わたしがこの命蓮寺に来てからもうけっこう経った。
白蓮に謝りに来たときにここで一緒に暮らさないかと言われて、あれよあれよというまにここに暮らすことになってしまったのだ。
最初の頃はわたしが白蓮の封印を解く邪魔をしてしまっていたこともあって、ムラサとかに睨まれてたりとかもしたけど、今はもうそこまで怒ってはいない…と思う。
まあとにかくここでの暮らしにもだいぶ慣れてきたし白蓮の説法とかもちゃんと聞くようになった。
それにここにいれば白蓮がかまってくれるしね。
最近はお寺へ来る人も多くなって白蓮たちは忙しそうなんだけど…まあそんなにかまわれたりくっつかれてもこっちが困っちゃうんだけどね。
だいたい白蓮はスキンシップが激しすぎるんだよ、この前もいきなり後ろから抱き締めてきたりとか…ああもうまた思い出しちゃったよあの感触…
「ぬえ?どうかしたんですか?」
「え?ううん、なんでもないよ、聖。どうして?」
「えっと、箸が止まっていたから…ひょっとしておいしくなかった?」
「あっ、そんなことないよ、すごく美味しいよ!」
あわてて麺をすする。
うん、やっぱり美味しい、白蓮の作ったカレーうどん。
ムラサがカレーを、一輪がうどんをお互いにゆずらなかったから白蓮がこれを作ったんだ。
前に宴会で知り合った人から作り方を教えてもらったとか言ってたっけ。
「そう…それならいいのだけど。そんなに勢いよく食べると汚れるわよ、ほらはねてる」
「んっ、いいよそんな自分で吹くから」
「でも…」
「いいからいいから、白蓮も自分の食べなよ。この後説法があるんでしょ?早く食べないと」
「…そうね、準備も、しないといけないものね」
ふう、まったく。かまってくれるのは嬉しいんだけどあんまりそれも過ぎるとね。わたしもなんかどきどきしちゃうし…あーもうまったくもう!
「ごちそうさまっ」
さっさと残りのカレーうどんを食べて席を立った。
とりあえずこの場所から早く離れよう。なんか変なのが頭の中でもやもやしてるし。
勢いよく立ったからかみんながこっち見てるけど――ムラサはなんか言いたそうな顔してるし――まあいいや早く行こう。
「ぬえっ!食器ぐらいちゃんと台所にもってきなさい!」
そんなことかい。
「はいはい、わかってるよー」
ムラサったら口煩いなーもー。
さっさと片してさっさと部屋に行こう。
「……聖」
「大丈夫よ、星。あなたも言ってくれたでしょう?」
「…はい」
「わたしがあの子を疑うなんて、してはいけないものね」
「……」
◆◇◆
あーあ、結局もやもやしたままこんな時間になっちゃった。
外に遊びに行く気も起きなかったし、部屋でごろごろしてる間に少し寝ちゃったし。
…よし、気分転換しよう。こんなときはそれにかぎる。
そして気分転換といえばいたずらだ。少なくともわたしはそうだ。はた迷惑と言われようが好きなんだからしかたない。
そんでこんなときに手近で、一番いたずらのしがいがあるのは言わずと知れた命蓮寺が誇るドジっ子、星である。
星にはこれまでもいろいろいたずらをしてきた、おもに宝塔に。
今回はどうしてやろうと部屋を出て考える。
この前はほうとう鍋にしたし、その前はエッフェル塔っていうやつにしたし。
よし、ス○イツリーとかいうのにしよう。わたしの正体不明の情報源によると今人気らしいし。
にしてもあれって何なんだろう?たまに枕元に出るんだよね、なんかこうくぱぁってかんじで。
まあいいや、はやいとこ星の部屋に…ってあれ?あそこにいるの星だよね。なんか探してるみたい…まさか…。
「あっ、ぬえっ!私の宝塔を見ませんでしたか!?」
「やっぱりか」
まさかいたずらする前から無くしているとは、さすがドジっ子星ちゃんだ。
「やっぱり?まさかまたあなたのいたずらですか!?」
「ちょっと待ってよ、だいたい星の探し物といったら宝塔じゃない。わたしはまだ何にもしてないよ」
「そうですか、疑ってすみませ…まだ?」
「そうだっわたしも探してあげるよっ!」
「本当ですか!?ありがとうございます。ぬえ」
ふう危なかった。星じゃなかったらばれてたね。
「でもナズーリンはどうしたの?いつもはすぐにナズーリンに泣きついてるのに」
「うぅ…ナズーリンはさきほど買い物に行きまして…それにいつもすぐに頼ってるわけじゃ…」
