Coolier - 新生・東方創想話

虹にかけた夢は叶う。Ⅵ

2010/12/28 17:33:26
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耳に届くのは痛いほどの静寂のみ。
お互いの吐息の音だけが聞こえていて、それすらも自分の鼓動がかき消していく。











「私と、友達になってくれませんか」

なんて、
いってしまった。
何をしているんだろう、わたしは。
名前を聞くだけでよかったのに。
今まで人との交流を絶ってきた私が何をいまさら求めている。
もう二度と手には入らないと諦めていたのではないのか。
辛い思いをするのがいやで、逃げていたはずなのに。

でもこの気持ちはとめられない。
たとえ、雛に何があっても、私に何があっても、
それぞれの過去がどうあろうとも。
私は雛とつながっていたい。
友達という、ちっぽけなつながりでも私には、
私を包み込む暖かい毛布のように、
体を支えてくれるたくましい腕のように、
愛しくて切なくて苦しい胸のように。
とても大きな、シアワセの塊なんだ。


雛は思いつめたように、重く口を開いた。


「私は…友達がどんなものかしらないわ」
「言った私もわからないよ」
「え?」
「多分こんな感じなんだろうなーっていうぐらいにしか分かってないよ」
「じゃあ、それなら貴女の言う友達はどんなものなの?」
雛は悲しそうに、辛そうに私に問い掛ける。そんな顔をさせるために言ったんじゃないのに。
雛の悲しそうな顔を見ていると、こっちまで悲しくなってくる。

私は雛に笑ってもらいたい。
雛が笑うと心の中があったかくなる。ドキドキする。恥ずかしくて顔を見ていられなくなる。
けど、今ではこの気持ちが幸せなんだってわかる。雛には今は伝わっているとは思えないから、伝えたい。共有したい。

だから、雛にはいつでも笑顔でいよう。
雛がいつでも笑っていられるように。
次に言う言葉は雛を笑わせられるかな?笑わせたいな。笑わせよう。

「私は、友達っていうのは目には見えないし、感じることを出来るものでもないと思ってる。
ただ、言い表したらそうなっただけで。本質は、欲求と慈愛だと思う。
私なら、雛と一緒にいたい。雛を幸せにしてあげたい。私は今雛とこうやっているだけでも幸せだよ。
でも、これだけじゃ足りない。
私は欲深いからもっと幸せになりたい。雛を幸せにしてあげたい。
友達っていうのは、この気持ちを何倍にも膨れ上がらせて、しっかり、甘く、強くするものだと思うんだ。
だから、雛。もう一度言うね。

私と、友達になってください」

一人も友達がいない、現在進行形で作ろうとしている私が言うのはおごがましいけれど。




「―――っ」
深い翠から雫がこぼれ落ちた。
雛は肩を小さく震わせて泣いていた。
なにか言ってはいけないことを言ってしまったんだろうか。

声を我慢して泣く姿は、あまりにも儚げで、この世のものではないように見えて。風が吹くと消えてしまいそうなほどにか弱かった。

「ご…っごめん」
「っく、いや、ちっが、うのぉ」

何が違うと雛は言うのだろう。
泣かせてしまったのはどう考えても私なのに。

「うれ、しくてっ…私の、こ、とをっそん、なふう、に、おもっ、、て…くれて、いる人がいて、嬉しくて。
でも、断らなきゃ、いけ、なくて。私も、友達、になりたいっ、けど、私は、やっ…く、じん、だからぁっ……」

厄神。人の厄を集めて、人を災いから守る神。
厄そのものが危険で、厄神に近づくものは皆災いが降り懸かる。
厄神には影響は無く、自分の知り合いだけに災いが降り懸かり、自分だけが無傷で残る。
近づけば不幸になるということで、人を幸せにしているのに人から敬遠される神。

厄神が雛。雛が厄神。

初めて出逢ったあの夜、雛が集めてたふわふわしてキラキラしてたのは、厄だったんだ。

あのとき、雛が凄く綺麗で、可愛くて……

と、そこまで思い、思考が一つの事項でストップした。

雛は厄神。
自分の周囲に降り懸かる災いを、一番中心で、一番近いところで見てきたのが雛だ。

自分のことを思ってくれる人を、自分のせいで、雛にとって一番最悪な方法で失くしてきた雛はどんな気持ちだった?

