「ナズー、ありのまま今起こったことを話すぜ」
「なんだい魔理沙」
「子、丑、寅、うー☆で今年はレミリア年だな、というネタを思いついたが、既に某所で使われていた。しかも去年」
「なん……だと……」
『いつかぼくらのグレイテストスターティングポイント』
「やぁ、昨日はおちおち外に出れないほどのホワイトニューイヤーだったが、だいぶ落ち着いたようだね」
玄関を開けて、命蓮寺に住まうネズミ妖怪、ナズーリンがちょこりと顔を出して辺りをうかがう。
「お、本当かー? これなら出かけられそうだな!」
そのやや上方から同じように顔を出したのは、普通の魔法使い、霧雨魔理沙。
白蓮と魔法使い同士仲がよく、ナズーリンともトレハンネズミ仲間として親交を深めている彼女は、正月を命蓮寺にて過ごしていた。
除夜の鐘や初詣の客は、強まった風雪によりあまり来ていない。今日以降から忙しくなるのだろう。
「でもまだ雪も積もってるし、トレジャーハントはやりづらそうだね」
「じゃあ霊夢んとこにでも行くか。うちらはまだ人数いたけど、あいつは正月どうやって過ごしてたんだろうなぁ」
魔理沙たちは、昨日はもっぱらいろんなすごろくを作っては遊んでを繰り返す不毛な正月を過ごしていた。
「まぁあれはあれで面白かったが……」
「船長が、どのマスに止まってもご主人のお色気シーンが拝めるすごろくを作っては、はっ倒されてたところとか?」
「確かにそれも面白かったが……」
だがやはり体を動かしていろんなところに出かけて行きたい。猫とは違うのだよ猫とは。
そんなわけでホイホイと、初詣の雑踏を避け博麗神社へやってきたのだ。
「邪魔するぜー!」
「邪魔するよー」
魔理沙がガラガラと縁側から戸を開け、ナズーリンが魔理沙の肩越しに頭を出して中をうかがう。
そこには、ぐったりとした霊夢の服に息を荒げながら手をかけるアリスの姿があった。
「う、うわあああああああああああああ!?」
「わああああああああああああああああ!?」
目と目が逢う瞬間、全世界が停止したかと思われた。
そして静寂を破り、魔理沙たちとアリスが同時に叫ぶ。
「ナ、ナズー、ここは『犯罪だー!』って言うべきか『すまん、ごゆっくり!』というべきかどっちなんだぜ!?」
「そうだね……」
「いやどっちも違う! どっちも違うから!」
神妙に悩むナズーリンに、アリスが慌てて声をかける。
「ここは一つ混ぜてみてはどうだろう」
「わかったぜ! 犯罪をごゆっくりだぜ!」
「だから違うって言ってんでしょうがぁ!」
「がぬぉ!?」
鋭い音を響かせて、アリスのKOF式アリスキックが魔理沙の顎を捉えた。
魔理沙が吹っ飛ばされる光景を見て、ナズーリンは思った。
『それはもはやアリスキックではなくジェノサイドカッターである』と。
また、こうも思った。
『ナイスドロワ』と。
「くっ……見ない間に腕を上げたな……アリス……」
「普通のキックで平気な顔されてるのもシャクだからね……!」
「そんなバトルもののお約束やってる場合ではないと思うんだがね」
不思議な力場を形成していた二人が、ナズーリンの言葉で帰ってくる。
「そうそうアリスが犯罪だったという話だった。人の形弄びし少女とか言ってるレベルじゃねーぞ」
「リアル裁判だね」
「うまいこと言うな! あとたぶん誤解!」
魔理沙とナズーリンの追求にアリスが大声を上げて弁明していると、さすがにぐったりとしていた霊夢の目がゆっくりと開いた。
「ん、んー……あれ? 寝ちゃってた?」
全員が言葉を止める中、目をこすりながらむくりと身を起こし、ふと自分の服に手をやる。
