?月?2日
魔界二日目、少しまだ慣れないもののなんとかこの世界の状況はだいぶ理解出来てきたとは思う。
しかし魔界は魔法が根本として成り立っている分、使えない私には多少不自由さが出るのは仕方ないかしらね。
ここにパチュリー様かアリスか魔理沙がいてくれれば問題は無いのでしょうけど。
それにしても大丈夫だろうかあっちは。
お嬢様、妹様、美鈴、パチュリー様、小悪魔、メイド達、バイトのレティ……
今頃何しているのかしら。
お嬢様と妹様の世話は誰かがしてくれているだろうか。
美鈴は私のいない穴を埋めてくれてるだろうか。
パチュリー様の暴走を小悪魔はちゃんと止めてくれてるだろうか。
メイド達をレティが監督しているだろうか。
不安に思うとどうしょうもない。
希望的な事を考えるとひょっとしたらルナサが私の代わりに頑張ってくれているかもしれない。
何時、帰れるようになるのかしら、ね。
「お早う。夢子」
普段の生活と同じ時間に起きる。
時間の概念は同じであるのは幸いね、どうにも決めた時間に起きられないとしっくり来ないから。
朝の状況は昨夜の内に聞いておいたからこのくらいがちょうどいいかしら。
リビングにはちょうど夢子が来たところのようね。
呼び捨てにしてほしいという頼みは私を同職の好敵手として見たが故、なのかしら。
「えぇ、おはようございます咲夜。昨日はぐっすり眠れたかしら?」
「おかげ様でね、いいベッドメイクでしたわ」
ふふふ、とお互いに笑う。
その間に火花が散っていると第三者ならいいそうだけど。
「……ふぅ、朝からピリピリするのもアレね。
勝負の時以外は協力関係なんだから、休戦にしない? 」
「……それもそうですね。服のほうはどうかしら? 」
今私が着いるのは目の前の夢子のメイド服と同じ赤いメイド服。
さすがに服など持ってきているはずもなく、着ていたメイド服一着のみ。
これでは生活などできようはずがない。
というわけで夢子のメイド服を少し拝借させてもらう事になった。
最初神綺さんの服を着たのだけどちょっとサイズが合わなかったので遠慮させてもらった。
貸そうとしてくれた魔界神は「うぅ…胸、胸か……胸、うぅぅぅ……」と何故か打ちひしがれてたけど。
「窮屈な感じもしないし問題は無いみたい。
ただまだ色の違和感はあるわね、その内慣れるとは思うけど」
真っ赤なメイド服は今はまだどうも慣れない。
紅魔館のメイド服は全部青が基調となっている。
まぁ何日か経てば慣れるとは思うけど……
「そう、よかったわ。
では朝食を作るから……どうやって当番を決めましょうか」
お互い譲るつもりがないのは職業病かしらね。
居候という形だから何かを手伝いはしないといけない。
だけどこの家にはメイドは既にいる。
ならば取り合いになるのは必然。
「じゃんけんが一応公平ではないかしら」
「そうしましょうか……」
互いに手をだす。形は私がぐー、向こうがチョキ。
じゃんけんの結果は私の勝ち。
つまり私が朝食担当ね。
「負けましたか……ならば朝食は期待させてもらいますね?」
「えぇ、驚かせてあげるわ」
それでは、と夢子は去っていった。
さーて、手を抜く事はしないけど手が抜けないわね。
早速私は戦場である台所で朝食作りを開始するのであった。
「うーまーいーぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 」
「神綺様落ちついてください」
……とりあえず満足してもらえた、という事でいいのかしら?
