配者!…の妹のフランドール・スカーレットだ。小さく愛らしい見た目に騙されてはいけない、この娘の持つ力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。無邪気な顔でこの館ごと私たちを吹っ飛ばすことくらい朝飯前の超危険人物だ。
「うへぇ…咲夜に加えてフランもいるのか…こりゃ分が悪いな」
「魔理沙~、弾幕ごっこしよ?そこのネズミさんも一緒で良いからいっぱいっぱい遊んで欲しいの!」
「いや、フラン。悪いけど今日は急な都合で用事が悪くてだな!」
「わ、私は遠慮させてもらいたいんだが…小動物の勘が『目の前の敵に挑んではならない』と警鐘をだね…」
「いくよー?」
「「うわぁ、聞いちゃいない!!」」
ゴゴゴゴゴと禍々しい魔力がフランから立ち上り始める。まずいぞ…このままだとフランの遊び相手をさせられて疲れきったところを御用でTHE ENDだ。どうする…咲夜がいるからフランの目を盗んで飛び立っても時間停止で捕まるに決まってる。くそ…万事休すか!?
「よーし!いくよ~!禁忌「クランベリート…」」
「まったぁああああああ!」
今まさにフランがスペルカード宣言をする瞬間、電撃のように私の脳内に名案が飛来した。
「うん?どうしたの魔理沙」
「思ったんだが、1対2じゃいくらフランと言えども不利になるじゃないか」
「んーん?私は楽しければ全然かまわな「それにっ!」」
「咲夜が仲間はずれになっちゃってるぜ?咲夜もきっと遊びたいはずだ。みんなで遊んだほうが楽しいぜ?」
「そっかぁ…ごめんね、咲夜。咲夜も一緒にあそぼ?」
「いえ、私はフランお嬢さ「そうか!咲夜も遊びたいよな!良かったなぁ咲夜!!」」
「それじゃ、改めて弾幕ご「ようし、それじゃあ4人でしかできないような多人数ならではの遊びをしような!!!」
「なんて力技だ…」
うるさい、ここを切り抜けなきゃどうにもならないんだ。これくらいはやっても許される!
「みんなで出来る遊び?」
「ああそうだ、かくれんぼをしよう!鬼はこの館のすべてを知り尽くしている咲夜で、私たちはその難敵から隠れて逃げおおせるのが勝利条件だ!咲夜に捕まった者はペナルティとして捕まった瞬間から24時間咲夜の所有物になる。咲夜の命令にすべて従い、咲夜のやることはすべて甘んじて受け入れなければならない。一晩中抱き枕にされようが、トチ狂った咲夜に襲い掛かられようが無抵抗でいること!いいな?」
「うん、わかったよー!楽しそう!」
「一晩中…抱き…襲って……ネチョネチョに……無抵抗……調教………うふ…うふふふ……」
おいそこのメイド、瞳が真っ赤だぞ。しかも最後は誰かさんのパクリだ!使用料を要求するぜ。
「それじゃ、今から私たちは逃げ始める。そこから5分後に咲夜が捜索開始だ、制限時間は1時間でいいな!」
「あの、魔理沙。私も鬼側に加わりたいと思…」
おい鼠!お前も瞳が真っ赤だ。自重しろ。元からだけどな!
「それじゃスタートだぜー!」
「ぎゅーん!」
私の号令で弾かれるようにその場から飛び立つ私達とフラン。
「く…魔理沙を捕まえて…ネチョンネチョンの語尾に『チュ~』……」
いい加減あきらめろ…
********************************************
『しっ、白黒に加えて妹様だぁ~!』
『白黒と妹様が館内を暴走中!至急援護ねがいまうきゃああああああ…ザー』
『ナタリー!返事をしてくれ!ナタリィイイイイイ………!』
『くそっ、魔法の森の白黒は化け物かっ!?』
「きゃはははは!おもしろーい!」
「しまったぜ、そういやメイド隊もいたんだったな」
咲夜とフランを抑えられたから一安心と思いきやまだ私達を捜索中のメイド隊が私達に向かって弾幕の雨を降らせてくる。弾幕を避けるためにどうしても最高速に乗れないからこのままだと咲夜に追いつかれて抱き枕コースが決定してしまう。
「おぅいフラン!一緒に進むのも楽しいが、このままだと咲夜に同時に見つかってしまう。それじゃぁ私達の勝負にならないからここらで別れよう!」
「えー!フランは魔理沙と一緒がいい~!」
普段だったら可愛い奴と、相手をしてやっているところだけれど今日はそこまでの余裕がない。それに私とフランだったら、その手の趣味を持っていると噂の咲夜なら絶対にフランから探しに行くと私は踏んでいる。そこで私達が別れることにより咲夜の捜索の目をフランに集中させようというのが私の作戦だ。
「ようし、フランが勝ったら私の血を吸わせてやるよ」
「本当?絶対だよ!!」
「ああ!私に勝てたらな!」
聞くやいなや即座に加速するフラン。メイド隊の弾幕なぞどこ吹く風で弾があたろうが進路にメイドがいようが一直線に進んでいく。
『い、妹様が更に加速!防御壁を無視して突っ込んできます!』
『全員退避っ!退避~っ!』
ズドーン
『『うわぁああああああああああ……』』
南無三…なんだぜ。
それはさておき、ようやく私達も目標の場所にたどり着いたぜ。
「ようし到着だ、頼むぜナズーリン。目標は『パチュリー秘蔵の超稀少本』だ」
「ああ、わかっている」
ナズーリンが携えていたロッドを持ち、念をこめ始める。
「ふむ、結界でも張られているのか酷くあいまいだが。間違いなくこの奥の図書館のどこかにはあるようだ…」
「ようし、それなら乗り込むぜ………毎度ぉおお!お馴染みの霧雨魔法店だぜっ☆」
意気揚々と扉を蹴破った私達の眼前には…
「あっ………すご…ぃ…これが…ぁふんっ!…魔界のテクニック………ふぁあっ!」
「うふふ…いかがですか?私の肉体強化魔法と魔界の技術を結集したスペシャルコースのお味は」
「んぁっ…ふんぁっ!気持ちっ…良すぎて…ぁんっ!飛んじゃうっ!」
「まだまだこれからですよ?これからもっと凄くなりますよ…うふふふ」
しばらく前に私と巫女2名が魔界に突入し、紆余曲折を経て封印から開放した大魔法使い聖白蓮と、大魔法使いに馬乗りされて息も絶え絶えに悶えているこの大図書館の主パチュリー・ノーレッジの姿が私達の目に飛び込んできた。
「なにやってんだ、お前ら」
「聖っ!なんて羨ましい事をしているんだい!私も混ぜてくれないか!!」
「あら…魔理沙」
「あら…ナズーリン」
結構きわどい場面だと思うんだがあっけらかんとしてるなこいつら。
「聖っ!君がこの館の魔女と関係を持っていたなんて!」
「あらあら、早合点してはいけませんよナズーリン、私はこちらのノーレッジさんから虚弱体質改善のための法を享受願いたいとの依頼を受けてこちらへ参ったのです。今は血行促進による体温上昇のためのマッサージを施しておりました」
「…パチェでいいわ………(ぽっ)」
「ほらっ!聖にそのつもりは無くても相手はすっかりその気だよ!これはチャンスだよ、このまま一気に聖の手練手管で篭絡して我々命蓮寺の虜にしてしまおう!」
スパァンッ!
