ゴーン……。
年の終わりを告げる除夜の鐘が、郷全てに鳴り響いている。
今年は確か命蓮寺の方で、あそこの連中と村人たちが集まって年越しの祭りなんかをやっていたかな。
暖を取っていた炬燵を離れ、襖を開けて里の方を見ると、提灯なんかの光で満遍なく明るい。
壁の掛け時計は十一時のおよそ半。普通ならばとっくに皆寝静まっている時間だ。
この郷も年々騒がしくなる物だなぁ、なんて思っていると、
「うぅ……。紫様ー、寒いですよー」
「あ、あぁ、ごめんなさい」
橙に怒られてしまった。炬燵に入ってプルプル震えている。
急いで襖を閉め、自分も炬燵に戻る。
「ふー、寒かった……。それにしても、今日は騒がしいみたいですね。なにかお祭りでもあるんですか?」
「ええ、そうよ。今日は大晦日、十二ある月のうち最後の月、その晦日だもの。
きっと一年の総決算、忘年会とでも言ったところでしょう。
……まあ実際はそれにかこつけてお酒を飲むだけなんだけどね」
「あははー、お酒かぁ……それじゃ普段の宴会とあんまり変わらないんですね」
「その通りね……そういえば、藍はどこに行ったのかしら、さっきから見当たらないけど」
「えー、もう忘れちゃったんですかー?紫様が頼んでたのに」
面目ない。
「うーん、何か頼んだかしら?外を見ていたら忘れてしまったわ……」
「本当に忘れたんですかー?確か、「この日に一番似合うものを作ってもらってる」って……」
そんなこと言ったっけ……ああ、そうか。
「……ああ、思い出したわ。今日という日に一番似合う……食べ物。それは――」
言うか言わぬかのタイミングで襖がガラッ、と開き、
「――年越し蕎麦、ですね」
藍が現れた。手には盆、その上に丼が3つ。
「あら、遅かったわね。それも来るや否や主人の台詞まで奪って」
「え?あ、すみません、わざとでは」
「藍様、お帰りなさい!」
「ただいま……と言っても外に出てたわけじゃないんだけどね」
「まあ細かいことはいいじゃない。
それよりもお蕎麦、早く食べましょう。今日が終わってしまっては意味がないわよ?」
時計は十一時の四十分程。もうすぐ今年の終了だ。
「おっとと、そうですね」
襖を閉め、炬燵の近くに座り、盆からそれぞれの丼を配る。
一連の動きの先には、絶妙な香りが鼻をくすぐる、蕎麦。
「わあ……。すごくおいしそうです藍様!」
橙が目を輝かせている。無理もない、本当に美味しそうなのだし。
「全くだわ、どうやったらこんなにきれいに作れるのかしら?」
「い、いや別にそんな……。ほ、ほら、早くしないと伸びちゃいますよ!」
「そうね、こんなに美味しそうなんだもの。早く食べないと損だわ。ねえ橙?」
「はい!早く食べないと損です!」
「ま、またそうやって……。そんなことはいいから早く食べましょう!」
真っ赤になりながら炬燵に入り、自分の分の蕎麦を一気に啜る。
「熱っ!?」
どうやら相当熱かったらしい。流石出来立て。と、そこに橙が咄嗟に水代わりのお茶を渡す。
これまた一気に飲み、
「ゴホッ!?」
やはり力強く咳き込んだ。お茶もなお熱いものだ。
「そんなに照れなくてもいいじゃない。美味しそうなのは本当なのよ?」
「は、はい……。すみません……ゴホッ」
*
「どう、少しは落ち着いたかしら?」
「はい……」
あの後すぐに橙が水を汲みに台所へ――向かおうとした時に、
私が隙間から水を取り出して、今その水を藍が飲んでいる、という流れだ。
「申し訳ありません……さっきはなんだか恥ずかしくて……」
「いやぁ、悪いのは私のほうよ。ごめんなさいね」
「藍様……大丈夫ですか……?」
「うん、もう良くなったよ。心配かけてごめんな」
「さあ、藍も良くなったことだし、今度こそお蕎麦を食べましょうか」
「良くなったって、病気じゃないんですから……。でも、そうですね。早く食べましょう」