魔界神はばくばくと食べ始めているから問題はない、だろう。
問題は。
「ふむ、なるほどなるほど」
こっちの方が本命、といわんばかりかしら。
サラダのレタス一枚気を抜いた覚えは無い。
相手は長年この魔界神の料理を作ってきた生粋のメイド。
その腕は昨日の夕飯で十分に拝見させてもらった。
認めざるをえない、彼女は本物であった。
だからこそ認めさせないといけない、私もメイドなのだということを。
そして彼女が一度フォークを置いた。
「……ふぅ」
「どう、かしら? 」
緊張の一瞬。
こんなに緊張をしたのは久々だった。
お嬢様や妹様に料理を出すのももちろん緊張はする。
最初の頃なんて緊張のあまり市販の胃薬を飲み切る程だった。
人間、慣れとは怖いもので今お二人に出す時にはあの時ほどの緊張感は無くなっていた。
しかし、今まさにあの時に匹敵する緊張感を私は感じていた。
実際問題本当の同業者と会うのは実は初めてだったりする。
妖精メイドは私の部下として既に一線を引いてしまっている。
それにまだまだ未熟者、まぁ心だけは少しだけ認めてあげてるけど。
しかし目の前の彼女は完璧たるメイド。
暑くも無いのに汗を感じる。
果たして、彼女の感想は……
「……それでこそ、とでも言っておきます」
「……そう」
ホッと一息ついた。
真剣勝負が終わった後は何とも疲れるものね……
「私も緊張したんですよ?昨日の夕食は」
意外なコメントだった。
平然と料理を出してくるものだからメイドは他にもたくさんいるものだと思っていたのに。
「あら、あなたのことだからてっきり教え子でもいるのかと思ったわ」
「いませんわ、あなたのように部下だなんて。
神綺様のお世話をするのは私だけの特権ですから」
そう言って朗らかに笑う夢子を見て不図私は神崎さんがこちらを見ている事に気がついた。
一瞬だがそんな夢子を見て優しげな瞳を覗かせたのは気のせいではないだろう。
どちらも互いを心の中から信頼している。それがよくわかった。
そして
ここに来て初めて、寂しさを感じた。
「さて、それじゃあ行きましょうか」
朝食後、掃除に洗濯を夢子と分担して終わらせるとお茶を飲みながらまったりしていた神綺さんが唐突に話しかけてきた。
いったい何の話かしら。
「神綺様、どこに行くのか言っていただけませんと私達には何が何だかわかりません」
夢子が手を上げて答えた。
夢子も何の事かわからないとなると思い付きの行動と見た。
「え?あぁ、ごめんね。
咲夜さんに魔界を案内しないとね、と思って」
「それはありがたいお話だけど……いいの?
この世界の創造主が私みたいな招かれざる客を案内なんて」
周囲の目は大丈夫なのだろうかと心配になる。
あらぬ誤解でもかけられるとお互いによくないと思うのだけど。
「何言ってるの、あなたは私と夢子ちゃんのお客様よ。
私が案内してはいけない理由もないし、疑われるような理由もない。
それにここは私の作った魔界、私が案内するのに一番の適任者だと思わない? 」
えっへん、と胸を張られた。
なるほど、正論である。
この世界を統べる神ならばこの世界の事を一番よく知っている、自分が作った世界なのだから。
つまらない事を聞いたかしらね。
「そうね、ありがとう。
色々と案内してくれると助かるわ」
「ふふふ、魔界の事ならこの魔界神にまーかせなさーい!」
「あれ?ここどこだっけ? 」
「神綺様、先程通りましたよここ」
「……大丈夫?」
「さぁ、ここを曲がれば……あれ? 」
「ご自宅に戻ってきましたね」
「知らず知らずに元の場所に戻る才能を褒めるべきなのかしらね、これは」
「うわあああああああああん夢子ちゃああああああああああああん」
「はいはい神綺様、僭越ながら私が案内役を代わりますわ」
「よろしくね(何だろうこの既視感……)」
結局全て案内してくれたのは夢子だった。
言い訳を聞くと曰く、方向音痴だからしょうがない、だそうだ。
方向音痴の神ってどうなのよ……
?月?3日
今日はこっちの知り合いが増えた、二人の魔女、というか魔法少女?みたいな子が二人、マイとユキという二人だ。
そして、アリスと同じ名前を持つ小さな魔法少女。
前者二人見て思い出したのは腹黒兎と白黒魔法使い、性質が似ているというか何というか。
特に見た目は白いけど腹の中は真っ黒な方は後でたっぷりと教育、じゃない、話をしようと思う。
そしてアリスと同じ名前の子には何故か敵視される羽目になった、なんでよ?
?月?4日
敵視される理由がわかる。
どうやら私が人間だということがそもそもの理由らしい。
何でも、この魔界に巫女やら魔法使いやら妖怪やら悪霊やらが来た時の事が原因だろうと夢子に言われた。
まさか本当にどこぞの霊夢やら魔理沙が原因じゃないでしょうね……?
