Coolier - 新生・東方創想話

二人ぼっちのおんぶ日和

2011/01/08 23:57:25
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 この作品に登場する輝夜はひどくまったりしています。そのため、自分の想像する輝夜とは異なり、読んでいて不快に思う可能性があります。もしそうなった場合はブラウザバックすることをお勧めします。

 それでは以下より、本編スタートです。




















 我が目を疑った。まさかと思い、いや、やっぱり違うだろうと考え直し、妹紅は自分の目をごしごしとこすった。
 現実であった。痛みを感じるまで目をこすっても、視界にうつるのはやっぱり同じもの。

 輝夜がぺたりと座りこんでいた。迷いの竹林のど真ん中で。

 妹紅が彼女を発見したのは今さっきのこと。お昼の散歩にと、迷いの竹林をぶらぶら歩いているとこの現場に遭遇したのだ。
 眉根を寄せた妹紅が彼女に近づく。輝夜は端坐したまま、ずっと前を向いていた。

「お前、なにしてんだ?」
「あら、妹紅じゃない。あけましておめでとう」
 妹紅は眉間のしわを一層深めた。言った張本人はそんなのお構いなしにケロッとした表情で、相手に顔を向けている。まだ立とうとしない。
「今そんなこと言うなよ」
「だって、本当は一月一日に言おうと思ったんだけど、ついつい言いそびれちゃったから」
 こんな摩訶不思議な状況下で新年のあいさつをするんじゃない、という意味合いで妹紅は言ったのだが、どうやら彼女は日付のことを言われたのだと勘違いしたらしい。指摘しようかと口を開くが、やっぱりやめておいた。なんだか面倒くさい。そのかわり半開きの口から、相手に聞こえるぐらいの大きなため息を吐いた。そしてにらむように輝夜を見て、
「とにかく、お前はなにをしてんだ?」
「座ってる」
「はあっ!?」
 妹紅の顔に困惑の色が浮かぶ。
「そんなの見りゃわかる。私が聞きたいのはどうして座ってるかだ」
 呆れた声でそういうと、なるほどと輝夜が手を打った。妹紅が二度目のため息を吐く。
「転んだ」
 澄んだ声でそう言った。
「こ、転んだ……?」
「うん、転んだ」
 妹紅が動揺し始めた。――なんだ、この雲を掴むような対話は。なぜだかわからないが、もう疲れてきたぞ。
 輝夜は上目づかいで相手の目を見つめ続けていた。途中途中でまばたきをするが、絶対に目は逸らさない。それに気後れしてしまう。
「……えーと、つまり、転んだからここで座っていると」
「そう」
「じゃあ、なんで立ち上がんないんだ?」
「転んだから」
「ちがう! そうじゃなくて!」
「どういうこと?」
「だから……どうして転んだのに立ち上がんないんで座ってるんだ? ていうことだよ」
 輝夜がまた手をポンと打つ。「あっ、なるほど!」
「なんかもう、疲れてきた……」
「大丈夫? いっしょに座る?」
「そういう意味で言ったわけじゃない! いいから早く座ってる理由を教えてくれ!」
「足をひねった」
「足を?」
「そう」
「どこ?」
「ここ」
 輝夜が着物の裾をあげる。すると青紫色にはれた足首が目に入った。見るからに痛々しい。
「痛いか?」と聞くと、目を逸らさぬままコクリとうなずいた。「歩けるか?」と聞くと、目を逸らさぬまま首をぶんぶんと横に振った。そうくると思ったよ。妹紅が乱暴に頭をかきむしる。
「まあ、歩けないなら飛んで帰りな」
 そう言い放ち、続けて「じゃあ私はここらへんで」と言い残して妹紅はくるりとうしろを向いた。