「では気を取り直して……」
「「「いただきまーす!」」」
さて、手始めに麺を一口、続けて汁を啜る。
「……ふぅ、美味しい。やっぱり藍の作るものは美味しいわね」
「……はい、それになんだかお蕎麦以外にもなんだかあったかい感じがします……」
「もう、二人ともまたそうやって……」
照れる藍を尻目に、「だって美味しいものねー」と言いながら橙の方を見る。
するとやはり橙も、「はい、美味しいですもんねー」と私に返す。
その様子を見ていた藍はまた赤くなっていた。
やはりいくら大きくなっても式弄りは楽しいものだ。
*
「……ふー、美味しかった!ごちそうさまー」
先に食べ終わった橙は、いかにも満足げに主人に感謝を述べている。
「……うん。本当に美味しかったわよ、藍。ご馳走様でした」
私も続いて感謝を告げる。
「いえいえ、お粗末さまでした」
「と、いったところでもうそろそろかしら」
「え?何がですか?」
藍が不思議そうな目でこっちを見る。終始褒めちぎっていたのでようやく我に返った様子だ。
「あら、気づかない?外の様子に」
「……そういえば、なんかさっきから静かですねー」
どうやら、橙は気づいていたようだ。流石猫又の察知力、というところか。
「あれ、本当だ……ということは、もうすぐでしょうか」
外で先程まで騒がしかったのは、里のお祭りの所為だった。それが静かになった。
絶え間なく響いていた除夜の鐘も、数えれば百六つ目。
ゴーン……。
百七つ目が響き、里の静けさがより一層深まった。
「ええ。そして、次の鐘の音」
時計の針は十一時五十九分。そして秒針がその真上を指す、と同時に。
ゴーン…………。
「百八つ目の鐘の音で……年が明けた」
鐘の音が鳴った直後、里の方から怒涛の歓声。
天地がひっくり返ったような大騒ぎ、大宴会である。
何かにかこつけて宴会を開く者達の、一年に一度の大宴会。
始まって一分も経っていないはずだが、その盛り上がりは見え隠れするどころではない。
「うわぁ……すごく盛り上がってる……」
「さっきまであの静けさだったのにな……」
「ほら、何をボサッとしているのよ貴方達。向こうが祭りを始めたのでしょう?」
向こうの喧騒に飲み込まれかけている、その式たちを呼び戻すように言う。
「え?どういう事です紫様?まさか……こちらも宴会を始めるのですか?」
「宴会、という程ではないけれどね。用意くらいはしてあるわよ?」
そう言いながら、作り出した隙間から、酒の入った一升瓶を一本と言わず二三、五六、それ以上に取り出す
「飲み始め、とでも言ったところですか。たまにはいいですね」
「えへへ、なんだか楽しくなってきちゃった!藍様ー、飲み比べじゃ負けませんよー!」
「え、私!?っていうか橙そんなに飲めたっけ……?」
「いいじゃない、細かいことを気にしていては人生損よ?」
言いつつ、思ったより乗り気の式達のために、一升瓶をまず一本開封した……。
*
「で、なんで私の家にあんた達がいてしかも酒をかっくらってるのかしら?」
そう言い放ったのは博麗神社の巫女、博麗霊夢。
というか、不法侵入させてもらっていた先の主である。
「いや、本当にすみません……。ここまで長居する気もなかったのですが……」
「おじゃましてまーすっ」
藍が謝り、橙は元気に挨拶する。良いわねぇ、それくらい元気があるといいわ。藍はもっと堂々としなさい。
「ああ、まぁあんた等はついてきただけなんだろうけどさ……そこのスキマよ、スキマ
なんでわざわざ家なのよ」
「あら、随分な言われ様ねぇ。お酒飲む?」
「……いただくわ」
問答する気も失せたのか、霊夢はあっさり引き下がってお酒の入った杯を取った。
「で、なんでわざわざあんたがここにいるのかしら?」
前言撤回。引き下がってなかったです。
