<注意>
この作品にはオリジナルな男性キャラクターが出てきます!
また、かなりの独自設定や独自解釈も含まれます!
更に、キャラクター崩壊も感じられるかもしれません!
上記の注意書きを読んでも問題ないというかたはどうぞ!
少しでも楽しんでいただければと思います!
それではどうぞ!!
初めに、これを読んでいる皆さんに、一つ知らせておかなくてはならないことがある。
私は確かに幻想郷の住人だが、元から幻想郷にいたわけではない。
私は幻想郷の外から来た人間、つまり外来人なのだ。
ふとしたことで、自分でも何が起こったのかわからないまま幻想入りし、幻想郷の住人の一人として今は人里で暮らしている。
そういう経緯を持つ人間なのだ。
それともう一つ、私が重んじていること、大切にしていることが「その存在がその存在らしくある」という願いにあることを。
それを知った上で以下の文章を読んでほしい。
そして私の感じたこと考えていたこと、幻想郷の未来と「妖怪とは何か」を考えてほしい。
そして私がイレギュラーな存在なのか、それとも正しいのかあなたの眼で見極めてほしい。
もし、これを読んでいるあなたにそんな気がないのなら、御足労だが、この手紙を博麗の巫女さんに渡してほしい。
私の数少ない知り合いなのだ。
私はこの手紙に自分の意見と身の上に起こった出来事を洗いざらい全て書き込むつもりだ。
これは、いわば、私の手記なのだから・・・・・・・。
私が初めて幻想入りした時からそうだった。
人間の住む人里では、闇を操り、本来人を喰らうはずの妖怪が楽しそうにお菓子を頬張りながら両の腕を広げ飛んでいたり、少し離れたところでは、同じく人を襲うはずの夜雀が屋台を広げ、襲う対象のはずの人間と楽しそうに談笑している。
人里の近くだけではない。
妖怪の山と名付けられた山の頂には普通に神社が建っており、人間は何食わぬ顔で神社へ参拝しに行き、領地を侵されているはずの天狗や河童は何一つ文句を言わない。
むしろこうなった原因の神社の神様と、初めはいざこざがあったものの、今は仲良くしており、一緒に宴会を開いて楽しんでいるときたのだ!
また地底に封印されていた、同じ妖怪からも忌み嫌われた妖怪が、間欠泉と一緒に出てきたことを知って、きっと大小様々な争いが起きたのだろうと思った。
しかし、それがほんの少し前の出来事にもかかわらず、地底の妖怪と地上の妖怪、そして人間は交流を深め、地底と地上の行き来も活発になっているという!
それも私のかつていた世界で起きているような衝突もなしに!
そして、これは、ついこの間解決した異変だが、同じく地底に封印されていた者達の中に、何と人妖の平等で対等な関係を築こうという考えをもつ者が現れたのだ!
そして更に驚いたことには、その者は人間によって封印されていたことと、その者に付き従う者が一部を除き大半が妖怪で、人間に復讐することなく、人妖の平等な関係を築こうと、何と寺を築き現在も布教活動と説法を行っているという!
そして一番の疑問は、本来妖怪を祓い、無力な人間を助けることが仕事なはずの博麗の巫女と呼ばれる存在が、その存在意義と全く反することを行ってきていることだ。
博麗の巫女のいる博麗神社は、もう人里では妖怪の棲む神社になっているとか、初めからそんなものがないとさえ云われているのだ!
巫女もそのことを気におり、賽銭がないと愚痴をこぼしているが、それでも今の状況を何とかしようと自ら行動するようなことはせず、訪れる紅魔の悪魔や妖怪の賢者や子鬼を祓おうとは決してしない!
幻想郷に元から住んでる人間や人外の存在はそれでいいのかもしれない。
しかし、私が外来人だからか、いや、きっと私が私だからなのだろう、この現状にとても違和感を感じている。
単刀直入に言って気持ち悪いのだ。
その理由はただ一つ、妖怪が少しも妖怪らしくないからだ!
妖怪とは、霊長類で生物の頂点にいる人間よりもさらに上をいく上級種族で、人を襲って人肉を喰らい、人から恐れられる存在なはずだ。
そして弱い立場にある人間は陰陽師のような妖怪を祓うものたちを作り、闇を祓い、時に襲われ命を落とし、闇を恐れるが、それでも知識を武器にして妖怪を退治する存在のはずだ。
だが今の幻想郷の現状はどうだろう。
幻想郷の妖怪は、ひどく人間くさくて、妖怪ということを忘れてしまう。
妖怪のアイデンティティーが失われてしまっている。
これを読んでいるあなたは違和感を感じないか!
気持ち悪いと感じないか!!
虚飾にまみれていると思わないか!!!
あるべき姿がむりやり捻じ曲げられているとは思わないか!!!!
不本意な立場に追いやられた魂の、文字通りの魂の叫び声が聞こえないか!!!!!
