この作品はメイドだってラーメンくらい食べますよのオヤジサイドのお話となっております。よろしければそちらから読んでいただければうれしいです。
ラーメン屋のオヤジの朝は早い。
オヤジの仕事は寸胴に水を張り、それを沸かすことから始まる。お湯が沸いたら、そこに様々な具材を放り込む。
玉ねぎは甘みがしっかりと出るよう、切れ込みを入れる。生姜やネギなども同様だ。鶏はきちんと血抜きをし、臭みを残さない。
一夜分のスープを作っておかねばならないこの作業は、相当の労力を要する。
けど、オヤジ、頑張る。
たまに来るあの子、咲夜ちゃんのために。
咲夜ちゃんがいつ来ても最高の味を提供できるよう、オヤジ、頑張っちゃう。
「ごめんください」
「らっしゃい」
深夜二時過ぎ。
待ちに待った咲夜ちゃんがやってきた。
一部の隙もない動作で椅子に座る。無駄というものを徹底的に嫌った合理的な彼女。咲夜ちゃんがメイド長たり得る所以だ。
しかし、普段クールに見られる咲夜ちゃんにも、実は可愛らしい一面がある。
まず、マフラー。肌寒くなってきた今日この頃、空気の冷たい上空を飛んでくると体が冷えるのだろう。咲夜ちゃんはマフラーを巻いている。ピンクのだ。しかも、先の方には白いふわふわのぼんぼんがついているやつだ。
クールなメイド長というイメージからかけ離れた着こなし。そのギャップが堪らない。
そして、注文の仕方。
「みそもやし。ネギ増し増しで。トッピングに味玉ね」
思わず頬がにやけそうになる。が、必死にそれを堪える。
咲夜ちゃんは、通ぶりたいのだ。何度も通っている常連というものに憧れているらしい。実際常連なのだが。
最初に来た時の注文の仕方は、たどたどしくて可愛かった。
『え、えと……この、みそラーメンってやつ、お願いします。え、ネギ? はい、食べられます。……マシマシ? ――あ、普通でいいです。味付け? 脂の量? あぅぅ~。あの、おじさんのお勧めでお願いします……』
正直、鼻血出たよね。準備してる振りして必死に止めたけどさ。
それが今では淀みなく自分の好みの食べ方を注文してくる。が、その後のどや顔がどうしようもなく可愛い。
「どう? 私って常連でしょ? 通でしょ?」という自信たっぷりの表情が堪らなく可愛い。
初めて咲夜ちゃんが「通」を意識した時の注文の仕方なんてこうだ。
『みそラー……みそもやし。あ、アジタマも。ネギいっぱいでね……あ! マ、マシマシ!」
一生懸命背伸びをしているお子様を見ているようで、実に実に、心がほんわかした。それは今も変わらない。
だが、それを顔に出すのはいけない。咲夜ちゃんは『頑固オヤジとの通な会話』をしたいのだ。だから、こっちは飽くまでも頑固なオヤジを演じ、必要最低限な言葉しか返してはいけない。
「脂は?」
これだけ。これだけの言葉で咲夜ちゃんは満足する。
「もち、ギタで♪」
そして言葉の後のどや顔。可愛いなぁちくしょう。
ギタ、とは脂ギタギタのこと。ギタギタと言わないのも、咲夜ちゃんの通ぶりたいという気持ちの表れ。
「好きですね」
「癖になっちゃった」
「少々お待ちを」
楽しみにしてくれる咲夜ちゃんを待たせるのは忍びない。急いで作ろう――と考えるのは素人。咲夜ちゃん素人。咲夜ちゃん検定三級も厳しいだろう。
なぜなら、調理をしている様子を見る咲夜ちゃんの目は、きらきらと輝いているからだ。
なにが楽しいのか、一つ一つの動作に「わぁ……」とか「おー」とか「すごーい」と言って驚いてくれる。超楽しい。そりゃいつもより激しく調理するってなもんだ。