「でも最後にはいつも私のところに来るよねご主人は」
「うぅそのとおりです…ってナズーリン!?」
「あれ?買い物に行ったんじゃなかったの?」
「行こうとしたんだけどその前に要る物の確認に倉に行ってね。で、そのときにこれを見つけたのさ」
「あっ私の宝塔!」
なんだ結局ナズーリンが見つけてんじゃん。探すハメにならなくてよかった~。
「すみません、いつもあなたに迷惑をかけてしまって…」
「べつに気にしてないよ、いつものことだから」
「うぅ、そう言われると…」
「それに私はあなたの部下なんだ、気にすることは無いと言っているのに」
「そんな冷たいことを言わないでください。あなたは私にとって大切な存在なんですから」
「っ…またご主人はそんなことを…」
なんかわたし忘れられてない?ていうか聞いてるこっちが恥ずかしくなるし。
「ナズーリンもこんなのが上司で呆れたりしないの?」
「うっ…」
よし割り込み成功。わたしをおいて二人の世界を作ろうとしたからだよ。星もいい具合にダメージ受けてるし。
「ご主人をこんなのとはひどいな、まぁ私も呆れたりはするが」
「なずーりん…」
あ、泣きそう。
「でもそれ以上に、私はご主人の良いところも知っているからね。それに私にとってご主人は、特別だからね」
「ナズーリン…」
「ふーん、特別、ねぇ」
「君にもそういう人はいるんじゃないのかな?」
「!」
「さて、私はそろそろ買い物に行かないと」
「あっそうでしたね。いってらっしゃい、ナズーリン」
「…いってらっしゃい」
「うん、行ってくるよ」
くそうナズーリンめ…。
「巻き込んでしまってすみませんでした、ぬえ」
「べつにいいよ、どうせ暇だったし」
あんたたちの惚気を聞く気は無かったけど。
「あっそうだ、あなたに話したいことがあったんです」
「話したいこと?」
「はい、聖のことなのですが」
「!…ふーん、何?」
わたしなんかしたっけ?最近は白蓮にはいたずらしてないけどなぁ。
「あなたに嫌われてしまったのではないかと、私に相談しにきたんです」
「えっ…そんなこと…」
「えぇ、私もそう言ったんですが…あなた、今日のお昼のときも少しおかしかったので」
「っ…あれは…」
「なにか考え事でもしていたんでしょう?でも聖は心配だったみたいで」
「そんなっ…嫌ってるなんて…」
「聖は拒絶されることを極端に怖れているんですよ…いろいろと、ありましたし…」
「っ…」
そうだ、白蓮は人間たちに封印されて…
「聖にはあなたには喋るなといっていましたが…あっ、ぬえっ」
「聖のとこに行ってくる!」
バカだよ白蓮、白蓮を嫌いだなんて、思ってるはずが無いのに…。
◆◇◆
「聖、入っていい?」
「ぬえ?どうぞ、入ってください」
許しをもらって部屋に入る。
どうやら白蓮は写経をしていたようだ。
「どうしたんですか、ぬえ?」
「…星から、話を聞いたんだ」
「えっ」
あ、動揺してる。何のことかはわかってるみたいだな。
「わたしは聖のこと、嫌いになんてなってないからね」
「…それじゃあ、どうして最近、私のことを避けていたの?」
「避けてなんかっ…ううん、確かに避けてたかもしれない」
「……」
「でもっ、聖が思っているようなことじゃ、絶対にないっ」
「ぬえ…」
「ただ、恥ずかしいというか、なんか抱きつかれたり、触ったりされると、もやもやというか、どきどきしちゃって、それがなんか…わっ」
ちょっ、白蓮、なにいきなり抱きついて…。
「ひじ…」
「ごめんなさい、ぬえ。私、不安で、また嫌われたではないかと…」
「…そんなことないよ。少なくとも今は、みんな聖のこと好きだもん。もちろんわたしも大好きだよ、白蓮」
「ぬえ…ありがとう。私も、あなたのことが好きです」
「う、うん」
ううぅ、こんな状況で恥ずかしいこと言っちゃたよう。と、とりあえず。
「えと、白蓮、あの、そろそろ離してくれない?」
さすがにもう限界だよ、悶死しちゃいそう。
「うふふ、ダーメ」
「えっ」
「最近避けられていたおかげで、まだまだ触り足りないもの」
「ちょっ、やめっ、びゃくれ、そんなとこっ」
「うふふ、かわいいわよ、ぬえ」
ああぁ、予想以上に白蓮のストレスは溜まっていたようだ。もうわたしはされるがままだ。
あぁでも、白蓮にならいいかと考えてしまっている自分もそうとう、まいっているんだろうな。