私は命蓮寺に説法を試しに聞きに行ってみたことがある。
何事も自分の目と耳を介して知ってからでないと判断するのはよくないと思ったからだ。
私は命蓮寺で、その中心人物が説法を聴いた。
そして私は・・・・・・
「妖怪が人を喰らうのを止め、人の持つ家庭のような暮らしを心がけ、人もまた妖怪を恐れることを止め、自分達の文化や考えを、共に分かち合う姿勢が大事で・・・・・・・・」
私は説法に耐えられなくなって、会場を飛び出してしまった。
説法を聞きに来た多くの妖怪と説法を説いていた者が私に注目するが、もうそれどころではなかった。
もう聞きたくなかった。
ただただつらかった。
体全体が重く、頭は割れるように痛く、喉と内臓が焼けるように爛れたみたいで、苦しかった。
私は震える足をむりやり動かし、鞭を打ち、博麗神社へ向かった。
何故博麗神社へ向かったのかは私にもわからない。
ただ、前に寺子屋の教師から博麗神社の存在を教えてもらった時に、博麗の巫女は人間と妖怪のあり方について考えていると聞いたことがあるからかもしれません。
とにかく私は博麗神社へ向かいました。
途中何度も転び、倒れ、胃が空になっても口から吐瀉物を吐き、体中傷だらけになっても私は博麗神社を目指しました。
途中神社へ続く長い階段を渡っていても、誰も私のことを襲いませんでした。
弱り切っている私なんて最高の獲物なのに、誰も私のことを襲いませんでした。
悲しい気持ちと悔しい気持ちで一杯でした。
私が階段をのぼり終えると、境内で掃き掃除をしていた霊夢さんが私の只ならぬ様子に驚いて大きく眼を見開き、箒を捨てて私に向かって駆け寄ってきました。
常時平和でのんびりした雰囲気の博麗神社に、今の私の出現は本当に異常事態か異変と捉えたのでしょう。
私は神社の居間に連れて行かれて介抱してもらい、お茶を飲ませてもらいました。
そして私がお茶を飲みほしたところで、霊夢さんが私に何があったのか訊ねてきました。
「只事じゃないみたいだけど、何があったの?」
「・・・・・・・・・」
「妖怪に襲われたの?それとも別の霊とか・・・・」
「聞いてください!」
「!?」
「霊夢さんは今の幻想郷をどう思っているんですか!?」
「え・・・・・、どうって・・・・?」
「妖怪が今のままでいいと思ってるんですか!?」
「えっ・・・、妖怪が・・・・どうしたの?」
「妖怪と人間の関係が今のままでいいと本当に思っているんですか!?
妖怪が人間を全く襲わない!人間は妖怪が妖怪であることを忘れてしまっている!過去にあったことを、なかったことにしようとしている!妖怪が自ら人間に歩み寄ろうとしている!本来のあるべき自然な形が歪められてしまっている!霊夢さんは何とも思わないんですか!?僕は悲しいんです!妖怪の妖怪らしさが失われてしまうのが、とてもとても悲しいんです!」
「なっ・・・・、何を言ってるの・・・・・あなたは・・・・?」
「私は私がここに来るより前の幻想郷に戻ってほしいと願っています!妖怪は人を襲い、人は妖怪を恐れ、祓う関係に!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は一つの存在がその存在らしさを失うことが悲しいんです!
「・・・・・・・・でも、もしそうなったら真っ先に妖怪に狙われて喰われるには貴方よ・・・?」
「・・・・・・・・分かっています」
「?」
「もし妖怪が人を喰らうことが許されたら、自分が真っ先に喰われることは分かっています。けれども、食べられるのは、死ぬのは嫌だけれども、それでも望んでしまうんです。自分が死ぬことは、食べられることは嫌なのに、それでも望んでしまっているんですっ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
霊夢さんはそのまま黙ってしまいました。
無理もないと思いました。
今自分が言ったことは今の幻想郷の流れに真っ向から反対するものだったからです。
然も自分自身が喰われることになってもいいとさえ言っているのだ。
自分はとんでもないイレギュラーな存在なのだろう。
「・・・・・言いたいことはわかったわ」
と、今まで口を閉ざした霊夢さんが切り出しました。
「あんたみたいなのは時々いるのよ。多くの人間は新しい人間と妖怪の関係に期待したり喜んだりしているけれども、そうは思わないやつがね」
霊夢さんは重い口調でそう言いました。
自分以外にもいる?同じ悩みを持つ者が??
「でもそういうことを言うやつは大抵妖怪なんだけれどもね。妖怪が人を襲うのは単純に人間を食べ物として捉え、人肉を喰らうことで飢えを満たす。つまり人間が植物や家畜相手にしていることと同じ、いわば魂に刻まれた宿命、業なのよ。妖怪と、人を襲って人肉を喰らうという行為は、切っても切り離せない、表裏一体な関係なのよ。また妖怪が人を襲って人肉を喰らうという行為は単に自身の空腹を満たすだけでなく、人間の心や精神に自分達妖怪への恐怖を刻むためでもあるの。これは妖怪が人間とは違って精神的な糧も必要としていることが理由ね。妖怪は、人肉は勿論、人間からの恐怖の念も糧にして生きているのよ。そして恐怖の念を得る一番の方法は人を襲って喰らうこと、だから妖怪は人を襲うのね」
霊夢さんが今語ったことは真理だ。
脚色も誇張もない、ありのままの妖怪の姿だ。
そして人間はそんな妖怪の本質を知って、はいそうですかと納得して喰われる選択を拒否して、納得してもなお妖怪を祓い、生き残る道を選んだ。
これが自然の流れ、妖怪と人間の間にできた、避けて通れない道だ。
霊夢さんは自分に、そして霊夢自身にも教え諭すように語りました。
まるで自分がこの話を何度かしたことがあるかのように。
そして、今の話を自分が何の疑問もなく理解できたことが不思議でした。
「今の幻想郷はそんな喰うだの喰われるだのといった殺伐とした関係から脱却するために、妖怪が人を襲うことを禁止したり、新しい関係としてスペルカードルールを設置したり、人肉や恐怖の念を得るのとは違う、新しい生存の方法を見つけることを妖怪に義務付けたり、人間には妖怪を恐れず隣人みたいな身近な存在として認識してもらうように働きかけているわ」
知っている。
自分が幻想郷に来て少し経った時、人里の有力者の家で、幻想郷の歴史とそこに住まう人物の詳細が書かれた書物を読んだことがあります。
