Coolier - 新生・東方創想話

わたしの可哀いこいし

2010/12/26 21:05:21
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 胸のあたりに息苦しさを覚えてこいしは目覚めた。しょぼくれた瞼をこすろうと腕を上げようとすると、なんだか自由が利かない。そうしてから唇に直接吹きかかる吐息を感じて、こいしは現状に気がついた。
 暗い暗い地霊殿の寝室で、そのまた暗いベッドの中、こいしの身体はがっちりとさとりにホールドされていた。上半身は背中で結んださとりの手がこいしの両腕を掴んでおり、下半身は左脚が姉の両脚に挟まれてしまっている。

(……なんでお姉ちゃんが私のベッドにいるんだろう)

 身動きが取れない寝惚け頭でこいしはうっすらとそんなことを考えた。亀のようにベッドから頭を出せばここが地霊殿主の寝室であることは一目瞭然なのだが、こいし的人生哲学に基づけば今自分が居る場所こそ自分の縄張りである。
 ともあれこのままではいつまでたっても起きることができない。自由な右膝を使ってぐいぐいとさとりの身体を押し、少し緩んだ両腕のホールドを振りほどいてのそのそとベッドから這い出る。
 寝ぼすけさとりはそこまでされてもむにゃむにゃと寝息を立て続けるだけで、こいしが寝室から出て行ったことには気づいていない様子であった。





 博麗神社の縁側で、お燐は野垂れ死んだかのように前脚を宙に投げ出し床板にごろりと頭を転がせて寝息を立てていた。
 ビタミンDの摂取中である。日光に乏しい地底では何かと欠ける栄養分だ。燦々と照りつける真夏の太陽光は、きっと地底の小さな太陽より良質な滋養を与えてくれるであろう。
 がらっ、と縁側に面した障子が勢いよく開いた。垂れていたお燐の耳がぴくりと跳ね上がる。洗い終えた洗濯物入りのたらいを抱えた霊夢は、足元のお燐に全く気づく様子もなく一歩足を踏み出した。
 腹を踏み潰される前に文字通り飛び起きたお燐は霊夢の足を寸前の所で避けた。縁側からさらにもう一歩足を踏み出した霊夢はそのまま空中をふよふよ浮いて物干し竿に向かい、洗濯物を干し始める。
 猫姿のままなので霊夢に文句が言えないお燐は、怨みのこもった視線を物干し竿に向けたが巫女の反応はリトマス試験紙を水道水に浸したが如くであった。
 ふてくされたお燐はその場で改めて丸くなる。尻尾も身体に沿わせて丸めようとした途端、何ものかの足がお燐の尻尾を踏み潰した。

「みゃぎゃあ!?」
「れいむーおはよー!」

 にっぱり笑顔でこいしは手にした菓子折りの箱ごとぶんぶんと腕を振って霊夢に挨拶した。
 襦袢越しにその光景を見た霊夢は、肩と共に浮遊高度を数センチ下げた。

「暑苦しいのに元気ねぇ、地底の妖怪は」
「巫女は気だるそうねぇ。だめよだめよ。灼熱地獄はここよりもっと暑いんだから」
「誰があんな所に二度と行くか。それより、足元」
「ん?」

 霊夢に指差されて自分の足元を見たこいしは、尻尾を踏まれて逃げるに逃げられないお燐がバリバリと自らの足に爪を立てている様子を見て、あちゃーと足を上げた。
 解放された途端にお燐は床板を蹴り宙を蹴り屋根に上ると、踏まれた部分を丁寧に舌で舐めて毛繕いし始めた。

「ごめんねーお燐。痛かった?」
「ふーー!!」
「私はお姉ちゃんみたいに心読めないからそんな風に言ってもわかんないよー。あ、そうそう霊夢。お姉ちゃんで思い出したけど、今日はお姉ちゃんからお土産持たされて来たの。はいこれ、地獄名物しゃれこうべ葛饅頭」
「名物ものって地元の人間は食べないらしいわよねぇ。で、ありがたくいただくけどそれ痛くないの?」
「何が?」
「足」

 空になったたらいに菓子折りを入れた霊夢はこいしの踝あたりを指差した。さきほどお燐に爪を立てられたあたりの皮膚が引っ掻き傷でめくれ、赤みを帯びた傷跡が幾筋も滲んでいる。
 それを見てこいしは、ぐっと眉根を寄せて目尻に涙を浮かべた。