「んー、なんでって言われてもねぇ……。私達も祭りの雰囲気ぐらい味わいたかったし、
それには里に近いからここが一番だったのよねぇ。それに、霊夢とも新年のお祝い、したかったしね」
なんとなく恥ずかしい言い方のような気もするが、本心なので仕方ない。
うん、本心だし。
「でも、それなのに神社に霊夢が居なかったのよねぇ……」
「仕方ないじゃない。今年は……去年?まあどっちでもいいか。
今年は命蓮寺の方に呼ばれて祭り中のイベントの一つを任されてたんだもの」
只今の時刻午前五時。なるほどあれに参加していたならそのくらいはかかっただろう。
「ふぅん……なんだかんだで霊夢も忙しかったのねぇ。……あら?何かを忘れているような?」
何かがスッキリしない感覚。今この日に大事な何かを行っていない、そんな気が……。
「え、何かありましたか?きちんと年越し蕎麦は食べましたよね?」
「神社にお参りとか、ですか?あ、ここ神社だった……」
藍と橙が互いの考えを述べるも、その二つともどうにもかすらない。
「なによ、簡単なことなの?それとも難しいこと?」
「ううん……すごく簡単なことだけれど……あぁ!思い出したわ!」
思わず大声を上げてしまった。視線を一度に受けてしまい、少し焦る。
「あ……コホン。え、えーと、そんなに大したことではなかったかも。でも、結構大事でもあるわ」
「なによ、勿体ぶらずに言いなさいよ」
大したことではないが、大事なこと、それは――
「――「挨拶」よ。それも年始めの、あの挨拶」
「あぁ……そういえば里に気を取られててすっかり忘れていましたね」
「ほんとだ……気づかなかったぁ……」
「ああ、あの「挨拶」ね。私は命蓮寺の方でさんざ言わされたから、もうお腹一杯だわ」
「ふふ、まぁそう言わずに。それじゃ……」
ひらっ、と炬燵を出て、襖の方に行き、皆の方を向いて座る。
この日において大事な「挨拶」それは――
「――あけまして、おめでとうございます」
年の終わりを告げる除夜の鐘が、郷全てに鳴り響いている。
今年は確か命蓮寺の方で、あそこの連中と村人たちが集まって年越しの祭りなんかをやっていたかな。
暖を取っていた炬燵を離れ、襖を開けて里の方を見ると、提灯なんかの光で満遍なく明るい。
壁の掛け時計は十一時のおよそ半。普通ならばとっくに皆寝静まっている時間だ。
この郷も年々騒がしくなる物だなぁ、なんて思っていると、
「うぅ……。紫様ー、寒いですよー」
「あ、あぁ、ごめんなさい」
橙に怒られてしまった。炬燵に入ってプルプル震えている。
急いで襖を閉め、自分も炬燵に戻る。
「ふー、寒かった……。それにしても、今日は騒がしいみたいですね。なにかお祭りでもあるんですか?」
「ええ、そうよ。今日は大晦日、十二ある月のうち最後の月、その晦日だもの。
きっと一年の総決算、忘年会とでも言ったところでしょう。
……まあ実際はそれにかこつけてお酒を飲むだけなんだけどね」
「あははー、お酒かぁ……それじゃ普段の宴会とあんまり変わらないんですね」
「その通りね……そういえば、藍はどこに行ったのかしら、さっきから見当たらないけど」
「えー、もう忘れちゃったんですかー?紫様が頼んでたのに」
面目ない。
「うーん、何か頼んだかしら?外を見ていたら忘れてしまったわ……」
「本当に忘れたんですかー?確か、「この日に一番似合うものを作ってもらってる」って……」
そんなこと言ったっけ……ああ、そうか。
「……ああ、思い出したわ。今日という日に一番似合う……食べ物。それは――」
言うか言わぬかのタイミングで襖がガラッ、と開き、
「――年越し蕎麦、ですね」
藍が現れた。手には盆、その上に丼が3つ。
「あら、遅かったわね。それも来るや否や主人の台詞まで奪って」
「え?あ、すみません、わざとでは」
「藍様、お帰りなさい!」
「ただいま……と言っても外に出てたわけじゃないんだけどね」