そこには、これまでの幻想郷が歩んできた歴史が書かれていました。
「スペルカードルールを設置した時は、反対者も反対意見も一杯出たし、大小様々な諍いがあったわ。でも、それでも、これまで何とかやってこれたの。人里では寺子屋で新しい人間と妖怪の関係を半獣が説いているし、スペルカードルールを破る妖怪も殆どいなくなったわ。地底とのわがたまりも消えたし、人妖の平等な関係を築こうという寺もできたわ」
ここまで話した霊夢さんは嬉しそうでした。
霊夢さんがこれまで自分の願いを叶えようと努力して、そしてそれが叶った今の世界への愛情も見てとれる。
「でも、物事はそう単純ではないものなのね」
嬉しそうだった表情と、凛とした声に影が差す。
それは、明らかな落胆でした。
「人と妖怪の関係は変わってきたけれども、それは少し人里から出ると途端に崩れてしまうの。この広い幻想郷で人間が一人、人里から離れて夜道を歩けば忽ち妖怪の餌食になる。小さな村では妖怪の襲撃を受けることもある。妖怪が人肉を求めるのは生物で云う処の本能。ルールや規則では勿論、道徳や知識で簡単に抑えられるものではないわ」
霊夢さんは自分と向かい合って座っている位置から移動して、今は立ち上がって襖を開け放ち、遠くを見つめている。
その表情は悲しみとも憂いとも見てとれるものでした。
「きっと妖怪にも、あんたと同じように悩んで苦しんでいるやつがきっといるわ。本来そんなやつが一人もいてはいけなくて、もしいたら真っ先に助けてやらなくてはいけないのに、私はそいつが誰なのかわからない。そして、私はあんたやそいつが出した答えを、異変として解決するのではなく、できることなら尊重したいと思うわ」
そう言って霊夢さんは私を見据えたまま、また黙ってしまいました。
それでわかりました。
霊夢さんが、私に対して何もできないことを。
ただ見守ることしかでいないことを。
博麗の巫女としては当然のことなのだろう。
でも・・・・・・、その時の霊夢さんは・・・・・・・、普段のおとなしさも・・・・、異変解決の時に見せる強さも・・・・・ありませんでした。
ただ、あったのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「じゃあ、また何かあったら話に来なさい。話を聞くだけなら私にもできるから」
「はい、ありがとうございます。お邪魔しました」
その後、私は霊夢さんにお礼を言って博麗神社を後にしました。
最初に来たときは倒れる寸前だった私の心と体は落ち着きを取戻し、自分で歩けるようになっていました。
私は、行きはひどい有様で駆け上がった階段を静かに下りていました。
霊夢さんも、今の人間と妖怪の関係に疑問を感じている。
少なくとも今のままの状況が間違っていると考えている。
それなら、まだ、望みはあります。
この幻想郷において博麗の巫女の力は強い。
幻想郷の行く末を考える場において大きな発言力と影響力を持っているからだ。
きっと良い方向へ行く。
そう思いながら、私は階段を下りきり、人里の自分の家へ向かい、歩いていた。
刻は逢魔ヶ刻。
魔に逢うとされる時間。
「ん?」
私は道の端に人影を見た。
斜陽を浴びて伸びる人影は、道の左側に外れた小屋の、丁度私のいる場所から見えない位置にいる存在を教えてくれていました。
丸っこい影からして、どうやら蹲っているようだ。
体調が悪いのかと心配になり、僕は小屋の裏側へまわってそこにいた者に駆け寄りました。
「あのっ、大丈夫ですか?」
そう声をかけましたが反応はありません。
彼女は蹲ったままです。
そんなに具合が悪いのかと心配になり駆け寄ろうとしたとき、私はふと違和感を覚えました。
今、自分がいるこの場所は、人里から結構離れた場所で子供が一人で来れる場所じゃないこと。また、それなら探検気分で好奇心旺盛な子供が遊びに来たのだとも思えたが、近くにはこの娘と自分を除いて誰もいないこと、また時間が逢魔ヶ刻で子供はもう家にいなくてはいけない時間であることがより一層、この状況を不自然なものにしていました。
もし、自分の感じるこの違和感が本物で、彼女がただの人間の娘じゃないとしたら、導き出せる結論はただ一つ。
彼女は妖怪だ。
もし、この娘が妖怪で人を襲う目的でここに隠れていて、自分がかかったとなると、この妖怪は間違いなく自分を喰らおうと襲うだろう。
そして自分は喰らわれまいと死ぬ気で抵抗するだろう。
それは、つまり。
自分が望んだ人間と妖怪の関係を、身を以て体現することになるのだ。
私は震えていました。
武者震いというやつです。
妖怪は蹲ったまま動こうとしません。
こっちが油断してもっと近づいてくるのを待っているのか。
私は、いつ襲いかかってくるのか緊張しながら近づきます。
手にはいつも護身用で持っている小刀を、見えないように逆手に持って長袖の下に隠し近づきます。
いつ襲われてもいいようにそっと、妖怪のつま先と自分のつま先が触れる位まで近づいたとき、私は改めて問いかけました。
「大丈夫ですか?具合が悪いのですか?」
すると妖怪がピクリと反応し、顔を上げ始めました。
私はそっと身構え、妖怪の攻撃を躱す体制にはいりました。
まともに正面から妖怪とぶつかっても勝ち目はありません。
妖怪の攻撃を躱して背後から首を刺す。
これが私の作戦です。
さぁ、掛かってこい!
そして私が見たのは、泣き腫らした少女の顔でした。
私は驚愕に思わず目を見開き、構えを解いてしまいました。
するとその少女は眼に涙を浮かばせ私の胸に飛び込んできました。
しまったと私は飛び退こうとしますが時既に遅し。
彼女と私は密着状態なってしまいました。
恐怖が私の体を駆け巡ります。
体を引き裂かれるのか、潰されるのか、一瞬で終わるのか、それとも嬲られ長く苦しんでから死ぬのか。
死んでたまるか!
私は強く強くそう思いました。
そしてどうせ死ぬなら、せめて一矢報いてやる!
私は握っていた小刀を彼女の首めがけて振り下ろそうと構えました。
でも、振り下ろそうとしたその直前に彼女はこう言ったのだ。
「私を・・・・・、妖怪として・・・・・・・・・・・殺して下さい・・・・・・・・・」
その言葉に私の全てが停止しました。
今この妖怪は何と言った?
ワタシヲヨウカイトシテコロシテクダサイ、そう言ったのか????????