「うっ、見たら痛くなってきたわっ」
「サトリ妖怪ってどんだけ鈍いのよ。はいこれ」

 霊夢は家の中に入って因幡印の軟膏を持ってきて、人差し指を舐めては傷口におそるおそる触れるなどということを繰り返していたこいしに手渡した。
 剥がれた皮に引っかかる軟膏を見てぶるぶる震えるこいしを呆れた目で見下ろした霊夢は、やはり呆れたような声で問いかけた。

「引っかかれていた時は気づかなかったくせに」
「痛いのなんて気づかない方がいいでしょ? 気づかなければ痛くないのよ」
「見て見ぬフリしていたら弾に当たらないとか、そんなの無いわよ」
「お前が言うな」

 上空から声を投げかけられて、霊夢は空を見上げる。入道雲がにょきにょきと立つ青空に黒い影が浮かんでいた。
 魔理沙は箒から飛び降りて物干し竿の手前に着地し、帽子を脱いでうちわがわりに顔を仰ぐ。

「あー、あっついなー最近まったく。心頭滅却すればなんとやらと言いそうな仙人は今日はいないみたいだが、かわりに暑いと言われるまで暑いと気づかなさそうな奴がいるな」
「そうねー。悟りは開いてないけど、やろうと思えばおくうと一緒にマントル競泳だってできるわよ」
「いやそりゃ溶けて母なる大地に還るだろう」
「まぁそうなんだけどね。でも暑い暑いって言ってるから暑くなるのは本当よ? 暑いって気づかなきゃ暑さなんて最初から無いわ」
「それじゃ火傷しても気づかんな」
「痛い思いをするよりかはマシでしょ?」

 きょとんとした表情で答えるこいしに、魔理沙はやれやれと肩をすくめる。火遊び好きは火の熱さと怖さを知っておかなければならないのだ。
 洗濯物を干し終えて用事を終えたたらいに、井戸水をくみ上げてきた霊夢はそれに素足を浸して涼を取る。

「あー生き返るわー……それにしても魔理沙。この前はよくも地獄鍋から一人だけ抜け駆けして逃げ出したわね」
「あー? なんのことだかさっぱりわからんな」
「ほら、核融合鍋。あの時はホント、焼き烏と戦った時並みの熱さで危うく紅白饅頭が蒸し上がるところだったわよ」
「そりゃ災難だったな。早めに逃げ出して良かったぜ」
「今からでも遅くないから間欠泉のあたりで蒸かし牡丹餅にでもなってこない?」
「まぁ色々珍しいものが見つかりそうではあるからな。涼しくなったら少し調べてみるか」
「怨霊に憑かれたらうちで飼ってあげるわよ」
「「いらん」」

 人間二人は烏天狗並みの速度でこいしの申し出を拒否した。残念そうにこいしは人差し指をくわえる。

「うちのペットになったらたくさん可愛がってあげるのに……」
「完全放し飼いで魔法の研究の邪魔をしないなら、一ヶ月ばかし飼われるのも悪かないがな。でもどっちみち地霊殿にゃお前のお姉ちゃんがいるからなぁ」
「そうそう。じろじろ心を覗かれてニヤニヤされて落ち着いてなんかいられないわよ」
「まぁそんなもんよねぇ」

 うんうんと勝手に納得した様子で頷いているこいしの横を通り過ぎて、魔理沙は霊夢の隣に座り靴を脱ぎソックスを中に入れて、たらいに足を突っ込んだ。
 ふぅ、と一息ついた魔理沙は「ところで」とこいしに視線をやる。

「帽子替えたんだな」
「あ、魔理沙が先に気づいた? でも帽子じゃなくて、リボン替えただけだよ」
「ピンク色とか正直合わん気がするが」
「青とどっちにするか迷ったんだよね。第三の眼と合わせようと思って」
「ああ、その鳥避けな。お前の場合、鳥避けにすら役立たないが」

 帽子に結んだリボンと閉じられた青い眼から伸びるコードを引っ張るこいしの姿を横目にし、魔理沙はすっかりだらけた表情で涼んでいる霊夢に問いかけた。

「で、なんかお茶請けとかないのか?」
「あー、確か葛饅頭をそいつから貰ったから今井戸水で冷やしている。あと一刻くらいは待っておいた方がいいんじゃないかしら……って」