「私のツッコミが火を噴かないうちにその口を閉じるんだ」
「もう吹いてるじゃないか、いい音過ぎて危うく心を奪われるところだった!!」
「火傷するぜっ☆」
そんなやり取りの最中、今まで白蓮の下で息を荒げていたパチュリーがむきゅりと体を起こす。
「で、何なのかしら魔理沙?今日はびゃ…白蓮(かぁぁぁぁ…///)のお陰で体調も気分もとても良いから話くらいは聞いてあげてもいいわ」
何故途中で顔赤くしたんだ…?まぁいいや。
「おう、そのお馴染み霧雨魔理沙さんが、稀少本を貰い受けに参上したぜ。さ、隠しても嫌がっても無駄だからおとなしく寄越すんだ」
「ふん、なにを言うかと思えば。この大図書館にあるのはすべて外の世界で幻といわれる稀少本ばかり。どれをとっても国を傾けるほどの貴重な品よ、そしていつも通り答えはノーよ」
確かにどれも貴重な品なのは私も知っている。だが…今回私が狙っているのはそんなもんじゃない。
「言い換えるぜ、今回の私の狙いは…パチュリー、お前さんが今一番大事にしている本だぜ!ナズーリン、探索開始!」
「アイマム!」
私の号令に即座にナズーリンがロッドに念を送り始める。
「そこまでよっ!」
その瞬間、気分がいいとはいいながらも気だるげに受け答えしていたパチュリーが切羽詰った顔で立ちふさがる。
「ほう、国を傾ける程の本でも顔色を変えないパチュリーをそこまで焦らせる様な品なんだな?ますます欲しくなったぜ」
「どこからアレの情報を手に入れたか知らないけれどアレは駄目、絶対に駄目よ」
「駄目といわれただけで止まるような私だとでも?」
「アレを手に入れるのに私がどれだけの苦労をしたと思っているの!?めったに手に入らないんだから!」
「大丈夫だ、お前さんの苦労に見合った扱いはしようじゃないか」
「この前うちから盗られた本が鍋敷きに使われてたってアリスが言ってた!」
「使えるものは例えそれが正しい使用法の範疇から外れたとしても使う、それが霧雨魔理沙の道具への愛!だぜ」
「と、止まらない…止められない…」
私をどうやってもとめられない事を悟ったのかパチュリーはふらふらとよろめき後ずさる…が、ピタと止まると覚悟を決めた厳しい視線を私たちに投げかけて来る。
「こうなったら…」
「へへ…来るか?」
パチュリーがふわりと浮かび上がり戦闘体制をとる、私はいつでも対応できるよう低く身構える。
スゥ………………ぴとっ
「白蓮さまぁっ!あいつがいつも私のこといじめるんですぅっ!」
うわ…媚びっ媚びだな…。
「それだけじゃないんです!今回は女の子の大事な物を力づくで奪おうとしてるんです!」
「おい待て!今の言い方だといろいろ誤解を招く!」
轟っ!(パーパーラー♪パーパラーパパーパー♪パーラーパーパーパーパーパララパーパラーパー♪)
「貴女とは一度拳を交えたときに分かり合えたと信じておりましたが…」
「うそだー!あの女は嘘を吐いているー!」
パチュリーの言葉を耳にした瞬間白蓮から膨大な魔力があふれ出す。
「貴女はあの時から何も変わっていないな!」
「ちがっ、白蓮!話を聞いてくれぇ!おいっナズーリンもあいつを止めてくれ!」
「無駄だよ魔理沙…聖がああなったらもう誰にも止められないんだ…」
余りにも魔力が強すぎるため自然と白蓮の体が浮き上がっていく。
「妖怪の婦女子を苛み、あまつにさえ清らかなる純潔までも奪おうとは真に邪悪で淫乱至極である!」
「ほらな!やっぱり勘違いしたぜ!さすが魔女汚い!」
「とりあえず、勝算はあるのかい?魔理沙」
「無いぜ、今回はあいつとドンパチやらかすだけの装備なんか持ってきちゃいない!」
白蓮が片腕を天高く掲げるとその手に白蓮の力と法の具現である実体の無い巻物が現れる。それと同時に白蓮の背後に蓮の花を象った巨大なモニュメントが出現する。これも白蓮の魔力が目に見える形で具現した一種の魔道器だ。
「いざ!」
「まずいっ!奴は本気だ!どでかいのがが来るぞ!」
「致し方ない…魔理沙!これを使いたまえ!」
ひゅうっとナズーリンが何かを投げて寄越す…これは八卦炉っ!まさか持ち歩いてるとはな…。
「南無三ー!」
「こうも追い詰められたら仕方ない!報酬の前払いだ!聖には悪いが乗りかかった船だ一思いにやってくれ」
「こいつさえいれば千人力だ!前置きも通常弾幕も無しで全力いかせてもらうぜ!」
大魔法「魔神復誦」!!!
魔砲「ファイナルマスタースパーク」!!!
私の手の中の八卦炉を通して私の魔力が何千倍にも増幅されて放出されていく。恐ろしくなるほどの勢いで魔力が吸い取られていくが構うもんか。逃げる分くらいの魔力さえ残れば十分だ!全部吹っ飛ばしてやるぜ!
私の放つ極光と白蓮の放った大魔法がちょうど私たちの中間点で激突して四方に余波を撒き散らしつつ押し合う。今の段階では五分五分と言ったところだが相手は肉体強化に特化した大魔法使いだ、消耗戦ではこちらが不利。その証拠に徐々にではあるが私のスペルが押され始めている。
「ふふふ、貴女の魔法を見ればわかります。やはり貴女は私が見込んだ通りの真っ直ぐな人でした!この勝負、勝っても負けても悔いは無い!!さぁ、もっと貴女の全てをぶつけて来るのです!!!」
「ぐぅうううう!こ、これでどうだぁあああああああ!」
「ブレイジングスター」
私は一旦マスタースパークの放出をキャンセルし、白蓮の攻撃が到達するまでの一瞬で八卦炉を愛用の箒にセットする。後は魔力が空になるまでひたすら前進するのみ!
再度、白蓮の大魔法に自ら飛び込みそのまま弾丸ごと蹴散らして白蓮に肉薄する。あともう少し…もう少しで……とど…………。そして私の視界が真っ白に染め上げられていった。
「魔理沙っ!」
「う…?」
あ~?ここはどこだ?っていうか体が重っ!なんだこりゃ!魔力がほとんどからっからじゃ…………あっ!
「ナズーリン!白蓮はどうした!?」
「聖ならあそこさ…」
ナズーリンの指差す先、俯きながらも両足で佇む白蓮の姿があった。その向こう側にパチュリーも倒れている。最初の白蓮の魔力放出を防御壁無しでもろに食らってたからなぁ…せこい真似するからだぜ。
「負けた…のか…?」
とっておきのスペルカードを2枚連続で使い切った上で1枚のスペルカードをしのぎ切れなかった事に私は衝撃を覚える。
「魔理沙…」
「!?」
突如俯いたままだった白蓮から声が上がる。
「見事です…」
ゆっくりと顔を上げた白蓮は一言ポツリと呟いて、そのまま後ろに大の字にドウと倒れた。
「やったぞ魔理沙我々は勝ったんだよ!」
「そ…そうか…」
私のほうが先に気を失ってたっぽいから勝った負けたで言うと私の負けなんだろうけど。今回勝敗決定後の処遇とか何にも決めてないしなぁ…。まぁ気にせず探索を…
「見つけましたわ」
「!」
しまった…こいつの事すっかり忘れてたぜ…。声のした方向には咲夜と椅子にチョコンと座らされているフランの姿があった。
「フランは捕まっちゃったか」
「えへへ~捕まっちゃった~」
「はい、フランお嬢様は先ほど捕まえました。よって今は咲夜のお人形になっていただいておりますわ」
なるほどな…一難去ってまた一難だぜ。見ると咲夜も結構疲れた顔してるし、私らと同じでどっかでドンパチやってたのかもしれないな。
「さて、魔理沙覚悟はよろしいかしら?タイムアップまではまだ十分に時間が残っていますわよ」
「ぐぅう…」
まずいな、白蓮に吹っ飛ばされるよりこっちのほうが厄介だ。自分で作った条件ながらなんてエゲツナイこと言っちゃったんだ…いまさら後悔しても遅いし何とか逃げ延びなきゃいけない。
「そちらの鼠さんも良く拝見いたしますと大変見目麗しくていらっしゃいますし?今日は咲夜がんばっちゃうかもしれません」
「参ったな、私は受けより攻め派なんだけれどな」
「ご安心ください、咲夜は見目麗しい少女が相手であれば受けも攻めも両方対応いたします」
「やぁ!それなら安心だな!」
こいつら最低だ!だれか止めてくれぇっ!