悲しい?辛い?自責の念?
いや、もっと酷いはずだ。

そうじゃなければ、雛がこんな山奥にすんでいるはずがない。
そうじゃなければ、雛がこんなに苦しんでないているはずがない。

「わたしっ、と、繋がりを持つ、ものみ、んなっが、さい、やくにまきこまれて、しまう」

雛は涙を拭って、
辛そうに、綺麗な部分だけ搾り出すように。
汚いところは目に見えないように。

「私は人間が好き。
だから影から助けるの。私のせいで人が傷つくのはもう見たくない。私だって貴女と友達になりたかった。だけど、貴女が傷つくくらいなら私はどうなってしまってもいい。
貴女と絆を結ばないことで、貴女が傷つかずにすむなら、私は絆を結ばない。」


嘘だ。雛は嘘をついた。
そんな簡単に割り切れるものなんだったら、さっき泣いてないはずだ。
そんな簡単にすらすら言える言葉なんだったら、こんなにも辛そうな顔はしていないはずだ。

一つだけ雛に言い忘れてたことがある。
さっきの友達についてのこと。
「ねぇ、雛」
「なに?」
「私が思う友達の話なんだけどね。まだ続きがあるんだよ。
片方が凄く辛くて、悲しくて、潰れてしまいそうなとき、その気持ち、半分こすることが出来るんだ。
だから、今から私は雛の話は聞かない。勝手に友達になる」

言葉を言うと同時に雛に抱き着いた。
雛の体はすっごい軽くて、少しでも力を入れすぎると折れてしまいそうなほど華奢だった。

「っ!?離してっ!」
「いやだ」
「早く離して!」
「絶っ対にいやだ!」
「早く離れないと厄が…」
「厄なんて関係ない!」

一瞬、雛の体が強張る。
抱き着いているから雛の顔は見えない。
けれど、抵抗が弱まったのは感じた。

「厄?そんなものがどうした!
私は今まで雛に会いたくて会いたくて、夜も眠れなかったんだ。
やっと巡り会えて、人と話をしたことがほとんどない私が勇気を振り絞って、握り絞ってやっとここまできたのに、雛と別れるなんて絶対にいやだよ。
厄なんかがきたってへっちゃらだよ。吹き飛ばしてやる。
雛に危険があっても大丈夫。
私が駆け付けて、跳ね返してやる。

だから、雛。
今まで辛かったこと全部吐き出しちゃいなよ。
私が全部、受け止めてあげるから。」


雛が私に縋り付くように抱き着いてきた。
雛の腕に力が篭る。

ちょっと息苦しかったけど、今はそれさえも心地好かった。

つっかえながらもおずおずと雛は雛の厄を吐き出しはじめる。

「わた、しもね」
「うん」
「貴女と、出逢っ、て、から、ずっと、会いたかった」
「うん」
「声がき、きたい、触れ合って、みたいって思ってた」
「うん」
「でも、わた、しは、厄神、だ、から、がまんしなきゃっ、て思って、て、ずっ、と、つら、かった」
「うん」


後はもう言葉にならなかった。
今まで溜め込んできたものが爆発して、雛はずっと泣いていた。

でも、前とは違うのは状況と泣き方。
いまは辛くて泣いてるんじゃない。悲しくて泣いてるんじゃない。
嬉しくて、泣いてくれていることがものすごく嬉しかった。

声を堪えることも無く、好きなだけ気持ちを吐き出せる。

そうやって私の腕の中で泣いている雛が、とても可愛く、愛しかった。

落ち着いてきたのか、雛が真っ赤に腫れた目で上目遣いに聞いてきた。

「貴女は、ずっと一緒にいてくれる?」
「うん」

雛は最後に柔らかな笑みを浮かべ
「ありがとう」

と言い、泣きつかれたのか腕の中ですやすやと寝息をたてはじめた。


気が付けばそれなりに時間が経っていた。
時計を確認すると午後8時44分。
怪我人の身としてはそろそろ就寝したい時間だけど……


雛の家だからベッドが何処かわからない。
歩くのはムリそうだし、雛は眠ってしまっている。


一応、布団はあることはあるのだ。

私が寝ていた一組だけ。
雛を布団に寝かせないのは論外だ。家主であり私の大切な人をぞんざいに扱うなんて考えられない。
私は床でもいいけど、正直、布団に入りたい。そろそろ冬も近いこの季節、床で寝るのは寒い。