 ガシッ

 しかし一歩を踏み出せなかった。前に体重をかけてみるが自分の体は動かなかった。
 理由は知っている。妹紅は体ごと振り返った。
「手、離してくれないか?」
「やだ」
 輝夜の右手が妹紅の右手を掴んでいた。
「足が痛いわ」
「なら、飛んで帰ればいいじゃん」
「面倒くさいわ」
 妹紅は露骨に嫌そうな顔をした。俗に言う「しかめっ面」というやつである。
 それでも相手は手を離さない。むしろさっきより力を込めてきた。
「おんぶ」
「……はいっ?」
「おんぶしてちょうだい」
 しばし目を合わせたまま無言。
「……お前それ、本気で言ってるのか?」
「本気と書いてマジと読む」
「おちょくってるだろ?」
「全然」
 正直、今すぐにでもここから逃げ出したかった。しかし手を掴まれているからそれはできない。心底歯がゆい状況におちいり、「ああ、もう!」と妹紅は焦れったそうな声をあげた。
「おんぶ」
「いやだ! 飛んで帰れ!」
「やだ、めんどう」
「私も面倒だよ!」
「おんぶしてくれないと永琳に言いつけるわよ?」
「ご自由に。あいつとは関わりはないので」
「じゃあ慧音に、あなたが助けてくれなかったって言うわ」
「そ、それは……」
 そこで言葉がにごる。妹紅は慧音の説教が大の苦手であった。普段はいいのだが、一度説教モードに入ってしまうと一時間ぐらい正座をさせられてしまう。ひどいときは三時間というものもあった。
 ぶるりと大きく身震いする。――きっと弁解しても聞く耳はもってくれないだろう。それなら……

「妹紅、おんぶ」
「わかったよ! するよ! やればいいんだろ!」
 やけになりながらも輝夜に背中を差し出す。うしろで「ありがとう」と聞こえたが無視して、さっさと乗れと相手をせかす。今日は厄日だな、と心の中でもらした。
 腕が首にまわされる。そのすぐあと、背中に大きくて温かいものが当たった。そこで妹紅は三度目のため息を吐く。
「乗ったか?」
「ええ」
「じゃあ、立つぞ」
 足に力を入れ、勢いよく立ちあがる。少しよろけてしまったがすぐにバランスを取り戻す。輝夜の体重は思ったより軽かった。これなら送り届けられそうである。
 今度はなにも声をかけず、ゆっくりと歩き出した。ザッ、ザッ、と土を踏む音がさっきより大きくなる。揺れるたんびに輝夜の吐息が妹紅の耳に当たった。それがなんともむずがゆい。二人はしばらく無言のままでいた。
 風がぴゅうっと強く吹いた。それが寒くて、輝夜がもっと体を密着させる。妹紅はなにも言わなかった。ただ眉間のしわはもう消えていた。


「……そういえばさ」
「ん?」
「どうしてお前さんは迷いの竹林を歩いていたんだ?」
 妹紅がぼやくように言った。輝夜が彼女の横顔をのぞく。もう怒ってはいないようだった。

「妹紅に会いに行くため」
「……なかなか面白い冗談だな」
「冗談じゃないわよ?」
 そう言うと、輝夜は片手でポケットをガサゴソとあさり始めた。その音が気になったのか、妹紅がうしろを見る。彼女の髪の毛しか見えなかった。
「じゃーん」
 誇らしげに笑いながら、妹紅の顔の前に一枚の紙を突き出した。にわかにはそれがなになのかがわからなかった。しかし、そこに書いてある文字を読んでいるうちに理解する。
「――年賀状?」
「正解よ」
 そこには「謹賀新年」と大きく書かれており、空白部分は小さな文字で埋まっている。左隅にはウサギ年ということでてゐと鈴仙が描かれていた。文字も絵もプロ級に上手かった。
 妹紅は目を丸くした。そしてしばらくすると声を出して笑いだした。
「ど、どうしたの?」
「いやいや、なんでもない」
 目尻にたまった涙をぬぐう。息を切らしいながら「まいったまいった」と一人でつぶやいている。
「なにがそんなにおもしろかったの?」
「だってさあ、慧音ですら私に年賀状を送ってくれないというのに、お前からもらえるとはな。しかもまさかの手渡しとときたもんだ。どうせ会うなら、一言挨拶するだけでいいじゃないか。なのにいちいち言葉を紙にしたためるんだから、律儀なこったな」
「……うるさいわね」
 拗ねた声で言う。彼女はほっぺたを膨らませて、年賀状をポケットにしまいこんでしまった。相手の首にまわした手にギュッと力を込める。「く、苦しい」と妹紅がつらそうな声を出した。それにもお構いなしに力を入れ続ける。そろそろやばいと感じて、謝罪の言葉を送ることでなんとか弱めてもらうことに成功した。ふうっと安堵の息をもらす。