いた。
ついさっき霊夢さんが言っていた、僕と同じように悩んで苦しんでいる、本来一人もいてはいけなくて、もしいたら真っ先に助けてやらなくてはいけないやつが。
こんなところにいたのだ。
「誰も妖怪の私を恐れない・・・・・。誰も私を妖怪として見てくれない・・・・・。私の中の妖怪らしさがなくなっちゃったの・・・・・壊されちゃったの。妖怪という立場は私の誇りであり、大切なものだった・・・・。それが蔑ろにされて、いらないものって言われて、私・・・・・・・・・・」
彼女は嗚咽を漏らしながら自分のもつ悲しみを私に語りました。
彼女と私は似ている、いや、全く同じだと思いました。
もし、自分が妖怪なら今、彼女が言ったことと全く同じことを言ったと思うから。
でも、そんな自分と同じ存在を前に、私の心境は複雑でした。
はっきり言って、彼女は僕がこれまで見てきた妖怪と同じ、妖怪らしさを全く感じない妖怪だったのです。
妖気はおろか、妖怪の纏う一種の恐れ、人外の存在であるという感じすら感じさせない彼女は、妖怪ではない、人間でもない、私が一番見たくない存在でした。
そんな彼女にできること、私が自分自身のためにできること。
それはさっきまで自分がしようとしていたこと、彼女を妖怪として殺すことなのに・・・・・・・・・・・・・、
私はついにそれができなかった・・・・・・・・。
「ごめんなさい・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「僕はあなたを妖怪として退治したいし、あなたには自分を人間として襲ってほしいと思っている・・・・・。でも・・・・、僕にはできない。僕はあなたを妖怪と思えない故、人間としてとるべき行動をとることができない・・・・・・・・・。また、あなたも自身を妖怪として見てもらえないあまり、私という人間を襲うどころか、殺してくれと頼む始末。妖怪らしさが少しも見受けられなくなってしまった・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも・・・・・・・、あなたのような、妖怪らしさをなくしてしまって、それが大切なもので、なくしてしまったことを悲しんでいる妖怪を見るのは初めてです・・・・。もし、あなたが妖怪らしさを取り戻して、私があなたを退治できるだけの力を付けることができれば、お互いの願いは叶います」
「・・・・・・・・どうすればいいの?」
妖怪少女が私に問いかけてきた。
彼女が私の眼を覗き込む。
涙に濡れた赤い眼が私を見据える。
「まず、君の妖怪としての姿を見せてほしい。今のその恰好は擬態なのでしょう?君の本当の姿を、僕に見せてほしい」
「・・・・・・・わかった」
そう言うと彼女は私から離れました。
彼女が眼を閉じると、彼女の体が変化し始め、彼女の本当の姿が現れました。
私は彼女の姿を見て驚愕しました。
彼女の容姿は短い黒髪・胸元に赤いリボンのついた黒のワンピース状の服・黒のニーソックス・赤い靴と、黒で殆ど統一されており、手には先端がフォークのような、柄に蛇が巻かれた身長よりも長い槍のようなものを持っていました。
更には右の背中からは赤い、鎌のような形の翼が、左の背中からは青い、先が矢尻のような形をした翼が3対ずつ生えていたのです。
間違いない。
彼女は妖怪だ。
服装から性別が女性なのはわかりましたが、それでも妖怪です。
逢魔ヶ刻に、然もついさっき博麗の巫女に妖怪のことについて相談しに行った帰りに妖怪に会うなんて。
これも運命なのだろうか。
「君の名前は?」
僕の問いに、彼女はこう答えた。
「封獣 鵺」
この作品にはオリジナルな男性キャラクターが出てきます!
また、かなりの独自設定や独自解釈も含まれます!
更に、キャラクター崩壊も感じられるかもしれません!
上記の注意書きを読んでも問題ないというかたはどうぞ!
少しでも楽しんでいただければと思います!
それではどうぞ!!
初めに、これを読んでいる皆さんに、一つ知らせておかなくてはならないことがある。
私は確かに幻想郷の住人だが、元から幻想郷にいたわけではない。
私は幻想郷の外から来た人間、つまり外来人なのだ。
ふとしたことで、自分でも何が起こったのかわからないまま幻想入りし、幻想郷の住人の一人として今は人里で暮らしている。
そういう経緯を持つ人間なのだ。
それともう一つ、私が重んじていること、大切にしていることが「その存在がその存在らしくある」という願いにあることを。
それを知った上で以下の文章を読んでほしい。
そして私の感じたこと考えていたこと、幻想郷の未来と「妖怪とは何か」を考えてほしい。
そして私がイレギュラーな存在なのか、それとも正しいのかあなたの眼で見極めてほしい。
もし、これを読んでいるあなたにそんな気がないのなら、御足労だが、この手紙を博麗の巫女さんに渡してほしい。
私の数少ない知り合いなのだ。
私はこの手紙に自分の意見と身の上に起こった出来事を洗いざらい全て書き込むつもりだ。
これは、いわば、私の手記なのだから・・・・・・・。
私が初めて幻想入りした時からそうだった。
人間の住む人里では、闇を操り、本来人を喰らうはずの妖怪が楽しそうにお菓子を頬張りながら両の腕を広げ飛んでいたり、少し離れたところでは、同じく人を襲うはずの夜雀が屋台を広げ、襲う対象のはずの人間と楽しそうに談笑している。
人里の近くだけではない。
妖怪の山と名付けられた山の頂には普通に神社が建っており、人間は何食わぬ顔で神社へ参拝しに行き、領地を侵されているはずの天狗や河童は何一つ文句を言わない。
むしろこうなった原因の神社の神様と、初めはいざこざがあったものの、今は仲良くしており、一緒に宴会を開いて楽しんでいるときたのだ!
また地底に封印されていた、同じ妖怪からも忌み嫌われた妖怪が、間欠泉と一緒に出てきたことを知って、きっと大小様々な争いが起きたのだろうと思った。
しかし、それがほんの少し前の出来事にもかかわらず、地底の妖怪と地上の妖怪、そして人間は交流を深め、地底と地上の行き来も活発になっているという!
それも私のかつていた世界で起きているような衝突もなしに!
そして、これは、ついこの間解決した異変だが、同じく地底に封印されていた者達の中に、何と人妖の平等で対等な関係を築こうという考えをもつ者が現れたのだ!
そして更に驚いたことには、その者は人間によって封印されていたことと、その者に付き従う者が一部を除き大半が妖怪で、人間に復讐することなく、人妖の平等な関係を築こうと、何と寺を築き現在も布教活動と説法を行っているという!