「それじゃ魔理沙、私は無駄な争いは好まないタイプなんでね。お先に捕まらせてもらうとするよ」
「うっ、裏切りものぉおおお!」
ニヤリといやらしい笑いを浮かべてとことこ咲夜のほうに歩いていくナズーリンの背中に力の入らない体に鞭打って精一杯の恨み言を浴びせかけてやる。
「安心したまえ、痛くしないから」
「おまっ!咲夜だけじゃなく私にも手を出すつもりか!」
「当然だ、私は狙ったお宝は必ず探し出して手に入れる例えどんな卑怯な手を使ってでもね」
「いいですわね、咲夜はそういうクレバーな方。嫌いじゃありませんよ?」
「それは良かった……でも残念だよ。これから嫌われてしまうかもしれないからね」
「?」
宝塔「グレイテストトレジャー」
「きゃぁああああ!」
ナズーリンの手に突如、私が奪ったはずの毘沙門天の宝塔が出現し眩い光と共に弾幕を放出する。ほぼ零距離で弾幕の放出を食らってしまった咲夜は時間停止をする暇も無く吹き飛ばされもんどりうって地面に倒れる。
「あら~、咲夜やられちゃったね~」
「ああ、勝利を確信したときこそ最も隙が生じやすいものだと私もこの前学んだものでね。その心理、利用させてもらったよ」
「ナズーリン…お前、私が宝塔を隠し持ってたのを知っていたのか?」
「ああ、うすうすは感知できていたんだけれどね。まさか帽子の中に極小の結界を作って隠しているとは思わなかったよ。道理でいくら探しても場所があいまいなはずだ」
ニヤッと皮肉っぽく笑ってナズーリンは肩をすくめる。
「ま、さっきの聖との一戦で魔理沙が気を失ってるわずかな時間にちょちょいと調べさせてもらったよ。逆に言うとそれまではまったく気がつかなかった、本当に大したものだ」
「じゃぁ、何で宝塔を取り戻した時点で逃げなかったんだ?お前さんの目標は宝塔だっただろう」
「それは簡単なことだよ、魔理沙」
「?」
「私の狙ってる『お宝』は一つだけじゃないってことさ。君という宝がこのままだと他人に掻っ攫われてしまう。そんな状況でおめおめと逃げおおせるはずが無いだろう?」
ドキン…
不覚にも私はこの一瞬、目の前で恥ずかしい台詞を平気で吐く小柄で狡賢い鼠に心を奪われてしまった。
「な…ナズ…」
「それにだ!お宝は後でいくらでも取り戻せるが、君の純潔や○○○は奪われたら取り戻せないからね!それだけは絶対に私が頂くと心に決めている」
前言撤回!やっぱコイツ最低だ!
「それじゃぁ、我々は目的のものを頂いて尻尾を巻いて逃げることにするが、フランドールといったかい?君はどうするんだ?」
「フランは咲夜のそばにいるよ、フランは咲夜に捕まっちゃったし。せっかく捕まえたフランまでいなくなっちゃったら咲夜が目を覚ましたとき寂しいでしょ?」
「ああ…君もとてもいい女だ。今度ゆっくりお茶でもどうだい?」
「うん!私はいつでもここにいるから!今度は弾幕ごっこしようね!」
「弾幕ごっこは遠慮したいが、お医者さんごっこならいつでも歓迎d」
スパァンッ
「片っ端から口説くんじゃないだぜ、このげっ歯類!」
「おやおや、嫉妬かい?魔理沙」
スッパァンッ
こうして私たちはパチュリーの秘蔵本をまんまと『借りる』ことに成功し、お互いの宝物も元の鞘に戻ったというわけだ。
今回、せこい事をしたうえに何も見せ場がなかったパチュリーだったが何だかよく命蓮寺に出没するようになったらしい。本人曰く「虚弱体質の改善は一朝一夕では成し得ないから仕方ない」と言っているようだが毎回妙にめかし込んで命蓮寺に行くところを見ると狙いは別のところにあるのだろう。
そして、咲夜とフランはというと。咲夜は結局、疲労とダメージで24時間ほとんど動けなかったらしい。フランはそんな咲夜に付きっ切りで世話を焼いていたらしい。その甲斐あってか咲夜が全快後もフランと咲夜の仲は非常に良好でたびたびレミリアをパルパル言わせているとかいないとか
私とナズーリンは今回のことでお互いの良さを認識して偶に一緒に仕事をする仲になった。あ、あくまで仕事だからな!それ以外のことで個人的に気になってたりなんかしないんだから!絶対!絶対!!勘違いするなよ!!!
~~あとがきと言う名の悪乗り~~
「ところで魔理沙」
「なんだ?」
「あの魔女から『借りてきた』秘蔵本は結局どういう書物なんだい?」
「うっ!いや…その…なんていうかだな…」
「ずいぶん歯切れが悪いね。ふむ、百聞は一見にしかずというし、私に見せてくれないか?」
「いやっ!それはまずい」
「なぜだい?微力ながら君の手伝いをしたんだ。私にも少し見せてくれても罰は当たらないよ」
「あうあう…その、なんていうか……う~…そ、そうだ!凄くその本は危ないんだ!」
「へぇ、古代より稀少な宝には呪いの類がかけられていると聞く。それもその類かい?」
「いや…そういうわけじゃ…ない…んだ………ただ…あの、男の子と…」
「男の子と?」
「お兄さんが………すっごく仲良しって言うか……絡み合っているというか………」
「ああ、衆道の色本か!魔理沙も存外に好きものだねぇ(ニヤニヤ)」
「ちっ違うぞ!私はパチュリーがそんな本を持ってるなんて知らなかったんだ!ただ、小悪魔がパチュリーが持ってる秘蔵本は凄いって言ってたから……」
「でも、読んだんだろう?」
「やっ、あのっ…折角苦労して借りて来たんだし、読まないと本にも失礼かな………って…」
「全部読んだんだね?」
「………」
「読んだんだね?」
「……(こくん)」
「助べえ…」
「(かぁぁぁぁ………///)ばっばかっ!ばかぁっ!」
私は暗い倉庫の中で後ろから棒状の何かを突きつけられていた。
「おいおい…お前さんのソレは人様に突きつけるような道具だったのか?」
私は言われた通りそいつから『見えない場所以外』はピクリとも動かすことなくそいつに語りかける。
「生憎と使えるものはどんな使用方法にも活用する主義なんでね、こうして相手を拘束したり頭をぶん殴ったりにも使っているよ。どうだい、多機能だろう?さぁ、ゆっくりと手を上げて床に這いつくばってもらおうか」
「物は言いようだなぁ…私にゃそいつの声無き泣き声が聞こえてくるようだぜ」
そいつはグイグイと棒状のものを私の背に突き付け観念するように強要してくる。だがね…私が今まで生きてきた中でこんな場面に遭遇したことが無いと思っているのか?古くは悪戯がばれて親父に捕まった時から最近だと霊夢が楽しみにしてた饅頭を黙って食べてる途中に見つかった時に至るまでこの手の経験でこの魔理沙さんの右に出るものはいないんだz………
「おっと、その左手の八卦炉は渡してもらおうか。魔力も込めないでおくれよ?何かしら怪しいことをした時点で私は獲物を思いっきり前に突き出さなきゃならない…。私の力では致命傷にはならないだろうがね、すっごく痛いぞ」
「そいつぁ怖いな…私は普通の魔法使いだが、それ以前に花も恥らう乙女なんでね。痛い思いをしたら泣いちゃうかもしれないな…」
少し相手の方が上手だったみたいだ…私はゆっくりと八卦炉を自分のすぐ脇に置いて、素直に床に這いつくばる。八卦炉は私の大事な道具だからな寝るときだって『手の届かない場所』になんか置かないんだぜ。
「丁重に扱ってくれよ?私の大事なお宝なんだ…」
「判っているさ…しかしだね、少々君と距離が近いようだ……ねっ!」
私に獲物を突き付けつつそいつは起用に八卦炉を私の手の届かない位置まで蹴り飛ばす。あぁ…やっちゃった…。
「何てことするんだ、あいつは私のそばを離れると癇癪起こすんだぞ?」
「ふん…君は少し痛い目を見たほうがいい。建立して日が浅いとはいえ神聖な仏閣の倉庫で盗みを働いた罪を私が毘沙門天様に変わって裁いてあげようって所だね」
そいつは調子に乗って私の背中を踏みつける。こいつめ…自分が優位だからって調子に乗って……。
「出来立ての癖に盛況なお寺の仏様はその有り余る慈悲の心で以ってその罪を赦してはくれないのか?」
「お蔭様で人里にも周りの妖怪たちにも受け入れて貰えて来ているよ、それだけに慈悲の心も生産が追いつかなくてね。泥棒相手には年中売り切れなんだ」
ぐりぐりと執拗に体重をかけてくる。いたた…小柄なくせに痛いつぼを狙ってぐりぐりするなんて、私が変な世界に目覚めたらどうするんだ!