白蓮に謝りに来たときにここで一緒に暮らさないかと言われて、あれよあれよというまにここに暮らすことになってしまったのだ。
最初の頃はわたしが白蓮の封印を解く邪魔をしてしまっていたこともあって、ムラサとかに睨まれてたりとかもしたけど、今はもうそこまで怒ってはいない…と思う。
まあとにかくここでの暮らしにもだいぶ慣れてきたし白蓮の説法とかもちゃんと聞くようになった。
それにここにいれば白蓮がかまってくれるしね。
最近はお寺へ来る人も多くなって白蓮たちは忙しそうなんだけど…まあそんなにかまわれたりくっつかれてもこっちが困っちゃうんだけどね。
だいたい白蓮はスキンシップが激しすぎるんだよ、この前もいきなり後ろから抱き締めてきたりとか…ああもうまた思い出しちゃったよあの感触…
「ぬえ?どうかしたんですか?」
「え?ううん、なんでもないよ、聖。どうして?」
「えっと、箸が止まっていたから…ひょっとしておいしくなかった?」
「あっ、そんなことないよ、すごく美味しいよ!」
あわてて麺をすする。
うん、やっぱり美味しい、白蓮の作ったカレーうどん。
ムラサがカレーを、一輪がうどんをお互いにゆずらなかったから白蓮がこれを作ったんだ。
前に宴会で知り合った人から作り方を教えてもらったとか言ってたっけ。
「そう…それならいいのだけど。そんなに勢いよく食べると汚れるわよ、ほらはねてる」
「んっ、いいよそんな自分で吹くから」
「でも…」
「いいからいいから、白蓮も自分の食べなよ。この後説法があるんでしょ?早く食べないと」
「…そうね、準備も、しないといけないものね」
ふう、まったく。かまってくれるのは嬉しいんだけどあんまりそれも過ぎるとね。わたしもなんかどきどきしちゃうし…あーもうまったくもう!
「ごちそうさまっ」
さっさと残りのカレーうどんを食べて席を立った。
とりあえずこの場所から早く離れよう。なんか変なのが頭の中でもやもやしてるし。
勢いよく立ったからかみんながこっち見てるけど――ムラサはなんか言いたそうな顔してるし――まあいいや早く行こう。
「ぬえっ!食器ぐらいちゃんと台所にもってきなさい!」
そんなことかい。
「はいはい、わかってるよー」
ムラサったら口煩いなーもー。
さっさと片してさっさと部屋に行こう。
「……聖」
「大丈夫よ、星。あなたも言ってくれたでしょう?」
「…はい」
「わたしがあの子を疑うなんて、してはいけないものね」
「……」
◆◇◆
あーあ、結局もやもやしたままこんな時間になっちゃった。
外に遊びに行く気も起きなかったし、部屋でごろごろしてる間に少し寝ちゃったし。
…よし、気分転換しよう。こんなときはそれにかぎる。
そして気分転換といえばいたずらだ。少なくともわたしはそうだ。はた迷惑と言われようが好きなんだからしかたない。
そんでこんなときに手近で、一番いたずらのしがいがあるのは言わずと知れた命蓮寺が誇るドジっ子、星である。
星にはこれまでもいろいろいたずらをしてきた、おもに宝塔に。
今回はどうしてやろうと部屋を出て考える。
この前はほうとう鍋にしたし、その前はエッフェル塔っていうやつにしたし。
よし、ス○イツリーとかいうのにしよう。わたしの正体不明の情報源によると今人気らしいし。
にしてもあれって何なんだろう?たまに枕元に出るんだよね、なんかこうくぱぁってかんじで。
まあいいや、はやいとこ星の部屋に…ってあれ?あそこにいるの星だよね。なんか探してるみたい…まさか…。
「あっ、ぬえっ!私の宝塔を見ませんでしたか!?」
「やっぱりか」
まさかいたずらする前から無くしているとは、さすがドジっ子星ちゃんだ。
「やっぱり?まさかまたあなたのいたずらですか!?」
「ちょっと待ってよ、だいたい星の探し物といったら宝塔じゃない。わたしはまだ何にもしてないよ」
「そうですか、疑ってすみませ…まだ?」
「そうだっわたしも探してあげるよっ!」
「本当ですか!?ありがとうございます。ぬえ」
ふう危なかった。星じゃなかったらばれてたね。
「でもナズーリンはどうしたの?いつもはすぐにナズーリンに泣きついてるのに」
「うぅ…ナズーリンはさきほど買い物に行きまして…それにいつもすぐに頼ってるわけじゃ…」
「でも最後にはいつも私のところに来るよねご主人は」