そして一番の疑問は、本来妖怪を祓い、無力な人間を助けることが仕事なはずの博麗の巫女と呼ばれる存在が、その存在意義と全く反することを行ってきていることだ。
博麗の巫女のいる博麗神社は、もう人里では妖怪の棲む神社になっているとか、初めからそんなものがないとさえ云われているのだ!
巫女もそのことを気におり、賽銭がないと愚痴をこぼしているが、それでも今の状況を何とかしようと自ら行動するようなことはせず、訪れる紅魔の悪魔や妖怪の賢者や子鬼を祓おうとは決してしない!
幻想郷に元から住んでる人間や人外の存在はそれでいいのかもしれない。
しかし、私が外来人だからか、いや、きっと私が私だからなのだろう、この現状にとても違和感を感じている。
単刀直入に言って気持ち悪いのだ。
その理由はただ一つ、妖怪が少しも妖怪らしくないからだ!
妖怪とは、霊長類で生物の頂点にいる人間よりもさらに上をいく上級種族で、人を襲って人肉を喰らい、人から恐れられる存在なはずだ。
そして弱い立場にある人間は陰陽師のような妖怪を祓うものたちを作り、闇を祓い、時に襲われ命を落とし、闇を恐れるが、それでも知識を武器にして妖怪を退治する存在のはずだ。
だが今の幻想郷の現状はどうだろう。
幻想郷の妖怪は、ひどく人間くさくて、妖怪ということを忘れてしまう。
妖怪のアイデンティティーが失われてしまっている。
これを読んでいるあなたは違和感を感じないか!
気持ち悪いと感じないか!!
虚飾にまみれていると思わないか!!!
あるべき姿がむりやり捻じ曲げられているとは思わないか!!!!
不本意な立場に追いやられた魂の、文字通りの魂の叫び声が聞こえないか!!!!!
私は命蓮寺に説法を試しに聞きに行ってみたことがある。
何事も自分の目と耳を介して知ってからでないと判断するのはよくないと思ったからだ。
私は命蓮寺で、その中心人物が説法を聴いた。
そして私は・・・・・・
「妖怪が人を喰らうのを止め、人の持つ家庭のような暮らしを心がけ、人もまた妖怪を恐れることを止め、自分達の文化や考えを、共に分かち合う姿勢が大事で・・・・・・・・」
私は説法に耐えられなくなって、会場を飛び出してしまった。
説法を聞きに来た多くの妖怪と説法を説いていた者が私に注目するが、もうそれどころではなかった。
もう聞きたくなかった。
ただただつらかった。
体全体が重く、頭は割れるように痛く、喉と内臓が焼けるように爛れたみたいで、苦しかった。
私は震える足をむりやり動かし、鞭を打ち、博麗神社へ向かった。
何故博麗神社へ向かったのかは私にもわからない。
ただ、前に寺子屋の教師から博麗神社の存在を教えてもらった時に、博麗の巫女は人間と妖怪のあり方について考えていると聞いたことがあるからかもしれません。
とにかく私は博麗神社へ向かいました。
途中何度も転び、倒れ、胃が空になっても口から吐瀉物を吐き、体中傷だらけになっても私は博麗神社を目指しました。
途中神社へ続く長い階段を渡っていても、誰も私のことを襲いませんでした。
弱り切っている私なんて最高の獲物なのに、誰も私のことを襲いませんでした。
悲しい気持ちと悔しい気持ちで一杯でした。
私が階段をのぼり終えると、境内で掃き掃除をしていた霊夢さんが私の只ならぬ様子に驚いて大きく眼を見開き、箒を捨てて私に向かって駆け寄ってきました。
常時平和でのんびりした雰囲気の博麗神社に、今の私の出現は本当に異常事態か異変と捉えたのでしょう。
私は神社の居間に連れて行かれて介抱してもらい、お茶を飲ませてもらいました。
そして私がお茶を飲みほしたところで、霊夢さんが私に何があったのか訊ねてきました。
「只事じゃないみたいだけど、何があったの?」
「・・・・・・・・・」
「妖怪に襲われたの?それとも別の霊とか・・・・」
「聞いてください!」
「!?」
「霊夢さんは今の幻想郷をどう思っているんですか!?」
「え・・・・・、どうって・・・・?」
「妖怪が今のままでいいと思ってるんですか!?」
「えっ・・・、妖怪が・・・・どうしたの?」
「妖怪と人間の関係が今のままでいいと本当に思っているんですか!?
妖怪が人間を全く襲わない!人間は妖怪が妖怪であることを忘れてしまっている!過去にあったことを、なかったことにしようとしている!妖怪が自ら人間に歩み寄ろうとしている!本来のあるべき自然な形が歪められてしまっている!霊夢さんは何とも思わないんですか!?僕は悲しいんです!妖怪の妖怪らしさが失われてしまうのが、とてもとても悲しいんです!」
「なっ・・・・、何を言ってるの・・・・・あなたは・・・・?」
「私は私がここに来るより前の幻想郷に戻ってほしいと願っています!妖怪は人を襲い、人は妖怪を恐れ、祓う関係に!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は一つの存在がその存在らしさを失うことが悲しいんです!
「・・・・・・・・でも、もしそうなったら真っ先に妖怪に狙われて喰われるには貴方よ・・・?」
「・・・・・・・・分かっています」
「?」
「もし妖怪が人を喰らうことが許されたら、自分が真っ先に喰われることは分かっています。けれども、食べられるのは、死ぬのは嫌だけれども、それでも望んでしまうんです。自分が死ぬことは、食べられることは嫌なのに、それでも望んでしまっているんですっ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
霊夢さんはそのまま黙ってしまいました。
無理もないと思いました。
今自分が言ったことは今の幻想郷の流れに真っ向から反対するものだったからです。
然も自分自身が喰われることになってもいいとさえ言っているのだ。
自分はとんでもないイレギュラーな存在なのだろう。
「・・・・・言いたいことはわかったわ」
と、今まで口を閉ざした霊夢さんが切り出しました。
「あんたみたいなのは時々いるのよ。多くの人間は新しい人間と妖怪の関係に期待したり喜んだりしているけれども、そうは思わないやつがね」
霊夢さんは重い口調でそう言いました。
自分以外にもいる?同じ悩みを持つ者が??