「そんなに強くしないでくれよ、同じ鼠仲間じゃないか」
「ふふん…生憎と私はファミリー以外には冷淡なのだよ…」
私を足蹴にしているコイツ、ナズーリンは思ったよりもドSな奴だったようだ。このままだと私は本当にこいつに従順な犬に調教されてしまうかも…万事休すだぜ!私っ!
「さぁて…どうしてくれようかな?聖やご主人に引き渡したらあっさり許してしまうだろうし。ここは私が一晩中…くふふふ…壊してしまわないか心配になってきたな…」
うわぁ…伏せてるから見えないけど絶対こいつ今お子様には見せられない顔してる…いたっ!いたたたたっ!らっ、らめぇ!そんなに強くしたらイケナイ世界に目覚めちゃう~~~~!
「わ、私は食べてもおいしくないぜっ!」
「さて、それでは私の寝所に来てもらうとしようかな。あ、心配しないでくれたまえ。食べるのは君の純潔と尊厳だけだし、君の運搬は私の子鼠たちがやってくれる。君はそのまま楽にしていてくれ」
ナズーリンの言葉と共に私の周りにざわざわと大量の何かの気配が沸き立ち始める。きっとナズーリンの部下の子鼠どもだ。あぁ…私はこのままナズーリンに純潔を散らされた上に語尾に「チュ~」とかつける事を強要されたりするんだろうか…。
「さすがの君もこうなってはただの人間の乙女だね、今夜は君の涙を肴に最高の夜宴としゃれ込めそうだよ…」
私の包囲がすっかり済んで勝ちを確信したのか背中の足をどけて好き勝手に言ってくる鼠娘、だがね…。
「宴と聞いちゃ胸のわくわくを押さえられない魔理沙さんだけどな、私はそろそろお暇するぜ?何しろあっちで八卦炉が癇癪起こしそうなんでな~」
「馬鹿を言わないでくれたまえ、主賓を欠いた宴など成立しない。ゆっくりしていって………」
私の言葉を最後の負け惜しみと取ったのか冗談めかしてナズーリンも返してくる…が、生憎と私は………。
「本気で言ってるんだぜっ!」
「なっ!?」
私が叫んだ瞬間、今までうんともすんとも言っていなかった八卦炉から膨大な光があふれ出す。光と音の本流に私の周りの子鼠共が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し始める。ちなみにこの「蜘蛛の子を散らす」って言葉の語源になった蜘蛛はアシダカグモって言うんだが、気になる奴は調べてみるといい…トラウマになること請け合いだぜ。
「馬鹿な!いったい何をしたっ!?うわっぷ……こらっ!君たち、落ち着かうわぁあああああああっ!!」
自分の部下どもの波に押し流されるナズーリンを尻目に私は全力で戸口まで走る。
「おっと、コイツを忘れちゃ商売上がったりだ!」
戸口近くに転がってた八卦炉を掻っ攫って私は箒に飛び乗ると一気に上空まで加速する。トラブルがあったものの今日の成果は上々だ。
「ハッハァッ!私を捕まえた時点でさっさと移動しなかったのが運のつきってなぁ!」
私からある一定以上の時間八卦炉が離れると八卦炉内の残留魔力を放出する機構になってるんだぜ。勿論、私が香霖に言って追加させた機構だ。二重三重に保険をかける、これぞ生き抜くための知恵って奴なんだぜ。因みにこれでも動じなかった奴にはご褒美として私のヒップアタックを贈呈することにしている。
「よし!追っ手がかからないうちにさっさと帰って寝ることにしますかねっ♪」
私は気分良く帰路に着き、その日は早々にあったかい布団で眠りに着いた。今思えばこの時が…いや、命蓮寺に『借り物』をしに行った時点からがケチのつきはじめだったのかもしれない。
********************************************
「やられた…こいつは一杯食わされたぜ…」
命蓮寺に盗…いや『借り物』をしに行った次の朝、私は愕然とした思いで八卦炉を手に佇んでいた。いや、八卦炉の様な物といったほうがいいかな。というのも今しがた起きて、昨日の成功のお陰で目覚めも良いから起き抜けイッパツよろしくモーニングマスパでもしようかと八卦炉を窓から構えてみたんだが……うんともすんとも言ってくれない。
「偽物…か…」
くそ…食えない奴だ。一瞬で見た目までそっくりな偽者なんか作れるはずがない。つまり…もともと私が盗み…『借り物』!……に入る事を想定していたか、後々私の八卦炉をすり替えて奪うつもりでいたんだろうな。肌身離さず持ち歩いてる私がすぐに気がつかない程には精巧に作られている。
「どうする…今度は真正面から突っ込んで奪い返してやるか…?」
いや…私が気づく事くらい向こうも織り込み済みだろう。私だったらそう簡単に取り戻せない所に隠すだろうな、ならば相手もそれ位のことはしているはずだ。
「探りを入れてみるか…な…?」
こんこん…
………どうやら先手を取られたようだ。如何に非常識な奴が多いこの幻想郷と言えど、こんな早朝に尋ねてくる奴は私の知り合いには数えるくらいにしかいない。数えられるくらいにはいるんだけどな……。
「やぁ、ご機嫌いかがかな?白黒鼠君」
「あぁ…、割と斜めだがお前さんなら歓迎だ。灰色鼠さん?」
予想通り、扉を開けてみるとそこには小柄な体に大きな耳、真っ赤なくりくりの瞳を皮肉っぽく細めた憎いあんちきしょうが立っていた。
「今朝は何故かどうしても君の顔が見たくなってね、非常識ながら訪ねさせて貰ったよ。入ってもいいかい?」
「勿論なんだぜ。私もお前さんに会いに行きたくなってた所なんだ」
「ほう、それはそれは…まるで運命の様じゃないか?」
「いや、むしろ宿命だぜ」
「いやぁ、なかなかに素敵なお住まいじゃないか。私たち鼠には至極心地の良い空間だよここは」
なんて大げさに言いながらナズーリンはきょろきょろと私の部屋を見回している。私はナズーリンを家に招き入れてお茶の準備をしている。私からは見えていないが今頃ナズーリンの支持で子鼠が私の部屋をくまなく捜索しているところだろう。ふん…さっきも言っただろ?『私だったらそう簡単に取り戻せない所に隠す』って、私の心の中でだけどな。見回して判るようなところに置くもんか。
「そうだろう?私の自慢のコレクションを心行くまで楽しんでいってくれよ」
私も余裕を見せて返してやる、こいつがどれだけ探しものの名人だろうとそう簡単にはことを運ばせてやらないぜ。
「ありがたいな!これだけあると鑑賞のしがいもあるってものだね、それこそ箪笥をひっくり返すほどの勢いでかからなければいけないな」
「箪笥は勘弁願いたいな、私の乙女の秘密が満載なんだ」
そう…女のお洒落は見えないところこそ大胆に…だぜ!
「それはさておき、お茶どうぞ…だぜ」
「これはどうも……うん、いい香りだ。私はやはり緑茶の方が好きでね、特にこの何でも喋りたくなってしまう様な配合が最高だね」
ちっ…ばれてる上に耐性持ちか。何の躊躇いもなく飲んじゃったよ。
「ふふっ、昔から人間にはいろいろな『スパイス』をご馳走になってきてるからね。我々は、ちょっとした『スパイス』では少々物足りないんだ。そこを言うと魔理沙、君は良くわかっているね。気に入ったよ」
「そいつはどうもだぜ…」
ん~、霧雨オリジナルブレンドの何でも喋りたくなっちゃうお茶は駄目かぁ…とすると、やっぱり弾幕ごっこか?ストレートに…。それともふんじばって昨日踏んづけられた借りを返しつつ尋問でもしてやろうか。
「おやおや魔理沙、少々お顔に険があるよ。いけないな、花も恥らう乙女が眉間に皺なんか寄せちゃ。まるで恋敵を闇に葬ろうと画策する魔法使いのようだよ?」
「魔法使いなんだけどな、実際。私の表情には全て魅了の魔法と同等の威力があるんだぜ。奪われないよう気を付けたほうが良いぜ?主に心とか」
「そいつは剣呑だ。私も気を付けないといけないな。いや…もう手遅れかもしれないけどね。大事な物的に」
借りてるだけだぜっ☆
「そうそう、剣呑といえば昨日我等が命蓮寺の倉庫に盗賊が入り込んでしまってね」
「へぇ…そいつは物騒だな」
おっと、そう簡単に返す意思が無いってことは伝わったみたいだな?いよいよ本題だぜ。
「そのことにいち早く気がついた私が現場で盗賊を拘束したんだが、敵もなかなかやる手合いでね。取り逃がしてしまったんだよ」
「いやぁ、惜しかったなぁ。油断大敵って奴じゃないか?」
お互いに判りきってることだけどな~。
「いや、本当に惜しいことをしたよ。その盗賊というのがね…見目麗しい絶世の美少女だったのさ。あのまま拘束出来ていたら一晩で語尾に『チュ~』を付けて喋る位に躾けてやるつもりだったのに…」
「そ、それはお気の毒に…だぜ、盗賊が…」
うわっ、鳥肌がっ!