「うぅそのとおりです…ってナズーリン!?」
「あれ?買い物に行ったんじゃなかったの?」
「行こうとしたんだけどその前に要る物の確認に倉に行ってね。で、そのときにこれを見つけたのさ」
「あっ私の宝塔!」
なんだ結局ナズーリンが見つけてんじゃん。探すハメにならなくてよかった~。
「すみません、いつもあなたに迷惑をかけてしまって…」
「べつに気にしてないよ、いつものことだから」
「うぅ、そう言われると…」
「それに私はあなたの部下なんだ、気にすることは無いと言っているのに」
「そんな冷たいことを言わないでください。あなたは私にとって大切な存在なんですから」
「っ…またご主人はそんなことを…」
なんかわたし忘れられてない?ていうか聞いてるこっちが恥ずかしくなるし。
「ナズーリンもこんなのが上司で呆れたりしないの?」
「うっ…」
よし割り込み成功。わたしをおいて二人の世界を作ろうとしたからだよ。星もいい具合にダメージ受けてるし。
「ご主人をこんなのとはひどいな、まぁ私も呆れたりはするが」
「なずーりん…」
あ、泣きそう。
「でもそれ以上に、私はご主人の良いところも知っているからね。それに私にとってご主人は、特別だからね」
「ナズーリン…」
「ふーん、特別、ねぇ」
「君にもそういう人はいるんじゃないのかな?」
「!」
「さて、私はそろそろ買い物に行かないと」
「あっそうでしたね。いってらっしゃい、ナズーリン」
「…いってらっしゃい」
「うん、行ってくるよ」
くそうナズーリンめ…。
「巻き込んでしまってすみませんでした、ぬえ」
「べつにいいよ、どうせ暇だったし」
あんたたちの惚気を聞く気は無かったけど。
「あっそうだ、あなたに話したいことがあったんです」
「話したいこと?」
「はい、聖のことなのですが」
「!…ふーん、何?」
わたしなんかしたっけ?最近は白蓮にはいたずらしてないけどなぁ。
「あなたに嫌われてしまったのではないかと、私に相談しにきたんです」
「えっ…そんなこと…」
「えぇ、私もそう言ったんですが…あなた、今日のお昼のときも少しおかしかったので」
「っ…あれは…」
「なにか考え事でもしていたんでしょう?でも聖は心配だったみたいで」
「そんなっ…嫌ってるなんて…」
「聖は拒絶されることを極端に怖れているんですよ…いろいろと、ありましたし…」
「っ…」
そうだ、白蓮は人間たちに封印されて…
「聖にはあなたには喋るなといっていましたが…あっ、ぬえっ」
「聖のとこに行ってくる!」
バカだよ白蓮、白蓮を嫌いだなんて、思ってるはずが無いのに…。
◆◇◆
「聖、入っていい?」
「ぬえ?どうぞ、入ってください」
許しをもらって部屋に入る。
どうやら白蓮は写経をしていたようだ。
「どうしたんですか、ぬえ?」
「…星から、話を聞いたんだ」
「えっ」
あ、動揺してる。何のことかはわかってるみたいだな。
「わたしは聖のこと、嫌いになんてなってないからね」
「…それじゃあ、どうして最近、私のことを避けていたの?」
「避けてなんかっ…ううん、確かに避けてたかもしれない」
「……」
「でもっ、聖が思っているようなことじゃ、絶対にないっ」
「ぬえ…」
「ただ、恥ずかしいというか、なんか抱きつかれたり、触ったりされると、もやもやというか、どきどきしちゃって、それがなんか…わっ」
ちょっ、白蓮、なにいきなり抱きついて…。
「ひじ…」
「ごめんなさい、ぬえ。私、不安で、また嫌われたではないかと…」
「…そんなことないよ。少なくとも今は、みんな聖のこと好きだもん。もちろんわたしも大好きだよ、白蓮」
「ぬえ…ありがとう。私も、あなたのことが好きです」
「う、うん」
ううぅ、こんな状況で恥ずかしいこと言っちゃたよう。と、とりあえず。
「えと、白蓮、あの、そろそろ離してくれない?」
さすがにもう限界だよ、悶死しちゃいそう。
「うふふ、ダーメ」
「えっ」
「最近避けられていたおかげで、まだまだ触り足りないもの」
「ちょっ、やめっ、びゃくれ、そんなとこっ」
「うふふ、かわいいわよ、ぬえ」
ああぁ、予想以上に白蓮のストレスは溜まっていたようだ。もうわたしはされるがままだ。
あぁでも、白蓮にならいいかと考えてしまっている自分もそうとう、まいっているんだろうな。
恥ずかしがるぬえが可愛くてしゃーないんですw