※下ネタ 大注意
お正月である。
前作、『ナズーリンのプレゼント』(作品集133)にてつつがなく結婚した私とご主人だが、とくに生活が変わることもなく年を越して新年を迎えておせちを食べた。
ふたりきりではないとはいえ、一応ずっと同居しているし、私がご主人のお世話をするのも変わらないのでべつだん気合を入れて何かする必要もない。
と考えながら私はずっとトイレにこもっていた。
(おせちデストロイ)
という言葉が頭の中をぐるぐるする。
一輪が作ったおせちはふつうに美味しかった。村紗が作ったおせちはカレー臭かった。白蓮が作ったおせちは昔の人らしく味付けが濃くってしょっぱかったが、まあ、美味しかった。ぬえが何故かメガてりやきバーガーを持ってきたのでそれも食べた。ご主人の作ったおせちは、「ナズーリンのために作ったんですよ」と言って煮物にも鮭にも高野豆腐にも黒豆にもたっぷりチーズがかかっていて、最後にそれを食べきったところで直腸に限界が来た。
(メガてりやきがカロリー高すぎたのかな)
と私は思った。何せ、903キロカロリーある。メガマックの754キロカロリーを上回る驚異のデブバーガーと言えた。その他に六段重ねのおせちを四つたいらげていることもあり、多少節制しないと太ってしまいそうだった。
(太った私ではご主人に嫌われてしまうからね……はうっ)
乙女なので詳細は語れないが、ドイツ語ふうに言うとイッヒ・フンバルト・デルベンという感じだった。
すごかった。
落ち着いたので、出ようと思ったら紙がなかった。
◆ ◇ ◆
(これはピンチだね)
私は冷静に考えた。困った時こそ落ち着いてよく考えること。私はこのようにして、常に正解を選んできた。
カランカランカラン、とトイレットペーパーホルダーが無常な音を立てて回った。どこの誰だか知らないが、紙を使い切ったあとに補充もしないで去るなんて、人間のする所業と思えない。妖怪だけどみんなそういうのはちゃんとすると思う。悪魔の仕業だ。紅魔館ではどのようにしてお尻を拭いているのだろう。
とそこまで考えて自分があまり冷静でないことに気づいた。いけないわ、と普段使わない女言葉で自分を戒めてみた。何も解決しなかった。
(トイレットペーパーの芯をうまく剥いで、紙状にして、揉んで柔らかくすれば……)
とも考えた。悪い案ではないと思ったが、やはり正規品ではないのでお尻がざらざらになってしまうかもしれない。
私の可愛いお尻がざらざらになっては、ご主人が悲しむだろうと考えた。だからこれは、最後の手段としてとっておこう。
次に私は最も安全な策を実行することにした。
「おーい、誰かー」
人を呼ぶ。ちょっと、かなり恥ずかしいが、しかたないだろう。背に腹は変えられない。
「誰かー、来てくれないかー、紙がないんだよー」
けっこう大きな声で呼んだ。誰か来てくれないかと、耳をすませた。宴会やってる部屋の方からちゃんかちゃんか鳴り物の音が聞こえた。オウシット、今は白蓮のアナーキー獅子舞踊りの時間だ。人里に行ったとき、阿求とかいう可愛い子から教えてもらったのを披露する、と宣言していた。紅白歌合戦の幸子を見ながら「私のほうが上です」と言っていたので宴会芸としてそうとうの自信作なんだろう。私も見たい。すごく見たい。
(こうなっては、芯を使うしか……)
決心しかけたときだった。トイレのドアがどんどん、とノックされた。
(助かった!)
と私は思った。ここぞとばかりに声をかける。
「やあ。入ってるよ。私としては、すぐに出ていきたいんだけどね。実は紙がないんだ。すまないが、トイレットペーパーを持ってきてくれないか。紙さえあれば、私は光の速さでうんこを拭いてみせるよ」
反応がなかった。困った。もう一度声をかけようとしたときだった。ドンドンドン、と、またドアがノックされた。
「だから、紙がないんだ。持ってきておくれよ」
ドンドンドン。
「なんだい?」
ドンドン、ツー、ドンドンドン。ドン、ツー、ツー、ドン、ドドン。
私は気づいた。
これは……モールス信号?