「しかしだね捕縛は失敗したものの、我々もただじゃぁ転ばないよ。キヤツの大事な物を一つだけ奪ってやることに成功したんだ!」
「へぇ…それは凄いな。その盗賊もさぞや困ってることだろうなぁ。だから返してやったらどうだ?」
そうだ~返せよ!私の八卦炉!
「あぁ、それは無理だ」
ちっ!
「ちっ!」
「どうしたんだい?」
「なんでもないんだぜっミ☆」
まぁ、当たり前か。
「命蓮寺のご本尊、まぁご主人の事なんだがね。彼女の大事な物が倉庫から忽然と消えてしまっていてね」
「いつもの如く、うっかりどこかになくしちゃったんじゃないか?」
あいつほんとによく物をなくすもんなぁ…ま、実際には私の手中にある訳だけどな。
「そう…あまりにもよくなくすものだから、使用時以外はあの倉庫に保管して『私』が管理することになっているんだよ」
「なるほどな、つまりあそこから物がなくなると…」
前回はン千年越しで探してたのが今回は必死で取り戻しにくるわけだぜ…。
「そうなのだよ、私の責任が問われることになるんだが。それだけじゃぁなく、高々一匹の鼠に宝物を奪われたとあってはご主人の財宝神や武神としてのイメージが崩れて、ひいては毘沙門天様の威光にまで傷が付く。それだけは絶対に避けなければならない」
「うへぇ、主人を二人持つと大変だなぁ」
と、他人事のように言ってやる。ま、実際他人事だしな~。しかし、高々鼠一匹ってお前さん…自虐か?
「だからどうしても奪われたものを返してもらわなければならないのだよ、それは恐らく向こうさんも一緒だと私は考えている」
「私にゃ良くわからないがきっとそうだぜ。そうに決まってる」
私の数ある大事なものの中でもあれはトビキリの大事なものだ。どうしたって返してもらうさ。
「だから、こちらが奪ったものと向こうさんが奪ったものを交換したいんだよ。ということで魔理沙、お宝の行方を知っていたりしないかい?」
「知らないぜ☆」
即答してやる。確かにお互いに無二の宝を交換するんだから条件としては悪くない。悪くはないんだが…それじゃぁ苦労して侵入した私の労力やぐりぐりされた痛みが報われないってもんだ。条件としては私のほうが損になるんじゃ公平な取引とはいえないな。魔法使いに取引を持ちかけるつもりならそれ相応の見返りを用意するんだな。
「話には聞いていたけれど、実際に目の当たりにしてみると相当なひん曲がりだな君は…」
「何のことだかさっぱりなんだぜ~♪だが私も魔法使いだって事を忘れてもらっちゃ困るなぁ」
それに、前もって八卦炉のダミーを用意してる周到さから見てもナズーリンは私と張る位には強かな奴だ。そんな奴の持ちかけた取引に素直に従ったらどんなしっぺ返しを食らうか判らない。
「魔法使いに取引を持ちかけるなら…てやつかい?」
「どんな依頼も等価交換!霧雨魔法店を宜しくなんだぜ☆」
さて、どう出てくるんだ?素直にこの場で八卦炉を差し出しても私はアレを返すつもりはないぜ?
「よし、ではこうしようじゃないか」
「?」
ぽんと手をたたいて私に提案するナズーリン。しかし…閃いた時に出たチーズはどっからだしてるんだ?
「魔理沙、探し物はないかい?失せ物でも、未発見の物でもかまわない。それを私がピタリと探し当てて上げようじゃないか。それに加えて今回はストーブにも使える八角形がイカした魔法具まで付けよう。それを等価として、我々の探し物を霧雨魔法店の店主さんに探してもらいたいんだ。この機を逃す手はないと思うんだがね?」
「ふむ、探し物…ねぇ?ここで特に無いって言ったらどうなるんだ?」
私の言葉にナズーリンはスッと目を細め、ニヤァと薄気味悪い笑みを浮かべる。
「大事な宝物を2度に渡って紛失した罪に問われてご主人は毘沙門天代理の座を剥奪。ご本尊を失った命蓮寺は最悪ただの妖怪の根城へ早代わり。そして、それらの監視をしていた私も無能と判断されて監視役の任を解かれてただの妖怪鼠に成り下がることになる」
「ふむ、大事だな」
私も世紀の大悪霊だったお師匠様譲りのニヒルな笑みで返してやる。
「それだけじゃぁ無い、その妖怪鼠はね…割と執念深いんだ。血と汗と涙を流して十二神将の末席に迎えられた者の端くれとしてね、ただの妖怪に貶められた恨みは語尾に『チュ~』では済まされないかもしれない。正直、何するかわからんね」
そういいながら私の足元から舐め上げる様にねっとりとした視線を全身に浴びせかけてくるナズーリンに私のニヒルな笑みが若干引きつってしまう。ううっ、この人目が本気なんです…。大体にして鼠は口先で牛を騙して一番とったって慧音が言ってた!
「い、良いだろう…その商談乗ったぜ!その代わり、探し物は超難易度の物だから覚悟しとけよ!」
「毘沙門天様とご主人の名にかけて、私に探し出せない物は無い…とだけ言っておくよ」
こうなりゃとことんだ、ネズ公め…覚悟しろよ。
********************************************
所変わってここは霧の湖と呼ばれる幻想郷一大きな湖。今私たちの目の前に広がるのは清らかな水面を湛えた深夜の湖と、それをバックに不気味に浮かび上がる真っ赤な洋館。そしてその洋館の門前で『ウルトラ上手に焼かれました~♪』状態の門番の成れの果てだった。
「あ~…魔理沙?」
「なんだ?」
ぶすぶすと立ち上る焦げ臭い匂いの中、ナズーリンが困ったように私に顔を向ける。
「焦げてるんだが…」
「ああ、焦げてるな…」
ぴくぴくと痙攣している門番だった物の前で立ち尽くす私たち。
「今回は客として行くってさっき…」
「いつもの癖で…つい……」
紅魔館の数少ない窓に照明が灯り始める、あ…なんか警報っぽい音も聞こえるな。
「この人、魔理沙が歩いて来たから『あ、今回はお客様ですか?いやぁ、ありがたいです。正直毎回毎回焼かれるのはしんどいんですよ~、これからもお客様として来てくださぶべっ!』って…」
「ほぼ無意識でスペカ使ってた、今は反省している」
こいしじゃ…こいしの仕業じゃ……あ、まずい。夜間の上に不意打ちだからエキストラメイド隊が出てきちゃった…。
「どうするんだい?今日のところは引いて作戦を練り直すかい?」
「いや…これはいつものことさ、やっぱりお宝を狙うなら正面突破。これに尽きる」
それに、今逃げ帰ったら私は目的も無いのに門番を吹っ飛ばした通り魔になっちゃうじゃないか。通り魔や辻斬りなんて冥界の庭師で十分だぜ。
「さぁ、お仕事の時間だぜ。ネズ公よ、しっかり掴まってろよ!」
「私はゆったり飛ぶのが好みなんだがね、できれば牛車くらいの速度を希望するよ」
「私の牛車は音速だぜ!」
言うが早いか私は愛用の箒にフルスロットルで魔力を供給する。弾かれる様に飛び出した私たちが今までいた地点には弾の雨が降り注いでいる。
「ふははは!毎度ー!霧雨魔法店だぜぇ~☆」
「ま、魔理沙…目立つような事しないで追っ手をまいて侵入すれば…」
何を言うんだこのネズ公、一度ばれたからには華々しく大立ち回りを演じてやらなきゃ女が廃るってもんじゃないか。
『白黒だぁ~!これ以上奥へ進ませるなぁ~!』
『隊長っ!奴の目標が判明しました!奴の目的は大図書館ですっ!』
エクストラメイド隊が次々に館内放送魔法で伝令を飛ばしあっている。そう、今日の私の獲物は大図書館にありだぜ。
『いつもの事だな!ようし、ポイントαを封鎖して迎え撃つ!ポイントα付近のメイド隊及びエキストラメイド隊は至急防衛線を張れ!』
『うわぁっ!光のように速いっ!ポイントα封鎖できません!』
『くそぉっ!誰か奴を止めろぉっ!』
「情報が駄々漏れなんだがこの館、大丈夫なのか?」
「いつもの事だぜっ」
未だ混乱の最中にあるポイントαとやらを私たちは悠々とすり抜けていく。
「しかし、超難易度というから緊張しっぱなしだったけれど、この分なら存外楽に事が進みそうじゃないか?」
「いや…そうでもないぜ。そろそろ奴が来る頃合だ」
「お呼びかしら?」
「そうそう、そろそろお前さんが出張って来…うぉっ!」
「わぁっ!」
二人乗りで進んでいたはずの箒にいつの間にか3人目が乗り込んでいた。突然の事に思わず全力で逆噴射かけちゃったぜ。突然の急制動に箒の最後尾に悠々と横すわりしていた3人目はそのままの姿勢で空中に投げ出されるが、猫のようにしなやかな捻りを加えた姿勢制御でふわりと紅魔館の廊下に降り立つ。
「呼ばれて飛び出てふふふふ~ん♪ですわ」