ぅ゛~ん



結果
雛は嫌がるかもしれないけど
一緒の布団に入れさせてもらおう。


立ち位置的に
雛が右側、私が左側で寝ることに。

技術者として無意識的にかどうかは知らないけど、
左手はボロボロなのに、右手は傷一つなかった。

仰向けになると背中がいたくて。左を向くと腕に激痛が。
右を向くとあまり痛くない。

右向きに寝るということはすなわち、雛と向かい合って寝るということ。

一組の布団だから凄く狭い。
私の目の前眠る雛はとてもあどけない寝顔を見せていた。


私は本格的に何処かおかしくなったのかもしれない。

目の前に眠る少女が可愛く見えて仕方がない。
いや、実際にかわいいんだけど、私の可愛いには別のなにかが混じっている気がする。

触れたい。
抱きしめたい。

寝てるし・・・いいかな?

雛を起こさないようにそっと、包み込むようにして抱きしめる。

雛の体は細く、軽く、柔らかかった。
やっぱり、私とは違う、現実離れした雛の魅力には敵わない。
あのときから、そう。ずっと。
こうして抱いているにもかかわらず、ふっと消えてしまいそうに感じる雛は
私がずっと繋ぎ止めたい。手に入れたい。支えたいと思っていたものだった。

幸せだった。
力を入れすぎないように気をつけないといけないけど、今まで私が求めていたもののすべてがこの腕にある。
その事を思うだけでも胸の中がギュッとしめつけられて、泣きそうになる。

実際泣いていたのかもしれない。
微かに雛から帰ってきたハグに後押しされて。

気づかないうちに私は
深いまどろみの中へと落ちていった。



にとりの腕の中で眠る雛は微かに涙を目に浮かべ、呟いた。


「にとり・・・ずっといっしょだよ・・・・・・」














―――暖かいポカポカした日差しの中で、手をつないで歩く二人がいます。
二人の少女はとても仲睦まじく幸せそうです。

水色の髪をした少女が悪戯をして、翠の髪の少女に顔を少し赤らめて怒られています。
水色の女の子がごめんなさい。と一言謝れば、
翠の女の子はそっぽを向きながら、許します。

二人のやり取りは見ているこっちまで笑顔にするような
微笑ましい光景を周囲に振りまいています。

翠の女の子は反抗的な態度を見せていましたが、
その横顔から、この状況が楽しいことが良くわかります。

一方、水色の女の子は翠の女の子の機嫌を直そうと頑張っていますが、
今にも泣き出してしまいそうなほど、翠の女の子が怒っていることが悲しく、
目を合わせてもらえないことが悲しく、いま、こうしてじゃれあっている時間が幸せで、
その大きな瞳にみるみる涙がたまってきていました。

翠の女の子はそれに気づき、やさしく抱きしめます。
水色の女の子も今までがどういう状況だったのかがわかり、翠の女の子と一緒に笑っています。

そのあと、
二人はさっきよりも幸せそうな笑顔でよりしっかりと、固く手をつなぎ、
弾むような足取りで道を歩いていきます。



その光景は、そう、まるで。

人に嫌われてきた河童と
人から距離を置いてきた厄神が
虹にかけた夢、そのものでした。

あるものは信じあえる友達が欲しいと願い、
あるものは手をつないで歩ける友達ができるよう願い。

二人はてくてくと楽しそうに歩いていきます。
二人の向かう先には、


どこまでも青く澄んだ空に
綺麗な、きれいな虹が大きく咲き誇っているのでした。
ご無沙汰してます。
いったん区切れはつけられたかな、と思います。

私はこれから、色々と忙しい時期に突入するんですね。
なので、悲しいですがこんな形で終わることになってしまいました。

私としてはもう少し続けていきたかったというのがあります。
そこで、今までの感想とか、ここをこーした方がいいよ!
など、注意していただければ幸いです。


ここまでこんな駄作にお付き合いくださった皆様、
本当にありがとうございました。

またお目にかかれる日を心待ちにしております。
それでは。
х桜星х
[email protected]
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コメント



0.300簡易評価
5.80名前が無い程度の能力削除
素敵な作品だったと思います。
ただ、もう少しまとめて投稿して頂ければと。