もちろん、通ぶっている咲夜ちゃんは、そんな自分の独り言に気付いていない。素が出ちゃっているのだ。
包丁を使う際の振り幅は大袈裟に。大きく空を切ってからチャーシューに刃を入れる。咲夜ちゃんの目が大きく開く。
麺をテボに入れる動作は、遥か上空からパラパラと。咲夜ちゃんの口がアホの子みたいに開く。
麺を入れた器に、当店の売りの背脂を豪快にちゃっちゃする。咲夜ちゃんが口に手を当てる。
具を盛り付け、器の周りを拭き、咲夜ちゃんに差し出す。
「へい、お待ち」
スープに親指を入れようかどうか悩んだが、さすがにそれはやめておいた。咲夜ちゃんは喜ぶかもしれない。が、火傷は嫌だ。
「わぁ」
宝物を見つけた子どものような顔になる咲夜ちゃん。
「おいしそう! いただきまーす」
そう言って咲夜ちゃんは、箸ではなく、まず蓮華を手に取った。
自称通な咲夜ちゃんは、いきなり麺に手をつけることは店主に失礼だと思いこんでいる。確かに、舌が慣れる前にスープをしっかりと味わうという食べ方はある。けど、おいしいと思ってくれれば、別に食べ方なんてなんでもいいと思うんだけどな。
しかし、それを咲夜ちゃんに伝えることはしない。咲夜ちゃんの心遣い、余すことなく受け取ろう。
それに、覚えたことを忠実に守る咲夜ちゃんは、どこか犬っぽくて可愛いのだ。
「んぅ~~っ」
スープを口に含んだ咲夜ちゃんの目が細まる。
やべ、さすがにしょっぱくし過ぎたか? と思ったが、なにやら満足気な表情。オヤジ、ほっとした。
それから咲夜ちゃんは具をかき分け、麺を掴む。付着した背脂を見て恍惚とした表情を浮かべる咲夜ちゃん。ちょっと変な子なのかもしれない。
最初にうちで食べた時なんて『あの……おじさん。麺に白いものが付いているんだけど』と実に申し訳なさそうに文句を言ってきた。そういうものだと教えてあげた時のあの咲夜ちゃんの慌てたような、泣き出しそうな顔と土下座でもしそうなくらいの勢いは今でも鮮明に思い出せる。可愛すぎだろ常識的に考えて。
「げほ! えほっ、ごほっ!」
咲夜ちゃんは、ふーふーをしない。見てみたいものなのだが、絶対にしない。どうやらそれも通の食べ方だと思っているらしい。どこからの情報なのだろうか。
おいしそうに食べる咲夜ちゃんは、むせた後でもやはりふーふーはしない。その代わり、麺を上げ、少し待つことにしたらしい。必死に考えた末の自分ルールの抜け道なのだろう。ちょっとずるいところが、完全なメイドっぽくなくて面白い。
味付け玉子にかぶりつく咲夜ちゃんの顔がとろける。チャーシューを噛みちぎる咲夜ちゃんの表情がほころぶ。一口一口に喜ぶ咲夜ちゃんは、申し訳ないが、まるで犬そのもの。きっと犬耳なんかがあったら、それはもうピコピコと動いていて、しっぽもブンブンと振っていることだろう。
「おじさん、胡椒とにんにくちょうだい」
――ここで味変か。妙なこだわりを持っているのに、味変はOKなのか。咲夜ちゃんの基準はいまいちわかりにくい。
しかし……にんにく臭い美人のメイドさんか。個人的にものすごく興奮する――じゃなくて、咲夜ちゃんの主人は吸血鬼だったと思うのだが、大丈夫なのだろうか。オヤジ、咲夜ちゃんの明日が心配。
――それにしても、一生懸命に食べるなぁ。
咲夜ちゃんの額からは汗が吹き出ている。麺から飛び散ったスープがメイド服を汚したりもしてしまっている。
食べる。
それだけ。ただそれだけが今、咲夜ちゃんの全てなのだ。作った本人として、これほど嬉しいことはない。