まぁ来襲してきた原因はこっち側にあったらしいのだが。
でも嫌よ?他人のせいで私まで迷惑がかかるのは。
機会があればじっくりと話し合わないといけないかしらね。
あぁそうだ、後もう一点書いておく。
あの腹黒魔法使いが魔法でいたずらをかけてきたので吊るしておいた。
今頃もう片方の子が探してるんじゃないかしら。
きっと報復に来ると思うので一応注意を怠らないようにしておかないと。
?月?5日
今日はお茶会という事で関係者が皆集まった。
もちろん門番の子やら案内人の白い帽子の子やらも来ていた。
そして賭けにでたのだが何とかアリスと打ちとけられたようだ。
まだぎこちない彼女が何だか微笑ましく思えてくる。
むしろあの腹黒、一度埋めてもまだちょっかい出してくるとは元気がありすぎて困る。
そしてこちらが重要なのだがどうやらこの魔界と私達の幻想郷は繋がりがあるらしい。
何でもこの世界はあっちの世界にとってはパラレルワールドの一つなんだとか何とか。
よくはわからないがひょっとしたら神綺さん達とは別の形で会っていたかもしれない、のかしらね。
とりあえず向こうが私を戻そうとしているのならばコンタクトが取れるはず、とは言っていた。
……パチュリー様頑張ってますよね?信用していいですよね?
少しだけ寝る前に不安になってしまった。
明日に影響が無ければいいけど。
「こんにちわー!一番乗りー! 」
「いらっしゃいユキちゃん、庭で夢子ちゃんと咲夜さんがお茶とお菓子を用意してくれてるわよ。
あれ?マイちゃんは? 」
「あれ?さっきまで一緒だったんですけど? 」
庭から玄関を見ればユキと神綺さんが会話をしていた。
その会話を聞き、辺りを探る。
あの困った腹黒の事だ、奇襲を……!
「そこっ! 」
「ちっ! 」
庭の木陰からこちらの様子を窺っていたマイに向けてナイフを投げる。
しかし初めから予測していたのだろう、防御結界を発動させたのか彼女の1メートルくらい前で何かに弾かれた。
「こらマイ、咲夜は私の友人にしてライバル、神綺様のお客様でもあるのよ? 」
「すいません夢子様、以後気をつけます。
……おいそこの人間早く塀の外へ出ろ、決着をつけてやるわ」
あれだけ顔と口調を綺麗に変えられると見事とすら思えてくるわ。
夢子ははぁっと、溜息をついた後、私の肩に手をおき、
「適当にやっちゃっていいですわ、あの性格と根性の悪さは直りませんし」
「え、ちょ夢子様!?えっ!?私見捨てられた!? 」
やってしまえという許可が出た。
だったら……遠慮しないでいいのよね?
「手早く一撃で仕留めておくわ」
「ふ、ふん、人間ごときに私を仕留められるはずがな……」
とりあえずこれ以上は何か可哀相になってくる気がしたから時間を止め、彼女の背後へ。
後ろから腹周りを掴み、時を動かす。
「え?あれ?何時の間に!?」
「とりあえず………………埋まっときなさい! 」
勢いよくメイド式バックドロップで庭に埋めた。
おぉーと夢子が拍手を送ってきた。
ふぅ、すっきりしたわ。
「あれ?マイ?何してるの、そんな頭から垂直に埋まって。
あぁ、何だっけ、ねこかみじゃなくて、えーと、えーと、いぬかみ、いやなんかちょっと違うような…えーと、えーと」
「思い出さない方がいいわよ、少し経ったら引っ張り出して頂戴」
ユキと神綺さんが席に着いたので夢子と二人で紅茶とお菓子の用意を。
お茶菓子は定番のクッキーとチョコレートを。
後来るのは……
「こんにちはーお呼びいただきましてありがとうございます」
「どうもー、神綺様、こんにちは」
案内をしてくれたルイズという子、そして門の場所であったサラ、そして……
「……こんにちは」
少し伏し目がちにしながら魔法書を力強く抱いてアリスがやってきた。
こちらをちらりと物凄い勢いで睨んできた。
マイがまだ冗談で済ませられる範囲だがこっちは違う。
心の底から私を敵視しているのがわかる。
神綺さんがアリスの後ろで困った顔をして頭を下げる。
わかってる、わかってるわよ。
でも……何時までもこのままってわけにはいかないわよね。
「さぁ皆、席に座って。
今日は咲夜さんについて色々と話しておかないといけないわ」
神綺さんの号令の下、適当に席に座る。
マイはとりあえず埋めた責任として私自ら引っこ抜いた。
これで少しは懲りてくれると嬉しいのだけど。
「まず初めに、咲夜さんの世界に戻れるか否か、だけど。
その目途をつける事ができたわ、尤も、咲夜さんの世界からのアクションがあれば、だけど。
そしてこの魔界、ひいてはこの世界と咲夜さんの世界がパラレルワールドの一つという事に行きついたわ」
パラレルワールド?……えぇと、確か同じような世界だけど別の世界とかそういう感じのものだったかしら。
「前に巫女やら魔法使いやらが来襲して来た事件は皆覚えているわよね?