「でもそういうことを言うやつは大抵妖怪なんだけれどもね。妖怪が人を襲うのは単純に人間を食べ物として捉え、人肉を喰らうことで飢えを満たす。つまり人間が植物や家畜相手にしていることと同じ、いわば魂に刻まれた宿命、業なのよ。妖怪と、人を襲って人肉を喰らうという行為は、切っても切り離せない、表裏一体な関係なのよ。また妖怪が人を襲って人肉を喰らうという行為は単に自身の空腹を満たすだけでなく、人間の心や精神に自分達妖怪への恐怖を刻むためでもあるの。これは妖怪が人間とは違って精神的な糧も必要としていることが理由ね。妖怪は、人肉は勿論、人間からの恐怖の念も糧にして生きているのよ。そして恐怖の念を得る一番の方法は人を襲って喰らうこと、だから妖怪は人を襲うのね」
霊夢さんが今語ったことは真理だ。
脚色も誇張もない、ありのままの妖怪の姿だ。
そして人間はそんな妖怪の本質を知って、はいそうですかと納得して喰われる選択を拒否して、納得してもなお妖怪を祓い、生き残る道を選んだ。
これが自然の流れ、妖怪と人間の間にできた、避けて通れない道だ。
霊夢さんは自分に、そして霊夢自身にも教え諭すように語りました。
まるで自分がこの話を何度かしたことがあるかのように。
そして、今の話を自分が何の疑問もなく理解できたことが不思議でした。
「今の幻想郷はそんな喰うだの喰われるだのといった殺伐とした関係から脱却するために、妖怪が人を襲うことを禁止したり、新しい関係としてスペルカードルールを設置したり、人肉や恐怖の念を得るのとは違う、新しい生存の方法を見つけることを妖怪に義務付けたり、人間には妖怪を恐れず隣人みたいな身近な存在として認識してもらうように働きかけているわ」
知っている。
自分が幻想郷に来て少し経った時、人里の有力者の家で、幻想郷の歴史とそこに住まう人物の詳細が書かれた書物を読んだことがあります。
そこには、これまでの幻想郷が歩んできた歴史が書かれていました。
「スペルカードルールを設置した時は、反対者も反対意見も一杯出たし、大小様々な諍いがあったわ。でも、それでも、これまで何とかやってこれたの。人里では寺子屋で新しい人間と妖怪の関係を半獣が説いているし、スペルカードルールを破る妖怪も殆どいなくなったわ。地底とのわがたまりも消えたし、人妖の平等な関係を築こうという寺もできたわ」
ここまで話した霊夢さんは嬉しそうでした。
霊夢さんがこれまで自分の願いを叶えようと努力して、そしてそれが叶った今の世界への愛情も見てとれる。
「でも、物事はそう単純ではないものなのね」
嬉しそうだった表情と、凛とした声に影が差す。
それは、明らかな落胆でした。
「人と妖怪の関係は変わってきたけれども、それは少し人里から出ると途端に崩れてしまうの。この広い幻想郷で人間が一人、人里から離れて夜道を歩けば忽ち妖怪の餌食になる。小さな村では妖怪の襲撃を受けることもある。妖怪が人肉を求めるのは生物で云う処の本能。ルールや規則では勿論、道徳や知識で簡単に抑えられるものではないわ」
霊夢さんは自分と向かい合って座っている位置から移動して、今は立ち上がって襖を開け放ち、遠くを見つめている。
その表情は悲しみとも憂いとも見てとれるものでした。
「きっと妖怪にも、あんたと同じように悩んで苦しんでいるやつがきっといるわ。本来そんなやつが一人もいてはいけなくて、もしいたら真っ先に助けてやらなくてはいけないのに、私はそいつが誰なのかわからない。そして、私はあんたやそいつが出した答えを、異変として解決するのではなく、できることなら尊重したいと思うわ」
そう言って霊夢さんは私を見据えたまま、また黙ってしまいました。
それでわかりました。
霊夢さんが、私に対して何もできないことを。
ただ見守ることしかでいないことを。
博麗の巫女としては当然のことなのだろう。
でも・・・・・・、その時の霊夢さんは・・・・・・・、普段のおとなしさも・・・・、異変解決の時に見せる強さも・・・・・ありませんでした。
ただ、あったのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「じゃあ、また何かあったら話に来なさい。話を聞くだけなら私にもできるから」
「はい、ありがとうございます。お邪魔しました」
その後、私は霊夢さんにお礼を言って博麗神社を後にしました。
最初に来たときは倒れる寸前だった私の心と体は落ち着きを取戻し、自分で歩けるようになっていました。
私は、行きはひどい有様で駆け上がった階段を静かに下りていました。
霊夢さんも、今の人間と妖怪の関係に疑問を感じている。
少なくとも今のままの状況が間違っていると考えている。
それなら、まだ、望みはあります。
この幻想郷において博麗の巫女の力は強い。
幻想郷の行く末を考える場において大きな発言力と影響力を持っているからだ。
きっと良い方向へ行く。
そう思いながら、私は階段を下りきり、人里の自分の家へ向かい、歩いていた。
刻は逢魔ヶ刻。
魔に逢うとされる時間。
「ん?」
私は道の端に人影を見た。
斜陽を浴びて伸びる人影は、道の左側に外れた小屋の、丁度私のいる場所から見えない位置にいる存在を教えてくれていました。
丸っこい影からして、どうやら蹲っているようだ。
体調が悪いのかと心配になり、僕は小屋の裏側へまわってそこにいた者に駆け寄りました。
「あのっ、大丈夫ですか?」
そう声をかけましたが反応はありません。
彼女は蹲ったままです。
そんなに具合が悪いのかと心配になり駆け寄ろうとしたとき、私はふと違和感を覚えました。
今、自分がいるこの場所は、人里から結構離れた場所で子供が一人で来れる場所じゃないこと。また、それなら探検気分で好奇心旺盛な子供が遊びに来たのだとも思えたが、近くにはこの娘と自分を除いて誰もいないこと、また時間が逢魔ヶ刻で子供はもう家にいなくてはいけない時間であることがより一層、この状況を不自然なものにしていました。
もし、自分の感じるこの違和感が本物で、彼女がただの人間の娘じゃないとしたら、導き出せる結論はただ一つ。
彼女は妖怪だ。
もし、この娘が妖怪で人を襲う目的でここに隠れていて、自分がかかったとなると、この妖怪は間違いなく自分を喰らおうと襲うだろう。
そして自分は喰らわれまいと死ぬ気で抵抗するだろう。
それは、つまり。
自分が望んだ人間と妖怪の関係を、身を以て体現することになるのだ。
私は震えていました。
武者震いというやつです。
妖怪は蹲ったまま動こうとしません。
こっちが油断してもっと近づいてくるのを待っているのか。
私は、いつ襲いかかってくるのか緊張しながら近づきます。
手にはいつも護身用で持っている小刀を、見えないように逆手に持って長袖の下に隠し近づきます。
いつ襲われてもいいようにそっと、妖怪のつま先と自分のつま先が触れる位まで近づいたとき、私は改めて問いかけました。
「大丈夫ですか?具合が悪いのですか?」
すると妖怪がピクリと反応し、顔を上げ始めました。
私はそっと身構え、妖怪の攻撃を躱す体制にはいりました。
まともに正面から妖怪とぶつかっても勝ち目はありません。
妖怪の攻撃を躱して背後から首を刺す。
これが私の作戦です。
さぁ、掛かってこい!