咲夜ちゃんが食べ終わる。
咲夜ちゃんは決まってこう言う。
「ふう、ごちそうさま。とってもおいしかった。また来るわね」
また来るわね。
咲夜ちゃんはそう言う。
咲夜ちゃんにとって食べることが全てのように、オヤジにとっては、その言葉が全て。その一言、たった一言で、客の来ない日だって、雨の日だって、いつだって最高の一杯を出せるように頑張れる。
だが、そんな感傷的な屋台のオヤジなんて、咲夜ちゃんは期待していないだろう。
だから、飽くまで無愛想にこう言ってやるのだ。
「ありあっした」
それを聞いた咲夜ちゃんの顔は、なんだか微笑んでいたように見えたのだが、恐らく気のせいだろう。
そして翌日、紅魔館の方から「臭ぁぁぁああああああっ!!?」という絶叫が聞こえてきたが、これも気のせいだろう。気のせい気のせい……。
咲夜ちゃん……にんにく、入れすぎだよ。
了
この屋台でラーメン食いてえ。
オヤジさん、今度彼女が来店したら手首のスナップを極限まで利かせた落差一メートルを誇る自慢の湯きり、
見せてやって下さいよ。
咲夜ちゃん検定には、四級から挑戦することに致します。
咲夜さん超かわいい!
咲夜ちゃんの隣の席に座って二人の様子を観察したいw
ラーメン食べる美鈴も見たいなあ。
オヤジさんが羨ましい……
親父さんもかわいかったですww
>>そりゃいつもより激しくに調理するってなもんだ
ここ、もしかして「激しく調理」か「激しめに調理」でしょうか?
さくやちゃん、可愛いいいい!!
ちょっとラーメン修業に行ってくる。
さておき、ラーメン屋にくる東方キャラを店長視点で……って、なんかおもしろい!こういうSS好きだー。
オヤジかわいいよオヤジ
(深夜のラーメン屋的な意味で。)
オヤジ萌え。
オヤジさんファイト!
だってよ。幾らなんでも、ありえねぇだろうが……。
自分の目と耳を盛大に疑いながら、俺はこう思ったのさ。
ラーメン屋のオヤジが、こんなに可愛いわけがない――ってな。
そしてオヤジも可愛すぎだ!
今日はラーメン食うか・・・。
オヤジもかわいい
地の文が活きる感じも良いですね。
でも前作抱いたオヤジへの尊敬はどこへいけばいいのかw オヤジはもうちょっと渋く書くのもありだったかなと思います。そう、シブデレです。鼻血出そうとか変に崩し過ぎる必要まではなかったかと。
そりゃ僕は鼻血でそうでしたがw
見守ってニヤニヤしたい。
こういう話も良いっすな~。続きが出ることに期待だぜw
そして俺の夜飯がラーメンに決定した。
オヤジwww
だが、それよりも少しだけラーメンの魅力の方が上回る!
と言う訳で、ラーメンを食べに行く!
「咲夜さん……ラーメンは醤油が基本でしょうが!」
そして出来上がるまで延々熱くラーメンを語る美鈴。自分以上の通を垣間見て愕然とする咲夜さん。
二人を見て思わず萌死しそうなオヤジ。見たいなぁ。
申し込み期限って大晦日まででしたか?
受験経験者のかた教えてくだ(ry
オヤジ師匠!
ウチの街で夜中ラーメン出来る店を探すのは大変なんですよもう
オヤジ、わかってるなあw
一気に読み進めなくて二三行読んではソリティアしてる俺もキモい
いや、いいラーメンが啜れそうだな。
あんまりしゃべりませんよw
>コチドリさん
できておる喃……。
きっと三回転にひねりを加えて湯切りしてくれますよ!
>もぐらさん
しっかりと勉強してから挑戦することをお勧めします。
でも、徹夜はだめですよ?
>9
YES!