そして、あの彼女達が来た場所こそ、幻想郷。つまり、咲夜さん達の世界と同じ名前の場所」
その言葉に私は驚きを隠せなかった。
まさか、いやでも霊夢も魔理沙も魔界に攻め込んだなんて話はしたことがない。
つい最近の出来事だったらしいしそんな話は一言も聞いた事がない。
あ、だからパラレルワールド。
私達が存在しない幻想郷。だから私は魔界なんて知らない。
おそらく霊夢も魔理沙も、そしてスキマ妖怪すら知らない、故にここはIFの世界。
「ごめんなさいね咲夜さん。
あなたが自分の世界について話してくれている時に実は少し気付いてたの。
もしかしたらこの人はパラレルワールドから来てしまったんじゃないかって。
でも、確証がまだなかったから何も言わない事にしておいたの。もしも間違えていたら、と思うとね」
「いいえ、確証がない話をされても仕方がなかったわけだし。
こうして私達とあなた達は出会った、それがよかったのかどうかはわからないけど……
私は感謝してるわ、知り合いが出来たし、親切にされたのもそうだし、ライバルも出来た」
でも、と私は繋ぐ。
視線は自然と小さな魔法少女へ。
彼女は何か苦虫を噛み潰したような苦々しい顔をしていた。
「私達の世界にもアリスっていう魔法使いがいるの。
あなたが大きくなって並んだらどっちがどっちかわからない程に見た目もそっくり。
だからってわけじゃないけど……アリス、短い付き合いになるかもしれないけど、仲良くしてくれないかしら? 」
「…………なんで?あなたは帰っちゃう人間でしょ?
きっとあなたの世界に戻ったら二度と会えない、だったら仲良くする必要なんてないじゃない! 」
顔を真っ赤にしてテーブルを叩き、立ち上がるアリスを見て夢子が動こうとするが、神綺さんがそれを止めたのが横目でわかった。
ありがとう、と心の中で感謝する。
「そうね、確かに私は近い内に帰る事になるわ。
でもねアリス、その時に私は笑顔で別れの挨拶を交わしたいのよ。
私はね、後悔しながら自分の世界に帰りたくないの」
そう、私の我儘。
何か他の奴からおい私の事忘れてないか?と言いたげな視線を感じるが気付かない振りをしておく。
それに何より……似過ぎてるのよね、昔の妹様に。
私を敵視していて、だけどどこか寂しげな、そんな目。
だからかしらね、こんな事をしているのは。
「何よそれ、結局そっちの勝手じゃない。
私は別にあなたがいなくなったって清々するだけだもん……」
だんだんと彼女の目に涙が溢れてくる。
自分でもよくわからないのだろう、今の自分の感情に。
「人間は嫌?」
「嫌いよ、傲慢で、憎たらしくて、私の大切な人達を傷つけるような奴ら」
誰であるのかは……聞かなくてもわかる。
気付けばそっと神綺さんがアリスの背後に立っていて彼女を背後から抱き締めた。
「アリスちゃん、咲夜さんは前に来た巫女や魔法使いみたいな人じゃないわ。
それにね、そんなに気負わなくで、私まで悲しくなっちゃうわ」
「神、綺……さま……」
「咲夜さんはね、あなたを虐めたりはしないし、私達だって同じよ?