「雲山か!」
ドン! とひときわ高くノックの音が響いた。
さすがに男性に紙を持ってきてもらうわけにはいかない。
顔が熱くなった。
(よりによって雲山に聞かれてしまうなんて……なんて確率だい……)
頭をかきむしった。それから、
「一輪を呼んできてよ!」
と大声で怒鳴った。
◆ ◇ ◆
「というようなことがあったんだ」
「大変でしたねえ。というか、雲山ってトイレに入るんですね」
数日後、こたつでみかんを食べながら、私はご主人に事の顛末を話した。新年早々最悪だった。
「今後は同じことがないように、きちんと紙を確認してから用を足すよ」
「ナズーリンはきれい好きですねえ」
「……まさか、ご主人」
「ご、誤解しないでくださいよ。私だって、ちゃんと拭いてますよ」
私はほっとした。
ノーパンティーに大きく傾倒しているご主人のことだから、今回も私の想像を越えることを言い出すんじゃないかと思った。
「ところで、お尻の穴、のことですけど、そのまま言うのは乙女としては恥ずかしいですよね。アナルから連想して、ダニエル、とでも呼んではどうでしょうか」
「あまり使うあてのない単語だよね……」
とかどうでもいい話をしていたときだった。
トイレのほうから一輪の、恥ずかしそうな声が聞こえてきた。
またなくなったのか。
「悪魔の所業ですね」
「今度紅魔館の連中に話を聞いてみるよ」
私はとてとて走って助けに向かったが、トイレットペーパーを常備している場所を確かめると、在庫がないことがわかった。しかたないので、ドア越しに一輪に芯の有効活用をするようにすすめてみた。
数分後、平気な顔して一輪が出てきた。
芯を使ったんだな、と思って確かめるとトイレットペーパーホルダーにまだ芯は残っていた。
ポケットティッシュでも持ってたのか、と思ったがそれならわざわざ呼ぶこともないはずだ。
Mysteryだった。一輪に訊いたが答えてくれない。
歩き去る一輪を後ろから見て、ご主人がつぶやいた。
「私にはわかります……一輪は今、ノーパンティーです」
~Fin~
お正月である。
前作、『ナズーリンのプレゼント』(作品集133)にてつつがなく結婚した私とご主人だが、とくに生活が変わることもなく年を越して新年を迎えておせちを食べた。
ふたりきりではないとはいえ、一応ずっと同居しているし、私がご主人のお世話をするのも変わらないのでべつだん気合を入れて何かする必要もない。
と考えながら私はずっとトイレにこもっていた。
(おせちデストロイ)
という言葉が頭の中をぐるぐるする。
一輪が作ったおせちはふつうに美味しかった。村紗が作ったおせちはカレー臭かった。白蓮が作ったおせちは昔の人らしく味付けが濃くってしょっぱかったが、まあ、美味しかった。ぬえが何故かメガてりやきバーガーを持ってきたのでそれも食べた。ご主人の作ったおせちは、「ナズーリンのために作ったんですよ」と言って煮物にも鮭にも高野豆腐にも黒豆にもたっぷりチーズがかかっていて、最後にそれを食べきったところで直腸に限界が来た。
(メガてりやきがカロリー高すぎたのかな)
と私は思った。何せ、903キロカロリーある。メガマックの754キロカロリーを上回る驚異のデブバーガーと言えた。その他に六段重ねのおせちを四つたいらげていることもあり、多少節制しないと太ってしまいそうだった。
(太った私ではご主人に嫌われてしまうからね……はうっ)
乙女なので詳細は語れないが、ドイツ語ふうに言うとイッヒ・フンバルト・デルベンという感じだった。
すごかった。
落ち着いたので、出ようと思ったら紙がなかった。
◆ ◇ ◆
(これはピンチだね)
私は冷静に考えた。困った時こそ落ち着いてよく考えること。私はこのようにして、常に正解を選んできた。
カランカランカラン、とトイレットペーパーホルダーが無常な音を立てて回った。どこの誰だか知らないが、紙を使い切ったあとに補充もしないで去るなんて、人間のする所業と思えない。妖怪だけどみんなそういうのはちゃんとすると思う。悪魔の仕業だ。紅魔館ではどのようにしてお尻を拭いているのだろう。
とそこまで考えて自分があまり冷静でないことに気づいた。いけないわ、と普段使わない女言葉で自分を戒めてみた。何も解決しなかった。
(トイレットペーパーの芯をうまく剥いで、紙状にして、揉んで柔らかくすれば……)
とも考えた。悪い案ではないと思ったが、やはり正規品ではないのでお尻がざらざらになってしまうかもしれない。
私の可愛いお尻がざらざらになっては、ご主人が悲しむだろうと考えた。だからこれは、最後の手段としてとっておこう。
次に私は最も安全な策を実行することにした。
「おーい、誰かー」
人を呼ぶ。ちょっと、かなり恥ずかしいが、しかたないだろう。背に腹は変えられない。
「誰かー、来てくれないかー、紙がないんだよー」
けっこう大きな声で呼んだ。誰か来てくれないかと、耳をすませた。宴会やってる部屋の方からちゃんかちゃんか鳴り物の音が聞こえた。オウシット、今は白蓮のアナーキー獅子舞踊りの時間だ。人里に行ったとき、阿求とかいう可愛い子から教えてもらったのを披露する、と宣言していた。紅白歌合戦の幸子を見ながら「私のほうが上です」と言っていたので宴会芸としてそうとうの自信作なんだろう。私も見たい。すごく見たい。
(こうなっては、芯を使うしか……)
決心しかけたときだった。トイレのドアがどんどん、とノックされた。
(助かった!)