 会話の流れから厨房の方に視線をやった霊夢は、三和土からよっこらしょと畳間に乗り込んできた一羽のカラスを見て、あんぐりと口を開けた。

「あ、巫女だ。これ食べる? おいしいよ」

 そう言いながら食べかけの葛饅頭を丸ごと口に放り込み、幸せそうに目尻を下げて霊烏路空はにんまりと咀嚼するのであった。
 そのハッピースマイルめがけて陰陽球と魔法瓶が同時に投げつけられた。





「お土産用の菓子折りってそこまで美味しくないってイメージあるけど、まぁそんな感じでごくごく普通ね」
「ああ。だがこの見た目はどうにかならんのか」

 空から取り上げた葛饅頭を皿に並べ、霊夢たちは縁側でお茶と洒落込んでいた。
 魔理沙は二個目の饅頭を取ろうかどうか、逡巡しているようであった。その様子をニヤニヤ眺めながら、一人のサトリと一匹の火車と一羽の地獄鴉は自分の饅頭を取っていく。
 皿に残った後二つの饅頭を見下ろし、霊夢が魔理沙の抱いた感想を端的に代弁した。

「悪趣味よねぇ」
「全くだ」

 葛粉の生地で覆われた餡子は、いかなる匠の技によってか内部に構築された複雑な立体構造によって閉じ込められている。その内部構造を構成する白い生地は食感から白玉粉だということは判明している。問題はその形状であった。
 しゃれこうべだ。
 頭蓋骨である。
 髑髏ともいう。
 そんな白玉団子の立体構造が脳髄のかわりに餡子を抱え込んで、さらに葛団子によって閉じ込められているのだ。

「どういう発想なんだこれ」
「焦がれるような生者への怨念と焦げつくほどの真っ黒な未練を、甘い餡子に例えて作った風流なお菓子じゃない」
「葛団子は魂、白玉団子は魄、餡子は生前の記憶、即ち未練を表しているんだ。この三つが合わさることで完全な怨霊となるのさ。正に地獄名物だねぇ」
「うにゅうにゅ♪」

 とりあえず、毒も何も入っていないことは既に一個食べているので証明済みである。霊夢と魔理沙は肩をすくめてもぐもぐと最後の饅頭を食べ始めた。
 一足先に食べ終えたこいしは指を舐めて霊夢が入れた緑茶を啜り、少し不満げな表情を浮かべる。

「んー、どっちかというと昆布茶の方が良かったのに。地上に出たら昆布茶を飲んでみたかったのよねぇ」
「昆布茶なんて、そうそう手に入るもんじゃないわよ」
「幻想郷には海が無いからなぁ。湖ごと神社が引越してくるくらいなら、海ごと来てくれた方が食材的には助かったな」
「月の海はなぁんにも無かったしねぇ。……あ、でも昆布ならウチにあったわ」
「なんだと」

 どこから取り出してきたのか八卦炉と携帯ミニ鍋を魔理沙は床板に置いた。それを見て霊夢はいやいやと手を振る。

「いや、紫がお茶請けにくれた変な昆布なの。酢昆布って言って、外の世界でおやつとして売られているんだって。ほら」

 棚の引き出しから霊夢が持ってきた手の平に乗る程度の赤く細長い箱を、十の瞳がじっと見下ろす。
 桜印に《都》の文字が入れられた箱には、大きく都こんぶと書かれていた。

「そういやまだ食べたことなかったわね」
「じゃあみんなで毒見としゃれこもうか」
「って、これ昆布をそのままむしゃむしゃ食べるの?」
「っていうかこの透明の……膜? なんなの? これも食べられるの?」
「あ、それ食べると死ぬわよ。ビニールって言って外の世界のものはなんでもこれに包まれているんだって」
「へー、じゃあ外の世界の人間の赤ん坊は羊水じゃなくてビニールに包まれて産まれてくるのかなぁ」

 プラスチックパッケージを覆うフィルムに霊夢は針を突き立て、ぴりぴりと破いて包装を解いた。
 二十五本の指が伸びてめいめいに人差し指ほどもない、綺麗な長方形に切られた昆布を手に取る。指の腹につく謎の白い粉に魔理沙やお燐は警戒し、おくうは太陽にかざして観察している。霊夢はそんな連中の様子を眺め、こいしが最初にぱくりと昆布をくわえた。
 その時こいしに電流走る。

「何これ美味しい!」

 言う間にも、口の中に最初の昆布を残してしゃぶったまま、次の昆布にこいしは手を出していた。
 その勢いに圧倒され、二人の人間と一匹の火車と一羽の地獄鴉は思わず昆布から距離を取る。そして、そんなに旨いというのならとめいめいに自分の取った昆布を口にくわえた。