お友達になりたいって言ってるのに、人間だからって理由で嫌ってちゃ駄目よ。
そんなんじゃ咲夜さんが帰っちゃった時、絶対後悔するもの」
「………………ぐすっ、ごめんなさい神綺様。
私、ずっと、ずっと悔しかった。
人間達に負けて、夢子さんや神綺様まで負けちゃって、そして敵討ちもできなかった。
だから、人間が憎かった、そんな事他の人間達には全然関係ないのに……」
何かいい所を持っていかれた気がする。
でも神綺さんの胸の中で泣くアリスとそれを優しく抱き締めている神綺さんの姿に何も言えないし、何も言わない。
神、というよりは最早母親ね……これが向こうの第三者から見た私、か……
私はこんなに立派な事はできてないわよ、全く。
「……咲夜」
「何かしらアリス」
涙を拭き、こちらを見るアリス。
その目は何かが吹っ切れた、そんな印象を感じた。
「か、帰るまでに何かプ、プレゼント、するから……受け取って。
そ、それと……その……ごめんなさい」
真っ赤な顔でぷいっと顔を逸らしつつもこちらをじっと見ている彼女に自然と笑ってしまった。
な、なによ!と膨れる彼女の頭をそっと撫でる。
「ありがとう、期待して待ってるわ。
じゃあ私も、何かプレゼントを考えなきゃね? 」
「う、うぅぅぅぅぅ……やっぱり、人間なんて、咲夜なんて、嫌い! 」
神綺さんの後ろに逃げられてしまった。
どうにかこうにか、これで彼女とはこれで上手くやっていけそうだ。
全く、何をしてるのかしらね……私は。
と、これで綺麗に終わってお茶会が出来ると思ったのだが
何時の間にか私の紅茶に何か得体のしれない物(凄い辛かった)をマイがこの隙に仕込んでおり、
間違えて私の紅茶を取ってしまった夢子が倒れたり、それを見たマイが自爆して皆から制裁されたり、
それを恨んで再び私に襲いかかってきたりでぐだぐだになってしまった。
全く、困った魔法少女が多すぎよここは!
?月?6日
おそらく反応があるとすればここだろう、と言われ最初に来た場所、ゲートに行って来た。
サラに会って色々と話し込んだがあの真面目さはどこぞの門番に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだわ。
帰るに当たって彼女に一つ、世話になったプレゼントをしてきた。
白いスカーフ、中々似あっていたので自分のセンスに少しだけ自信がついた。
明日は街を見てこようかしらねぇ。
?月?7日
街を色々と見て回っていたらルイズと会った。
立ち話もと思って喫茶店に入ると私の世界についてこれでもか、という程に聞いてきた。
他の世界、というものに凄い興味があるらしく、その勢いは妹様を思い出すほどに強烈だった。
おかげで喫茶店で7時間も幻想郷について話をさせられ、かなり疲れた。
そんな困った子だったがプレゼントに水色の帽子。
ありがとう、と素直に受け取ってくれその場で被ったがちゃんと似あっていたのでホッとした。
そういえば話をしている最中にどこからか視線を感じたが……気のせいだったのかしら?