「おまっ、おまっ…吃驚するじゃないか!」
「危なかった…少々ちびるところだった…」
危険なフレーズと共に私たちの前に立ちはだかったのはこの紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。
「いつもどおりの目の前にナイフを投げて牽制しながらの登場では芸が無いと思いまして、お気に召しまして?」
「ああ、その登場シーンも吃驚だったが、何よりお前さんがそういうジョークが出来るって事自体が大発見だぜ」
「見るからに鉄面皮の氷の女って感じだものな」
完全で瀟洒なメイドの二つ名を持つこいつは宴会の席でも乱れず騒がず、いつもかすかな微笑みを浮かべてしなやかに立ち回る姿しか見たことが無い。個人的な付き合いの場でもケーキを焼いてくれたりお茶を入れてくれたりといつもお姉さん然としてしているので今回の発見は割りと衝撃的だった。
「今日はお嬢様がお出かけになられているので、フランお嬢様が大変退屈なさっておられるのです。ですから今までフランお嬢様にマジックなどお見せしておりましたの」
「なるほどな。で、そこにちょうど私たちが侵入してきたと…」
「ええ、これぞ正しく飛んで火に入る夏のリグル…いえ、渡りに小町ですわ。左様でございましょう?フランお嬢様」
「うん!魔理沙!あそぼっ?」
咲夜の影からひょこっと小さな影が顔を覗かせる。金色の髪をサイドポニーにまとめた愛らしい紅い瞳をもった少女、この少女こそこの館の支配者!…の妹のフランドール・スカーレットだ。小さく愛らしい見た目に騙されてはいけない、この娘の持つ力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。無邪気な顔でこの館ごと私たちを吹っ飛ばすことくらい朝飯前の超危険人物だ。
「うへぇ…咲夜に加えてフランもいるのか…こりゃ分が悪いな」
「魔理沙~、弾幕ごっこしよ?そこのネズミさんも一緒で良いからいっぱいっぱい遊んで欲しいの!」
「いや、フラン。悪いけど今日は急な都合で用事が悪くてだな!」
「わ、私は遠慮させてもらいたいんだが…小動物の勘が『目の前の敵に挑んではならない』と警鐘をだね…」
「いくよー?」
「「うわぁ、聞いちゃいない!!」」
ゴゴゴゴゴと禍々しい魔力がフランから立ち上り始める。まずいぞ…このままだとフランの遊び相手をさせられて疲れきったところを御用でTHE ENDだ。どうする…咲夜がいるからフランの目を盗んで飛び立っても時間停止で捕まるに決まってる。くそ…万事休すか!?
「よーし!いくよ~!禁忌「クランベリート…」」
「まったぁああああああ!」
今まさにフランがスペルカード宣言をする瞬間、電撃のように私の脳内に名案が飛来した。
「うん?どうしたの魔理沙」
「思ったんだが、1対2じゃいくらフランと言えども不利になるじゃないか」
「んーん?私は楽しければ全然かまわな「それにっ!」」
「咲夜が仲間はずれになっちゃってるぜ?咲夜もきっと遊びたいはずだ。みんなで遊んだほうが楽しいぜ?」
「そっかぁ…ごめんね、咲夜。咲夜も一緒にあそぼ?」
「いえ、私はフランお嬢さ「そうか!咲夜も遊びたいよな!良かったなぁ咲夜!!」」
「それじゃ、改めて弾幕ご「ようし、それじゃあ4人でしかできないような多人数ならではの遊びをしような!!!」
「なんて力技だ…」
うるさい、ここを切り抜けなきゃどうにもならないんだ。これくらいはやっても許される!
「みんなで出来る遊び?」
「ああそうだ、かくれんぼをしよう!鬼はこの館のすべてを知り尽くしている咲夜で、私たちはその難敵から隠れて逃げおおせるのが勝利条件だ!咲夜に捕まった者はペナルティとして捕まった瞬間から24時間咲夜の所有物になる。咲夜の命令にすべて従い、咲夜のやることはすべて甘んじて受け入れなければならない。一晩中抱き枕にされようが、トチ狂った咲夜に襲い掛かられようが無抵抗でいること!いいな?」
「うん、わかったよー!楽しそう!」
「一晩中…抱き…襲って……ネチョネチョに……無抵抗……調教………うふ…うふふふ……」
おいそこのメイド、瞳が真っ赤だぞ。しかも最後は誰かさんのパクリだ!使用料を要求するぜ。
「それじゃ、今から私たちは逃げ始める。そこから5分後に咲夜が捜索開始だ、制限時間は1時間でいいな!」
「あの、魔理沙。私も鬼側に加わりたいと思…」
おい鼠!お前も瞳が真っ赤だ。自重しろ。元からだけどな!
「それじゃスタートだぜー!」
「ぎゅーん!」
私の号令で弾かれるようにその場から飛び立つ私達とフラン。
「く…魔理沙を捕まえて…ネチョンネチョンの語尾に『チュ~』……」
いい加減あきらめろ…
********************************************
『しっ、白黒に加えて妹様だぁ~!』
『白黒と妹様が館内を暴走中!至急援護ねがいまうきゃああああああ…ザー』
『ナタリー!返事をしてくれ!ナタリィイイイイイ………!』
『くそっ、魔法の森の白黒は化け物かっ!?』
「きゃはははは!おもしろーい!」
「しまったぜ、そういやメイド隊もいたんだったな」
咲夜とフランを抑えられたから一安心と思いきやまだ私達を捜索中のメイド隊が私達に向かって弾幕の雨を降らせてくる。弾幕を避けるためにどうしても最高速に乗れないからこのままだと咲夜に追いつかれて抱き枕コースが決定してしまう。
「おぅいフラン!一緒に進むのも楽しいが、このままだと咲夜に同時に見つかってしまう。それじゃぁ私達の勝負にならないからここらで別れよう!」
「えー!フランは魔理沙と一緒がいい~!」
普段だったら可愛い奴と、相手をしてやっているところだけれど今日はそこまでの余裕がない。それに私とフランだったら、その手の趣味を持っていると噂の咲夜なら絶対にフランから探しに行くと私は踏んでいる。そこで私達が別れることにより咲夜の捜索の目をフランに集中させようというのが私の作戦だ。
「ようし、フランが勝ったら私の血を吸わせてやるよ」
「本当?絶対だよ!!」
「ああ!私に勝てたらな!」
聞くやいなや即座に加速するフラン。メイド隊の弾幕なぞどこ吹く風で弾があたろうが進路にメイドがいようが一直線に進んでいく。
『い、妹様が更に加速!防御壁を無視して突っ込んできます!』
『全員退避っ!退避~っ!』
ズドーン
『『うわぁああああああああああ……』』
南無三…なんだぜ。
それはさておき、ようやく私達も目標の場所にたどり着いたぜ。
「ようし到着だ、頼むぜナズーリン。目標は『パチュリー秘蔵の超稀少本』だ」
「ああ、わかっている」
ナズーリンが携えていたロッドを持ち、念をこめ始める。
「ふむ、結界でも張られているのか酷くあいまいだが。間違いなくこの奥の図書館のどこかにはあるようだ…」
「ようし、それなら乗り込むぜ………毎度ぉおお!お馴染みの霧雨魔法店だぜっ☆」
意気揚々と扉を蹴破った私達の眼前には…
「あっ………すご…ぃ…これが…ぁふんっ!…魔界のテクニック………ふぁあっ!」
「うふふ…いかがですか?私の肉体強化魔法と魔界の技術を結集したスペシャルコースのお味は」
「んぁっ…ふんぁっ!気持ちっ…良すぎて…ぁんっ!飛んじゃうっ!」
「まだまだこれからですよ?これからもっと凄くなりますよ…うふふふ」
しばらく前に私と巫女2名が魔界に突入し、紆余曲折を経て封印から開放した大魔法使い聖白蓮と、大魔法使いに馬乗りされて息も絶え絶えに悶えているこの大図書館の主パチュリー・ノーレッジの姿が私達の目に飛び込んできた。
「なにやってんだ、お前ら」
「聖っ!なんて羨ましい事をしているんだい!私も混ぜてくれないか!!」
「あら…魔理沙」
「あら…ナズーリン」
結構きわどい場面だと思うんだがあっけらかんとしてるなこいつら。
「聖っ!君がこの館の魔女と関係を持っていたなんて!」
「あらあら、早合点してはいけませんよナズーリン、私はこちらのノーレッジさんから虚弱体質改善のための法を享受願いたいとの依頼を受けてこちらへ参ったのです。今は血行促進による体温上昇のためのマッサージを施しておりました」
「…パチェでいいわ………(ぽっ)」
「ほらっ!聖にそのつもりは無くても相手はすっかりその気だよ!これはチャンスだよ、このまま一気に聖の手練手管で篭絡して我々命蓮寺の虜にしてしまおう!」
スパァンッ!