「ああ、うん……なんというか、口からぞくぞくと全身に来るなこれ」
「これこそお茶に合うわね。うん。紫の賄賂も悪くないわ」
「うぅ、私酸っぱいの苦手ー」
「体力仕事した後なんかに良さそうだねぇ。こいし様も疲れてたんですか?」
「ん? しょんにゃにょかにゃ?」
「しゃぶるか喋るかどっちかにしなさい」

 口いっぱいに昆布を放り込んで旨味成分を味わっているこいしに、霊夢はやれやれとため息を零してお茶を啜った。
 ほとんど一人で昆布を食べてしまったこいしは、満足しきった晴れ晴れとした表情で、お茶を啜り上げる。

「あー、美味しかったわ。ごちそーさま」
「はいはい。気に入ったからってもう無いわよ」
「それは残念だけど、なんとなくわかったわ。なんかね、体が酸っぱいのを求めてたみたいなの」
「それじゃあ帰りに旧都にでも寄って、鬼の醸した酒でこさえた酢でも買っていきます?」
「いいね! お姉ちゃんのおみやげにしよう!」
「どうせなんだから地上のものでも持っていってやった方がいいんじゃないのか?」

 お燐の提案を快諾したこいしの言葉に、魔理沙がツッコミを入れた。
 それを人差し指を立ててちっちっち、と否定したこいしはウィンクをしてみせる。

「私の欲しいものは、お姉ちゃんだって欲しいに決まっているのよ」
「そうしておけば我が侭も通りやすいだろうからな。まぁ実際、お前らはいくらでも地上に出てきているが、さとりは地底に引きこもったままだからな。地上が嫌いなのか?」
「ま、出てきてこられてもうっとうしいだけだから速攻で追い返してやるけどね」
「さすがお姉ちゃん、嫌われているなー。いや、お姉ちゃんも本当は地上に出てみたいんだよ。でも立場が立場だからね。気を使っているの」
「あんな奴が周囲に気を使いだしたらそれこそ世も末だと思うんだが」
「そんなことないよ? サトリの歴史は気遣いの歴史なんだから。あー、今日のお昼はサラダパスタでも食べたいなぁ。野ぢしゃをたっぷり使ったヤツね」
「お前は食うことしか興味ないのか。無意識は三大欲求に正直だからなぁ」
「あ」

 こいしと魔理沙の会話に割り込むようなタイミングで、お茶を啜っていた霊夢が何かを思い出したかのように一声漏らした。
 何事か魔理沙は霊夢へと振り返る。その霊夢の視線は上から下へと降り、魔理沙の頭上へと到達した。
 ぐちゃっ、と宙から突然出現して自由落下してきた小鬼に魔理沙は頭から踏み潰された。

「ちわーっす。おんやぁ、懐かしき故郷、地獄の面々が揃っているねぇ~。今夜は巫女肉パーティかい?」

 酒臭い息を吐きながら萃香は魔理沙の背中を座布団に、優雅に寝そべって面々を見上げていた。
 霊夢はそこから魔理沙の腕を引っ張って萃香をどけつつ、マイペースに説明する。

「今日は萃香に工事してもらう約束を取り付けていたのよ」
「いや、そんなもん事前に聞いていてもこんな奇襲喰らうとは予想できないぜ」
「工事? 何? 日曜大工?」

 こいしの質問に、縁側を転がされた萃香は赤ら顔でこくりと頷く。

「うん、そうそう~。屋根瓦がこの前強風で吹っ飛ばされたらしくってねぇ。それの修理を頼まれたのよー」
「…………強風?」
「どしたのさおくう」
「うーん、どうせ私忘れっぽいからたぶんどうでもいい」
「あ、そう」

 萃香の言葉にむつかしそうな表情を浮かべた空を、お燐は興味なさげに流した。空の鳥頭の程度は長い付き合いでよく知っているのだろう。
 千鳥足で立ち上がった萃香は工具箱を手に屋根へといそいそ登り始める。やがて、頭上でトンテンカンやり始めるとこいしはすっ、と立ち上がった。

「じゃ、そろそろ私はおいとまさせてもらうね」
「あん? 別にいいけど、結局あんた何しにきたのよ。ペットと一緒に饅頭と昆布食べにきただけ?」
「そんなのよくわかんない。私の行動に意味なんて無いのよ。今日はたまたまおみやげ持ってくるっていう意味を、お姉ちゃんがくれただけ」