咲夜さんは――否! 咲夜ちゃんは可愛いのです。
>10
オヤジもヒロインですかw
>奇声を発する程度の能力さん
オヤジにも可愛いものを愛でる心はありますからねw
>ヒロスケさん
しっぽだけはやたら感情表現豊かな忠犬ですねw
>ペッパーさん
そのために仕事を頑張っているんですものw
>17
咲夜ちゃんかわいすぎフイタ。
>18
いえいえ、100%クリアです。
むしろもっと可愛かったかも!
>mthyさん
ひい! お恥ずかしい!
修正しました。ご指摘ありがとうございます~。
>アン・シャーリーさん
あ、気付きましたか? そうです。可愛いんですよ。
>26
声小さいよ! 腹の底から声だして!
>31
!?
ラーメン修行しても咲夜ちゃんが来るとは限りませんよ!
>33
私も探しているんですけどねぇ……。
なかなか難しいですよ。
>KASAさん
瀟洒よりも可愛いを優先しましたw
>35
ありがとうございました!
>38
どっちも好きです!
>39
新ジャンル『オヤジ』
>47
えーと……結論! みんな可愛い!
>50
賛同者きた! これでかつる!
>58
ありがとうございましたー!
てゆーか寝てくださいw
>61
――幻想郷は、全てのオヤジを受け入れる。
>64
ましましで! ですね。
>65
オヤヂって言うともっと可愛い(どうでもいい)
>66
シブデレ……そういうのもあるんですね。
>67
外見にはよらないんですねぇ。
>69
ありがとうございました~。
>76
中に入っていくより、外から見ていたいですねw
>79
其の道は茨の道ぞ。
>愚迂多良童子さん
おお、前作まで。ありがとうございます!
>82
つ、続き!?
……が、頑張りますw
>88
もちろん、みそですね?
>89
もはや幻想郷人類皆可愛い!
>91
ちっちっち。咲夜『ちゃん』
>93
ま、まじですかw やったー。
>名も無き脇役さん
いってらっしゃいませ!
>102
たぶん、戦っても強いです。
>104
美鈴の通っぷりに思わず涙目の咲夜ちゃんとか……いいですね!
>108
受験は初めてですか?
……悪いことは言いません。三級からにしておいた方がいいです。
準二級となると、枝毛のケアをするスパンなんかが出てきますよ。
>過剰さん
一級……だと……?
難しすぎて、咲夜ちゃん本人すら合格できない一級をだと……!?
>スポポさん
楽しんでいただけたようでなによりです!
インスタントでごまかすとかw
>desoさん
まだまだ駆け出しなんですねw
これからの咲夜ちゃんにご期待ください。
>122
何かを愛でるということは、端から見るとキモイものなのかもしれません。
>ぽかーぬさん
どんぶりで乾杯ですねw
>124
こってり系では結構ありますよw
にやにやが止まらなかったw
さてラーメン食べるとしようか
太らないようにお気を付けくださいw
オヤジも良いなぁ。世の中の頑固オヤジって実は結構こんな感じなんだろうねw
この親父…出来るッ(なにがだ
美味しゅうございました。
しかしこれ読んでるとみそ系ラーメン食べたくなるなー、普段豚骨派なのに
こんな店あったら咲夜ちゃんがタイミングよく来店するのを期待して入り浸りますね
頑固オヤジだって可愛いものには弱いさ!
>142
豚骨醤油なんかもおいしいですよね。
>145
あんまり行きすぎると、オヤジルートに入っちゃうかもしれませんよw
さてラーメン食べに行かないとw
すごいかわいい
私は最初某牛丼屋でネギダクを頼むのに相当苦労しました…
地方によってはないとかいうし、通ぶってるだけと思われるのも恥ずかしいしで…
いってらっしゃいませ!
普通に咲夜ちゃんに萌えてください!
>150
ありがとうございます。
咲夜ちゃんは可愛いのです。
>155
ネギダクとは、通ですね。
コメダクなんかはいかがでしょうか?
単に大盛りとも言う。
→如何にも素人な注文の仕方をする
→咲夜ちゃんのどや顔ラーメン教室開催
もしくは
→無駄に洗練された無駄の無い無駄な注文をする
→咲夜ちゃんの羨望の眼差し独り占め