 ふと妹紅が足を止めた。そしてうしろを向く。輝夜の不機嫌面が少し見えた。 
「しかし、なんで私に年賀状を送ろうと思ったんだ?」
 返答はない。このまま無視されるのかとあきらめかけたとき、
「あなたが寂しそうだったから」
 と無愛想な声が聞こえた。妹紅が目を丸くする。
「寂しそう? 私が?」
 輝夜がコクリとうなずく。
「どうして?」
「あなたはいつも一人だから」
「そうでもないぞ? 慧音とはいつも会うし、人里に行けば子供とかおっちゃんとかの友達がいっぱいいるし」
「そういうことじゃない」
「じゃあどういうことだ?」
「家にいるときはあなたは一人ぼっち。私は永琳とか鈴仙とかてゐとかがいるから寂しくないけど。でもあなたは寂しいはずだわ」
「ああ、なるほど」と妹紅は納得したようで、苦笑を浮かべた。
「つまり私が家に一人でいても寂しくないようにと、心の拠り所を作ってくれたのか」
「そうよ。これがあれば家にいてもあなたは一人ぼっちじゃないわ」
 輝夜が誇らしげに笑う。少しやり方が婉曲な気がするが、そんなのは正直どうでもよかった。自分のことを心配してくれたのが、妹紅にとってはたまらなくうれしかった。――ただ今度、年賀状はお正月中に出すものだと教えよう。
「ありがとうな、輝夜」
「どういたしまして」
 柄にもないことを言ったり言われたりして、二人は照れ笑いを浮かべる。強い風が吹いたが、さっきよりは寒く感じなかった。
 ずり落ちてきた輝夜を担ぎ直し、妹紅はまた前を向いて歩き出す。土を踏む音がさっきより軽やかに聞こえた。

「お前は優しい奴だな」
「ありがとう。でも妹紅も優しいわよ」
「お世辞でもうれしいよ」
「本当のことよ?」
「そうかい。ならどこがそうなのか教えてもらってもいいか?」
「おんぶがうまいところ」
「……すまん、もう一回言ってくれ」
「おんぶがうまいところ」
 幻聴ではなかった。面食らいながらも質問を続ける。
「申し訳ないが、おんぶのうまさと優しさがどうつながるのかを教えてもらっていいか?」
「いいわよ。おんぶがうまいということはね、相手への思いやりがあるからだと思うの」
「ほうほう」 適当に相槌を打つ。
「さっきからあんまり揺れないのは、あなたが静かに歩いてくれているから。冬なのに寒くないのは、体を密着してもあなたが怒らないから。安心して自分の体を預けられるのは、あなたの背中が大きいから」
「背中の大きさは関係なくないか?」
「あるよ。大きいといっても物理的な意味じゃないわ。頼りがいがあるということなの。転ばないのもあなたのおかげ。周りに意識を向けているから。つまりあなたが優しいからよ」
「そういうものかねえ。当然のことをしているまでだと思うんだが」
 そう言って輝夜を担ぎ直す。
「ほら、今のも私が落ちないためにやってくれた」
「ま、まあ、そうだけどさあ――」
 釈然としない顔つきで妹紅は歩き続けた。
「私、思うんだけど。おんぶって互いに信頼しないとできないものなんだ」
「それ、優しさとずれてないか?」
「うん、ちょっとずれてる。でも聞いて。まず背中に人を乗せるっていうのは、相手に自分の背を向けないとできないでしょう? でも背を向けるということは自ら死角を作ることで、そこで攻撃されも反撃なんてできない。だから、こいつはなにもしないなと信頼してないとできない。あなたは私を疑わずにおんぶしてくれたんでしょう?」
「ま、まあ……」
 図星である。なにかされるのではないか、という懸念は少しも抱かなかった。
「次におぶられる人。この人は立場的には有利に見えるけど、だけど自分の弱いところを露呈してしまってる。私なら、足をくじいたってことね。そんな弱さを見せても相手はなにもしてこないだろう、と信頼してなければおぶってもらうことはできない」
「お前はなかったのか?」
「まったくなかった、と言ったら嘘になるわ」
「ふーん」
 じゃあ、今は? そう聞こうかと思ったけどやめておいた。なんだか面倒くさい。……ということにしておこう。
 会話が途絶えた。言い終わったあと、輝夜が体をもっと押しつけてきたが妹紅はなにも言わなかった。ただほんのりとほっぺたを赤くしただけであった。