と私は思った。ここぞとばかりに声をかける。
「やあ。入ってるよ。私としては、すぐに出ていきたいんだけどね。実は紙がないんだ。すまないが、トイレットペーパーを持ってきてくれないか。紙さえあれば、私は光の速さでうんこを拭いてみせるよ」
反応がなかった。困った。もう一度声をかけようとしたときだった。ドンドンドン、と、またドアがノックされた。
「だから、紙がないんだ。持ってきておくれよ」
ドンドンドン。
「なんだい?」
ドンドン、ツー、ドンドンドン。ドン、ツー、ツー、ドン、ドドン。
私は気づいた。
これは……モールス信号?
「雲山か!」
ドン! とひときわ高くノックの音が響いた。
さすがに男性に紙を持ってきてもらうわけにはいかない。
顔が熱くなった。
(よりによって雲山に聞かれてしまうなんて……なんて確率だい……)
頭をかきむしった。それから、
「一輪を呼んできてよ!」
と大声で怒鳴った。
◆ ◇ ◆
「というようなことがあったんだ」
「大変でしたねえ。というか、雲山ってトイレに入るんですね」
数日後、こたつでみかんを食べながら、私はご主人に事の顛末を話した。新年早々最悪だった。
「今後は同じことがないように、きちんと紙を確認してから用を足すよ」
「ナズーリンはきれい好きですねえ」
「……まさか、ご主人」
「ご、誤解しないでくださいよ。私だって、ちゃんと拭いてますよ」
私はほっとした。
ノーパンティーに大きく傾倒しているご主人のことだから、今回も私の想像を越えることを言い出すんじゃないかと思った。
「ところで、お尻の穴、のことですけど、そのまま言うのは乙女としては恥ずかしいですよね。アナルから連想して、ダニエル、とでも呼んではどうでしょうか」
「あまり使うあてのない単語だよね……」
とかどうでもいい話をしていたときだった。
トイレのほうから一輪の、恥ずかしそうな声が聞こえてきた。
またなくなったのか。
「悪魔の所業ですね」
「今度紅魔館の連中に話を聞いてみるよ」
私はとてとて走って助けに向かったが、トイレットペーパーを常備している場所を確かめると、在庫がないことがわかった。しかたないので、ドア越しに一輪に芯の有効活用をするようにすすめてみた。
数分後、平気な顔して一輪が出てきた。
芯を使ったんだな、と思って確かめるとトイレットペーパーホルダーにまだ芯は残っていた。
ポケットティッシュでも持ってたのか、と思ったがそれならわざわざ呼ぶこともないはずだ。
Mysteryだった。一輪に訊いたが答えてくれない。
歩き去る一輪を後ろから見て、ご主人がつぶやいた。
「私にはわかります……一輪は今、ノーパンティーです」
~Fin~
正月から何を読ませるのですか!
聖の場合は……やはり、あれか、エア法典を……使うのだろうか……。
馬鹿野郎wwwww
あと作者様はドイツの人に謝れwwwww
地の文のセンスに吹いたw
ドイツ人に謝れwww