「私のツッコミが火を噴かないうちにその口を閉じるんだ」
「もう吹いてるじゃないか、いい音過ぎて危うく心を奪われるところだった!!」
「火傷するぜっ☆」
そんなやり取りの最中、今まで白蓮の下で息を荒げていたパチュリーがむきゅりと体を起こす。
「で、何なのかしら魔理沙?今日はびゃ…白蓮(かぁぁぁぁ…///)のお陰で体調も気分もとても良いから話くらいは聞いてあげてもいいわ」
何故途中で顔赤くしたんだ…?まぁいいや。
「おう、そのお馴染み霧雨魔理沙さんが、稀少本を貰い受けに参上したぜ。さ、隠しても嫌がっても無駄だからおとなしく寄越すんだ」
「ふん、なにを言うかと思えば。この大図書館にあるのはすべて外の世界で幻といわれる稀少本ばかり。どれをとっても国を傾けるほどの貴重な品よ、そしていつも通り答えはノーよ」
確かにどれも貴重な品なのは私も知っている。だが…今回私が狙っているのはそんなもんじゃない。
「言い換えるぜ、今回の私の狙いは…パチュリー、お前さんが今一番大事にしている本だぜ!ナズーリン、探索開始!」
「アイマム!」
私の号令に即座にナズーリンがロッドに念を送り始める。
「そこまでよっ!」
その瞬間、気分がいいとはいいながらも気だるげに受け答えしていたパチュリーが切羽詰った顔で立ちふさがる。
「ほう、国を傾ける程の本でも顔色を変えないパチュリーをそこまで焦らせる様な品なんだな?ますます欲しくなったぜ」
「どこからアレの情報を手に入れたか知らないけれどアレは駄目、絶対に駄目よ」
「駄目といわれただけで止まるような私だとでも?」
「アレを手に入れるのに私がどれだけの苦労をしたと思っているの!?めったに手に入らないんだから!」
「大丈夫だ、お前さんの苦労に見合った扱いはしようじゃないか」
「この前うちから盗られた本が鍋敷きに使われてたってアリスが言ってた!」
「使えるものは例えそれが正しい使用法の範疇から外れたとしても使う、それが霧雨魔理沙の道具への愛!だぜ」
「と、止まらない…止められない…」
私をどうやってもとめられない事を悟ったのかパチュリーはふらふらとよろめき後ずさる…が、ピタと止まると覚悟を決めた厳しい視線を私たちに投げかけて来る。
「こうなったら…」
「へへ…来るか?」
パチュリーがふわりと浮かび上がり戦闘体制をとる、私はいつでも対応できるよう低く身構える。
スゥ………………ぴとっ
「白蓮さまぁっ!あいつがいつも私のこといじめるんですぅっ!」
うわ…媚びっ媚びだな…。
「それだけじゃないんです!今回は女の子の大事な物を力づくで奪おうとしてるんです!」
「おい待て!今の言い方だといろいろ誤解を招く!」
轟っ!(パーパーラー♪パーパラーパパーパー♪パーラーパーパーパーパーパララパーパラーパー♪)
「貴女とは一度拳を交えたときに分かり合えたと信じておりましたが…」
「うそだー!あの女は嘘を吐いているー!」
パチュリーの言葉を耳にした瞬間白蓮から膨大な魔力があふれ出す。
「貴女はあの時から何も変わっていないな!」
「ちがっ、白蓮!話を聞いてくれぇ!おいっナズーリンもあいつを止めてくれ!」
「無駄だよ魔理沙…聖がああなったらもう誰にも止められないんだ…」
余りにも魔力が強すぎるため自然と白蓮の体が浮き上がっていく。
「妖怪の婦女子を苛み、あまつにさえ清らかなる純潔までも奪おうとは真に邪悪で淫乱至極である!」
「ほらな!やっぱり勘違いしたぜ!さすが魔女汚い!」
「とりあえず、勝算はあるのかい?魔理沙」
「無いぜ、今回はあいつとドンパチやらかすだけの装備なんか持ってきちゃいない!」
白蓮が片腕を天高く掲げるとその手に白蓮の力と法の具現である実体の無い巻物が現れる。それと同時に白蓮の背後に蓮の花を象った巨大なモニュメントが出現する。これも白蓮の魔力が目に見える形で具現した一種の魔道器だ。
「いざ!」
「まずいっ!奴は本気だ!どでかいのがが来るぞ!」
「致し方ない…魔理沙!これを使いたまえ!」
ひゅうっとナズーリンが何かを投げて寄越す…これは八卦炉っ!まさか持ち歩いてるとはな…。
「南無三ー!」
「こうも追い詰められたら仕方ない!報酬の前払いだ!聖には悪いが乗りかかった船だ一思いにやってくれ」
「こいつさえいれば千人力だ!前置きも通常弾幕も無しで全力いかせてもらうぜ!」
大魔法「魔神復誦」!!!
魔砲「ファイナルマスタースパーク」!!!
私の手の中の八卦炉を通して私の魔力が何千倍にも増幅されて放出されていく。恐ろしくなるほどの勢いで魔力が吸い取られていくが構うもんか。逃げる分くらいの魔力さえ残れば十分だ!全部吹っ飛ばしてやるぜ!
私の放つ極光と白蓮の放った大魔法がちょうど私たちの中間点で激突して四方に余波を撒き散らしつつ押し合う。今の段階では五分五分と言ったところだが相手は肉体強化に特化した大魔法使いだ、消耗戦ではこちらが不利。その証拠に徐々にではあるが私のスペルが押され始めている。
「ふふふ、貴女の魔法を見ればわかります。やはり貴女は私が見込んだ通りの真っ直ぐな人でした!この勝負、勝っても負けても悔いは無い!!さぁ、もっと貴女の全てをぶつけて来るのです!!!」
「ぐぅうううう!こ、これでどうだぁあああああああ!」
「ブレイジングスター」
私は一旦マスタースパークの放出をキャンセルし、白蓮の攻撃が到達するまでの一瞬で八卦炉を愛用の箒にセットする。後は魔力が空になるまでひたすら前進するのみ!
再度、白蓮の大魔法に自ら飛び込みそのまま弾丸ごと蹴散らして白蓮に肉薄する。あともう少し…もう少しで……とど…………。そして私の視界が真っ白に染め上げられていった。
「魔理沙っ!」
「う…?」
あ~?ここはどこだ?っていうか体が重っ!なんだこりゃ!魔力がほとんどからっからじゃ…………あっ!