 そろそろ永遠亭が見えてきた。
「今日はありがとうね」
「どういたしまして」
「大人になっておんぶしてもらったのは、これが初めてよ」
「私も大人をおんぶするのはこれが初めてだ」
 おどけた口調でそう言う。
「でもね」
「どうした?」
「あなたにおぶられのは、存外、悪くないわ」
 妹紅はハッと息を呑み、すぐにやれやれと笑みをこぼした。そこで四度目のため息を吐く。――それが言いたくて、さっきまでの話をしてくれたのだろうか。そんな邪推もしてみる。 
「なあ輝夜」
「なに?」
「私もお前をおんぶするのは、案外、悪くないな」
 しばらく返事はなかったが、「ありがとう」という小さな声が聞こえた。あえてうしろは振り向かなかった。
「じゃあ、そろそろお別れね」
「そうだな。あ、今度いっしょに人里に行かないか? うまい饅頭屋があるんだ」
「饅頭!? 行く行く!」
 子供のようにはしゃぐ輝夜。
「ねえねえじゃあさ、そのときもおんぶしてもらっていい?」
「やだ。そのときぐらい自分で歩け」
 
 不機嫌面の輝夜が妹紅のほっぺたをつねる。妹紅の悲痛な声が、迷いの竹林にこだました。
つんでれ輝夜も好きなんだですが、個人的にはまったり輝夜も好きです。ただ妹紅は男口調男前性格時々乙女一択です、異論は認めません。
作品自体は典型的なやおいになってしまいましたが、読み終わったあとにちょこっと和んでくれたらうれしいです。

それではここまで読んでいただき、ありがとうございました。
シンフー
http://
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コメント



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4.100名前が無い程度の能力削除
異論は無い
6.100名前無い程度削除
うん 異論ない
9.100名前が無い程度の能力削除
異論無し
10.100名前が無い程度の能力削除
異議無し
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異論はありません
18.100名前が無い程度の能力削除
異議あり。つんでれ妹紅も良いですよ!

和みました。ありがとう
19.100名前が無い程度の能力削除
慧音先生!特に異論はないです!
20.100名前が無い程度の能力削除
おかしいところはどこにもないな
24.100名前が無い程度の能力削除
見事な持論だと感心するな

>慧音ですら私に年賀状を送ってくれない
家族あつかいですね、わかります。
28.100名前が無い程度の能力削除
>そうだな。あ、今度いっしょに人里に行かないか? うまい饅頭屋があるんだ

これって死亡フラグ?
30.無評価アン・シャーリー削除
異論ないわ
31.100アン・シャーリー削除
失礼!
36.無評価シンフー削除
皆様、コメントありがとうございます!
ただまさか、ここまで異論がないとは想定外のことです。正直、驚きを隠せません。
それでは、少し特定のコメントへ返しをしたいと思います。

18様
盲点を突かれました。それもありですね!

24様
>家族あつかいですね、わかります。
その発想はありませんでした……。あなたは天才ですか?

28様
なん……だと……?
53.100名前が無い程度の能力削除
うむぅ
56.80名前が無い程度の能力削除
何だか姫様のキャラが男勝りなもこたんと異様にマッチしてて、何気ない会話なのに読んでてとってもいい気分。
たまにはこんな日があってもいいよネ。
58.100名前が無い程度の能力削除
ぐやーん
65.100理工学部部員(嘘)削除
異議無し!
ぐーやももこたんも仲良しですなぁ