「あら、上着ありがとねアリス。……ってなんでネズミコンビがここにいるの?」
そして、今更のように魔理沙とナズーリンの存在に目を丸くするのだった。
「だーかーらー、私は脱がせてたんでなくて着せてたの! 昨日初詣に来てからずっとここで飲んでて、それで朝気がついたら妖怪の私はともかく、霊夢が寒そうだったから上着着せようって!」
「確かに、良く見ればこたつの上に空き瓶が散乱しているねえ。二人して飲んでたのは嘘じゃなさそうだ」
「それはそれとして息を荒げてたことに対する言い訳を聞こうか」
説明するアリスに、なおも容赦なく魔理沙が追撃する。
「知らないわよ! 早く上着着せなきゃって思って……そう、慌ててたからよ!」
霊夢も一緒になって興味深げに笑ってるもんだからタチが悪い。
なんとしても霊夢の前でイメージダウンしたくないアリスは焦る一方だ。
「どう思うかねナズーリン君」
「あからさまにごまかそうとしている臭いがぷんぷんするね」
「アリスってそういうところあるからね~」
「れ、霊夢までー」
議題を理解しているのかいないのか、楽しそうに援護射撃してくる霊夢の存在がアリスとしてはいかんともしがたい。
「実際のところどうなんだ。吐けば楽になるぞ」
「カツ丼はご入用かね」
「本格的に取り調べる気だ!」
ねずみのくせに警察役とはこれいかに。
ともあれカツ丼を出されては形勢不利と言わざるを得ない。取り調べにカツ丼が有効という『幻想』は、この幻想郷において確かに自白を促すだけの『力』を持っている。
「わかった! わかったから霊夢は席外して! 霊夢がいたら私恥ずかしくて言えない!」
「えー、私聞きたいのになあ」
真っ赤になって条件を突きつけるアリスに、霊夢が残念そうな顔を浮かべる。
「まぁいいじゃないか霊夢。アリスの乙女丸出し状態に免じてここは席を外してやってくれ」
珍しく魔理沙がアリスに助け舟を出す。
アリスの乙女丸出し状態は、犬が腹を見せるがごとき無防備な状況に等しい。と界隈では解釈されている。
「仕方ないわね……じゃあ隣で待機してるわ」
「だそうだ。ありがたく思いたまえよ」
「なんであんたが偉そうなの!?」
予想外のナズーリンに思わずツッコむアリスだった。
「いい? ……すごいちっちゃい声で言うわよ? おっきな声で復唱するの禁止よ? これ契約だからね?」
「えらく厳重だな……」
「しかとこのネズ耳で聞き届けよう。さあ、話したまえ」
ナズーリンがネズ耳をそっとアリスの口元に突き出したので、アリスはそっとつねってみた。
「みぎゃあ!」
「何をするんだぜアリス!」
「ご、ごめんつい反射的に……」
魔理沙の糾弾に、アリスは素直に謝る。
「まったくもう……私もやってみよう」
「やめてやめて! 割とこれ洒落にならんというか話が逸れまくるじゃないか! これはアリスの策だ!」
わきわきと手を動かす魔理沙に、ナズーリンは耳を両手でかばいながら必死にガードする。
(むぅ、かわいいぜ……)
魔理沙はほくほくした気分になったが、まぁ確かに話が逸れるのでアリスに向き直った。
「では気を取り直して……ナズー、ネズ耳用意」
「う、うん……」
いささかびくびくしながら、ナズーリンはネズ耳をアリスの近くへ持っていった。
「わ、わかったわよ……」
アリスも観念し、ごにょごにょと喋りだした。
「何々……何か霊夢に服を着せようとしていると、霊夢を人形にしてるみたいでどきどきした?」
「変態だな」
「変態という名の淑女だね」
「うわああああああああん! だから言いたくなかったのーー!」
その時、ふすまが勢い良く開いた!