 ぼやきのような霊夢の言葉を、こいしは笑顔で返した。
 そして、霊夢が瞬きをした次の瞬間には、いつのまにかこいしの姿は煙のように消え失せていた。慣れた様子のお燐と空はひらひらと手を振る。

「こいし様は、第三の眼を閉ざされてからずっとあんな調子でふらふらしてんのさ。地上の散歩を始めたばっかの時はちょいとばかし機嫌が良いように思えたんだけどね。最近、また前みたいにまるで予想のつかないいつものこいし様に戻られちまったよ」
「ほう。何かあったのか?」
「さぁね。こいし様のお気持ちをお察しできるのは、今も昔もさとり様だけだよ」
「あれ? でもこいしは自分の心はさとりすら読めないから、自分はさとりの天敵だって言ってたぜ」

 魔理沙の問いかけにお燐は当たり前のことだと言わんばかりに即、うなずいた。

「そうだよ。だけど、結局こいし様のことをわかるのは、さとり様しかいないんだよね。第三の眼がどうのじゃなくてさ。経験や血の繋がりの成せる業さ」
「血の繋がりでわかりあえるんなら、私もこんな苦労はしていないがな」
「そう言ってられるのも今の内だよ。せいぜい親父さんがあたいの世話にならないよう気をつけなよ?」

 ニヤリと笑ったお燐に、魔理沙は眉根を寄せて顔をしかめた。





「さて、お姉ちゃんへのおみやげのお酢は、どこの蔵のやつがいいかな~」

 縁側から出て石畳が張られた境内へと移動したこいしは、独り言を呟きながら階段へと向かって歩いていた。
 両腕を頭の後ろに回して眼を閉じ、ぶつくさと誰も聞かない言葉を紡ぎ続ける。

「それともやっぱり地上のおみやげがいいかなー。どうしようか迷っちゃ――っとと、わわわわ」

 足元どころか目の前すら見ていなかったこいしは、進行方向の石畳がめくれ上がり、クレーターとなっていることに気づかなかったようだった。
 案の定、瓦礫となった石畳の欠片を踏んでバランスを崩したこいしはクレーターの真ん中に頭から突っ込み、ひっくり返った体勢で空を見上げる。

「あいたたた……もー、なんでこんななっているのに巫女は気づかないのよー。後で鬼に直してもらっておいてほしいわー」

 頭からズレた帽子を被り直し、全身に付いた埃を払ってからこいしは空を飛び、博麗神社を後にした。









―My Sweet Days "Gold Experience Requiem" closed.―
第9回東方SSこんぺに出した「わたしのかわいいこいし」の後日談になります。
とはいえ単体でも空気作品として読めないこともないみたいにしてみたりみなかったり。

※ここからコメ返し※


>4. 90点 名前が無い程度の能力 ■2010/12/27 12:13:25
>レクイエム、か…
GERの名前の長さは異常と思っていたらD4Cが色々と塗り替えてくれました。

>6. 80点 名前が無い程度の能力 ■2010/12/27 15:33:39
>華扇ちゃんの後日談も読みたいと思ったり
華仙ちゃんは……これ以上書くのはさすがに情報不足だ。設定全部放り出して茨木童子としての話のプロットならありますが……。

>9. 60点 名前が無い程度の能力 ■2011/01/04 15:21:30
>あ。これもしかして、完全にこいしちゃんになってしまったんですか。
あなたが18才以上で高校を卒業しているのなら……ごにょごにょ。
明確に「こういう話でした」というオチをつけるのが嫌というか怖いというかなんというかなので、毎度こんな感じです。
みづき
http://tenkai7tyoume.blog83.fc2.com/
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コメント



0.340簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
レクイエム、か…
6.80名前が無い程度の能力削除
華扇ちゃんの後日談も読みたいと思ったり
9.60名前が無い程度の能力削除
あ。これもしかして、完全にこいしちゃんになってしまったんですか。
いや。でもよく分からないなぁ。
コンペの終り方があれだけに、いろいろと勘ぐってしまいます。
10.100削除
終わらない夢を……切ねえなあ。

こんぺから来ました。なんか気付くのが異常に遅かったですが。ちょっと読み返してまた泣いてきましたよ。
……さとりが、本当の彼女と向き合えるときが来たなら、この夢は終わるのでしょうか?
その機会が永遠に失われてしまったからこそ、ではあるのでしょうが。