「ナズーリン!白蓮はどうした!?」
「聖ならあそこさ…」
ナズーリンの指差す先、俯きながらも両足で佇む白蓮の姿があった。その向こう側にパチュリーも倒れている。最初の白蓮の魔力放出を防御壁無しでもろに食らってたからなぁ…せこい真似するからだぜ。
「負けた…のか…?」
とっておきのスペルカードを2枚連続で使い切った上で1枚のスペルカードをしのぎ切れなかった事に私は衝撃を覚える。
「魔理沙…」
「!?」
突如俯いたままだった白蓮から声が上がる。
「見事です…」
ゆっくりと顔を上げた白蓮は一言ポツリと呟いて、そのまま後ろに大の字にドウと倒れた。
「やったぞ魔理沙我々は勝ったんだよ!」
「そ…そうか…」
私のほうが先に気を失ってたっぽいから勝った負けたで言うと私の負けなんだろうけど。今回勝敗決定後の処遇とか何にも決めてないしなぁ…。まぁ気にせず探索を…
「見つけましたわ」
「!」
しまった…こいつの事すっかり忘れてたぜ…。声のした方向には咲夜と椅子にチョコンと座らされているフランの姿があった。
「フランは捕まっちゃったか」
「えへへ~捕まっちゃった~」
「はい、フランお嬢様は先ほど捕まえました。よって今は咲夜のお人形になっていただいておりますわ」
なるほどな…一難去ってまた一難だぜ。見ると咲夜も結構疲れた顔してるし、私らと同じでどっかでドンパチやってたのかもしれないな。
「さて、魔理沙覚悟はよろしいかしら?タイムアップまではまだ十分に時間が残っていますわよ」
「ぐぅう…」
まずいな、白蓮に吹っ飛ばされるよりこっちのほうが厄介だ。自分で作った条件ながらなんてエゲツナイこと言っちゃったんだ…いまさら後悔しても遅いし何とか逃げ延びなきゃいけない。
「そちらの鼠さんも良く拝見いたしますと大変見目麗しくていらっしゃいますし?今日は咲夜がんばっちゃうかもしれません」
「参ったな、私は受けより攻め派なんだけれどな」
「ご安心ください、咲夜は見目麗しい少女が相手であれば受けも攻めも両方対応いたします」
「やぁ!それなら安心だな!」
こいつら最低だ!だれか止めてくれぇっ!
「それじゃ魔理沙、私は無駄な争いは好まないタイプなんでね。お先に捕まらせてもらうとするよ」
「うっ、裏切りものぉおおお!」
ニヤリといやらしい笑いを浮かべてとことこ咲夜のほうに歩いていくナズーリンの背中に力の入らない体に鞭打って精一杯の恨み言を浴びせかけてやる。
「安心したまえ、痛くしないから」
「おまっ!咲夜だけじゃなく私にも手を出すつもりか!」
「当然だ、私は狙ったお宝は必ず探し出して手に入れる例えどんな卑怯な手を使ってでもね」
「いいですわね、咲夜はそういうクレバーな方。嫌いじゃありませんよ?」
「それは良かった……でも残念だよ。これから嫌われてしまうかもしれないからね」
「?」
宝塔「グレイテストトレジャー」
「きゃぁああああ!」
ナズーリンの手に突如、私が奪ったはずの毘沙門天の宝塔が出現し眩い光と共に弾幕を放出する。ほぼ零距離で弾幕の放出を食らってしまった咲夜は時間停止をする暇も無く吹き飛ばされもんどりうって地面に倒れる。
「あら~、咲夜やられちゃったね~」
「ああ、勝利を確信したときこそ最も隙が生じやすいものだと私もこの前学んだものでね。その心理、利用させてもらったよ」
「ナズーリン…お前、私が宝塔を隠し持ってたのを知っていたのか?」
「ああ、うすうすは感知できていたんだけれどね。まさか帽子の中に極小の結界を作って隠しているとは思わなかったよ。道理でいくら探しても場所があいまいなはずだ」
ニヤッと皮肉っぽく笑ってナズーリンは肩をすくめる。
「ま、さっきの聖との一戦で魔理沙が気を失ってるわずかな時間にちょちょいと調べさせてもらったよ。逆に言うとそれまではまったく気がつかなかった、本当に大したものだ」
「じゃぁ、何で宝塔を取り戻した時点で逃げなかったんだ?お前さんの目標は宝塔だっただろう」
「それは簡単なことだよ、魔理沙」
「?」
「私の狙ってる『お宝』は一つだけじゃないってことさ。君という宝がこのままだと他人に掻っ攫われてしまう。そんな状況でおめおめと逃げおおせるはずが無いだろう?」
ドキン…
不覚にも私はこの一瞬、目の前で恥ずかしい台詞を平気で吐く小柄で狡賢い鼠に心を奪われてしまった。
「な…ナズ…」
「それにだ!お宝は後でいくらでも取り戻せるが、君の純潔や○○○は奪われたら取り戻せないからね!それだけは絶対に私が頂くと心に決めている」
前言撤回!やっぱコイツ最低だ!
「それじゃぁ、我々は目的のものを頂いて尻尾を巻いて逃げることにするが、フランドールといったかい?君はどうするんだ?」
「フランは咲夜のそばにいるよ、フランは咲夜に捕まっちゃったし。せっかく捕まえたフランまでいなくなっちゃったら咲夜が目を覚ましたとき寂しいでしょ?」
「ああ…君もとてもいい女だ。今度ゆっくりお茶でもどうだい?」
「うん!私はいつでもここにいるから!今度は弾幕ごっこしようね!」
「弾幕ごっこは遠慮したいが、お医者さんごっこならいつでも歓迎d」
スパァンッ
「片っ端から口説くんじゃないだぜ、このげっ歯類!」
「おやおや、嫉妬かい?魔理沙」
スッパァンッ
こうして私たちはパチュリーの秘蔵本をまんまと『借りる』ことに成功し、お互いの宝物も元の鞘に戻ったというわけだ。
今回、せこい事をしたうえに何も見せ場がなかったパチュリーだったが何だかよく命蓮寺に出没するようになったらしい。本人曰く「虚弱体質の改善は一朝一夕では成し得ないから仕方ない」と言っているようだが毎回妙にめかし込んで命蓮寺に行くところを見ると狙いは別のところにあるのだろう。
そして、咲夜とフランはというと。咲夜は結局、疲労とダメージで24時間ほとんど動けなかったらしい。フランはそんな咲夜に付きっ切りで世話を焼いていたらしい。その甲斐あってか咲夜が全快後もフランと咲夜の仲は非常に良好でたびたびレミリアをパルパル言わせているとかいないとか
私とナズーリンは今回のことでお互いの良さを認識して偶に一緒に仕事をする仲になった。あ、あくまで仕事だからな!それ以外のことで個人的に気になってたりなんかしないんだから!絶対!絶対!!勘違いするなよ!!!
~~あとがきと言う名の悪乗り~~
「ところで魔理沙」
「なんだ?」
「あの魔女から『借りてきた』秘蔵本は結局どういう書物なんだい?」
「うっ!いや…その…なんていうかだな…」
「ずいぶん歯切れが悪いね。ふむ、百聞は一見にしかずというし、私に見せてくれないか?」
「いやっ!それはまずい」
「なぜだい?微力ながら君の手伝いをしたんだ。私にも少し見せてくれても罰は当たらないよ」
「あうあう…その、なんていうか……う~…そ、そうだ!凄くその本は危ないんだ!」
「へぇ、古代より稀少な宝には呪いの類がかけられていると聞く。それもその類かい?」
「いや…そういうわけじゃ…ない…んだ………ただ…あの、男の子と…」
「男の子と?」
「お兄さんが………すっごく仲良しって言うか……絡み合っているというか………」
「ああ、衆道の色本か!魔理沙も存外に好きものだねぇ(ニヤニヤ)」
「ちっ違うぞ!私はパチュリーがそんな本を持ってるなんて知らなかったんだ!ただ、小悪魔がパチュリーが持ってる秘蔵本は凄いって言ってたから……」
「でも、読んだんだろう?」
「やっ、あのっ…折角苦労して借りて来たんだし、読まないと本にも失礼かな………って…」
「全部読んだんだね?」
「………」
「読んだんだね?」
「……(こくん)」
「助べえ…」
「(かぁぁぁぁ………///)ばっばかっ!ばかぁっ!」
ニュージャスティス!!
だが魔理沙、犯罪は自重しろ
ネズミミ装備で!ネズミミ装備でな!!
テンポもよかったしw
個人的な感想になるかもしれませんが、魔理沙が「ZE☆」を繰り返しすぎてた気がします。
特に魔理沙のお家での場面で不自然さを感じられました。
魔理沙がナズに変態調教される話はいつですか!?