「話は全て聞かせてもらったわ!」
「れ、霊夢!?」
馬鹿な――声はすごいちっちゃかったし、ナズーリンの復唱も隣に聞こえるほど大きいものではなかった。
どうしようどうしようという混乱と一緒に、疑念がアリスの胸を去来する。
「と、ここでネタばらし」
つぶやいた魔理沙に神速で向き直る。
「取り出したるはにとり印の盗聴器~オブファ!?」
鋭い音を響かせて、アリスの無言のKOF式アリスキックがコンボ数を増して魔理沙を捉えた。
「ま、魔理沙ー!」
さっきより高く飛んだ魔理沙にナズーリンが驚き、なんとか受け止めようと位置を調整するも。
どすん。
「むぎゅう……」
無理だった。
仲良く伸びる魔理沙とナズーリンに目もくれず、アリスは頭を抱えた。
(どうしようどうしよう、嫌われちゃう……)
そうして霊夢を見れないでいたから、彼女の接近にまったく気づかなかったのだ。
「アーリス」
「ひゃおわああ!?」
後ろから抱きつかれて、アリスは心臓が飛び出さんばかりに驚いた。
「れ、霊夢!?」
「もう、着せ替えさせたいのならそう言ってくれればいいのに」
「え? え?」
「ちょうど色んな服着たいなって思ってたところなのよ。アリスのセンスなら普段着れないような素敵なのが着れそうだわ」
「う、うん? がんばるわ、がんばってつくってくるわ!」
どこか混乱しつつも、アリスは自分に期待がかけられていることを理解して、気合十分に叫んだ。
「……霊夢のやつ、たぶんよくわかってねえな」
「天然……入ってるねえ」
「そこが博麗霊夢という女のいちばん恐ろしいところだぜ……」
「肝に銘じておくよ……」
魔理沙とナズーリンは折り重なりながら、ぐったりと事態を観察していたのだった。
*
「というわけで一件落着したところで、四人で飲み直しと行こうか!」
立ち直った魔理沙が宣言する。
「もうお酒ないんだけど」
「早く家に帰って服作らなきゃ!」
しかし誰もついてこなかった。
「あるぇ」
「それに、今日こそは参拝客も来るでしょうしね」
微笑む霊夢から、ナズーリンはそっと視線を外した。
「う、うん……そ、そうだね……きっと来るよ……」
「殴るわよ」
「ご無体なー」
ひょいとナズーリンは魔理沙の後ろに隠れてしまう。
「すごろくは一つ持ってきたんだが、さすがに飽きたしな……」
「しかも良く見たら船長謹製のだよこれ。使えるわけがない」
そうして二人が悩んでいると、
「ほらほら、時代遅れの干支はどっか行きなさい」
と言って放り出された。
「くっ、三年前なら私たちの時代だったと言うに!」
「諸行無常だよ魔理沙」
そんな二人を横目に、アリスが
「さー忙しくなるわよ、待っててね霊夢!」
と気合十分に飛び去っていった。
「むむぅ、アリスも今日はもう相手してくれなさそうだなあ。どうするか。香霖のところにでも行くか? それとも守矢神社にちょっかいをかけにいくかな」
魔理沙が思案していると、ナズーリンがちょいちょいと彼女の袖を引いた。
「ん、どうしたナズー」
「その……私は、魔理沙の家に行きたいな」
「何、私の家だと」
魔理沙が虚を突かれたような反応を見せる。
「うん、昨日は命蓮寺のみんなといたし、今日も博麗神社の人たちといるのかなと思うと、ちょっと……ね。私は、二人でゆっくりしたい気分なんだ」
照れてるのを誤魔化しながら堂々と言い切るその姿に、魔理沙がにーっと口の端を上げる。
「なんだなんだ、かわいいこと言ってくれるじゃないか」
「べ、別に喜ばせようと思って言ったわけでは……」
「ははっ、おっけーおっけー、んじゃあうちで存分にまったりしようじゃないか!」
そうして魔理沙は箒にまたがりつつ、ナズーリンの手をとる。
「あ……」
「よーし! 私たちのネズミ年はこれからだぜ!」
そうして魔理沙に手を引かれるナズーリンの尻尾の先は、やっぱりハートマークを形作っているのだった。
『いつかぼくらのグレイテストスターティングポイント』――fin
>しかも去年。
もし12月以前だとしたら、相当な先見の明ですな。そのお方は。
ワロタwww
ナズーリンかわいいぜ……
でも僕はナズ星派
船長謹製のすごろく見たいww
干支のうー☆僕も何か覚えあるなー
それとすごろくについてkwsk
今年こそナズマリが流行りますように、と毘沙門天に詣てきます
会話テンポがおもしろかった
トントン拍子に進む台詞で笑いを我慢するのに必死でした……ブハッww
天然霊夢さんいいっすわぁ