そして私が見たのは、泣き腫らした少女の顔でした。
私は驚愕に思わず目を見開き、構えを解いてしまいました。
するとその少女は眼に涙を浮かばせ私の胸に飛び込んできました。
しまったと私は飛び退こうとしますが時既に遅し。
彼女と私は密着状態なってしまいました。
恐怖が私の体を駆け巡ります。
体を引き裂かれるのか、潰されるのか、一瞬で終わるのか、それとも嬲られ長く苦しんでから死ぬのか。
死んでたまるか!
私は強く強くそう思いました。
そしてどうせ死ぬなら、せめて一矢報いてやる!
私は握っていた小刀を彼女の首めがけて振り下ろそうと構えました。
でも、振り下ろそうとしたその直前に彼女はこう言ったのだ。
「私を・・・・・、妖怪として・・・・・・・・・・・殺して下さい・・・・・・・・・」
その言葉に私の全てが停止しました。
今この妖怪は何と言った?
ワタシヲヨウカイトシテコロシテクダサイ、そう言ったのか????????
いた。
ついさっき霊夢さんが言っていた、僕と同じように悩んで苦しんでいる、本来一人もいてはいけなくて、もしいたら真っ先に助けてやらなくてはいけないやつが。
こんなところにいたのだ。
「誰も妖怪の私を恐れない・・・・・。誰も私を妖怪として見てくれない・・・・・。私の中の妖怪らしさがなくなっちゃったの・・・・・壊されちゃったの。妖怪という立場は私の誇りであり、大切なものだった・・・・。それが蔑ろにされて、いらないものって言われて、私・・・・・・・・・・」
彼女は嗚咽を漏らしながら自分のもつ悲しみを私に語りました。
彼女と私は似ている、いや、全く同じだと思いました。
もし、自分が妖怪なら今、彼女が言ったことと全く同じことを言ったと思うから。
でも、そんな自分と同じ存在を前に、私の心境は複雑でした。
はっきり言って、彼女は僕がこれまで見てきた妖怪と同じ、妖怪らしさを全く感じない妖怪だったのです。
妖気はおろか、妖怪の纏う一種の恐れ、人外の存在であるという感じすら感じさせない彼女は、妖怪ではない、人間でもない、私が一番見たくない存在でした。
そんな彼女にできること、私が自分自身のためにできること。
それはさっきまで自分がしようとしていたこと、彼女を妖怪として殺すことなのに・・・・・・・・・・・・・、
私はついにそれができなかった・・・・・・・・。
「ごめんなさい・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「僕はあなたを妖怪として退治したいし、あなたには自分を人間として襲ってほしいと思っている・・・・・。でも・・・・、僕にはできない。僕はあなたを妖怪と思えない故、人間としてとるべき行動をとることができない・・・・・・・・・。また、あなたも自身を妖怪として見てもらえないあまり、私という人間を襲うどころか、殺してくれと頼む始末。妖怪らしさが少しも見受けられなくなってしまった・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも・・・・・・・、あなたのような、妖怪らしさをなくしてしまって、それが大切なもので、なくしてしまったことを悲しんでいる妖怪を見るのは初めてです・・・・。もし、あなたが妖怪らしさを取り戻して、私があなたを退治できるだけの力を付けることができれば、お互いの願いは叶います」
「・・・・・・・・どうすればいいの?」
妖怪少女が私に問いかけてきた。
彼女が私の眼を覗き込む。
涙に濡れた赤い眼が私を見据える。
「まず、君の妖怪としての姿を見せてほしい。今のその恰好は擬態なのでしょう?君の本当の姿を、僕に見せてほしい」
「・・・・・・・わかった」
そう言うと彼女は私から離れました。
彼女が眼を閉じると、彼女の体が変化し始め、彼女の本当の姿が現れました。
私は彼女の姿を見て驚愕しました。
彼女の容姿は短い黒髪・胸元に赤いリボンのついた黒のワンピース状の服・黒のニーソックス・赤い靴と、黒で殆ど統一されており、手には先端がフォークのような、柄に蛇が巻かれた身長よりも長い槍のようなものを持っていました。
更には右の背中からは赤い、鎌のような形の翼が、左の背中からは青い、先が矢尻のような形をした翼が3対ずつ生えていたのです。
間違いない。
彼女は妖怪だ。
服装から性別が女性なのはわかりましたが、それでも妖怪です。
逢魔ヶ刻に、然もついさっき博麗の巫女に妖怪のことについて相談しに行った帰りに妖怪に会うなんて。
これも運命なのだろうか。
「君の名前は?」
僕の問いに、彼女はこう答えた。
「封獣 鵺」
彼はただ「妖怪は人を襲うべきなんだよ!」と喚いているだけで、読者に「そうかも知れないなぁ」と思わせる材料が感じられませんでした。キツい言い方ですが、これだけでは自分の主張に酔っ払った男の勘違い暴走劇に見えてしまいます。
シリーズ物ということなので、今後その辺りに納得できる展開を期待しております。
ただいくつか。
この後この男が鵺との交流を通してどう変わっていくのかは何通りか思い浮かびます。
それが今後の展開を掠めてすらいないかもしれないのですが。
ただ、この後素晴らしいハッピーエンドや戦慄するバッドエンドが待っていようとも、受け入れにくいと思うのです。
大抵このような始めねじ曲がった考えを持っていた男がある妖怪(この場合鵺)や周りの人妖たちとの触れ合いを通して物語を築き上げていくパターンなら、彼がこの考えに陥った何かしら深い理由がなければなりませんし、それは読者が納得するものでないといけません。