?月?8日
朝からユキに拉致された。
皆とばっかり一緒に遊んだりしててずるーい!とは本人の弁。
映画を見たり、買い物をしたり、昼食をとったり、電車で色々と回ったり……まるで昔の自分の世界を回っているような、そんな感じ。
結局最後は電車でユキは寝てしまい、おんぶをして帰ってきた。
全く散々連れまわしたあげくこれでは子どもと変わらないじゃない。
とはいえ彼女のおかげで一日楽しかったのはここだけの話。
彼女の枕元に赤いブローチを置いておいた。
きっと明日の朝は大はしゃぎしてくれると思う、というか、それはそれで困るかしら、ね。
?月9日
ユキはさっそくブローチをつけて帰って行った、それはいい。
しかし今日はどこかへ行く度にマイに襲われた。
いくら放り投げても埋めても不死鳥の如く蘇ってくるあの姿には戦慄すら覚える。
結局ほとんど落ちついて街を見ることもできず、この家にまで襲いかかってきたのでメイド式アッパーカットで倒した。
それでなお起き上がってきたがそれまでと違い、顔を伏せて暗くなったのでどうしたのかと近づいたら至近距離で魔法をぶっぱなされた。
危うく当たりかけたが時を止めて回避、自爆紛いの事をした彼女はもちろん無事ではなく真っ黒焦げ。
それでも立ち上がってこようとする彼女になんでそこまでするのかを尋ねた。
曰く、もう会えなくなるかもしれない、ならば一回でもいいから勝ちたい、勝ってまた来る事を約束させる、そういう事だった。
しかし限界の彼女は立ち上がるのがやっと、そんな彼女に私は金色のブレスレットを渡して
「このブレスレットを賭けて、何時か勝負しに来てあげる、それまでに私を倒せるほどに強くなりなさい」と約束した。
彼女はそれを聞いて強がって涙ながらに色々と言ってきたが最後にありがとう、と言ってくれた。
とんだあまのじゃくにあったものだ、と今さらながらに思うのであった。
?月?10日
今日どうやら幻想郷のパチュリー様とコンタクトが繋げたようだ、とサラがやってきた。
神綺さんと夢子と一緒に確認しに行ったところ、間違いなく幻想郷と繋がった。
おそらく戻ったら簡単には魔界に再び来る事はできないだろう、という程に不安定だそうだ。
明日帰る事が決まったがならばどうしても今日中にやっておかなければいけない事があったのでやらせてもらった。
そう、夢子とのどちらが優れたメイドなのか、という勝負だ。
勝負は3回の2本先取。
1戦目は掃除、2戦目は料理、そして3戦目は実力勝負、という内容だった。
1戦目は私が、2戦目は夢子が、それぞれ勝利をおさめ、勝負はやはり最終戦までもつれ込んだ。
結果だけで言えば引き分け、夕飯の時間までに終わらせる事ができなかったから、という時間切れの結果である。
お腹減ったよぉ~と神綺さんが泣き始めたおかげで勝敗はうやむや、よかったのか悪かったのか。
しかしもしも次が会った時にこの決着をつける約束をつけ、私と夢子の勝負は引き分けという形で幕を閉じた。
そして紫水晶のピアスをプレゼントし、彼女と分け合った。
再戦の誓いと、そして自分が認めるライバルであり、友人でもあるという友情の証。
これで明日、私は戻れる。
ただし心配なのはアリスだ。
この数日私へのプレゼントを用意する為か会っていない。
明日帰る事はルイズが伝えたそうだが果たして彼女は来てくれるのだろうか?
彼女にこのプレゼントを直に渡せる事を切に願う。
□月%日
幻想郷へ帰還。
私はこの地で、紅魔館で、お嬢様達と一緒に暮らしていける事を幸せに思う。
神綺さん、アリス、夢子、マイ、ユキ、ルイズ、サラ…………また、いつか会いましょう。
今度はきっとお嬢様達と一緒に会えると、そう私は信じている……
門のような場所、ゲートというらしいが、から力の奔流を感じる。
ここを通れば幻想郷へと帰れる、そう言われた。
集まっているのはお茶会の時の皆、しかしそこには一人だけ足りなかった。
「……アリスは間に合わなかったのね」
「アリスちゃん……今から迎えに行く? 」
「いえ、きっと彼女は来てくれる、そう信じてるわ。
さて、それじゃあ彼女が来る前に言うべき事を言っておくわ」
そして皆の方を見る。
一分泣きだしてる子がいるが私は平然とした態度を崩さないように努める。
こうして泣いてもらえるのは本当に幸せな事だから。
「サラ、これからも頑張ってね」
「えぇ、そっちも元気でね」
「ルイズ、今度はこっちが案内するわ」
「待ってるわ、その時を」
「ユキ、泣いてちゃ可愛い顔が台無しよ? 」
「ぐすっ…また、また一緒に、あそんでね!約束だよ! 」
「マイ、元気でね」
「…絶対次は勝つんだから、その時まで首を洗ってなさいよ…絶対に、絶対なんだから」
「夢子、またいつか」
「えぇ咲夜、あなたに会えてよかった」
皆私がプレゼントした品を身につけてくれている。
そしてこの場で唯一プレゼントをしていない人に銀細工が施されたペンダントを渡す。
「神綺さん、ありがとう、あなたのおかげで私はとても楽しい思い出が出来たわ」
「いいのよ咲夜さん、私達も同じ、とっても楽しい思い出ができたわ。
別れはきっと一時、いつかまた、こうして笑いあえる時が来るわ」
別れの握手を交わす。
そして手が離れると同時にドアがバンッ!と大きな音をさせながら開かれ、そこにいたのは…
「咲夜っ!!! 」
「……少し遅刻よ、アリス」
最後の一人がやってきた。
目に涙を溜め、ここまで全速力で走ってきたのか息を切らせて、彼女は私の前に立ち、
「はい! 」
と大きな声で私に渡してきたのは……ここにいる皆の人形だった。
見た目は良いわけではない、きっとこういう事は慣れていないのだろう。
どこか不格好な所すらある、それでも私にとってはとてつもなく嬉しいプレゼントだった。
……駄目よ、瀟洒な従者は涙を流すものじゃないわ。
なんとかグッと涙を堪え、
「ありがとうアリス、大切にするわね?