「まあ細かいことはいいじゃない。
それよりもお蕎麦、早く食べましょう。今日が終わってしまっては意味がないわよ?」
時計は十一時の四十分程。もうすぐ今年の終了だ。
「おっとと、そうですね」
襖を閉め、炬燵の近くに座り、盆からそれぞれの丼を配る。
一連の動きの先には、絶妙な香りが鼻をくすぐる、蕎麦。
「わあ……。すごくおいしそうです藍様!」
橙が目を輝かせている。無理もない、本当に美味しそうなのだし。
「全くだわ、どうやったらこんなにきれいに作れるのかしら?」
「い、いや別にそんな……。ほ、ほら、早くしないと伸びちゃいますよ!」
「そうね、こんなに美味しそうなんだもの。早く食べないと損だわ。ねえ橙?」
「はい!早く食べないと損です!」
「ま、またそうやって……。そんなことはいいから早く食べましょう!」
真っ赤になりながら炬燵に入り、自分の分の蕎麦を一気に啜る。
「熱っ!?」
どうやら相当熱かったらしい。流石出来立て。と、そこに橙が咄嗟に水代わりのお茶を渡す。
これまた一気に飲み、
「ゴホッ!?」
やはり力強く咳き込んだ。お茶もなお熱いものだ。
「そんなに照れなくてもいいじゃない。美味しそうなのは本当なのよ?」
「は、はい……。すみません……ゴホッ」
*
「どう、少しは落ち着いたかしら?」
「はい……」
あの後すぐに橙が水を汲みに台所へ――向かおうとした時に、
私が隙間から水を取り出して、今その水を藍が飲んでいる、という流れだ。
「申し訳ありません……さっきはなんだか恥ずかしくて……」
「いやぁ、悪いのは私のほうよ。ごめんなさいね」
「藍様……大丈夫ですか……?」
「うん、もう良くなったよ。心配かけてごめんな」
「さあ、藍も良くなったことだし、今度こそお蕎麦を食べましょうか」
「良くなったって、病気じゃないんですから……。でも、そうですね。早く食べましょう」
「では気を取り直して……」
「「「いただきまーす!」」」
さて、手始めに麺を一口、続けて汁を啜る。
「……ふぅ、美味しい。やっぱり藍の作るものは美味しいわね」
「……はい、それになんだかお蕎麦以外にもなんだかあったかい感じがします……」
「もう、二人ともまたそうやって……」
照れる藍を尻目に、「だって美味しいものねー」と言いながら橙の方を見る。
するとやはり橙も、「はい、美味しいですもんねー」と私に返す。
その様子を見ていた藍はまた赤くなっていた。
やはりいくら大きくなっても式弄りは楽しいものだ。
*
「……ふー、美味しかった!ごちそうさまー」
先に食べ終わった橙は、いかにも満足げに主人に感謝を述べている。
「……うん。本当に美味しかったわよ、藍。ご馳走様でした」
私も続いて感謝を告げる。
「いえいえ、お粗末さまでした」
「と、いったところでもうそろそろかしら」
「え?何がですか?」
藍が不思議そうな目でこっちを見る。終始褒めちぎっていたのでようやく我に返った様子だ。
「あら、気づかない?外の様子に」
「……そういえば、なんかさっきから静かですねー」
どうやら、橙は気づいていたようだ。流石猫又の察知力、というところか。
「あれ、本当だ……ということは、もうすぐでしょうか」
外で先程まで騒がしかったのは、里のお祭りの所為だった。それが静かになった。
絶え間なく響いていた除夜の鐘も、数えれば百六つ目。
ゴーン……。
百七つ目が響き、里の静けさがより一層深まった。
「ええ。そして、次の鐘の音」
時計の針は十一時五十九分。そして秒針がその真上を指す、と同時に。
ゴーン…………。
「百八つ目の鐘の音で……年が明けた」
鐘の音が鳴った直後、里の方から怒涛の歓声。
天地がひっくり返ったような大騒ぎ、大宴会である。
何かにかこつけて宴会を開く者達の、一年に一度の大宴会。