確かに、一般倫理観から外れた思考の持ち主のそういう物語はまた別で面白いのですが、この物語の男は色々と中途半端で、葛藤も感じず「何も知らないのに騒いでるやつ」という感が否めないのです。恐らくそういう空気が一部読者に不快感を与えてしまうのだと思います。
もちろん、それが伏線なら私の主張はてんで的外れなものになってしまうのですが…。
あとがきを読んで、後これは私個人の勝手な見聞なのですが
「妖怪」と「人間」
この二つは確かに本来、交わるものではないですし、交わるべきものでもないのかもしれません。
ただなんとかしてこの違いすぎる二つの種族を調和、そこに生じるひずみから物語を紡ぎだしていく、それが東方であり、その二次創作ではないかと思います。(まぁ凄まじいのもありますが(笑)
そしてその方法の一つの可能性がスペルカードであり、その舞台を用意してくれたのが神主様で、霊夢や紫、その他多くの個性豊かな人妖がそれを支えてるのだと思います。そして二次創作者達は皆、自分の幻想郷を作り上げるのです。
だから決して、あとがき文中の「都合のいいように造りかえる」という表現はやめておいたほうがいいかもしれません。
さて、ここで重要なのがその作品のあるべき場所なのですが、たとえば東方ssサイトに関して言えば私が知っているだけで、三つが主にあります。
その中で最も一般的で多くを許容してくれるのがこの創作話です。
ある程度のグロから多少の大人要素、シリアス、コメディと幅広いラインナップが魅力です。作品数も多く、主な東方SSサイトといって過言ではないでしょう。文章レベルも高い作者様が多いです。
ただ若干オリキャラを嫌う傾向もあります。
しかしオリキャラに関して言えば、うまく使うことができればこれ以上ない武器になるのも確かです。実際私が好きな物語にはオリキャラが登場するものがそれなりにあります。評価もされます。ただそのキャラがひたすら自分語りをしていたり、特に(おぉと思わせるような)理由なく東方キャラと恋仲になっているのはいただけない感じです。あと、やはり大なり小なり原作に敬意をはらっている方々が多いのも特徴です。
「幻想人類覚悟のススメ」というオリキャラ満載・恋愛要素ありの作品があるのですが、私にとってそれはもう何の違和感もないほど幻想郷そのものでした。今でも大好きです。有名ですが。
二つ目は名前の通りまさにそのままで、大人要素満載の作品が多いです。オリキャラも多いですし(東方キャラは女性が多いですしね)、恋愛要素も推奨されるほどです。
三つ目も名前が凄まじいのですが、ある意味この東方創作話よりも許容範囲は広いです。もう、逆に禁止要素を探すのが難しいレベルでフリーダムです。ただ、なかなかショッキングな内容のものも多く、創作話でも大丈夫というものからこれはやばいぞというものまで。
ただハッピーエンド好きは発狂する可能性があります(笑)あるにはあるんですけど…
今回の作者様の作品は、今後もこの路線で行くなら創作話向きでは無いと思います。
万が一破滅方面に行くならなおさらです。
これからの展開に期待する一方、心配でもあります。
そんな私は無名新米作者のはしくれで、とてもこんなことを言える立場ではないのですが、ご参考にしていただけたらと思います。
長々とすいません。これからの展開に期待でこの点数を。
個人的には登場人物が視野狭窄気味でもあまり気になりません。お話を転がす為に必要な場合もあると思いますし。
ただ、物語自体がそうなっちゃうのはちょっと厳しいかも。続きものである貴方の作品がそうだとは断定しませんが。
幻想郷という括りからは外れますが『日本の妖怪一覧』でウィキって20体程度ランダムで調べてみるとする。
人を喰らったり殺したりするのって案外多くないんですよね。単に傍迷惑な奴、お近づきになりたい奴、
可愛いのや可哀想なのも居れば、何がしたいのかさっぱり分からんのも居るという具合に千差万別なんですよね。
一個人の見渡せる世界なんてたかが知れているとは思うのですが、それでも出来る限りは広く見回したい。
面白いと感じたり共感出来るか否かは脇に置いて、様々な解釈や語り口を持った作品が投稿されている限り
創想話は健全で素晴らしいサイトだと思うのです。勿論貴方と貴方の作品もそこに含まれていますよ。
今後の健闘を祈っております。
今回は初めての投稿だったので至らない点が多く、見苦しいものを見せてしまったようで申し訳ありません。
今後の展開をここで少し書かせてもらいますと、霊夢のもとで修業したオリキャラが妖怪を祓えるまで力を付けたことと、鵺がかつて平安の都で恐れられていた頃の自分を取り戻したことにより、霊夢と紫の二人の公認の元、二人の殺し合いが始まります。
結果は、オリキャラが倒れ、鵺が生き残るという形で収束しますが、鵺は殺し合いが始まる前、紫と霊夢の間で結んだ「生き残った側は、解除不可能の封印が施される」という取り決めの元、封印されて幕を閉じます。
その後幻想郷の賢者や管理者、有力者の間で議論の的になるといった形で物語を終わらせようと思っていました。また、オリキャラや鵺の過去話も考えていましたが、TOTさんの仰っていた破滅方面に近い形をとることになりそうなので、今回の作品はここで凍結させていただきたいと思います。
最後に、私のような新参者に丁寧なご指摘してくださって誠にありがとうございました。
またの機会がありましたら、是非よろしくお願いいたします。