じゃあ私から……あなたへ」
そして私から彼女へ、赤い、髪留めのリボンを渡す。
これで……思い残す事はない、わね。
「ありがとう……しゃ、さく、や」
遂にアリスの限界が訪れた。
涙を流しながら大事そうにリボンを抱えるアリスに背を向け、私はゲートの方へ向き直る。
「それでは皆、私は帰るわね」
見せられないわよ、こんな顔。
涙を堪えて、それで尚あふれ始めてる顔なんて、見せられないわよ。
一歩前へ進む。
ここに来ての短いながらも楽しかった思い出が思い返される。
色んな事をした、色んな事ができた、そんな楽しい思い出。
だからこそ、一度だけ、振り向く。
「ありがとう……そして、また会いましょう」
それだけを言って私は再びゲートへ向き直り、そして走った。
得体の知れない空間に入ったかと思うと私はそこで直ぐに意識を失った。
「…!…や!…くや! 」
「ん……んん……」
「咲夜!目を開けて咲夜! 」
「んんっ……!?こ、ここは……お、お嬢様!妹様! 」
意識が戻ってまず見えたのはお嬢様と妹様の涙を流しているお顔だった。
直ぐに上体を起こすと辺りは大変な事になっており、本棚が守られている状態を見てここが図書館だということがわかった。
「咲夜!やっと起きたわね……心配、させてくれるじゃない」
「咲夜ぁ!よかったぁ……もう会えないんじゃないかって心配したんだよ? 」
二人とも目を真っ赤にして私に抱きついてきた。
そのおかげで私が今幻想郷に帰ってこれた事、そして私はやはり、ここで生きていくのだと、再び思う事が出来た。
周りを見ると号泣しながら立っている美鈴、泣き笑いを浮かべている小悪魔、そしてそっぽを向いているけどこちらをしっかり見ているパチュリー様。
メイド隊も皆どこかボロボロだけどちゃんと揃っていて、レティもその後ろでこちらに微笑していた。
予想外な事にルナサやアリス、幽香に魔理沙までいた。
きっと色々と迷惑をかけたのだろう、後で何と言って詫びればいいか。
いえ、でも、今は……
「ただいま戻りましたわ、お嬢様、妹様」
この幸せを長く感じていたい。
私の居場所は……やっぱり、ここなのだと、そう実感しながら。
咲夜さんの魔界生活で夢子とメイドとしての張り合い? とか、マイの悪戯と叩き込むメイド式技、
小さいアリスとの会話や、戻ってきた時のスカーレット姉妹や咲夜さんの心情など面白いお話でした。
これからも無理せず頑張ってください!
後日談も楽しみにしてます!
さくやにっきの続編のおかげでいい年越しになります
新年早々さくや日記が読めるとは思いもしませんでした。
こちらの澄ましているアリスを見る度に、あちらの感情的なアリスを思い出して弄りたくなりそう
無理なさらずに頑張ってください。
あなたの作品は全部大好きです!
お体を壊すことのないよう
無理をなさらずに頑張って下さい
コメディタッチ展開の中にほんの少しの暖かさ、ちょっと寂しさ、これぞ黒子さんだ!
いやはや、頑張って下さい!くれぐれもお体は大事に。
あと、そのほかの旧作メンバーも出ると期待してます!
そのときの紅魔館の方々が気になるので.5を楽しみにしています。