始まって一分も経っていないはずだが、その盛り上がりは見え隠れするどころではない。
「うわぁ……すごく盛り上がってる……」
「さっきまであの静けさだったのにな……」
「ほら、何をボサッとしているのよ貴方達。向こうが祭りを始めたのでしょう?」
向こうの喧騒に飲み込まれかけている、その式たちを呼び戻すように言う。
「え?どういう事です紫様?まさか……こちらも宴会を始めるのですか?」
「宴会、という程ではないけれどね。用意くらいはしてあるわよ?」
そう言いながら、作り出した隙間から、酒の入った一升瓶を一本と言わず二三、五六、それ以上に取り出す
「飲み始め、とでも言ったところですか。たまにはいいですね」
「えへへ、なんだか楽しくなってきちゃった!藍様ー、飲み比べじゃ負けませんよー!」
「え、私!?っていうか橙そんなに飲めたっけ……?」
「いいじゃない、細かいことを気にしていては人生損よ?」
言いつつ、思ったより乗り気の式達のために、一升瓶をまず一本開封した……。
*
「で、なんで私の家にあんた達がいてしかも酒をかっくらってるのかしら?」
そう言い放ったのは博麗神社の巫女、博麗霊夢。
というか、不法侵入させてもらっていた先の主である。
「いや、本当にすみません……。ここまで長居する気もなかったのですが……」
「おじゃましてまーすっ」
藍が謝り、橙は元気に挨拶する。良いわねぇ、それくらい元気があるといいわ。藍はもっと堂々としなさい。
「ああ、まぁあんた等はついてきただけなんだろうけどさ……そこのスキマよ、スキマ
なんでわざわざ家なのよ」
「あら、随分な言われ様ねぇ。お酒飲む?」
「……いただくわ」
問答する気も失せたのか、霊夢はあっさり引き下がってお酒の入った杯を取った。
「で、なんでわざわざあんたがここにいるのかしら?」
前言撤回。引き下がってなかったです。
「んー、なんでって言われてもねぇ……。私達も祭りの雰囲気ぐらい味わいたかったし、
それには里に近いからここが一番だったのよねぇ。それに、霊夢とも新年のお祝い、したかったしね」
なんとなく恥ずかしい言い方のような気もするが、本心なので仕方ない。
うん、本心だし。
「でも、それなのに神社に霊夢が居なかったのよねぇ……」
「仕方ないじゃない。今年は……去年?まあどっちでもいいか。
今年は命蓮寺の方に呼ばれて祭り中のイベントの一つを任されてたんだもの」
只今の時刻午前五時。なるほどあれに参加していたならそのくらいはかかっただろう。
「ふぅん……なんだかんだで霊夢も忙しかったのねぇ。……あら?何かを忘れているような?」
何かがスッキリしない感覚。今この日に大事な何かを行っていない、そんな気が……。
「え、何かありましたか?きちんと年越し蕎麦は食べましたよね?」
「神社にお参りとか、ですか?あ、ここ神社だった……」
藍と橙が互いの考えを述べるも、その二つともどうにもかすらない。
「なによ、簡単なことなの?それとも難しいこと?」
「ううん……すごく簡単なことだけれど……あぁ!思い出したわ!」
思わず大声を上げてしまった。視線を一度に受けてしまい、少し焦る。
「あ……コホン。え、えーと、そんなに大したことではなかったかも。でも、結構大事でもあるわ」
「なによ、勿体ぶらずに言いなさいよ」
大したことではないが、大事なこと、それは――
「――「挨拶」よ。それも年始めの、あの挨拶」
「あぁ……そういえば里に気を取られててすっかり忘れていましたね」
「ほんとだ……気づかなかったぁ……」
「ああ、あの「挨拶」ね。私は命蓮寺の方でさんざ言わされたから、もうお腹一杯だわ」
「ふふ、まぁそう言わずに。それじゃ……」
ひらっ、と炬燵を出て、襖の方に行き、皆の方を向いて座る。
この日において大事な「挨拶」それは――
「――あけまして、おめでとうございます」